議事要旨
。
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資料1
産業構造審議会知的財産分科会
第57回特許制度小委員会
議事次第・配布資料一覧
日
時:令和8年8月20日(木)10時00分開会
会
場:特許庁庁舎16階特別会議室+Teams会議室
(議事次第)
1.開会
2.国際的な事業活動におけるネットワーク関連発明等の適切な権利保護について
3.知的財産の侵害抑止へ向けた取組について
4.閉会
(配布資料)
議事次第・配布資料一覧
委員名簿
資料1 特許制度に関する検討課題について
資料2
令 和 8 年 8 月 20 日
第 57 回特許制度小委員会
産業構造審議会
知的財産分科会
特許制度小委員会
委員名簿
石井
夏生利
中央大学国際情報学部
教授
今村
玲英子
弁理士法人創英・創英設樂法律事務所
井本
史生
日本経済団体連合会知的財産・国際標準戦略委員会
部会委員/日本電気株式会社
グ部門
企画
知的財産&ルールメイキン
主席プロフェッショナル
岩井
直幸
東京地方裁判所(知的財産権部)部総括判事
木元
哲也
株式会社木元省美堂
工藤
郁子
大阪大学社会技術共創研究センター
小林
利彦
一般社団法人日本知的財産協会
代表取締役社長
セイコーエプソン株式会社
委員長
弁理士
特任准教授
理事長/
執行役員・知的財産本部長
相良
由里子
中村合同特許法律事務所
パートナー弁護士
杉村
純子
プロメテ国際特許事務所
代表弁理士
杉山
悦子
一橋大学大学院法学研究科
教授
玉井
克哉
東京大学
田村
善之
東京大学大学院法学政治学研究科
教授
中尾
直樹
日本弁理士会知財制度検討委員会
副委員長/
名誉教授/信州大学
弁理士法人中尾国際特許事務所
中畑
稔
One ip 弁理士法人
橋本
佳幸
京都大学大学院法学研究科
松山
智恵
TMI 総合法律事務所
特任教授
代表弁理士
代表パートナー弁理士
教授
パートナー弁護士
(敬称略、五十音順)
資料3
資料1
特許制度に関する検討課題について
産業構造審議会知的財産分科会 第57回特許制度小委員会
令和8年8月20日
1.国際的な事業活動におけるネットワーク関連発明等の
適切な権利保護
1
これまでの経緯と今後の進め方
これまでの経緯
➢ 特許発明のネットワークを介して国境をまたぐ被疑侵害行為については、ドワンゴ対FC2事件最高
裁判決により、サーバーが国外に存在する場合であっても実質的に国内の実施行為と評価され得る
ことが示された一方で、他の態様については裁判例の蓄積が乏しく、なお予見可能性に課題が残さ
れている。
➢ このため、本小委員会では、同判決も参考としながら、実質的に国内の実施行為と認められるか否
かの判断において考慮され得る要素について議論を深めるとともに、上記課題への対応として、
「考え方の整理」を作成・公表する方向性について御了承いただいた。
➢ 前回の本小委員会では、「考え方の整理」の具体化に当たり、知財ユーザーに判断のポイントを理
解しやすく示す観点から、問題となり得る被疑侵害行為に関する一定の類型を整理し、これまで検
討を深めてきた「考え方」をいかしつつ、類型ごとに検討を行う方向性案をお示しした。
➢ また、上記方向性で進める場合における実質的に国内の実施行為か否かが問題となり得る類型や当
該類型を盛り込んだ骨子案や各類型に対する検討のポイントについても御確認いただいた。
➢ 上記方向性等については、一定の課題を示す御意見があったが、複数の賛同の御意見をいただいた。
今後の進め方
➢ 「考え方の整理」の作成・公表に向けて、引き続き御議論いただきたい。
2
第56回本小委員会資料の再掲
実質的に国内の実施行為か否かが問題となり得る被疑侵害行為の類型
➢ 産業界や実務家等からも御意見をいただきながら、表題の類型を以下のとおり整理した。
✓ 類型①~③:国内外の裁判例を参考とし、典型的な類型を例示。
✓ 類型④:本小委員会にて検討を行った想定事例を参考とし、補足的な類型も追加。
①
国内端末等処理型
国内
海外
情報処理
ユーザー端末等
②
プログラム等
の送信
情報処理
②-1 機能利用型(SaaS等)
ロボット・センサー等
③ ネットワーク周辺技術利用型
➢ 海外サーバー等の情報処理機能を国内端末等から利用するもの
✓ 海外で裁判例あり(例:海外サーバーで国際便のトラッキング情報
を生成し、国内端末で参照可能とする行為について争われた例*)
* (2020)最高法知民终746号 (中国 最高人民法院 2021年5月25日判決)
ユーザー端末等
②-2 国内情報収集・機器制御型(IoT・ロボット制御等)
情報収集・
制御
➢ ドワンゴ対FC2事件が該当
海外サーバー等で、国内端末等向けに情報処理を行うもの
海外サーバー等処理型
サーバー等
の情報処理
機能を利用
サーバー等
➢ 海外サーバー等から必要な情報を送信し、国内端末等が情報処理を
行うもの
情報処理
周辺技術を利用
ネットワーク
➢ 国内のセンサー等で情報を収集し、海外サーバー等に送信して情報
処理させているものや、海外サーバー等が国内機器(ロボット等)
を制御しているもの
✓ 海外で裁判例あり(例:国内端末で視力検査を実行させ、その情報
を海外サーバーで分析・視力等の情報をユーザーに提供する行為に
ついて争われた例*)* 4a O 53/19, GRUR 2020, 1078 (ドイツ デュッセルド
ルフ地方裁判所 2020年7月28日判決)
➢ ネットワークで用いられる周辺技術を利用するもの
✓ 海外で裁判例あり(例:メールを海外にまたがる無線ネットワーク
を介して国内の手持端末に配信する行為について争われた例*)
* NTP, Inc. v. Research In Motion, Ltd., 418 F.3d 1282 (Fed. Cir. 2005)
回区控訴裁判所 2005年8月2日判決)
(米国 連邦巡
➢ 海外サーバー等で用いられる周辺技術(冷却装置、耐震装置、電源
等)を利用するもの
✓ 本小委員会にて検討を行った想定事例あり(例:海外サーバーに使
用する冷却装置を使用してサービスを提供する行為に関する例)
【留意点】本整理はあらゆる行為を網羅することを目的とするものではない。
3
また、上記の類型に該当することが直ちに特許権の侵害を意味するものではない。
④ サーバー等周辺技術利用型
周辺技術を利用
被疑侵害行為の類型を用いた整理に関する主な御意見
➢ 被疑侵害行為の類型を用いた整理を行う方向性について、以下のような賛同の御意見があった。
• 人材や知財ノウハウに不足のあることも多い中小企業・スタートアップにとって有用ではないか。
• 国内外で実際にあった事案や本小委員会で扱った想定事例をもとに分かりやすく整理されている。
• 網羅的・精密ではなく、典型的で分かりやすい類型を例示する現在の方向性が適切ではないか。
➢ 一方で、上記方向性について、以下のような慎重な御意見もあった。
• 経済的な影響や特許発明の構成要素の重要な一部の考慮要素について各類型で共通しており、類型ごとの差異が
十分に明らかでないのではないか。また、類型を用いた整理が行えるほど事例が蓄積していないのではないか。
• 複数の類型と評価軸となっている技術的な効果、経済的な影響、特許発明の構成要素の重要な一部の各要素との
関係性が必ずしも明確ではないのではないか。
具体的な御意見の例
•
•
•
•
•
•
•
•
ネットワークを介して国境をまたぐ事業について、どのような被疑侵害行為があり、どの点を確認すべきかを類型を用いて分かりやす
く示すことは、中小企業・スタートアップにおける検討に有用である。
ネットワークを介して国境をまたぐ事業や関連技術の開発に携わる企業が多数存在する一方、専門人材や知財ノウハウに不足のあるこ
とも多い中小企業・スタートアップにとって、類型を用いた整理は、意図せぬ侵害の防止、自社・他社知財の確認及び事業リスクの把
握等の契機となり得る。
裁判例の蓄積が限られる現段階では、網羅的・精密な類型化ではなく、典型的で分かりやすい類型を例示する現行案の方向性が適切で
はないか。
国内外の実事案及び本小委員会の想定事例を基礎としており、気になりやすいものが分かりやすく整理されている心証。類型の参考と
した海外の実事例を紹介することは、知財ユーザーにとって有益ではないか。
被疑侵害行為の類型を用いた整理を行う方向性に異論はない。類型の元の事例を紹介することが読みやすさの向上につながるのではな
いか。
現行案では、経済的な影響や特許発明の構成要素の重要な一部に関する考慮要素について、類型ごとの差異が十分に明らかではないの
ではないか。また、類型を用いた整理が行えるほど事例が蓄積していないのではないか。
複数の類型と評価軸となっている技術的な効果、経済的な影響、特許発明の構成要素の重要な一部の各要素との関係性が必ずしも明確
ではないのではないか。
何年も検討した末に知見を世に示すというのは、国民に対する有益かつ必要なサービスである。類型分けについては、過不足があるか
もしれないが、自分自身、国境をまたぐ発明について別の機会で話を聞いた時に本小委員会で示された類型を当てはめながら理解を深
めることができ、参考になった。
4
<参考1>類型②ー1の参考とした海外事例
➢ 国際便追跡サービスの事例(中国)
(事件名:最高法知民終746号、中国最高人民法院、2021年5月25日判決)
特許発明の概要
➢ 入力された国際便の追跡番号を解析し、発
送国及び目的国の物流情報を収集して、整
理して表示する方法。
(特許発明の主な構成)
i.
国際便の追跡番号から、発送国及び荷物の種類を識別
ii. データベースから照会方式を特定し、発送国の物流情
報を収集
iii. 発送国の物流情報から目的国を識別
iv. データベースから照会方式を特定し、目的国の物流情
報を収集
v. 発送国及び目的国の物流情報を整理して表示
被疑侵害行為の概要
※赤字は国外で実行
➢ 被疑侵害者は、国際便の追跡番号に基づき、発
送国及び目的国の物流情報を収集・整理して表
示するオンラインサービスを提供していた。
➢ 当該サービスは、中国本土の利用者が追跡番号
をウェブサイトに入力すると、中国国内外の物
流事業者から発送国及び目的国の物流情報が収
集・整理され、追跡結果が当該利用者に表示さ
れるもの。
➢ 上述の一連の情報処理において中国本土外(香
港を含む)のサーバーが使用されていた。
国内ユーザー
(端末)
国際便の追跡番号か
ら追跡結果を参照
中国本土外のサーバー
※中国本土外のサーバーが特許発明のどの構
成要素を担っていたかは判決文中記載なし。
※ 裁判所は、サーバーが中国本土外(香港を含む)に所在していても、特許発明の実施地は中国本土にあると認め、侵
害を肯定。なお、システムの特許発明についても争われ、同様の結論となった。
※ 本頁の記載内容は、特許請求の範囲や判決文等の記載を基に、表現の簡略化、一部の省略その他の整理を行っている。
5
<参考2>類型②ー1の参考とした海外事例
➢ オンラインカジノサービスの事例(英国)
(事件名:Menashe v William Hill[2002]EWCA Civ 1702、イングランド及びウェールズ控訴院、2002年11月28日判決)
特許発明の概要
➢ 遠隔地にあるホストコンピューターと端末
コンピューターとを接続し、対話型カジノ
ゲームを提供するゲームシステム。
(特許発明の主な構成)
i.
ホストコンピューター
ii. ユーザーが使用する端末コンピューター
iii. 端末コンピューターとホストコンピューターを接続す
る通信手段
iv. 上記の各要素を動作させるプログラム
被疑侵害行為の概要
※赤字は国外で実行
➢被疑侵害者は、英国のユーザーに対し、英国の
ユーザー端末と国外のホストコンピューターを用
いたオンラインカジノサービスを提供。
➢当該サービスにおいて、被疑侵害者は、ユーザー
に、端末用のプログラムを記録したCDを英国で
提供。
➢そして、英国のユーザーが当該プログラムを用い
ると、ユーザー端末は端末コンピューターとして
機能し、当該ユーザーは所定の処理を行う国外の
ホストコンピューターに接続することでオンライ
ンカジノゲームを利用可能。
左記のⅰ
プログラムを
記録したCD
国内ユーザー
(端末)
国外ホストコンピューター
※ 裁判所は、ホストコンピューターが国外にあることのみをもって、英国における特許発明の実施が否定されるもので
はないとし、控訴を棄却。
※ 本判決は、当事者間の合意により設定された予備的な法律問題(ホストコンピューターが英国外に所在することが、英国特許法第60条第2項に基づく主張への抗弁となるか)
について判断したものであり、最終的な侵害の成否を判断したものではない。
※ 本頁の記載内容は、特許請求の範囲や判決文等の記載を基に、表現の簡略化、一部の省略その他の整理を行っている。
6
<参考3>類型②ー2の参考とした海外事例
➢ オンラインでの眼鏡の処方値算出サービスの事例(ドイツ)
(事件名:4a O 53/19、デュッセルドルフ地方裁判所、2020年7月28日判決)
特許発明の概要
➢ ユーザー端末の画面を用いて視力検査を行
い、その結果から矯正レンズ処方値を算出
する方法。
(特許発明の主な構成)
i. 表示装置の画面表示を較正
ii. 人間の視力検査を実施するために表示装置に図形を表
示
iii. 表示された図形に対する人間の応答を記録
iv. 上記応答から視力を算出
v. 視力から矯正レンズの処方値を算出
被疑侵害行為の概要
※赤字は国外で実行
➢ 被疑侵害者は、ドイツ国内のユーザーに対し、
国内のユーザー端末と国外サーバーを用いたオ
ンラインでの眼鏡の処方値算出サービスを提供
していた。
➢ 当該サービスは、ユーザー端末でユーザーの視
力検査を行い、国外で当該視力検査の結果を基
にして眼鏡の処方値を算出した上で、当該処方
値を国内ユーザーに送付するもの。
左記のⅴ
ユーザーからの入力に
基づく、視力検査の結果
国内ユーザー
(端末)
眼鏡の処方値
視力:X.XX
眼鏡の処方値:YY
※ 裁判所は、国外で行われた工程を国内に帰属させ、侵害を肯定。
※ 本頁の記載内容は、特許請求の範囲や判決文等の記載を基に、表現の簡略化、一部の省略その他の整理を行っている。
7
<参考4>類型②ー2の参考とした海外事例
➢ オンラインゲームサービスの事例(ドイツ)
(事件名:7 O 10368/21、ミュンヘン第一地方裁判所、2022年8月18日判決)
特許発明の概要
➢ 近接する複数の端末を、識別子を用いて識
別・マッチングし、共同でアプリケーショ
ンを実行するシステム及び方法。
(特許発明の主な構成)
i.
各端末が識別子を取得、識別子情報を含む要求を照合
サーバーに送信
ii. 照合サーバーが識別子情報を照合し、近接する複数の
端末をマッチング
iii. 照合サーバーが、実行するアプリケーションを特定し
てマッチメッセージを送信
iv. 照合サーバーとは別のアプリケーションサーバーが、
マッチングされた端末とともにアプリケーションを実
行
被疑侵害行為の概要
※赤字は国外で実行
➢ 被疑侵害者は、最大3名のユーザーが、各自のモ
バイル端末を用いて共有されたARゲームを体験
できるサービスを提供していた。
➢ 当該サービスにおいて、ユーザーが各モバイル端
末を介して共通の識別子(QRコード)から取得
した情報を送信すると、国外の照合サーバーが上
記複数のモバイル端末をマッチングし、国外のア
プリケーションサーバーが当該複数のモバイル端
末とともに共有されたARゲームを実行する。
識別子の取得
照合サーバー
左記の
ⅱ~ⅳ
識別子による
マッチング
モバイル端末
モバイル端末
アプリケーションサーバー
共有された
ARゲームの実行
※ 方法の特許発明について、裁判所は、国外工程を国内に帰属させ、侵害を肯定。
※ システムの特許発明について、裁判所は、国内での実施行為を認めず、侵害を否定。
※ 本頁の記載内容は、特許請求の範囲や判決文等の記載を基に、表現の簡略化、一部の省略その他の整理を行っている。
8
<参考5>類型③の参考とした海外事例
➢ 無線通信ネットワークを介したメール配信サービスの事例(米国)
(事件名:NTP, Inc. v. Research In Motion, Ltd.、418 F.3d 1282、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)、2005年8月2日判決)
特許発明の概要
➢ 既存の電子メールシステムと無線通信ネッ
トワークとを接続し、電子メールをユー
ザーの携帯型無線端末へ配信するシステム
及び方法。
(特許発明の主な構成)
i.
電子メールシステム内でメッセージを送信
ii. インターフェーススイッチを介し無線通信ネット
ワークへ送信
iii. 無線通信ネットワークから携帯型無線端末へ配信
被疑侵害行為の概要
※赤字は国外で実行
➢ 被疑侵害者は、米国内のユーザーに対し、電子
メールを無線で携帯端末へ配信するサービスを
提供していた。
➢ 当該サービスにおいて、米国内の電子メールシ
ステムから送信されたメールは、国外に設置さ
れたBlackBerry Relay(インターフェースス
イッチ)で変換・経路制御された後、無線通信
ネットワークを介して米国内の携帯端末へ配信
された。
BlackBerry Relay
(インターフェーススイッチ)
左記のⅱ
無線通信ネットワーク
※ 方法の特許発明について、裁判所は、「米国内の使用」として認めず侵害を否定。
※ システムの特許発明について、裁判所は、「米国内の使用」として認めて侵害を肯定。
※ 本頁の記載内容は、特許請求の範囲や判決文等の記載を基に、表現の簡略化、一部の省略その他の整理を行っている。
9
御議論いただきたい事項
➢ 類型ごとの差異が明らかでない等一定の課題を示す御意見もあったが、本論点に関する専門的な知見や
検討経験が必ずしも十分ではない知財ユーザー等を対象として、国内外の実事案や本小委員会で扱った
想定事例をもとに、典型的で分かりやすい類型を例示しながら整理を行う方向性は有益と考えられる。
➢ そこで、「考え方の整理」の作成・公表に向けては、被疑侵害行為の類型を用いた整理を行うととも
に、被疑侵害行為の類型を作成するに当たり参考とした海外事例を知財ユーザーの参考として盛り込
み、以下のような構成で「考え方の整理」のドラフトの準備を進めることとしたい。
➢ なお、作成に当たっては、複数の考え方が存在する論点については確定的な記載を避け、それぞれの
考え方を示す方針としたい。
1.はじめに
2.検討の前提
(1)特許法における関連規定
(2)属地主義の考え方と裁判例
(3)ネットワーク関連発明における課題
(4)国内における重要裁判例(ドワンゴ対FC2事件)
3.ネットワークを介して国境をまたぐ被疑侵害行為に対する権利行使の考え方
(1)検討の経緯
(2)実質的に国内の実施と認められるか否かの判断において考慮され得る要素
(ア)特許発明の技術的な効果が日本国内で奏されているかという要素
(イ)特許権者に経済的な影響が及んでいるかという要素
(ウ)その他の要素(特許発明の構成要素の重要な一部が国内に存在するかという要素)
4.ネットワークを介して国境をまたぐ被疑侵害行為の類型を用いた整理
(1)類型の全体像 (①~④の類型を例示)
(2)各類型の検討
(3)<参考>海外事例
⇨ 「考え方の整理」の作成・公表に向けた準備に当たり、御意見をいただきたい。
10
2.知的財産の侵害抑止へ向けた取組
11
前回の本小委員会における議論
➢ 前回の本小委員会(令和8年6月16日開催)では、国内企業が有する特許権に対する侵害の実態
調査の結果を御報告し、特許権侵害の抑止の在り方について御議論いただいた。
➢ 前回の御議論では、現行制度は「覆滅率の推移から侵害した者勝ちといえる状態であり、結果的に
十分な抑止効果や賠償が得られない事態は、知財保護制度に対する信頼を損ねかねない課題であ
る」、「故意の侵害によって得た収益を権利者に引き渡させる新たな権利保護制度の導入を検討課
題に含めるとよい」、「過去に議論された利益吐き出し型制度を含め、侵害者の悪質性や故意を考
慮して侵害を抑止する方策を議論してはどうか」等の御意見をいただいた。
➢ また、検討の際に留意すべき点として、対象を悪質性の高い侵害に限定すること、多くの企業が適
切に対応している実態を踏まえること、真に問題となる事案を対象にどのようなアプローチで侵害
抑止を図るのかを議論すること等の御意見もいただいた。
(参考)前回の本小委員会における御意見
<今後検討すべき課題に関する御意見>
•
侵害者利益による損害額の推定について、覆滅率の推移から侵害した者勝ちといえる状態であり、結果的に十分な抑止効果や賠償
が得られない事態は、知財保護制度に対する信頼を損ねかねない課題である。
•
故意に特許権を侵害したとしても、損害賠償後も利益が侵害者の手元に残るという状態は、現行制度の欠陥というべきで是正の必
要がある。故意の侵害によって得た収益を権利者に引き渡させる新たな権利保護制度の導入を検討課題に含めるとよい。
•
悪質な侵害、故意侵害の事案について課題があると感じる。過去に議論された利益吐き出し型制度を含め、侵害者の悪質性や故意
を考慮して侵害を抑止する方策を議論してはどうか。
<留意すべき点に関する御意見>
•
検討に当たっては、対象を悪質性の高い侵害に絞り込むことも一案。その際、悪質とはどのようなものか、どのようにすれば悪質
でないと推認されるのかといった検討があるとよい。
•
悪質な事例もありつつ、大多数の企業は真面目に取り組んでいる点はしっかりと言及してほしい。
•
真に問題となる事案がどのようなものか、どのような事案を対象にどのようなアプローチで侵害抑止を図るのかを議論することが
重要。
12
<参考>日本成長戦略及び知的財産推進計画における記載
日本成長戦略(令和8年7月21日閣議決定)
•
知財を戦略的に取得・活用する企業経営を推進し、知財訴訟における証拠収集手続の充実・強化
を始め、成長投資のボトルネックとなり得る権利侵害を抑制するための法制上の措置の検討や、
17の戦略分野における国内外の特許等の知財情報を活用したIPランドスケープの実施の検討、
国等が支援する研究開発投資における権利侵害の有無等についての事前調査及び研究開発投資の
成果の適切な知財取得、知財に関する集団的な権利行使を可能とする仕組みの検討を実施すると
ともに、有価証券報告書での知財・無形資産の開示を促進する制度の在り方について2026年度中
を目途に方針を示す。
知的財産推進計画(令和8年6月12日知的財産戦略本部決定)
•
•
損害賠償額の算定方法に係る2019年の特許法等改正について裁判例分析等による効果検証を踏ま
え、侵害に関する実態の更なる分析等を行い、諸外国の類似制度も参考にしながら、損害の回復
と侵害者利益の剥奪を確実にする民事救済措置の在り方を検討し、その結果に基づいて所要の措
置を講じる。
権利者が実効的に権利行使できる環境を整備するため、査証制度等の証拠収集手続の充実・強化
の在り方を検討の上、その著作権及び営業秘密への拡大の可能性、海外所在証拠への対応の在り
方等について、必要な検討を行う。
13
第55回本小委員会資料に基づき作成
<参考>ヒアリング調査にて聴取された悪質な侵害が疑われる事案
➢ ヒアリング調査では、権利侵害の場合に相手方の権利を知りながら故意に侵害しているのではない
かと疑われる事案が聴取された。
➢ また、侵害の可能性が高いものの、訴訟提起しても十分な賠償が得られない等の理由から、権利侵
害への対抗を断念する事案も聴取されている。
(参考)アンケート結果
ヒアリングで聴取された意見(例)
貴社の特許権が侵害されていると感じた
時に、被疑侵害者は貴社の特許権の存在
を既に知っていた(特許権の存在を知っ
た上でなお侵害していた)と思ったこと
はありますか。 (n=293)
➢ 当社は、WEBサービスにつき東証プライム上場企業から出資を持ちかけられ、自社技術
に関する情報を開示した。このとき、当社は当該サービスに関する特許権を複数有して
いた。しかし、実際に出資されることはなく、しばらくたって類似サービスがリリース
された。現時点でも当該のサービスは継続中であり、当社が新機能を開発する度に、模
倣が繰り返されている状況。
わからない
知っていたと
思ったことがある
23.5%
28.0%
知っていたと
思ったことはない
9.2%
確信はないものの、
おそらく知っていたと
思ったことはある
39.2%
➢ オンライン取引プラットフォーム上に出店している企業の製品が自社の特許権を侵害す
るとして、プラットフォーム業者に削除要請を行い当該製品のサイトが削除された。当
該ページの記載から、相手方製品が当社の特許権に抵触することが明らかな状況であっ
た。その後、相手方は、削除要請の契機となったページ上の記載のみを変更して、同じ
製品をプラットフォーム上で販売を再開した。
➢ 大企業が販売する製品に当社の特許権侵害の疑いを持ったため製品を購入して調査した
ところ、侵害の可能性が極めて高かった。相手方は日本を代表する大企業であることか
ら、特許侵害調査をしていないとは考えられない上に、 当社の材料は業界では有名でも
あったため、相手方が特許に気がついていないとは考えにくい。しかし、将来取引先に
なる可能性があることから関係性の悪化を避けるため、何もできなかった。
➢ 当社の特許製品の模倣品が市場に投入されたことがあり、完全に侵害案件であった。訴
訟提起しても十分な損害賠償額が見込めず、訴訟費用等を踏まえた費用対効果が小さい
ことから、訴訟には至らなかった。
14
第56回本小委員会資料に基づき作成
<参考>特許権侵害を肯定した裁判例における悪質な侵害事案
➢ 特許権侵害を肯定した裁判例の中には、極めて悪質である、故意に不正使用した等と判決で認定された事案が存在
する。
①
②
③
④
特許権者との業務提携契約解消後も、ライセンス対象の特許の実施を継続した。
仮処分決定により侵害のおそれが高いことを認識できた後も、侵害製品の型式名を工作して実施を継続した。
特許の存在を認識した上で、特許公報記載の方法を用いて実施した。
別件訴訟の敗訴後も侵害を継続した。
事案の概要
①東京地判令和4年12月15日
(平成30年(ワ)第28930号)
侵害者は、特許権者との業務提携契約
解消後も、ライセンス対象の特許の実
施を継続した。
②知財高判平成30年6月19日
(平成30年(ネ)第10001号)
侵害者は、仮処分決定により侵害のお
それが高いことを認識できた後も、専
門家の意見聴取もせず、侵害製品の型
式名を工作して実施を継続した。
③知財高判令和7年3月19日
(令和5年(ネ)第10040号)
侵害者は、特許の存在を認識し、弁理
士の見解書を取り付けた上で、特許公
報記載の方法を用いて実施した。
④東京地判令和5年7月13日
(令和2年(ワ)第13317号)
侵害者は、別件訴訟において敗訴判決
を受けた後も侵害を継続した。
判決の認定
被告は、もともと、原告との間で本件業務提携契約を締結した上、本件各発明の実施につきライセンス
を受けていたことは、既に説示したとおりである。そして、被告は、本件業務提携契約が解消された後
にも、本件各発明に係る特許権の侵害品である被告製品の製造販売を継続してきたことが認められ、
(略)。これらの事情を総合すると、原告が主張するとおり、被告は、故意に不正使用して原告の特許
権を侵害したものと認めるのが相当である。(略)、被告の侵害の態様は、(略)、知的財産権を尊重
する姿勢を欠くものとして極めて悪質なものであって、社会的信用を欠く行為であるというほかない。
(略)1審被告Aは平成26年11月初旬には本件仮処分決定について知ったものと認められるから,
これによって被告装置が本件特許権を侵害するおそれが高いことを十分に認識することができたと認め
られる。ところが,1審被告Aは,本件仮処分決定を踏まえて,中立的な専門家の意見を聴取するなど
の検討をした形跡もないまま,取引を継続し,さらに被告装置の型式名について工作をするなどしてい
るのであり,これら上記bに認定した本件仮処分決定前後の経過に照らせば,(略)1審被告Aには,
1審被告による本件特許権侵害について悪意又は少なくとも重大な過失があったというべきである。
被控訴人は、本件特許の存在を認識し、これに関する弁理士の見解書を取り付けた上で(なお、本件特
許に無効理由があるとか、被控訴人の行為に本件特許権の効力が及ばないとする見解が採用できないこ
とは、既に述べたとおりである。)、本件発明の実施に踏み切っており、(略)、被控訴人による本件
発明の実施は、(略)、本件明細書等に実施例として記載されている方法を用いており、公開された本
件発明を特許権者に無断で実施する意図がうかがわれることなどが認められる。
被告は、別件訴訟において、別件被告各製品の輸入及び販売を行うことが本件特許権の侵害に当たる旨
の第1審判決及び控訴審判決が言い渡された後も、なお別紙別件被告製品目録記載3の被告製品(本件
における被告製品1)を販売し続けたことが認められる。したがって、その侵害態様は看過し得ないと
ころがある。
15
第56回本小委員会資料に基づき作成
<参考>侵害者利益による損害額の推定規定(特許法第102条第2項)
➢ 侵害者利益の額を権利者の損害額と推定する特許法第102条第2項に関しては、損害額の賠償後
も侵害者の手元に一定の利益が残り得るとの課題が指摘されているところ、同項の利用状況につい
て調査した。
➢ 特許法第102条第2項は、特許権又は専用実施権を侵害した者がその侵害の行為により利益を受け
ているときは、その利益を損害の額(特許権者の販売減少に係る逸失利益)と推定する。もっとも、
その利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠けることを主張立
証した場合には、その限度で上記推定は覆滅される。
➢ 推定の覆滅事由としては、①市場の非同一性、②競合品の存在、③侵害者の営業努力、④侵害品の
性能、⑤特許発明の部分実施等が挙げられる。これらの覆滅事由は、令和元年6月7日知財高裁大
合議判決(次頁参照)において類型化され、判断枠組みが明確化された。
第102条第2項による損害額算定方法の概念図
侵害者利益
侵害者利益の額を
損害の額と推定
覆滅
=侵害者の手元に残る利益
侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との
相当因果関係を阻害する事情
令和元年6月7日知財高裁
大合議判決において明確化
①市場の非同一性、②競合品の存在、③侵害者の営業努力、
④侵害品の性能、⑤特許発明の部分実施等
損害賠償の対象
特許権者の販売減少に係る逸失利益
16
第56回本小委員会資料に基づき作成
<参考>令和元年6月7日知財高裁大合議判決〔二酸化炭素含有粘性組成物事件〕
➢ 知財高裁令和元年6月7日大合議判決〔二酸化炭素含有粘性組成物事件〕は、特許法第102条第2
項の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は限界利益の額であると解すべき旨示した。
➢ 同判決は、推定の覆滅事由として、①市場の非同一性、②市場における競合品の存在、③侵害者の
営業努力、④侵害品の性能、⑤部分実施を例示し、類型化によって推定の覆滅事由を明確化した。
判決文の抜粋
<利益の額について>
「特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は,侵害者の侵害品の売上高から,
侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費
を控除した限界利益の額であり,その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきである。」
<推定覆滅事由について>
「特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の事情と同様に,侵害者が主張立
証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情が
これに当たると解される。例えば,①特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同
一性),②市場における競合品の存在,③侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),④侵害品の性能
(機能,デザイン等特許発明以外の特徴) などの事情について,特許法102条1項ただし書の事情と同様,
同条2項についても,これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができるものと解される。また,
特許発明が侵害品の部分のみに実施されている場合においても,推定覆滅の事情として考慮することがで
きるが,特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅が認められるので
はなく,特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置付け,当該特許発明の顧客誘引力等の事
情を総合的に考慮してこれを決するのが相当である。」
17
侵害者の手元に利益が残り得る状況
➢ 前回の本小委員会で示したとおり、令和元年の大合議判決以降、特許法第102条第2項の推定覆滅について、大
合議判決前に比べて平均覆滅率の増加が見られる。
➢ 裁判例調査の結果、令和元年以降、特許法第102条第2項により損害額が算定された判決において、推定覆滅が
認められた利益額の総額(約144億円)は、権利者への支払が命じられた損害賠償額の総額(約56億円)の2.5
倍以上であり、現実に侵害者の手元に利益が残存している状況にあるといえる。
➢ 以上を俯瞰すると、特許権者は特許発明の実施を専有する(特許法第68条)とされているにもかかわらず、現行
制度では、特許発明の実施による利益であっても、結果的に侵害者の手元に当該利益が残り得る状況にあるとも
いえる。
侵害者の手元に利益が残り得る状況
判決で認定された覆滅率の分布及び年別平均の推移(前回本小委員会資料の再掲)
覆滅率
大合議判決前
100%
令和元年以降の判決※1で、①権利者への支払が命じられた損
害賠償額の総額と、②推定覆滅が認められた利益額※2の総額
大合議判決後
90%
80%
70%
平均覆滅率
約50%
60%
50%
これらの調査において、特許発明の寄与度(寄与率)を理由とす
る損害額の減額が行われた裁判例については、寄与度による減額
率を覆滅率に換算※3することで、いずれの期間についても同じ条
件でグラフを作成した。
40%
30%
20%
10%
0%
H28
H29
H30
覆滅率の年別平均
H31/R01
R02
R03
認定された覆滅率
(大合議判決前)
※1 判決日が令和元年~6年までの裁判例において、特許法102条2項により損害額が
算定され、損害額及び覆滅率の両方が明らかにされている事例(26件)を集計。
※2 損害額及び覆滅率に基づいて算出。
※3 例えば、寄与率が30%と認定され損害額から70%減額された事例については、覆
R04
R05
R06 判決年
滅率70%として集計。なお、平成28年~31年の裁判例では、37件中29件で被告
認定された覆滅率
側が寄与度減額又は推定覆滅の主張を行ったものの、裁判所が主張を認めたのは9
(大合議判決後)
件のみ(令和元年以降は58件中42件で覆滅を認定。)。
18
特許法第102条第2項の覆滅事由
➢ 特許法第102条第2項による損害額の推定の覆滅事由としては、①市場の非同一性、②競合品の存
在、③侵害者の営業努力、④侵害品の性能、⑤特許発明の部分実施等が挙げられる(令和元年6月
7日知財高裁大合議判決)。
➢ 令和元年以降、①~⑤のそれぞれが単独で考慮され、かつ覆滅率が明示されている裁判例は限定的
ではあるが※1、①~⑤のいずれも単独で5割以上の覆滅が認定された事例※2がある。
※1 令和元年以降、覆滅が認められ、かつ覆滅率が明示されている裁判例(42件)のうち、①~⑤が単独で考慮された裁判例は、それぞれ①3件、②4
件、③3件、④4件、⑤5件であった。その他の裁判例では複数の覆滅事由が考慮され、多くの場合、総合考慮により覆滅率が認定されている。
※2 単独で5割以上の覆滅が認定された事例として、①東京地判令和2年3月19日(平成29年(ワ)第32839号)、②東京地判令和2年9月24日(平成
28年(ワ)第25436号)、③大阪地判令和元年9月10日(平成28年(ワ)第12296号)、④東京地判令和2年9月25日(平成29年(ワ)第24210
号)、⑤知財高判令和2年5月27日(平成30年(ネ)第10016号)等が挙げられる。
覆滅事由
例
①市場の非同一性
特許権者は高価格帯、侵害者は低価格帯で販売し、特許権者と侵害者の
市場が棲み分けされているため覆滅。
②競合品の存在
特許権者の市場シェアがX%であるため(100-X)%が覆滅。
③侵害者の営業努力
侵害者の販売網があったから売れたため覆滅。
④侵害品の性能
製品に特許技術以外の機能があり、その機能が生み出した利益分は覆滅。
⑤特許発明の部分実施
製品を構成する部品が特許発明であり、その部品の範囲以外は覆滅。
19
過去の本小委員会における議論(1)
過去の本小委員会における議論(1)
➢ 過去の本小委員会では、懲罰的賠償※について議論を行った。
➢ 特に、令和2年の本小委員会では、その導入の在り方について議論があり、制度の導入に対する懸
念やハードルの高さを示す御意見が多数あった。
➢ 具体的には、制裁の範囲や我が国の損害賠償制度の基本理念との整合性、特許権の保護が過度に強
くなるおそれ等が課題として指摘され、令和2年7月の本小委員会の中間とりまとめでは、「侵害
者に制裁を加えることを目的とするような懲罰的賠償制度については否定的な意見が多く出され、
早期の制度化に向けた検討を進めることには慎重であるべき」と取りまとめられた。
※ 過去の本小委員会の中間とりまとめ(令和2年7月10日)では、以下のとおり記載されている。
「懲罰的賠償制度は、悪性の強い行為をした加害者に対し、実際に生じた損害の賠償に加えて、さらに賠償金の支払を命ずることによ
り、加害者に制裁を加え、かつ、将来における同様の行為を抑止しようとする制度である。」
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<参考>過去の本小委員会における御意見
<第26回特許制度小委員会における御意見(平成30年11月21日)>
•
懲罰的損害賠償については強く反対。
•
懲罰的賠償について、何回も同じ侵害を繰り返すといったような明らかに悪意がある場合であれば、当然あって
もよい制度だと考える。
<第35回特許制度小委員会における御意見(令和元年11月14日)>
•
懲罰的損害賠償は、「制裁」を通じた「抑止」に傾きやすく、なぜ、どこまで「制裁」するかや、侵害者の権利
に対して過剰な介入にならないような歯止めをどう設定するかということが問題になる。
•
懲罰的損害賠償については今までも議論があり、平成9年の最高裁判決※などを踏まえると改正するにはハード
ルが高いのではないか。
※ 平成9年の最高裁判決は、外国判決の承認に関する事例において、「我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則な
いし基本理念と相いれない」、したがって、「我が国の公の秩序に反する」と判示している。
<第39回特許制度小委員会における御意見(令和2年5月29日)>
•
日本においては、生命侵害でさえ懲罰的損害賠償による制裁規定は設けられておらず、どうして特許権侵害につ
いて設けることができるのか。
•
懲罰的損害賠償によって特許権が強大になり過ぎるという懸念がある。
•
懲罰的損害賠償に関しては、現時点においてすぐに法改正をして制度として導入することについては、慎重に考
えていく方向がよいのではないか。
•
当団体として、懲罰賠償制度について反対。
21
過去の本小委員会における議論(2)
過去の本小委員会における議論(2)
➢ 過去の本小委員会では、利益吐き出し型賠償※について議論を行った。
➢ 特に、令和2年の本小委員会では、導入に肯定的な御意見と否定的な御意見の双方が示された。肯
定的な御意見の中には、故意や悪意等の場合に限るべきといったもの、否定的な御意見としては、
実損填補を超える損害賠償は難しいといったものがあった。また、その他の御意見として、権利者
側が利益を取得できる理由や、覆滅事由の制限の在り方についての問題提起も見られた。
➢ その上で、令和3年2月の本小委員会の報告書では、「今後は、裁判の動向を見守りつつ、その上
で更なる法改正が必要であるといった具体的なニーズが高まった時期に、改めて制度の法的根拠や
要件などを含め、検討することとするのが適当である。」と取りまとめられた。
※ 過去の本小委員会資料(第43回・令和2年11月27日)では、以下のとおり記載されている。
【侵害者利益吐き出し型賠償制度とは】
「抑止」という目的から不法行為制度を設計し、実損の塡補を超える損害賠償を認めるべきとの主張がある。こうした中、他人の特許
権を無断で利用した侵害者が侵害行為により利益を取得した場合に、権利者がその利益の償還(利益の剥奪)を求めることができる侵
害者利益吐き出し型賠償制度が提唱されている。
22
<参考>過去の本小委員会における御意見
<肯定的な御意見>
• 中小企業の物づくりの観点から、最低でも利益吐き出し導入、そして過失は許せても故意侵害には断固として厳しい対
処をする制度を望む。
• 弊社は悪意や故意等、それに近いような特許権侵害を実際受けている場合があり、その場合には利益吐き出し型に近い
ような考えをとってもよいのではないか。故意や悪意の特許権侵害に対して、何らかの形で損害賠償額を上げるような
議論をしてよいかもしれない。ただし、故意や悪意のような限定を設けないのであれば大反対。今は覆滅事由の裁判運
用は改善されており、現時点では利益吐き出し型賠償は作らなくてよいのではないか。
• 権利が入り組んでいて、権利侵害しているのか実はよくわからない状態では、利益吐き出しは産業の発達を阻害するの
ではないか。オリジナリティーの高い発明を保護するため、故意等を要件にすることは考えられる。
• 権利者側が保持できる理由はあるのかという問題はあるが、何よりもそれを侵害者に保持させることにやはり大きな問
題がある。附帯決議があり、利益吐き出し制度の実現を図ることを考えてよいのではないか。
<否定的な御意見>
• 利益吐き出しは、故意性・害意性が必ずしも必要ではない考え方をとり得るとすると、102条2項と極めて近くなり、
覆滅事由の扱いが差異になる。覆滅事由を全部又は一部認めないというアプローチと、覆滅事由を全部認めつつも一定
の基準を示しながら厳格に運用するアプローチとの差がどのように出てくるか、当面は判例の動向を見守りながら、明
らかに差が出てきたときに検討を進めてはどうか。
• 令和元年、102条法改正の下での今後の司法判断の積み重ねをしばらくは見守った上で、それでもなおかつ必要な検討
事項が出てきた場合に、改めて検討するのがよいのではないか。
• 利益吐き出し制度というのは、従来の不法行為法との関係でどのように位置付けるのか。この点について明確な整理な
く改正を加えるとなると、その根元について共通の理解がないままに主張がされるため、実務的に影響が大きい。
• 実損填補を超える損害賠償は明らかに制裁的な意味の制度であり、以前から当団体としては導入に反対。制裁的な賠償
制度は、知財体制が整っていない会社にとって想定外の知財リスクを与える。
23
諸外国の侵害抑止を目的とした金銭的救済制度の導入状況
➢ 諸外国においては、権利侵害の抑止を目的として、悪性の強い侵害者への制裁を図る賠償制度(懲
罰的賠償)や侵害者の手元に残った利益を権利者に引き渡す制度(利益吐き出し型賠償等)が導入
されている。
➢ その中には、特に故意等を要件としている国も存在している。
➢ 我が国は、権利侵害の抑止を目的とした上記のような制度は導入していない。
商事法務研究会「不法行為に基づく損害賠償制度に関する調査研究報告書」(令和7年2月)等を参考に特許庁作成。
国
制度の性格
内容
米国
懲罰的
故意又は不誠実な侵害の場合、損害額の3倍まで増額して損害賠償請求できる。(特許法第284
条、判例)
韓国
懲罰的
故意侵害の場合、損害額の5倍まで増額して損害賠償請求できる。(特許法第128条)
中国
懲罰的
故意侵害かつ情状が深刻な場合、実際の損失、権利侵害によって得た利益又は実施料相当額の5
倍まで増額して損害賠償請求できる。(専利法第71条)
英国
利益吐き出し型
善意侵害でない場合、権利侵害によって侵害者が得た利益を請求できる。(特許法第61条、第
62条)
ドイツ
利益吐き出し型
故意又は過失による侵害の場合、権利侵害によって侵害者が得た利益を基準として損害賠償請求
できる。(特許法第139条、判例)
オランダ
利益吐き出し型
侵害を認識していた又は過失により侵害の認識がなかった場合、損害賠償に加えて、権利侵害に
よって侵害者が得た利益を請求できる。(特許法第70条)
※ EUでは、2004年に制定した知財エンフォースメント指令において、損害賠償の算定に関して侵害者が得た不当な利益も考慮する旨
規定されており、また、同指令は、損害賠償を含む救済措置全般が実効的、比例的かつ抑止的であることを義務付けている。
※ ベルギーでは、知的財産権侵害だけではなく、人格権侵害等についても、2024年の民法典改正により利益吐き出し型の規定を導入
24
している。
その他の論点
➢ 日本成長戦略及び知的財産推進計画において、権利者が実効的に権利行使できる環境の整備に向け
た証拠収集手続の在り方についても検討すべき旨の記載が盛り込まれた。
➢ これまで、権利救済の在り方は、権利行使要件の立証に向けた証拠収集手続の在り方と併せて議論
されている。令和3年2月の本小委員会の報告書では、特許権者の金銭的救済の議論とともに「仮
に故意や害意といった主観的要件を求める場合、現状の証拠収集手続ではその立証が困難である…
(中略)…という意見があった」と取りまとめており、前々回の本小委員会(第55回・令和7年
11月)においても、証拠収集の課題について複数の御意見をいただいた。
➢ 諸外国においても、権利の実効性確保に向けた証拠収集手続の整備が図られている※。
※①近年、証拠収集手続の在り方を検討している例
②既に実効性の高い証拠収集手続が整備されている例
韓国:資料提出命令等の新たな証拠収集導入について発議され、審議中。 米国:ディスカバリー手続
英国:ディスクロージャー制度
今後の方向性
➢ 上記の動向を踏まえ、証拠収集手続の在り方を検討するに当たっては、諸外国の制度の調査、知
財ユーザーに対するヒアリング調査を通じた実態把握が重要である。
➢ かかる観点から、調査研究等を通じて、権利行使の実効性確保に向けた証拠収集手続上の課題や
ニーズ等を把握するとともに、近時の法改正により創設された証拠収集手続(第三者意見募集制
度、査証制度)等の効果を検証する必要がある。
➢ 次回以降の本小委員会において調査結果等を御報告し、その上で証拠収集手続の在り方について
御議論いただきたい。
25
御議論いただきたい事項
➢ 特許権侵害の実態調査では、相手方の権利を認識しながら故意に侵害していることが疑われる事
案が聴取され、また、特許権侵害を肯定した裁判例の中にも、「被告は、故意に不正使用して原
告の特許権を侵害したものと認めるのが相当である」、「被告の侵害の態様は、…(中略)…、
知的財産権を尊重する姿勢を欠くものとして極めて悪質なもの」と認定された判決がある。
➢ 本小委員会においても、これまで、「懲罰的賠償」、「利益吐き出し型賠償」について御議論い
ただいており、その当時は、令和元年改正後の裁判の動向を見守ることとされた。
➢ その後の裁判例を見ると、令和元年以降、特許法第102条第2項に基づく損害額の算定において、
推定覆滅の割合が増加しており、侵害者の手元に利益が残存する課題がなお指摘されている。
➢ 前回の本小委員会では、
•
故意侵害や悪質な侵害事案について課題がある。
•
現行の損害賠償制度では十分な抑止効果が得られていない。
•
故意侵害であっても損害賠償後に利益が侵害者の手元に残るという状態は是正の必要がある。
•
悪質な事例もありつつも大多数の企業は真面目に取り組んでいる点に留意すべき。
等の御意見もいただいたところ。
➢ 以上を踏まえ、特許権の侵害事案における民事救済措置の在り方についてどのように考えるか。
(論点例)
•
現行法の民事救済措置で十分といえるか。
•
十分でない場合、どのような事案に対し、どのような民事救済措置を講ずるべきか。等
➢ なお、本論点の検討に当たっては、民法等の観点も踏まえた検討も必要となることから、別途、
事務局において法的な論点を整理することとしてはどうか。
26
3.次回の特許制度小委員会について(予定)
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次回の特許制度小委員会について(予定)
➢ 開催予定時期
• 令和8年10月頃を想定。
➢ 御議論いただく内容
• 国際的な事業活動におけるネットワーク関連発明等の適切な権利保護、AI技術の発達を踏まえた
特許制度上の適切な対応及び知的財産の侵害抑止へ向けた取組について、これまでにいただいた御
指摘を踏まえて引き続き御議論いただく予定。
※議題は変更させていただく可能性がある。
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