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産業構造審議会 知的財産分科会 特許制度小委員会
第56回
産業構造審議会 知的財産分科会 特許制度小委員会 第56回
2026-06-16
一次資料(出典)
議事録・配布資料の全文(政府公表資料より。要約でなく原文に基づく参照用)。
資料1
産業構造審議会知的財産分科会 第56回特許制度小委員会 議事次第・配布資料一覧 日 時:令和8年6月16日(火)13時00分開会 会 場:特許庁庁舎16階特別会議室+Web会議室 (議事次第) 1.開会 2.国際的な事業活動におけるネットワーク関連発明等の適切な権利保護について 3.AI技術の発達を踏まえた特許制度上の適切な対応について 4.知的財産の侵害抑止へ向けた取組について 5.閉会 (配布資料) 議事次第・配布資料一覧 委員名簿 資料1 特許制度に関する検討課題について
資料2
令 和 8 年 6 月 16 日 第 56 回特許制度小委員会 産業構造審議会 知的財産分科会 特許制度小委員会 委員名簿 石井 夏生利 中央大学国際情報学部 教授 今村 玲英子 弁理士法人創英・創英設樂法律事務所 井本 史生 日本経済団体連合会知的財産・国際標準戦略委員会 部会委員/日本電気株式会社 グ部門 企画 知的財産&ルールメイキン 主席プロフェッショナル 岩井 直幸 東京地方裁判所(知的財産権部)部総括判事 木元 哲也 株式会社木元省美堂 工藤 郁子 大阪大学社会技術共創研究センター 小林 利彦 一般社団法人日本知的財産協会 代表取締役社長 セイコーエプソン株式会社 委員長 弁理士 特任准教授 理事長/ 執行役員・知的財産本部長 相良 由里子 中村合同特許法律事務所 パートナー弁護士 杉村 純子 プロメテ国際特許事務所 代表弁理士 杉山 悦子 一橋大学大学院法学研究科 教授 玉井 克哉 東京大学 田村 善之 東京大学大学院法学政治学研究科 教授 中尾 直樹 日本弁理士会知財制度検討委員会 副委員長/ 名誉教授/信州大学 特任教授 中尾国際特許事務所 弁理士 代表パートナー弁理士 中畑 稔 One ip 弁理士法人 橋本 佳幸 京都大学大学院法学研究科 松山 智恵 TMI 総合法律事務所 教授 パートナー弁護士 (敬称略、五十音順)
資料3
資料1 特許制度に関する検討課題について 産業構造審議会知的財産分科会 第56回特許制度小委員会 令和8年6月16日 1.国際的な事業活動におけるネットワーク関連発明等の 適切な権利保護 1 これまでの経緯と今後の進め方 これまでの経緯 ➢ ネットワーク関連発明については、属地主義の原則が厳格に解され、発明の構成要素の一部が国外に存在する場 合に、日本国内における特許発明の「実施」と評価されず特許権が容易に回避され得る可能性が指摘される中、 ドワンゴ対FC2事件最高裁判決により、現行法において、サーバーが国外に存在する場合であっても実質的に国 内の実施行為と評価され得ることが示された。 ➢ しかしながら、ネットワーク関連発明の国境をまたぐ被疑侵害行為には多様な態様があり得るところ、同判決は 個別事案に対する判断を示すものであり、他の裁判例の蓄積も乏しいことから、ドワンゴ対FC2事件以外の態様 については権利行使に係る予見性になお課題が残されている。 ➢ この状況にあって、本小委員会では、同最高裁判決も参考としながら、実質的に国内の実施行為と認められるか 否かの判断において考慮され得る要素について議論を深めてきた。 ➢ 前回小委員会では、本論点の上記課題に対して時機を逸することなく対応を講ずる必要性を確認した上で、これ までの議論を踏まえ、拙速なルール化を避けつつ柔軟な対応が可能な措置として、「考え方の整理」を作成・公 表する方向性に御了承いただいた。 ➢ さらに、その骨子案(次頁参照)を確認し、「考え方の整理」の具体化に関する御意見もいただいたところ。 今後の進め方 ➢ 「考え方の整理」について、これまでにいただいた御意見を踏まえ、その具体化の方向性を検討・御議論いただ きたい。 2 前回の小委員会で提示した骨子案(前回の小委員会資料からの再掲) ➢ 本論点における「考え方の整理」を作成・公表する場合に想定される骨子(案)を以下に示す。 ※ チェック「✓」で記載している点は、「考え方の整理」の中心となる3.に盛り込むべきポイントの例。 <骨子案> 1.はじめに 2.検討の前提 (1)特許法における関連規定 (2)属地主義の考え方と裁判例 (3)ネットワーク関連発明における課題 検討の前提を整理して記載予定。 ドワンゴ対FC2事件の最高裁判決を 参考に、これまでの本小委員会での 議論を活用しながら、考え方を整理 することを想定。 3. 属地主義を踏まえたネットワーク関連発明の考え方 (1) 前提 ✓ ネットワーク関連発明について、その実施の態様によっては、特許発明の構成要素の一部が海外に存在したとして も、属地主義を前提としながら実質的に国内の実施と評価できる(特許権侵害が認められる。)。 ✓ その際、特に重要な要素となり得る点として、少なくとも(2)に記載の点が挙げられる。 (2) 特に考慮されるべき重要な要素 (ア)国内で発現している特許発明の技術的な効果 ✓ 技術的な効果が直接的に国内で生じていることが必要と考えられる点等を記載。 (イ)国内で特許権者に及ぶ経済的な影響 ✓ 技術的な効果が生じていても、「特許権者に経済的な影響が国内で発現していない」という事情が認められる場 合には、侵害が否定され得る。 (3) 備考 ✓ 国内に存在する特許発明の構成要素の取扱いに関する考え方について、本小委員会での議論等を整理しつつ、更に 今後国内外の情勢を注視していく必要があることを指摘。 4. おわりに 3 これまでに得られた「考え方の整理」の具体化に関する御意見 ➢ 前回小委員会にて、「考え方の整理」を作成する方向性に賛同が得られるとともに、作成において留意 すべき事項等についても御意見をいただいたところ。 ➢ また、「考え方の整理」の作成に当たり、知財ユーザーの実情とニーズを的確に捉えることが重要であ ることから、さらに産業界や実務家等から御意見を聴取した。 ➢ これまでに得られた御意見を整理すると以下のとおり。 <整理の対象> ➢ ドワンゴ対FC2事件最高裁判決が発明ではなく行為に着目した点を踏まえ、「ネットワークを介して国境をまたぐ被 疑侵害行為」を対象として考え方を整理するという方向性が適切である。 <整理の手法> ➢ ユーザー自身で実質的に国内の実施行為と認められるか等に関する適切な検討が行えるように、複数の事例を挙げる ことが望ましい。 ➢ 権利行使・サービスの提供・出願といった場面を問わず参考となるよう、これまで検討を重ねてきた様々な視点・判 断要素が記載されていることが望ましい。 <留意点> ➢ 議論が分かれている点について確定的な内容を記載することは、慎重になるべき。 ➢ 複数の考え方が存在する論点について、考え方の違いに応じてどのように判断が異なり得るかが、ユーザーが理解し やすいように記載されていることが望ましい。 ➢ 「特許発明の構成要素の一部が国内」の考慮要素については、必須の要素とする考え方とそうでない考え方の両方に ついての記載があると望ましい。 4 「考え方の整理」の具体化の方向性案 これまでにいただいた御意見を踏まえると、以下の点を重視しつつ、「考え方の整理」を具体化するこ とが適切と考えられる。 <具体化に当たって重視すべき点> (A)「ネットワークを介して国境をまたぐ被疑侵害行為」を対象として、実質的に国内の実施行為と認 められるか否かの判断における「考え方」を整理する。 (B)「ネットワークを介して国境をまたぐ被疑侵害行為」には、多様な態様があり得るところ、態様の 違いに応じ、どのような点が実質的に国内の実施行為と認められるか否かの判断のポイントとなり得るか を複数の観点から整理する。 (C)複数の考え方が存在する論点については、確定的な記載を行うのではなく、考え方の違いに応じて 判断にどのような差違が生じ得るかを整理する。 方向性案 ➢ 実質的に国内の実施行為か否かが問題となり得る「ネットワークを介して国境をまたぐ被疑侵害行 為」について、海外の裁判例等を参考に一定の類型を例示した上で、これまで本小委員会で検討を深 めてきた「考え方」をいかしつつ、類型ごとに複数の観点から検討を行う。 ➢ 検討に当たっては、上記(C)に留意する。 5 「考え方の整理」に期待される予見性向上の効果 ➢ 前頁の方向性案に沿って「考え方の整理」を取りまとめることで、例えば以下のような知 財ユーザーの予見性を向上する効果が期待される。 ➢ ユーザーは、ドワンゴ対FC2事件が該当する類型以外に、実質的に国内の実施行為か否か が問題となり得る被疑侵害行為として、例えばどのような類型が存在し得るのかを把握で きる。 ➢ ユーザーは、「考え方の整理」で示された類似の類型に対する検討を参考とすることで、 個別の事案をどのように判断すべきか効率的に把握できる。具体的には、侵害の成否を判 断しやすい事案については、一定の見通しを持って対応を検討でき、考え方により判断が 分かれ得る事案についても、そのポイントをあらかじめ確認できる。 6 実質的に国内の実施行為か否かが問題となり得る被疑侵害行為の類型 ➢ 産業界や実務家等からも御意見をいただきながら、表題の類型を以下のとおり整理した。 ✓ 類型①~③:国内外の裁判例を参考とし、典型的な類型を例示。 ✓ 類型④:本小委員会にて検討を行った想定事例を参考とし、補足的な類型も追加。 ① 国内端末等処理型 国内 海外 情報処理 ユーザー端末等 ② プログラム等 の送信 情報処理 ②-1 機能利用型(SaaS等) ロボット・センサー等 ③ ネットワーク周辺技術利用型 ➢ 海外サーバー等の情報処理機能を国内端末等から利用するもの ✓ 海外で裁判例あり(例:海外サーバーで国際便のトラッキング情報 を生成し、国内端末で参照可能とする行為について争われた例*) * (2020)最高法知民终746号 (中国 最高人民法院 2021年5月25日判決) ユーザー端末等 ②-2 国内情報収集・機器制御型(IoT・ロボット制御等) 情報収集・ 制御 ➢ ドワンゴ対FC2事件が該当 海外サーバー等で、国内端末等向けに情報処理を行うもの 海外サーバー等処理型 サーバー等 の情報処理 機能を利用 サーバー等 ➢ 海外サーバー等から必要な情報を送信し、国内端末等が情報処理を 行うもの 情報処理 周辺技術を利用 ネットワーク ➢ 国内のセンサー等で情報を収集し、海外サーバー等に送信して情報 処理させているものや、海外サーバー等が国内機器(ロボット等) を制御しているもの ✓ 海外で裁判例あり(例:国内端末で視力検査を実行させ、その情報 を海外サーバーで分析・視力等の情報をユーザーに提供する行為に ついて争われた例*)* 4a O 53/19, GRUR 2020, 1078 (ドイツ デュッセルド ルフ地方裁判所 2020年7月28日判決) ➢ ネットワークで用いられる周辺技術を利用するもの ✓ 海外で裁判例あり(例:メールを海外にまたがる無線ネットワーク を介して国内の手持端末に配信する行為について争われた例*) * NTP, Inc. v. Research In Motion, Ltd., 418 F.3d 1282 (Fed. Cir. 2005) 回区控訴裁判所 2005年8月2日判決) (米国 連邦巡 ➢ 海外サーバー等で用いられる周辺技術(冷却装置、耐震装置、電源 等)を利用するもの ✓ 本小委員会にて検討を行った想定事例あり(例:海外サーバーに使 用する冷却装置を使用してサービスを提供する行為に関する例) 【留意点】本整理はあらゆる行為を網羅することを目的とするものではない。 7 また、上記の類型に該当することが直ちに特許権の侵害を意味するものではない。 ④ サーバー等周辺技術利用型 周辺技術を利用 各類型に対する検討の観点 ➢ 本小委員会では、予見性向上の観点から、実質的に国内の実施行為と認められるか否かの判断におい て考慮され得る要素について議論を深めてきたところ。 ➢ 当該議論を踏まえ、知財ユーザーの参考になると考えられる検討の観点を整理した。 (1)特許発明の技術的な効果が国内で奏されているかという要素 (2)特許権者に経済的な影響が及んでいるかという要素 ✓ ドワンゴ対FC2事件最高裁判決で明確に考慮された。 ✓ 本小委員会でドワンゴ対FC2事件以外の態様においても一 般的に重要な要素となり得ることが確認された。 ✓ 類似の要素を考慮した海外裁判例(ドワンゴ対FC2事件と は異なる態様の被疑侵害行為が争われた)が存在する。 検討の観点に含めるべき (3)その他の要素(特許発明の構成要素の重要な一 部が国内に存在するかという要素) ✓ 本小委員会では(1)及び(2)に加えて考慮され 得る要素があるか議論を継続してきた。その結果、 (3)特許発明の構成要素の重要な一部が国内に存 在するかという要素について、検討の蓄積がある。 ✓ 類似の要素を考慮した海外裁判例(ドワンゴ対FC2 事件とは異なる態様の被疑侵害行為が争われた)が 存在する。 補足的に検討の観点に含めることが適切 8 (3)その他の要素に関する留意点 (特許発明の構成要素の重要な一部が国内に存在するかという要素) ➢ 本小委員会では、(3)その他の要素(特許発明の構成要素の重要な一部が国内に存在す るかという要素)に関し、実質的に国内の実施行為と認められるか否かの判断で考慮すべ きか等について、議論を重ねてきた。その結果、必須の考慮要素とすべきとの考え方・す べきではないとの考え方のいずれも示されたところ。 ➢ そこで、(3)の観点から各類型の検討を行うに当たっては、いずれかの考え方を確定的 に記載するのではなく、(3)の要素が考慮される場合と考慮されない場合で、実質的に 国内の実施行為と認められるか否かの判断にどのような差違が生じ得るか等を整理すべき と考えられる(5頁の(C)参照)。 (3)の要否に係るこれまでに得られた御意見の例 < (3)を必須の考慮要素とすべき旨の御意見> ➢ (3)の考慮要素を必須としない場合、以下の点が懸念される。 ✓ 属地主義の原則からすると過剰な保護となるおそれがある。 ✓ クリアランス負担が過大となるおそれがあるとともに、他国も同様の制度を導入した場合に、当 該国で事業を展開していない日本企業が、当該国の特許権によって不測の侵害リスクを被るおそ れがある。また、そのような国が増えると、複数の国の特許権侵害リスクに同時にさらされる。 < (3)を必須の考慮要素とすべきではない旨の御意見> ➢ 最高裁で特段議論されていない要件を課すなど権利行使の幅を狭めるような方向性については慎重に 検討すべきである。 ➢ (3)の考慮要素を必須とする場合、SaaSのようなサーバーで実質的に処理が完結するようなサービ ス等、比較的新しいサービス形態の保護が不十分となるおそれがある。 9 実質的に国内の実施行為か否かが問題となり得る類型を盛り込んだ骨子案 <骨子案> 1.はじめに 2.検討の前提 (1)特許法における関連規定 (2)属地主義の考え方と裁判例 (3)ネットワーク関連発明における課題 3.属地主義を踏まえたネットワーク関連発明の考え方 最高裁判決で示された考え方や本小委員 会での議論を整理 ① 国内端末等処理型 ドワンゴ対FC2事件が 該当する類型 海外サーバー等から必要な情報を送信し、国内端末等が情報処理を行うもの ドワンゴ対FC2事件 以外の類型 ② 海外サーバー等処理型 海外サーバー等で、国内端末等向けに情報処理を行うもの ②-1 機能利用型(SaaS等) 海外サーバー等の情報処理機能を国内端末等から利用するもの 上記整理を踏まえて検討 ②-2 国内情報収集・機器制御型(IoT・ロボット制御等) 国内のセンサー等で情報を収集し、海外サーバー等に送信して情報処理させているものや、 海外サーバー等が国内機器(ロボット等)を制御しているもの ③ ネットワーク周辺技術利用型 ネットワークで用いられる周辺技術を利用するもの ④ サーバー等周辺技術利用型 海外サーバー等で用いられる周辺技術(冷却装置、耐震装置、電源等)を利用するもの 10 各類型に対する検討のポイント 【類型①:ドワンゴ対FC2事件が該当】 ➢ ドワンゴ対FC2事件における被疑侵害行為が該当する①の類型に関して、最高裁判決で示された考え方 や、本小委員会での議論の主なポイントは以下のとおり。 赤枠:ドワンゴ対FC2事件最高裁判決で一定の考え方が示された箇所。 ① 国内端末等処理型 ✓ ドワンゴ対FC2事件最高裁 判決及び担当調査官の論 考*で示された事項 ◆ 本小委員会にて上記判決 を踏まえ議論した事項 灰色:当該最高裁判決で明示されていない箇所。 特許発明の技術的な効果が 国内で奏されているかという要素 特許権者に経済的な影響が 及んでいるかという要素 【補足】特許発明の構成要素の重要な一 部が国内に存在するかという要素 ✓ 最高裁判決では、中心的な 考慮要素とされた。 ✓ 最高裁判決では、特許権 者に「経済的な影響を及 ぼさないというべき事情 もうかがわれない」とし て、消極的事情がないこ とのみ指摘。 ✓ 最高裁判決では、明示的な言 及なし。 ✓ 当該判決では、特許発明の 技術的な効果が国内で奏さ れることとの関係でサー バーが海外に所在すること に特段の意味はないとされ、 ✓ 担当調査官の論考では、 実質的に国内の実施行為と 判断を左右する経済的な 評価し得ることが判示。 影響の内実は今後の課題 である旨を指摘。 ◆本小委員会では、特許発明 が技術的思想の創作である ことに照らせば、他事件で も重要な考慮要素となり得 ると議論。 ◆ 本小委員会では、本要素の 考慮を必須とすべきとの御 意見と必須とすべきではな いとの御意見が共に存在。 【考慮される場合】特許発明の重要 な一部が国内端末等の情報処理にあ れば、実質的に国内の実施行為と認 められやすい可能性。 ◆本小委員会では、技術的 【考慮されない場合】構成要素の重 な効果が国内で奏されて 要な一部が国内に存在するか否かに いれば、特許権者に経済 かかわらず、実質的に国内の実施行 的な影響が及ぶことが多 為と認められる可能性。 いと考えられ得ると議論。 & Technology(2025年10月号)75–86頁 * 吉野俊太郎「最高裁重要判例解説(ドワンゴ事件)」Law 吉野俊太郎「最高裁 時の判例」ジュリスト1619号(2026年2月)116–120頁 上記を踏まえ、②~④の各類型についても検討を行う(次頁参照)。 11 各類型に対する検討のポイント 【類型②~④:ドワンゴ対FC2事件以外の類型】 ➢ 類型②~④について、類型①に関する整理を踏まえた検討の主なポイントは以下のとおり。 緑色:類型①に関する考え方(前頁)の延長で議論が行いやすいと考えられる箇所。 灰色:ドワンゴ対FC2事件最高裁判決で明示されていない箇所。 橙色:上記考え方のあてはめで論点が生じ得ると考えられる箇所。 特許発明の技術的な効果が 国内で奏されているかという要素 ② 海 外 サ ー バ ー 等 処 理 型 ②-1 機能利用型 (SaaS等) ②-2 国内情報収 集・機器制御 型(IoT等) ③ネットワーク周辺 技術利用型 特許権者に経済的な影響が 及んでいるかという要素 【補足】特許発明の構成要素の重要な一部が国内に 存在するかという要素 海外サーバー等で情報処理を行っていた としても、特許発明の技術的な効果が国 内で奏されていると判断される可能性が ある。その場合、①と同様、サーバー等 の所在は、特許発明の技術的な効果が国 内で奏されることとの関係で特段の意味 はないと考えられる。 【考慮される場合】特許発明の重要な一部が 海外サーバーの情報処理にあれば、その点で 権利行使が認められにくい可能性。 ②-1と同様に考え得る。 また、センシング処理・機器制御等に係 る特許発明の技術的な効果が国内で奏さ れていると判断される可能性がある。 【考慮される場合】特許発明の重要な一部が 国内センシング処理等にあれば、その点で権 利行使が認められやすい可能性。 ネットワーク周辺技術に係る特許発明の 技術的な効果が国内で奏されていると判 断される可能性がある。 【考慮されない場合】①と同様に考え得る。 ①と同様に 考え得る。 【考慮されない場合】①と同様に考え得る。 特許発明の重要な一部が海外のネットワーク 周辺技術にある場合は、以下のとおり(②- 1と同様)。 【考慮される場合】特許発明の重要な一部が海外の ネットワーク周辺技術にあれば、その点で権利行使 が認められにくい可能性。 【考慮されない場合】①と同様に考え得る。 ④サーバー等周辺技 術利用型 本小委員会では、特許発明がサーバーの 冷却装置に係る場合のように、直接的に 国内で技術的な効果が奏されないものに ついて議論あり。 特許発明の重要な一部がサーバー所在地と同 様に海外にある場合は、以下のとおり(②- 1と同様)。 【考慮される場合】特許発明の重要な一部が海外の サーバー等周辺技術にあれば、その点で権利行使が 認められにくい可能性。 【考慮されない場合】①と同様に考え得る。 12 御議論いただきたい事項 ➢ 今次小委員会では、「考え方の整理」の具体化に当たって、まず、実質的に国内の実 施行為か否かが問題となり得る被疑侵害行為に関して一定の類型を整理し、これまで 本小委員会で検討を深めてきた「考え方」をいかしつつ、類型ごとに検討を行う方向 性案をお示しした。 ➢ また、上記方向性で進める場合における実質的に国内の実施行為か否かが問題となり 得る類型や当該類型を盛り込んだ骨子案、各類型に対する検討のポイントについても 御確認いただいた。 ⇨ 上記の内容について、御意見をいただきたい。 13 2.AI技術の発達を踏まえた特許制度上の適切な対応 14 これまでの経緯と今後の進め方 これまでの経緯 ➢ AIの技術発展に伴い、AI技術を活用した研究開発が普及しつつあり、知的創造活動が変化していると の指摘がある。 ➢ 国際的にも、ダバスという人工知能を発明者とする特許出願が世界各国でなされ、また、AIと発明の 論点は五庁(日本、米国、欧州(EPO)、中国、韓国)の枠組み等で議論がなされているなど、国内 外で関心が高い。なお、日本のダバス事件については、令和8年3月に最高裁が上告審として受理し ない決定をしたことで知財高裁の判決が確定し、発明者の欄にAIの名称を記載した場合は却下される こと等について明らかになった。 ➢ このような中、本小委員会では、AIと発明に関し、➀発明、➁発明者、③引用発明適格性の3つの論 点等について検討を行ってきた。 ➢ また、検討を進めるに当たり、AI技術やAI発明の態様は様々なものが想定されるところ、共通理解を 醸成しながら検討を進めるべき、国際的ハーモナイゼーションに配慮すべき等の御意見をいただき、 ヒアリングや諸外国の動向調査等を行ってきた。 今後の進め方 ➢ これまでの調査を踏まえた検討の方向性について、御議論いただきたい。 15 これまで行ってきた国内外の実態調査 ➢ 本論点は、これまで公開情報調査やヒアリング等を通じて実態把握を行ってきた。 ➢ 知財ユーザーのニーズを踏まえることの重要性を本小委員会で御指摘いただいていると ころ、企業や有識者に対するヒアリングを行った。 ➢ また、国際的ハーモナイゼーションに配慮することの重要性も本小委員会で御指摘いた だいているところ、進展の速いAI技術に関連する最新の動向を把握すべく、公開情報調 査に加えて五庁(日本、米国、欧州(EPO)、中国、韓国)の枠組み等を活用して情報 収集を行った。 実態調査の概要 ➢ ユーザーのニーズの実態把握として、発明創作においてAIを利活用している、特許出願 件数が多い、ビジネスモデルにおける特許の重要性が高い等の観点から、自動車・電 機・電子機器・製薬・化学といった業界の企業や研究機関に対してヒアリングを行った。 また、有識者に対するヒアリングも行った。 ➢ 諸外国の動向の実態把握として、各論点に関する現行制度、AIを利用した発明に関する 動向を対象として、調査を行った。 16 「発明」論点に関連するヒアリング調査の結果概要 ➢ ①「発明」論点に関連して、AI自律発明を特許法で保護すべきか否かについては、保護する必 要がないという意見も保護する必要があるという意見もあり、保護の必要性については業態に よって隔たりがあった。なお、AI自律発明は現時点では困難という意見もあった。 ➢ また、国際調和の重要性についての意見があった。さらに、日本企業への負の影響も考慮すべき という意見があった。 主な御意見の例 ✓ 現状、外国ではAI自律発明は保護されない可能性が高いため、国際調和から逸脱すべきでないと考える。 AIにより創出される発明については、AI開発に強い米国、中国の大手企業が膨大な数の特許を取得する 可能性があり、日本企業の事業に負の影響をもたらす可能性がある。(電機) ✓ AIに対してインセンティブを与える必要性が考えられないため、AI自律発明を保護することは難しいの ではないか。(自動車) ✓ AI自律発明であっても、特許による投資回収システムの維持が重要である点は同様であり、特許法での 保護が必要と考える。(製薬) ✓ 現在の技術水準では、まだ人間が大きく関与する必要があると理解している。したがって、現時点では AIが自律的に発明を行うことは可能でないと考えている。(電機) (注)AI自律発明 : 本資料では、AIが自律的に発明し、自然人の関与があるとはいえない生成物をいうこととする。 17 「発明者」論点に関連するヒアリング調査の結果概要 ➢ ②「発明者」論点について、AIを利活用した発明の発明者に関する明確な考え方は存在していな いところ、人同士の発明者認定の現在の考え方をAIを利活用した発明にも適用すべきという意見 や、AIは単なるツールであり、他のツールを利用した場合と同じ判断で問題ないとの意見が あった。 ➢ また、本論点に関しては、考え方を整理するのが望ましいという意見や、明確な指針を策定する のは難しいのではないかという意見があった。 主な御意見の例 ✓ 発明者認定の現在の考え方を変更すべきでない。(電子機器) ✓ 現在のインターネットや他のツールを利用した場合と同じ判断で問題ないと考えている。(電機) ✓ AIやMI等のツールを利活用していたとしても、それによって発明者認定の基準や考え方が区別されるものではないと思 われる。(化学) ✓ どのような発明者基準とすべきか明確な答えは持ち合わせていないが、AIを活用して知財活動を行っていく上で障害とな らないように、議論は必要であると認識している。併せて、グローバルに事業を行っているため、諸外国との調和が取ら れることが望ましい。(自動車) ✓ いきなり法改正といった大きな改革をしてしまうよりは、ソフトランディングで、まずはガイドラインのようなものから 始めて、状況を見ながら変えていくのがよいのではないかと考えている。(製薬) ✓ AIを利活用した発明における発明者認定の基本的な考え方を示す指針を期待している。(研究機関) ✓ 現在のように他国の方針が流動的な状態で、明確なガイダンスを策定することは難しいだろう。(有識者) 18 「引用発明適格性」論点に関連するヒアリング調査の結果概要 ➢ ③「引用発明適格性」論点に関連して、AIが生成した、実施可能性が不明確な内容や虚偽の内 容が含まれる技術情報により懸念が生じるかについては、引用発明をAIが生成したか否かで 選別することは現実的でないとの声が多く、現行の審査基準に記載されている引用発明の要件 を適切に運用すべきとの意見が大多数であった。 主な御意見の例 ✓ 現行の審査基準に記載されているとおり、実施可能性を考慮した引用発明適格性が要件としてふさわ しいと考えている。それによって、AIが大量に生成した真偽不明の技術は引用発明とならず、実際に 技術的に価値がある・実施できる発明のみが引用され、公平性および客観性も保たれるし、仮に出願 が拒絶されてもそれであれば出願人としても納得感を得られるものであると考えている。(電機) ✓ 単にデータベース上に記憶された化合物や組成物は引用発明とすべきでなく、排除してほしい。少な くとも実施可能性があったり、技術的思想が示されていたりする情報を引用発明とすべきである。 (化学) ✓ 自然人の関与があった場合にのみ引用発明とする考え方もあると思ったが、文献を見てどこに自然人 が関与しているかを判断したり、立証したりすることは難しいため、現実的ではないという結論に 至った。(電機) 19 諸外国の動向 ➢ これらの論点への対応について、国際的にも方向性が定まっていない状況である。 ✓ 対応を検討中の国や立法を検討したものの見送った国、AI利用発明の発明者認定について自然人の貢献に着目 する国、AIは単なるツールとする国など様々ある。 ✓ 米国では2024年2月にガイダンスを公表したが、2025年11月に撤回・改定して方針転換した。 米国 撤回した上で全面改定(改定の詳細は次頁も参照) AIの支援を受けた発明の発明者適格に関するガイダンス (2024年2月13日) AIの支援を受けた発明の発明者適格に関するガイダンスの改定 (2025年11月28日) 発明に AI の支援があった場合に、発明に対する自然人の貢 献が特許を取得するのに十分といえるほど大きかったかどう か判断する方法をステークホルダーや審査官に示すもの。 左記判断方法ではなく、着想基準に従って発明者を判断。AI は単なるツールであると明示。 「着想基準」…自然人が発明の全ての事項を理解しており、 それが「発明者の心の中で明確に定義されていて、広範な 研究や実験を行わずに、通常の技能のみで発明を実施でき る」状態であるかどうか (参照)JETRO NY 知的財産部「USPTO、AI の支援を受けた発明の発明者適格に関するガイ ダンスを発行」https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2024/20240213.pdf (参照) JETRO NY 知的財産部「USPTO、AI の支援を受けた発明の発明者適格に関するガイ ダンスを改定」https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2025/20251128.pdf ※ 米国では引用発明適格性の論点に関し、AIが生成した先行技術を審査で引用し得るか等についてコメント募集(Requests for comments)を 2024年に実施したものの、その後の動きは確認されていない。また、他の国・地域でも引用発明適格性に特化した動きは確認されていない。 中国 韓国 英国 豪州 AIに関連する発明特許の出願ガイドライン(試行実施用) (2024年12月31日) 2025年に調査 研究を実施。調 査研究の結果を 踏まえて、今後 の対応を検討中。 2021年に発明 者の論点に関し、 法改正も含めた 意見募集を実施。 状況を注視すべ きとして法改正 を見送った。 2025年に特許実 務及び手続マニュ アルを改定。発明 者の論点に関し、 米国の旧ガイダン スに類似した記載 を追加。 AIは発明者とできないことが記載。また、AIの助けを 借りてなされた発明の場合、発明創造の実質的特徴に対 して創造的貢献をした自然人は、発明者とできることが 示されている。 20 (参考)USPTOの「AIの支援を受けた発明の発明者適格に関するガイダンス」 旧ガイダンス (2024年2月13日) AIの支援を 受けた場合の 発明者の 考え方 撤回済み 共同開発者間(人vs人)で 発明者が争われたPannu事件の基準(下 記Pannu基準参照)を「AI vs 人」の 場面でも適用して判断 新ガイダンス (2025年11月28日) AIは自然人が用いるツールに過ぎず 共同開発者間の基準は適用しない 代わりに、単独発明者の場合に従来から適 用されてきた「着想基準」を利用すべき 発明者となる (Pannu基準) ための ①発明の着想又は具体化への相当の寄与 具体的基準 ②質的に相当の寄与 ③従来技術から容易ではない相当の寄与 の全てを満たすこと (着想基準) 自然人が発明の全ての事項を理解しており、 それが「発明者の心の中で明確に定義され ていて、広範な研究や実験を行わずに、通 常の技能のみで発明を実施できる」状態で あるかどうか 出願に記載さ れた発明者が 「基準」を満 たさなかった 場合の処理 出願は拒絶すべきものであることを明記 ※ ただし、Q&Aにて、「拒絶は稀であ り審査官に追加の負担を課すものではな い」とも記載しており、実効性は不明 拒絶するとも拒絶しないとも明示されてい ない その他 AIによる重要な貢献があった場合に、 申告を義務付け 申告義務は撤回 21 今後の方向性(案) これまでの実態調査のまとめ <知財ユーザーからの声> ➢ AI自律発明は、現時点では困難であるとの意見や、AIは単なるツールではないかとの意見があった。 ➢ 仮にAI自律発明が実現しても、AI自律発明の保護の要否について、業界によって意見が分かれている。 ➢ 他方、特許制度上の対応に対する検討において、国際ハーモナイゼーションを求める声が強い。 <諸外国の動向> ➢ 特許制度におけるAI技術の発達を踏まえた対応については、国際的にも方向性が定まっていない状況である。 ✓ 対応を検討中の国や立法を検討したものの見送った国、AI利用発明の発明者認定について自然人の貢献に 着目する国、AIは単なるツールとする国など様々ある。 ✓ また、米国は、公表したガイダンスを撤回・改定して方針転換した。 今後の方向性(案) ➢ AIの技術水準が急速に変化し続けている実情も踏まえれば、例えば、現在のAIの技術水準はどの程度か、AI 自律発明は将来的にどの程度あり得るのか、諸外国の最新の検討状況はどうかといった点について引き続き 調査・検討が必要ではないか。 御議論いただきたい事項 ➢ ➢ 本日は、本論点に関する企業・有識者からの御意見、諸外国の動向を踏まえ、上記各事項について調査・ 検討するという方向性(案)をお示しした。 上記方向性について御議論いただきたい。 22 3.知的財産の侵害抑止へ向けた取組 23 これまでの経緯と今後の進め方 ➢ 前回の小委員会では、国内企業が有する特許権に対する侵害の実態調査の途中経過を御報告し、特 許権侵害の抑止へ向けた取組について議論を行った。 ➢ アンケート調査やヒアリング調査の結果について、現場の感覚に合っている旨の御意見があった一 方、より正確な実態把握に向けて以下の御意見もいただいた。 • 特許権を保有する「権利者」だけでなく、他者特許権を侵害し得る「実施者」の立場も併せて調査すべき。 • アンケート等では主観的回答も含まれ得るため、客観的に侵害と認められ、悪質性が高い事案があるかど うか確認すべき。 ➢ 実態調査を進める中で、特許権が侵害された場合に必ずしも権利行使できるとはいえないことや、 故意による権利侵害が疑われる事案の存在が確認された。 ➢ また、知的財産の侵害抑止へ向けた取組として、これまで、委員各位から損害賠償制度、特許表示、 裁判外紛争解決手続(ADR)等の制度が挙げられた。 今次小委員会では、上記の議論や御意見等を踏まえた実態調査の結果を御報告することと したい。 24 特許権侵害の実態把握に向けた調査の概要 ➢ 前回の小委員会では、侵害を受けた特許権者の実態や悪質な侵害を受けたと認識される事案につい て御報告した。 ➢ 他方、特許権者は、事業活動において他者の特許権を回避しながら実施を行う事業実施者の立場に もなり得る。また、侵害の有無を巡っては、特許権者と事業実施者との間で見解が対立することも 少なくない。この点を踏まえ、特許権侵害の多角的な実態把握の観点から、事業実施者側の立場に ついても実態の調査を実施した。 ➢ さらに、悪質な侵害を受けたという特許権者の認識に基づく実態把握にとどまらず、訴訟で争われ た事案における悪質な侵害の実態についても調査を実施した。 事業実施者側の実態調査 事業実施者※1に対し、①他者から特許権侵害の警告や訴訟提起を受けた経験の有無及び②他者特許 権を侵害していないかを事前に確認する調査(クリアランス調査)の実施状況についてアンケート調査 ※2及びヒアリング調査※3を行った。 ※1 事業実施者は、他者の特許権を侵害しないよう留意しつつ事業活動を行う主体であるところ、紛争経験の有無や平時における他者特許権の確 認状況を把握することで実態把握を目指した。 ※2 国内企業に対してアンケートを送付し、468社から回答を得た。 ※3 様々な企業規模及び事業分野(機械・電気機器等製造業、繊維製造業、化学工業、食品製造業、卸売業等)の国内企業から聴取した。 訴訟で争われた事案における悪質な侵害の実態調査 客観的な事実関係に基づき悪質な侵害の実態を把握する観点から、特許権侵害を肯定した裁判例を対 象とし、判決の認定上、悪質な侵害といえる事案について裁判例調査※4を行った。 ※4 判決日が平成25年以降の特許権侵害を肯定した裁判例において、判決の記載内容を分析することにより調査した。 25 事業実施者側の実態調査 他者特許権に基づく警告や訴訟提起を受けた経験の有無 ➢ 他者特許権に基づく警告や訴訟提起を受けた経験があると回答した企業は6割以上であり、他者特 許権を巡る紛争に直面する企業は少なくない。 ➢ 警告等を受けた事業実施者に事情を聴取したところ、クリアランス調査における確認漏れのほか、 権利回避の成否、技術的範囲の解釈や無効理由の有無等を巡り、権利者と事業実施者との間で見解 の相違があったことが聴取された。 アンケート結果 ヒアリングで聴取された意見(例) 他者の特許権によるトラブルに遭っ た経験があるか(n=456) ➢ 警告を受け、その後交渉にて対応した。調査漏れに該当するものと思われる。 対象は製品の非常に細かい部品に関する特許であり、通常のクリアランス調査 では網羅しきれない内容であった。(大企業) その他 2.0% 特にない 33.3% ➢ 見落としの事例と難癖に近い事例で半々ずつ経験がある。(大企業) 警告又は訴訟の 経験がある※ 64.7% ➢ 製品本体は調査していたが、周辺領域の確認不足により侵害に至ったケースや、 設計変更により回避した認識であったにもかかわらず、侵害を主張されたこと があった。(中小企業) ➢ 他社権利を回避して実施したが警告を受けたことがある。(中小企業) ➢ 警告があり、権利者とは技術的範囲の解釈に相違があった。最終的には、当社 製品は技術的範囲に属さないという主張が支持された。(中小企業) ※他者の特許権によるトラブルに遭った経験に関する 回答データを基に作成。 ➢ 件数は少ないが経験はある。当社内で無効理由があると検討していたケースで あったと理解している。(大企業) 26 事業実施者側の実態調査 クリアランス調査の実施状況 ➢ クリアランス調査を行っている旨回答した企業は9割以上であり、大多数の企業で他者特許権の侵 害を予防する取組が行われている。 ➢ 開発段階や販売前における調査に加え、開発後に公開される他者特許も踏まえて継続的に確認を行 う等、事業化の各段階で他者特許権を確認していることが聴取された。 ➢ 抵触の可能性がある他者特許権を把握した場合、外部専門家の見解を踏まえ設計変更の対応を行う 等、多くの企業が他者特許権回避のための取組を行っていることが確認された。 アンケート結果 ヒアリングで聴取された意見(例) クリアランス調査を行っているか否か(n=459) <クリアランス調査の実施時期> 行っていない 6.5% ➢ 各開発段階で調査を実施し、他者権利との関係で問題のない技術のみが開 発を完了するような体制としている。また、未公開だった他社特許の公開 にも備え、開発後も一定期間は調査を継続している。(大企業) 行っている※ 93.5% ➢ 新製品を販売する前に調査を実施している。侵害に疑義のある特許権につ いては外部の専門家に相談する。また、他社製品・特許権も公開される度 にチェックしている。(中小企業) <調査をいつ行っているか(複数回答可、上位3位)> 自社事業の計画段階(自社 356 製品の企画段階等)で行う 自社事業の実施前(自社 296 製品の製造前等)に行う 同業他社の特許公報が 205 発行された時に常時行う 0 100 200 300 400 ※クリアランス調査をいつ行っているかに関する回答データを基に作成。 <抵触可能性のある他社権利発見時の対応> ➢ 明らかに非侵害・無効理由の存在等が見通せる場合は社内判断で閉じるこ ともあるが、社内判断だけでは不安が残る場合は、社外専門家へ相談し、 必要な対応(方針転換等)を実施する。(大企業) ➢ 抵触の可能性があると思われる案件については、知財会議で共有し、対応 方針を協議する。その上で、必要に応じて顧問特許事務所に相談し、評価 をしてもらう。(中小企業) 27 訴訟で争われた事案における悪質な侵害の実態調査 特許権侵害を肯定した裁判例における悪質な侵害事案 ➢ 特許権侵害を肯定した裁判例の中には、極めて悪質である、故意に不正使用した等と判決で認定された、悪質な侵 害事案が存在する。 ① ② ③ ④ 特許権者との業務提携契約解消後も、ライセンス対象の特許の実施を継続した。 仮処分決定により侵害のおそれが高いことを認識できた後も、侵害製品の型式名を工作して実施を継続した。 特許の存在を認識した上で、特許公報記載の方法を用いて実施した。 別件訴訟の敗訴後も侵害を継続した。 事案の概要 ①東京地判令和4年12月15日 (平成30年(ワ)第28930号) 侵害者は、特許権者との業務提携契約 解消後も、ライセンス対象の特許の実 施を継続した。 ②知財高判平成30年6月19日 (平成30年(ネ)第10001号) 侵害者は、仮処分決定により侵害のお それが高いことを認識できた後も、専 門家の意見聴取もせず、侵害製品の型 式名を工作して実施を継続した。 ③知財高判令和7年3月19日 (令和5年(ネ)第10040号) 侵害者は、特許の存在を認識し、弁理 士の見解書を取り付けた上で、特許公 報記載の方法を用いて実施した。 ④東京地判令和5年7月13日 (令和2年(ワ)第13317号) 侵害者は、別件訴訟において敗訴判決 を受けた後も侵害を継続した。 判決の認定 被告は、もともと、原告との間で本件業務提携契約を締結した上、本件各発明の実施につきライセンス を受けていたことは、既に説示したとおりである。そして、被告は、本件業務提携契約が解消された後 にも、本件各発明に係る特許権の侵害品である被告製品の製造販売を継続してきたことが認められ、 (略)。これらの事情を総合すると、原告が主張するとおり、被告は、故意に不正使用して原告の特許 権を侵害したものと認めるのが相当である。(略)、被告の侵害の態様は、(略)、知的財産権を尊重 する姿勢を欠くものとして極めて悪質なものであって、社会的信用を欠く行為であるというほかない。 (略)1審被告Aは平成26年11月初旬には本件仮処分決定について知ったものと認められるから, これによって被告装置が本件特許権を侵害するおそれが高いことを十分に認識することができたと認め られる。ところが,1審被告Aは,本件仮処分決定を踏まえて,中立的な専門家の意見を聴取するなど の検討をした形跡もないまま,取引を継続し,さらに被告装置の型式名について工作をするなどしてい るのであり,これら上記bに認定した本件仮処分決定前後の経過に照らせば,(略)1審被告Aには, 1審被告による本件特許権侵害について悪意又は少なくとも重大な過失があったというべきである。 被控訴人は、本件特許の存在を認識し、これに関する弁理士の見解書を取り付けた上で(なお、本件特 許に無効理由があるとか、被控訴人の行為に本件特許権の効力が及ばないとする見解が採用できないこ とは、既に述べたとおりである。)、本件発明の実施に踏み切っており、(略)、被控訴人による本件 発明の実施は、(略)、本件明細書等に実施例として記載されている方法を用いており、公開された本 件発明を特許権者に無断で実施する意図がうかがわれることなどが認められる。 被告は、別件訴訟において、別件被告各製品の輸入及び販売を行うことが本件特許権の侵害に当たる旨 の第1審判決及び控訴審判決が言い渡された後も、なお別紙別件被告製品目録記載3の被告製品(本件 における被告製品1)を販売し続けたことが認められる。したがって、その侵害態様は看過し得ないと ころがある。 28 第55回小委員会資料より再掲 <参考>ヒアリング調査にて聴取された悪質な侵害が疑われる事案 ➢ ヒアリング調査を通じて、権利侵害の場合に相手方の権利を知りながら故意に侵害しているのでは ないかと疑われる事案が認められた。 ➢ 侵害の確度が不明瞭な事案も見られる一方で、侵害の可能性が高いものの企業体力等に鑑みて、権 利侵害に対する対抗を断念し「泣き寝入り」する事案も聴取されている。 (参考)アンケート結果 ヒアリングで聴取された意見(例) 貴社の特許権が侵害されていると感じた 時に、被疑侵害者は貴社の特許権の存在 を既に知っていた(特許権の存在を知っ た上でなお侵害していた)と思ったこと はありますか。 (n=293) ➢ 当社は、WEBサービスにつき東証プライム上場企業から出資を持ちかけら れ、自社技術に関する情報を開示した。このとき、当社は当該サービスに関 する特許権を複数有していた。しかし、実際に出資されることはなく、しば らくたって類似サービスがリリースされた。現時点でも当該のサービスは継 続中であり、当社が新機能を開発する度に、模倣が繰り返されている状況。 わからない 知っていたと 思ったことがある 23.5% 28.0% 知っていたと 思ったことはない 9.2% 確信はないものの、 おそらく知っていたと 思ったことはある 39.2% ➢ オンライン取引プラットフォーム上に出店している企業の製品が自社の特許 権を侵害するとして、プラットフォーム業者に削除要請を行い当該製品のサ イトが削除された。当該ページの記載から、相手方製品が当社の特許権に抵 触することが明らかな状況であった。その後、相手方は、削除要請の契機と なったページ上の記載のみを変更して、同じ製品をプラットフォーム上で販 売を再開した。 ➢ 大企業が販売する製品に当社の特許権侵害の疑いを持ったため製品を購入し て調査したところ、侵害の可能性が極めて高かった。相手方は日本を代表す る大企業であることから、特許侵害調査をしていないとは考えられない上に、 当社の材料は業界では有名でもあったため、相手方が特許に気がついていな いとは考えにくい。しかし、将来取引先になる可能性があることから関係性 の悪化を避けるため、何もできなかった。 29 特許権侵害に関する実態と対応手段 ➢ 多くの企業が他者特許権を侵害しないための取組を行っているものの、警告等を受けた事業実施者 側の事情としては、クリアランス調査における確認漏れに加え、権利回避の成否、技術的範囲の解 釈や無効理由の有無等を巡り、権利者と事業実施者との間で見解の相違があったことも確認された。 ➢ 一方で、特許権侵害に係る裁判例を調査したところ、極めて悪質である、故意に不正使用した等と 判決で認定された、悪質な侵害事案も確認されている。ヒアリングにおいても、故意に侵害してい るのではないかと疑われる事案に加え、海外企業からの悪質な侵害事案も複数聴取されている。 ➢ こうした権利侵害に対し、現行制度には様々な対応手段が設けられているところ、これまでの本小 委員会等においても、損害賠償制度、特許表示、裁判外紛争解決手続(ADR)等の制度が挙げら れている。 ➢ そこで、各制度について、実際の利用状況や利用に当たっての課題等を把握することを目的として 調査を実施した。 30 特許権侵害に対する損害賠償と令和元年法改正(特許法第102条) ➢ 特許制度では、特許権侵害における損害額算定の困難性に鑑み、算定方法に関する特許法上の特則 (特許法第102条)が設けられているところ、これまで数次の法改正が行われ、損害回復の充実が 図られてきた。 ➢ 直近の令和元年法改正では、①販売数量の減少による逸失利益に加え、実施料相当額(ライセンス 機会の喪失による逸失利益)を損害額とできる措置を講ずるとともに(特許法第102条第1項)、 ②いわゆる「侵害プレミアム」に関し、実施料相当額の算定における考慮要素を明確化した(同条 第4項)。 令和元年法改正の概要 ライセンス機会の喪失による逸失利益の認定 (特許法第102条第1項) ✓ 販売数量の減少による逸失利益に加え、実施 料相当額(ライセンス機会の喪失による逸失 利益)を損害額とできる措置を講じた。 1 実施料相当額の考慮要素の明確化 (特許法第102条第4項) ✓ いわゆる「侵害プレミアム」に関し、実施料 相当額の算定において、特許権侵害の事実、 権利者の許諾機会の喪失等を考慮できること を明記するため、これらの考慮要素を包括的 に規定した。 2 1 第102条第1項 2 逸失利益 実施料相当額 令和元年法改正 により措置 権利者の 1個当たりの 利益 に 販 よ 売 る 数 逸 量 失 の 利 減 益 少 考慮要素の明確化 (特許法第102条第4項) 実施料 相当額 権利者の 生産・販売能力 第102条第3項 実施料相当額 侵害品の 販売数量 31 令和元年法改正前後の裁判例の比較(特許法第102条) ➢ 法改正前後での損害賠償の認定額を比較したところ、1億円以上の損害賠償額の認定割合が増加。 ➢ 法改正後、①ライセンス機会の喪失による逸失利益が認定された事例がある(3件)。 ➢ 法改正後、②実施料相当額の算定において、高い相当実施料率が認定された事例が見られる。 令和元年法改正前後における 損害賠償認定額の分布 改正前 合計21.7% 1億円以上の損害賠償額の 認定割合が増加 改正後 合計32.9% ①ライセンス機会の喪失 による逸失利益の認定 ②判決ごとの相当実施料率の分布 相当 実施料率 権利者の 1個当たり の利益 法改正前 法改正後 30% に 販 よ 売 る 数 逸 量 失 の 利 減 益 少 法改正後に 適用あり (3件) 25% 法改正後に 高い相当実施料率 の認定が見られる 20% 15% 実施料 相当額 10% 5% 権利者の 生産・販売能力 侵害品の 販売数量 0% H28 H29 H30 H31/R01 R02 R03 R04 R05 R06 判決年 32 侵害者利益による損害額の推定規定(特許法第102条第2項) ➢ 侵害者利益の額を権利者の損害額と推定する特許法第102条第2項に関しては、損害額の賠償後 も侵害者の手元に一定の利益が残り得るとの課題が指摘されているところ、同項の利用状況につい て調査した。 ➢ 特許法第102条第2項は、特許権又は専用実施権を侵害した者がその侵害の行為により利益を受け ているときは、その利益を損害の額(特許権者の販売減少に係る逸失利益)と推定する。もっとも、 その利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠けることを主張立 証した場合には、その限度で上記推定は覆滅される。 ➢ 推定の覆滅事由としては、①市場の非同一性、②競合品の存在、③侵害者の営業努力、④侵害品の 性能、⑤特許発明の部分実施等が挙げられる。これらの覆滅事由は、令和元年6月7日知財高裁大 合議判決(次頁参照)において類型化され、判断枠組みが明確化された。 第102条第2項による損害額算定方法の概念図 侵害者利益 侵害者利益の額を 損害の額と推定 覆滅 =侵害者の手元に残る利益 侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との 相当因果関係を阻害する事情 令和元年6月7日知財高裁 大合議判決において明確化 ①市場の非同一性、②競合品の存在、③侵害者の営業努力、 ④侵害品の性能、⑤特許発明の部分実施等 損害賠償の対象 特許権者の販売減少に係る逸失利益 33 <参考>令和元年6月7日知財高裁大合議判決〔二酸化炭素含有粘性組成物事件〕 ➢ 知財高裁令和元年6月7日大合議判決〔二酸化炭素含有粘性組成物事件〕は、特許法第102条第 2項の推定の覆滅事由として、①市場の非同一性、②市場における競合品の存在、③侵害者の営業 努力、④侵害品の性能、⑤部分実施を例示し、類型化によって推定の覆滅事由を明確化した。 <知財高裁令和元年6月7日大合議判決・抜粋> 「特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の事情と同様に,侵害 者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果 関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば,①特許権者と侵害者の業務態様等に 相違が存在すること(市場の非同一性),②市場における競合品の存在,③侵害者の営業努力 (ブランド力,宣伝広告),④侵害品の性能(機能,デザイン等特許発明以外の特徴) などの 事情について,特許法102条1項ただし書の事情と同様,同条2項についても,これらの事情を 推定覆滅の事情として考慮することができるものと解される。また,特許発明が侵害品の部分 のみに実施されている場合においても,推定覆滅の事情として考慮することができるが,特許 発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅が認められるのでは なく,特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置付け,当該特許発明の顧客誘引 力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相当である。」 34 侵害者利益による損害額推定の覆滅率の推移(特許法第102条第2項) ➢ 侵害者利益による損害額推定(特許法第102条第2項)の覆滅について、覆滅率の年別平均は、 令和元年6月7日知財高裁大合議判決前と比較し、同判決後に増加傾向あり。また、判決ごとの覆 滅率の分布についても、同判決後は全体として高い方向に広がっている。 ➢ 近年の平均覆滅率は50%程度で推移しており、平均して侵害者利益の半分程度が侵害者の手元に 残存している状況にあるといえる。 判決で認定された覆滅率の分布及び年別平均の推移 覆滅率 大合議判決前 100% 大合議判決後 90% 80% 70% 平均覆滅率 約50% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% H28 H29 H30 覆滅率の年別平均 H31/R01 R02 R03 認定された覆滅率 (大合議判決前) R04 R05 R06 認定された覆滅率 (大合議判決後) 判決年 35 特許表示/裁判外紛争解決手続(ADR)の活用実態 ➢ 特許表示について、特許表示等を行っているとの回答は全体の約4割であった。侵害抑止や自社技 術のアピールといった効果が認識される一方で、表示の管理負担や製品特性等を踏まえ、選択的に 活用されている実態が確認された。 ➢ 裁判外紛争解決手続(ADR)について、利用したことがないとの回答が大多数を占めた。他方で、 利用経験者の多くは今後も利用意向を有していることが確認されたが、制度の具体的内容や利用上 のメリット等に関する認知度が十分でないことが課題として示された。 アンケート結果 ヒアリング等で聴取された意見(例) 特許表示等※1を行っているか(n=458) 特 許 表 示 行っている 41.9% 行っていない 58.1% ➢ 製品上や容器に表示することは技術的には可能だが、権利満了 時にパッケージ変更が必要等、管理が煩雑になるため難しい。 ※1 製品上だけでなく、 カタログやウェブサイト等 への表示も含む。 裁判外紛争解決手続(ADR)を利用した経験が あるか(n=459) A D R ➢ 特許表示をすることで他社に対する侵害抑止の効果があると考 えているが、宣伝や自社技術のアピールとしての意味合いが大 きいという社内の意見もある。 利用したこと がある※2 2.4% 利用したことがない 97.6% ※2調停制度や仲裁制度の利用経験に関する回答データを基に作成。 ➢ BtoBであるため製品自体には特許表示をしていないが、プレス リリースや顧客向け資料等を通じて特許番号等を示している。 <利用経験者による今後も利用したいと考える理由> ➢ 裁判に比べて、費用が安く迅速に判断できるため。 ➢ 訴訟で認められる損害賠償額と比べて交渉ベースで決められる 損害賠償額の方が大きい場合があるため。 <利用促進に向けた情報発信に関する意見> ➢ 現状、有用性が不明瞭ということもあるので、利用するメリッ トやどのような者が調停委員なのか等の情報があればよい。 ➢ 実際にどのように利用されているのか、どのような実例がある のかといった情報があれば欲しい。 36 第55回小委員会資料より再掲 <参考>特許表示の活用可能性 ➢ 特許表示が積極的に行われるようになれば、他者の特許権に気づきやすくなるため、意図しない 侵害を予防する効果が期待できる。 ➢ 特許表示は、侵害抑止の他に、マーケティング効果や企業間のパートナーシップ創出効果等の副 次的効果があり、知財を活用した経営戦略の一つとしても注目されている。 特許表示の侵害抑止効果 ✓ 特許表示が積極的に行われるようになれば、他者の特許権に 気づきやすくなる者がアンケート回答者の約75%に上る。 ✓ 気づきやすくなる理由として、競合他社の製品はチェックし ているため、特許表示があれば権利を発見できるという意見 が多かった(回答数113)。 ✓ 企業ヒアリングでも特許表示が侵害抑止に効果を奏したとい う声が複数あった。 特許表示等が積極的に行われるようになれば、他社の特許権に 気付きやすくなると思いますか?(回答者数461) 0 50 100 気付きやすくなる 150 200 154 どちらかというと気付きやすくなる 190 どちらかというと変わらない 変わらない 78 39 ◆ 過去に製品に特許表示を行った際、以前から侵害の疑惑を持っていた他者製品の疑惑部分が設計変更された事例がある。 ◆ 特許表示を行い、営業でも権利をアピールしていた製品について、他社の製品が当社の権利を意識的に回避した設計となっ ていた事例がある。侵害抑止の観点から特許表示に一定の効果があったと感じた。 ✓ 海外ヒアリングでは、特許表示の活用が多い英国・米国では特許表示がある場合の方が特許権を回避する傾向 が強く、侵害件数や訴訟件数も少ない傾向にあるとの意見があった。 特許表示の副次的効果 ✓ 特許表示がBtoC・BtoBの購買意欲の上昇への効果があり、特許権取得のアピール(プレスリリース)が上場 企業の株価上昇に影響を与えるとする研究結果がある。 ✓ 企業ヒアリングでは、技術力のアピールや製品の広告宣伝効果を感じるとの声が多数聴取された。 ✓ 特許表示が契機となり、ライセンス契約先・協力会社・共同開発先の発見に繋がり、企業間の共創関係の構築 に至った例もあった。 37 実態調査結果のまとめ/御議論いただきたい事項 ➢ 実態調査の結果、多くの企業が他者特許権を侵害しないための取組を行っているものの、警告等を 受けた事業実施者側の事情としては、クリアランス調査における確認漏れに加え、権利回避の成否、 技術的範囲の解釈や無効理由の有無等を巡り、権利者と事業実施者との間で見解の相違があったこ とも確認された。 ➢ 一方で、特許権侵害を肯定した裁判例の中には、極めて悪質である、故意に不正使用した等と判決 で認定された、悪質な侵害事案が確認され、また、海外企業からの悪質な侵害事案も複数聴取され ている。 ➢ 権利侵害への対応手段に関し、侵害者利益に基づく損害額の算定規定である特許法第102条第2項 については、侵害者の手元に一定の利益が残り得るといえる。 ➢ 特許表示については、侵害の予防に資する可能性がある一方、企業実務上は、製品特性や表示の管 理負担等を踏まえ、選択的に活用されている実態が確認された。 ➢ 裁判外紛争解決手続(ADR)については、利用経験がないとする回答が多数を占めており、制度 の具体的内容や利用上のメリット等に関する認知度が十分でないことが課題として示された。 本日御報告した実態調査の結果等に関する御意見を伺いたい。 こうした状況はどのように考えられるか、いかなる対応が考えられるか。 38 4.次回の特許制度小委員会について(予定) 39 次回の特許制度小委員会について(予定) ➢ 開催予定時期 • 令和8年秋頃(予定) ➢ 御議論いただく内容 • 国際的な事業活動におけるネットワーク関連発明等の適切な権利保護、AI技術の発達を踏まえた 特許制度上の適切な対応及び知的財産の侵害抑止へ向けた取組について、これまでにいただいた御 指摘を踏まえて引き続き御議論いただく予定。 ※議題は変更させていただく可能性がある。 40
産業構造審議会 知的財産分科会 特許制度小委員会 第56回 議事録・配布資料全文 | PPPT