議事録
時・令和4年12月23日(金)
於・特許庁特別会議室+Teams会議室
産業構造審議会知的財産分科会
第11回商標制度小委員会速記録
特
許
庁
目
次
1.開
会
…………………………………………………………………………1
2.議
事
…………………………………………………………………………2
報告書案の提示
…………………………………………………………………………2
3.閉
会
…………………………………………………………………………13
開
○松本制度審議室長
会
定刻になりましたので、ただいまから産業構造審議会知的財産分科
会第11回商標制度小委員会を開会いたします。
本日は御多忙の中、御出席を賜りまして、誠にありがとうございます。
早速ではございますが、本日の議事進行につきましては田村委員長にお願いしたいと思
います。どうぞよろしくお願いいたします。
○田村委員長
ありがとうございます。議事に移る前に、委員の出欠状況及び定足数等に
つきまして、事務局から御説明をお願いいたします。
○松本制度審議室長
委員の皆様の出欠状況につきまして、本日は田村委員長、石井委員、
大向委員、齊藤委員、橋本委員、宮川委員におかれましては会議室から御出席、蘆立委員、
井関委員、國分委員、島並委員、高崎委員におかれましてはTeams会議室から御出席いた
だいております。本日は商標制度小委員会に所属する11名の全委員に御出席いただいてお
りますので、産業構造審議会運営規程第13条第6項に基づき、本日の委員会は成立となり
ます。
続きまして、配布資料の確認をさせていただきます。事前にデータでもお送りさせてい
ただいておりますが、座席表、議事次第、配布資料一覧、タブレットの使い方については
お手元に紙で配布させていただき、その他の資料についてはお手元のタブレットで御覧い
ただければと存じます。タブレットの使い方についてお困りの場合には、お席で挙手いた
だくなど合図していただければ、担当の者が対応いたしますので、よろしくお願いいたし
ます。
続きまして、議事の公開について、本小委員会では新型コロナウイルス対応のため、一
般傍聴及びプレスの傍聴につきましては、ウェブ傍聴に限って可能としております。また、
配布資料、議事要旨及び議事録も原則として公開いたします。
事務局からは以上となります。
○田村委員長
ありがとうございました。
-1-
議
事
報告書案の提示
○田村委員長
それでは、議事に入ります。報告書案の提示について、資料1報告書案、
「商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて(案)」を基に、
事務局から御説明いただきます。よろしくお願いいたします。
○松本制度審議室長
それでは、資料1を御覧ください。タイトル「商標を活用したブラ
ンド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて(案)」となってございます。
1ページ、開催経緯を記載してございます。
2ページ、委員名簿を記載してございます。第9回のオブザーバーの方も記載をしてご
ざいます。
それから3ページに目次がございまして、4ページが「はじめに」でございます。「は
じめに」は、ビジネスの環境が大きく変化する中で、商標を活用したブランド戦略がより
一層重要な役割を果たすこととなる。大企業に加え、中小企業や新たに事業を始めるスタ
ートアップ企業に対しても商標を活用した更なるブランド戦略を支援していく必要がある
とともに、近年のビジネスの実情や企業の商標実務を踏まえ、時代に合わせた商標制度の
見直しが求められている。また、2022年6月の特許庁政策推進懇談会取りまとめについて
も言及をしてございます。本小委員会では、商標を活用したブランド戦略展開に資するも
のとして、主として他人の氏名を含む商標の登録要件緩和、コンセント制度の導入、
Madrid e-Filingにより商標の国際登録出願をする際の本国官庁手数料の納付方法の変更
について検討を行ってきたと記載をしてございます。
続きまして、「他人の氏名を含む商標の登録要件緩和」につきまして、根岸室長から御
説明いたします。
○根岸商標制度企画室長
それでは、5ページから17ページまで、商標制度企画室の根岸
から御説明させていただきます。
5ページから、1「他人の氏名を含む商標の登録要件緩和」についてでございます。
(1)「現行制度の概要」です。①「商標法4条1項8号について」。構成中に他人の氏名
等を含む商標は、同号に該当し、当該他人の承諾がない限り、商標登録を受けることがで
きない。本規定の趣旨は、他人の人格的利益の保護にあるとされている。
-2-
②「裁判所における判断、解釈について」。近時の裁判例において、本規定は厳格に解
釈されており、他人の氏名の知名度、出願人の知名度の有無等は考慮されず、文言どおり
商標の構成中に他人の氏名を含むかどうかで同号該当性を判断している。
以下として、本規定に関する主な裁判例を掲載しています。
6ページを御覧ください。③「現行の審査運用について」。本規定は近時の裁判例にお
いて厳格に解釈されているところ、これを受け、特許庁の審査・審判実務においても、同
様の判断が行われている。その結果、従来は登録が認められていた、構成中に氏名を含む
商標について、近年、同一人による同一の氏名に係る商標の出願が拒絶される、という事
態が生じている。
以下として、本規定の解釈の厳格化が顕著になって以降、審査で出願が拒絶された主な
事例を掲載しています。
7ページを御覧ください。(2)「現行制度の課題」です。①「氏名ブランドの保護の要
請と国際的な制度調和について」。現行制度に対しては、創業者やデザイナー等の氏名を
ブランド名に用いることの多いファッション業界を中心に、本規定の要件緩和の要望があ
る。また、氏名を含む商標が採用されることの多いファッションブランドの多くは中小企
業が展開するものであるところ、そのような中小・スタートアップ企業のブランド保護の
観点からも、本規定を整備する必要がある。さらに、諸外国では他人の氏名の知名度を要
件とする制度が設けられているところ、国際的な制度調和の観点からも、本規定の見直し
が求められている。
②「調査研究の概要について」。前述のとおり、近時、構成中に氏名を含む商標の出願
が拒絶される傾向にあるところ、学識者・ユーザー等からは、氏名を含むブランド名の保
護に欠けるとの指摘を受けている。そこで、令和3年度に調査研究が行われたところ、
(ア)本規定が他人の人格的利益を過度に保護し過ぎている印象がある等の学識経験者か
らの指摘、(イ)ファッション業界を中心に、ブランド戦略上、氏名商標は必要不可欠で
ある等のニーズ、(ウ)諸外国において、他人の氏名の知名度を要件とする制度が導入さ
れていること等の結果が得られている。
(3)「本小委員会での検討」です。①「議論の概要」。現行制度の課題を踏まえて、事務
局から、本規定の趣旨を変えることなく、本規定の他人の氏名に一定の知名度の要件を課
す方向での法改正を検討することの提案がされたところ、本小委員会においては、本規定
で保護すべき人格的利益の範囲、知名度の要件を課すことと本規定の趣旨である人格的利
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益の保護との整合性、一定の知名度の具体的な判断内容、無関係な者による悪意の出願等
の濫用的な出願への対応等を主な論点として検討を行った。
8ページを御覧ください。なお、憲法及び民法上の人格的利益の考え方に関して意見を
伺うため、オブザーバーとして、大日方信春教授、山本敬三教授、米村滋人教授を迎えた
上で検討を行った。
②「主な論点について」。(ア)「本規定の趣旨である人格的利益の保護について」。本規
定の趣旨は、他人の人格的利益の保護にあるとされているが、マツモトキヨシ音商標事件
判決において、出願人の商標登録を受ける利益と他人の氏名等に係る人格的利益の調整を
図る趣旨の規定である旨判示されたところである。
そこで、事務局から、現行制度に係る課題は、出願人の商標登録を受ける利益より、他
人の氏名に係る人格的利益が過度に優先された結果、生じているものとした上で、他人の
人格的利益の保護という本規定の趣旨を変更することなく、出願人の商標登録を受ける利
益と他人の氏名に係る人格的利益との調整方法を見直すことが妥当ではないか、本規定の
保護する人格的利益を、出願に係る指定商品・役務と氏名とを結びつけられることによる
弊害又は不利益を受けない権利と整理できるのではないか、その前提にあって、他人の知
名度が高ければ、特定の商品・役務と氏名とを結びつけられることによる弊害又は不利益
が大きくなるところ、本規定の他人の氏名に一定の知名度の要件を課す方向で、法改正を
検討すべきではないか、とする提案があり、本小委員会では、これらについて検討を行っ
た。
本小委員会において、現行制度は、他人の氏名に係る人格的利益が過度に保護されてい
ること、指定商品・役務と氏名との結合により特定の人が想起されなければ、氏名権は侵
害されないとして商標登録を認めることは、調整の在り方として是認されること、氏名に
まつわる感情侵害を防止する法益が憲法上のものとされるとしても、適切な制約は許され
ること、他人の氏名に一定の知名度の要件を設けることについては、憲法学上の見地から
も違和感がないこと等の意見があり、出願人の商標登録を受ける利益と他人の氏名に係る
人格的利益との調整のため、本規定の他人の氏名に一定の知名度の要件を課す方向で、意
見が一致した。
また、一定の知名度を要件として課すことに関し、本規定の趣旨、保護する利益、対象
については、(i)人格的利益として氏名にまつわる感情侵害の防止にあるとする意見、
(ⅱ)パブリシティ権の保護対象である顧客吸引力を有する者のみとすると狭過ぎるとする
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意見、(ⅲ)パブリシティ権やアイデンティティに係る人格的利益との衝突が回避可能か整
理すべきとする意見、(ⅳ)著名な氏名をフリーライドする場面に限定してよいとする意見
があった。これらの意見を踏まえつつ、出願人側の事情を考慮することも含め、更に制度
設計を検討した結果、人格的利益の保護という本規定の趣旨については、変更しない方向
で取りまとめを行った。
9ページを御覧ください。(イ)「『一定の知名度』の要件について」。求める知名度の程
度について、著名とするか、又は需要者の間に広く認識されている、いわゆる周知とする
かなどや、知名度の判断基準となる需要者の範囲について、指定商品・役務の需要者に限
定せず、指定商品・役務を中心として、ある程度幅を持った需要者とするか等の詳細につ
いては、今後、法制化に際して検討を深めるとともに、審査基準ワーキンググループにお
いて審議していくこととなった。
(ウ)「無関係な者による出願等の濫用的な出願への対応について」。本規定に一定の知
名度の要件を設けた場合、一定の知名度のない氏名を含む商標については、無関係な者に
よる悪意の出願等の濫用的な出願を許すこととなり、他人の人格的利益が侵害されるおそ
れがあると考えられるところ、現行の3条1項柱書や4条1項7号等の不登録事由で、濫
用的な出願の全てのケースに対応することができるのか、出願人側の事情を考慮すること
を可能とすべきではないか、との意見があった。
そこで、本規定については、他人の氏名に一定の知名度の要件を課すことに加え、他人
の氏名を含む出願について、出願人側の事情、例えば出願することに正当な理由があるか
等を考慮する要件を課すことが適当である、との意見で一致した。
出願人側の事情の考慮要素の想定例は、脚注4に掲載しておりますが、詳細については、
今後、法制化に際して検討を深めるとともに、審査基準ワーキンググループにおいて審議
していくこととなった。
(エ)「その他の検討事項について」。本規定には、他人の肖像又は名称を含む場合にも、
当該他人の承諾を得ない限り商標登録を受けることができない旨規定されているところ、
いずれについても氏名と同程度の改正のニーズが確認されていないため、現時点において
改正の必要性は必ずしも高いものではない、と考えられるところ、本小委員会において、
反対の意見はなかった。
10ページを御覧ください。また、本規定の改正後においても、自己の氏名を不正競争の
目的なく、普通に用いられる方法で表示して使用する場合は、その氏名の知名度に関わら
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ず商標権の効力を及ぼすべきでないことから、26条1項1号及び2項については、改正の
必要性はないと考えられるところ、これに対しても反対の意見はなかった。
なお、本規定の改正に伴い、現行の本規定との関係で登録が困難な、氏名を含む商標を
使用している者の利益が不当に害されないよう、継続的使用権等を認めるか否かについて
も、今後、検討を深める必要がある。
(4)「まとめ」です。出願人の商標登録を受ける利益と他人の氏名に係る人格的利益と
の調整のため、本規定の他人の氏名に一定の知名度の要件を設けること、また、無関係な
者による悪意の出願等の濫用的な出願の防止のため、出願人側の事情、例えば、出願する
ことに正当な理由があるか、などを考慮する要件を課すことが適当である。
見直し後の本規定の趣旨も、現行法と同様、他人の氏名に係る人格的利益を保護するこ
とにある。
一定の知名度の要件と出願人側の事情を考慮する要件との関係性については、(i)他人
の氏名が一定の知名度を有する場合には、人格的利益の侵害の蓋然性が高いと考えられる
ことから、出願人側の事情のいかんを問わず、出願が拒絶されることとなり、(ⅱ)他人の
氏名が一定の知名度を有しない場合は、出願人側の事情を考慮することで、他人の人格的
利益が侵害されるような濫用的な出願は拒絶されることとなる。これにより、一定の知名
度を有する他人の人格的利益のみならず、一定の知名度を有しない他人の人格的利益につ
いても考慮されることになるため、他人の人格的利益の保護という本規定の趣旨が、制度
設計において適切に反映されていると考えられる。なお、本規定は、人格権に由来する権
利の一内容を構成するもの、と位置づけられているパブリシティ権をも保護するものであ
る。
また、一定の知名度の程度や知名度の判断基準となる需要者の範囲、及び出願人側の事
情を考慮する要件の詳細については、本規定の趣旨及び本小委員会における議論を踏まえ
つつ、法制化に際して更に検討を行うとともに、審査基準ワーキンググループにおいて具
体的に検討を深める必要がある。
「他人の氏名を含む商標の登録要件緩和」については、以上のように取りまとめを作成
しました。
引き続き、11ページを御覧ください。2「コンセント制度の導入」についてでございま
す。
(1)「現行制度の概要」です。①「商標法4条1項11号について」。同号により、出願に
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係る商標が他人の先行登録商標と同一又は類似であり、かつ、当該出願に係る指定商品・
役務と先行登録商標に係る指定商品・役務とが同一又は類似する場合には、当該出願は登
録を受けることができない。本規定の趣旨は、商品又は役務の出所の混同防止にあるとさ
れている。
②「諸外国で導入されているコンセント制度の概要」。コンセント制度とは、本規定に
該当する場合であっても、先行登録商標の権利者による同意があれば両商標の併存登録を
認める制度のことをいう。既に多くの国・地域で導入されており、グローバルなコンセン
ト契約を結ぶ場合もあるところ、我が国において同様の手続がないことから、海外ユーザ
ーによる日本での商標登録の障壁となっている、との意見がある。
(2)「現行制度の課題」です。①「過去の検討経緯」。我が国においては、これまでも同
制度の導入について議論されてきたところであるが、単に当事者間で合意がされただけで
は、併存する商標について、需要者が商品又は役務の出所について、誤認・混同するおそ
れを排除できないことや、現行制度においてもアサインバックの存在、運用の範囲内での
対応の余地があったことから、今日まで導入されていない。
参考として、特許庁政策推進懇談会の報告書までの検討経緯について掲載しております。
12ページを御覧ください。②「運用による対応の限界について」。平成29年に導入され
た商標審査基準における運用、「商品又は役務の類否判断における取引の実情の考慮につ
いて」、及び「出願人と引用商標権者に支配関係がある場合の取扱い」は、後者が認めら
れた事例は500件超あるものの、前者が認められた事例はわずか1件にとどまるところ、
いずれもユーザーにとって利用しにくい場面があることが確認されている。
13ページを御覧ください。③「ユーザーニーズへの対応について」。我が国においては
コンセント制度が存在せず、商標同士が類似することを前提に併存登録を求める場合には、
アサインバックの手法が用いられてきたところ、その際には、権利の一時的な移転に伴う
リスクや、金銭的・手続的負担があることから、中小企業を含むユーザーからは、より簡
便・低廉なコンセント制度の導入を望む声がある。また、諸外国にはコンセント制度が存
在する一方で、我が国には同制度がないため、海外の顧客に対してアサインバックの説明
を行う必要があり、それに伴うトラブルが生じることもあるため、早期の対応を求める声
も寄せられている。
(3)「本小委員会での検討」です。①「議論の概要」。現行制度の課題やニーズを踏まえ
て、事務局から、制度導入に向けた検討を進めることの提案がされたところ、本小委員会
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においては、国際的な制度調和の観点から、制度導入におおむね賛成の意見があったほか、
留保型、完全型といった制度の類型の整理や、コンセントにより登録されたものであるこ
とのJ-PlatPat等による公示の必要性、過去の検討経緯における導入見送りの理由に関す
る検討の必要性について意見があった。他方、需要者の利益の保護を念頭に、アサインバ
ックの規制の必要性、各国の商標制度の独自性等の観点も踏まえ、制度導入に反対する意
見もあった。これらを踏まえて、コンセント制度導入の検討に当たって、以下の論点につ
いて整理された。
②「主な論点」。(ア)
「制度導入に当たり本規定の適用除外規定を設けることについて」。
事務局から、商標法に新たな規定を設け、所定の場合には、本規定の適用を除外する制度
とする提案があり、本小委員会ではこれについて検討を行った。
14ページを御覧ください。本規定の趣旨は、出所の混同防止にあるところ、登録時のみ
ではなく、登録後においても、出所混同の防止を担保できる制度を採用することで、本規
定の除外規定を設けることに一定の合理性を認めることができる。また、本規定には、商
標権者の権利保護の側面もあるという見解もあるところ、先行登録商標の権利者の同意が
存在することで、適用を除外することの理由になり得る、と整理された。
(イ)「需要者の利益の保護」。商標法の目的の一つとして、需要者の利益の保護を掲げ
ているが、本小委員会において、制度導入を求めているのは商標制度を利用している権利
者や商標権を取得しようとしている者であって、需要者の意見が反映されていないとする
意見があったことも踏まえ、需要者の利益の保護をどのように図っていくかについて議論
したところ、権利者による同意があっても、なお出所混同のおそれがある場合には登録を
認めない留保型コンセント制度を採用し、登録時に出所混同のおそれを審査するとともに、
登録後においては、混同防止表示の請求、不正使用取消審判の請求を可能にすることで、
需要者の利益の保護を担保することができる、と整理された。
なお、脚注9に、設定登録前のアサインバックにより併存登録された商標についても、
混同防止表示の請求や不正使用取消審判の請求を可能とすべき点について掲載し、脚注10
に、審査における考慮要素の例、及び将来変動する可能性が高い事情はその考慮要素とは
ならない旨を掲載しております。
15ページを御覧ください。(ウ)「最高裁判決との関係整理」。過去の最高裁判決におい
ては、本規定の類否判断に際して考慮することのできる取引の実情は、一般的・恒常的な
事情に限られてきた。しかし、一般的・恒常的な事情に準じたものを考慮することで、実
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際には出所混同のおそれが生じないと言えるものも存在し得る。
そこで、本規定の類否判断の方法については維持したまま、法改正により、当事者間で、
将来にわたって、現在の使用状況等、当事者の合意によりコントロールが可能な事情を変
更しない旨の具体的な合意が行われていることにより、登録査定後に当該事情が変動しな
いことを担保できるような場合には、これを一般的・恒常的な事情に準じたものとして、
本規定の類否判断の枠外において考慮することが許される、と整理された。
さらに、本規定との関係では互いに類似する商標であっても、当該事情を考慮した上で、
登録時及び登録後において、具体的に出所混同のおそれが生じないと判断される場合には、
本規定の適用を除外する規定を設けて、登録を認めることが許されること、あわせて、登
録後、実際に出所混同のおそれが生じた場合に備えて、混同防止表示の請求や取消審判請
求の規定を設けることで、コンセント制度全体として、一定の合理性を持たせることがで
きることとされた。
16ページを御覧ください。(エ)「コンセントにより登録されたことの公示について」。
本小委員会においては、コンセント制度により登録された商標について、その事実が容易
に把握できるよう、J-PlatPat等で併存関係を確認できるようにするべきとの意見があっ
た。ユーザーからの要請や、同制度に対する需要者の懸念緩和の観点からも、J-PlatPat
等で公示を行う方向で調整を進めるとともに、そのようなシステム改修等に時間を要する
場合には、特許庁ホームページにおいて公表する等の代替措置を行うべきであると整理さ
れた。
(4)「まとめ」です。コンセント制度導入に関しては、反対の意見もあったが、制度設
計において、需要者の利益の保護が十分に担保されること、近年、制度導入に関するユー
ザーニーズが高まっていること、国際的な制度調和の要請があることなどを踏まえ、我が
国においてコンセント制度を導入することが適当である、という意見が多数であり、おお
むね賛同が得られたことから、本小委員会としては導入を進める方向で取りまとめを行っ
た。
17ページを御覧ください。その制度設計に当たっては、需要者の利益の保護が十分に担
保されるよう、先行登録商標の権利者の同意があっても、なお出所混同のおそれがある場
合には登録を認めない留保型コンセントの導入が適当である。また、登録後に出所混同の
おそれが生じた場合や、実際に不正競争の目的によって出所混同が生じた場合に備え、混
同防止表示の請求や不正使用取消審判の請求の規定を設けることが適当である。
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なお、審査における出所混同のおそれの有無の判断に関する具体的な考慮要素等、詳細
については、本小委員会の議論を踏まえつつ、審査基準ワーキンググループにおいて具体
的に検討を深める必要がある。
コンセント制度の導入については、以上のように取りまとめを作成いたしました。
〇鈴木国際意匠・商標出願室長
続きまして、18ページにつきまして、国際意匠・商標出
願室の鈴木から御説明させていただきます。
3「Madrid e-Filingにより商標の国際登録出願をする際の本国官庁手数料の納付方法
の変更」についてでございます。(1)の「現行制度の概要」ですが、マドリッド議定書に
基づき、日本国特許庁に国際登録出願を行う場合、出願人は国際事務局が定める基本手数
料、指定国ごとに定める個別手数料をスイスフランにて国際事務局へ、本国官庁手数料に
ついては特許印紙等により特許庁へ納付する必要がございます。
従来、日本国特許庁を本国官庁として国際登録出願を行う方法は書面手続のみでしたが、
令和4年6月から、書面手続に加えまして、国際事務局が提供するMadrid e-Filingシス
テムにより、電子出願が可能となりました。このシステムは国際事務局のサーバー上で願
書の作成、提出等が可能であるほか、国際事務局に納付すべき基本手数料、個別手数料に
加えて、本国官庁手数料も国際事務局に対してスイスフランで一括して納付することがで
きる機能を備えております。
(2)の「現行制度の課題」ですが、現行法上、本国官庁手数料は特許庁に納付しなけれ
ばならないとされていることから、e-Filingにより出願をする場合、出願手続きと基本手
数料、個別手数料の納付とは別に特許庁への本国官庁手数料の納付手続として、特許印紙
を貼付した書面の提出等が必要となり、電子出願の利便性を十分に享受できない状況とな
っております。
(3)の「本小委員会での検討」ですが、本国官庁手数料について、出願人がe-Filingを
利用して国際登録出願をしようする場合に限り、他の手数料と一括でスイスフランにより
国際事務局へ納付することを可能とする納付方法の変更について御審議いただき、委員の
皆様の賛同をいただきました。
したがいまして、(4)の「まとめ」といたしまして、本小委員会で検討いただきました
内容を踏まえ、商標法について、所要の手当をすることが適当であるとさせていただきま
した。
私からは以上です。
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〇松本制度審議室長
続いて4「特許制度小委員会で審議された検討課題について」です。
20ページを御覧ください。特許制度小委員会において審議された送達制度の見直し、書
面手続デジタル化の課題について、商標制度にも関わる論点であることから、対応の方向
性について報告を受け、検討を行った。検討の結果、いずれの方向性についても全ての委
員の賛同を得たと記載してございます。
21ページ、「おわりに」です。ビジネス環境が大きく変化していく中において、事業者
のブランド戦略を支援していくためには、時代に合わせた商標制度の見直しが必要である。
商標制度の見直しを行うに当たっては、ユーザーの意見を踏まえつつ、需要者の利益の保
護に十分に留意した制度設計を図っていく必要がある。今後も取り巻く環境の変化に応じ
て、商標制度の在り方について検討していくことが望ましいと結論づけ、本小委員会にお
いて提言するものでございます。
以上です。
〇田村委員長
ありがとうございました。ただいまの事務局からの御説明に関して、御意
見、御質問等のある方はいらっしゃいますでしょうか。御発言いただく際には、会議室に
いらっしゃいます方は挙手いただきまして、御指名されましたら、事務局からマイクをお
受け取りいただき、御発言ください。またオンラインにて御出席の皆様につきましては、
チャット欄に発言希望の旨を御記入ください。書き込みを見て御指名いたしますので、御
発言いただく際にはマイクをオンにしていただきますよう、お願いいたします。それでは
御意見、御質問のある方はよろしくお願いいたします。齊藤委員、よろしくお願いします。
〇齊藤委員
質問というよりはコメントという感じになりますが、まずは、今回、このよ
うな機会を設けていただきまして、ありがとうございました。日本知財協会、知財ユーザ
ー団体の代表として、また一ユーザーとしてコメントをさせていただきます。
知財協会(JIPA)では、本報告書のタイトルと内容との距離感について違和感を抱
く意見はありました。しかしながら、今回、4ページ目の「はじめに」の表現にて、そこ
のあたりを御考慮、修正いただいたことについて、感謝いたします。
また、ブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しとなると、ユーザー側にとっては、
今回、検討してきたテーマ以外にも優先順位の高い課題が多々ありまして、例えばメタバ
ースの出現により、ますます混雑が予想される第9類の整理などが商標実務に即した課題
になると考えております。ブランド戦略展開を一層円滑にするためには、こういった問題
も早々に解決するために取り組んでいかなければならないと考えております。
- 11 -
これらの課題については世界的にもリーダーシップを取って、解決できるものもあろう
かと思っておりますので、これまでのようなグローバルスタンダードに合わせるための改
定にとどまらず、海外制度が日本の先進的な新制度に合わせて改定していただけるような
制度づくりにも一緒に取り組ませていただきたいと考えている次第です。
最後になりますけれども、ブランドを意識したタイトルを掲げていただいたことは個人
的に高く評価させていただいております。私自身、日頃言及している、「ブランドは究極
の知的財産」ということに基づく知財活動が勇気づけられた思いでもあります。いかなる
優れた技術や特許技術であっても、ブランド戦略に基づく能動的なブランディング努力が
なければ、相応の経済効果に結び付けることは難しいと考えておりますので、今、国を挙
げて重要な一歩を踏み出したと考えております。いいものづくりをして、あとは放ってお
くのではなく、ポストイノベーション活動の重要性のメッセージになればと期待しており
ます。まさしく、“Do branding, Not be branded”だと思っております。知的財産として
の商標の重要性の認識が高まるよう、今後も支援させていただきたいと思っております。
委員の皆様、また事務局の皆様、本当にありがとうございました。
〇田村委員長
どうもありがとうございました。御質問というより御意見と承りました。
審議の効率性も鑑みまして、事務局からの応答に関しましては、一通り、皆様から御意
見、御質問を頂いてからにいたしたく思います。ほかに御意見、御質問等のある方はいら
っしゃいますでしょうか。――よろしいでしょうか。
それでは、もし事務局の方からお話がありましたら、お願いいたします。
〇根岸商標制度企画室長
御意見いただきまして、ありがとうございます。今後も商標制
度の課題、ブランド戦略に資するような課題について検討を続けてまいりたいと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。
〇田村委員長
どうもありがとうございました。ほか、よろしいでしょうか。
もしよろしいということでしたら、報告書案「商標を活用したブランド戦略展開に向け
た商標制度の見直しについて(案)」の方向性については御了解を得られたものと考えま
すが、御異議ございませんでしょうか。――ありがとうございます。
それでは、本委員会として、この方向性について御了解いただいたものと認めます。
報告書案につきましては、今後、パブリックコメントを開始したいと思います。なお、
パブリックコメントに付すに当たって、技術的修正などが必要になった場合につきまして
は、委員長である私に一任いただければと思いますが、皆様、御異議ございませんでしょ
- 12 -
うか。――ありがとうございます。
以上をもちまして、本日の議論を終了いたします。最後に今後のスケジュールについて
事務局から御説明をお願いいたします。
〇松本制度審議室長
御審議いただきまして、ありがとうございました。本報告書案につ
きましては、今後、仮に必要な修正がございましたら、委員長に御相談をした上で、1か
月程度の期間を確保して、パブリックコメントに付したいと思います。パブリックコメン
トを踏まえた報告書の取りまとめにつきましては、委員長と御相談の上、おって皆様に御
連絡させていただきます。
○田村委員長
ありがとうございました。
それでは、以上をもちまして産業構造審議会知的財産分科会第11回商標制度小委員会を
閉会いたします。本日はありがとうございました。
閉
会
- 13 -
資料1
産業構造審議会知的財産分科会
第11回商標制度小委員会
議事次第・配布資料一覧
日
時:令和4年12月23日(金)16時00分開会
会
場:特許庁庁舎16階特別会議室+Teams会議室
(議事次第)
1.開会
2.報告書案の提示
3.閉会
(配布資料)
議事次第・配布資料一覧
委員名簿
資料1 商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて(案)
資料2
令和4年12月23日
第11回商標制度小委員会
産業構造審議会
知的財産分科会
商標制度小委員会
委員名簿
蘆立
順美
東北大学大学院法学研究科
教授
石井
美緒
日本大学商学部
井関
涼子
同志社大学法学部
大向
尚子
西村あさひ法律事務所
國分
隆文
東京地方裁判所(知的財産権部)
齊藤
浩二
日本知的財産協会
准教授・弁護士
教授
パートナー弁護士
部総括判事
常務理事・商標委員会担当
株式会社アシックス法務・知財統括部
委員長
島並
良
神戸大学大学院法学研究科
教授
高崎
充弘
株式会社エンジニア
田村
善之
東京大学大学院法学政治学研究科
橋本
千賀子
日本弁理士会
代表取締役社長
執行理事
弁理士法人酒井国際特許事務所
宮川
美津子
教授
商標部
部長・弁理士
日本弁護士連合会知的財産センター意匠・商標・不競法 PT
TMI 総合法律事務所
座長
パートナー弁護士
(敬称略、五十音順)
資料3
商標を活用したブランド戦略展開に向けた
商標制度の見直しについて(案)
令和 4 年 12 月 23 日
産業構造審議会
知的財産分科会
商標制度小委員会
産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会の開催経緯
本小委員会においては、他人の氏名を含む商標の登録要件緩和、コンセント
制度の導入を始め、商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の課題
について、検討を行った。
第 9 回小委員会 令和 4 年 9 月 29 日(木)
議事 (1)商標審査の現状について
(2)当面の検討課題について
(3)他人の氏名を含む商標の登録要件緩和について
(4)コンセント制度の導入について
(5)Madrid e-Filing により商標の国際登録出願をする際の本国官庁手
数料の納付方法の変更について
第 10 回小委員会 令和 4 年 11 月 22 日(火)
議事 (1)他人の氏名を含む商標の登録要件緩和について
(2)コンセント制度の導入について
(3)送達制度の見直しについて
(4)書面手続デジタル化について
第 11 回小委員会 令和 4 年 12 月 23 日(金)
議事 報告書案の提示
1
産業構造審議会
知的財産分科会
委員名簿
商標制度小委員会
蘆立
順美
東北大学大学院法学研究科
教授
石井
美緒
日本大学商学部
井関
涼子
同志社大学法学部
大向
尚子
西村あさひ法律事務所
國分
隆文
東京地方裁判所(知的財産権部)
齊藤
浩二
日本知的財産協会
准教授・弁護士
教授
パートナー弁護士
部総括判事
常務理事・商標委員会担当
株式会社アシックス法務・知財統括部
委員長
島並
良
神戸大学大学院法学研究科
教授
高崎
充弘
株式会社エンジニア
田村
善之
東京大学大学院法学政治学研究科
橋本
千賀子
日本弁理士会
代表取締役社長
執行理事
弁理士法人酒井国際特許事務所
宮川
美津子
商標部
部長・弁理士
日本弁護士連合会知的財産センター意匠・商標・不競法
PT
座長
TMI 総合法律事務所
オブザーバー(令和 4 年 9 月 29 日
大日方
教授
信春
パートナー弁護士
第 9 回)
熊本大学大学院人文社会科学研究部(法学系)
山本
敬三
京都大学大学院法学研究科
米村
滋人
東京大学大学院法学政治学研究科
教授
教授
教授
(敬称略、五十音順)
2
目次
はじめに ............................................................ 4
1.他人の氏名を含む商標の登録要件緩和 ............................... 5
2.コンセント制度の導入 ............................................ 11
3.Madrid e-Filing により商標の国際登録出願をする際の本国官庁手数料
の納付方法の変更 ................................................ 18
4.特許制度小委員会で審議された検討課題について .................... 20
おわりに ........................................................... 21
3
はじめに
事業者は、自らの商品又はサービスと他者の商品又はサービスとの差別化を
図るべく、
「商標」を活用したブランド戦略を展開しているが、近年のデジタル
化・グローバル化の進展に伴い、ビジネスの環境が大きく変化し、市場における
競争が激化する中で、需要者が取り得る商品・サービスにおける選択の幅も広が
っている今日においては、
「商標」を活用したブランド戦略がより一層重要な役
割を果たすこととなる。
そのため、既に知財戦略等に取り組んでいる大企業に加え、中小企業や新たに
事業を始めるスタートアップ企業に対しても「商標」を活用した更なるブランド
戦略を支援していく必要があるとともに、近年のビジネスの実情や企業の商標
実務を踏まえ、時代に合わせた商標制度の見直しが求められている。
また、2022 年 6 月の特許庁政策推進懇談会とりまとめ「知財活用促進に向け
た知的財産制度の在り方」においても「他人の氏名を含む商標の登録要件緩和」、
「コンセント制度の導入」については、法改正の具体的内容について検討を深め
る必要があるとされた。
本小委員会では、商標を活用したブランド戦略展開に資するものとして、2022
年 9 月以降、主として「他人の氏名を含む商標の登録要件緩和」、
「コンセント制
度の導入」、
「Madrid e-Filing により商標の国際登録出願をする際の本国官庁手
数料の納付方法の変更」について検討を行ってきた。
本報告書は、上記小委員会における審議内容を取りまとめ、より多くのユーザ
ーに商標制度を活用していただくため、商標制度の見直しについて提言するも
のである。
4
1.他人の氏名を含む商標の登録要件緩和
(1)現行制度の概要
①商標法第 4 条第 1 項第 8 号について
構成中に他人の氏名等を含む商標は、商標法第 4 条第 1 項第 8 号1(以下、
本項において「本規定」という。)に該当し、当該他人の承諾がない限り、商
標登録を受けることができない。本規定の趣旨は、他人の人格的利益の保護に
あるとされている2。
②裁判所における判断、解釈について
近時の裁判例において、本規定は厳格に解釈されており、
「他人の氏名」の
知名度、出願人の知名度の有無等は考慮されず、文言どおり商標の構成中に
「他人の氏名」を含むかどうかで同号該当性を判断している。本規定に関する
主な裁判例については、以下のとおりである。
事件名/事件番号/訴訟
に係る商標
説示要旨
1
LEONARD KAMHOUT 事件
最高裁 2004 年 6 月 8 日判
決(平成 15(行ヒ)第 265
号)
争われた商標:商願平 1090342 号
「LEONARD KAM
HOUT」
(商標法第 4 条第 1 項第 8 号は)括弧書以外の部分に
列挙された他人の肖像又は他人の氏名、名称、その著名
な略称等を含む商標は、括弧書にいう当該他人の承諾
を得ているものを除き、商標登録をできないとする規
定である。その趣旨は、肖像、氏名等に関する他人の人
格的利益を保護することにあると解される。
2
山岸一雄大勝軒事件
知財高裁 2016 年 8 月 10
日判決(平成 28(行ケ)第
10065 号)
争われた商標:商願 201390519 号「山岸一雄大勝
軒」
山岸一雄事件
知財高裁 2016 年 8 月 10
日判決(平成 28(行ケ)第
10066 号)
争われた商標:商願 201390418 号「山岸一雄」
商標法第 4 条第 1 項第 8 号の趣旨やその規定ぶりから
すると、同号にいう「他人の氏名」が、著名又は周知な
ものに限られるとは解し難く、また、同号の適用が、他
人の氏名を含む商標の登録により、当該他人の人格的
利益が侵害され、又はそのおそれがあるとすべき具体
的事情の証明があったことを要件とするものであると
も解し難い。
また、同号の趣旨は、上記のとおり、人の氏名に対する
人格的利益の保護にあるところ、この人格的利益の保
護の要否を、顧客吸引力の有無(周知性や著名性の有
無)により分けるというのも、同号が商品又は役務の出
所の混同のおそれを要件としていないことに照らし、
相当でない。
1
商標法第 4 条第 1 項第 8 号は、
「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な
雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得て
いるものを除く。
)
」を(第 4 条第 1 項の)不登録事由として掲げている。
2
工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第 22 版〕1553 頁。
5
3
4
KEN KIKUCHI 事件
知財高裁 2019 年 8 月 7 日
判決(平成 31(行ケ)第
10037 号)
争われた商標:商願 201769467 号
The Soloist.事件
知財高裁 2020 年 7 月 29
日判決(令和 2(行ケ)第
10006 号)
争われた商標:商願 2017126259 号
「TAKAHIROMI
YASHITAThe
Soloist.」
商標法第 4 条第 1 項第 8 号の趣旨やその規定ぶりから
すると、同号の「他人の氏名」が、著名性・希少性を有
するものに限られるとは解し難く、また、
「他人の氏名」
を含む商標である以上、当該商標がブランドとして一
定の周知性を有するといったことは、考慮する必要が
ないというべきである。
「雅号」、
「芸名」、
「筆名」及び「略称」については、
「著
名な」という限定が付されている一方で、
「他人の氏名」
及び「名称」についてはそのような限定が付されていな
い。同号は、氏名及び名称については著名でなくとも当
然にその主体である他人を指すと認識されることか
ら、当該他人の氏名や名称の著名性や希少性等を要件
とすることなく、当該他人の人格的利益を保護したも
のと解される。
③現行の審査運用について
前述のとおり、本規定は近時の裁判例において厳格に解釈されているとこ
ろ、これを受け、特許庁の審査・審判実務においても、同様の判断が行われて
いる。
具体的には、出願に係る商標や他人の周知性・著名性、氏名を表記する文字
種の相違(例えば、氏名の漢字表記に対するひらがな、カタカナ、欧文字表記)
等に関わらず、同名の他人(他人が複数存在する場合にはその全員)の承諾が
得られなければ商標登録をすることができないものとして出願が拒絶されて
いる。
その結果、従来は登録が認められていた、構成中に氏名を含む商標について、
近年、同一人による同一の氏名に係る商標の出願が拒絶されるという事態が
生じている。本規定の解釈の厳格化が顕著になって以降、本規定を理由に審査
で出願が拒絶された主な事例は以下のとおりである。
近年の拒絶事例
1
2
【参考】同一出願人の過去登録例
(商願 2018-146014 2020 年拒絶査定) (登録第 4293672 号 1999 年登録査定)等
「ヨウジヤマモト」
(商願 2019-23948 2020 年拒絶査定)
(登録第 5178088 号 2008 年登録査定)等
6
3
「ジュン アシダ」
(登録第 4258861 号 1999 年登録査定)
(商願 2020-160280 2021 年拒絶査定)
(登録第 4581301 号 2002 年登録査定)等
(2)現行制度の課題
①氏名ブランドの保護の要請と国際的な制度調和について
商標の構成中に「他人の氏名」を含む場合、当該他人の承諾がない限り、本
規定により拒絶されることとなるため、現行制度に対しては、創業者やデザイ
ナー等の氏名をブランド名に用いることの多いファッション業界を中心に、
本規定の要件緩和の要望がある。
また、氏名を含む商標が採用されることの多いファッションブランドの多
くは中小企業が展開するものであるところ、そのような中小・スタートアップ
企業のブランド保護の観点からも、本規定を整備する必要がある。
さらに、米国、欧州、中国及び韓国等の諸外国では、他人の氏名を含む商標
の登録について、他人の氏名の知名度を要件とする制度が設けられていると
ころ、国際的な制度調和の観点からも、本規定の見直しが求められている。
②調査研究の概要について
前述のとおり、近時の審査・審判・裁判においては、本規定が厳格に解釈さ
れ、構成中に氏名を含む商標の出願が拒絶される傾向にあるところ、学識者・
ユーザー等からは、氏名を含むブランド名の保護に欠けるとの指摘を受けて
いる。そこで、特許庁において、令和 3 年度に、国内外における他人の氏名等
を含む商標に関する制度等について調査研究が行われた3。
調査研究においては、
(ア)本規定が他人の人格的利益を過度に保護し過ぎ
ている印象がある等の学識経験者からの指摘、
(イ)ファッション業界を中心
に、ブランド戦略上、氏名商標は必要不可欠である等のニーズ、及び、(ウ)
米国、欧州、中国及び韓国等の諸外国において、他人の氏名を含む商標に関す
る制度として他人の氏名の知名度を要件とする制度が導入されていること等
の結果が得られている。
(3)本小委員会での検討
①本小委員会での議論の概要
現行制度の課題を踏まえて、事務局から本規定の趣旨を変えることなく、本
規定の「他人の氏名」に一定の知名度の要件を課す方向での法改正を検討する
ことの提案がされたところ、本小委員会においては、本規定で保護すべき人格
3
令和 3 年度 産業財産権制度各国比較調査研究等事業「他人の氏名等を含む商標に関する
調査研究報告書」
(令和 4 年 3 月 一般社団法人 日本国際知的財産保護協会)
https://www.jpo.go.jp/resources/report/takoku/document/zaisanken_kouhyou/2021_04
.pdf
7
的利益の範囲、知名度の要件を課すことと本規定の趣旨(人格的利益の保護)
との整合性、一定の知名度の具体的な判断内容、無関係な者による悪意の出願
等の濫用的な出願への対応等を主な論点として検討を行った。
なお、
「他人の氏名」に一定の知名度の要件を課す法改正の方向性について、
憲法及び民法上の人格的利益の考え方に関して意見を伺うため、オブザーバ
ーとして、憲法及び民法の学識経験者である熊本大学大学院人文社会科学研
究部(法学系) 大日方信春教授、京都大学大学院法学研究科 山本敬三教授、
東京大学大学院法学政治学研究科 米村滋人教授を迎えた上で、検討を行った。
②主な論点について
(ア)本規定の趣旨(人格的利益の保護)について
前述のとおり、本規定の趣旨は、他人の人格的利益の保護にあるとされて
いるが、知財高判令和 3 年 8 月 30 日(令和 2 年(行ケ)第 10126 号)
〔マツ
モトキヨシ音商標事件判決〕において、本規定は「出願人の商標登録を受け
る利益と他人の氏名、名称等に係る人格的利益の調整を図る趣旨の規定」で
ある旨判示されたところである。
そこで、事務局から、現行制度に係る課題は、出願人の商標登録を受ける
利益より他人の氏名に係る人格的利益が過度に優先された結果、生じてい
るものとした上で、他人の人格的利益の保護という本規定の趣旨を変更す
ることなく、出願人の商標登録を受ける利益と他人の氏名に係る人格的利
益との調整方法を見直すことが妥当ではないか、本規定の保護する人格的
利益を「出願に係る指定商品・役務と氏名とを結びつけられることによる弊
害又は不利益を受けない権利」と整理できるのではないか、その前提にあっ
て、他人の知名度が高ければ、特定の商品・役務と氏名とを結びつけられる
ことによる弊害又は不利益が大きくなるところ、本規定の「他人の氏名」に
一定の知名度の要件を課す方向で法改正を検討すべきではないか、とする
提案があり、本小委員会ではこれらについて検討を行った。
本小委員会において、現行制度は他人の氏名に係る人格的利益が過度に
保護されていること、指定商品・役務と氏名との結合により特定の人が想起
されなければ氏名権は侵害されないとして商標登録を認めることは人格的
利益との調整の在り方として是認されること、氏名にまつわる感情侵害を
防止する法益が憲法上のものとされるとしても適切な制約は許されること、
「他人の氏名」に一定の知名度の要件を設けることについては憲法学上の
見地からも違和感がないこと等の意見があり、出願人の商標登録を受ける
利益と他人の氏名に係る人格的利益との調整のため本規定の他人の氏名に
一定の知名度の要件を課す方向で意見が一致した。
また、他人の氏名に一定の知名度を要件として課すことに関し、本規定の
趣旨、保護する利益、対象について、
(i)人格的利益として氏名にまつわ
る感情侵害の防止にあるとする意見、
(ii)パブリシティ権の保護対象(顧
客吸引力を有する者)のみとすると狭すぎるとする意見、
(iii)パブリシテ
ィ権やアイデンティティに係る人格的利益との衝突が回避可能か整理すべ
きとする意見、
(iv)著名な氏名をフリーライドする場面に限定して良いと
8
する意見があった。これらの意見を踏まえつつ、後述(ウ)の出願人側の事
情を考慮することも含め、更に制度設計を検討した結果、人格的利益の保護
という本規定の趣旨については、変更しない方向で取りまとめを行った。
(イ)「一定の知名度」の要件について
一定の知名度の要件に関して、求める知名度の程度(本規定の「雅号」等
と同様の「著名」とするか、又は商標法第 4 条第 1 項第 10 号等に規定する
「需要者の間に広く認識されている」
(いわゆる「周知」)とするか等)や知
名度の判断基準となる需要者の範囲(指定商品・役務の需要者に限定せず、
指定商品・役務を中心としてある程度幅をもった需要者とするか等)の詳細
については、今後、法制化に際して検討を深めるとともに、商標制度小委員
会商標審査基準ワーキンググループにおいて審議していくこととなった。
(ウ)無関係な者による出願等の濫用的な出願への対応について
本規定に一定の知名度の要件を設けた場合、一定の知名度のない氏名を
含む商標については、無関係な者による悪意の出願等の濫用的な出願を許
すこととなり、他人の人格的利益が侵害されるおそれがあると考えられる
ところ、現行の商標法第 3 条第 1 項柱書(商標の使用の意思)や同法第 4 条
第 1 項第 7 号(公序良俗)等の不登録事由で濫用的な出願の全てのケース
に対応することができるのか、出願人側の事情を考慮することを可能とす
べきではないか、との意見があった。
そこで、本規定については、
「他人の氏名」に一定の知名度の要件を課す
ことに加え、
「他人の氏名」を含む出願について「出願人側の事情(例えば、
出願することに正当な理由があるか等)4」を考慮する要件を課すことが適
当である、との意見で一致した。
具体的な考慮要素等、詳細については、
(イ)と同様、今後、法制化に際
して検討を深めるとともに、商標制度小委員会商標審査基準ワーキンググ
ループにおいて審議していくこととなった。
(エ)その他の検討事項について
本規定には、他人の「肖像」又は「名称」を含む場合にも当該他人の承諾
を得ない限り商標登録を受けることができない旨規定されているところ、
肖像については、個人との結びつきの強さ(氏名のような偶然の一致が考え
にくいこと)から氏名と同様の緩和の必要性は低く、また、名称については、
氏名との性質の違いから、自然人の氏名と同様の保護を認める必要性は低
いといえる。いずれについても、氏名と同程度の改正のニーズが確認されて
4
「出願人側の事情」考慮要素の想定例
・出願人と商標に含まれる氏名との関連性(出願商標中に含まれる他人の氏名が、出願人
の自己氏名、創業者や代表者の氏名、既に使用している店名である場合等)
。
・出願人の目的・意図(他人への嫌がらせの目的の有無、先取りして商標を買い取らせる
目的の有無等)
。
9
いないため、現時点において改正の必要性は必ずしも高いものではないと
考えられるところ、本小委員会において、反対の意見はなかった。
また、本規定の改正後においても、自己の氏名を不正競争の目的なく普通
に用いられる方法で表示して使用する場合は、その氏名の知名度にかかわ
らず商標権の効力を及ぼすべきでないことから、商標法第 26 条第 1 項第 1
号及び第 2 項については、改正の必要性はないと考えられるところ、これ
に対しても反対の意見はなかった。なお、本規定の改正に伴い氏名を含む商
標(現行の本規定との関係で登録が困難なもの)を使用している者の利益が
不当に害されないよう、継続的使用権等を認めるか否かについても、今後、
検討を深める必要がある。
(4)まとめ
出願人の商標登録を受ける利益と他人の氏名に係る人格的利益との調整の
ため、本規定の「他人の氏名」に一定の知名度の要件を設けること、また、無
関係な者による悪意の出願等の濫用的な出願の防止のため、出願人側の事情
(例えば、出願することに正当な理由があるか等)を考慮する要件を課すこと
が適当である。
見直し後の本規定の趣旨も、現行法と同様、他人の氏名に係る人格的利益を
保護することにある。一定の知名度の要件と出願人側の事情を考慮する要件
との関係性については、
(i)商標に含まれる他人の氏名が一定の知名度を有す
る場合には、人格的利益の侵害の蓋然性が高いと考えられることから、出願人
側の事情のいかんを問わず、本規定により出願が拒絶されることとなり、
(ii)
商標に含まれる他人の氏名が一定の知名度を有しない場合は、出願人側の事
情を考慮することで、他人の人格的利益が侵害されるような濫用的な出願は
拒絶されることとなる。これにより、一定の知名度を有する他人の人格的利益
のみならず、一定の知名度を有しない他人の人格的利益についても考慮され
ることになるため、他人の人格的利益の保護という本規定の趣旨が制度設計
において適切に反映されていると考えられる。なお、本規定は「人格権に由来
する権利の一内容を構成するもの」5と位置づけられているパブリシティ権を
も保護するものである。
また、
「他人の氏名」に課す一定の知名度の要件(求める知名度の程度や知
名度の判断基準となる需要者の範囲)及び出願人側の事情を考慮する要件の
詳細については、本規定の趣旨及び本小委員会における議論を踏まえつつ、法
制化に際して更に検討を行うとともに、商標制度小委員会商標審査基準ワー
キンググループにおいて具体的に検討を深める必要がある。
5
ピンク・レディー事件最高裁判決(最判平成 24・2・2 平成 21(受)2056)
「人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。
)は、個人の人格の象徴であるか
ら、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有す
ると解される(中略)
。そして、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する
場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」と
いう。
)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来
する権利の一内容を構成するものということができる」
10
2.コンセント制度の導入
(1)現行制度の概要
①商標法第 4 条第 1 項第 11 号について
商標登録出願に係る商標が他人の先行登録商標と同一又は類似であり、か
つ、当該出願に係る指定商品又は指定役務と先行登録商標に係る指定商品又
は指定役務とが同一又は類似する場合には、当該出願は商標登録を受けるこ
とができない(商標法第 4 条第1項第 11 号(以下、本項において「本規定」
という。)
)。本規定の趣旨は、商品又は役務の出所の混同防止にあるとされて
いる6。
②諸外国で導入されているコンセント制度の概要
「コンセント制度」とは、他人の先行登録商標と同一又は類似の商標が出願
された場合(本規定に該当する場合)であっても、当該先行登録商標の権利者
による同意があれば両商標の併存登録を認める制度のことをいう。米国、欧州、
台湾、シンガポール等、既に多くの国・地域で導入されており、グローバルな
コンセント(併存合意)契約を結ぶ場合もあるところ、我が国において同様の
手続がないことから、海外ユーザーによる日本での商標登録の障壁となって
いるとの意見がある。
(2)現行制度の課題
①過去の検討経緯
我が国においては、これまでもコンセント制度の導入について議論されて
きたところであるが、単に当事者間で合意がなされただけでは併存する商標
について需要者が商品又は役務の出所について誤認・混同するおそれ(以下
「出所混同のおそれ」という。)を排除できないことや、現行制度においても
アサインバック(出願人と先行登録商標の権利者の名義を一時的に一致させ
拒絶理由を解消する手法)の存在、運用の範囲内での対応の余地があったこと
から、今日まで、コンセント制度は導入されていない。
(参考)我が国における、コンセント制度の検討経緯
(ア)
「商標制度の在り方について」
(平成 18 年 2 月 産業構造審議会知的財
産政策部会報告書)
コンセント制度は、当事者の同意によって混同を生ずる可能性がある複
数の商標を登録することとなりかねず、需要者の保護という観点からは更
に検討が必要であること、コンセント制度の必要性が指摘される背景には、
現行(平成 18 年 2 月時点)の審査において、商品又は役務の類否判断が「類
似商品・役務審査基準」に沿って行われており、必ずしも取引の実情を十分
に参酌しない場合があることも一因となっていると考えられることから、
取引の実情を知る当事者の意見を踏まえた類否判断を行う仕組みについて
検討することが適切であるとされた。
6
工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第 22 版〕1554 頁。
11
(イ)取引の実情を踏まえた類否判断の仕組み及び「類似商品・役務審査基準」
の見直し(平成 19 年 4 月)
上記(ア)での議論を踏まえて、審査において、
「取引実情説明書」を考
慮することができることとしたほか、商品又は役務の類否関係を経済の実
態や取引の実情に合致したものとすべく、
「類似商品・役務審査基準」の見
直しが行われた。
(ウ)第 2 回商標制度小委員会(平成 28 年 7 月)
法改正によりコンセント制度の導入を検討する場合には、①「需要者の利
益」の保護を目的の一つに掲げる商標法の趣旨との関係、②最高裁判決で示
された「商標の類否」の考え方と、コンセントにより「類似であっても混同
は生じないものとする」という概念との関係等、商標制度・実務に与える影
響を踏まえ慎重に検討を行う必要があるとされた。
(エ)第 21 回商標審査基準ワーキンググループ(平成 28 年 11 月)
「取引実情説明書」の運用の見直しの検討が行われた。具体的には、商標
審査基準(第 13 版)において、①商品又は役務の類否判断における取引の
実情の考慮、及び、②出願人と引用商標の権利者に支配関係がある場合の観
点から見直しが行われ、平成 29 年 4 月から運用が開始された。
(オ)第 3 回商標制度小委員会(平成 29 年 8 月)
上記(エ)において改訂された商標審査基準における取扱いについて、ユ
ーザーの利用状況をみた上で、改めて我が国におけるコンセント制度の導
入の必要性、導入方法等について、検討を進めていくことが望ましいとされ
た。
(カ)
「知財活用促進に向けた知的財産制度の在り方~とりまとめ~」
(令和 4
年 6 月 特許庁政策推進懇談会報告書)
コンセント制度の導入に向けて更なる検討を行うべきとされ、商標法第 1
条に定める目的の一つである「需要者の利益」の保護を考慮し、同意があっ
てもなお出所混同のおそれがある場合には審査官の判断で拒絶する「留保
型コンセント」が望ましいとされた。また、併存登録後に出所混同が生じた
場合の取消審判等、事後的な手当も含めて、法改正の具体的内容について検
討を深める必要があるとされた。
②審査基準における運用による対応の限界について
平成 29 年に導入された商標審査基準における運用「商品又は役務の類否判
断における取引の実情の考慮について」及び「出願人と引用商標権者に支配関
12
係がある場合の取扱い」は、後者が認められた事例は 500 件超7あるものの、
前者が認められた事例は僅か1件8に止まるところ、いずれもユーザーにとっ
て利用しにくい場面があることが確認されている。
③ユーザーの制度導入に関するニーズへの対応について
我が国においてはコンセント制度が存在せず、商標同士が類似することを
前提に併存登録を求める場合には、アサインバックの手法が用いられてきた
ところ、その際には、権利の一時的な移転に伴うリスクや、金銭的・手続的負
担があることから、中小企業を含むユーザーからは、より簡便・低廉なコンセ
ント制度の導入を望む声がある。
また、諸外国にはコンセント制度が存在する一方で、我が国には同制度がな
いため、海外の顧客に対してアサインバックの説明を行う必要があり、それに
伴うトラブルが生じることもあるため、早期の対応を求める声も寄せられて
いる。
(3)本小委員会での検討
①本小委員会での議論の概要
現行制度の課題やコンセント制度の導入ニーズを踏まえて、事務局からコ
ンセント制度導入に向けた検討を進めることの提案がされたところ、本小委
員会においては、国際的な制度調和の観点から、コンセント制度の導入におお
むね賛成の意見があったほか、留保型、完全型といったコンセント制度の類型
の整理や、コンセントにより登録されたものであることの J-PlatPat 等によ
る公示の必要性、過去の検討経緯における導入見送りの理由に関する検討の
必要性について意見があった。他方、需要者の利益の保護を念頭に、アサイン
バックの規制の必要性、各国の商標制度の独自性等の観点も踏まえ、コンセン
ト制度導入に反対する意見もあった。これらを踏まえて、コンセント制度導入
の検討に当たって、以下の論点について整理された。
②主な論点
(ア)制度導入に当たり本規定の適用除外規定を設けることについて
事務局から、コンセント制度を導入するに当たって、商標法に新たな規定
を設け、所定の場合には、本規定の適用を除外する制度とする提案があり、
本小委員会ではこれについて検討を行った。
7
特許庁 HP に「商標法第 4 条第 1 項第 11 号の審査において、出願人と引用商標権者間に
支配関係が認められた出願の一覧」として 587 件が掲載されている(2022 年 10 月 21 日現
在)
。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/sihaikankei.html
8
特許庁 HP に「商標法第 4 条第 1 項第 11 号の審査において、取引の実情に基づいて、商
品・役務を非類似と判断した出願の一覧」として、1 件のみ掲載されている(2018 年 12
月 4 日現在 ※その後、対象案件が存在しないことから、2022 年 10 月現在も更新されて
いない。
)
。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/jitsujyo.html
13
本規定の趣旨は、前述のとおり、商品又は役務の出所の混同防止にあると
ころ、登録時のみではなく、登録後においても、先行登録商標と出願商標と
の間における出所混同の防止を担保できる制度を採用することで、本規定
の除外規定を設けることに一定の合理性を認めることができると整理され
た。
また、本規定には、商標権者の権利保護の側面もあるという見解もあると
ころ、先行登録商標の権利者の同意(自身の商標権と抵触する可能性のある
範囲に他人が別の権利を設定することについての同意)が存在することで、
本規定の適用を除外することの理由になり得ると整理された。
(イ)需要者の利益の保護
商標法第 1 条においては、同法の目的の一つとして「需要者の利益」の保
護を掲げているが、本小委員会において、コンセント制度導入を求めている
のは商標制度を利用している権利者や商標権を取得しようとしている者で
あって、需要者の意見が反映されていないとする意見があったことも踏ま
え、需要者の利益の保護をどのようにして図っていくかについて議論した
ところ、コンセント制度の導入に当たっては、以下のとおり、先行登録商標
の権利者による同意があっても、なお出所混同のおそれがある場合には登
録を認めない留保型コンセント制度を採用し、登録時に出所混同のおそれ
を審査するとともに、登録後においては、混同防止表示の請求、不正使用取
消審判の請求を可能にすることで、需要者の利益の保護を担保することが
できると整理された9。
(ⅰ)登録時
審査において、先行登録商標の権利者による同意及び出所の混同が生
じないことを説明する資料に基づき、出所混同のおそれの有無を実質的
に審査して登録可否を判断する10。
9
コンセント制度により併存登録された商標について、事後的な措置を手当することに伴
い、設定登録前のアサインバックにより併存登録された商標についても、一方の権利者に
よる商標の使用の結果、他方の権利者の業務上の利益が害されるおそれ(登録商標の出所
表示機能の毀損を含む)がある場合や、当事者のいずれかが不正競争の目的を持って出所
混同を生じさせる使用をした結果、現実に出所の混同が生じている場合には、需要者の利
益の保護を担保するために、混同防止表示の請求や不正使用取消審判請求を可能にすべき
と整理された。
10
審査における考慮要素の例としては、「現在の両商標の使用状況」、
「将来的に混同が生
じないことの取決め」及び「その他、審査官が出所混同が生じないと判断できる合理的な
説明」が想定されており、これらの内容を総合的に勘案した上で、審査官が、両商標の間
で出所の混同が生じるおそれがないと判断できる場合には、商標法第 4 条第 1 項第 11 号
の適用を除外することが想定されている(ただし、引用商標が著名商標である場合(支配
関係・グループ企業等を除く)や、商標が同一・酷似する場合等、出所混同のおそれが極
めて高いものについては、同号の適用を維持して拒絶することが想定されている。
)。した
がって、将来変動する可能性の高い事情はその考慮対象とはならない。
14
(ⅱ)登録後
一方の権利者による商標の使用の結果、他方の権利者の業務上の利益
が害されるおそれ(登録商標の出所表示機能の毀損を含む)がある場合に
は、商標法第 24 条の 4 のように、当事者間で混同防止表示の請求を可能
にする。また、当事者のいずれかが不正競争の目的を持って出所混同を生
じさせる使用をした結果、現実に出所混同が生じている場合には、同法第
52 条の 2 のように、何人も取消審判の請求を可能にする。
(ウ)最高裁判決との関係整理
過去の最高裁判決(以下の表参照)においては、本規定の類否判断に際し
て考慮することのできる取引の実情は「一般的、恒常的」な事情に限られて
きた。
しかし、一般的・恒常的な事情に準じたものを考慮することで、実際には
出所混同のおそれが生じないといえるものも存在し得る。
そこで、本規定の類否判断の方法については維持したまま、法改正により、
当事者間で、将来にわたってその事情(現在の使用状況等、当事者の合意に
よりコントロールが可能な事情)を変更しない旨の具体的な合意が行われ
ていることにより登録査定後に当該事情が変動しないことを担保できるよ
うな場合には、これを一般的・恒常的な事情に準じたものとして、本規定の
類否判断の枠外において考慮することが許されると整理された。
さらに、本規定との関係では互いに類似する商標であっても、当該事情を
考慮した上で、登録時及び登録後において具体的に出所混同のおそれが生
じないと判断される場合には、本規定の適用を除外する規定を設けて登録
を認めることが許されること、あわせて、登録後、実際に出所混同のおそれ
が生じた場合に備えて、混同防止表示の請求や取消審判請求の規定を設け
ることで、コンセント制度全体として一定の合理性を持たせることができ
ることとされた。
1
事件名/事件番号
説示要旨
橘正宗事件
最高裁昭和 36 年 6 月 27
日判決(昭和 33(オ)第
1104 号)
商標が類似のものであるかどうかは、その商標を或る商
品につき使用した場合に、商品の出所について誤認混同
を生ずる虞があると認められるものであるかどうかとい
うことにより判定すべきものと解するのが相当である。
15
2
商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商
品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生
ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが、そ
れには、そのような商品に使用された商標がその外観、
観念、称呼等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等
を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引
の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況
氷山印事件
に基づいて判断するのを相当とする。
最高裁昭和 43 年 2 月 27 ・・・また論旨は、硝子繊維糸取引の実情に関する原判示
日判決(昭和 39(行ツ) をもつて、それは実験則といえるほどの普遍性も固定性
第 110 号)
もないもので、新製品開発当初の特殊事情に基づく過去
の一時的変則的な取引状況のように主張するが、原判決
がその挙示の証拠および弁論の全趣旨によつて適法に認
定したところは、本件出願商標の出願当時およびその以
降における硝子繊維糸の取引の状況であつて、かつ、そ
れが所論のように局所的あるいは浮動的な現象と認める
に足りる証拠もない。所論によつては本件出願商標の登
録を拒否しえないものといわなければならない。
3
商標の類否判断に当たり考慮することのできる取引の実
保土谷化学工業社標事件 情とは、その指定商品全般についての一般的、恒常的な
最高裁昭和 49 年 4 月 25 それを指すものであつて、単に該商標が現在使用されて
日判決(昭和 47(行ツ) いる商品についてのみの特殊的、限定的なそれを指すも
第 33 号)
のではないことは明らかであり、所論引用の判例も、こ
れを前提とするものと解される。
(エ)コンセントにより登録されたことの公示について
本小委員会においては、コンセント制度により登録された商標について、
その事実が容易に把握できるよう、J-PlatPat 等で併存関係を確認できるよ
うにするべきとの意見があった。
既に同制度を導入している諸外国においては、公報、登録簿、商標検索ツー
ル上でコンセント制度により登録された商標であることが特定できるよう手
当がなされている国とそうでない国とが存在し、また、その確認方法は様々
である。しかし、我が国においては、ユーザーからの要請や、同制度に対する
需要者の懸念緩和の観点からも、J-PlatPat 等で公示を行う方向で調整を進
めるとともに、そのようなシステムの改修等に時間を要する場合には、特許
庁ホームページにおいてコンセント制度により登録された商標の一覧を公表
する等の代替措置を行うべきであると整理された。
(4)まとめ
コンセント制度導入に関しては、反対の意見もあったが、制度設計において
需要者の利益の保護が十分に担保されること、近年、コンセント制度導入に関
するユーザーニーズが高まっていること、国際的な制度調和の要請があるこ
16
と等を踏まえ、我が国においてコンセント制度を導入することが適当である
という意見が多数であり、おおむね賛同が得られたことから、本小委員会とし
ては導入を進める方向で取りまとめを行った。
その制度設計に当たっては、商標法第 1 条において同法の目的の一つとし
て「需要者の利益」の保護が掲げられているところ、これが十分に担保される
よう、先行登録商標の権利者の同意があってもなお出所混同のおそれがある
場合には登録を認めない「留保型コンセント」の導入が適当である。また、コ
ンセントによる登録後に出所混同のおそれが生じた場合や、実際に不正競争
の目的によって出所混同が生じた場合に備え、当事者間における混同防止表
示の請求や不正使用取消審判請求の規定を設けることが適当である11。
なお、審査における出所混同のおそれの有無の判断に関する具体的な考慮
要素等、詳細については、本小委員会の議論を踏まえつつ、商標制度小委員会
商標審査基準ワーキンググループにおいて具体的に検討を深める必要がある。
11
設定登録前のアサインバックにより併存登録された商標についても、出所混同のおそれ
が生じた場合や、実際に出所混同が生じた場合に備え、当事者間における混同防止表示の
請求や不正使用取消審判請求の規定を設けることが適当である。
17
3.Madrid e-Filing により商標の国際登録出願をする際の本国官庁手数料の納
付方法の変更
(1)現行制度の概要
「標章の国際登録に関するマドリッド協定の 1989 年 6 月 27 日にマドリッ
ドで採択された議定書(以下「議定書」という。)」は、自己の商標出願又は登
録を基礎として、当該出願を受理し又は登録をした国の所管官庁(以下「本国
官庁」という。)を通じて、世界知的所有権機関(WIPO)国際事務局(以下「国
際事務局」という。)に願書を提出(以下「国際登録出願」という。)し、商標
の国際登録がされることによって、出願人が指定した複数の締約国に商標出
願がされた場合と同一の効果を得ることを可能とする国際出願手続を定めた
条約である。
①国際登録出願に係る手数料について
議定書上、国際登録を受けるに当たっては、出願人は国際事務局が定める手
数料(以下「基本手数料」という。)及び指定国ごとに定める手数料(以下「個
別手数料」という。)を納付すべき旨規定されており(議定書第 8 条(2))、本
国官庁は、本国官庁で独自に徴収可能な手数料(以下、
「本国官庁手数料」と
いう。)の納付を求めることができる旨規定されている(議定書第 8 条(1))。
出願人が日本国特許庁を本国官庁として国際登録出願をする場合、基本手
数料及び個別手数料はスイスフランで国際事務局に納付する一方、本国官庁
手数料は日本国特許庁に日本円で納付する(商標法第 68 条の 30 第 1 項及び
同法第 76 条第 1 項第 3 号)。
②国際登録出願における電子出願(Madrid e-Filing)
従来、日本国特許庁を本国官庁として国際登録出願を行う方法は書面手続
のみであったが、令和 4 年 6 月から、国際事務局が提供する「Madrid e-Filing
システム」
(以下「e-Filing」という。)による電子出願が可能となった。
e-Filing は、国際事務局のサーバ上で願書の作成及び提出等が可能である
ほか、国際事務局に納付すべき基本手数料及び個別手数料に加えて、本国官庁
手数料も国際事務局に対しスイスフランで一括して納付することができる機
能を備えている。
(2)現行制度の課題
現行法においては、本国官庁手数料については実費を勘案して政令で定め
る額の手数料とされ、当該手数料は特許庁に納付しなければならないとされ
ていることから(商標法第 76 条第 1 項第 3 号及び同条第 2 項)、e-Filing に
より出願する場合、出願手続並びに基本手数料及び個別手数料の納付手続と
は別に、特許庁への本国官庁手数料の納付手続として、特許印紙を貼付した書
面の提出等が必要となり、e-Filing の利便性を十分に享受できない状況とな
っている。
18
(3)本小委員会での検討
本小委員会では、本国官庁手数料について、出願人が e-Filing を利用して
国際登録出願をしようとする場合に限り、他の手数料と一括でスイスフラン
により国際事務局へ納付することを可能とし、国際事務局が徴収した本国官
庁手数料は、後日国際事務局から送金を受けることについて検討を行った。
本小委員会の検討では、本国官庁手数料の納付方法を変更することについ
て、委員の賛同を得た。
(4)まとめ
上記現行制度の課題及び本小委員会での検討を踏まえ、本国官庁手数料に
ついて、出願人が e-Filing を利用して国際登録出願をしようとする場合に限
り、他の手数料と一括でスイスフランにより国際事務局へ納付することを可
能とするため、商標法について所要の手当をすることが適当である。
19
4.特許制度小委員会で審議された検討課題について
本小委員会では、2022 年 9 月の第 47 回特許制度小委員会において審議された
以下の検討課題について、商標制度にも関わる論点であることから、課題に対す
る対応の方向性について報告を受け、検討を行った。検討の結果、いずれの方向
性についても全ての委員の賛同を得た。
➢ 送達制度の見直し
➢ 書面手続デジタル化
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おわりに
ビジネス環境が大きく変化していく中において、事業者のブランド戦略を支
援していくためには、時代に合わせた商標制度の見直しが必要であることは論
をまたない。商標制度の見直しを行うに当たっては、ユーザーの意見を踏まえ
つつ、需要者の利益の保護に十分に留意した制度設計を図っていく必要があ
る。今後も、取り巻く環境の変化に応じて、商標制度の在り方について検討し
ていくことが望ましいと結論づけ、本小委員会において提言する。
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