議事要旨
。
第18回知的財産分科会 議事要旨
1.日時・場所
日時:令和5年3月2日(木曜日)16時00分から18時00分
場所:特許庁16階特別会議室(オンライン併催)
2.出席委員
益分科会長、蘆立委員、出雲委員、鬼頭委員、小松委員、杉村委員、竹中委員、田村委員、長澤委員、中村委員、林委員、藤木委員、増島委員、松山委員、麿委員、柳川委員、山田委員
3.議題
出願・審査の現状
特許審査の現状と今後の在り方
知財エコシステムの協創に向けた取組
特許・意匠・商標制度小委員会の報告
財政点検小委員会の報告
不正競争防止小委員会の報告
4.議事内容
事務局より、資料を基に説明をした後、各論点について御議論いただいた。
主な意見は以下のとおり。
(1)出願・審査の現状、特許審査の現状と今後の在り方[議題1,2関係]
PPHについては件数等の制限がある国があり、今後の改善を期待。
審査の速さや質といった日本の特許庁のすばらしいところが、任期付審査官が減少することで失われるとゆゆしき問題。今後、業務量が増えることが予想されることから、毎年100人減少すると心配であり、もう少し減少スピードを緩やかにできないか。
単願であるか又は共願であるかで、特許のビジネス上の競争力が大きく異なり、前者の方がポテンシャルのある特許となる。統計データとして単願と共願の内訳データについても提供してもらえるとありがたい。
任期付審査官が減少することはゆゆしき問題であり、現在の審査の速さと品質を維持するためには、現在と同程度の審査官の人数を確保することが必要。また、分類などAIになじむ作業についてはAIを活用するのが適当ではないか。
肌感覚として、最近は大企業から輩出される知財人材が少ない。任期付審査官は、知財人材の育成及び輩出の観点でも様々な役割を果たしていけるのではないか。
次の10年の目標としては、AIを活用した審査のベストプラクティスの確立や、プッシュ型支援の二つを提案したい。そのためには、AIを活用できる人材やコミュニケーション能力の高い人材を雇うなど、任期付審査官の必要性を明確化すると良い。
審査官の増員が必要であることは理解。その上で、今後は融合技術やGX関連技術のますますの発展が見込まれるため、それに対応できるような審査官のスペックの検討も必要。
審査の速さを維持するためには、現在の体制を維持していくことが必要。
国際的な審査協力を進めてもらい感謝。今後もASEAN各国を含め積極的に海外に審査協力をしてもらいたい。
大学においてはURAの任期を無期化して、優秀な人材の確保を進めている。任期付審査官についても同様の仕組みの導入も検討するといいのでは。
非公開特許制度については詳細な内容を分かりやすく示してもらいたい。
日本では、製品に直結する発明やアイデアの社会実装の重要な指標でもある商標や意匠の出願が少ないことに課題があり、掘り起こしの可能性があるのではないか。
(2)知財エコシステムの協創に向けた取組[議題3関係]
特許庁にはオープンイノベーションの促進に向けたモデル契約書等の取組を積極的に進めてもらい感謝。大企業、大学及びスタートアップなど、様々な立場の人々が参加する知財エコシステムを大きくしていく観点で、エコシステム型の知財の規範作りなどを特許庁には先導して行ってもらいたい。
ナショナルプロジェクトについて、しっかり知財戦略を策定しているところを投資先としたり、進捗をフォローアップしたり、成果物の評価をフィードバックして次の投資判断に活かすなど、知財がどのような役割を果たせるか検討が必要。
大学の知財が死蔵しないように流動性を高めるとともに、大学やスタートアップが社会実装しやすいような知財を取得できるようなエコシステムを構築していくことが重要。
GXTIはすばらしい取組だが、企業が事業ポートフォリオを展開する際に指針になるようなGXTI以外の技術要素についても今後増やしてもらいたい。また、GXTIのような指標が、環境関連の情報開示における世界標準の指標となりうるよう、積極的に活動してもらいたい。
地域ブロックレベルでの支援については地域の金融機関を巻き込んだ支援体制を構築できると良いのではないか。
死蔵特許については分類の問題があり、利用していなくても将来の新規事業に必要と考えて保有することもあり、3年使わなかったら死蔵と言われると困る分野もある。一方、数年で自身による実施の可能性がないことが分かる分野もあると理解しており、分野に応じた議論が必要。
スタートアップ支援について、地方で起業する人は金融公庫や地銀に資金を借りる又は口座を作る機会が多いため、金融公庫や地銀から知財に関する支援が提供できるよう連携して知財への意識醸成を行うことも一案。
スタートアップや中小企業に対して、特許庁やINPIT、弁理士会といった支援機関がばらばらに支援を行うのではなく、連携することが大切。
イノベーションを起こすためには多様性と包摂性が重要だが、性別など特定の属性で区別するのではなく適所適材で人材を活用することが必要。
企業がポートフォリオを変えながら新ビジネスを立ち上げる際に知財をどう加速させられるかについて検討をお願いしたい。また、投資家の目線から見ると、知財の数ではなく、知財の競争力が企業評価の重要な指標となっているので、知財をIRの観点から検討することに期待。
イノベーションにおいて多様性は非常に重要なので特許庁でも海外の知財庁に負けないように検討を進めてほしい。市場における知財評価について日本も世界に対してイニシアティブを持って進めることが必要。
中小企業に対する知財意識の向上については効果の有無に留まらず、どうすればさらに効果が出るのかを検討してもらいたい。地域ブロックでの支援機関については、内容ごとに支援機関をばらばらにするのではなく、スムーズな連携体制を構築することが必要で、地方の金融機関への知財の啓蒙についてもさらに進める必要がある。
知財エコシステムでは、知財の専門性を持った人材をより広い形で活用することや、そのような人材を世の中に増やしていくことが重要。
大学への支援については、大学における知財の活用がうまく回り始めているところ、今後も継続してもらいたい。
[更新日 2023年3月30日]
お問い合わせ
特許庁総務部企画調査課
電話:03-3581-1101 内線2152
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資料1
産業構造審議会 第18回知的財産分科会
議事次第
日 時:令和5年3月2日(木)16時~18時
会 場:特許庁庁舎16階特別会議室 + WEB会議室
(議事次第)
1. 開会
2. 出願・審査の現状
3. 特許審査の現状と今後の在り方
4. 知財エコシステムの協創に向けた取組
5. 特許・意匠・商標制度小委員会の報告
6. 財政点検小委員会の報告
7. 不正競争防止小委員会の報告
8. 閉会
(配付資料)
議事次第
資料1:委員名簿
資料2:出願・審査の現状
資料3:特許審査の現状と今後の在り方
資料4:知財エコシステムの協創に向けた取組
資料5:特許・意匠・商標制度小委員会の報告
資料6:財政点検小委員会の報告
資料7:不正競争防止小委員会の報告
参考資料1:特許制度小委員会報告書(案)
参考資料2:意匠制度小委員会報告書(案)
参考資料3:商標制度小委員会報告書(案)
参考資料4:不正競争防止小委員会報告書(案)
資料2
資料1
令 和 5 年 3 月 2 日
第18回知的財産分科会
産業構造審議会
知的財産分科会
委員名簿
蘆立
順美
東北大学大学院法学研究科 教授
出雲
充
株式会社ユーグレナ 代表取締役社長
鬼頭
雅弘
名古屋大学学術研究・産学官連携推進本部 知財・技術移転部門長/教授
小松
百合弥
IA パートナーズ株式会社 取締役
杉村
純子
日本弁理士会 会長
竹中
俊子
ワシントン大学ロースクール-慶應義塾大学大学院法務研究科 教授
田村
善之
東京大学大学院法学政治学研究科 教授
長澤
健一
日本知的財産協会 副会長
中村
栄
旭化成株式会社 知財インテリジェンス室 シニアフェロー
林
千晶
株式会社 Q0 代表取締役社長
藤木
実
株式会社 IP Bridge 代表取締役 CEO
一哉
東京工業大学 学長
増島
雅和
森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士
松山
智恵
TMI総合法律事務所 パートナー弁護士
麿
秀晴
凸版印刷株式会社 代表取締役社長
柳川
範之
東京大学大学院経済学研究科 教授
山田
理恵
東北電子産業株式会社 代表取締役社長
会長 益
(敬称略,五十音順)
資料3
資料2
出願・審査の現状
産業構造審議会 第18回知的財産分科会
令和5年3月2日
【特許】直近の出願動向 ー特許出願件数ー
特許出願件数は、近年横ばい傾向。
特許出願件数の推移
(件)
350,000
300,000
328,436
325,989
318,721
318,381
318,481
313,567
307,969
288,472
289,200
289,378
250,000
200,000
150,000
100,000
50,000
2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年
(出願年)
※2022年の値は暫定値
1
【特許】直近の出願動向 ー特許審査請求件数ー
審査請求件数は引き続き横ばい傾向。
特許審査請求件数の推移
(件)
300,000
250,000
240,188
245,535
241,412
240,455
240,188
234,309
235,182
232,215
238,557
231,166
200,000
150,000
100,000
50,000
2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年
(請求年)
※2022年の値は暫定値
2
【特許】直近の出願動向 ー特許PCT出願件数ー
PCT出願は、2020年以降横ばい傾向。
PCT件数の推移
(件)
60,000
51,652
50,000
47,425
43,075
41,292
43,097
48,630
49,314
49,040
48,719
44,495
40,000
30,000
20,000
10,000
2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年
(出願年)
※2022年の値は暫定値
3
【意匠】直近の出願動向
意匠登録出願件数は前年比で減少。国際意匠登録出願件数は前年比で微増。
意匠登録出願件数/国際意匠登録出願件数の推移
(件)
35,000
国際意匠登録出願件数
意匠登録出願件数
30,000
-
452
2,083
29,738
29,451
28,796
2,216
2,261
2,072
2,986
3,303
29,745
29,145
29,417
28,812
29,222
3,353
25,000
20,000
15,000
31,125
28,309
10,000
5,000
2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年
(出願年)
※2022年1月1日に発効したハーグ協定の共通規則の改正により国際意匠登録出願の標準公表期間が6月から12月に
延長されたため、2022年下半期は標準公表された国際登録意匠出願が原則として存在しないことに留意。
※2022年の値は暫定値
4
【商標】直近の出願動向
商標登録出願件数及び国際商標登録出願件数は、いずれも2022年は前年比で減少。
商標登録出願件数/国際商標登録出願件数の推移
(件)
200,000
国際商標登録出願件数
180,000
商標登録出願件数
160,000
17,328
17,802
19,450
17,924
20,094
19,771
13,835
140,000
15,984
120,000
12,672
13,696
100,000
173,611
80,000
148,024
166,681
171,323
163,148
164,537
149,991
131,299
60,000
103,979
111,770
40,000
20,000
2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年
(出願年)
※2022年の値は暫定値
5
【特許】日米欧中韓の出願件数の推移
中国における特許出願件数が2019年に鈍化したものの、その後は再度増加。
日米欧中韓における特許出願件数の推移
(万件)
180
160
CNIPA(中国)
USPTO(米国)
JPO(日本)
KIPO(韓国)
158.6
EPO(欧州)
140
120
100
80
59.1
60
40
28.9
23.8
20
18.9
0
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021 (出願年)
6
【特許】出願人居住国別のPCT出願件数の推移
中国におけるPCT出願件数が大きく増加している。
出願人居住国別のPCT出願件数の推移
(万件)
8.0
欧州
韓国
中国
日本
7.0
米国
7.0
6.1
6.0
5.9
5.0
5.0
4.0
3.0
2.1
2.0
1.0
0.0
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021
(出願年)
7
【特許】主要国の国際展開発明件数+単国出願数、国際展開発明件数の推移
国際展開発明件数(※)+単国出願数で見ると中国籍の出願人によるものが多い一方、
国際展開発明件数で見ると日本が1位。
※国際展開発明件数とは、複数の国・地域へ出願された発明の数。IPF(International Patent Family)と称されることもある。
PCT出願については、2カ国以上に国内移行されたものをカウント。
主要国の国際展開発明件数+単国出願数の推移
(件)
1,400,000
1,200,000
主要国からの国際展開発明件数の推移
(件)
日本
米国
英国
ドイツ
フランス
中国
韓国
日本
米国
英国
ドイツ
フランス
中国
80,000
70,000
韓国
60,000
1,000,000
50,000
800,000
40,000
600,000
30,000
400,000
20,000
200,000
10,000
0
0
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017
(出願年*)
(*)PCT出願については移行年。
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017
(出願年*)
(出典)文部科学省 科学技術・学術政策研究所、「科学技術指標2022」を基に、特許庁が加工・作成。
8
【意匠】日米欧中韓の出願件数の推移
中国における意匠登録出願件数は引き続き増加傾向。
日米欧中韓における意匠登録出願件数の推移
(万件)
CNIPA(中国)
KIPO(韓国)
JPO(日本)
100
EUIPO(欧州)
USPTO(米国)
40.0
80.6
80
60
40
11.6
10
6.9
20
5.8
3.3
0.0
0
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021
(出願年)
9
【商標】日米欧中韓の出願件数の推移
2020年における米国、中国における商標登録出願は、大きく伸びたが、その後は微増。
日米欧中韓における商標登録出願件数の推移
(区分:CNIPA(中国))
(万件:CNIPA(中国)以外)
945.1
80
70
60
1,000[万]
USPTO(米国)
KIPO(韓国)
900
JPO(日本)
EUIPO(欧州)
800
CNIPA(中国)
66.8
50
40
700
600
500
28.5
400
30
19.9 300
20
200
10
18.5
0
100
0
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021
(出願年)
10
【特許】審査の現状
JPOの2023年度目標は、一次審査期間は平均10ヶ月以内、権利化までの期間は平均14ヶ月
以内。
併せて審査の質の向上に取り組んでいる。
特許審査の
平均一次審査期間・権利化までの期間の推移
特許審査の質全般のついてのユーザー評価
特許審査の質全般についてのユーザー評価
(月)
16.0
15.2 15.0 14.6 14.1 14.1 14.3 15.0 15.2
14.0
12.0
10.0
8.0
9.3
9.7
9.4
9.3
9.3
9.5
10.2 10.1
6.0
4.0
一次審査期間
2.0
権利化までの期間
0.0
2012年度
2013年度
2014年度
2015年度
2016年度
2017年度
2018年度
2019年度
2020年度
2021年度
2022年度
1.4% 30.2%
1.5%
43.5%
2.7%
44.4%
3.8%
50.5%
4.2%
52.8%
5.3%
53.0%
7.4%
54.8%
6.5%
50.7%
9.1%
55.2%
8.4%
54.6%
8.6%
52.7%
0%
満足
20%
40%
比較的満足
56.6%
11.3% 0.5%
47.5%
7.3% 0.2%
44.0%
8.4% 0.5%
39.4%
6.2% 0.2%
37.0%
5.7% 0.3%
35.2%
6.2% 0.3%
32.1%
4.9% 0.7%
36.5%
5.8% 0.5%
33.0% 2.4% 0.3%
32.0%
3.7% 1.2%
34.4%
3.7% 0.6%
60%
80%
普通
比較的不満
100%
不満
2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 (年度)
11
【意匠】審査の現状
バッチでの審査を年間2サイクル行っており、平均一次審査期間は6~7ヶ月で推移。
ユーザーによる意匠審査の質に関する評価の調査を2015年度から実施。
意匠審査の質全般について、「満足」と「比較的満足」を合わせた上位評価の割合は、
60.4%(2022年度)。
意匠審査の
平均一次審査期間・権利化までの期間の推移
(月)
8.0
6.0
7.1
6.2
6.9
6.1
7.0
6.1
6.7
5.9
7.0
6.2
6.8
6.0
7.1
6.3
7.4
6.4
4.0
2.0
一次審査期間
意匠審査の質全般についてのユーザー評価
2015年度
10.6%
2016年度
14.6%
2017年度
11.5%
2018年度
13.6%
2019年度
17.6%
2020年度
18.0%
2021年度
21.4%
2022年度
17.4%
41.1%
4.9% 0.8%
42.7%
46.4%
46.5%
45.9%
41.5%
46.4%
46.3%
43.0%
36.0%
3.0% 0.0%
38.8%
2.9% 0.3%
37.0%
3.5%
0.0%
35.9%
4.9%
0.0%
32.2%
3.1% 0.3%
26.5%
5.8% 0.0%
34.5%
4.1%
0.9%
権利化までの期間
0.0
満足
2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 (年度)
比較的満足
普通
比較的不満
不満
12
【商標】審査の現状
近年の出願増加の影響により、一次審査までの期間及び権利化までの期間は長期化。
2022年度末に、一次審査までの期間を6.5ヶ月、権利化までの期間を8ヶ月とする政府目標
の達成に向けて、審査期間は徐々に短縮。
商標審査の質全般について、「満足」と「比較的満足」を合わせた上位評価の割合は、
49.3%(2022年度)。
商標審査の
平均一次審査期間・権利化までの期間の推移
商標審査の質全般についてのユーザー評価
(月)
12.0
10.9 11.2
7.7
8.0
9.9
6.8
6.0
5.8
7.9
6.0
4.1
4.3
4.9
5.6%
2016年度
6.7%
42.1%
38.3%
43.8%
43.5%
11.7%
2.3%
4.6%
1.5%
2017年度
5.6%
42.7%
44.5%
6.4%
0.8%
2018年度
8.0%
39.7%
45.3%
6.7%
0.3%
2019年度
5.0%
9.0%
0.8%
2020年度
6.9%
43.6%
8.1%
0.6%
2021年度
8.4%
41.5%
41.8%
7.8%
0.5%
権利化までの期間 2022年度
9.2%
40.1%
42.0%
8.4%
0.3%
10.0
8.0
6.3
4.0
2.0
9.6
9.3
10.0
2015年度
一次審査期間
37.2%
48.0%
40.8%
0.0
2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 (年度)
満足
比較的満足
普通
比較的不満
不満
13
資料4
資料3
特許審査の現状と今後の在り方
産業構造審議会 第18回知的財産分科会
令和5年3月2日
政府目標と審査体制の推移、特許審査の取組
◆ 2004年以降、10年単位で定められた政府目標の達成に向けて、任期付審査官(約500名)等
により体制を強化しつつ、特許審査の取組を着実に進めてきた。
知財立国宣言/
知財基本法
知財政策に関す
る基本方針
第一期
世界最速・最高品質・国際展開
特許審査の迅速性・効率化
2002
2024FY
2014FY
2004FY
2013年度までに審査順番待ち期間(FA期間)
を11か月とする。(知財推進計画2004)
政府目標
第二期
1. 2023年度までに、特許の「権利化までの期
間」(STP)とFA期間をそれぞれ、平均14月
以内、平均10月以内とする。
2. 外部有識者による客観的な品質管理システム
の導入等の取組により「世界最速・最高品質
」の審査を実現する。
3. アジア新興国への人材派遣・研修受入れを強
化するとともに特許審査ハイウェイ(他国で
特許となった出願を、早期に審査する制度)
の対象国を拡充する。
(日本再興戦略,改訂2014, 知財推進計画2014)
(人)
2000
1800
1600
恒常審査官
任期付審査官(第一期)
任期付審査官(第二期)
減少分
1400
1200
98
196
294
392
490
490
490
490
490
490
100
200
392
300
294
401
196
98
501
501
496
496
496
496
401
301
201
100
1000
0
800
600
1126 1145 1162 1174 1175 1190 1202 1213 1221 1223 1211 1210 1208 1206 1197 1189 1181 1170 1169 1166 1160 1154 1148 1142 1136 1130
400
200
0
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021
2022
2023
2024
2025
2026
2027
2028
(年度)
2
審査業務の効率化や柔軟性向上に向けたこれまでの取組について
(1)システムによる審査業務の効率化
•
分類付与、先行技術調査の一部にシステムを活用し、迅速化や質の向上に貢献。
(2)民間能力の活用による審査業務の効率化
•
登録調査機関を利用することで、本願理解・先行技術調査を行う時間を短縮し、迅速化に貢献。
(3)働き方改革を通じた組織の柔軟性向上
•
コロナ禍を契機として、審査官のテレワークを推進。また、財政健全化を進めるべく、本庁舎以外のオフィ
スに分散化していた特許庁職員が本庁舎で勤務できるよう、庁舎改修のタイミングに併せて座席のフリーア
ドレス化も推進。これらの取組を通じて多様な働き方を実現するとともに、安定して特許審査を行うことが
できる柔軟な審査体制を整備。
参考:特許審査官の業務の流れ
分類付与
本願発明の理解
先行技術調査
先行技術文献検索
スクリーニング
特許性の判断・起案
3
世界最速・最高品質の特許審査に向けた進捗状況
政府目標
1. 2023年度までに、特許の「権利化までの期間」(STP)とFA期間をそれぞれ、平均14月以内、平均10月以内とする。
2. 外部有識者による客観的な品質管理システムの導入等の取組により「世界最速・最高品質」の審査を実現する。
(日本再興戦略,改訂2014, 知財推進計画2014)
2023年度までに、「権利化までの期間」(STP)とFA期間はそれぞれ、
平均14月以内、平均10月以内となり、「世界最速・最高品質」の審査を実現する見込み。
国内出願における特許審査全般の質
FA期間、STPの動向
35
FA期間【平均】
(%)
100
30
FA10STP14
達成見込み
25
20
15
10
80
STP【平均】
STP14
60
FA10
5
40
0
2003
2005
2007
2009
2011
2013
2015
2017
2019
2021
2023
満足・比較的満足
3年移動平均
普通以上(参考)
5大特許庁における一次審査期間と権利化までの期間(2021年)
日本
米国
欧州
中国
韓国
FA期間
STP
一次審査通知までの期間
権利化までの期間
10.1か月
16.9か月
4.8か月
12.5か月
12.2か月
15.3か月
23.3か月
23.0か月
18.5か月
16.0か月
※欧州特許庁の一次審査通知までの期間は、出願日から特許性に関する見解を伴う拡張欧州調
査報告の発表までの中央値。
(資料)米国:PERFORMANCE AND ACCOUNTABILITY REPORT 2021
欧州、中国、韓国:IP5 Statistic Report 2021
世界最速
20
(
年
度
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 )
•
ユーザー評価調査における特許審査全般に対する上
位評価(満足・比較的満足)の割合は大幅に上昇。
•
国際的な知財雑誌によるベンチマーク調査では、5
大特許庁における日本の特許の質の上位評価の割合
の高さは2位、下位評価の割合の低さは1位※。
※IAM Special Report Q4 2021, “IP5 Insights “において、
上位評価は”Good”以上の割合。下位評価は”Poor”の割合。
4
国際展開に関する取組の進捗状況
政府目標
3. アジア新興国への人材派遣・研修受入れを強化するとともに特許審査ハイウェイ(他国で特許となった出願
を、早期に審査する制度)の対象国を拡充する。
(日本再興戦略,改訂2014)
◆国際審査協力
PPHとは、先行審査庁である第一庁で特許可能と判断された出
願について、出願人の申請により、後続審査庁において簡易な手
続きで早期審査が受けられるようになる枠組み。
海外での迅速な権利取得を支援。
海外特許庁と相互に特許審査官を派遣し、審査実務の調和の推進、
日本の審査実務の普及・浸透を促すことにより、我が国企業が海外にお
いて円滑かつ予見性高く特許権を取得することを支援。
• 2022年12月時点で延べ44庁と実施
(日本国籍の出願人による外国出願件数のうち、
PPH実施庁へ出願された件数の割合は約97%)
2022年12月までに延べ34か国の知財庁等と実施
2022年12月時点
50
44
40
30
26
20
10
0
(年)
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021
2022
JPOとのPPH実施に合意した庁数
◆特許審査ハイウェイ(PPH)
5
今後の特許審査に向けた審査官数に関する課題
• 2022年度の体制は、恒常定員1166名、任期付定員496名の計1662名であり、一人
当たりの審査処理件数は欧米の2.5倍以上。
• 2024年度以降、任期付審査官の定員の時限が到来(以降、約100名ずつ減少し、
2028年度には約3割減)。
(人)
2000
1800
1600
現状
恒常審査官
任期付審査官(第一期)
任期付審査官(第二期)
減少分
1400
1200
98
196
294
392
490
490
490
490
490
490
100
200
392
300
294
401
196
98
501
501
496
496
496
496
401
301
201
100
1000
0
800
600
1126 1145 1162 1174 1175 1190 1202 1213 1221 1223 1211 1210 1208 1206 1197 1189 1181 1170 1169 1166 1160 1154 1148 1142 1136 1130
400
200
0
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021
2022
2023
2024
2025
2026
2027
2028
(年度)
時限定員分が減少した場合、
審査期間は大幅に伸長
35
STP【平均】
30
25
20
2023年度末に、
FA10,STP14
達成見込み
時限定員分が
減少する場合
FA期間【平均】
15
FA11
達成
10
5
0
2003
2005
2007
2009
2011
2013
2015
2017
2019
2021
2023
2025
2027
6
今後の特許審査において考慮すべき状況変化①
• 2014年以降、審査請求件数はほぼ横ばい、PCT国際出願件数は増加傾向。
• 外国特許文献の増加や請求項数の増加により、1件当たりの審査の業務量は年々増加。
審査業務負担は量・質ともに大きく増加
(万件)
審査請求件数と処理件数の推移
35.0
再着審査件数
一次審査件数
審査請求件数
審査請求件数はほぼ横ばい
30.0
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
世界の特許文献数の推移
(万件)
2021
520
480
440
400
発 360
行 320
件 280
数 240
200
160
120
80
40
0
※特許庁 特許行政年次報告書2022年版,2016年版を基に作成
その
2014年から2.3倍以上増加
中
国
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021
PCT出願件数等の推移
(万件)
6.0
暫定値
国際調査報告作成件数
請求項数の推移
PCT国際出願
5.0
10.0
4.0
9.5
3.0
9.0
PCT国際出願件数は
2014年当時と比較して増加傾向
2.0
韓国
欧州
米国
日本
8.5
9.7
9.3
8.5
8.5
8.6
2015
2016
2017
8.8
9.0
8.0
8.0
1.0
7.5
0.0
7.0
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
※特許庁 特許行政年次報告書2022年版,2016年版を基に作成
2021
2014
2018
2019
2020
2021
7
今後の特許審査において考慮すべき状況変化②
• 研究開発動向に応じて、分野毎の出願件数は時代によって大きく変化。
• AIやIoTのように、複数の技術分野に応用される融合技術も増加。
• 令和5年度以降の10年間で官民150兆円のGX投資(年換算では、2020年度の日本の科学技術
研究費※の約80%)が予定されており、GX関連出願の増加も予測される。
※約19兆円:(出典)総務省統計局「統計でみる日本の科学技術研究」
単一の技術分野に特化した審査官のみでは不十分であり、
審査のスピード・質を担保するためには、各審査官が複数の技術分野に習熟していくことが不可欠。
日米欧中韓への分野別ファミリー出願件数の推移
AI関連発明の出願件数
バイオテクノロジー
製薬
基礎材料化学
環境技術
コンピューターテクノロジー
ビジネス方法
半導体
エンジン、ポンプ、タービン
運輸
計測
医療機器
土木技術
300,000
250,000
200,000
6,000
AI関連発明(AIを各技術分
5,000
4,000
野に適用したAI適用発明)
AIを各技術分野に
適用した発明が増加
3,000
150,000
2,000
100,000
1,000
50,000
0
0
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2014
2015
2016
2017
2018
(出願年(優先権主張年))
※特許庁「令和3年度 特許出願動向調査報告書(概要)-マクロ調査-」のデータを基に作成
※特許庁「AI関連発明の出願状況調査」のデータを基に作成
2019
2020
(出願年)
8
今後の特許審査において考慮すべき状況変化③
• PPH※1締約国は増加しているものの、PPH利用における件数や分野に制限がある国が存在。
• 2023年1月時点、日本企業が多く進出しているインドとのPPHは未更新。
※1 特許審査ハイウェイ
我が国初のイノベーションの他国での権利化を推進するためには、
PPHの実効性を向上させる取組や枠組み(国際審査協力等を含む)
をさらに展開することが必要。
• 2050年カーボンニュートラルが宣言されて以降、GX※2を重点投資分野の1つとして位置づけ、
GX実行会議を開催するなど、日本政府として、GXを実現するための取組を推し進めてきたところ。
• 特許庁では、審査官の知見を活用することにより、2022年6月に、GX技術に関する特許情報を簡
単に分析できるよう、GX技術を俯瞰する技術区分表(GXTI)と各技術区分に対応する特許検索
式を世界に先駆けて作成・公表。
※2 グリーントランスフォーメーション
GX技術等の注目技術について世界中の技術動向を把握し、
我が国企業が技術優位性をグローバルにアピールできるようにするためには、
世界に通用する技術区分表を策定し、技術を俯瞰可能とすることが肝要。
そのためには、最新技術の知見を有する審査官による技術区分表の策定・更新と普及が不可欠。
9
【参考】GXTI とその活用
•
GXTI:5つの技術区分と横断的な4つの視点によりGXに関する技術を俯瞰可能な技術区分表。
•
GXTIを用いた特許分析により、GXに関する技術情報の俯瞰や、各企業におけるGXに関する取組
及び事業への気候変動の影響等を客観的に示すことが可能に。
事業戦略や特許戦略の立案・投資家等へのアピールに役立てることで我が国企業の活性化に。
クロス分析のための4つの視点
GXTIを用いた各国特許出願動向の
マクロ調査結果
(2023年1月30日付け中間報告)
主要なGX技術区分における
国際展開発明件数※(2010-2021)
ex. 太陽光発電、燃料電池、水素技術
5
つ
の
G
X
技
術
日本国籍の出願人が最も多い
=日本企業の強み
ex. 建築物の省エネルギー化、電動モビリティ
ex. 二次電池、力学的エネルギー貯蔵、熱エネルギー貯蔵
ex. 製鉄プロセスにおけるCO2削減、リサイクル
太陽光発電
ex. CCS、グリーン冷媒
(例)太陽光発電の制御・調整
検索式は各技術分野の
担当審査官が作成
建築物の 電動モビリティ 二次電池
省エネルギー化
※複数の国・地域へ出願された発明の数
[H01L(31/04+51/42)/ip+H02S/ip+H02J7/35/ip] * G05/ip
gxA01a
(太陽光発電)
燃料電池
gxY01
(制御・調整)
10
今後の特許審査において考慮すべき状況変化④
•
経済安全保障推進法の施行により、令和6年春頃には特許出願の非公開制度が導入される予定。
•
特許出願の非公開制度の導入に伴い、特許審査官が担う業務として、一次審査に関する業務をは
じめ、新たな業務が発生。
全出願(約30万件/年)
一次審査(特許庁)(66条)
技術分野等によるスクリーニング
件数絞り込み
⇒ 外国出願禁止(第一国出願義務)
の対象もこれと同じ要件とする
二次審査(内閣府)(67条)
・視点①のおそれが大きいこと
かつ
・視点①②を総合評価しても情報保全をすることが適当であること
特許審査官が担う業務
・ 一次審査(66条)に関する業務
➢ 特許出願に対する特定技術分野に関する分類の
付与・確認業務
➢ 技術の水準、特徴、公開の状況に照らし、保全
審査に付する必要がないことが明らかであるか
否かの判断業務
その他に、外国出願禁止事前確認申請(79条4項)に
対する対応業務、実用新案に関する判断(82条5項)、
2次審査中における内閣府の求めに応じた資料提供
(67条3項)に関する業務も発生
保全指定 ※複数の発明が記載されている場合、出願全体を非公開としつつ、
一部の発明のみが保全指定の対象となる場合がある。
対象発明を選定する視点(一次審査・二次審査に共通)
視点①:技術の機微性
イメージ図
全ての出願
➢ 国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれ
(例えば、核兵器を含む大量破壊兵器につながる技術など)
機微な発明
視点②:経済活動・イノベーションへの影響
➢ 非公開とし、発明の実施や外国出願を制限することで、
産業の発達にどの程度の影響(支障)を及ぼすか
保全すべき発明が含まれやすいゾーン
【二次審査に送付する技術分野】
保全すべき発明
【二次審査で保全指定】
11
※NSS作成資料を一部改変
今後の特許審査において考慮すべき状況変化⑤
• 2014年以降、早期審査制度の利用拡充により、未公開時点で審査が必要な案件数が増加。
• 未公開案件の審査に関して、保秘の観点から、情報セキュリティに関する運用の強化や研修実施等
を通じて、情報セキュリティの向上に取り組んできたところ。
• 審査負担の観点では、未公開案件は検索外注を利用できず、相対的に審査負担が大きい状況。
• 令和6年度には、特許出願の非公開制度の導入に伴い、経済安保の観点から特に機密性の高い業務
も発生。
特許出願の非公開制度の円滑な運用に向けて、審査体制の強化が必要
特許出願の一次審査着手時における
未公開案件の割合
(割合)
(件数)
※ランダム抽出した2300件前後について分析した結果
10.0%
60,000
2014年度と比較すると
9.0%
9.0%
8.0%
8.4%
7.0%
6.0%
未公開段階で行われるPCT国際出願
の国際調査報告書作成件数
6.9%
7.9%
50,000
8.4%
約
21%増加
8.4%
40,000
7.3%
6.2%
5.0%
2014年度の割合から
4.0%
約
30,000
3.5割増加
20,000
3.0%
2.0%
10,000
1.0%
0.0%
12
0
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021
(着手年度)
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021
(作成年度)
今後の特許審査において考慮すべき状況変化⑥
• 政府全体の施策において、スタートアップ、大学や地域中小企業に対する支援を通じ、日本全
体のイノベーションの創出・経済活性化につなげていくことが求められている状況。
• 特許庁としても、知財人材の手薄なスタートアップ、大学や地域中小企業に対しては、審査段
階でのプッシュ型支援を通じて、迅速に質の高い特許権の創出に貢献することが必要。
まち・ひと・しごと創生基本方針2021(令和3年6月)には、
「地域の特性に応じた、生産性が高く、稼ぐ地域の実現」を目指して、「地域資源・産業を活かした地域の競争力強化」するために、地域経
済を牽引する企業に対する集中的な支援、継続的な地域発イノベーション等の創出等を行うような取組を実施していくことが記載。
国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策(令和2年12月)には、
「10 兆円規模の大学ファンドを創設し、その運用益を活用することにより、世界に比肩するレベルの研究開発を行う大学の共用施設やデータ
連携基盤の整備、博士課程学生などの若手人材育成等を推進することで、我が国のイノベーション・エコシステムを構築する」ことが記載。
経済財政運営と改革の基本方針2022(令和4年6月)には、
「起業拠点の整備を含めて大学等も存分に活用しつつ、知的財産の保護・活用の推進、規制・制度改革等を通じて世界に伍するスタートアッ
プエコシステムを作り上げ、大規模なスタートアップの創出に取り組む。」ことが記載。
スタートアップにおける知的財産
• スタートアップの経営資源では、ヒト・カネ・情報が不足していることか
ら、スタートアップの企業価値は革新的技術・アイデアに集約。
• スタートアップの成長には、革新的技術・アイデアにより(1)競争優位
な収益を得る仕組みの構築、(2)資金調達を受ける際の優位性の確保、
等が求められるため、革新的技術・アイデア※を知的財産として迅速に保
※例えば、AI関連発明等の融合技術等。
護し、国内外で活用していく必要。
• すぐに使える特許を国内外で取得できるよう、迅速かつ質の高い特許審査
や国内外での活用につながる“プッシュ型支援”が不可欠。
知財
13
今後取り組むべき特許審査に関する施策について
知財政策に関する基本方針
世界最速
最高品質
国際展開
2014FY
世界最高の特許審査を通じた
イノベーションの創出支援
2024FY
第二期
第三期
これまでの施策の深化
施策1
FA10,STP14に向けた
迅速性の確保
施策1
FA10、STP14という世界最速の特許審査を
確保し、真っ先に審査結果を海外庁に発信
施策2
質の向上
• 先行技術調査(特に外国語文献や非特許文献)
の充実による品質向上
• 協議等を活用した均質性の高い審査
施策3
国際展開
特許審査のレジリエンス
向上による迅速性
(FA10,STP14)の堅持
技術の複合化・数的変動に対応しつつ、我
が国が誇る世界最速の特許審査を堅持し、
迅速な権利化を実現
施策2
質のさらなる向上
網羅的な先行技術調査、均質性の高い審査を
ベースに、出願人とも共創しつつ、世界に通
用する「強く・広く・役に立つ権利」を創出
日本の審査実務や運用を新興国等に浸透させる
ことで、日本企業の国際展開を支援
施策3 知財外交の推進
施策4
我が国発イノベーションの海外における保
護・活用や、GX技術等に関する国際協力
に向けて、審査官を通じて知財外交を推進
任期付審査官の定員維持
• AIの活用による効率化と質の向上
• 出願構造の変化等に対応するため
の組織の柔軟性向上
• 必要なリソースの整備
新たな施策の導入
施策4
特許出願の非公開制度の円滑
な運用
特許審査官が担う業務として、一次審査に関
する業務をはじめ、新たな業務が発生すると
ころ、保秘の観点も踏まえつつ業務を着実に
実施
施策5
スタートアップ、地域中小
企業、大学等に対する審査
官によるプッシュ型支援
知財人材等の資源が少ないスタートアップ、
地域中小企業、大学等に対して審査段階での
プッシュ型支援を行い、イノベーションのよ
り良い保護と活用を実現
2024年度以降の施策を着実に実施するためには、
“長期的に安定した審査体制”
を整備することが不可欠。
14
資料5
資料4
知財エコシステムの協創に向けた取組
産業構造審議会 第18回知的財産分科会
令和5年3月2日
アウトライン
1
知財エコシステムの協創
・・・P2
As is (これまで)
2
To be(これから)
特許庁の強みを活かした
知財エコシステムへの貢献
・・・P6
3
4
知財エコシステムの
今後の在り方
協創に向けた最近の取組
・・・P24
・・・P17
Action (移行戦略)
5
特許庁の今後の取組
・・・P32
特許庁
1
1.知財エコシステムの協創
特許庁
2
特許庁のミッション・ビジョン・バリューズ(MVV)
• 急速かつ大きく変化する社会情勢や知的財産を取り巻く環境の変化に柔軟に対応し、時代に即し
た知財行政を行っていくため、2021年6月にMVVを更新。
• MVVは、特許庁職員が同じ方向に向かって進む旗印であり、また、知財に関わる全ての人と目標
を共有し、その実現に向けて協力していくためのもの。
ミッション(どのような社会を実現したいのか)
「知」が尊重され、
一人ひとりが創造力を発揮したくなる社会を実現する
ビジョン(ミッションのために組織は何を成すのか)
産業財産権を通じて、
未来を拓く「知」が育まれ、新たな価値が生み出される
知財エコシステムを協創することで、イノベーションを促進する
バリュー(ビジョンのために職員はどのような指針で行動・判断するのか )
▶透 明 性 を も っ て 、 公 正 、 公 平 に 実 務 を 行 う
▶ユ ー ザ ー の 立 場 で 考 え る
▶前例にこだわらず、改善を続ける
▶プ ロ フ ェ ッ シ ョ ナ ル と し て 主 体 的 に 行 動 す る
▶特 許 庁 全 体 の 視 野 に 立 つ
(特許庁HP: https://www.jpo.go.jp/introduction/tokkyo_mvv.html)
MVVポスター
3
イノベーション創出の現状
• イノベーションの創出類型が多様化する中、これらを推進する手段としてエコシステムの構築に
よるアプローチが欧米においても進展。
オープンイノベーション2.0(欧州)
創出類型
特徴
発明牽引型
製品・サービスの新しい発明そのものに価
値が高く、そのまま世に普及
普及・展開型
製品・サービスの改善の価値が高く、大量
生産・大量消費で普及
21世紀型
製品・サービスがデジタル化され、世界中
にスピーディーに展開
欧州では、企業、大学・研究機関、行政に加え、市民を巻き
込んでイノベーションを連携・協創するというビジネス・エ
コシステムの形成を目指す動きが2013年より発展。
(出典:「オープン・イノベーション白書第3版」に基づき、特許庁作成)
上記類型ごとの重要性は、業界特性や製品・サービスの特性
等によって変化し、それぞれのメリット・デメリットを捉え
た上で、複合的に活用されることが望ましい。
USPTO 2022-2026 戦略計画(案)
これら創出類型を実現・効率化する手法として、両利きの経
営や、オープンイノベーション等が挙げられる。
Vidal USPTO長官:これまで以上に、イノベーション・マイ
ンドセットを育み、包摂的なイノベーション及び起業家精神、
経済的豊かさ、米国の競争力、サプライチェーンのレジリエ
ンシー、国家安全保障並びに世界的な問題の創造的な解決を
促進する知財エコシステムが必要。
(出典:「オープン・イノベーション白書第3版」に基づき、特許庁作成)
(出典:“Draft USPTO 2022-2026 Strategic plan”に基づき、特許庁作成)
4
知財エコシステムの協創
• イノベーションを創出するエコシステム構築の重要性はより一層増しており、活発なイノベー
ションの創出には、企業、大学・研究機関、行政等の綿密な連携が不可欠。
• イノベーション(新たな価値)の創出を促進する知財エコシステムの構築・協創にあたっては、
エコシステムに属する各主体が、それぞれの強みを持ち寄り・発揮することが重要。
知財エコシステムとは
知的財産を創造し、保護し、活用する循環を示す
知的創造サイクルの概念に加え、
そこから生まれる知的財産を基に、人々が互いに、
また、社会に対して好影響を及ぼし、自律的に
新たな関係が構築され、新たな「知」が育まれ、
新たな価値が生み出される、いわば知的財産の生態系
JPO
裁判所
METI
金融機関
VC
弁護士
弁理士
SU
大学
(特許庁HP: https://www.jpo.go.jp/introduction/tokkyo_mvv.html)
知財推進計画2022 II.4.今後の知財戦略の方向性
スタートアップ、個人、中小企業など幅広い主体がイ
ノベーションに参画し、互いにオープンイノベーショ
ンを通じて連携しながら、ビジネスを拡大していく
チャンスを掴むことができるような知財エコシステム
を速やかに日本で構築することが、日本の知財戦略に
求められる最大の課題である。
大企業
SMEs
発明者
知財エコシステム概要
5
2.特許庁の強みを活かした知財エコシステムへの貢献
特許庁
6
特許庁の強みを活かした知財エコシステムへの貢献(概要)
• 知財エコシステムにおいて特許庁のみが提供し得る役割及び特許庁独自のリソースを強みとして、
これらをユーザとともに深化・活用して、知財エコシステムに貢献。
1 世界最速・最高品質の審査
⚫ 2023年度までに、知財エコシステムに不可欠な基盤である
世界最速・最高品質の審査を実現する見込み。
⚫ 事業戦略に応じた権利取得を支援
4
知財シンクタンクとしての貢献
⚫ 先駆的な知財活用の事例集やライセンス交渉の手引きなど、
中立的な知財シンクタンクとして客観的な情報発信
→ 11ページ
→ 8ページ
2
審査実務を担う専門人材
⚫ 専門性に基づく適切な権利付与
⚫ 審査実務の専門的知識を活用した技術動向調査等の
情報発信
⚫ 審査業務を熟知した職員主導の、
ツールの内製(アジャイル開発)による
業務の高度化・効率化
特許庁定員数(2022年度)
→ 10ページ
3
国内外の知財ネットワーク
⚫ 国内外のネットワークによる情報収集・発信
⚫ シンポジウムの開催など、ネットワーキングの場の提供
→ 12-14ページ
5
国際調和・国際協力
⚫ 先進国間での制度・運用調和やIT化に向けた議論をリード
⚫ 途上国・新興国への研修等の提供を通じて知財制度・運用を整備
⚫ 海外における早期権利化を支援するPPHネットワークの形成
→ 15-16ページ
2022年版特許行政年次報告書に基づき特許庁作成
7
世界最速・最高品質の審査
• 国際的に信頼される質の高い審査をタイムリーに行うことで、日本の審査結果が海外でも通用し、
海外において迅速かつ予見性をもって権利化を図れることで、企業のグローバルな事業展開を支援。
• 審査の早さについては、概ね世界最速を実現しており、審査の質についても高い評価を得ている。
審査全般の質に関するユーザ満足度(2022)
特許審査
通常の審査
早期審査
スーパー早期審査
10.1 か月
2.6 か月
0.8 か月
15.2 か月
FA期間
5.6 か月
FA期間
FA期間
権利化までの期間
PCT
2.6
か月
権利化までの期間
権利化までの期間
意匠
商標
2021年度
2021年度
2021年度
FA期間
USPTO
16.9 か月
EPO
4.8 か月
CNIPA
12.5 か月
KIPO
12.2 か月
権利化までの期間
23.3 か月
23.0 か月
18.5 か月
16.0 か月
EPO, CNIPA, KIPO : IP5 Statistics Report 2021,
USPTO : PERFORMANCE AND ACCOUNTABILITY REPORT FY2021
意匠審査
通常の審査
商標審査
早期審査
6.4 か月
2.2 か月
7.4 か月
FA期間
権利化までの期間
2021年度
通常の審査
特許
0%
不満
IAMによるIP5の特許の質の比較(2021)
CNIPA
早期審査
EPO
2.1 か月
JPO
- か月
9.6 か月
FA期間
- か月
KIPO
権利化までの期間
権利化までの期間
2021年度
FA期間
2021年度
100%
満足
特許庁調べ。
8.0 か月
FA期間
20%
40%
60%
80%
比較的不満
普通
比較的満足
USPTO
権利化までの期間
2021年度
0%
Poor
※特許・意匠・商標のFA期間・権利化までの期間はいずれも平均値。特許庁調べ。
20%
40%
60%
80%
Adequate Good Very Good
100%
Excellent
Ecellent
IAM Special Report Q4 2021, “IP5 Insights”に基づき、特許庁作成。
8
事業戦略に応じた権利取得を支援する審査
• 企業の事業戦略に応じた権利取得を支援するため、面接審査等により出願人とのコミュニケーショ
ンを充実し、事業戦略対応まとめ審査やスタートアップ対応面接活用早期審査等を提供。
事業戦略対応まとめ審査
⚫
⚫
スタートアップ対応 面接活用早期審査
事業戦略に関連する知的財産(特許・意匠・商標)を分野横断的
に審査に着手し、必要なタイミングでの権利化を可能とすること
により、企業の事業展開を支援。
審査官が事業を十分に理解して審査を行うため、事業に役に立つ
権利取得が可能。
出願
事業説明
⚫
権利取得の経験が少ないスタートアップに向けて、
面接活用早期審査では、コミュニケーションを充
実し、きめ細かなサポートを提供。
審査請求
審査
早期審査の申請
面接
事
企
業
事業戦略
装置制御
電池
モータ
素材
製造技術
電気自動車
車体デザイン
(意匠)
ロゴ
(商標)
業
必要な知的財産の権利化
発明の技術やその意義、
事業戦略上の位置づけ
等
出願の内容
特許
特許庁
審査官が企業の
事業戦略を理解
各分野の審査官
による協議
意匠
一次審査
商標
最終処分
スタートアップ
特許性に関するアドバイス、
特許庁のスタートアップ関連
施策や知財活用の実例の紹介
等
審査官
9
審査実務を担う専門人材
• 審査実務を担う専門人材は、その専門的知識を、適切な権利付与の他、ユーザへの情報発信や業
務の高度化・効率化においても発揮。
特許出願技術動向調査
人工知能(AI)技術の活用に向けた検討
⚫ 注目度の高い技術テーマを選定し、当該技術を担当する
特許審査部において調査を実施。
⚫ 特許情報に基づき日本が優位にある分野や、今後の研究
開発の方向性等について分析を行い、審査の基礎資料と
して用いるとともに、企業の研究開発戦略や知財戦略等
を策定するための基礎資料として提供。
⚫ AIの活用が期待される各業務に精通した特許庁職員が、AI活
用に主体的に取り組み、アジャイル型開発を主導。
人工知能(AI)技術の活用に向けたアクション・プラン(令和4~8年
度版)
<2022年度の調査テーマ>※本年4-5月頃に公表予定。
LiDAR
スマート物流
ヒト幹細胞関連技術
ミリ波帯のMIMO及びアンテナ技術
(5Gへの応用を含む分析)
カーボンニュートラルに向けた水素・アンモニア
技術(製造から利用まで)
(※)各事業の取組は大まかな想定であり、開発の進捗状況や予算の状況、
その他の諸情勢により、変更がありうる。
10
中立的な知財シンクタンク
• 事業戦略と知財戦略が一体化した知財経営の実践に向け、経営層や知財部担当者をターゲットと
して、先駆的な取組を行う企業についての事例集や、IPランドスケープに関するセミナーを提供。
企業価値向上に資する
知的財産活用事例集
新事業創造に資する
知財戦略事例集
IPランドスケープセミナー
⚫ IPランドスケープを活用した知財経営
の普及・定着に貢献することを目的と
して、IP ePlatにおいてセミナー動画
を提供。
第1回IPランドスケープ
セミナー
⚫ 知財・無形資産を活用した経営戦略
により企業価値向上に取り組んだ企
業をとりまとめた事例集。
⚫ 知財部門と経営層とのコミュニケー
ション、投資家などのステークホル
ダーに対する知財情報の開示の内容
にフォーカス。
⚫ 共創(Co-creation)による新事業創
造と知財戦略の連携に関する事例集。
⚫ 共創(Co-creation)による事業創造
の全体像を俯瞰し、経営層・新事業
開発・知財の各立場における「悩み
や課題」にフォーカス。
第2回IPランドスケープ
セミナー
IPランドスケープの基礎
11
国内の知財ネットワーク
• INPITを始めとする関係機関との連携により、中小企業等における知財経営支援を実施。
• 全国の大学に出向する特許庁職員により、大学における知財活動を支援。
知財活用アクションプラン
⚫ 中小企業・スタートアップ版(中小企業庁&特許庁・INPIT 2021.12.27公表)
1.知財経営支援の中核機関としてINPITの機能強化
①「加速的支援事業」(伴走型支援)の開始
②特許庁スタートアップ支援事業(IPAS)の移管
③知財総合支援窓口の機能強化(知財情報分析の活用促進)
④商店街のブランディングを支援する「地域ブランドデザイナー」の派遣開始
⑤中小企業関係支援機関との組織的連携の開始(MOU締結)
大学等への出向者
⚫
大学等への出向者派遣により、出向先関係者の知財
マインドの向上、産学連携機能の強化、現場ニーズ
の吸い上げ等を実施。
2.中小企業庁と特許庁・INPITの連携強化
①中小企業支援における知財課題解決の抜本的強化(特許庁・INPITの支援策により
全面的サポート)
②知財取引適正化の抜本的強化(下請かけこみ寺と知財総合支援窓口の連携開始)
⚫ 大学版(産業技術環境局&特許庁・INPIT 2021.12.10公表)
1.特許庁・INPITの大学支援機能強化
①INPIT「産学連携・スタートアップアドバイザー事業」(伴走型支援)の開始
②特許庁・INPITの知財専門家派遣事業の発展的統合(シーズ発掘から社会実装までの
シームレスな支援実現)
③「日本出願を基礎としたスタートアップ設立に向けた国際的な権利化支援事業」の
創設
2.産業技術環境局と特許庁・INPITの連携強化
①若手研究者発掘支援事業、J-Innovation HUBにおける知財課題解決の抜本的強化
(特許庁・INPITの支援策により全面的サポート)
②産学官連携の各種ガイドラインの知識向上(産学連携ガイドライン、モデル契約書の
周知・理解促進)
北海道大学
大阪大学
大阪工業大学
東北大学
会津大学
鳥取大学
広島大学
香川大学
名古屋大学
信州大学
東京大学
東京工業大学
東京医科歯科大学
一橋大学
千葉大学
産業技術総合研究所
NEDO
(新エネルギー・産業技術総合
開発機構)
JOGMEC
(エネルギー・金属鉱物資源
機構)
NICT(情報通信研究機構)
AMED(日本医療研究開発
機構)
等
12
国内外の知財ネットワーク
• 国内外の知財関係者を登壇者とするシンポジウム等の開催により、最新の知財トピックスに関す
る知見と、参加者間のネットワーク構築の場を提供。
• 特許庁の知財専門家を世界各地に配置し、企業の海外展開を支援。
シンポジウム等の開催実績(2022)
特許庁の海外ネットワーク
グローバル知財戦略フォーラム(2月)
⚫
⚫ グローバルな知財動向に関する講演に加え、ESG時代の
企業価値向上における知財情報活用の現状と課題等につ
いてパネルディスカッションを実施。
三極知財・環境問題シンポジウム(3月)
⚫ カーボンニュートラル社会の実現に向け、日米欧の産業
界及び三極特許庁によるパネルディスカッションを実施。
海外駐在員による現地の知財動向の収集・発信に加え、現地の
知財関係者や企業の駐在員とのネットワークの形成など、企業
の海外展開を支援。
中国
(JETRO北京事務所)
ドイツ
(JETROデュッセルドルフ事務所)
スイス
(WIPO)
標準必須特許に関する国際シンポジウム(5月)
中国
(JETRO香港事務所)
韓国
(JETROソウル事務所)
⚫ SEPに関する各国の最新動向や、「SEPのライセンス交
渉に関する手引き」の改訂に関連する論点についてパネ
ルディスカッションを実施。
フランス
(OECD)
国際知財司法シンポジウム(10月)
インド
(JETROニューデリー事務所)
⚫ 最高裁判所、日本弁護士連合会等との共催により、米
国・欧州から知財司法関係者を集めて、知財関係紛争や
審判制度に関する講演・パネルディスカッションを実施。
アメリカ
(JETROニューヨーク事務所)
アメリカ
台湾
(NEDOシリコンバレー事務所)
(日本台湾交流協会台北事務所)
UAE
(JETROドバイ事務所)
ベトナム
(国家知的財産庁)
タイ
(JETROバンコク事務所)
シンガポール
(JETROシンガポール事務所) インドネシア
ブラジル
(JETROサンパウロ事務所)
(法務・人権省知的財産権総局)
(東アジア・アセアン経済研究センター)
13
知財エコシステムへの包摂
• 知財専門家等の派遣事業を通じて、中小企業やスタートアップを知財エコシステムに包摂し、事
業戦略と一体化された知財戦略の定着を促進。
知財アクセラレーションプログラム(IPAS)
中小企業に対するハンズオン支援
⚫ ビジネスの専門家と知財専門家からなる知財メンタリング
チームが、適切なビジネスモデルの構築と、ビジネス戦略に
連動した知財戦略の構築を支援。
⚫ プログラムを通じて得られたナレッジ集は、スタートアップ
コミュニティに還元。
⚫ 産業財産権専門官(特許庁職員)による、知財活用の意欲の
ある中小企業向けに、ハンズオン支援を実施。
⚫ 知財戦略上の課題抽出や、知財戦略立案の支援に加え、知財
戦略の実現に資する支援ツール・専門家を紹介。
支援イメージ
ハンズオン支援のイメージ
スタートアップ
提携/M&A
IPO(株式公開)
成熟期
創業
準備期
創業期
価値評価
成長期
知財戦略の構築を支援
知財メンタリングチーム
ベンチャーキャピタル経験者
・スタートアップ支援コンサ
ルタント
知財専門家とビジネス専門
家の合計400名以上が登録
スタートアップ支援
経験のある弁護士・
弁理士
プ
ッ
シ
ュ
型
訪
問
専
門
家
派
遣
全国へ訪問
知財戦略構築に向けた提案
プッシュ型
訪問
課題の抽出
産業財産権専門官
(知的財産室含む)
課題の解決
弁理士等、企業の課
題に応じた専門家
14
国際的な制度・運用調和等への貢献
• 先進国間における制度・運用調和やIT化の議論を通じて、国際的なワークシェアリングを推進す
るとともに、審査プロセスの質の向上や、各国への出願手続コストが低減する環境を整備。
• 各種研修の提供を通じて、新興国・途上国における知財インフラの整備に貢献。
三極特許庁や五庁の枠組を通じた成果の例
新興国・途上国に対する支援の例
OPD(ワンポータル・ドシエ)
知財人材の育成
⚫ 関連出願の各庁における審査経過情報を一括して表示するOPDは、
2008年にJPOが主導して五庁に提案。当初は審査官にのみ提供してい
たが、後にユーザにも提供。また、WIPOのドシエ情報共有システム
(WIPO-CASE)との連携により、情報共有ネットワークは五庁の枠を
超えて拡大。
⚫ 研修の提供による知財人材育成を通じて、知財制度
及びその運用の確立・強化を支援。
⚫ 2022年3月までに、100ヶ国5地域、7,377名の研
修生が研修を修了。
CAF(共通出願様式)
専門家派遣
⚫ 三極ユーザ団体の要望を受けて、三極特許庁で共通の出願様式(明細
書等における記載項目及びその順序)の検討がされ、2009年よりCAF
に則った出願の受付を開始。現在、韓国、中国への出願においてもCAF
が採用されており、ユーザの手続負担の軽減を実現。
⚫ WIPOに設置した信託基金“Funds-in-Trust Japan
IP Global”に基づく取組として、知財制度及び運用整
備のため、特許庁職員等を各国特許庁に派遣。
⚫ 2022年3月までに、400名以上の専門家を途上国に
派遣。
⚫ JICAの事業と連携して、特許庁職員を長期専門家と
してベトナム及びインドネシアに派遣し、特許審査
の運用向上等に向けた支援を実施中。
運用調和に向けた審査実務に関する研究
⚫ 三極特許庁は、2007~2009年にかけて、記載要件、新規性、進歩性
について審査基準の比較研究や事例研究を実施・公表。
⚫ 五庁PHEP(特許調和専門家パネル)は、発明の単一性、先行技術の引
用、記載要件の3つのプロジェクトに取り組み、2019年に完了。
⚫ 相互理解の深化による審査におけるワークロード低減に加え、ユーザ
の予見性の向上に寄与。
15
国際的な制度・運用調和等への貢献(続き)
• 日本が提唱し、2006年に世界に先駆けて米国との間でPPH(特許審査ハイウェイ)が開始され
て以降、PPHを実施する庁は54庁に拡大。
• 日本起点のPPHを活用することで、グローバルポートフォリオの迅速な構築が可能に。
PPHによる早期権利化の例
⚫
PPHの利用により、審査待ち期間の短縮と、特許率の向上を実現。
⚫
日本との間でPPHを実施する庁は44庁であり、日本は世界最大の
PPHネットワークを構築。
⚫
⚫
2021年にフランスと世界で初めてPPHを開始。
日本は、世界で唯一ASEAN主要6ヶ国全てとPPHを実施。
ブラジル
通常出願の平均最終処分期間
約60か月
PPH申請出願の
平均最終処分期間
約8か月
ベトナム
通常出願の平均最終処分期間
特許
約50か月
PPH申請出願の
平均最終処分期間
約9.5か月
※期間のデータは、WIPO “World Intellectual Property Indicators 2022”,
ブラジル特許庁ダッシュボード, ジェトロシンガポール事務所・バンコク
事務所 知的財産部”ASEANの知財概況”を基に特許庁作成
16
3.協創に向けた最近の取組
特許庁
17
グリーン・トランスフォーメーション技術区分表
(GXTI; Green Transformation Technologies Inventory)
•
•
GXに関する技術を5つの技術区分と横断的な4つの視点により俯瞰できるようにした技術区分
表(GXTI)を昨年6月に作成・公表。
GXTIが、GX技術を特許情報に基づいて分析する際の共通資産となることを期待。
検索式は審査官が作成
(例)太陽光発電の制御・調整
[H01L(31/04+51/42)/ip+H02S/ip+H02J7/35/ip] * G05/ip
gxA01a(太陽光発電)
gxY01(制御・調整)
◆ 企業においては、企業価値や社会的価値
の向上を目的として、自社のGXに向けた
取組の開示が進められている。
◆ コーポレートガバナンス・コードの改訂
(2021年6月)により、企業等において
は、気候変動に係るリスク及び収益機会
が、自社の事業活動や収益等に与える影
響についての開示が求められている。
◆ GXに関する技術情報の俯瞰や、各企業に
おけるGXに関する取組及び事業への気候
変動の影響等を客観的に示す手法として、
特許情報の分析は有効な手法の一つ。
18
GXTI・マクロ調査(中間結果)
•
GXTIの技術区分単位で各国の特許出願動向を概括する調査を行い、日本が強みを有する分野等
を見出す取組を実施中。本年5月頃に調査結果を公表予定。
GXTI・マクロ調査の中間結果概要
⚫
GX技術区分のうち「太陽光発電」、「燃料電池」、「建物等の省エネルギー化(ZEB、ZEH等)」、「電動モビリティ」、
「二次電池」、「高効率モータ・インバータ」、「電気二重層キャパシタ・ハイブリッドキャパシタ」、「非CO2温室効果ガ
ス対策」において、 日本国籍の出願人による国際展開発明件数※が最も多い。
(※)国際展開発明件数とは、複数の国・地域へ出願された発明の数。IPF(International Patent Family)と称されることもある。
⚫
2019年単年で見ると、エネルギー供給技術区分の過半において、中国籍の出願人による国際展開発明件数が上位3位に入って
おり、中国籍の存在感が近年高まっている。
主要なGX技術区分における国際展開発明件数
エネルギー供給技術区分における国際展開発明件数ランキング
2010-2021
日本国籍 米国籍
2019
欧州籍
中国籍
韓国籍 日本国籍 米国籍
欧州籍
中国籍
韓国籍
太陽光発電
1
2
3
5
4
1
3
2
4
5
太陽熱利用
3
2
1
4
5
4
2
1
3
5
風力発電
3
2
1
4
5
4
2
1
3
5
地熱利用
3
2
1
4
5
5
2
1
3
4
水力発電
3
2
1
4
5
4
3
1
2
5
海洋エネルギー発電
5
2
1
3
4
4
3
1
2
5
バイオマス
3
1
2
4
5
4
2
1
3
5
原子力発電
3
1
2
5
4
5
1
2
4
3
燃料電池
1
3
2
5
4
1
3
2
5
4
水素技術
3
2
1
5
4
3
2
1
5
4
アンモニア技術
3
2
1
4
5
3
2
1
4
5
特許庁調べ
19
オープンイノベーション促進のためのモデル契約書
• 「想定シーン」のもと、スタートアップと事業会社の連携を通じ、知財等から生み出される事業
価値の総和を最大化できるような契約書の例を提示
• 「秘密保持契約」、「PoC契約(技術検証)」、「共同研究契約」、「ライセンス契約」、「利
用契約」といった、複数の契約形態に対応
[スタートアップ×事業会社]
⚫ 新素材編(Ver.2.0/2022年3月公表)
⚫ AI編(Ver.2.0/2022年3月公表)
[大学×スタートアップ]
[大学×事業会社]
⚫ 大学編(2022年3月公表)
出典:特許庁ウェブサイト「オープンイノベーションポータルサイト」
(https://www.jpo.go.jp/support/general/open-innovation-portal/index.html)
20
モデル契約書の実物とその特徴
条項例を提示
想定シーンを設定
条項の解説付き
条項の変更例も提示
…
(モデル契約書はゴールド・スタンダード
ではない)
…
想定シーンと前提条件が合わないケース
では、条項のチューニングも必要
…
※想定シーンや条項例の作成にあたっては、公正取引委員会による「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」に
記載の問題事例への対応についても考慮
21
標準必須特許のライセンス交渉に関する手引きの改訂
• 初版が公表された2018年以降の標準必須特許に関する裁判例や、内外の政府機関の公式声明等
を踏まえ、意見募集の内容も反映して2022年6月に改訂。
• 「生きた」手引きであり続けるよう、透明性の高い手続で今後も随時見直しを行う。
改訂のポイント
⚫ ライセンス交渉を巡る論点をできるだけ客観的に整理し、規範の設
定や、法的拘束力を持つものでないとの目的・位置づけを維持。
⚫ 特許権者がライセンス交渉の際に提示する情報に関する記述を変更
✓ クレームチャートの提供が一般的である旨の記載は維持しつつ、クレーム
チャートの提示は義務ではないとする裁判例(ドイツ)の存在を反映。
⚫ サプライチェーンにおける交渉の主体に関する記述を変更
✓ 特許権者は最終製品メーカーをライセンス交渉先としてよいする裁判例(ドイ
ツ)の存在を反映。
⚫ 国際裁判管轄に関する新規セクションを追加
✓ 一国の裁判所がグローバル・ロイヤルティレートを決定できるとする裁判例
(英国、中国)の存在を反映。
✓ 訴訟差止命令(ASI:Anti-Suit Injunction)を発出した裁判例(中国など)
の存在を反映。
⚫ 経済産業省の「標準必須特許のライセンスに関する誠実交渉指針」
への言及
標準必須特許ポータルサイト
(https://www.jpo.go.jp/support/general/sep_portal/index.html)
22
社会課題×知財:I-OPENプロジェクト
•
•
社会課題解決に取り組むスタートアップ企業、非営利法人、個人等が、知財やビジネスに精通した
専門家の伴走支援を受け、知財を活用しながら、社会課題解決を目指すプロジェクト。
このプロジェクトを通じて生まれた、社会価値を共創するツールとしての知財の活用事例等を、
2025大阪・関西万博でも世界に情報発信するべく、国際会議の場でも積極的に情報発信中。
豊かな社会を願い、想いと創造力から生まれる知的財産をいかして、未来を切り拓く
情熱を有する人(I-OPENER)を生み出すエコシステムの実現を目指す
●コミュニティの構築
基盤づくりと中期ビジョン
策定を目指して実証中
“I-OPEN Supporters”
知財専門家(弁理士・弁護士)、社会課題解決の
I-OPENERを生み出す
コミュニティ
専門家(デザイナー、社会起業家、経営者等)等
メンタリング等
による社会実装支援
●社会的価値の創出
伴走型支援を通じて、知財
を活用した社会課題の解決
を推進
Web等のメディア
での展開
●情報発信
例えば、環境問題、ジェンダー平等、
貧困問題等の社会課題に取り組む
ソーシャル・イノベーター
・COMMUNITY GUIDEの公開
・フォーラム開催 など
23
4.知財エコシステムの今後の在り方
特許庁
24
IPランドスケープによる知財ガバナンスの深化
• イノベーションの創出類型は多様化・複雑化しており、ビジネス環境が大きく変化する中、これ
まで以上に、事業・経営戦略、知財戦略、研究開発戦略の一体化が必要。
• IPランドスケープ(※)の実践は、経営の意思決定、経営戦略・事業戦略の策定、研究開発テー
マや新製品・サービスの決定、市場優位性の確保など、企業の戦略立案を一気通貫で支えるもの。
(※)IPランドスケープとは、 (1)事業・経営情報に知財情報を組み込んだ分析を実施し、その分析結果(現状の俯瞰・将来展
望等)を事業責任者・経営者と共有すること。その結果に基づいて、意思決定が行われること。
IPランドスケープの導入・実施により得られた成果
IPランドスケープの導入・実施による効果
70
n=152
経営の意思決定
50
71
協業先の選定
62
60
経営戦略・事業戦略の策定
52
50
42
29
M&A候補の選定
40
15
年度計画や中期計画の完成
30
48
新たな研究開発テーマの決定
59
新たな製品・商品・サービスの決定
20
28
24
17
43
顧客候補の選定
10
10
16
既存事業の市場優位性の確保
0
44
新規事業分野の決定
さ
が
向
上
23
共同研究先の選定
19
資金調達の成功
5
IR活動の成功(有価証券報告書の発行…
7
成果は未だ得られていない
28
その他
12
0
n=152
20
40
60
80
※IPランドスケープが実施できていると回答した152者による回答(複数回答可)。
経
営
・
事
業
判
断
の
意
思
決
定
の
速
確
性
が
向
上
経
営
・
事
業
判
断
の
意
思
決
定
の
正
択
肢
が
増
加
経
営
・
事
業
判
断
の
意
思
決
定
の
選
択
肢
の
抜
け
・
漏
れ
が
抑
制
経
営
・
事
業
判
断
の
意
思
決
定
の
選
出典:令和3年3月 特許庁「経営戦略に資する知財情報分析・活用に関する調査研究報告書」
る
エ
ビ
デ
ン
ス
(
証
拠
)
と
な
っ
た
経
営
・
事
業
判
断
の
意
思
決
定
に
至
効
果
は
未
だ
得
ら
れ
て
い
な
い
そ
の
他
25
IPランドスケープによる知財ガバナンスの深化(続き)
• 一方で、企業においてIPランドスケープが必要と回答した者は約8割いるものの、十分に実施で
きている者は約1割であり、必要性の認識と実施状況に大きなギャップが存在している。
• IPランドスケープによる三位一体の経営戦略の深化には、(1)経営層の理解、(2)事業部門
や研究開発部門等の関係部門との連携、(3)分析スキルを有する人材等が必要。
[必要性]
[実施状況]
n=1515
n=1515
よく分からない
22%
2%
実施できており、
10% 経営者等への共有が
できている
必要
8% 実施できている
31%
55%
不要
45%
必要になる可能性がある
実施していない
27%
目指すべき理想の姿
⚫ 経営層の理解・ガバナンスの下、事業
部門や研究開発部門等の関係部門が連携
し、事業・経営情報に知財情報を組
み込んだ分析結果に基づいて、事
業・経営戦略、知財戦略、研究開発戦略
が企画立案されること。
意欲はあるが、
実施できていない
出典:令和3年3月 特許庁「経営戦略に資する知財情報分析・活用に関する調査研究報告書」
26
スタートアップ支援の強化(知財経営の定着と知財エコシステムへの包摂)
• 知財アクセラレーションプログラム(IPAS)及びベンチャーキャピタルへの知財専門家派遣
(VC派遣)を通じて、支援先企業のサポートのみならず、知財エコシステムの構築に貢献。
好循環1
• SU及びVCが、自力で知財戦略を構築できるようになる。
• VCは、SUに対し知財戦略の構築を支援できるようになる。
→VCは、支援年度以降も異なるSUに対して次々と支援可能。
EXIT
ロールモデル
VC派遣
IPAS
IP BASE
ナレッジ集
SU・VCにおける知財戦略構築スキルの蓄積
SU・VCと専門家とのコネクションの形成
来年度から
本格実施
SUが必要とする知財戦
略構築を支援できる専門
家を国として派遣する。
=好循環の呼び水
VC派遣
or
IPAS
目指すべき理想の姿
知財
専門家
VC
審査段階における
審査官による支援
キャピタ 知財
リスト 専門家
ビジネス 知財
専門家 専門家
VC
SU
SU
VC
SU
SU
知好
財循
戦 環2
略
の
浸
透
VC
SU
• スタートアップコミュニティに知財戦略を立てるという意識が醸成される。
=スタートアップ(SU)が知財戦略を持つことが当たり前。
• スタートアップが知財戦略構築の支援を受けやすい。
スタートアップが、自律して知財戦略を構築した上で、EXITを目指すエコシステムを構築。
27
(参考)スタートアップ支援に関する政府の動向
新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(令和4年6月7日閣議決定)
Ⅲ.新しい資本主義に向けた計画的な重点投資
3.スタートアップの起業加速及びオープンイノベーションの推進
(1)スタートアップ育成5か年計画の策定
・「イノベーションを促進するには、①スタートアップの創業促進と、②既存大企業がオープ
ンイノベーションを行う環境整備、の双方が不可欠である。」
・「スタートアップの育成は、日本経済のダイナミズムと成長を促し、社会的課題を解決する
鍵である。このため、以下の項目等について、実行のための司令塔機能を明確化し、新しい
資本主義実現会議に検討の場を設け、5年10倍増を視野に5か年計画を本年末に策定す
る。」
スタートアップ育成5か年計画
(令和4年11月28日新しい資本主義実現会議(第13回)資料)
6.第三の柱:オープンイノベーションの推進
(4)スタートアップへの円滑な労働移動
・「スタートアップの事業化に向け、経営・法務・知的財産などの専門家による相談や支援を
強化する。また、ベンチャーキャピタルを通じて知財戦略専門家をスタートアップにつなぐ
などの支援を強化する。」
28
地域ブロックレベルでの支援強化(知財経営の定着と知財エコシステムへの包摂)
•
イノベーションの促進のためには、その源泉である中小企業・スタートアップや大学を知財エコ
システムに包摂することが不可欠。そのためには、知財の創出現場に近い地域ブロックレベルで
も支援を強化することが必要。
•
支援にあたっては、知財経営の定着やシーズの戦略的な事業化等に向けて、地域の特性やニーズ
に応じた支援を提供することが肝要であり、地域ブロックにおける各支援機関の連携により、必
要な支援をパッケージとして提供することが重要。
地域知財経営支援ネットワーク(仮称)
地方支局
(財務局等)
目指すべき理想の姿
⚫ 各地域の状況に応じた形で地域知財経
中小機構
各地の
商工会議所
(地域本部)
営支援ネットワークを形成し、地域に
発明協会
(各地)
知財経営支援のコア
地方自治体
経産局
INPIT
(知財室)
(ブロック機能)
おけるニーズの全体把握、情報の共有を
図り、事案にあった機関との連携し
よろず支援拠点
マッチング支
援機関
弁理士会
た知財経営支援を行い、地域の稼ぐ
力の向上させる。
(地域会)
地域の
金融機関
JETRO
(各県)
知財経営支援
ニーズ
中小企業・スタートアップ・大学
29
人材の多様性・包摂性によるイノベーションの促進
• イノベーションを創出するには、異なる属性(性別、年齢、国籍、価値観、キャリア、経験等)
を有する人材の多様性の強みを生かすことが重要であり、属性面での人材多様性を高めるだけで
なく、多様な人材を組織内に包摂する取組が同時に行われることが不可欠。
• また、知財エコシステム全体として、多様な人材を新たに包摂することも肝要。
(PCT)発明者における女性の割合・
女性発明者を少なくとも1名含む出願の割合
多様性が生産性に与える影響
男女別研究者数と女性研究者の割合
(2013~2017年度のTFPの伸び)
2021
多様性の増加✕
取組なし
多様性の増加
発明者における女性の割合
女性発明者を少なくとも1名含むPCT出願の割合
出典:WIPO IP Statics Dataに基づき、特許庁作成
目指すべき理想の姿
女性研究者数
女性研究者の割合
男性研究者数
多様性の増加✕ 多様性の増加✕
計画・ビジョン 柔軟な働き方
出典:内閣府「令和元年度 経済財政白書」に基づき、
特許庁作成
※日本は、2021年のデータ、韓国は、2020年のデータ
英国(見積値)、イタリア、ドイツは、2019年のデータ
フランスは、2017年のデータ(暫定値)
出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所「科学技術指標2022」
を基づき、特許庁作成
⚫ 各組織及び知財エコシステムに、イノベーションに寄与するような多様な人材を包摂する環境の整備。
30
知財を通じた環境問題の解決への貢献
• 気候変動問題を始めとする環境問題の解決には、GX技術の研究開発の促進が不可欠であり、そ
のためには、着実な権利設定を通じた発明へのインセンティブ付与や、GX技術の動向を特許情
報に基づき俯瞰可能とすることが重要。
• 加えて、ESG投資の拡大等を踏まえると、自己のGX技術に対する取組や技術優位性を、企業等
が価値創造ストーリーとともにエビデンスベースで説明・開示できるようになることで、更なる
投資を呼び込む好循環を生むことが肝要。
GXTIの特徴
5つのGX技術と横断的な4つの視点で、
GX技術を俯瞰
公表された特許検索式で、
誰でも、同じ条件で、調査可能
検索式に出願人名を含めることで、出願人毎の
データ取得も可能。
大区分、中区分、小区分を備えた階層構造により、
目的に応じた調査が可能。
国際特許分類(IPC)に基づく式で
世界中の文献が検索可能
目指すべき理想の姿
⚫ GX技術の動向を踏まえた、事業・経営戦
略、知財戦略、研究開発戦略が立案され
るとともに、GX分野における技術優位性
等を価値創造ストーリーと併せてグロー
バルにアピール可能となることで、企業
等の経済的価値及び社会的価値が向
上すること。
⚫ それにより、気候変動問題を始めとする
環境問題の解決のためのイノベー
ションが促進されること。
31
5.特許庁の今後の取組
特許庁
32
知財エコシステムの協創に向けた今後の取組について
• 特許庁のみが提供し得るサービス(例:世界最速・最高品質の審査)を深化させながら、知財エ
コシステムの課題については、「知財ガバナンスの深化」及び「包摂的なイノベーション」の2
つの観点から、特許庁の強みを活かしたアプローチを推進する。
• 国内外のビジネス環境や技術革新など知財エコシステムを取り巻く環境が絶えず変化している中、
イノベーションを創出し続けるレジリエントな知財エコシステムを構築するために、特許庁の強
みを活かした今後の取組として期待されるものは何か。
1 知財ガバナンスの深化
◼ GXTIの活用やIPランドスケープの実践を始めとする、先駆的な取組を行う大企業、中小企業、スタート
アップをモデルケースとして他の企業に横展開することや、取組を進める上での留意点の普及啓発を引き
続き行う。
◼ 中小企業やスタートアップへの知財専門家等の派遣や、地域ブロックの支援機関の連携による知財経営支
援を通じて、これら企業における知財経営の定着に向けた取組を強化する。
具体的な取組例
令和5年度は、知財部門を含む企業内チームと経営層との十分な意思疎通・連携による、中長期的な事業成長に資する知財戦
略の策定や、IR部門等とも連携した企業価値向上に資する知財戦略の開示の在り方に関する検討を通じて、知財経営の浸透に
必要な事項を調査研究予定。
スタートアップ育成5か年計画に基づき、知財アクセラレーションプログラム(IPAS)及びベンチャーキャピタルへの知財専
門家派遣(VC派遣)を通じて、引き続きスタートアップにおける知財経営の定着を図る。
GXTIを用いて行ったGX関連技術の特許情報分析の結果を公表する。また、GXTIの国際展開に向けた取組を進める。
地域知財活性化行動計画や知財活用アクションプランに基づき、地域ブロックの支援機関の連携により、中小企業・スタート
アップ及び大学の知財経営支援を強化する。
33
知財エコシステムの協創に向けた今後の取組について(続き)
2
包摂的なイノベーション
◼ 中小企業・スタートアップ・大学等に知財専門家等の派遣を行う各種取組を通じて、これら企業・大学を
自律して知財戦略を策定する主体として、知財エコシステムへの包摂を進める。
◼ 各組織や知財エコシステムに参加する人材に着目して、多様性及び包摂性を高める取組を検討する。
具体的な取組例
知財アクセラレーションプログラム(IPAS)、ベンチャーキャピタルへの知財専門家派遣(VC派遣)及び地域ブロックの支
援機関の連携による中小企業・スタートアップ及び大学の知財経営支援の強化を通じて、支援先企業・大学の知財エコシステ
ムへの包摂を進める。
大学に対し研究シーズから社会実装に至る支援をより円滑かつ効率的に実施するため、特許庁の知財戦略デザイナー派遣事業
及びINPITの産学連携・スタートアップアドバイザー事業を発展的統合して、INPITにおいて一括実施する。
大学発スタートアップによる事業化を予定している大学等が、日本出願を基礎として海外への特許出願を行う際の費用の補助
を拡大する。具体的には、令和5年度から出願費用に加えて、中間処理の費用も補助の対象とする予定。
中小企業・スタートアップ、大学等に対する審査官によるプッシュ型支援を検討する(資料3参照)。
競争的な公的資金が投入され、革新的技術の研究開発を行うプロジェクト(ナショナルプロジェクト)に対する支援について、
知的財産プロデューサーのより積極的な関与を検討する。
パテントコンテスト・デザインコンテストの受賞者に対してイノベーターとの対話の機会を提供するなど、生徒・学生等の知
的財産マインドの向上を推進する。
人材の多様性や包摂性のイノベーション/発明への貢献について調査研究を行い、好事例について情報発信する。
調査研究を通じて、大学内研究者等に対して、起業・社会実装前の早い段階からの知財意識・実践的スキル(例、J-PlatPatを
用いた知財情報の利活用スキル)の向上に資する研修プログラムを整備する。
34
資料6
資料5
特許・意匠・商標制度小委員会の報告
産業構造審議会知的財産分科会
令和5年3月2日
特許・意匠・商標制度小委員会における審議の概要
➢ 令和4年4月に有識者からなる特許庁政策推進懇談会を立ち上げ、5回開催。同年6月30日
に、報告書を取りまとめ。
➢ 特許庁政策推進懇談会で示された、知的財産政策に関する今後の検討の方向性等も踏まえつ
つ、各論点について、産業構造審議会知的財産分科会の各小委員会において審議を行った。
②意匠制度小委員会
①特許制度小委員会
• 新規性喪失の例外適用手続
• 一事不再理
• 手続関係(オンライン送達、公示送達、優先権証明
書オンライン化、書面手続デジタル化)(※1)
• 裁定関係書類(※2)の営業秘密の閲覧制限
• ライセンス促進策
等(※3)
等
③商標制度小委員会
• 他人の氏名を含む商標の登録要件緩和
• コンセント制度の導入
• e-Filing納付
等
※1 書面手続デジタル化等、意匠・商標に関わる論点については、意匠制度小委員会及び商標制度小委員会においても報告。
※2 裁定請求書、答弁書等の、特許法等に基づき作成・提出される書類。
※3 特許制度における発明の「実施」の定義に関しては、今年度は特許庁において調査研究を実施。
開催経緯
• 特許制度小委員会(9/26、11/21、12/19、3月上旬報告書公表予定)
• 意匠制度小委員会(9/9、11/2、12/7、 3月上旬報告書公表予定)
• 商標制度小委員会(9/29、11/22、12/23、 3月上旬報告書公表予定)
1
特許制度小委員会の報告書(概要)
知財活用促進に向けた特許制度の在り方
1.一事不再理
• 悪意のある繰返し又は不当な蒸返し等の無効審判制度の濫用は防ぐべきであるという意識は共通するもの
の、現状の裁判例や審判実務により実務上の問題は生じておらず、一事不再理の客観的範囲の拡張を求め
る意見はなかった。また、裁判例や現行の運用に則して法文で明示することを求める意見もなかった。
• したがって、現時点では、法改正せず、現状の運用の更なる周知等を行うこととするのが適当である。
• ただし、今回法改正をしないことが、無効審判制度の濫用を容認することを意味するものではなく、今後、
実務の動向を注視しつつ、状況が変化した場合には、本小委員会において改めて検討すべきである。
2.送達制度の見直し
• 特許庁におけるオンライン発送制度の見直しに当たっては、出願人等が出願ソフトを立ち上げた時に、特
許庁の受付サーバに発送書類が格納された旨の通知が送付される案を基本として検討を進めることが適当
である。その際、送達の効力発生までの期間については、特許庁の受付サーバに発送書類が格納された時
から「10 日間」とするとともに、適切な運用を検討すべきである。
• また、公示送達の方法についても、デジタル化を促進する観点から、特許公報への掲載を改善し、特許庁
ホームページに掲載することにより実施する方向で検討を進めることが適当である。
• さらに、戦争やコロナ禍の影響により現実に国際郵便の引受けが停止され、当該国に対して航空書留郵便
等に付する発送ができない状況が長期間継続した場合には、公示送達を実施することができるよう、公示
送達の要件を見直す方向で検討を進めることが適当である。ただし、在外者へ公示送達の内容を了知させ
る手段についても、ユーザー利便性等も勘案しながら、国際郵便以外の方法について引き続き検討する必
要がある。
2
特許制度小委員会の報告書(概要)
知財活用促進に向けた特許制度の在り方
3.書面手続デジタル化
• ユーザーの利便性向上につながることであり、一層の取組を加速して欲しい旨の意見がなされ、反対意見
も提示されなかったことから、(1)書面手続デジタル化に向けた関係手続整備を進め、また、(2)優
先権証明書の写しの提出を許容するとともに、オンライン提出を可能とすることが適当である。
4.裁定関係書類の閲覧制限
• 裁定関係書類のうち営業秘密が記載された書類は、閲覧等を制限可能とすることが適当である。
5.ライセンス促進策
• 現時点では、ライセンス促進策の一つと考えられる特許料の減免拡充を行うのではなく、ライセンスの実
施につながる政策効果がより高いと考えられる、実際にマッチングを進める上での障害として指摘されて
いる具体的な課題に応じた施策(民間事業者への開放特許情報データの一括提供、民間のマッチングサー
ビスを利用する際の費用補助の検討、ライセンス交渉・契約手続に関するノウハウの提供)を講じること
が適当である。
• なお、施策の具体化、実施に際しては、各委員から示された意見も十分に踏まえた検討を行う。
3
意匠制度小委員会の報告書(概要)
新規性喪失の例外適用手続に関する意匠制度の見直しについて
• 法定期間(出願から 30 日)内に提出した最先の日の公開についての証明書に基づき、それ以後に意匠登
録を受ける権利を有する者等の行為に起因して公開された同一又は類似の意匠についても新規性喪失の例
外規定の適用を受けられるとし、具体的には、以下を満たす意匠について法定期間内に提出した証明書に
基づき新規性喪失の例外規定の適用を受けられるとする。
(ア)意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して公知となった意匠であること(※1)
(イ)法定期間内に提出した証明書により証明した意匠の公開日以後に公開された意匠であること
(ウ)法定期間内に提出した証明書により証明した意匠と同一又は類似する意匠であること
(非類似の意匠は別個の証明が必要(※2))
※1 公報掲載により公知となったものは、従来と同様に新規性喪失の例外は適用されない
※2 証明書記載の意匠と非類似の意匠については、出願意匠との関係において創作非容易性
等の要件の拒絶理由の根拠となる場合がある。
4
意匠制度小委員会の報告書(概要)
新規性喪失の例外適用手続に関する意匠制度の見直しについて
• 法定期間内に提出する証明書の要件を「最先の公開」について証明することとしており明確な要件である
こと、網羅的な証明書の作成が不要となり出願人の証明書作成負担が大きく軽減されること、他方で、最
先の公開が証明書に示されることから第三者の予見可能性も担保されること等から、意匠の新規性喪失の
例外規定の適用手続の緩和の方向性として適切である。さらに、出願人の手続負担軽減の観点から、判断
の基準となる時点を同日であれば公開の時分の前後まで問わない「最先の公開の日」とすることが望まし
い。したがって、要件を「証明書により証明した意匠の公開日以後に公開された意匠」とする方向性で意
匠の新規性喪失の例外規定の適用手続を緩和することが適当である。
• なお、緩和が行われてからも、運用開始後の状況を踏まえ、各国における動向も参考にしながら、今後も
必要に応じて追加的な措置の要否を含めた制度の検討が行われるべきである。
5
商標制度小委員会の報告書(概要)
商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて
1.他人の氏名を含む商標の登録要件緩和
• 出願人の商標登録を受ける利益と他人の氏名に係る人格的利益との調整のため、商標法第 4 条第 1 項第
8 号の「他人の氏名」に一定の知名度の要件を設けること、また、無関係な者による悪意の出願等の濫用
的な出願の防止のため、出願人側の事情(例えば、出願することに正当な理由があるか等)を考慮する要
件を課すことが適当である。
• 見直し後の本規定の趣旨も、現行法と同様、他人の氏名に係る人格的利益を保護することにある。一定の
知名度の要件と出願人側の事情を考慮する要件との関係性については、(i)商標に含まれる他人の氏名が
一定の知名度を有する場合には、人格的利益の侵害の蓋然性が高いと考えられることから、出願人側の事
情のいかんを問わず、本規定により出願が拒絶されることとなり、(ii)商標に含まれる他人の氏名が一
定の知名度を有しない場合は、出願人側の事情を考慮することで、他人の人格的利益が侵害されるような
濫用的な出願は拒絶されることとなる。これにより、一定の知名度を有する他人の人格的利益のみならず、
一定の知名度を有しない他人の人格的利益についても考慮されることになるため、他人の人格的利益の保
護という本規定の趣旨が制度設計において適切に反映されていると考えられる。
• また、「他人の氏名」に課す一定の知名度の要件(求める知名度の程度や知名度の判断基準となる需要者
の範囲)及び出願人側の事情を考慮する要件の詳細については、本規定の趣旨及び本小委員会における議
論を踏まえつつ、法制化に際して更に検討を行うとともに、商標制度小委員会商標審査基準ワーキンググ
ループにおいて具体的に検討を深める必要がある。
6
商標制度小委員会の報告書(概要)
商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて
2.コンセント制度の導入
• コンセント制度導入に関しては、反対の意見もあったが、制度設計において需要者の利益の保護が十分に
担保されること、近年、コンセント制度導入に関するユーザーニーズが高まっていること、国際的な制度
調和の要請があること等を踏まえ、我が国においてコンセント制度を導入することが適当であるという意
見が多数であり、おおむね賛同が得られたことから、本小委員会としては導入を進める方向で取りまとめ
を行った。
• その制度設計に当たっては、商標法第 1 条において同法の目的の一つとして「需要者の利益」の保護が
掲げられているところ、これが十分に担保されるよう、先行登録商標の権利者の同意があってもなお出所
混同のおそれがある場合には登録を認めない「留保型コンセント」の導入が適当である。また、コンセン
トによる登録後に出所混同のおそれが生じた場合や、実際に不正競争の目的によって出所混同が生じた場
合に備え、当事者間における混同防止表示の請求や不正使用取消審判請求の規定を設けることが適当であ
る。
• なお、審査における出所混同のおそれの有無の判断に関する具体的な考慮要素等、詳細については、本小
委員会の議論を踏まえつつ、商標制度小委員会商標審査基準ワーキンググループにおいて具体的に検討を
深める必要がある。
3.Madrid e-Filing により商標の国際登録出願をする際の本国官庁手数料の納付方法の変更
• 本国官庁手数料について、出願人が e-Filing を利用して国際登録出願をしようとする場合に限り、他の手
数料と一括でスイスフランにより国際事務局へ納付することを可能とするため、商標法について所要の手
当をすることが適当である。
7
資料7
資料6
財政点検小委員会の報告
産業構造審議会知的財産分科会
令和5年3月2日
財政点検小委員会の開催実績(令和4年度)
第4回
令和4年5月9日
議題:特許特別会計の財政運営の状況について
1.令和3年度決算見通し
2.令和4年度政府予算、令和5年度概算要求の考え方
3.財政シミュレーション
4.審査請求料の減免制度見直し
5.情報公開の在り方
第5回
等について議論
令和4年11月28日
議題:特許特別会計の財政運営の状況について
1.令和3年度決算
2.令和5年度概算要求
3.財政シミュレーションの見直し
4.審査請求料の減免制度見直し
5.情報公開の在り方
等について議論
1
歳出歳入、剰余金の推移
2,200
歳入(前年度剰余金除く)
2,163
歳出
2,000
中小企業減免拡充・
審査請求料引き上げ
機械化庁費
剰余金
1,800
1,746
・特許審査請求料を引き上げ
・特許出願料・特許料を引き下げ
1,600
R4年4月~
料金引き上げ
【特許料、商標登録料、国
際出願関係手数料】
各種料金の引き下げ
1,569
1,514
【特許出願料・審査請求料・特許料、商標出願料・登録料、
意匠登録料等】
1,548
1,493 1,479
1,438
1,454
1,400
1,375
1,353
1,242
【億円】
1,200
1,277
1,227
1,190
1,182
1,144
1,049
1,040
1,003
1,000
901
934
800
685
600
725
庁舎改修による歳出増(~2022年)
400
システム最適化計画による歳出増(~2026年)
200
0
年度
276
任期付審査官(約500名)採用
269
280
320
334
379
358
H14fy H15fy H16fy H17fy H18fy H19fy H20fy H21fy H22fy H23fy H24fy H25fy H26fy H27fy H28fy H29fy H30fy R1fy R2fy R3fy
2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021
歳入
1040
1041
1199
1268
1383
1548
1269
1098
1145
1154
1057
1122
1070
1126
1190
1144
1182
1227
1277
1479
歳出
1003
1040
1306
1046
1044
1074
1095
1094
1093
1060
1049
1076
1168
1282
1353
1375
1454
1569
1493
1438
PB
期末
剰余金
37
1
-108
222
324
431
166
-6
50
94
9
46
-98
-156
-163
-231
-272
-342
-216
40
934
935
827
1049
1372
1803
1970
1963
2014
2108
2116
2163
2065
1909
1746
1514
1242
901
685
725
※ 令和3年度決算は料金改定前の駆け込みによる歳入増(予算比約150億円増)が生じたため、令和4年度以降の歳入は反動減となる可能性。
2
中小減免見直し:対応の方向性
⚫ 高い潜在能力を有するが資金・人材面の制約で、十全な知財活動を実施できない者による発明を奨励
する等の目的の下、中小企業等に対して、審査請求料の減免制度を設けている。具体的には、資力制
約、研究開発等能力、新産業創出の程度を勘案し軽減率を設定。
⚫ この資力等の制約がある者の発明奨励等という制度趣旨にそぐわない形での制度利用が見られる実態を
踏まえ、一部件数制限を設ける旨の改正を行う。
⚫ ただし、上限件数及びその対象は、意欲ある中小企業・スタートアップ等によるイノベーション創出等を阻害
しないよう最大限配慮のうえ、政省令で定める。
※例えば、高い新産業創出能力が期待されるスタートアップ、小規模事業者、福島特措法認定中小や、企業とは性質が異な
る大学・研究機関等に対しては上限は設けないことを想定。
【現行法】
【審査請求料の減免対象者と軽減率】
減免申請件数
減免対象(件数制限なし)
審査請求料の減免対象者
減免対象
政省令で定める限度
【改正案】
減免対象
減免対象
中小企業
1/2に軽減
小規模事業者・創業10年未満中小
1/3に軽減
大学・研究機関等
1/2に軽減
福島特措法認定中小
1/4に軽減
生活保護受給者、市町村民税非課税者
減免対象外
(満額納付)
軽減率
所得税非課税者、非課税中小企業
免除
1/2に軽減
3
(参考)審査請求料の減免適用の実績
減免件数の度数分布
年間件数
2019年度
1-9件
2020年度
2021年度
12,652者
14,093者
15,468者
10-19件
218者
223者
273者
20-29件
67者
87者
82者
30-39件
38者
34者
40者
40-49件
18者
19者
15者
50-59件
9者
8者
10者
60-99件
27者
27者
23者
100-999件
29者
25者
27者
1000件以上
3者
4者
4者
平均件数
3.1件/者
3.1件/者
3.1件/者
(参考)
大企業の平均審査
請求件数
59件/者
59件/者
58件/者
(出典)特許庁調べ、データ取得日は以下のとおり。
<減免件数>2019年度:2020年10月28日、2020年度:2021年4月8日、2021年度:2022年5月16日
<大企業の平均審査請求件数>2019年度:2020年11月5日、2020年度:2021年6月21日、2021年度:2022年6月24日
4
(参考)審査請求料の減免適用の実績
⚫ 2021年度に審査請求の減免申請を行った者のトップ20は下表のとおり。
⚫ 大多数の者(約15,000者)は年間申請件数が10件以下であるものの、一部の企業は、大企業を大
きく上回る水準で審査請求を行い、減免の適用を受けている。
【審査請求料減免申請件数(2021年度)のトップ20】
※2022年5月16日時点 特許庁調べ
対象者※
1 サービス用機械器具製造業
2 サービス用機械器具製造業
3 サービス用機械器具製造業
4 サービス用機械器具製造業
5 サービス用機械器具製造業
6 サービス用機械器具製造業
7 サービス用機械器具製造業
8 サービス用機械器具製造業
9 独立行政法人
10 国立大学法人
11 国立大学法人
12 国立大学法人
13 国立大学法人
14 国立大学法人
15 国立大学法人
16 はかり製造業
17 独立行政法人
18 国立大学法人
19 サービス用機械器具製造業
20 独立行政法人
申請件数(2021年度)
3379件
1631件
1605件
1339件
794件
656件
439件
438件
410件
287件
285件
251件
214件
204件
152件
146件
139件
134件
131件
131件
※業種は日本標準産業分類を参考に特許庁にて分類。
【大企業の審査請求件数(2021年度)】
※2022年6月24日時点 特許庁調べ
平均値:約58件
中央値:7件
※大企業:中小企業基本法第2条第1項に
規定される従業員数、資本金額(注)
を満たさない企業。民間の信用調査会
社が保有する企業データより判別。
(注)中小企業基本法では、業種毎に中小
企業の範囲が規定されており、例えば、
製造業については、資本金3億円以下
又は従業員300人以下のいずれかを満
たすこととされている。
5
資料8
資料7
不正競争防止小委員会の報告
産業構造審議会知的財産分科会
令和5年3月2日
不正競争防止小委員会での活動概要
⚫ 令和4年10月~令和5年1月にかけて計5回の審議を行った。
第1回議題:今後の議題・スケジュールについて
デジタル時代におけるデザインの保護について
限定提供データの規律の見直しについて
第2回議題:保護期間の終期の起算点について
渉外事案に係る国際裁判管轄及び不正競争防止法の適用範囲に関する
規定整備
損害賠償額算定規定の見直しについて
第3回議題:商標法のコンセント制度導入を受けた適用除外規定について
使用等の推定規定の拡充
営業秘密及び限定提供データに関するライセンシーの保護制度の創設
第4回議題:最終報告書案について
第5回議題:パブリックコメントの結果について
最終報告書について
1
1.デジタル時代におけるデザインの保護(形態模倣商品の提供行為)
まとめ
今次の本小委員会での検討を踏まえ、法改正によって、不競法第2条第1項第3号に規定する形態
模倣商品の提供行為にも「電気通信回線を通じて提供」する行為を追加することが適切である。なお、
制度措置にあたっては、どのような行為が「模倣」の対象となるかについて、逐条解説等において明確化して
いくことをあわせて検討することが適切である。
また、「商品」に無体物を含むかについては、まずは逐条解説等にて「商品」に無体物が含まれるとの解
釈を明確化するとともに、形態模倣商品の提供行為に「電気通信回線を通じて提供」する行為を追加し、
ネットワーク上の形態模倣商品の提供行為もその適用対象とすることが適切である。その上で、不競法上
の「商品」の定義規定の導入については、今後の裁判例の蓄積を注視した上で、引き続き将来課題として
検討していくことが適切である。
なお、形態模倣商品の提供行為に係る不正競争の保護期間の伸長については、賛成意見及び慎重
意見の双方があることや諸外国の未登録デザインの保護期間も踏まえ、まずは保護期間の終期の起算点
(「日本国内において最初に販売された日」(不競法第19条第1項第5号イ))を「実際の販売開始
時」と解釈することについて、逐条解説等で明確化した上で、保護期間の伸長についての法改正の是非に
ついては、各関連団体等との意見交換等を通じ、引き続き検討を継続していくことが適切である。また、保
護期間の終期の起算点である「最初に販売された日」については、投下資金等の回収活動が開始したと
判断される行為が「販売」以外にも合理的に考えられる場合も、「販売」と解釈される余地がある旨を逐条
解説等で明確化することが適切である。
2
2.限定提供データの規律の見直し
まとめ
本小委員会での検討を踏まえ、「秘密として管理されているものを除く」要件(不競法第2条第7項)
に関する課題については、「秘密として管理されているものを除く」要件を、「営業秘密を除く」と改める、
又は「秘密として管理されているものを除く」要件を削除することが適切である。
また、善意取得者保護に係る適用除外規定(不競法第19条第1項第8号イ)における善意の判断
基準時、具体的には「取得段階」から「契約時」に早めるべきかどうかについては、限定提供データに係る規
律が未だ制度実装段階であるため、今後引き続き検討をしていくことが適切である。
3
3.渉外事案に係る国際裁判管轄及び不正競争防止法の適用範囲に関す
る規定整備
まとめ
本小委員会での検討を踏まえ、国際裁判管轄に関する規定の整備については、渉外的な営業秘密
侵害事案に関し、立法措置が可能であれば、日本の裁判所に管轄を認めるとする競合管轄規定を設
ける方向で検討を進めることが適切である。なお、規定を設ける際の立法措置の範囲については、引き続
き関係省庁と調整を進め、適切な範囲となるよう検討を行うことが適切である。
また、不競法の適用範囲については、国内における営業秘密侵害事案と同様に政策的保護が必要と
なる渉外的な営業秘密侵害事案に関し、法の適用に関する通則法による準拠法の選択にかかわらず直
接に適用される(法の適用に関する通則法よりも優先する)規定を設けることにつき関係省庁とともに引
き続き検討した上で、立法措置が可能であれば、当該立法措置の範囲が国際裁判管轄とあわせて適切
となるよう検討を行うことが適切である。
4
4.損害賠償額算定規定の見直し
まとめ
本小委員会での検討を踏まえ、不競法第5条第1項については、営業秘密に関し「技術上の秘密」に
限定されている対象情報を営業秘密全般に拡充し、さらに「物を譲渡」した場合のみを想定している要
件をデータや役務を提供している場合にも拡充することが適切である。また、特許法と同様、被侵害者の
生産、販売及び役務提供能力を超える部分の損害の認定規定を追加することが適切である。
同条第3項については、「使用」以外の行為が含まれる点を明確化するために、不競法第2条第1項各
号の不正競争行為が全て対象となるよう規定することが適切である。さらに、特許法と同様、不正競争が
あったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨の規定を追加することが適切で
ある。
5
5.使用等の推定規定の拡充
まとめ
本小委員会での検討を踏まえ、不競法第5条の2の対象情報については、対象情報を営業秘密全般
へと拡充することが適切である。また、対象類型について、正当取得類型(不競法第2条第1項第7号)
への拡充については、刑事規律における「領得」行為(不競法第21条第1項第3号)が介在している
場合に限り適用対象とする等、営業秘密保有者から営業秘密を示された者への一定の配慮措置を講
じることが適切である。取得時善意無重過失転得類型(不競法第2条第1項第6号及び第9号)への
拡充については、不正開示行為等の介在について悪意重過失に転じている場合に限り適用対象とするこ
とを前提とし、その上で、営業秘密が記録された記録媒体等を消去・廃棄せずに保持している場合に限定
する等、一定の配慮措置を講じることが適切である。なお、被告が保持することとなる対象は、①「営業秘
密記録媒体等」・「営業秘密が化体された物件」(不競法第21条第1項第3号イ参照)及び、②営業
秘密がアップロードされているサーバー等のURLとすることが適切である。
不競法第5条の2の限定提供データへの拡充(限定提供データにも適用可能とすること及びその範
囲)については、営業秘密同様、技術上及び営業上の情報を対象とし、不正取得類型(不競法第2
条第1項第11号)、取得時悪意転得類型(同項第12号及び第15号)を対象とすることが適切であ
る。また、正当取得類型(同項第14号)については、営業秘密と同様に「領得」行為が介在している場
合に限り適用対象とする等、一定の配慮措置を講じること、また、取得時善意転得類型(同項第13号
及び第16号)については、使用行為が不正競争行為の対象となっていないことから、適用の対象外とする
ことが適切である。
なお、上記のような拡充を行うにあたっては、営業秘密を保有・管理している企業・事業者及び業務に
従事している従業員の双方への不競法の周知徹底を行うことが適切である。
6
6.営業秘密及び限定提供データに関するライセンシーの保護制度の創設
まとめ
本小委員会での検討を踏まえ、営業秘密及び限定提供データに関するライセンシーの保護制度につい
ては、措置の方法について関係省庁等と調整しつつ、引き続き検討を継続していくことが適切である。
7
7.商標法のコンセント制度導入を受けた適用除外規定について
まとめ
本小委員会での検討を踏まえ、商標法へのコンセント制度導入により後行商標が登録され、その後、
先行商標又は後行商標が周知又は著名となった場合に、後行商標権者又は先行商標権者が不正の
目的でなくその登録商標を商品等表示として使用等する行為を商品等表示に係る不正競争の適用除
外とする規定を追加することが適切である。また、あわせて不競法第19条第2項の規定を参考に、コンセ
ント制度により後行商標が登録され、その後、先行商標又は後行商標が周知又は著名となった場合、自
己の商品又は営業との混同を防ぐために適当な表示を付すべきことを請求することができる規定を追加する
ことが適切である。
8
資料9
知財活用促進に向けた
特許制度の在り方(案)
令和 4 年 12 月 19 日
産業構造審議会
知的財産分科会
特許制度小委員会
産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会の開催経緯
本小委員会においては、特許庁政策推進懇談会で示された、知的財産政策に
関する今後の検討の方向性等も踏まえつつ、知財活用促進に向けた特許制度の
在り方に関する検討を行った。
第 47 回小委員会 令和 4 年 9 月 26 日(月)
議事 (1)当面の検討課題について
(2)一事不再理の考え方の見直しについて
(3)送達制度の見直しについて
(4)書面手続デジタル化について
第 48 回小委員会 令和 4 年 11 月 21 日(月)
議事 (1)裁定関係書類の閲覧制限について
(2)ライセンス促進策について
第 49 回小委員会 令和 4 年 12 月 19 日(月)
議事 報告書案の提示
1
産業構造審議会
知的財産分科会
委員名簿
特許制度小委員会
淺見
節子
明治大学専門職大学院法務研究科
客員教授
蘆立
順美
東北大学大学院法学研究科
伊東
正樹
一般社団法人日本知的財産協会
理事長
株式会社豊田自動織機知的財産部
部長
教授
相良
由里子
中村合同特許法律事務所
パートナー弁護士
杉村
純子
プロメテ国際特許事務所
代表弁理士
杉山
悦子
一橋大学法学部法学研究科
教授
鈴木
賴子
日本製薬工業協会
知的財産委員
アステラス製薬株式会社法務部
委員長
玉井
克哉
知的財産担当部長
東京大学先端科学技術研究センター
信州大学経法学部
教授
田村
善之
東京大学大学院法学政治学研究科
長澤
健一
日本経済団体連合会知的財産委員会
キヤノン株式会社
教授
教授
専務執行役員
企画部会長
知的財産法務本部長
経済安全保障統括室長
中島
基至
東京地方裁判所(知的財産権部)
部総括判事
中畑
稔
One ip 弁理士法人
代表パートナー弁理士
萩野
源次郎
大和合金株式会社
代表取締役社長
松山
智恵
TMI 総合法律事務所
山本
敬三
京都大学大学院法学研究科
パートナー弁護士
教授
(敬称略、五十音順)
2
目次
はじめに ............................................................ 4
1.一事不再理の考え方の見直し ....................................... 5
2.送達制度の見直し ................................................ 10
3.書面手続デジタル化 .............................................. 16
4.裁定制度の閲覧制限導入 .......................................... 20
5.ライセンス促進策 ................................................ 22
おわりに ........................................................... 28
3
はじめに
デジタル化・グローバル化の進展への対応、中小企業・スタートアップ・大学
等の知財活用の更なる促進、特許庁自身の一層のデジタル化による業務の効率
化の必要があるという問題意識の下、2022 年 6 月の特許庁政策推進懇談会とり
まとめ「知財活用促進に向けた知的財産制度の在り方」において示された、知的
財産政策に関する今後の検討の方向性等も踏まえつつ、以下の課題について、第
47 回以降の特許制度小委員会にて検討を実施した。なお、特許制度における発
明の「実施」の定義に関しては、今年度は特許庁において調査研究を実施するこ
ととした。
➢
➢
➢
➢
➢
一事不再理の考え方の見直し
送達制度の見直し
書面手続デジタル化
裁定関係書類の閲覧制限
ライセンス促進策
本報告書は、これまでの審議内容を取りまとめ、ユーザーの利便性の向上や知
的財産の一層の活用促進のための特許制度の在り方について提言するものであ
る。
4
1.一事不再理の考え方の見直し
(1)現行制度の概要
①一事不再理の規定1
特許法第 167 条において、
「特許無効審判又は延長登録無効審判の審決が確
定したときは、当事者及び参加人は、同一の事実及び同一の証拠に基づいて
その審判を請求することができない。」という一事不再理の規定が設けられて
いる。これは、先の審判の当事者及び参加人は、先の審判において主張立証
を尽くすことができたものであるから、審決が確定した後に同一の事実及び
同一の証拠に基づいて紛争の蒸返しができるとすることは不合理であると考
えられたためである。なお、事実又は証拠が異なれば、当事者等であっても、
一事不再理の制限は及ばず、先の審判の審決の確定後であっても無効審判を
請求することができる。
②一事不再理に関する実務
特許法第 167 条の適用に当たっては、条文上「同一の事実及び同一の証拠」
とされているものの、証拠については、証拠が追加された場合に再度の請求
を制限した裁判例2や「「同一の事実」とは,同一の無効理由に係る主張事実を
指し,
「同一の証拠」とは,当該主張事実を根拠づけるための実質的に同一の
証拠を指す」と述べた裁判例 3が存在している。また、審判便覧においても、
同一の証拠とは、同一性のある証拠の意味であり、証拠自体が異なっていて
も、内容が実質的に同一である場合には同一の証拠と解される旨が説明され
ており4、審判実務においても裁判例で示されたのと同様の判断基準で運用が
されている。
(2)現行制度の課題
①蒸返し的な複数回の無効審判請求
現行制度においては、先の審判の審決の確定後、当事者等は、同一の事実及
び同一の証拠に基づいて再度の審判請求をすることができないとされている
ものの、事実又は証拠が異なれば、無効審判を請求することができることから、
紛争の蒸返しを防止する規定としては不十分なのではないか、との意見があ
1
平成 23 年の一部改正前は、
「何人も、特許無効審判又は延長登録無効審判の確定審決の登
録があつたときは、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができ
ない。
」と規定されており、審判に関与しなかった第三者に対しても一事不再理効が及ぶと
されていた(確定審決の第三者効)が、平成 23 年の一部改正において、確定審決の第三者
効が廃止された(特許庁総務部総務課制度審議室編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解
説〔第 22 版〕
』559~561 ページ参照)。
2
例えば、東京高判平成 16 年 3 月 23 日(平成 15 年(行ケ)第 43 号)、知財高判平成 26 年
3 月 13 日(平成 25 年(行ケ)第 10226 号)
、知財高判平成 28 年 9 月 28 日(平成 27 年(行
ケ)第 10260 号)
3
知財高判令和 2 年 6 月 11 日(令和元年(行ケ)第 10077 号)
4
審判便覧(第 19 版)「30-02 一事不再理」参照
(https://www.jpo.go.jp/system/trial_appeal/sinpan-binran.html)
5
る。また、大企業が中小企業に対して、蒸返し的な無効審判請求を繰り返して
いるのではないか、との意見もある。
同一人による複数の無効審判請求の禁止については、平成 22 年度の知的財
産政策部会において、制度濫用的な請求について、何らかの形で制限をすべき
という意見があった一方で、新たな証拠や理由に基づく正当な無効審判請求
まで制限すべきではないといった意見もあり、引き続き検討すべきとされて
いた5。
②特許法第 167 条の「同一の事実及び同一の証拠」という文言、及び、一事不
再理効の客観的範囲について
(1)②のとおり、裁判例、審判実務においては、一事不再理効の客観的範囲
が「同一の事実、実質的に同一の証拠」と解釈されている6。
しかしながら、現行の特許法第 167 条の「同一の事実及び同一の証拠」とい
う文言が非常に狭い印象を与えるのではないかとの意見もある。他方で、企業
ユーザー等からは、一事不再理効の認められる客観的範囲を大幅に拡張する
ことに慎重な意見もある7。
(3)本小委員会での検討
①同一請求人による 2 回目以降の特許無効審判請求について8
2017 年から 2021 年の 5 年間に請求された特許無効審判において、同一の特
5
平成 23 年 2 月「特許制度に関する法制的な課題について」報告書 43~45 ページ参照
(https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyokouzou/shousai/tokkyo_shoi/document/index/housei_kadai.pdf)
6
平成 23 年の一部改正により第三者効が廃止されたことから、
「同一の事実及び同一の証
拠」について狭義に(文言どおりに)解するのは、紛争の蒸返し防止の観点から相当ではな
く、特許無効審判の一回的紛争解決を図るという趣旨をより重視して解するのが相当であ
る旨判示された裁判例(前掲注 2 の第 3 判決)もあり、より具体的には、第三者効を有して
いた平成 23 年の一部改正前と比較して「同一の証拠」について拡張的に解釈された裁判例
が複数存在する(田中昌利「判批」 小泉直樹=田村善之編『別冊ジュリスト 244 号 特許
判例百選(第 5 版)
』
(有斐閣)160~161 ページ参照)
。
7
特許庁政策推進懇談会『知財活用促進に向けた知的財産制度の在り方~とりまとめ~』
48 ページ参照
(https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/kenkyukai/kondankai/index.html)
8
令和 4 年 5 月 17 日時点特許庁調べ。
⚫ 延長登録無効審判は含まない。
⚫ 請求人が複数の場合には、1つの審判事件番号について請求人分の件数としてカウント
した。
⚫ 請求人、被請求人の属性については、資本金及び従業員数を各企業のウェブサイトで確
認し、中小企業基本法第 2 条第 1 項の基準で分類した。調査時点での資本金及び従業員
数であるため、審判請求時における状況とは異なる可能性がある。また、各企業の主た
る業種を正確に特定することは困難な場合もあり、必ずしも正確ではない可能性があ
る。
⚫ 請求の理由における事実及び証拠については、目視で確認した。
6
許権に対して同一人が請求した 2 回目以降の無効審判は 127 件であり、その
うち最初の無効審判が確定した後に請求されたものは 40 件であることが事務
局から示された。なお、この 40 件のうち大企業が中小企業を相手に請求して
いるものは 2 件のみであり、いずれも同一の事実及び同一の証拠に基づいて
請求しているもの(いわゆる蒸返しに当たるもの)ではなかった。
図
同一請求人による 2 回目以降の特許無効審判請求の分析
②一事不再理効の客観的範囲の拡張について
一事不再理効の客観的範囲について、現状の運用で認められている、同一の
事実及び実質的に同一の証拠の範囲よりも拡張する必要があるかどうかにつ
いて検討を行った。客観的範囲については、紛争の一回的解決の観点から、こ
れを拡張すべきとの意見がある一方で、大幅に拡張すべきではないという意
見もある。これらの意見も踏まえ、無効審判では要旨変更とならない範囲で請
求の理由を補正可能であることから、これを一の無効審判の中で審理可能な
範囲であると捉え、一事不再理効の客観的範囲をこの範囲まで拡張する案、す
なわち、後の無効審判の請求の理由が先の無効審判における請求の理由に比
して要旨変更とならない範囲である場合に一事不再理効を認めるという案
(案 1)について検討を行った。
③特許法第 167 条の「同一の事実及び同一の証拠」という文言について
一事不再理効の客観的範囲を拡張しない場合に、条文の「同一の事実及び同
一の証拠」という文言を変更する必要があるかどうかについて検討を行った。
条文の当該文言については、少なくとも「同一の証拠」という文言は狭すぎ
る(狭い印象を与える)という意見がある一方で、
「実質的に」との文言を加
えても、何が実質的に同一であるか、という解釈上の難点が残るという意見や、
裁判例の解釈である程度解決できるといった意見があるところ、条文を審判
実務・裁判例に整合するような文言で明示的に規定する案(一事不再理効の客
観的範囲が同一の事実及び実質的に同一の証拠であることを条文で明示的に
規定する案)
(案 2(1))、及び、法改正せず現状の運用の更なる周知等で対処
する案(案 2(2))について検討を行った。
7
表
各案のメリットとデメリット
メリット
デメリット
➢ 紛争の蒸返しを防止できる
範囲が広がる。
➢ 請求の理由の補正の要件と
同一の判断基準であり、
案 2(1)と比べて予見性が
高い。
➢ 該当する裁判例がない。
➢ ユーザーからは範囲を拡張す
ることに慎重な意見がある。
➢ 立法事実に乏しい。
案 2(1)
条文を審判実務・
裁判例に整合する
ような文言で明示
的に規定する案
➢ 条文から受ける印象が現状
の審判実務及び裁判例と整
合する。
➢ 条文を「実質的に同一」とい
うような文言に変更しても、
不明確さは残り、条文解釈に
難点が生じる。(現状の審判
実務及び裁判例と整合させる
ように条文を変更したにもか
かわらず、意図したものと異
なる解釈が生ずる可能性があ
る。)
案 2(2)
法改正せず現状の
運用の更なる周知
等で対処する案
➢ 裁判例が蓄積されているた
め、予見性が高い。
➢ 実務者からは現状の運用で
問題無いとの声が多い。
➢ 法改正に伴う実務の混乱を
招かない。
➢ 現行条文の文言から、裁判例
や運用で確立されている一事
不再理効が認められる範囲よ
りも狭い印象を持たれるおそ
れがある。
案1
客観的範囲を請求
の理由の要旨を変
更しない範囲に拡
張する案
④各案に対する委員の意見
悪意のある繰返し又は不当な蒸返し目的の無効審判は防ぐべきであるが、
現状の実務でも問題なく、法改正の必要は無いという意見で一致した。
案 1 については、企業ユーザーや弁理士・弁護士からの法改正に対する要
望もないため立法事実に乏しいという意見、及び、今の時点で法改正をすると
予見性が低下するという意見が示された。また、一事不再理効の客観的範囲を
拡張することについては、主引例が同じで副引例が異なる場合も特許法第 167
条で制限するのであれば一事不再理効の客観的範囲の拡張が必要になるが、
副引例が異なる場合は、主引例が同じとはいえ新しく見つかった副引例の方
が組み合わせるロジックがしっかり組み立てられるという事案もあるため、
全てを不当な蒸返しとして制限してしまうのはやり過ぎであるという意見が
示された。
他方、特許法第 167 条の同一事実・同一証拠という文言は法制定以来変わっ
ていない一方、法改正により、特許法第 131 条の 2 において審判請求の理由
の補正がその要旨を変更するものであってはならないという条文が入ってい
るため、それに合わせて一事不再理効の客観的範囲も請求の理由の要旨の変
更とならない範囲とすべきという議論にも理があるという意見も示された。
案 2(1)については、現行法において適切な運用がされているところ、実
8
質的という文言を入れることで曖昧になるという意見、及び、事実と証拠の一
方だけ実質的に同一とするのはむしろ予見性が下がるという意見が示された。
案 2(2)については、権利者と無効審判請求人(侵害訴訟の被告)とのバ
ランスが重要であるところ、現状は特許庁、裁判所においてバランスの取れた
対応がされており実務上の問題は無いという意見等、法改正せず現状の運用
の更なる周知等で対処するという当案に対して多くの委員から賛成が示され、
当案に反対する意見や他の案を支持する意見は示されなかった。周知の仕方
については、審判便覧において、現在記載されている判決に加えて新たな判決
を追加するとともに、どういうものであれば同一の証拠になり、どういうもの
では同一とならないのかという説明をすれば良いのではないかという案が示
された。
(4)まとめ
以上のとおり、一事不再理の考え方について検討したところ、悪意のある繰
返し又は不当な蒸返し等の無効審判制度の濫用は防ぐべきであるという意識
は共通するものの、現状の裁判例や審判実務により実務上の問題は生じてお
らず、一事不再理の客観的範囲の拡張を求める意見はなかった。また、裁判例
や現行の運用に則して法文で明示することを求める意見もなかった。
したがって、現時点では、法改正せず、現状の運用の更なる周知等を行うこ
ととするのが適当である。
ただし、今回法改正をしないことが、無効審判制度の濫用を容認することを
意味するものではなく、今後、実務の動向を注視しつつ、状況が変化した場合
には、本小委員会において改めて検討すべきである。
9
2.送達制度の見直し
(1)オンライン発送制度の見直し
①現行制度の概要
特許法第 52 条(査定の方式)、第 189 条(送達)等において規定する送達し
なければならない書類は、郵便により行うことが原則であるが(同法第 190 条
において読み替えて準用する民事訴訟法第 99 条第 1 項)、工業所有権に関す
る手続等の特例に関する法律(以下「特例法」という。)第 5 条第 1 項本文に
おいて、特許等関係法令の規定による通知又は命令であって経済産業省令で
定めるもの(以下「特定通知等」という。)については、電子情報処理組織を
使用して行うことができる旨を規定している。
電子情報処理組織を使用して行われた特定通知等の相手方への到達時点に
ついては、特例法第 5 条第 3 項の規定により、特定通知等の相手方たる出願
人等の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に相
手方に到達したものとみなしており、実際には、出願人等が、特許庁が提供す
るアプリケーション(以下「出願ソフト」という。)を通じ、自らのパソコン
に書類データをダウンロードすることにより、相手方に到達したものとして
いる。
したがって、出願人等が出願ソフトを起動し、自己のファイルに特定通知等
を記録しない限り、特定通知等は到達したものとみなされず、その結果、出願
ソフトにおいて書類を受領しない出願人等に対しては、拒絶査定の謄本や却
下処分書の謄本等の送達すべき書類について、送達の効力は確定しない。
これに対応するため、現在は、特許庁が特定通知等により送付する書類を特
許庁のサーバに格納してから(=出願人等が当該書類データを出願ソフトを
通じてダウンロード可能な状態になってから)10 開庁日経過しても、出願人
等が自己の使用するパソコンに書類データをダウンロードしない、すなわち
出願人等の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされない
場合は、送達の効力を発生させるため、書面の郵送による発送に切り替える運
用を行っている9。
また、特許法第 191 条第 1 項では、
「送達を受けるべき者の住所、居所その
他送達をすべき場所が知れないとき、又は前条において準用する民事訴訟法
第 107 条第 1 項(第 2 号及び第 3 号を除く。)の規定により送達をすることが
できないときは、公示送達をすることができる」と規定しており、特許法第 191
条第 2 項の規定により、官報及び特許公報に掲載するとともに特許庁の掲示
場に掲示することにより行うことで、公示送達を実施することとしている。
②現行制度の課題
上記のとおり、現在の特許庁におけるオンライン発送制度は、出願人等が特
許庁のサーバに格納された書類を出願ソフトを通じて受け取らない限り、送
9
オンライン発送を希望しながらも 10 開庁日以内に書類をオンラインで受け取らず、紙発
送となった件数は 3 万 7,353 件であり、法令上オンライン発送が可能な書類の全発送件数
122 万 406 件のうち約 3.1%。
(件数は 2021 年のもの。2022 年 8 月 15 日時点特許庁調べ)
10
達の効力が確定しない点で、不安定さを含んだ仕組みとなっている。また、サ
ーバ格納後 10 開庁日以内にオンライン発送書類を受け取らない出願人等に対
しては、紙媒体での発送に切り替えているが、リモートワークにより受け取れ
ない場合も生じており、この場合送達の効力を確定させることができない。
また、令和 4 年に民事訴訟法が改正(以下、改正後の民事訴訟法を「改正民
訴法」という。)され、オンライン送達制度が導入されたことも踏まえ、書面
による発送のコスト削減や簡易・迅速な手続の実現を通じたユーザーの利便
性向上のため、オンライン発送制度の見直しの検討を行った。
加えて、改正民訴法において、インターネットを用いた公示送達の方法が措
置されたところ、特許法における公示送達の方法について、デジタル化を促進
する観点から、検討を行った。
③本小委員会での検討
上記課題を踏まえ、本小委員会では、書面による発送のコスト削減や簡易・
迅速な手続の実現を通じたユーザーの利便性向上のため、オンライン発送制
度及び公示送達の方法についての見直しを行うこととした。
(ア)オンライン発送制度の見直しの方向性
(i)対象とする書類について
特許関係法令に規定する送達すべき書類のみではなく、オンライン発
送可能な書類(特許関係法令上「送達する書類」とされているもの以外の
通知。)についても、制度見直しの対象書類とする。
(ii)送達の効力発生について
特許庁のサーバ格納後一定期間10経過しても発送書類を受け取らない
出願人等についても、当該期間経過後に書類が到達したものとみなす制
度を導入し、当該者への紙発送を廃止する。
(iii)対象となる者について
オンライン発送を希望する者を対象とする。この際、改正民訴法に倣い、
代理を業として行う代理人については、この希望の有無によらず対象と
することとする。
(イ)オンライン発送制度の見直し案の検討
上記見直しの方向性を踏まえ、以下 3 つの案を提示し、システム改造費等
のコスト面についても十分に考慮しつつ、それぞれの適否について検討を
行った。
10
見直し案
出願人等への通知方法
書類の到達時期
案1
出願人等が出願ソフトを
立ち上げた時に、
特許庁の受付サーバに発
送書類が格納された旨の
通知が送付される。
出願人等の電子計算機に備えられたファイル
へ記録された時、
又は
特許庁の受付サーバに発送書類が格納された
時から一定期間経過した時、
後述④まとめのとおり「10 日間」とする。
11
案2
出願人等が出願ソフトを
立ち上げた時に、発送件数
等の通知はせずに、
自動的に発送書類が送付
される。
のいずれか早い時に、発送書類が出願人等に到
達したものとみなす。
案3
特許庁の受付サーバに発
送書類が格納された
(出願
人等のファイルに記録が
可能になった)旨、電子メ
ールで通知される。
出願人等の電子計算機に備えられたファイル
へ記録された時、
又は
特許庁の受付サーバに発送書類が格納された
旨のメール通知を受けてから一定期間経過し
た時、
のいずれか早い時に、発送書類が出願人等に到
達したものとみなす。
案1については、出願ソフトを頻繁に立ち上げる者にとっては、特許・実
用新案・意匠・商標の種別で発送書類待機件数を確認してから、件数を指定
して発送書類を受け取るといった現行に近い運用で対応できること、案 3 と
比べて特許庁システムの改造費等のコストが抑えられることから、本小委
員会において最も支持された。
他方、案 2 については、書類の受領を意図しないまま出願ソフトを立ち上
げただけで発送書類が送付されることとなり、書類が到達したものとみな
されてしまうことから、案件管理等ユーザーの現行の運用に大きな影響が
あるため、反対の意見が示された。
また、案 3 については、出願している件数の少ないユーザーにとっては、
メールでの通知の方が利便性が高いという意見もあった一方、出願件数が
多いユーザーにとっては、出願ソフトとは別にメールソフトでの管理を行
わなければならない煩雑さがあるとの指摘があったほか、案 1 及び案 2 と
比べて特許庁システムの改造費が高額になる。
(ウ)オンライン発送制度のその他の論点
みなし送達の効力が発生するまでの期間については、事務局から検討中
である旨を説明した。当該期間については、改正民訴法においては一週間が
設定されているが、コロナ禍における実務の状況を踏まえれば一週間では
心もとなく、過度に短い期間となることのないよう検討すべき旨の意見が
示された。
その他、出願ソフトを頻繁に立ち上げないユーザーへの周知を十分に行
うべきことや、発送書類が特許庁のサーバに格納された旨の通知について、
利便性の高いものにして欲しい旨の意見が示された。
(エ)公示送達の方法
改正民訴法を踏まえ、また、デジタル化を促進する観点から、従来実施し
ている特許公報への掲載を廃止し、特許庁掲示場での掲示に加えて、特許庁
12
ホームページに掲載することとする等の案を提示したところ、賛成の意見
が示された。
④まとめ
上記検討を踏まえ、特許庁におけるオンライン発送制度の見直しに当たっ
ては、案 1 を基本として検討を進めることが適当である。その際、上記 2.
(1)
③(ウ)に記載した意見が示されたことを踏まえ、送達の効力発生までの期間
については「10 日間11」とするとともに、適切な運用を検討すべきである。
また、公示送達の方法についても、デジタル化を促進する観点から、特許公
報への掲載を廃止し、特許庁ホームページに掲載することにより実施する方
向で検討を進めることが適当である。
(2)新型コロナウイルス等の影響に対応した公示送達の見直し
①現行制度の概要
日本国内に住所又は居所を有しない者(以下「在外者」という。)は、原則、
特許管理人によらなければ手続等をすることができず、在外者に対しての送
達は、特許法第 192 条第 1 項において、「在外者に特許管理人があるときは、
その特許管理人に送達しなければならない。」と規定し、同条第 2 項において、
在外者に特許管理人がないときは、
「書類を航空扱いとした書留郵便等(中略)
に付して発送することができる。」と規定している。そして、同条第 3 項にお
いて、
(航空扱いとした)
「書留郵便等に付して発送したときは、発送の時に送
達があったものとみなす。」と規定している。
また、特許法第 191 条第 1 項は、
「送達を受けるべき者の住所、居所その他
送達をすべき場所が知れないとき、又は前条において準用する民事訴訟法第
107 条第 1 項(第 2 号及び第 3 号を除く。)の規定により送達をすることがで
きないときは、公示送達をすることができる。」と規定している。
②現行制度の課題
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴い、令和 2 年 4 月以降、日本
郵便株式会社が一部の国・地域宛ての航空便による郵便の引受停止をしたこ
とにより、当該引受停止国に住所又は居所を有する在外者に対して特許法第
192 条第 2 項の規定による送達をすることができない状況が長期にわたり生
じている。また、令和 4 年 3 月には、ウクライナ情勢により引受停止国が更に
拡大し、送達できない件数が一時的ではあるが、大幅に増加した。
特許管理人がなく航空書留郵便等により送達をしているケースの一つとし
て、商標登録取消審判がある。商標登録後に取消審判請求があった際に、在外
者である商標権者と特許管理人との委任契約が終了しており、特許管理人が
いないことがあり、その場合(手続円滑化のため、直近の手続をした特許管理
人に対し、受任の意向を確認する運用を行っているが、それでも確認できない
11
現行運用の「10 開庁日」ではなく、「行政機関の休日に関する法律」に規定する休日を
含む「10 日間」を指す。
13
場合)、被請求人である商標権者に、航空書留郵便等に付して審判請求書の副
本を送達することがある。
また、他の事例として、マドリッド協定議定書に基づく国際商標登録出願
(以下「マドプロ出願」という。)における拒絶査定の謄本の送達がある。在
外者である出願人が拒絶理由通知に相当する暫定拒絶通報に対して応答手続
をしない場合、拒絶の理由が解消されないため拒絶査定まで進むことがあり、
この場合は特許管理人を選任する必要性が生じないため、在外者である出願
人に航空書留郵便等に付して拒絶査定を送達することがある。
副本の送達が滞ることにより審判手続を進めることができない、あるいは
拒絶査定の謄本の送達が滞ることにより拒絶査定が確定せず、当該拒絶査定
されるべき案件に類似する出願が新たにされたとき、当該後の出願について
の審査の判断が行えないといった弊害が発生している。
特許法では、こうした送達を実施できないことにより手続が進行できなく
なってしまうことを回避して当事者の権利を保護するため、特許法第 191 条
において公示送達の規定を設けている。しかしながら、同条は、送達を受ける
べき者の住所等が知れないとき、又は民事訴訟法第 107 条第 1 項の規定によ
り送達をすることができないときに、公示送達をすることができると規定し
ているが、特許法第 192 条第 2 項の規定により送達を行えないときについて
は、公示送達の要件として明記しておらず、公示送達を実施することができな
い。
また、特許法第 191 条第 1 項後段の「民事訴訟法第 107 条第 1 項の規定に
より送達をすることができないとき」は民事訴訟法において公示送達の要件
を規定した第 110 条第 1 項第 2 号と同じ規定の仕方であるところ、同号は国
内における送達について、送達を受けるべき者の就業場所しか知らず、書留郵
便に付する送達をすることができないときに公示送達を認める規定と解され
ることから、同号と同じ規定の仕方である特許法第 191 条第 1 項後段の要件
も満たしていないと解される。
以上のとおり、特許管理人のいない在外者に対して航空便による郵便の引
受停止の状況により送達ができない状況では、特許法第 191 条の規定により
公示送達は行えず、権利関係が不確定な状況が続くことになる。
③本小委員会での検討
上記課題を踏まえ、公示送達について規定した特許法第 191 条を改正し、国
際郵便引受停止等の理由により在外者に航空書留郵便等に付する発送ができ
ないときにも、公示送達をすることができるよう、公示送達制度の見直しにつ
いて検討を行った。
具体的には、現在発生しているような、戦争やコロナ禍の影響により現実に
国際郵便の引受けが停止され、当該国に対して航空書留郵便等に付する発送
ができない場合に公示送達を実施することができるよう、公示送達の要件を
見直す方向で検討を行った。
ただし、公示送達は通常の送達手段ができない場合の最後の手段と考える
べきであるところ、国際郵便の引受停止の状況は短期間で解消される可能性
14
もある点を留意する必要があるため、特許法第 192 条 2 項の規定により、航
空書留郵便等に付して発送をすることが困難な状況が、長期間継続する(例え
ば 6 か月経過12)ことを、公示送達の要件として付加することとして検討を行
った。
見直しの方向性については反対の意見はなく、賛成の意見が示された。ただ
し、特許管理人のいない在外者に対しては、その直近の国内代理人を通じ、特
許管理人を付けるべき旨の周知を行うべき旨や、送達の内容を別途了知させ
る運用について検討すべき旨の意見も示された。
④まとめ
上記検討を踏まえ、戦争やコロナ禍の影響により現実に国際郵便の引受け
が停止され、当該国に対して航空書留郵便等に付する発送ができない状況が
長期間継続した場合には、公示送達を実施することができるよう、公示送達の
要件を見直す方向で検討を進めることが適当である。ただし、在外者へ公示送
達の内容を了知させる手段についても、ユーザー利便性等も勘案しながら、国
際郵便以外の方法について引き続き検討する必要がある。
12
民事訴訟法第 110 条第 1 項第 4 号では、外国における送達について当該国の管轄官庁等
に嘱託を発した後、6 か月経過しても送達を証する書面の送付がない場合を公示送達の要
件と規定している。
15
3.書面手続デジタル化
(1)書面手続デジタル化に向けた関係手続整備
①現行制度の概要
工業所有権に関する手続のペーパーレス計画を実施するため、書面手続を
原則とする特許法等に対する「特例」として、特例法を平成 2 年に制定し、オ
ンラインで特許等の手続を行えるようにした。そして、オンラインで可能な具
体的な手続(以下「特定手続」という。)は工業所有権に関する手続等の特例
に関する法律施行規則(以下「特例法施行規則」という。)において規定して
いる。
具体的には、特例法第 3 条第 1 項において、特許等関係法令の規定による
手続であって省令で定めるもの(特定手続)は、電子情報処理組織を使用して
行うことができることとし、同条第 3 項において、特定手続については、特許
等関係法令に規定する書面の提出により行われたものとみなして、特許等関
係法令の規定を適用する、としている。
この特定手続は、特許庁のペーパーレス計画の進捗に応じて順次拡大して
きており、現在は、オンライン申請可能な手続については、年間約 275 万件が
オンラインで申請されている一方で、オンライン申請できない手続(書面での
み手続が可能な申請)については、年間約 20 万件が書面により申請されてい
る。なお、オンライン発送可能な手続については、年間約 95 万件がオンライ
ンで発送されている一方で、オンライン発送できない手続については、年間約
280 万件が書面により発送されている(「特許庁における手続のデジタル化推
進計画13」)。
②現行制度の課題
上記計画においては、特許庁に対する申請手続は令和 6 年 3 月までに原則
全ての申請手続をオンラインで可能とすることとしている。また、特許庁から
の発送手続は発送件数やユーザーニーズを踏まえて順次デジタル化を進める
こととしている14。
このうち、申請手続については、従来の特許庁システムで活用している XML
形式という特別なファイル形式ではなく、別の形式(経済産業省令で定めるこ
ととし、PDF 形式を想定している。)にて受け付けることにより、特許庁シス
テム改造費用の制約の中でも実現を図ることができるよう検討している。
そして、この別の形式にて申請手続をオンラインで受け付けるためには、所
要の法令改正を行う必要がある。
13
出典:特許庁「特許庁における手続のデジタル化推進計画~ユーザーの利便性向上と業務
最適化の両立に向けて~」
(令和 3 年 3 月 31 日)
( https://www.jpo.go.jp/system/laws/sesaku/document/tetsuzuki_digitalize/keikak
u.pdf)なお、件数は、2019 年度のもの。
14
オンライン発送できない手続のうち、発送件数やユーザーニーズが高い「特許(登録)
証」、
「年金領収書」
、「自動納付通知」、「商標更新申請登録通知書」、「移転登録済通知書」、
「識別番号通知書」
、
「包括委任状番号通知」の 7 種類について、令和 6 年 3 月までにシステ
ム開発を行い、オンライン発送サービスが開始できるよう準備を進めている。
16
③本小委員会での検討
特許庁に対する申請手続に関する法令改正等の方向性として、以下の 3 点
について検討を行った。
(ア)申請書類の電子化
PDF 形式にて提出された手続について、書面で提出した場合と同様に、特
許庁システムにおいて処理可能な形での電子化(変換)を行う対象とすべく、
所要の措置を行う。
(イ)閲覧・交付の対応
PDF 形式にて提出された申請書類も閲覧・交付請求を可能とすべく、所要
の措置を行う。
(ウ)副本の送達等
相手方当事者に副本送達が必要な書類(無効審判請求書等)が PDF 形式で
提出された場合、当該 PDF をプリントアウトすることなく、PDF を記録した
DVD 等により副本送達を可能とすべく、所要の措置を行う。
上記の検討事項については、ユーザーの利便性向上につながるものであり、
取組の加速をしていただきたい旨の意見が提出され、反対意見はなかった。
④まとめ
上記のとおり、ユーザーの利便性向上につながることであり、一層の取組を
加速して欲しい旨の意見がなされ、反対意見も提示されなかったことから、書
面手続デジタル化に向けた関係手続整備を進めることが適当である。
(2)優先権証明書のオンライン化のための規定整備
①現行制度の概要
同一の発明等について複数の国において出願日を確保する場合には、明細
書等の翻訳文の準備や国ごとに異なる手続を同時に行わなければならず、出
願人にとって負担が大きい。このような出願人の負担を軽減するための制度
として、パリ条約は優先権15の制度を設けている。
出願人がパリ条約の優先権の効果を得るために必要な手続として特許法第
43 条においては、パリ条約による優先権主張の手続が規定されており、同条
第 2 項(実用新案法第 11 条第 1 項、意匠法第 15 条第 1 項、同法第 60 条の 10
第 2 項及び商標法第 13 条第 1 項において準用)は、パリ条約第 4 条 D(1)の
規定により特許出願について優先権の主張をした者は、所定の期間内に特許
15
パリ条約による優先権とは、パリ条約の同盟国(第一国)において出願した者が、所定
の期間(特許及び実用新案:12 か月、意匠及び商標:6 か月)中に、その出願の出願書類
に記載された内容について他のパリ条約の同盟国(第二国)に出願する場合に、第二国に
おける出願についての新規性・進歩性等の特許要件等の判断に関し、第一国における出願
の日に出願された場合と同様の取扱いを受ける権利である。
17
庁長官に第一国の発行した優先権に係る証明書類(以下「優先権証明書」とい
う。)の提出をしなければならないと規定している16。
そして、優先権証明書の提出方法については、
(1)書面による原本の提出を
原則としつつ(特許法第 43 条第 2 項)、
(2)世界知的所有権機関のデジタルア
クセスサービス(以下「DAS」という。)等を利用した優先権証明書に記載され
ている事項(以下「優先権書類データ」という)の電子的交換の利用も許容し
ている(同条第 5 項(実用新案法第 11 条第 1 項及び意匠法第 15 項第 1 項に
おいて準用))。ただし、第一国が DAS に不参加の場合や、日本では DAS の対象
外となっている商標登録出願については、書面による原本の提出に限られる。
②現行制度の課題
特許庁においては、デジタル社会への対応及び行政手続の更なる利便性向
上を目的として、電子申請できない全ての手続を原則デジタル化する方向で
検討を進めているが、優先権証明書のオンライン化については以下の課題が
ある。
まず、優先権証明書の提出方法のうち、出願人が DAS 等を利用するために必
要なアクセスコードを特許庁に届け出ることにより、DAS 等により優先権書類
データが第一国と特許庁との間で電子的に交換されるところ、この場合には、
出願人は特許庁に対し優先権証明書の提出をする必要はない。他方で、第一国
が DAS に参加していない場合等、電子的交換を利用することができない場合
も存在しており、また、商標については、現在、DAS 等による電子的交換の対
象外であることから、このような場合においては優先権証明書を特許庁に提
出する必要があるが、我が国の特許法等においては、その提出方法が書面に限
られている。
この点、ユーザーからの電子的に提出することのニーズがあるところ、こう
したニーズも踏まえ、第一国の官庁が書面で発行した優先権証明書を出願人
側で電子化(PDF 形式)したもの、すなわち優先権証明書の写しをオンライン
で提出する方法を許容する必要がある。
次に、近年、優先権に係る証明書類について、書面の発行に加えて電子的に
提供する国が増加しているところ、ユーザーの入手形態及び提出方法に係る
選択肢を増やすべく、第一国の官庁が電子的に発行した優先権に係る証明書
類(PDF 形式)をオンラインで提出する方法を許容する必要がある。また、第
一国の官庁が電子的に提供した優先権に係る証明書類の電子形式が、仮に、特
許庁が受入れ可能な電子形式(PDF 形式)でない場合には、出願人側で特許庁
が受入れ可能な電子形式に変換したもの(写し)として提出する方法も許容す
る必要がある。
また、特許法条約第 8 条(1)は、書類の送付の形式及び手段に関して締約
国が適用することができる要件を定めており、
「(d) 締約国は、期間を遵守す
るための紙による書類の提出を認める。」ことを締約国の義務として規定がさ
16
世界貿易機関(WTO)の加盟国においてした出願に係る優先権主張の手続についても、
特許法 43 条を準用する同法第 43 条の 3 の規定により同様である。
18
れているところ、優先権証明書の写しの提出方法としてオンライン提出を許
容する場合には、書面による提出も許容する必要があることから、書面で発行
された優先権証明書を複写したもの及び電子的に提供された優先権に係る証
明書類を書面出力したものを提出する方法についても許容する必要がある。
③本小委員会での検討
本小委員会では、上記の課題を踏まえ、特許法第 43 条第 2 項(実用新案法
第 11 条第 1 項、意匠法第 15 条第 1 項、同法第 60 条の 10 第 2 項及び商標法
第 13 条第 1 項にて準用)に規定する優先権証明書の提出手続について、その
写しの提出でも足りることとし、また、第一国の官庁が電子的に提供した優先
権に係る証明書類も受け入れることができるよう、制度改正をする方向で検
討を行ったところ、ユーザーの利便性向上につながるものであるため、取組の
加速をしていただきたい旨の意見が提出され、反対意見はなかった。
④まとめ
上記のとおり、ユーザーの利便性向上につながることであり、一層の取組を
加速して欲しい旨の意見がなされ、反対意見も提示されなかったことから、優
先権証明書の写しの提出を許容するとともに、オンライン提出を可能とする
ことが適当である。
19
4.裁定関係書類の閲覧制限
(1)現行制度の概要
①裁定制度の概要
裁定制度とは、一定の要件が満たされた場合に、経済産業大臣又は特許庁長
官(以下「特許庁長官等」という。)の裁定により、特許発明、登録実用新案
又は登録意匠(以下「特許権等」という。)をその特許権者、実用新案権者又
は意匠権者(以下「特許権者等」という。)の同意を得ることなく第三者が実
施する権利を設定し得る制度である。特許法、実用新案法及び意匠法において、
以下の 3 つの場合の裁定を規定している。
⚫ 不実施の場合の通常実施権の設定の裁定
(特許法第 83 条、実用新案法第 21 条)
⚫ 利用関係の場合の通常実施権の設定の裁定
(特許法第 92 条、実用新案法第 22 条、意匠法第 33 条)
⚫ 公共の利益のために特に必要な場合の通常実施権の設定の裁定
(特許法第 93 条、実用新案法第 23 条)
裁定を請求する者は特許庁長官等へ裁定請求書を提出し、それに対して特
許権者等は答弁書を提出することができ(特許法第 84 条等)、裁定は文書を
もって行われることとなる(同法第 86 条等)。
②閲覧制度の概要
特許法等には、何人も特許等に関する書類を閲覧等することができる閲覧
制度の規定があり(特許法第 186 条、実用新案法第 55 条第 1 項(特許法第 186
条の準用)、意匠法第 63 条)、裁定請求書、答弁書、裁定謄本等の裁定に係る
書類(以下「裁定関係書類」という。)についても同規定に基づき何人も閲覧
等を請求することができる。
他方、営業秘密の保護のために、判定(特許法第 71 条、実用新案法第 26 条
(特許法第 71 条の準用)、意匠法第 25 条)や無効審判(特許法第 123 条、実
用新案法第 37 条、意匠法第 48 条)に係る書類であって当事者等から営業秘
密が記載された旨の申出があったものについて、特許庁長官が秘密を保持す
る必要があると認めるときは、その閲覧等を制限することができるとされて
いる(特許法第 186 条第1項ただし書、同項第 2 号及び 4 号、意匠法第 63 条
第 1 項ただし書、同項第 3 号及び第 5 号)。
(2)現行制度の課題
裁定の手続においては、特許発明等の実施事実・計画の立証及び反証のため
に、営業秘密を含む企業情報や技術情報が記載された書類の提出が必要とな
り得る。
営業秘密は、公にされることにより企業の保護すべき利益を損なうおそれ
があるが、現行制度では、裁定手続に係る書類に営業秘密等が記載されていて
も、閲覧等を制限することができない。そのため、営業秘密の漏えいの懸念か
ら、裁定請求人や特許権者等が立証及び反証のために必要な書類の提出を控
え、結果として適切な裁定判断ができないおそれがある。
20
(3)本小委員会での検討
裁定関係書類のうち営業秘密が記載された書類は、閲覧等を制限可能とす
る案が事務局から提示された。
各委員からは、裁定関係書類のうち営業秘密が記載された書類の閲覧等を
制限することに賛同する旨の意見が示された。
(4)まとめ
裁定関係書類のうち営業秘密が記載された書類は、閲覧等を制限可能とす
ることが適当である。
21
5.ライセンス促進策
(1)検討の背景
特許制度は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、産業の
発達に寄与することを目的としている。すなわち、特許の実施・利用を通じた
イノベーションの促進が期待されている。
しかし、現状では特許の約半数が未利用であり17、未利用特許の活用促進、
特に、ライセンス促進策を検討する必要性がある。
(2)ライセンスに係る実態と要因
①大企業の現状
(ア)ライセンサーとして
全未利用特許の 8 割強が大企業によるものとの実態から18、主として大企
業がライセンサーとなり、その未利用特許を活用した他者による事業化を
促すことが期待される。通常、事業化に向けたニーズを有する中小企業、ス
タートアップが、その未利用特許を活用する場面が最も典型的に想定され
る。
ライセンサーとしての大企業は、一般的に、自社が抱える未利用特許を単
なるコストではなく、収益に結びつくように活用することを目指し、開放可
能な特許のライセンス活動等に取り組んでいる。例えば、INPIT が提供する
「開放特許情報データベース」19には、大企業も含む多くの企業の開放可能
な特許が登録されている。しかしながら、問合せや成約がない企業が大多数
であるという実態があり、このデータベースによる開放可能特許の表面化
だけでは、中小企業、スタートアップの事業ニーズとの突き合わせに至らず、
その活用先を見つけ出せていないケースが多い。
(イ)ライセンシーとして
ライセンシーとしての大企業は、自社の既存ビジネスに必要な特許を特
定し、そのライセンスを受ける場合や、新規事業創出や新たな製品の量産化
を目指し、業務提携/共同研究のため、不特定の企業等から特許ライセンス
を受ける場合がある。
このような場合、大企業も「開放特許情報データベース」を活用して開放
特許を検索可能であるが、上記のとおり、これだけでは他者の特許を活用し
た事業化に結びついていないという実態がある。
17
出典:特許行政年次報告書 2022 年版(特許庁),45 ページ参照
(https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2022/document/index/all.pdf)
18
出典:令和 3 年度知的財産活動調査(特許庁)から推計
19
インターネット上で、企業、大学、研究機関等の開放特許を登録、検索、閲覧できる公
的なサービス(無料)であり、キーワード、文章、登録者名、国際特許分類(IPC)、技術
分野、技術内容(機能)等から検索可能である。令和 4 年 11 月 9 日時点において、企業
571 社、大学・公的研究機関等 230 機関等の開放特許 2 万 3,623 件が登録されており、令
和 3 年度のアクセス実績は約 38 万 5,000 件である。(https://plidb.inpit.go.jp/)
22
②大学の現状
(ア)ライセンサーとして
大学は不実施主体であるため、基本的に、ライセンサーとして特許を開放
しライセンス又は譲渡することを欲するが、現状、大学の保有特許の約 8 割
が未利用特許である20。
ライセンサーとしての大学は、TLO、URA(リサーチアドミニストレーター)
等が、大学の研究成果のうち開放可能な特許のライセンス活動等に取り組
んでいる。例えば、こうした者が「開放特許情報データベース」を利用する
場合、先に示した大企業の実態と同様、事業ニーズとの突き合わせに至らず、
その活用先を見つけ出せていないケースが多い。
(イ)ライセンシーとして
大学は不実施主体であり、事業実施者としてのライセンシーにはならな
い。
③中小企業の現状
(ア)ライセンサーとして
一般的に、研究開発型で特許取得に積極的である中小企業は、請負型の研
究開発である場合を除き、自社実施できない場合には特許をライセンスし、
少しでも収益にプラスになるよう活用する意図を有するが、そのようなケ
ースは多くない。
ライセンサーとしての中小企業が「開放特許情報データベース」を利用す
る場合には、大企業、大学と同様に、事業化ニーズとの突き合わせに至らず、
その活用先を見つけ出せていないケースがある。
(イ)ライセンシーとして
中小企業は、大企業等の特許のライセンスを受けて事業化するニーズは
高い21。
ライセンシーとしての中小企業は、
「開放特許情報データベース」を活用
し、開放特許を検索可能であるが、大企業と同様に、これだけでは他者の特
許を活用した事業化に結びついていないという実態がある。
④スタートアップの現状
(ア)ライセンサーとして
通常、スタートアップは、自社実施が主であり、資金調達や M&A を想定し
た知財デュー・デリジェンスへの対応のため、他者にライセンスを許諾する
優先度が低い22。他方、工場を持たずにライセンスを許諾した他者に製造を
20
出典:令和 3 年度知的財産活動調査(特許庁)から推計
出典:中小企業の知的財産活動に関する基本調査報告書(平成 31 年 3 月 特許
庁),100, 199 ページ参照(https://www.jpo.go.jp/resources/report/chiikichusho/document/report_chusho_chizai/honpen_zentai.pdf)
22
出典:スタートアップが直面する知的財産の課題に関する調査研究報告書(令和 4 年 3
21
23
行わせるファブレス型のビジネスモデルを実施しているスタートアップや、
大企業との業務提携や共同研究に必要なライセンスビジネスを行う不実施
主体のスタートアップも一部に存在する。
このようなライセンサーとしてのスタートアップにあっては、例えば、
「開放特許情報データベース」を利用するが、他の主体と同様に、事業化ニ
ーズとの突き合わせに至らず、その活用先を見つけ出せていないケースが
ある。
(イ)ライセンシーとして
スタートアップは、ベンチャーキャピタルからの資金調達に当たり自社
に帰属する特許の存在が求められるところ、自ら特許権を保有する又は独
占的ライセンスを受けることを望む傾向にある。後者の場合、ライセンスを
希望する特許が特定されていることが多く、マッチングの必要性は低い。
ライセンシーとしてのスタートアップであって、上記のマッチングの必
要性がある場面においては、
「開放特許情報データベース」を活用して開放
特許を検索可能であるが、他の主体と同様、これだけでは他者の特許を活用
した事業化に結びついていないという実態がある。
(3)ライセンスの阻害要因
ライセンサー/ライセンシーの全ての主体において、
「開放特許情報デー
タベース」の活用が期待されているが、現状のデータベースの内容では開放
特許の活用先が見いだせない/他者の特許を活用した事業化に結びつかな
い実態にある。
この点について、ライセンスのマッチングの場面ではマッチングサービ
ス提供事業者の利用が通例であるところ、マッチングサービス提供事業者
やそのサービス利用者からは、技術シーズと事業ニーズをマッチングする
に際し、
「開放特許情報データベース」のライセンサーの開放特許情報(特
許公報に記載の技術等の概要に加え、実施・許諾実績の有無、譲渡・実施許
諾の可否等)とライセンシーの事業ニーズの情報のみでは不十分であり、以
下のような情報を併せて提供することも必要と指摘されている。
•
•
•
ライセンシーが事業化に際して考慮すべきライセンサーが有する周辺
特許等の技術情報
その開放特許を活用して事業化を行うことが可能と考えられる製品・サ
ービスに関する情報
その開放特許を用いて実用化のための研究開発を行う場合に提供され
うる支援措置(補助金等)に関する情報
上記に加え、予算が乏しく、ライセンサー/ライセンシー(大学は除く)
月 特許庁), 135 ページ参照
(https://www.jpo.go.jp/resources/report/sonota/startup/document/index/startup_r
3_hokoku.pdf)
24
いずれの場合でも、民間のマッチング支援を受ける際の資金的課題もある
者も存在する。
さらに、大学、中小企業、スタートアップにおいては、技術移転/ライセ
ンス活動、ライセンス交渉・契約手続等の知見も不足していることが、ライ
センサーとして自身の開放特許を他者の事業化に結びつけられない、又は、
ライセンシー(大学は除く)として他者の開放特許を自身の事業化に結び付
けられない要因の一つとなっている。
(4)本小委員会での検討
①事務局の提案について
実際にマッチングを進める上での障害として指摘されている具体的な課題
に応じた、以下(ア)~(ウ)に示した対応策を講じる案が事務局から提示さ
れた。
また、以下の(エ)を踏まえ、ライセンス促進策の一つと考えられる特許料
の減免拡充を行うよりも、ライセンスの実施につながる政策効果がより高い
と考えられる上記対応策を講じることとし、特許料の減免の在り方について
は、海外の「ライセンス・オブ・ライト制度」の実施状況等を引き続き注視し
つつ、検討を行っていくことが提案された。
(ア)開放特許情報データベースの課題について
民間のマッチングサービス提供事業者が、開放特許情報と自身が保有す
る上記(3)で示したような他の情報を組み合わせたユーザーニーズに合致
したサービスを提供できるよう、開放特許情報をまとまったデータとして
民間のマッチングサービス提供事業者やこれらの事業者に情報を提供する
データベース事業者に提供する。
このため、開放特許情報の民間提供の在り方(データ提供のフォーマット、
提供形態等)、マッチングに有用な他の情報等について整理し、これを広く
公表することにより開放特許情報の利活用を促進していく。また、上記の開
放特許情報の提供拡充と併せて、開放特許情報の使用方法等に関するサポ
ートの充実を検討する。
(イ)民間のマッチング支援を受ける際の資金的課題について
自身の開放特許をライセンスする場面及び開放特許のライセンスを受け
て事業化を進める場面において、ライセンサー/ライセンシーがマッチン
グサービス提供事業者等を利用し、技術移転/ライセンス契約した場合に、
その利用に係る費用を補助する施策の導入を検討する。
(ウ)ライセンス交渉・契約手続のノウハウ等に関する課題について
INPIT の知財経営支援等において、大学やスタートアップが事業会社とラ
イセンス契約等を締結する際の留意点を特許庁が取りまとめ、現在普及を
25
図っている「モデル契約書23」を十分に活用する。また、特許庁事業である
知財専門家によるスタートアップ向けメンタリングの内容強化、VC への知
財専門家派遣の拡大、金融機関や VC 職員向けのライセンス交渉に関する講
習会の実施を通じて、中小企業、スタートアップのライセンス交渉力強化を
支援する。
大学 URA 向け等にカスタマイズしたライセンススキル向上のためのセミ
ナーを実施することにより、大学のライセンス交渉力強化も支援する。
(エ)特許料の減免拡充によるライセンス促進策について
例えば、以下の減免拡充の制度案 1、2 が考えられる。
•
•
(制度案 1)現行の軽減制度では 1-10 年目の特許料が軽減対象であるとこ
ろ、一定の年次までにライセンスが行われた場合は 11 年目以降の特許料ま
で軽減対象とする。
(制度案 2)ライセンスが行われた以降に納付する特許料(1-10 年目)につ
いて、現行の軽減制度よりも軽減率を拡充する。
しかし、ライセンス促進策としての特許料の減免に関して、大学は不実施
主体であり、他者に実施させることが前提であるため元々開放意図を有し
ており、また、中小企業、スタートアップは、そもそも自社実施が中心であ
る(他者にライセンスするケースは多くない)が、自社実施できない場合に
は他者へのライセンス実施を欲する実態がある。
そして、上記のように既にライセンス意欲を有している者は、そもそも他
者へのライセンス意欲を有しており、特許料の減免がライセンスの意思決
定のトリガーとなる(特許料の減免がないとライセンスしない)という場合
は想定しがたいことに加え、特許料減免策(制度案 1、2)の導入による減
免拡充額は、ライセンス実施に伴う収益に比して必ずしも大きいものでは
なく、十分なインセンティブ効果を期待できないと考えられる。
また、英独等で「ライセンス・オブ・ライト制度」が導入されているが、
特許料減額のために使用されるだけであり、実際にオープンイノベーショ
ンの促進につながっていないとの多数の指摘がある24。
23
知財等から生み出される事業価値の総和を最大化し両者が中長期的な目線で Win-Win と
なることを目指すための契約書例。
「想定シーン」を設定して各条項のポイントを解説し
たものであり、
「ゴールドスタンダード」ではない。
24
出典:令和 3 年度産業財産権制度各国比較調査研究等事業「ライセンス・オブ・ライト
及び実用新案に係る各国及び国内ニーズ調査」(令和 4 年 3 月,一般財団法人知的財産研究
教育財団, 知的財産研究所),140 ページ参照
(https://www.jpo.go.jp/resources/report/takoku/document/zaisanken_kouhyou/2021_
06.pdf)
26
②各委員からの意見について
ライセンス促進策として特許料の減免拡充を行うよりも、実際にマッチン
グを進める上での障害として指摘されている具体的な課題に応じた対応策
(上記①(ア)~(ウ))を講じる方向性で意見が一致した。
他方で、未利用特許の活用は、単にライセンスを増やすというのではなく、
イノベーションの創出に繋げることが趣旨であることから、施策の実施に当
たっては、未利用特許の実態を踏まえた対応とすることや、事業実施者のニー
ズを適切に把握する必要性、不適切なマッチングが生じないようにするべき
旨等の意見が示された。
また、具体的な課題に応じた上記対応策を講じるに際して、特に、大学、中
小企業、スタートアップにあっては、弁理士・弁護士等の知財専門家が知財戦
略の視点から支援していくことも必要であり、弁理士会と INPIT とが協力し
ていくことも重要である旨の意見が示された。
さらに、ライセンス交渉力強化を支援するに際し、特許庁が取りまとめ普及
を図っている「モデル契約書」を十分に活用するに当たっては、
「モデル契約
書」の位置づけ、コンセプトが誤解されないよう注意が必要であり、場合によ
っては、この「モデル契約書」の契約例に拘泥するあまり、かえって、ライセ
ンスを阻害するような事態になりかねないとの意見が示された。
ライセンス促進策としての減免制度について、中小企業にとって特許料減
免の拡充は望ましいことであるが、制度を導入するのであれば、事業化ではな
く減免を目的として利用されることがないような制度作りが必要であるとの
意見が示された。
(5)まとめ
以上のとおり、現時点では、ライセンス促進策の一つと考えられる特許料の
減免拡充を行うのではなく、ライセンスの実施につながる政策効果がより高
いと考えられる、実際にマッチングを進める上での障害として指摘されてい
る具体的な課題に応じた施策を講じることが適当である。
なお、上記施策の具体化、実施に際しては、各委員から示された意見も十分
に踏まえた検討を行う。また、特許料の減免の在り方については、海外の「ラ
イセンス・オブ・ライト制度」の実施の状況等を引き続き注視しつつ、検討を
行っていく。
27
おわりに
新型コロナウイルスによる危機を乗り越えた先の新しい社会を見据えて、特
許庁は、更なるデジタル化の促進等、ユーザー利便性向上のための検討を引き続
き行っていく必要がある。また、イノベーションの原動力となる知的財産の活用
を促すためには、新領域における発明の適切な保護が必要である。特許制度にお
ける発明の「実施」の定義に関する論点を始め、今後も変化するビジネス環境に
応じて、特許制度の在り方について、引き続き検討していくことが望ましいもの
と結論付け、本小委員会において提言する。
28
資料10
新規性喪失の例外適用手続に関する
意匠制度の見直しについて(案)
令和 4 年 12 月 7 日
産業構造審議会
知的財産分科会
意匠制度小委員会
産業構造審議会知的財産分科会
意匠制度小委員会の開催経緯
本小委員会においては、意匠の新規性喪失の例外規定の適用手続の緩和等の
課題についての検討を行った。
第 13 回小委員会 令和 4 年 9 月 9 日(金)
議事 (1)当面の検討課題について
(2)意匠の新規性喪失の例外適用手続について
第 14 回小委員会 令和 4 年 11 月 2 日(水)
議事 (1)意匠の新規性喪失の例外適用手続について
(2)送達制度の見直しについて
(3)書面手続デジタル化について
第 15 回小委員会 令和 4 年 12 月 7 日(水)
議事 (1)裁定関係書類の閲覧制限について
(2)報告書案の提示
1
産業構造審議会
知的財産分科会
委員名簿
青木
大也
大阪大学大学院法学研究科
淺見
節子
明治大学専門職大学院法務研究科
黒田
薫
阿部・井窪・片山法律事務所
笹野
拓馬
日本弁理士会
田村
林
善之
平林
千晶
篤哉
准教授
客員教授
弁護士・弁理士
執行理事
笹野国際特許事務所
委員長
意匠制度小委員会
弁理士
東京大学大学院法学政治学研究科
株式会社ロフトワーク
教授
共同創業者
日本知的財産協会意匠委員会
委員長
セイコーエプソン株式会社IP企画渉外部意匠G
課長
(敬称略、五十音順)
2
目次
はじめに ............................................................ 4
1.意匠の新規性喪失の例外適用手続 ................................... 5
2.特許制度小委員会で審議された検討課題 ............................. 9
おわりに ........................................................... 10
3
はじめに
イノベーションの促進とブランド構築に資する優れた意匠を保護可能とすべ
く、2019 年 5 月に意匠法の抜本的改正が行われ、翌年 4 月に施行された。これ
により、ネットワークを通じて利用の都度提供されるソフトウェア等の画像デ
ザインや、建築物、内装のデザインが新たに保護対象に加えられるとともに、関
連意匠制度の拡充により、ブランド形成に資するシリーズ製品のデザイン群を
長期にわたり保護することが可能となった。
他方、2021 年 2 月の産業構造審議会知的財産分科会基本問題小委員会報告書
「ウィズコロナ/ポストコロナ時代における産業財産権政策の在り方―とりま
とめ―」において、新規性喪失の例外適用手続の緩和が今後の新たな取組・改善
事項として掲げられた。また、2022 年 6 月の特許庁政策推進懇談会取りまとめ
「知財活用促進に向けた知的財産制度の在り方」においても、
「意匠特有の問題
に対応すべく、出願人の負担軽減と第三者の不利益のバランスを考慮しつつ、意
匠の新規性喪失の例外適用手続を緩和する方向で法改正の具体的内容について
検討を深める必要がある。」とされた。
本小委員会では、2022 年 9 月以降、主として意匠の新規性喪失の例外適用手
続について、検討を行ってきた。本報告書は、これまでの審議内容を取りまとめ、
意匠制度の見直しについて提言するものである。
4
1.意匠の新規性喪失の例外適用手続
(1)現行制度の概要
意匠法には、登録要件として新規性(意匠法第 3 条第 1 項)及び創作非容易
性(同条第 2 項)が定められており、先願主義の原則の下、出願人自らが公開
した自己の意匠であっても、出願前に公開したものであれば拒絶理由の根拠
となる。
しかし、この原則を厳格に貫くと、産業の発達に寄与するという意匠法の趣
旨に反する場合もあることから、例外として、意匠登録出願前 1 年以内に、意
匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して新規性を喪失した意匠(意
匠法第 4 条第 2 項)等について、新規性等が喪失しなかったものとみなす「意
匠の新規性喪失の例外規定」が定められている。
意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して新規性を喪失した意匠
について、意匠の新規性喪失の例外の規定の適用を受けるためには、出願と同
時に、その旨を記載した書面を提出するか願書にその旨記載した上、出願から
30 日以内に、同規定の適用を受けることができることを証明する書面(例外
適用証明書)を、特許庁長官に提出しなければならない(同条第 3 項)。
(2)現行制度の課題
デザイン開発においては、一つのコンセプトから、形状、模様又は色彩に関
する多数のバリエーションの意匠が同時期に創作されることが多く、また、意
匠は、物品等の外観であることから、マーケティングや製品 PR において必然
的に創作の内容を公開することとなるため、相互に類似する多くの意匠が出
願前に公開されることも少なくない。
また、近年では、複数の EC サイトを利用した製品の販売や、複数の SNS を
活用した製品 PR が広く行われ、発売前の製品に関する断片的な情報を公開し
閲覧者の興味を引くことを意図した広告手法も現れるなど、公開態様が多様
化・複雑化しており、意匠の公開に関する情報の管理が困難となっている。さ
らに、中小企業等では、クラウドファンディングのように意匠を公開して投資
を募ってから製品化を決定する手法や、外部の協力企業や消費者と協働して
製品を完成させる製造委託や共同開発が行われており、開発過程における公
開の機会も増えている。
以上のように、出願意匠に関係する全ての公開事実を管理・把握することが
困難となっているところ、出願から 30 日以内に全ての公開意匠を網羅した例
外適用証明書を作成することは、出願人にとっては大きな負担となり、意匠登
録出願を行う上での障壁となっている。また、例外適用証明書に記載した公開
意匠が網羅されていなかったため、新規性喪失の例外適用を受けられなかっ
た意匠に基づいて、新規性等の理由により拒絶査定となってしまうケースも、
審査実務において散見される。
実際、年間約 30,000 件の意匠登録出願において、2021 年に新規性欠如(意
匠法 3 条 1 項各号)の拒絶理由が通知(国際意匠登録出願に対する拒絶通報
を除く)された 2,621 件のうち、約 16.7%の 437 件が自己の 1 年以内の公開
5
意匠(国内外の公報除く)により拒絶理由が通知されたものであり、さらにそ
のうちの約 36.2%に当たる 158 件が、出願の際に例外適用書面及び例外適用
証明書を提出していたにもかかわらず、証明が網羅的にできていなかったも
のであった。
(3)本小委員会での検討
①検討における留意事項
新規性喪失の例外規定は、先願主義及び実体審査制度を採用する我が国の
意匠制度において、権利取得に至る手続の円滑性と明確性、権利の安定性及び
第三者の予見可能性を考慮し、一定の要件を満たした場合に限り「例外」を認
めたものである。そのため、第三者の予見可能性等の観点から、新規性喪失の
例外の適用範囲を明確化するために一定の手続が必要であることに留意すべ
きである。
また、出願人にとっては、新規性喪失の例外適用手続を行った場合でも、第
三者が類似する意匠を公開していた場合には拒絶されることから、原則とし
て、公開前に意匠登録出願を行うことを促し、この手続の適用による救済には
限界があることも理解されるよう注意が必要と考えられる。
②具体的な対応案の検討
本小委員会では、以下の対応案を基に検討を行った。対応案は、法定期間(出
願から 30 日)内に提出した最先の公開についての証明書に基づき、それ以後
に意匠登録を受ける権利を有する者等の行為に起因して公開された同一又は
類似の意匠についても新規性喪失の例外規定の適用を受けられるとし、具体
的には、以下を満たす意匠について法定期間内に提出した証明書に基づき新
規性喪失の例外規定の適用を受けられるとするものである。
(ア)意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して公知となった意匠
であること1
1
公報掲載により公知となったものは、従来と同様に新規性喪失の例外は適用されない。
6
(イ)法定期間内に提出した証明書により証明した意匠の公開時以後 2に公開
された意匠であること
(ウ)法定期間内に提出した証明書により証明した意匠と同一又は類似する
意匠であること(非類似の意匠は別個の証明が必要3)
【対応案のイメージ】
この対応案は、最先の公開意匠についての証明書を提出することにより、第
三者の予見可能性等を損なわない範囲で、提出した証明書に記載した意匠以
外の公開意匠についても、所定の要件を満たせば、新規性喪失の例外規定を適
用させるものである。
最先の公開を要件とする理由は、公開の時期は客観的に判断できる明確な
要件であること、最先の公開は出願人にとって把握が容易であると考えられ
ること、最先の公開が示されることで、いずれの公開意匠に対して例外規定が
適用されるのか判断しやすく、審査の負担が抑えられ、かつ、第三者の予見可
能性も確保可能であることである。
個別の論点についての考え方は次のとおりである。
➢ 証明書記載の意匠が最先の公開意匠であることについて特段の証明・宣
誓等は不要である。
➢ 最先の公開以外についても、証明書の提出は可能であり、重複があって
も特段の不利益は生じない。
➢ 審査・審判の過程で公開者が不明な意匠として拒絶理由等の根拠とされ
た場合も、その公開意匠が意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起
因して公開されたものである場合は、新規性喪失の例外規定の適用要件
を満たしている旨の主張・立証を行い、反論することができる。
➢ 証明書記載の意匠よりも前に公開された意匠には、提出した証明書に基
2
後述(4)のとおり「公開日以後」とする。
証明書記載の意匠と非類似の意匠については、出願意匠との関係において創作非容易性
等の要件の拒絶理由の根拠となる場合がある。
3
7
づく例外規定の適用はされない。
➢ 同一又は類似の複数の意匠が公開された場合、そのうちの一つを証明書
に記載すれば足りる。
③委員からの意見
➢ 網羅的な証明書の提出が求められず、出願人の証明書作成負担が大きく
軽減される案であり、歓迎する。
➢ 当初証明書を提出すべき対象として、
「最先の公開」は明確な要件であり、
第三者の予見可能性が確保されている。出願人の手続負担軽減の観点か
ら、
「最先の公開」は、同日であれば公開の時分の前後まで問う必要はな
く日単位で判断することが望ましい。新規性喪失の例外規定が、公知と
なった日から一年以内に出願することを要件とし、日単位での判断であ
ることとも整合する。
➢ 「最先の公開」を要件とすると、最先の公開意匠の証明書が提出できて
いなかった場合は救済されないが、要件の明確性や、出願人の負担と審
査官の負担及び第三者の予見可能性とのバランスを考慮した上での政
策的な判断だと理解した。
➢ 制度を周知する際は、出願人が証明書の提出が省略できる対象について
誤解することのないよう、証明書記載の意匠と類似しない意匠について
は、新規性喪失の例外規定の適用を受けることができず、別途証明書の
提出が必要であること等を明確にし、注意喚起を行うべき。また、運用
開始後の状況を踏まえ、必要に応じ、証明書の提出漏れに対する追加的
な救済措置の要否を改めて検討してほしい。
④上記以外の案
上記対応案のほか、出願と同時に例外適用書面を提出し、法定期間(出願か
ら 30 日)内に「主要な公開事実」について例外適用証明書を提出した者につ
いては、法定期間経過後、出願が審査に係属している間、網羅されていなかっ
た公開事実についての証明書を追加で提出できるようにする案についても議
論を行ったが、網羅的な証明書の提出が求められており証明書の作成負担が
軽減されず手続の緩和として不十分である、
「主要な公開」という判断基準が
不明確である、という意見が示され、本小委員会としては採用しなかった。
(4)まとめ
上記検討における留意事項のとおり、証明書の提出が必要であるという前
提で制度設計を行う場合、上記②の対応案は、法定期間内に提出する証明書の
要件を「最先の公開」について証明することとしており明確な要件であること、
網羅的な証明書の作成が不要となり出願人の証明書作成負担が大きく軽減さ
れること、他方で、最先の公開が証明書に示されることから第三者の予見可能
性も担保されること等から、意匠の新規性喪失の例外規定の適用手続の緩和
の方向性として適切である。さらに、出願人の手続負担軽減の観点から、判断
の基準となる時点を同日であれば公開の時分の前後まで問わない「最先の公
8
開の日」とすることが望ましい。したがって、上記②の案において、
「証明書
により証明した意匠の公開時以後に公開された意匠」の要件を「公開時以後」
ではなく「公開日以後」とする方向性で意匠の新規性喪失の例外規定の適用手
続を緩和することが適当である。
なお、緩和が行われてからも、運用開始後の状況を踏まえ、各国における動
向も参考にしながら、今後も必要に応じて追加的な措置の要否を含めた制度
の検討が行われるべきである。
2.特許制度小委員会で審議された検討課題
本小委員会では、2022 年 9 月の第 47 回特許制度小委員会及び同年 11 月の第
48 回特許制度小委員会において審議された以下の検討課題について、意匠制度
にも関わる論点であることから、課題に対する対応の方向性について報告を受
け、検討を行った。検討の結果、いずれの方向性についても全ての委員の賛同を
得た。
➢ 送達制度の見直し
➢ 書面手続デジタル化
➢ 裁定関係書類の閲覧制限
9
おわりに
意匠制度の活用促進に向けた課題の検討を進める上では、今後も引き続き制
度ユーザーの声を聞き、十分な意見交換を行いながら進めるべきである。本小委
員会においては、意匠の新規性喪失の例外適用手続について提言を行ったもの
であるが、この課題も含めて、意匠制度の在り方については不断に検討が行われ
るべきであり、今後もユーザーの意見を踏まえ、創作や出願権利化等の実務の現
状や企業活動の実態を把握しつつ、各国における動向等も参考にしながら、適時
の見直しが行われることを期待する。
10
資料11
商標を活用したブランド戦略展開に向けた
商標制度の見直しについて(案)
令和 4 年 12 月 23 日
産業構造審議会
知的財産分科会
商標制度小委員会
産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会の開催経緯
本小委員会においては、他人の氏名を含む商標の登録要件緩和、コンセント
制度の導入を始め、商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の課題
について、検討を行った。
第 9 回小委員会 令和 4 年 9 月 29 日(木)
議事 (1)商標審査の現状について
(2)当面の検討課題について
(3)他人の氏名を含む商標の登録要件緩和について
(4)コンセント制度の導入について
(5)Madrid e-Filing により商標の国際登録出願をする際の本国官庁手
数料の納付方法の変更について
第 10 回小委員会 令和 4 年 11 月 22 日(火)
議事 (1)他人の氏名を含む商標の登録要件緩和について
(2)コンセント制度の導入について
(3)送達制度の見直しについて
(4)書面手続デジタル化について
第 11 回小委員会 令和 4 年 12 月 23 日(金)
議事 報告書案の提示
1
産業構造審議会
知的財産分科会
委員名簿
商標制度小委員会
蘆立
順美
東北大学大学院法学研究科
教授
石井
美緒
日本大学商学部
井関
涼子
同志社大学法学部
大向
尚子
西村あさひ法律事務所
國分
隆文
東京地方裁判所(知的財産権部)
齊藤
浩二
日本知的財産協会
准教授・弁護士
教授
パートナー弁護士
部総括判事
常務理事・商標委員会担当
株式会社アシックス法務・知財統括部
委員長
島並
良
神戸大学大学院法学研究科
教授
高崎
充弘
株式会社エンジニア
田村
善之
東京大学大学院法学政治学研究科
橋本
千賀子
日本弁理士会
代表取締役社長
執行理事
弁理士法人酒井国際特許事務所
宮川
美津子
商標部
部長・弁理士
日本弁護士連合会知的財産センター意匠・商標・不競法
PT
座長
TMI 総合法律事務所
オブザーバー(令和 4 年 9 月 29 日
大日方
教授
信春
パートナー弁護士
第 9 回)
熊本大学大学院人文社会科学研究部(法学系)
山本
敬三
京都大学大学院法学研究科
米村
滋人
東京大学大学院法学政治学研究科
教授
教授
教授
(敬称略、五十音順)
2
目次
はじめに ............................................................ 4
1.他人の氏名を含む商標の登録要件緩和 ............................... 5
2.コンセント制度の導入 ............................................ 11
3.Madrid e-Filing により商標の国際登録出願をする際の本国官庁手数料
の納付方法の変更 ................................................ 18
4.特許制度小委員会で審議された検討課題について .................... 20
おわりに ........................................................... 21
3
はじめに
事業者は、自らの商品又はサービスと他者の商品又はサービスとの差別化を
図るべく、
「商標」を活用したブランド戦略を展開しているが、近年のデジタル
化・グローバル化の進展に伴い、ビジネスの環境が大きく変化し、市場における
競争が激化する中で、需要者が取り得る商品・サービスにおける選択の幅も広が
っている今日においては、
「商標」を活用したブランド戦略がより一層重要な役
割を果たすこととなる。
そのため、既に知財戦略等に取り組んでいる大企業に加え、中小企業や新たに
事業を始めるスタートアップ企業に対しても「商標」を活用した更なるブランド
戦略を支援していく必要があるとともに、近年のビジネスの実情や企業の商標
実務を踏まえ、時代に合わせた商標制度の見直しが求められている。
また、2022 年 6 月の特許庁政策推進懇談会とりまとめ「知財活用促進に向け
た知的財産制度の在り方」においても「他人の氏名を含む商標の登録要件緩和」、
「コンセント制度の導入」については、法改正の具体的内容について検討を深め
る必要があるとされた。
本小委員会では、商標を活用したブランド戦略展開に資するものとして、2022
年 9 月以降、主として「他人の氏名を含む商標の登録要件緩和」、
「コンセント制
度の導入」、
「Madrid e-Filing により商標の国際登録出願をする際の本国官庁手
数料の納付方法の変更」について検討を行ってきた。
本報告書は、上記小委員会における審議内容を取りまとめ、より多くのユーザ
ーに商標制度を活用していただくため、商標制度の見直しについて提言するも
のである。
4
1.他人の氏名を含む商標の登録要件緩和
(1)現行制度の概要
①商標法第 4 条第 1 項第 8 号について
構成中に他人の氏名等を含む商標は、商標法第 4 条第 1 項第 8 号1(以下、
本項において「本規定」という。)に該当し、当該他人の承諾がない限り、商
標登録を受けることができない。本規定の趣旨は、他人の人格的利益の保護に
あるとされている2。
②裁判所における判断、解釈について
近時の裁判例において、本規定は厳格に解釈されており、
「他人の氏名」の
知名度、出願人の知名度の有無等は考慮されず、文言どおり商標の構成中に
「他人の氏名」を含むかどうかで同号該当性を判断している。本規定に関する
主な裁判例については、以下のとおりである。
事件名/事件番号/訴訟
に係る商標
説示要旨
1
LEONARD KAMHOUT 事件
最高裁 2004 年 6 月 8 日判
決(平成 15(行ヒ)第 265
号)
争われた商標:商願平 1090342 号
「LEONARD KAM
HOUT」
(商標法第 4 条第 1 項第 8 号は)括弧書以外の部分に
列挙された他人の肖像又は他人の氏名、名称、その著名
な略称等を含む商標は、括弧書にいう当該他人の承諾
を得ているものを除き、商標登録をできないとする規
定である。その趣旨は、肖像、氏名等に関する他人の人
格的利益を保護することにあると解される。
2
山岸一雄大勝軒事件
知財高裁 2016 年 8 月 10
日判決(平成 28(行ケ)第
10065 号)
争われた商標:商願 201390519 号「山岸一雄大勝
軒」
山岸一雄事件
知財高裁 2016 年 8 月 10
日判決(平成 28(行ケ)第
10066 号)
争われた商標:商願 201390418 号「山岸一雄」
商標法第 4 条第 1 項第 8 号の趣旨やその規定ぶりから
すると、同号にいう「他人の氏名」が、著名又は周知な
ものに限られるとは解し難く、また、同号の適用が、他
人の氏名を含む商標の登録により、当該他人の人格的
利益が侵害され、又はそのおそれがあるとすべき具体
的事情の証明があったことを要件とするものであると
も解し難い。
また、同号の趣旨は、上記のとおり、人の氏名に対する
人格的利益の保護にあるところ、この人格的利益の保
護の要否を、顧客吸引力の有無(周知性や著名性の有
無)により分けるというのも、同号が商品又は役務の出
所の混同のおそれを要件としていないことに照らし、
相当でない。
1
商標法第 4 条第 1 項第 8 号は、
「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な
雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得て
いるものを除く。
)
」を(第 4 条第 1 項の)不登録事由として掲げている。
2
工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第 22 版〕1553 頁。
5
3
4
KEN KIKUCHI 事件
知財高裁 2019 年 8 月 7 日
判決(平成 31(行ケ)第
10037 号)
争われた商標:商願 201769467 号
The Soloist.事件
知財高裁 2020 年 7 月 29
日判決(令和 2(行ケ)第
10006 号)
争われた商標:商願 2017126259 号
「TAKAHIROMI
YASHITAThe
Soloist.」
商標法第 4 条第 1 項第 8 号の趣旨やその規定ぶりから
すると、同号の「他人の氏名」が、著名性・希少性を有
するものに限られるとは解し難く、また、
「他人の氏名」
を含む商標である以上、当該商標がブランドとして一
定の周知性を有するといったことは、考慮する必要が
ないというべきである。
「雅号」、
「芸名」、
「筆名」及び「略称」については、
「著
名な」という限定が付されている一方で、
「他人の氏名」
及び「名称」についてはそのような限定が付されていな
い。同号は、氏名及び名称については著名でなくとも当
然にその主体である他人を指すと認識されることか
ら、当該他人の氏名や名称の著名性や希少性等を要件
とすることなく、当該他人の人格的利益を保護したも
のと解される。
③現行の審査運用について
前述のとおり、本規定は近時の裁判例において厳格に解釈されているとこ
ろ、これを受け、特許庁の審査・審判実務においても、同様の判断が行われて
いる。
具体的には、出願に係る商標や他人の周知性・著名性、氏名を表記する文字
種の相違(例えば、氏名の漢字表記に対するひらがな、カタカナ、欧文字表記)
等に関わらず、同名の他人(他人が複数存在する場合にはその全員)の承諾が
得られなければ商標登録をすることができないものとして出願が拒絶されて
いる。
その結果、従来は登録が認められていた、構成中に氏名を含む商標について、
近年、同一人による同一の氏名に係る商標の出願が拒絶されるという事態が
生じている。本規定の解釈の厳格化が顕著になって以降、本規定を理由に審査
で出願が拒絶された主な事例は以下のとおりである。
近年の拒絶事例
1
2
【参考】同一出願人の過去登録例
(商願 2018-146014 2020 年拒絶査定) (登録第 4293672 号 1999 年登録査定)等
「ヨウジヤマモト」
(商願 2019-23948 2020 年拒絶査定)
(登録第 5178088 号 2008 年登録査定)等
6
3
「ジュン アシダ」
(登録第 4258861 号 1999 年登録査定)
(商願 2020-160280 2021 年拒絶査定)
(登録第 4581301 号 2002 年登録査定)等
(2)現行制度の課題
①氏名ブランドの保護の要請と国際的な制度調和について
商標の構成中に「他人の氏名」を含む場合、当該他人の承諾がない限り、本
規定により拒絶されることとなるため、現行制度に対しては、創業者やデザイ
ナー等の氏名をブランド名に用いることの多いファッション業界を中心に、
本規定の要件緩和の要望がある。
また、氏名を含む商標が採用されることの多いファッションブランドの多
くは中小企業が展開するものであるところ、そのような中小・スタートアップ
企業のブランド保護の観点からも、本規定を整備する必要がある。
さらに、米国、欧州、中国及び韓国等の諸外国では、他人の氏名を含む商標
の登録について、他人の氏名の知名度を要件とする制度が設けられていると
ころ、国際的な制度調和の観点からも、本規定の見直しが求められている。
②調査研究の概要について
前述のとおり、近時の審査・審判・裁判においては、本規定が厳格に解釈さ
れ、構成中に氏名を含む商標の出願が拒絶される傾向にあるところ、学識者・
ユーザー等からは、氏名を含むブランド名の保護に欠けるとの指摘を受けて
いる。そこで、特許庁において、令和 3 年度に、国内外における他人の氏名等
を含む商標に関する制度等について調査研究が行われた3。
調査研究においては、
(ア)本規定が他人の人格的利益を過度に保護し過ぎ
ている印象がある等の学識経験者からの指摘、
(イ)ファッション業界を中心
に、ブランド戦略上、氏名商標は必要不可欠である等のニーズ、及び、(ウ)
米国、欧州、中国及び韓国等の諸外国において、他人の氏名を含む商標に関す
る制度として他人の氏名の知名度を要件とする制度が導入されていること等
の結果が得られている。
(3)本小委員会での検討
①本小委員会での議論の概要
現行制度の課題を踏まえて、事務局から本規定の趣旨を変えることなく、本
規定の「他人の氏名」に一定の知名度の要件を課す方向での法改正を検討する
ことの提案がされたところ、本小委員会においては、本規定で保護すべき人格
3
令和 3 年度 産業財産権制度各国比較調査研究等事業「他人の氏名等を含む商標に関する
調査研究報告書」
(令和 4 年 3 月 一般社団法人 日本国際知的財産保護協会)
https://www.jpo.go.jp/resources/report/takoku/document/zaisanken_kouhyou/2021_04
.pdf
7
的利益の範囲、知名度の要件を課すことと本規定の趣旨(人格的利益の保護)
との整合性、一定の知名度の具体的な判断内容、無関係な者による悪意の出願
等の濫用的な出願への対応等を主な論点として検討を行った。
なお、
「他人の氏名」に一定の知名度の要件を課す法改正の方向性について、
憲法及び民法上の人格的利益の考え方に関して意見を伺うため、オブザーバ
ーとして、憲法及び民法の学識経験者である熊本大学大学院人文社会科学研
究部(法学系) 大日方信春教授、京都大学大学院法学研究科 山本敬三教授、
東京大学大学院法学政治学研究科 米村滋人教授を迎えた上で、検討を行った。
②主な論点について
(ア)本規定の趣旨(人格的利益の保護)について
前述のとおり、本規定の趣旨は、他人の人格的利益の保護にあるとされて
いるが、知財高判令和 3 年 8 月 30 日(令和 2 年(行ケ)第 10126 号)
〔マツ
モトキヨシ音商標事件判決〕において、本規定は「出願人の商標登録を受け
る利益と他人の氏名、名称等に係る人格的利益の調整を図る趣旨の規定」で
ある旨判示されたところである。
そこで、事務局から、現行制度に係る課題は、出願人の商標登録を受ける
利益より他人の氏名に係る人格的利益が過度に優先された結果、生じてい
るものとした上で、他人の人格的利益の保護という本規定の趣旨を変更す
ることなく、出願人の商標登録を受ける利益と他人の氏名に係る人格的利
益との調整方法を見直すことが妥当ではないか、本規定の保護する人格的
利益を「出願に係る指定商品・役務と氏名とを結びつけられることによる弊
害又は不利益を受けない権利」と整理できるのではないか、その前提にあっ
て、他人の知名度が高ければ、特定の商品・役務と氏名とを結びつけられる
ことによる弊害又は不利益が大きくなるところ、本規定の「他人の氏名」に
一定の知名度の要件を課す方向で法改正を検討すべきではないか、とする
提案があり、本小委員会ではこれらについて検討を行った。
本小委員会において、現行制度は他人の氏名に係る人格的利益が過度に
保護されていること、指定商品・役務と氏名との結合により特定の人が想起
されなければ氏名権は侵害されないとして商標登録を認めることは人格的
利益との調整の在り方として是認されること、氏名にまつわる感情侵害を
防止する法益が憲法上のものとされるとしても適切な制約は許されること、
「他人の氏名」に一定の知名度の要件を設けることについては憲法学上の
見地からも違和感がないこと等の意見があり、出願人の商標登録を受ける
利益と他人の氏名に係る人格的利益との調整のため本規定の他人の氏名に
一定の知名度の要件を課す方向で意見が一致した。
また、他人の氏名に一定の知名度を要件として課すことに関し、本規定の
趣旨、保護する利益、対象について、
(i)人格的利益として氏名にまつわ
る感情侵害の防止にあるとする意見、
(ii)パブリシティ権の保護対象(顧
客吸引力を有する者)のみとすると狭すぎるとする意見、
(iii)パブリシテ
ィ権やアイデンティティに係る人格的利益との衝突が回避可能か整理すべ
きとする意見、
(iv)著名な氏名をフリーライドする場面に限定して良いと
8
する意見があった。これらの意見を踏まえつつ、後述(ウ)の出願人側の事
情を考慮することも含め、更に制度設計を検討した結果、人格的利益の保護
という本規定の趣旨については、変更しない方向で取りまとめを行った。
(イ)「一定の知名度」の要件について
一定の知名度の要件に関して、求める知名度の程度(本規定の「雅号」等
と同様の「著名」とするか、又は商標法第 4 条第 1 項第 10 号等に規定する
「需要者の間に広く認識されている」
(いわゆる「周知」)とするか等)や知
名度の判断基準となる需要者の範囲(指定商品・役務の需要者に限定せず、
指定商品・役務を中心としてある程度幅をもった需要者とするか等)の詳細
については、今後、法制化に際して検討を深めるとともに、商標制度小委員
会商標審査基準ワーキンググループにおいて審議していくこととなった。
(ウ)無関係な者による出願等の濫用的な出願への対応について
本規定に一定の知名度の要件を設けた場合、一定の知名度のない氏名を
含む商標については、無関係な者による悪意の出願等の濫用的な出願を許
すこととなり、他人の人格的利益が侵害されるおそれがあると考えられる
ところ、現行の商標法第 3 条第 1 項柱書(商標の使用の意思)や同法第 4 条
第 1 項第 7 号(公序良俗)等の不登録事由で濫用的な出願の全てのケース
に対応することができるのか、出願人側の事情を考慮することを可能とす
べきではないか、との意見があった。
そこで、本規定については、
「他人の氏名」に一定の知名度の要件を課す
ことに加え、
「他人の氏名」を含む出願について「出願人側の事情(例えば、
出願することに正当な理由があるか等)4」を考慮する要件を課すことが適
当である、との意見で一致した。
具体的な考慮要素等、詳細については、
(イ)と同様、今後、法制化に際
して検討を深めるとともに、商標制度小委員会商標審査基準ワーキンググ
ループにおいて審議していくこととなった。
(エ)その他の検討事項について
本規定には、他人の「肖像」又は「名称」を含む場合にも当該他人の承諾
を得ない限り商標登録を受けることができない旨規定されているところ、
肖像については、個人との結びつきの強さ(氏名のような偶然の一致が考え
にくいこと)から氏名と同様の緩和の必要性は低く、また、名称については、
氏名との性質の違いから、自然人の氏名と同様の保護を認める必要性は低
いといえる。いずれについても、氏名と同程度の改正のニーズが確認されて
4
「出願人側の事情」考慮要素の想定例
・出願人と商標に含まれる氏名との関連性(出願商標中に含まれる他人の氏名が、出願人
の自己氏名、創業者や代表者の氏名、既に使用している店名である場合等)
。
・出願人の目的・意図(他人への嫌がらせの目的の有無、先取りして商標を買い取らせる
目的の有無等)
。
9
いないため、現時点において改正の必要性は必ずしも高いものではないと
考えられるところ、本小委員会において、反対の意見はなかった。
また、本規定の改正後においても、自己の氏名を不正競争の目的なく普通
に用いられる方法で表示して使用する場合は、その氏名の知名度にかかわ
らず商標権の効力を及ぼすべきでないことから、商標法第 26 条第 1 項第 1
号及び第 2 項については、改正の必要性はないと考えられるところ、これ
に対しても反対の意見はなかった。なお、本規定の改正に伴い氏名を含む商
標(現行の本規定との関係で登録が困難なもの)を使用している者の利益が
不当に害されないよう、継続的使用権等を認めるか否かについても、今後、
検討を深める必要がある。
(4)まとめ
出願人の商標登録を受ける利益と他人の氏名に係る人格的利益との調整の
ため、本規定の「他人の氏名」に一定の知名度の要件を設けること、また、無
関係な者による悪意の出願等の濫用的な出願の防止のため、出願人側の事情
(例えば、出願することに正当な理由があるか等)を考慮する要件を課すこと
が適当である。
見直し後の本規定の趣旨も、現行法と同様、他人の氏名に係る人格的利益を
保護することにある。一定の知名度の要件と出願人側の事情を考慮する要件
との関係性については、
(i)商標に含まれる他人の氏名が一定の知名度を有す
る場合には、人格的利益の侵害の蓋然性が高いと考えられることから、出願人
側の事情のいかんを問わず、本規定により出願が拒絶されることとなり、
(ii)
商標に含まれる他人の氏名が一定の知名度を有しない場合は、出願人側の事
情を考慮することで、他人の人格的利益が侵害されるような濫用的な出願は
拒絶されることとなる。これにより、一定の知名度を有する他人の人格的利益
のみならず、一定の知名度を有しない他人の人格的利益についても考慮され
ることになるため、他人の人格的利益の保護という本規定の趣旨が制度設計
において適切に反映されていると考えられる。なお、本規定は「人格権に由来
する権利の一内容を構成するもの」5と位置づけられているパブリシティ権を
も保護するものである。
また、
「他人の氏名」に課す一定の知名度の要件(求める知名度の程度や知
名度の判断基準となる需要者の範囲)及び出願人側の事情を考慮する要件の
詳細については、本規定の趣旨及び本小委員会における議論を踏まえつつ、法
制化に際して更に検討を行うとともに、商標制度小委員会商標審査基準ワー
キンググループにおいて具体的に検討を深める必要がある。
5
ピンク・レディー事件最高裁判決(最判平成 24・2・2 平成 21(受)2056)
「人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。
)は、個人の人格の象徴であるか
ら、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有す
ると解される(中略)
。そして、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する
場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」と
いう。
)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来
する権利の一内容を構成するものということができる」
10
2.コンセント制度の導入
(1)現行制度の概要
①商標法第 4 条第 1 項第 11 号について
商標登録出願に係る商標が他人の先行登録商標と同一又は類似であり、か
つ、当該出願に係る指定商品又は指定役務と先行登録商標に係る指定商品又
は指定役務とが同一又は類似する場合には、当該出願は商標登録を受けるこ
とができない(商標法第 4 条第1項第 11 号(以下、本項において「本規定」
という。)
)。本規定の趣旨は、商品又は役務の出所の混同防止にあるとされて
いる6。
②諸外国で導入されているコンセント制度の概要
「コンセント制度」とは、他人の先行登録商標と同一又は類似の商標が出願
された場合(本規定に該当する場合)であっても、当該先行登録商標の権利者
による同意があれば両商標の併存登録を認める制度のことをいう。米国、欧州、
台湾、シンガポール等、既に多くの国・地域で導入されており、グローバルな
コンセント(併存合意)契約を結ぶ場合もあるところ、我が国において同様の
手続がないことから、海外ユーザーによる日本での商標登録の障壁となって
いるとの意見がある。
(2)現行制度の課題
①過去の検討経緯
我が国においては、これまでもコンセント制度の導入について議論されて
きたところであるが、単に当事者間で合意がなされただけでは併存する商標
について需要者が商品又は役務の出所について誤認・混同するおそれ(以下
「出所混同のおそれ」という。)を排除できないことや、現行制度においても
アサインバック(出願人と先行登録商標の権利者の名義を一時的に一致させ
拒絶理由を解消する手法)の存在、運用の範囲内での対応の余地があったこと
から、今日まで、コンセント制度は導入されていない。
(参考)我が国における、コンセント制度の検討経緯
(ア)
「商標制度の在り方について」
(平成 18 年 2 月 産業構造審議会知的財
産政策部会報告書)
コンセント制度は、当事者の同意によって混同を生ずる可能性がある複
数の商標を登録することとなりかねず、需要者の保護という観点からは更
に検討が必要であること、コンセント制度の必要性が指摘される背景には、
現行(平成 18 年 2 月時点)の審査において、商品又は役務の類否判断が「類
似商品・役務審査基準」に沿って行われており、必ずしも取引の実情を十分
に参酌しない場合があることも一因となっていると考えられることから、
取引の実情を知る当事者の意見を踏まえた類否判断を行う仕組みについて
検討することが適切であるとされた。
6
工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第 22 版〕1554 頁。
11
(イ)取引の実情を踏まえた類否判断の仕組み及び「類似商品・役務審査基準」
の見直し(平成 19 年 4 月)
上記(ア)での議論を踏まえて、審査において、
「取引実情説明書」を考
慮することができることとしたほか、商品又は役務の類否関係を経済の実
態や取引の実情に合致したものとすべく、
「類似商品・役務審査基準」の見
直しが行われた。
(ウ)第 2 回商標制度小委員会(平成 28 年 7 月)
法改正によりコンセント制度の導入を検討する場合には、①「需要者の利
益」の保護を目的の一つに掲げる商標法の趣旨との関係、②最高裁判決で示
された「商標の類否」の考え方と、コンセントにより「類似であっても混同
は生じないものとする」という概念との関係等、商標制度・実務に与える影
響を踏まえ慎重に検討を行う必要があるとされた。
(エ)第 21 回商標審査基準ワーキンググループ(平成 28 年 11 月)
「取引実情説明書」の運用の見直しの検討が行われた。具体的には、商標
審査基準(第 13 版)において、①商品又は役務の類否判断における取引の
実情の考慮、及び、②出願人と引用商標の権利者に支配関係がある場合の観
点から見直しが行われ、平成 29 年 4 月から運用が開始された。
(オ)第 3 回商標制度小委員会(平成 29 年 8 月)
上記(エ)において改訂された商標審査基準における取扱いについて、ユ
ーザーの利用状況をみた上で、改めて我が国におけるコンセント制度の導
入の必要性、導入方法等について、検討を進めていくことが望ましいとされ
た。
(カ)
「知財活用促進に向けた知的財産制度の在り方~とりまとめ~」
(令和 4
年 6 月 特許庁政策推進懇談会報告書)
コンセント制度の導入に向けて更なる検討を行うべきとされ、商標法第 1
条に定める目的の一つである「需要者の利益」の保護を考慮し、同意があっ
てもなお出所混同のおそれがある場合には審査官の判断で拒絶する「留保
型コンセント」が望ましいとされた。また、併存登録後に出所混同が生じた
場合の取消審判等、事後的な手当も含めて、法改正の具体的内容について検
討を深める必要があるとされた。
②審査基準における運用による対応の限界について
平成 29 年に導入された商標審査基準における運用「商品又は役務の類否判
断における取引の実情の考慮について」及び「出願人と引用商標権者に支配関
12
係がある場合の取扱い」は、後者が認められた事例は 500 件超7あるものの、
前者が認められた事例は僅か1件8に止まるところ、いずれもユーザーにとっ
て利用しにくい場面があることが確認されている。
③ユーザーの制度導入に関するニーズへの対応について
我が国においてはコンセント制度が存在せず、商標同士が類似することを
前提に併存登録を求める場合には、アサインバックの手法が用いられてきた
ところ、その際には、権利の一時的な移転に伴うリスクや、金銭的・手続的負
担があることから、中小企業を含むユーザーからは、より簡便・低廉なコンセ
ント制度の導入を望む声がある。
また、諸外国にはコンセント制度が存在する一方で、我が国には同制度がな
いため、海外の顧客に対してアサインバックの説明を行う必要があり、それに
伴うトラブルが生じることもあるため、早期の対応を求める声も寄せられて
いる。
(3)本小委員会での検討
①本小委員会での議論の概要
現行制度の課題やコンセント制度の導入ニーズを踏まえて、事務局からコ
ンセント制度導入に向けた検討を進めることの提案がされたところ、本小委
員会においては、国際的な制度調和の観点から、コンセント制度の導入におお
むね賛成の意見があったほか、留保型、完全型といったコンセント制度の類型
の整理や、コンセントにより登録されたものであることの J-PlatPat 等によ
る公示の必要性、過去の検討経緯における導入見送りの理由に関する検討の
必要性について意見があった。他方、需要者の利益の保護を念頭に、アサイン
バックの規制の必要性、各国の商標制度の独自性等の観点も踏まえ、コンセン
ト制度導入に反対する意見もあった。これらを踏まえて、コンセント制度導入
の検討に当たって、以下の論点について整理された。
②主な論点
(ア)制度導入に当たり本規定の適用除外規定を設けることについて
事務局から、コンセント制度を導入するに当たって、商標法に新たな規定
を設け、所定の場合には、本規定の適用を除外する制度とする提案があり、
本小委員会ではこれについて検討を行った。
7
特許庁 HP に「商標法第 4 条第 1 項第 11 号の審査において、出願人と引用商標権者間に
支配関係が認められた出願の一覧」として 587 件が掲載されている(2022 年 10 月 21 日現
在)
。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/sihaikankei.html
8
特許庁 HP に「商標法第 4 条第 1 項第 11 号の審査において、取引の実情に基づいて、商
品・役務を非類似と判断した出願の一覧」として、1 件のみ掲載されている(2018 年 12
月 4 日現在 ※その後、対象案件が存在しないことから、2022 年 10 月現在も更新されて
いない。
)
。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/jitsujyo.html
13
本規定の趣旨は、前述のとおり、商品又は役務の出所の混同防止にあると
ころ、登録時のみではなく、登録後においても、先行登録商標と出願商標と
の間における出所混同の防止を担保できる制度を採用することで、本規定
の除外規定を設けることに一定の合理性を認めることができると整理され
た。
また、本規定には、商標権者の権利保護の側面もあるという見解もあると
ころ、先行登録商標の権利者の同意(自身の商標権と抵触する可能性のある
範囲に他人が別の権利を設定することについての同意)が存在することで、
本規定の適用を除外することの理由になり得ると整理された。
(イ)需要者の利益の保護
商標法第 1 条においては、同法の目的の一つとして「需要者の利益」の保
護を掲げているが、本小委員会において、コンセント制度導入を求めている
のは商標制度を利用している権利者や商標権を取得しようとしている者で
あって、需要者の意見が反映されていないとする意見があったことも踏ま
え、需要者の利益の保護をどのようにして図っていくかについて議論した
ところ、コンセント制度の導入に当たっては、以下のとおり、先行登録商標
の権利者による同意があっても、なお出所混同のおそれがある場合には登
録を認めない留保型コンセント制度を採用し、登録時に出所混同のおそれ
を審査するとともに、登録後においては、混同防止表示の請求、不正使用取
消審判の請求を可能にすることで、需要者の利益の保護を担保することが
できると整理された9。
(ⅰ)登録時
審査において、先行登録商標の権利者による同意及び出所の混同が生
じないことを説明する資料に基づき、出所混同のおそれの有無を実質的
に審査して登録可否を判断する10。
9
コンセント制度により併存登録された商標について、事後的な措置を手当することに伴
い、設定登録前のアサインバックにより併存登録された商標についても、一方の権利者に
よる商標の使用の結果、他方の権利者の業務上の利益が害されるおそれ(登録商標の出所
表示機能の毀損を含む)がある場合や、当事者のいずれかが不正競争の目的を持って出所
混同を生じさせる使用をした結果、現実に出所の混同が生じている場合には、需要者の利
益の保護を担保するために、混同防止表示の請求や不正使用取消審判請求を可能にすべき
と整理された。
10
審査における考慮要素の例としては、「現在の両商標の使用状況」、
「将来的に混同が生
じないことの取決め」及び「その他、審査官が出所混同が生じないと判断できる合理的な
説明」が想定されており、これらの内容を総合的に勘案した上で、審査官が、両商標の間
で出所の混同が生じるおそれがないと判断できる場合には、商標法第 4 条第 1 項第 11 号
の適用を除外することが想定されている(ただし、引用商標が著名商標である場合(支配
関係・グループ企業等を除く)や、商標が同一・酷似する場合等、出所混同のおそれが極
めて高いものについては、同号の適用を維持して拒絶することが想定されている。
)。した
がって、将来変動する可能性の高い事情はその考慮対象とはならない。
14
(ⅱ)登録後
一方の権利者による商標の使用の結果、他方の権利者の業務上の利益
が害されるおそれ(登録商標の出所表示機能の毀損を含む)がある場合に
は、商標法第 24 条の 4 のように、当事者間で混同防止表示の請求を可能
にする。また、当事者のいずれかが不正競争の目的を持って出所混同を生
じさせる使用をした結果、現実に出所混同が生じている場合には、同法第
52 条の 2 のように、何人も取消審判の請求を可能にする。
(ウ)最高裁判決との関係整理
過去の最高裁判決(以下の表参照)においては、本規定の類否判断に際し
て考慮することのできる取引の実情は「一般的、恒常的」な事情に限られて
きた。
しかし、一般的・恒常的な事情に準じたものを考慮することで、実際には
出所混同のおそれが生じないといえるものも存在し得る。
そこで、本規定の類否判断の方法については維持したまま、法改正により、
当事者間で、将来にわたってその事情(現在の使用状況等、当事者の合意に
よりコントロールが可能な事情)を変更しない旨の具体的な合意が行われ
ていることにより登録査定後に当該事情が変動しないことを担保できるよ
うな場合には、これを一般的・恒常的な事情に準じたものとして、本規定の
類否判断の枠外において考慮することが許されると整理された。
さらに、本規定との関係では互いに類似する商標であっても、当該事情を
考慮した上で、登録時及び登録後において具体的に出所混同のおそれが生
じないと判断される場合には、本規定の適用を除外する規定を設けて登録
を認めることが許されること、あわせて、登録後、実際に出所混同のおそれ
が生じた場合に備えて、混同防止表示の請求や取消審判請求の規定を設け
ることで、コンセント制度全体として一定の合理性を持たせることができ
ることとされた。
1
事件名/事件番号
説示要旨
橘正宗事件
最高裁昭和 36 年 6 月 27
日判決(昭和 33(オ)第
1104 号)
商標が類似のものであるかどうかは、その商標を或る商
品につき使用した場合に、商品の出所について誤認混同
を生ずる虞があると認められるものであるかどうかとい
うことにより判定すべきものと解するのが相当である。
15
2
商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商
品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生
ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが、そ
れには、そのような商品に使用された商標がその外観、
観念、称呼等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等
を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引
の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況
氷山印事件
に基づいて判断するのを相当とする。
最高裁昭和 43 年 2 月 27 ・・・また論旨は、硝子繊維糸取引の実情に関する原判示
日判決(昭和 39(行ツ) をもつて、それは実験則といえるほどの普遍性も固定性
第 110 号)
もないもので、新製品開発当初の特殊事情に基づく過去
の一時的変則的な取引状況のように主張するが、原判決
がその挙示の証拠および弁論の全趣旨によつて適法に認
定したところは、本件出願商標の出願当時およびその以
降における硝子繊維糸の取引の状況であつて、かつ、そ
れが所論のように局所的あるいは浮動的な現象と認める
に足りる証拠もない。所論によつては本件出願商標の登
録を拒否しえないものといわなければならない。
3
商標の類否判断に当たり考慮することのできる取引の実
保土谷化学工業社標事件 情とは、その指定商品全般についての一般的、恒常的な
最高裁昭和 49 年 4 月 25 それを指すものであつて、単に該商標が現在使用されて
日判決(昭和 47(行ツ) いる商品についてのみの特殊的、限定的なそれを指すも
第 33 号)
のではないことは明らかであり、所論引用の判例も、こ
れを前提とするものと解される。
(エ)コンセントにより登録されたことの公示について
本小委員会においては、コンセント制度により登録された商標について、
その事実が容易に把握できるよう、J-PlatPat 等で併存関係を確認できるよ
うにするべきとの意見があった。
既に同制度を導入している諸外国においては、公報、登録簿、商標検索ツー
ル上でコンセント制度により登録された商標であることが特定できるよう手
当がなされている国とそうでない国とが存在し、また、その確認方法は様々
である。しかし、我が国においては、ユーザーからの要請や、同制度に対する
需要者の懸念緩和の観点からも、J-PlatPat 等で公示を行う方向で調整を進
めるとともに、そのようなシステムの改修等に時間を要する場合には、特許
庁ホームページにおいてコンセント制度により登録された商標の一覧を公表
する等の代替措置を行うべきであると整理された。
(4)まとめ
コンセント制度導入に関しては、反対の意見もあったが、制度設計において
需要者の利益の保護が十分に担保されること、近年、コンセント制度導入に関
するユーザーニーズが高まっていること、国際的な制度調和の要請があるこ
16
と等を踏まえ、我が国においてコンセント制度を導入することが適当である
という意見が多数であり、おおむね賛同が得られたことから、本小委員会とし
ては導入を進める方向で取りまとめを行った。
その制度設計に当たっては、商標法第 1 条において同法の目的の一つとし
て「需要者の利益」の保護が掲げられているところ、これが十分に担保される
よう、先行登録商標の権利者の同意があってもなお出所混同のおそれがある
場合には登録を認めない「留保型コンセント」の導入が適当である。また、コ
ンセントによる登録後に出所混同のおそれが生じた場合や、実際に不正競争
の目的によって出所混同が生じた場合に備え、当事者間における混同防止表
示の請求や不正使用取消審判請求の規定を設けることが適当である11。
なお、審査における出所混同のおそれの有無の判断に関する具体的な考慮
要素等、詳細については、本小委員会の議論を踏まえつつ、商標制度小委員会
商標審査基準ワーキンググループにおいて具体的に検討を深める必要がある。
11
設定登録前のアサインバックにより併存登録された商標についても、出所混同のおそれ
が生じた場合や、実際に出所混同が生じた場合に備え、当事者間における混同防止表示の
請求や不正使用取消審判請求の規定を設けることが適当である。
17
3.Madrid e-Filing により商標の国際登録出願をする際の本国官庁手数料の納
付方法の変更
(1)現行制度の概要
「標章の国際登録に関するマドリッド協定の 1989 年 6 月 27 日にマドリッ
ドで採択された議定書(以下「議定書」という。)」は、自己の商標出願又は登
録を基礎として、当該出願を受理し又は登録をした国の所管官庁(以下「本国
官庁」という。)を通じて、世界知的所有権機関(WIPO)国際事務局(以下「国
際事務局」という。)に願書を提出(以下「国際登録出願」という。)し、商標
の国際登録がされることによって、出願人が指定した複数の締約国に商標出
願がされた場合と同一の効果を得ることを可能とする国際出願手続を定めた
条約である。
①国際登録出願に係る手数料について
議定書上、国際登録を受けるに当たっては、出願人は国際事務局が定める手
数料(以下「基本手数料」という。)及び指定国ごとに定める手数料(以下「個
別手数料」という。)を納付すべき旨規定されており(議定書第 8 条(2))、本
国官庁は、本国官庁で独自に徴収可能な手数料(以下、
「本国官庁手数料」と
いう。)の納付を求めることができる旨規定されている(議定書第 8 条(1))。
出願人が日本国特許庁を本国官庁として国際登録出願をする場合、基本手
数料及び個別手数料はスイスフランで国際事務局に納付する一方、本国官庁
手数料は日本国特許庁に日本円で納付する(商標法第 68 条の 30 第 1 項及び
同法第 76 条第 1 項第 3 号)。
②国際登録出願における電子出願(Madrid e-Filing)
従来、日本国特許庁を本国官庁として国際登録出願を行う方法は書面手続
のみであったが、令和 4 年 6 月から、国際事務局が提供する「Madrid e-Filing
システム」
(以下「e-Filing」という。)による電子出願が可能となった。
e-Filing は、国際事務局のサーバ上で願書の作成及び提出等が可能である
ほか、国際事務局に納付すべき基本手数料及び個別手数料に加えて、本国官庁
手数料も国際事務局に対しスイスフランで一括して納付することができる機
能を備えている。
(2)現行制度の課題
現行法においては、本国官庁手数料については実費を勘案して政令で定め
る額の手数料とされ、当該手数料は特許庁に納付しなければならないとされ
ていることから(商標法第 76 条第 1 項第 3 号及び同条第 2 項)、e-Filing に
より出願する場合、出願手続並びに基本手数料及び個別手数料の納付手続と
は別に、特許庁への本国官庁手数料の納付手続として、特許印紙を貼付した書
面の提出等が必要となり、e-Filing の利便性を十分に享受できない状況とな
っている。
18
(3)本小委員会での検討
本小委員会では、本国官庁手数料について、出願人が e-Filing を利用して
国際登録出願をしようとする場合に限り、他の手数料と一括でスイスフラン
により国際事務局へ納付することを可能とし、国際事務局が徴収した本国官
庁手数料は、後日国際事務局から送金を受けることについて検討を行った。
本小委員会の検討では、本国官庁手数料の納付方法を変更することについ
て、委員の賛同を得た。
(4)まとめ
上記現行制度の課題及び本小委員会での検討を踏まえ、本国官庁手数料に
ついて、出願人が e-Filing を利用して国際登録出願をしようとする場合に限
り、他の手数料と一括でスイスフランにより国際事務局へ納付することを可
能とするため、商標法について所要の手当をすることが適当である。
19
4.特許制度小委員会で審議された検討課題について
本小委員会では、2022 年 9 月の第 47 回特許制度小委員会において審議された
以下の検討課題について、商標制度にも関わる論点であることから、課題に対す
る対応の方向性について報告を受け、検討を行った。検討の結果、いずれの方向
性についても全ての委員の賛同を得た。
➢ 送達制度の見直し
➢ 書面手続デジタル化
20
おわりに
ビジネス環境が大きく変化していく中において、事業者のブランド戦略を支
援していくためには、時代に合わせた商標制度の見直しが必要であることは論
をまたない。商標制度の見直しを行うに当たっては、ユーザーの意見を踏まえ
つつ、需要者の利益の保護に十分に留意した制度設計を図っていく必要があ
る。今後も、取り巻く環境の変化に応じて、商標制度の在り方について検討し
ていくことが望ましいと結論づけ、本小委員会において提言する。
21
資料12
デジタル化に伴う
ビジネスの多様化を踏まえた
不正競争防止法の在り方(案)
令和5年1月
産業構造審議会
知的財産分科会
不正競争防止小委員会
はじめに
産業構造審議会知的財産分科会不正競争防止小委員会(以下「本小委員会」という。)で
は、
「デジタル社会における不正競争防止法の将来課題」について、令和 3 年 12 月から令和
4 年 3 月までに行われた第 12 回から第 16 回において議論を実施し、令和 4 年 5 月に「デジ
タル社会における不正競争防止法の将来課題に関する中間整理報告」
(以下「中間整理報告」
という。)を提示した。
中間整理報告では、社会経済を取り巻く情勢の変化を踏まえつつ、不正競争防止法(以下
「不競法」という。)における、限定提供データに係る規律の制度・運用上の課題の見直し、
立証負担の軽減、損害賠償額算定規定の見直し、ライセンシーの保護制度、国際裁判管轄・
準拠法及びブランド・デザイン保護規律に関する課題について、我が国競争力の維持・強化
又は新産業の創出のために、如何なる法制度が求められるのかという視点を持ちながら、引
き続き検討を行っていくべきとの方向性を示した。
中間整理報告で取り上げたもののうち、議論を深化するとした以下の論点について、第 18
回以降の本小委員会にて検討を実施した1。
➢ デジタル時代におけるデザインの保護
➢ 限定提供データの規律の見直し
➢
➢
➢
➢
渉外事案に係る国際裁判管轄及び不正競争防止法の適用範囲に関する規定整備
損害賠償額算定規定の見直し(第 5 条第 1 項及び第 3 項)
使用等の推定規定の拡充(第 5 条の 2)
営業秘密及び限定提供データに関するライセンシーの保護制度の創設
さらに、産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会で議論されたコンセント制度2
の導入に伴い、不競法に適用除外規定を設けることについて検討を実施した。
➢ 商標法のコンセント制度導入を受けた適用除外規定について
本報告書は、これまでの審議内容を取りまとめ、コロナ禍を契機としたデジタル化への急
激なシフトや、AI の社会実装の進展、リモートを取り入れる形での働き方の変容、技術・重
1
不競法が規律の対象としている事項のうち外国公務員贈賄に関する規律強化については、令和 4 年 8
月から令和 5 年 1 月にかけて本小委員会とは別に開催した「外国公務員贈賄に関するワーキンググルー
プ」において検討を行い、令和 5 年 1 月 26 日付けで「外国公務員贈賄罪に係る規律強化に関する報告
書(案)
」を公表した。
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/chiteki_zaisan/fusei_kyoso/gaikoku_komuin_wg/pdf/
005_s01_00.pdf
2
商標法の改正検討において、同法第 4 条第 1 項第 11 号に該当する商標であっても、先行登録商標の権
利者の承諾を得ており、かつ、両商標の間で出所混同を生ずるおそれがないと判断される場合には、同
号の適用が除外される「コンセント制度」の導入に向けた検討を進めることになった。
1
要データの保全(海外流出防止)の一層の要請等の社会情勢の変化を踏まえた、不競法の規
律の見直しについて提言するものである。
2
目次
はじめに ....................................................................................................................................................... 1
第一章
制度的課題と検討の視点・背景 ................................................................................................ 4
1.
デジタル時代にあわせた知的財産の保護 ..................................................................................... 4
2.
中小企業・スタートアップ等の知的財産の活用促進 ................................................................... 4
3.
国際動向を踏まえた外国との制度調和 ......................................................................................... 5
第二章
各論点の検討.............................................................................................................................. 7
1.
デジタル時代におけるデザインの保護(形態模倣商品の提供行為) ......................................... 7
2.
限定提供データの規律の見直し .................................................................................................. 11
3.
渉外事案に係る国際裁判管轄及び不正競争防止法の適用範囲に関する規定整備 ..................... 15
4.
損害賠償額算定規定の見直し...................................................................................................... 18
5.
使用等の推定規定の拡充 ............................................................................................................. 21
6.
営業秘密及び限定提供データに関するライセンシーの保護制度の創設 .................................... 27
7.
商標法のコンセント制度導入を受けた適用除外規定について .................................................. 30
おわりに ..................................................................................................................................................... 33
産業構造審議会
知的財産分科会
不正競争防止小委員会
開催状況 .................................................. 34
産業構造審議会
知的財産分科会
不正競争防止小委員会
委員名簿 .................................................. 35
3
第一章 制度的課題と検討の視点・背景
本小委員会では、「デジタル時代にあわせた知的財産の保護」、「中小企業・スタートアッ
プ等の知的財産の活用促進」、及び「国際動向を踏まえた外国との制度調和」の 3 つの視点
で、関係する制度的課題について検討を加えた。検討の視座と、各制度的課題の関係性は以
下のとおりである。
1. デジタル時代にあわせた知的財産の保護
昨今、デジタル空間における経済取引が活発化しているとともに、データが企業の競争力
の源泉としての価値を増していることに伴い、多様なビジネスが誕生している。
例えば、デジタル化された衣服や小物等の商品の経済取引が活発化する兆しがあるが、デ
ジタル空間における他人の商品形態を模倣した商品を、電気通信回線を通じて提供する行為
については、現行の形態模倣商品の提供行為に係る不正競争(不競法第 2 条第 1 項第 3 号)
には該当せず、デジタル空間において、先行者の利益が不当に失われている事態が生じ始め
ている。
また、平成 30 年改正において、価値あるデータの保護制度として限定提供データが創設
されたが、制度実装が進む中で、情報を保有する企業における情報管理の在り方を踏まえて、
当該規律の見直しも要請されている。
さらに、デジタル化の進展に伴い「技術上の秘密」とその他の情報との境界線は今後益々
曖昧化し、また事業活動も多様化する中、「技術上の秘密」に適用範囲を限定している現行
法の規定について、情報財の適正な保護といった本来の制度趣旨が十分に発揮されていない
のではないかとの観点から、時代の要請にあわせた見直しが期待されている。
これらの観点から、以下の論点につき検討を行った。
<関連論点>
○ デジタル時代におけるデザインの保護
○ 限定提供データの規律の見直し
○ 損害賠償額算定規定の見直し
○ 使用等の推定規定の拡充
○ 商標法のコンセント制度導入を受けた適用除外規定について
2. 中小企業・スタートアップ等の知的財産の活用促進
オープン・イノベーションの進展等を背景に、営業秘密・限定提供データのライセンスが
活発化している。しかし、不競法においては、特許法や著作権法等の知的財産権法で措置さ
れているライセンシー保護に係る規定がない。特に、中小企業・スタートアップ等がライセ
ンサーの場合には、ライセンスの対象となる営業秘密・限定提供データやこれに関連する事
業の譲渡、ライセンサーの破産等のリスクが高いと考えられる傾向がある。具体的には、ラ
イセンサーが事業を第三者に譲渡した場合や破産した場合に、ライセンシーは、事業等の譲
4
受人や破産管財人に対して当該技術やデータの使用継続を主張する権利・権原が当然にはな
い。このため、ライセンシーにとっては、当該営業秘密・限定提供データを継続して利用す
る地位が保護されていないことからライセンス契約を躊躇する要因ともなり、結果として中
小企業・スタートアップ等の知的財産を活用した資金調達の機会が妨げられるおそれがある。
上記の観点から、以下の論点につき検討を行った。
<関連論点>
○ 営業秘密及び限定提供データに関するライセンシーの保護制度の創設
3. 国際動向を踏まえた外国との制度調和
昨今、海外から日本企業の重要技術等を狙った営業秘密の窃取事案や、保有者が意図し
ない重要情報の流出・漏洩事案が次々発生している。経済のグローバル化が進展し、国内
の雇用の流動化が活発化する中で、日本企業の持つ重要技術・情報の海外流出リスクは今
後さらに高まるとみられている。渉外的な(事案において何らかの外国の要素が絡む)営
業秘密侵害事案に係る民事訴訟では、国際裁判管轄・準拠法の決定が争点となり得る。渉
外的な営業秘密侵害事案は不法行為の態様の一つであり、その国際裁判管轄については民
事訴訟法第 3 条の 3 第 8 号が、また準拠法については法の適用に関する通則法第 17 条以下
が適用される。いずれも結果発生地の解釈が問題となるが、その解釈をめぐって定見はな
い状況である。したがって、現行法上は、必ずしも日本の裁判所で、かつ日本の不競法に
基づく保護を受けることができないという課題がある。
この他、不競法では、国際約束に基づく禁止行為として、「国際商取引における外国公務
員に対する贈賄の防止に関する条約」に基づき、外国公務員贈賄罪を規律している(不競法
第 18 条第 1 項、第 21 条第 2 項第 7 号)。同条約は、国際商取引における外国公務員に対す
る贈賄行為が、貿易、投資等における競争条件を歪めているとの認識のもと、これを各国が
犯罪として規定することにより不正な手段による国際商取引を国際的協調のもとで防止す
ることを目的としている。そして、同条約の目的を達成するため、事業者間の公正な競争及
びこれに関する国際約束の的確な実施の確保を目的とする不競法に外国公務員贈賄罪に係
る規定が設けられているのである。同条約の履行状況については、OECD 贈賄作業部会にお
いて条約加盟国による相互審査が行われており、令和元年の第 4 期対日審査において、日本
は、①自然人に対する制裁の在り方、②法人に対する制裁の在り方、③公訴時効の在り方、
④法人に対する適用管轄(国外犯処罰)の在り方、について早急に法制の見直しを求める 4
つの優先勧告を受けている3。
これらの観点から、以下の論点につき検討を行った。
3
「OECD 贈賄作業部会 第4期対日審査報告書 作業部会の勧告(仮訳)
」
https://www.oecd.org/corruption/anti-bribery/Recommendations-OECD-Japan-Phase-4-ReportJA.pdf
5
<関連論点>
○ 国際裁判管轄及び不正競争防止法の適用範囲に関する規定整備
○ 外国公務員贈賄罪に係る規律強化4
4
前掲注 1 参照。
6
第二章 各論点の検討
1. デジタル時代におけるデザインの保護(形態模倣商品の提供行為)
(1) 中間整理報告の概要
昨今、デジタル空間(例:メタバース)における経済取引が活発化しており、従来、フィ
ジカルで行われてきた事業のデジタル化が加速しているところ、フィジカル/デジタルを交
錯する、知的財産の利用の加速が想定される。こうした状況を踏まえ、デザイン保護の一翼
を担う他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為の規律(不競法第 2 条第 1 項第 3
号)に関して、当該規律が、①フィジカル/デジタルを交錯する模倣事例に対応できるか、
②「商品」に無体物を含むかということについて検討を行った。
中間整理報告に至るまでの本小委員会では、①に関して、現行法でも、フィジカル/デジ
タルを交錯する模倣事例に対応することも可能と考えられるが、疑義があるため明確化する
ことが考えられる、との指摘があった。また、②に関して、現行法でも「商品」に無体物を
含むと解釈することも可能と考えられるが、疑義を解消するために、その旨を明確化すべき、
といった指摘があった。なお、この論点に関連して、形態模倣商品の提供行為に係る不正競
争の保護期間(不競法第 19 条第 1 項第 5 号イ)についても議論が及んだ。この点に関して、
保護期間を展示会等における公表から 3 年と考えると、特にファッション業界では、公表か
ら実際の販売まで半年から 1 年程度かかることも多いため、実質的な保護期間が短くなると
の指摘があった。一方で、保護は、不競法第 2 条第 1 項第 3 号等の要件を満たす限り、展示
会等による公表の時点で既に及んでいると考えられる場合もあるものの、保護期間の終期の
起算点を実際の販売時点であると解釈すると、このような課題を解消し得る、との指摘がな
された。
以上の議論を踏まえつつ、デジタル時代における不競法第 2 条第 1 項第 3 号の規律の在
り方について、今後継続議論を行っていく、との方向性を示した。
中間整理報告を公表するにあたり、その中間整理報告案について、パブリック・コメント
(意見公募手続)を実施した。パブリック・コメントでは、不競法第 2 条第 1 項第 3 号所定
の不正競争行為、特に「譲渡」が無体物の電気通信回線を通じた提供を含むか否かが明らか
ではなく、その改正を検討すべきといった意見が寄せられた。
(2) 今次の本小委員会での検討
中間整理報告やパブリック・コメントで寄せられた意見を踏まえ、今次の本小委員会では、
改めて、①不競法第 2 条第 1 項第 3 号の対象行為の拡充、②「商品」に無体物を含むか、及
び③形態模倣商品の提供行為に係る不正競争の保護期間の伸長の是非について、検討を行っ
た。
ア
不競法第 2 条第 1 項第 3 号の対象行為の拡充
周知表示混同惹起行為(不競法第 2 条第 1 項第 1 号)及び著名表示冒用行為(同項第 2
号)については、平成 15 年改正時に、ネットワーク上の「譲渡」、「引き渡し」行為が不正
7
競争行為として規制されることを明確化するため、「電気通信回線を通じて提供」する行為
を不正競争として規定した。一方で、形態模倣商品の提供行為(同項第 3 号)については、
対象が「商品の形態」と規定され、従来から有体物の商品に限定した規定と解されていたこ
とから、ネットワーク上の「譲渡」、
「引き渡し」行為は想定できないとして、当時は改正が
見送られた。しかしながら、昨今、フィジカル/デジタルを交錯するような模倣事例が現れ
始めているところ、混同惹起行為及び著名表示冒用行為と同様に、形態模倣商品提供行為に
も「電気通信回線を通じて提供」する行為を対象行為に追加し、ネットワーク上の形態模倣
商品提供行為も適用対象であることを明確化すべきではないかとの提案を行った。
上記提案について、電気通信回線を通じて提供する行為を不競法第 2 条第 1 項第 3 号の
不正競争に加えることに賛同する意見が多く寄せられた。一方で、不正競争となる対象行為
を拡大する中でどのような場合が「模倣」に該当するのかといった基準を示すことなく、侵
害の成否を裁判所の判断に委ねるということでは、かえってデジタル空間における保護の予
見可能性や法的安定性を損なうことにつながるのではないか、との慎重な意見も出された。
当該意見に対しては、「模倣」については、これまで「デッドコピー」(商品の形態が酷似)
のみを対象としてきており、当該観点から適正に制限を課していくことは可能ではないかと
の意見があり、当該意見に対しては大きな異論がなかった。
イ
「商品」に無体物を含むか
不競法上の「商品」の概念には、裁判例では、有体物のみ含む5という考え方と、無体物も
含む6という考え方の両方が存在している。
「商品」に有体物しか含まないと考えると、無体
物であるデジタルの商品に不競法第 2 条第 1 項第 3 号を活用することができない可能性が
あり、昨今、無体物の取引価値が増加していることを踏まえ、無体物である「商品」にも同
号の保護が及ぶ旨を明確化すべきとの考え方を提示した。
明確化にあたってのアプローチとしては、①逐条解説等において、「商品」に無体物が含
まれると記載する方法及び、②不競法上の「商品」の定義規定を定める方法とがあるが、②
の法律上の規定で定めることは、他法令に参考となるような用例が見当たらないことや、不
競法における他の「商品」の規定にも影響を与える可能性があることから、さらに検討を重
ねる必要があると考えられる。
そのため、まずは、逐条解説等に、「商品」に無体物が含まれると記載することで解釈を
明確化するとともに、法改正により、形態模倣商品の提供行為が規定する不正競争にも「電
気通信回線を通じて提供」する行為を追加し、ネットワーク上の形態模倣商品の提供行為も
不競法第 2 条第 1 項第 3 号の適用対象であることを明確化した上で、法律上の「商品」の定
義規定を定めることについては、今後の裁判例の蓄積を注視する等、将来課題として検討を
継続していくことを提案した。
5
東京高判昭和 57 年 4 月 28 日判時 1057 号 43 頁[タイポス書体]
(旧法第 2 条第 1 項第 1 号(現行不競
法第 2 条第 1 項第 1 号)に関する裁判例)
。
6
東京地判平成 30 年 8 月 17 日平成 29 年(ワ)第 21145 号[教育用教材ソフト](不競法第 2 条第 1 項
第 3 号に関する裁判例)
。
8
上記提案について、本小委員会においては、賛同する意見が多く寄せられた。
ウ
形態模倣商品の提供行為に係る不正競争の保護期間の伸長の是非
形態模倣商品の提供行為に係る不正競争の保護期間については、「日本国内において最初
に販売された日から起算して三年」間と規定している(不競法第 19 条第 1 項第 5 号イ)。
まず、本小委員会においては、保護期間を伸長した際のメリット(先行開発者による投資
回収の期間が伸長されるため、より長期間利益の回収が可能)及びデメリット(先行開発者
保護が過度となり、後続開発者等への萎縮効果が生じる可能性)を整理した。
また、第 15 回本小委員会(令和 4 年 2 月 28 日開催)において「日本国内において最初に
販売された日」については、「展示会等宣伝活動の開始時」とする考え方7や「販売開始時」
とする考え方があるところ、保護期間を展示会等による公表から 3 年と考えると、特にファ
ッション業界では、公表から実際の販売まで半年から 1 年程度かかることも多いため、実質
的な保護期間が短くなるという意見や、保護は、不競法第 2 条第 1 項第 3 号等の要件を満た
す限り、展示会等による公表の時点で既に及んでいると考えられる場合もあるものの、保護
期間の終期の起算点は実際の販売時点であると解釈すると、このような課題を解消し得ると
の意見、保護期間の伸長については業界によって温度差があるとの意見が、委員から出され
ていた。
これらを踏まえ、保護期間の伸長に関しては、まずは、保護期間の終期の起算点を「実際
の販売開始時」と解釈することについて、逐条解説等で明確化した上で、今後の裁判例等を
注視していくとともに、法改正により保護期間を伸長するかどうかについては、将来課題と
して、各関連団体等との意見交換などを通じ、引き続き検討を継続していくことを提案した。
この点について、本小委員会においては、検討を継続するとの方向性に賛同する意見が多
く寄せられた。なお、本論点に関連し、委員から、保護期間の終期の起算点である「最初に
販売された日」(不競法第 19 条第 1 項第 5 号イ)について、「有償貸与」も含まれるのかと
の質問があった。この質問に対し、「最初に販売された日」とは、逐条解説や学説では、投
下資金等の回収活動が外見的に明らかになった時点と考えられており8、投下資金等の回収
活動が開始したと判断される行為が、「販売」以外にも合理的に考えられる場合(例えば販
売と同視し得る有償貸与等)も「販売」と解釈される余地があると考えられるとの整理を示
したところ、本小委員会においては、大きな異論がなく、了承された。
(3) まとめ
今次の本小委員会での検討を踏まえ、法改正によって、不競法第 2 条第 1 項第 3 号に規定
する形態模倣商品の提供行為にも「電気通信回線を通じて提供」する行為を追加することが
適切である。なお、制度措置にあたっては、どのような行為が「模倣」の対象となるかにつ
いて、逐条解説等において明確化していくことをあわせて検討することが適切である。
7
知財高判平成 28 年 11 月 30 日判時 2338 号 96 頁 [スティック加湿器]
経済産業省知的財産政策室編『逐条解説不正競争防止法〔第 2 版〕』(商事法務、2019 年)241 頁、田
村善之『不正競争法概説〔第 2 版〕
』
(有斐閣、2003 年)311 頁
9
8
また、「商品」に無体物を含むかについては、まずは逐条解説等にて「商品」に無体物が
含まれるとの解釈を明確化するとともに、形態模倣商品の提供行為に「電気通信回線を通じ
て提供」する行為を追加し、ネットワーク上の形態模倣商品の提供行為もその適用対象とす
ることが適切である。その上で、不競法上の「商品」の定義規定の導入については、今後の
裁判例の蓄積を注視した上で、引き続き将来課題として検討していくことが適切である。
なお、形態模倣商品の提供行為に係る不正競争の保護期間の伸長については、賛成意見及
び慎重意見の双方があることや諸外国の未登録デザインの保護期間も踏まえ、まずは保護期
間の終期の起算点(「日本国内において最初に販売された日」(不競法第 19 条第 1 項第 5 号
イ))を「実際の販売開始時」と解釈することについて、逐条解説等で明確化した上で、保
護期間の伸長についての法改正の是非については、各関連団体等との意見交換等を通じ、引
き続き検討を継続していくことが適切である。また、保護期間の終期の起算点である「最初
に販売された日」については、投下資金等の回収活動が開始したと判断される行為が「販売」
以外にも合理的に考えられる場合も、「販売」と解釈される余地がある旨を逐条解説等で明
確化することが適切である。
10
2. 限定提供データの規律の見直し
(1) 中間整理報告の概要
中間整理報告に至るまでの本小委員会においては、平成 30 年改正において導入された限
定提供データに係る規律について、その施行後(令和元年 7 月 1 日)、実務での制度実装の
観点から、①「秘密として管理されているものを除く」要件(不競法第 2 条第 7 項)の妥当
性、②善意取得者保護に係る適用除外規定(同法第 19 条第 1 項第 8 号イ)における善意の
判断基準時について、それぞれ課題が指摘されている。中間整理報告においては、「秘密と
して管理されているものを除く」要件に関する課題について、本小委員会での意見も踏まえ
制度的手当の検討を進める、また、善意取得者保護に係る適用除外規定に関する課題につい
ては、限定提供データの転得者の取引の安全、元の限定提供データ保有者の保護のバランス
を考慮し、制度実装を行っている事業者によるニーズ・個別事案等の状況も踏まえ、適切な
制度の在り方について検討を進める、との方向性を示した。
パブリック・コメントでは、不競法第 2 条第 7 項の「限定提供データ」に「秘密として管
理されているものを除く」という要件が設けられていることの当否については、営業秘密及
び限定提供データの両方の制度で情報の保護が図られるような管理が認められて然るべき
であるといった意見が、「善意取得者保護に係る適用除外規定の善意の判断基準時」につい
ては、適切な制度の在り方について検討を進めることに賛成するといった意見が寄せられた。
(2) 今次の本小委員会における検討
中間整理報告やパブリック・コメントで寄せられた意見を踏まえ、今次の本小委員会では、
改めて、①「秘密として管理されているものを除く」要件(不競法第 2 条第 7 項)の見直し
及び②転得類型における善意取得者保護に係る適用除外(同法第 19 条第 1 項第 8 号イ)の
善意の判断基準時について検討を行った。
ア
「秘密として管理されているものを除く」要件(不競法第 2 条第 7 項)の見直し
限定提供データに係る規律では、営業秘密と限定提供データの両制度による保護の重複を
避けるために、限定提供データの保護対象から、営業秘密を特徴づける「秘密として管理さ
れているもの」を除外している(不競法第 2 条第 7 項)。このため、
「秘密として管理されて
いない」が「公然と知られている」情報は、限定提供データの保護が及び得ることとなる。
一方で、
「秘密として管理されている」が「公然と知られてい」る(公知な)情報は、
「秘密
として管理されている」ため限定提供データとしての保護を受けることはできず、また、公
知情報であるため営業秘密としての保護も及ばない9。
9
例えば、企業 X が、秘密として管理しているデータについて、秘密保持義務を課した上で他社へのラ
イセンスを始めたが、ある時点で、ライセンス先である A 社が当該秘密保持義務に違反して、当該デー
タを公開し、当該データは公知となってしまった場合等が挙げられる。現行法の限定提供データの定義
では、上記データは、企業 X が秘密として管理しているため限定提供データとして保護されず、また公
知であるため(上記データが A 社によって公開されてしまったため)営業秘密としても保護されない。
一方、上記データは、企業 X が秘密として管理していなかった場合には限定提供データとして保護され
ることになる。
11
【図 1:現行法における保護の間隙】
本小委員会においては、このような保護の間隙を埋めるための改正案として、不競法第 2
条第 7 項を改正し、限定提供データの保護範囲について、「秘密として管理されているもの
を除く」要件を、
「営業秘密を除く」と改める(図 1:改正案①)、又は「秘密として管理さ
れているものを除く」要件を削除する(図 1:改正案②)、との2案を検討し、いずれかの案
により改正することについて、了承された。なお、可能であれば「秘密として管理されてい
るものを除く」要件を削除する(図 1:改正案②)との方向性で進め、当該選択肢を採用す
ることが難しいのであれば、
「秘密として管理されているものを除く」要件を、
「営業秘密を
除く」と改める(図 1:改正案①)とすることが望ましいとの意見があった。
イ 転得類型における善意取得者保護に係る適用除外(不競法第 19 条第 1 項第 8 号イ)の
善意の判断基準時
不競法では、転得者の取引の安全を保護するために、取得時に不正な行為の介在等を知ら
ずに限定提供データを取得した転得者(善意転得者)に関して、適用除外を規定(不競法第
19 条第 1 項第 8 号イ)している。具体的には、取引によって、限定提供データを取得した
善意転得者が、取引によって取得した権原の範囲内で行う開示行為を適用除外としている。
「取引によって限定提供データを取得した者(その取得した時にその限定提供データについ
て限定提供データ不正開示行為であること…を知らない者に限る)」と規定していることか
らすれば、転得者が善意かどうかの判断基準時は、「限定提供データを取得した時」と考え
られる。その場合、例えば、プラットフォーマーA が、データ提供者 B との間で継続的なデ
ータ提供契約を締結した上、取得したデータを加工等してさらに別の者に提供するサービス
を行っていた場合に、A が、B との契約締結時には B が保有するデータについて限定提供デ
ータ不正開示行為が介在していたこと等について善意であったとしても、契約期間中に悪意
に転じた場合には、それ以降に取得したデータとの関係では取得時悪意の転得類型として整
理されることから、限定提供データを取得、使用、開示する行為はいずれも不正競争に該当
する可能性がある(不競法第 2 条第 1 項第 12 号、第 15 号)。この点に関し、限定提供デー
タの転得者の取引の安全、継続的なデータ取引の増加を踏まえ、転得者の善意・悪意の判断
12
基準時について、現在の限定提供データ取得時から繰り上げて、契約締結時と整理すべきで
はないかとの指摘がなされている。
【図 2:現行法と善意の判断基準時を改めた場合の比較】
しかしながら、現状は限定提供データ制度の周知・普及を進めている段階であるとともに、
事業者の側でもこれに関連する契約の実装が進みつつある段階であること、また、現時点で
は未だ限定提供データに関する裁判例や実際のビジネス上でのトラブル事例も特に公表さ
れていないこと、さらに、データ保有者の観点から見た場合、善意の判断時点を変更したと
きにはデータに関する投資回収の機会が低下・喪失され、データの提供を躊躇し、データ流
通を萎縮・阻害させてしまう可能性があること等が、指摘されている。
そこで、善意の判断基準を「取得段階」から「契約時」に早めるべきかどうかについては、
今後の裁判例や実ビジネスの動向等を注視するなど、引き続き将来課題として検討を継続し
ていくことを提案した。
上記提案に対し、委員からは、限定提供データを利用した契約実務が安定した段階で改正
すべきであり、そのような段階にない現段階においては、将来課題として検討継続というこ
とが最も望ましい、との意見が出された。また、改正が望ましいとの立場ではあるものの、
議論が分かれている状況において、喫緊の課題として早急に改正しなければならないという
状況にあるとまでは考えられないことから、将来課題として検討すべきとの提案に賛成する
とした上で、将来検討を行う際には、あわせて営業秘密に係る同様の適用除外規定(不競法
第 19 条第 1 項第 6 号)についても検討すべき、との意見があった。
(3) まとめ
13
本小委員会での検討を踏まえ、「秘密として管理されているものを除く」要件(不競法第
2 条第 7 項)に関する課題については、「秘密として管理されているものを除く」要件を、
「営業秘密を除く」と改める、又は「秘密として管理されているものを除く」要件を削除す
ることが適切である。
また、善意取得者保護に係る適用除外規定(同法第 19 条第 1 項第 8 号イ)における善意
の判断基準時、具体的には「取得段階」から「契約時」に早めるべきかどうかについては、
限定提供データに係る規律が未だ制度実装段階であるため、今後引き続き検討をしていくこ
とが適切である。
14
3. 渉外事案に係る国際裁判管轄及び不正競争防止法の適用範囲に関する規定整備
(1) 中間整理報告の概要
中間整理報告に至るまでの本小委員会では、渉外事案が散見される民事上の営業秘密侵害
事案に係る国際裁判管轄・不競法の適用範囲について、現行法制を前提にした場合、裁判例
等において定見は確立されていないことから、当事者の予見可能性を確保するための制度整
備の検討を行った。その際、国際私法の専門的見地から、営業秘密侵害に関する罰則の強化
に見て取れる営業秘密保護に関する国家的関心の高まりを踏まえ、営業秘密関連法規につい
て、準拠法の選択にかかわらずその適用を考えるべきとの指摘がなされた。この点を踏まえ、
中間整理報告においては、今後、企業の訴訟戦略を妨げないとの視点、制度整備による他国
法令への影響、他国の法制化動向等を勘案しながら、これらの制度整備の是非について継続
検討していくとし、仮に、制度整備を行う場合には、営業秘密侵害に係る海外重罰・国外犯
処罰規定(不競法第 21 条第 3 項第 3 号及び第 6 項)を参照しつつ、本小委員会で得られた
意見を踏まえ、適切な範囲での措置となるよう検討を行う、との方向性を示した。
パブリック・コメントでは、制度整備の是非について継続検討していくことに賛同すると
の意見等が寄せられた。
(2) 今次の本小委員会における検討
中間整理報告やパブリック・コメントで寄せられた意見を踏まえ、今次の本小委員会では、
改めて民事上の渉外的な営業秘密侵害事案に係る①国際裁判管轄に関する規定整備の是非
及び、②不競法の適用範囲に関する規定整備の是非について、検討を行った。
ア
国際裁判管轄に関する規定整備の是非
国際裁判管轄については、まず、証拠収集の容易性、将来の判決の執行可能性等の訴訟戦
略の観点から、企業が外国の裁判所での訴訟を希望する場合もあるため、専属管轄として、
外国における管轄を否定して日本の裁判所に限って管轄を認める旨の規定を置いてしまう
と、企業の訴訟戦略の足かせとなってしまう可能性がある。そのため、一定の場合に日本の
裁判所に管轄を認めるとする競合管轄規定(専属的でない管轄規定)を置くことが考えられ
る。その上で、そのような規定を整備する場合には、無制限に日本の裁判所に管轄が認めら
れることがないよう、適切な範囲となるような措置を行う必要がある。
中間整理報告に至るまでの本小委員会においては、不競法の営業秘密に係る刑事の国外犯
に対する処罰規定(不競法第 21 条第 3 項第 3 号・第 6 項:
「日本国内において事業を行う営
業秘密保有者の営業秘密」)を参照しつつも、当該文言では、日本で事業活動を行う海外企
業が何ら日本の業務に関連のない営業秘密を海外市場で不正利用された場合にも適用し得
るようにも考えられるため、何らかの形で日本との密接関連性に配慮した規定にすることが
望ましいのではないかとの意見があった。具体的には、①日本で管理している営業秘密が侵
害される場合、②日本に本拠地や主たる事務所がある場合、③日本で展開する業務との関連
性が認められる場合(民事訴訟法第 3 条の 3 第 5 号参考)等に限定することが適切であると
の意見があった。
15
今次の本小委員会においては、「日本国内において事業を行う営業秘密保有者の営業秘密
である」との要件を前提に、どのような形で日本との密接関連性に配慮すべきかに関して、
上記①から③の選択肢について評価を行った。①については、日本に関係の無い業務に関す
る営業秘密がたまたま日本で管理されていた場合等の日本との関連性が薄い事案にも日本
の裁判所に管轄が認められる可能性がある、②については、日本に本拠地や主たる事業所が
あるのみで、日本に関係の無い業務に関する営業秘密が侵害された場合等の日本との関連性
の薄い事案にも日本の裁判所に管轄が認められる可能性があると整理した。③については、
日本の業務との関連性が認められる事案のみが対象となり得るため、適切な範囲での措置と
なると考えられると整理した。そのため、営業秘密侵害に係る刑事処罰規定(海外重罰・国
外犯処罰)の規定・適用範囲との整合や適切な範囲かといった観点から、当該規定を一部参
照し、日本国内において事業を行う営業秘密保有者の営業秘密に関するものであり、かつ当
該営業秘密が日本における業務に関するものであるときに、日本の裁判所に訴えを提起でき
る旨の規定を設けることについて、当該規定を設けた場合の事例検討とあわせて、提案を行
った。
上記提案に対し、本小委員会においては、賛同する意見が多く寄せられた。
イ
不競法の適用範囲に関する規定整備の是非
不競法では、既に刑事においては、国外において営業秘密に対する侵害行為が発生した場
合にも罰則を適用する海外重罰・国外犯処罰規定(不競法第 21 条第 3 項・第 6 項)が整備
されている。そのため、国外において営業秘密に係る侵害行為が発生した場合に、不競法に
基づく刑事責任が問われるような事案について、営業秘密を管理する国内の事業者を保護す
る必要性が高いことから、国内における営業秘密侵害事案と同様に民事責任も問うことがで
きるように、法の適用に関する通則法による準拠法の選択にかかわらず日本の不競法が直接
に適用される(法の適用に関する通則法よりも優先する)場所的適用範囲に関する規定を措
置することが考えられる、として当該規定を整備することの是非について検討を行った。
今次の本小委員会においては、①競合管轄規定と同様、不競法の場所的適用範囲を「日本
国内において事業を行う営業秘密保有者の営業秘密に関するものであり、かつ当該営業秘密
が日本における業務に関するものであるとき」とする案、②国外犯処罰規定と同様、不競法
の場所的適用範囲を、「日本国内において事業を行う営業秘密保有者の営業秘密に関するも
のであるとき」とする案、及び③特段規定を設けない(現行法どおり)とする案の 3 つの選
択肢を提示して検討を行った。
この点について、おおむね選択肢①に賛同するとの意見が寄せられた一方で、外国の裁判
所で外国法に基づいて裁判を受けるという選択肢への影響を注視しつつ、引き続き慎重に議
論していくべきではないかとの意見もあった。また、法廷地法とは異なる国の法律が準拠法
として適用されることとなると、法廷地法とは異なる国の法律に基づいて裁判所が判断する
ことになりかねないため、法律の解釈・適用について予見可能性に不安な点がでてくるので
はないかとの理由に基づき、国際裁判管轄と適用範囲とは合わせて検討していくことが望ま
しいとの意見も出された。
16
(3) まとめ
本小委員会での検討を踏まえ、国際裁判管轄に関する規定の整備については、渉外的な営
業秘密侵害事案に関し、立法措置が可能であれば、日本の裁判所に管轄を認めるとする競合
管轄規定を設ける方向で検討を進めることが適切である。なお、規定を設ける際の立法措置
の範囲については、引き続き関係省庁と調整を進め、適切な範囲となるよう検討を行うこと
が適切である。
また、不競法の適用範囲については、国内における営業秘密侵害事案と同様に政策的保護
が必要となる渉外的な営業秘密侵害事案に関し、法の適用に関する通則法による準拠法の選
択にかかわらず直接に適用される(法の適用に関する通則法よりも優先する)規定を設ける
ことにつき関係省庁とともに引き続き検討した上で、立法措置が可能であれば、当該立法措
置の範囲が国際裁判管轄と併せて適切となるよう検討を行うことが適切である。
17
4. 損害賠償額算定規定の見直し
(1) 中間整理報告の概要
中間整理報告に至るまでの本小委員会では、不競法第 5 条第 1 項に関する制度的課題につ
いては、現行法では、営業秘密に関し「技術上の秘密」が侵害された場合や、侵害者が「物
を譲渡」している場合に適用場面が限定されているところ、技術上の秘密に限定されている
対象情報を営業秘密全般に拡充し、さらに「物を譲渡」した場合のみを想定している要件を
データや役務を提供している場合にも拡充を行う方向で検討を進める、との方向性を示した。
また、不競法第 5 条第 3 項に関する制度的課題については、現行法では、条文の文言上、営
業秘密等が「使用」されている場合に適用場面が限定されている点について、「使用」に限
らず営業秘密等が利用されている場合も適用対象に含むことができるよう制度的手当を実
施することで検討を進める、との方向性を示した。さらに、令和元年特許法等改正で先行し
て手当されている、
「権利者の生産・販売能力等を超える部分の損害の認定規定」
(特許法第
102 条第 1 項改正部分)、「相当使用料額の増額規定」(同条第 4 項改正部分)については、
不競法の特質を考慮しつつ、同様の制度的手当を行う方向で検討を進める、との方向性を示
した。
パブリック・コメントにおいては、不競法第 5 条第 1 項については、「技術上の秘密」以
外にも対象範囲を拡大することに賛同する意見、役務の提供等にも対象行為を拡大する必要
性が高まっているとの意見、令和元年特許法等改正と同様の制度的手当を行うことに賛同す
る意見等が寄せられた。また、不競法第 5 条第 3 項については、営業秘密等の「使用」以外
の行為の場合にも適用可能であることが明確化されることを期待するとの意見や、令和元年
特許法等改正と同様の制度的手当を行うことに賛同する意見等が寄せられた。
(2) 今次の本小委員会における検討
中間整理報告やパブリック・コメントで寄せられた意見を踏まえ、今次の本小委員会では、
改めて①不競法第 5 条第 1 項に関する課題(
「技術上の秘密」要件及び「物を譲渡」要件を
拡充すること並びに令和元年特許法等改正と同様の制度的手当を行うことの是非)、②不競
法第 5 条第 3 項に関する課題(「使用」以外の行為が含まれる点の明確化及び令和元年特許
法等改正と同様の制度的手当を行うことの是非)について検討を行った。
ア 不競法第 5 条第 1 項
(ア)「技術上の秘密」要件及び「物を譲渡」要件の拡充
現行法では、例えば消費動向データ(営業上の秘密)に関するデータセットを販売してい
る場合には不競法第 5 条第 1 項を適用することができないが、企業の競争力の源泉としてデ
ータの価値が増している中、当該事例にも同項を適用可能とすべきではないか、との課題意
識のもと検討を行った。また、役務を提供をしている場合にも同項を適用することができな
いが、ビジネスモデルが多様化する中、「物の譲渡」に限らない、役務提供をしている事例
にも同項を適用可能とすべきではないか、との課題意識のもと検討を行った。
18
これらの課題意識を踏まえ、同項において、技術上の秘密に限定されている対象情報を営
業秘密全般に拡充し、さらに「物を譲渡」した場合のみを想定している要件をデータや役務
を提供している場合にも拡充するとの提案を行った。なお、同項は、その構造上、元々商取
引に単位が認められ、当該単位で競争している場合に活用できる規定であるため、仮に拡充
を行ったとしても、商取引単位が観念できないものについては適用することができないとの
整理もあわせて提示した。
上記提案について、本小委員会においては、賛同する意見が多く寄せられた。
【図 3:現行法では適用できない事例】
(イ)令和元年特許法等改正と同様の制度的手当て(生産能力等を超える損害部分に相
当するライセンス料額)
不競法第 5 条第 1 項と同趣旨の特許法第 102 条第 1 項は、令和元年改正において、侵害者
が得た利益のうち、権利者の生産・販売能力等を超えるとして賠償が否定されていた部分に
ついて、ライセンスしたとみなして、損害賠償を請求できることとした。不競法においても、
営業秘密等について、営業秘密保有者等が自ら当該営業秘密等を使用等すると同時に、ライ
センスして利益を得ることができる場合もあるという性質に鑑みれば、「販売数量の減少に
よる逸失利益」のみならず、「ライセンス機会の喪失による逸失利益」も含めて、損害賠償
額算定の特例を定めることが必要ではないか、との視点で、被侵害者の生産、販売及び役務
提供能力を超える部分の損害の認定規定を追加するとの提案を行った。
上記提案について、本小委員会においては、大きな異論がなく、了承された。
イ 不競法第 5 条第 3 項
(ア)「使用」以外の行為が含まれる点の明確化
不競法第 5 条第 3 項各号では、侵害行為の態様として「使用」と規定されているところ、
例えば営業秘密等の不正な「取得」や「開示」の不正競争行為が行われた場合(不競法第 2
条第 1 項第 4 号等)に、不競法第 5 条第 3 項第 3 号が適用されるかが不明確である。しか
し、営業秘密等のライセンスを行う場合、開示とセットで行われるのであるから、「使用」
以外の「取得」や「開示」も不競法第 5 条第 3 項第 3 号の対象から除外されていないと考え
19
るべきではないか、との視点で検討を行った。また、同項の対象類型である不競法第 2 条第
1 項各号の不正競争の類型の中には「使用」との文言が用いられていない類型(不競法第 2
条第 1 項第 3 号等)もあり、被侵害者が侵害者に対し相当使用料額を請求しようとした際に
同項が適用されるかが不明確である。これらの課題意識を踏まえ、不競法第 2 条第 1 項各号
において不正競争とされている行為が全て含まれる旨を規定すべきではないか、との提案を
行った。
上記提案について、本小委員会においては、賛同する意見が多く寄せられた。また、この
論点を単独で見直す必要はないが、不競法第 5 条を改正することがあるのであれば、その際
には明確化すべきとの意見も出された。
(イ)令和元年特許法等改正と同様の制度的手当て(相当使用料額の増額要因の考慮)
特許法には、相当実施料額を請求することができるとする不競法第 5 条第 3 項と同趣旨の
規定(特許法第 102 条第 3 項)があるが、令和元年特許法等改正において、かかる相当実施
料額による損害賠償額の算定にあたり、特許権侵害があったことを前提として交渉した場合
に決まるであろう額を考慮できる旨の規定が創設された(特許法第 102 条第 4 項)。不競法
においても、侵害者は被侵害者の許諾無く営業秘密等を使用等しており、被侵害者にとって
は許諾するかどうかの判断機会が失われていることや、通常、ライセンス契約を締結するに
あたっては、ライセンス料の支払条件等、ライセンシーは様々な制約を受けるが、侵害者は
何ら制約なく侵害行為を行っていること等から、これらの事情が相当使用料額の増額要因と
して考慮されるべきではないか、との視点で検討を行った。その上で、不正競争があったこ
とを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨の規定を追加するとの提
案を行った。
上記提案について、本小委員会においては、大きな異論がなく、了承された。
(3) まとめ
本小委員会での検討を踏まえ、不競法第 5 条第 1 項については、営業秘密に関し「技術上
の秘密」に限定されている対象情報を営業秘密全般に拡充し、さらに「物を譲渡」した場合
のみを想定している要件をデータや役務を提供している場合にも拡充することが適切であ
る。また、特許法と同様、被侵害者の生産、販売及び役務提供能力を超える部分の損害の認
定規定を追加することが適切である。
同条第 3 項については、「使用」以外の行為が含まれる点を明確化するために、不競法第
2 条第 1 項各号の不正競争行為が全て対象となるよう規定することが適切である。さらに、
特許法と同様、不正競争があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮
できる旨の規定を追加することが適切である。
20
5. 使用等の推定規定の拡充
(1) 中間整理報告の概要
平成 27 年改正において導入された使用等の推定規定(不競法第 5 条の 2)は、①対象と
なる情報が「技術上の秘密」のうち、「生産方法」と「情報の評価又は分析の方法」に限定
されており、また、「使用する行為により生ずる物の生産」等に限定されている。さらに、
②対象となる類型が、不正取得類型(不競法第 2 条第 1 項第 4 号)及び取得時悪意重過失の
転得類型(同項第 5 号及び第 8 号)に限定されている。
中間整理報告に至るまでの本小委員会では、現行法の適用範囲にとどまることなく、本規
定の活用が期待される場合が存在すること等を踏まえ、引き続き、制度拡充の方向性につい
て迅速に検討を進める、との方向性を示した。その際、対象情報の「営業秘密」全般への拡
充については、今後、より詳細な制度設計の検討を進めた上で議論を継続する、との方向性
を示した。また、対象類型の拡充を行う場合には、正当取得類型(同項第 7 号)への拡充に
ついては、領得概念を前提とした制度整備について検討を進め、また、取得時善意無重過失
の転得類型(同項第 6 号及び第 9 号)への拡充については、悪意重過失に転じた場合に、適
用対象とする案を示し、これに賛同する意見があった。一方で、転職者受入企業への委縮効
果に関する懸念等も強く示されたことから、今後、転職者受入企業への委縮効果を軽減する
方策も含め検討を行う、との方向性を示した。
さらに、限定提供データでも、営業秘密と同様に不正使用の立証の困難性が想定されるた
め、立証負担の軽減策を検討すべきとの意見があったことから、引き続き、実務の動向を注
視しつつ検討を行う、との方向性を示した。
パブリック・コメントにおいては、現在の社会環境において同等の商業的価値を有する「技
術上の秘密」と「それ以外の秘密」を区別し、また「技術上の秘密」に限定する必要性は乏
しくなっていると言えるため、不競法第 5 条の 2 の対象範囲について、「技術上の秘密」以
外にも対象となる情報の範囲を拡大することを希望する、といった意見や、取得時善意無重
過失の転得類型への拡充についても、基本的に賛成であるところ、あわせて、例えば、転職
者受入企業として取り得る防止策等について、改めて、ガイドライン化し啓発を行っていく
こと等、今後、転職者受企業への委縮効果を軽減する方策も含め検討を行うことに賛成する、
との意見が寄せられた。また、営業秘密のみを対象としている推定規定の限定提供データへ
の拡充についても、継続検討していくことに賛同する意見が寄せられた。
(2) 今次の本小委員会における検討
中間整理報告やパブリック・コメントで寄せられた意見を踏まえ、今次の本小委員会では、
改めて、営業秘密について、①対象情報の拡充、②対象類型の拡充とともに、③限定提供デ
ータへの拡充について検討を行った。
ア
対象情報の拡充
現行法は、対象情報を技術上の秘密のうち、「生産方法と情報の評価又は分析の方法」に
限定し、またその営業秘密を取得した者が「当該技術上の秘密を使用する行為により生ずる
21
物の生産と当該秘密を使用した評価又は分析する役務の提供」をした場合に適用を限定して
いる。そのため、例えば、近年重要性を増している消費動向データのようなデータが対象と
なる場合や、
「データ」をもとにデータセット等を生成したり、
「データ」を使用した役務を
提供している場合には、この規定を活用できない可能性がある。デジタル化の進展の中で技
術情報とその他の情報との境界線は今後益々曖昧化しているとともに、事業活動も多様化す
る中、技術上の秘密のうち生産方法・情報の評価又は分析、また物の生産や評価又は分析す
る役務の提供に限定する必要性はなくなってきているのではないか、との課題意識のもと、
検討を行った。具体的には、技術上の秘密のうち「生産方法と情報の評価又は分析の方法」
に限定されている対象情報を営業秘密全般に拡充し、さらに「当該技術上の秘密を使用する
行為により生ずる物の生産」と「当該秘密を使用した評価又は分析する役務の提供」をした
場合にのみに適用可能とされている点を、(データの生成や役務を提供している場合も含ま
れるよう)「当該営業秘密を使用する行為により可能となる物の生産若しくはデータの生成
又は役務の提供を行っている」場合にも適用可能とする、との提案を行った。
なお、中間整理報告に至るまでの本小委員会においては、対象情報を営業秘密全般へ拡充
するにあたり、営業上の情報のうち顧客名簿への拡充については、特に取得時に善意である
場合(例えば、営業担当者が競合企業へ転職し、以前在籍していた会社の顧客情報を、転職
先で使用していた場合で、転職者受入企業は不正開示行為等があったことを知らなかったケ
ース等)に、顧客名簿を使用した営業活動まで不競法第 5 条の 2 の対象範囲に含めてしまっ
た場合、転職者受入企業にとって酷なのではないかとの指摘があった。この指摘に対応する
ために、対象情報を営業秘密全般へ拡充するにあたり、「顧客名簿を除く」等と規定する方
法もありうるが、顧客名簿の内容は具体的な事案によって様々であり(名前・住所のみの事
案や名前・住所に加えて購入商品等の情報も含む事案等)、疑義のない形で定義した上で除
外することは困難と考えられる。そのため、今次の本小委員会において、対象情報を営業秘
密全般に拡充するにあたっては、転職者受入企業を含む、善意無重過失によって情報を取得
した転得者への配慮措置を講じることを前提とする、との提案を行った。
上記提案について、本小委員会においては、大きな異論がなく、了承された。
【図 4:現行法では適用できない事例】
22
イ
対象類型の拡充
現行法は、不正取得類型(不競法第 2 条第 1 項第 4 号)及び取得時悪意重過失の転得類型
(同項第 5 号及び第 8 号)に適用を限定している。そのため、例えば、営業秘密侵害事案で
多く見られる「取引相手方の不正流用事案」や「競合相手方への転職事案」等には、適用が
制限される可能性がある。今次の本小委員会においては、オープン・イノベーションが進む
中で取引相手方に営業秘密を開示する事例も増加していること(正当取得類型)、また転職
による持出とその後に転職先企業へ持ち込まれている事例も少なくないこと(取得時善意無
重過失転得類型)から、対象類型を全類型に拡充する必要があるのではないか、との課題意
識のもと、検討を行った。
(ア)正当取得類型への拡充
正当取得類型(不競法第 2 条第 1 項第 7 号)は、営業秘密保有者から営業秘密を示された
従業員、ライセンシー等が図利加害目的を持って当該営業秘密を使用等する行為である。こ
れらの者による営業秘密の取得行為自体は正当であるため、正当取得類型への拡充について
は、懸念も指摘されているところであるが、中間整理報告に至るまでの本小委員会において、
刑事規律における「領得」行為(不競法第 21 条第 1 項第 3 号イからハ)が介在している場
合に限り使用等の推定規定の対象とすることであれば賛成との意見が得られた。
そのため、今次の本小委員会において、改めて、対象類型を正当取得類型も含まれるよう、
拡充するにあたっては、刑事規律における「領得」行為が介在している場合に限り適用対象
とする等、営業秘密保有者から営業秘密を示された者への一定の配慮措置を講じる、との提
案を行った。
上記提案について、本小委員会においては、賛同する意見が多く寄せられた。
(イ)取得時善意無重過失転得類型への拡充
取得時善意無重過失転得類型(不競法第 2 条第 1 項第 6 号及び第 9 号)は、不正開示行為
等の介在について善意無重過失で営業秘密を取得した第三者が、その後、悪意重過失に転じ
た場合、当該第三者が当該営業秘密を使用する行為である。取得時善意無重過失転得類型へ
の拡充については、転職者受入企業に対する萎縮効果に配慮し慎重に検討すべき、との指摘
がなされているところであるが、中間整理報告に至るまでの本小委員会において、転得者が、
不正開示行為等の介在について悪意重過失に転じている場合に限り適用対象とすることを
前提に拡充について検討を行うとの方向性に賛同する意見もあった。他方で、雇用・人材の
流動化が進む中で転職者及び転職者受入企業への委縮効果に関する懸念等も指摘された。
そのため、今次の本小委員会においては、転得者が、不正開示行為等の介在について悪意
重過失に転じている場合に限り適用対象とすることに加え、特に、転職者受入企業にとって
不競法第 5 条の 2 の適用が酷とならないような配慮措置について、具体的には下記のような
観点にて検討を行った。
まず、取得時善意無重過失転得類型の場合、そもそも取得時は善意無重過失であり、他の
類型と異なり取得時に悪質性がないため、不正取得類型や取得時悪意重過失の転得類型と比
べて、使用に対する経験則が弱いことから、転得者による反対証明の可能性を担保する必要
23
性が大きい。取得時善意無重過失転得類型の場合、被侵害者から転得者に警告書が届いたこ
と等により、転得者は営業秘密侵害行為等が介在したことを知った、又は容易に知り得た状
態になる場合があるが、悪意重過失に転じたにもかかわらず、当該営業秘密が記録された媒
体等を消去・廃棄することなく保持している場合には、その営業秘密を使用しているとの経
験則が働く。また、消去・廃棄することは難しくはないことから、使用等の推定規定が適用
されるのは、被告が営業秘密を消去せずに保持している場合に限定することが考えられる。
ただし、そもそも被告が営業秘密が記録された媒体等を保持していない場合には、消去・廃
棄の対象が不明確であるため、あくまでも推定規定が適用されるのは、被告が営業秘密が記
録された媒体等を保持している場合に限ることが、攻撃・防御のバランスから望ましい。こ
のような観点から、取得時善意無重過失転得類型への拡充にあたっては、不正開示行為等の
介在について悪意重過失に転じている場合に限り適用対象とすることを前提とし、その上で、
営業秘密が記録された記録媒体等を消去せずに保持している場合に限定する等、一定の配慮
措置を講じる、との提案を行った。また、転職者受入企業として取り得る措置等については
逐条解説等の記載の充実を行うことについても、あわせて提案を行った。
なお、被告が保持することとなる対象は、①「営業秘密記録媒体等」
・
「営業秘密が化体さ
れた物件」
(不競法第 21 条第 1 項第 3 号イ参照)及び、②営業秘密がアップロードされてい
るサーバー等の URL とする(図 5:営業秘密がアップロードされているサーバー等の URL の
例を参照)10、との提案を行った。
上記提案について、委員からは賛同する意見が多く寄せられた。また、不競法第 5 条の 2
の拡充にあたっては、中小企業等も含め営業秘密を保有・管理している企業・事業者及び業
務に従事している従業員の双方への不競法の周知が必要であるため、周知徹底を検討すると
ともに、拡充によって悪影響が生じないよう十分な対策を講じることが望ましいとの意見が
あった。
【図 5:営業秘密がアップロードされているサーバー等の URL の例】
ウ
限定提供データへの拡充
現行法の不競法第 5 条の 2 の適用対象は、営業秘密侵害事案に限定されている。したがっ
て、そもそも限定提供データに関する事案について適用することができない。しかし、侵害
者の使用に関する証拠が侵害者の内部領域に遍在しているということは、限定提供データも
10
営業秘密がアップロードされているサーバー等の URL の場合、被告が消去する対象は当該 URL が記載
されたメール等を想定。
24
営業秘密と同様であり、依然として不正使用の立証の困難性が想定されるため、限定提供デ
ータについても使用等の推定規定の適用対象とすべきではないか、また、デジタル化が進展
する中で技術情報とその他の情報の境界線は今後益々曖昧化している点についても、同様で
あることから、限定提供データへの拡充にあたっても、技術上及び営業上の情報を対象とす
る必要性があるのではないか、との課題意識のもと検討を行った。
(ア)不正取得類型・取得時悪意転得類型
限定提供データ保有者から不正な手段で限定提供データを取得する、不正取得類型(不競
法第 2 条第 1 項第 11 号)及び限定提供データ不正取得行為又は限定提供データ不正開示行
為の介在等について知った上で限定提供データを取得する、取得時悪意転得類型(同項第 12
号及び第 15 号)は、営業秘密同様、不正使用する蓋然性が高い。そのため、限定提供デー
タが侵害された場合にも適用可能とするにあたって、不正取得類型・取得時悪意転得類型を
対象とする、との提案を行った。
上記提案について、本小委員会においては、大きな異論がなく、了承された。
(イ)正当取得類型・取得時善意転得類型
不競法第 5 条の 2 を限定提供データが侵害された場合にも適用可能とするにあたり、正当
取得類型(不競法第 2 条第 1 項第 14 号)への拡充については、営業秘密同様、取得行為自
体は正当であり、拡充にあたっては懸念があることに変わりなく、一定の配慮措置を講じる
べきである、との視点で検討を行った。
一方、限定提供データに係る不正競争行為について、取得時善意転得類型(同項第 13 号
及び第 16 号)は、営業秘密に係る取得時善意無重過失転得類型の不正競争行為と異なり、
権原の範囲外での開示のみが不正競争の対象行為となっており、そもそも使用行為が不正競
争の対象となっていない。
これらを踏まえ、正当取得類型については、営業秘密と同様に「領得」行為が介在してい
る場合に限り適用対象とする等、一定の配慮措置を講じること、また、取得時善意転得類型
については、使用行為が不正競争行為の対象となっていないことから、適用の対象外とする、
との提案を行った。
上記提案について、本小委員会においては、大きな異論がなく、了承された。
エ
その他
不競法第 5 条の 2 の拡充を行った後も、制度の実効性評価として、営業秘密の侵害訴訟に
おける原告の証拠収集・立証の困難性における課題について、引き続き、中・長期的に検討
していくべきとの意見があった。
(3) まとめ
本小委員会での検討を踏まえ、不競法第 5 条の 2 の対象情報については、対象情報を営業
秘密全般へと拡充することが適切である。また、対象類型について、正当取得類型(不競法
第 2 条第 1 項第 7 号)への拡充については、刑事規律における「領得」行為(不競法第 21
25
条第 1 項第 3 号)が介在している場合に限り適用対象とする等、営業秘密保有者から営業秘
密を示された者への一定の配慮措置を講じることが適切である。取得時善意無重過失転得類
型(不競法第 2 条第 1 項第 6 号及び第 9 号)への拡充については、不正開示行為等の介在に
ついて悪意重過失に転じている場合に限り適用対象とすることを前提とし、その上で、営業
秘密が記録された記録媒体等を消去・廃棄せずに保持している場合に限定する等、一定の配
慮措置を講じることが適切である。なお、被告が保持することとなる対象は、①「営業秘密
記録媒体等」
・
「営業秘密が化体された物件」
(不競法第 21 条第 1 項第 3 号イ参照)及び、②
営業秘密がアップロードされているサーバー等の URL とすることが適切である。
不競法第 5 条の 2 の限定提供データへの拡充(限定提供データにも適用可能とすること及
びその範囲)については、営業秘密同様、技術上及び営業上の情報を対象とし、不正取得類
型(不競法第 2 条第 1 項第 11 号)、取得時悪意転得類型(同項第 12 号及び第 15 号)を対
象とすることが適切である。また、正当取得類型(同項第 14 号)については、営業秘密と
同様に「領得」行為が介在している場合に限り適用対象とする等、一定の配慮措置を講じる
こと、また、取得時善意転得類型(同項第 13 号及び第 16 号)については、使用行為が不正
競争行為の対象となっていないことから、適用の対象外とすることが適切である。
なお、上記のような拡充を行うにあたっては、営業秘密を保有・管理している企業・事業
者及び業務に従事している従業員の双方への不競法の周知徹底を行うことが適切である。
26
6. 営業秘密及び限定提供データに関するライセンシーの保護制度の創設
(1) 中間整理報告の概要
オープン・イノベーションの進展等を背景に、自社で保有している技術(ノウハウ)やデ
ータを他社にライセンスする機会が増加している。しかし、不競法には、特許法や著作権法
等の知的財産権法において設けられている権利者から許諾を受けたライセンシーの保護に
係る規定11がない。他方、実務上、営業秘密や限定提供データを対象とするライセンス取引
が行われている中で、現行法では、ライセンスの対象となる営業秘密・限定提供データやこ
れに関連する事業が譲渡された場合やライセンサーが破産等してライセンス契約が管財人
により解除された場合、ライセンシーは、事業等の譲受人や破産管財人に対して当該技術や
データの使用継続を主張する権利・権原が当然にはない。
このように、ライセンシーの地位が不安定であることを踏まえ、中間整理報告に至るまで
の本小委員会では、ライセンシーを保護するための制度整備が必要・期待される、といった
意見が多くあったため、今後具体的な制度整備について検討を進める、との方向性を示した。
なお、具体的な対応方法については、①営業秘密等を利用する利用権を新たに設定し、当該
権利の対抗力を規定するアプローチ、②適用除外規定の整備(営業秘密保有者等から取引に
よって営業秘密等を取得した者がその取引によって取得した権原の範囲内において当該営
業秘密等を使用等する行為を不正競争行為の対象から除外する、かつ破産法第 53 条第 1 項
等の適用除外を規定する)を行うアプローチを提示し、制度の実現可能性、ライセンシー保
護の安定性、実務への影響等の観点を踏まえつつ、今後具体的な検討を進める、との方向性
を示した。
パブリック・コメントにおいては、営業秘密や限定提供データを対象とするライセンス契
約のライセンシーの保護制度について具体的な検討を進める方向を打ち出していることに
賛成する、との意見が寄せられた。
(2) 今次の本小委員会における検討
中間整理報告やパブリック・コメントで寄せられた意見を踏まえ、今次の本小委員会では、
あらためて①利用権アプローチ及び②適用除外アプローチについて検討を行った。
ア
利用権アプローチの検討
一つ目の考え方である①利用権アプローチに関し、下記の法理論上の問題について提示を
行った。
特許法や著作権法等においてはいわゆる「当然対抗制度」が整備されているが、特許権や
著作権等は物権(すべての人に対して権利を主張できる)的な権利とされており、権利譲渡
があった場合には、当該権利は譲受人に移転する。そのため、特許法や著作権法等における
当然対抗制度は、ライセンサーである権利者から特許権や著作権等を譲り受けた者とライセ
11
特許法第 99 条(実用新案法第 19 条第 3 項、意匠法第 28 条第 3 項では特許法第 99 条を準用)、商標
法第 31 条第 4 項(通常使用権の対抗には登録が必要)、著作権法第 63 条の 2、種苗法第 32 条の 2、
半導体集積回路の回路配置に関する法律第 21 条(通常使用権の対抗には登録が必要)
。
27
ンシーとが同一の権利をめぐって相争う関係、すなわち対抗関係に立つことを前提として、
本来は債権(債権債務関係にある特定の人にのみ請求可能な権利であって、第三者には権利
を主張できない)を有するにすぎないライセンシーが、権利の譲受人に対して当然にその債
権を対抗することができる旨を定めたものである。これに対し、不競法で保護される営業秘
密等が事業譲渡等に伴い移転された場合については、特許権等の譲渡とは異なり何らかの権
利が同一性を保って移転したとみることはできず、譲受人が現に保有する情報が営業秘密等
の要件を満たすときに、不正競争に該当する行為を行っている者に対して不競法上の差止請
求権や損害賠償請求権が成立するか否かが問題となるにすぎず、対抗関係に立つと考えるこ
とは難しいのではないか、との指摘がある。
以上のような指摘があることから、利用権アプローチを採用するにあたっては、さらに検
討を重ねる必要があると考えられる、との整理を提示した。
イ
適用除外アプローチの検討
もう一つの考え方である②適用除外アプローチに関し、以下のとおり法理論上の問題につ
いて提示を行った。
ライセンサーが破産した場合、破産管財人は、できるだけ財団、すなわち管理対象となる
財産・資産の価値を維持・増やそうとするため、管理コストの高い契約を解除したり、ライ
センスの対象となっている営業秘密等を金銭化することが考えられる。その場合に、当該ラ
イセンスの対象となっている営業秘密等について、破産者から許諾を受けていたライセンシ
ーが引き続き使用することができることになると、一般債権者に配当する金銭が目減りする
可能性がある。一方、管財人の解除権を制限する法令としては、金融機関等の更生手続の特
例等に関する法律第 439 条(保険契約の解除制限)があるが、同法は、あくまで金融機関等
の更生手続等に関する会社更生法の特別法として位置付けられるものであり、また、生命保
険契約における一般の保険契約者の保護を目的としている点で、事業者間の行為を規律して
いる不競法とはその位置付けが異なる。また、破産処理における双方未履行双務契約の解除
から相手方を保護する必要性(同時に破産管財人の解除権を制限する必要性)がある場合と
いうのは、営業秘密等のライセンシー以外にも広範にあるところ、営業秘密等のライセンシ
ーだけ保護すべき理由が見当たらないのではないか、との指摘がある。
以上のような指摘があることから、適用除外アプローチを採用するにあたっては、さらに
検討を重ねる必要があると考えられる、との整理を提示した。
ウ
今後の方向性
これらの整理を踏まえ、営業秘密及び限定提供データに関するライセンシーの保護制度の
措置にあたっては、法理論上なお整理すべき課題がある中で、特許法等と同様の制度措置を
行うことへの潜在的なニーズは存在するものの、現時点では実際のトラブル事例が顕在化し
ていないことから、実務の動向を注視し、取り得る措置について、関係省庁等と調整しつつ、
引き続き検討を継続していく、との方向性を示した。
上記提案について、本小委員会においては、大きな異論がなく、了承された。
28
なお、特許権や著作権、営業秘密等の知的財産のライセンス契約は、ライセンサーに対し
てなにか積極的な利用権を付与するものではなく、単に差止請求・損害賠償請求の権利を行
使しないことを要求し得る債権を与えるにすぎず、その意味で、侵害にならないのでこれら
請求を行使し得ないことを定める適用除外と変わるところはない。したがって、ライセンス
に関して利用権と規定するのか適用除外と規定するのかということは本質的なものではな
く、適用除外と規定したからといって利用権に比して保護の必要性が弱いとか、権利性が弱
まるということを意味しないという点を理解して議論を進めるべきである、また、営業秘密
は、特許発明や著作物という形で利用権の対象が明確な特許権や著作権等と異なり、ライセ
ンス契約の目的物の内容が変化し得る流動的なものであって、特定の営業秘密の利用権とし
て規定して、その範囲が如何に変わるかということを規定するのは不可能ではないが、法技
術的にかなり複雑となる。そして、利用できるのかということは結局は契約時に定めたライ
センス契約の範囲内、すなわち権原の範囲内での利用かどうかということのみに依存して決
定せざるを得ないこと、そして、このような権原の範囲内であれば同一性を失っても継続し
て利用できるという規定の仕方は、既に不競法第 19 条第 1 項第 6 号に先例があるところで
あり、今後引き続き検討を行うにあたっては、これらの観点を加味した上で行うべきである、
との意見が出された。
(3) まとめ
本小委員会での検討を踏まえ、営業秘密及び限定提供データに関するライセンシーの保護
制度については、措置の方法について関係省庁等と調整しつつ、引き続き検討を継続してい
くことが適切である。
29
7. 商標法のコンセント制度導入を受けた適用除外規定について
(1) 本小委員会における検討
ユーザーの利便性や国際的な制度調和の観点から、産業構造審議会知的財産分科会商標制
度小委員会では、商標制度に関する当面の検討課題について審議を進めてきた。今般、商標
法第 4 条第 1 項第 11 号に該当する商標であっても、先行登録商標の権利者の同意を得てお
り、かつ、両商標の間で出所混同を生ずるおそれがないと判断される場合には、同号の適用
が除外される「コンセント制度」について検討が行われ、導入を進める旨の方向性が示され
た12。新たに導入されるコンセント制度に基づき類似する先願と後願の登録商標が併存する
こととになった場合、後行出願人の商標が登録された後に、先行商標権者が先行登録商標に
ついて周知性(又は著名性)を獲得し、後行商標権者が後行登録商標の使用を開始したとき
に、後行商標権者の当該使用は、他人である先行商標権者の商品等表示として周知又は著名
となっているものと類似の表示を使用し、その他人の商品・営業と混同のおそれが生じてい
る際には、形式上、不競法第 2 条第 1 項第 1 号(又は同項第 2 号)に該当することになる13。
そのため、先行商標権者が後行商標権者に対して不競法第 2 条第 1 項第 1 号(又は同項第 2
号)に基づく請求をする可能性がある(図 6:事例検討①を参照)
。また、これとは逆に後行
商標権者から先行商標権者に対して同様の請求がなされる可能性もある(図 7:事例検討②
を参照)。
【図 6:事例検討①(イメージ)】
12
コンセント制度の導入については、第 10 回商標制度小委員会(令和 4 年 11 月 22 日開催)において
議論された。
(https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyokouzou/shousai/shohyo_shoi/t_mark_paper10new.html)
13 不競法第 2 条第 1 項第 2 号(著名表示冒用行為)の場合には、混同のおそれが生じている必要はな
い。
30
【図 7:事例検討②(イメージ)】
これらの不競法上の請求は、後行出願人による商標登録への同意や先行出願人の商標の存
在を前提とした上での後行商標の登録により両登録商標が併存するに至ったことを踏まえ
ると、一定の場合には信義誠実の原則(民法第 1 条第 2 項)に反するものとして請求が棄却
される可能性がある。もっとも、信義誠実の原則は一般条項であるところ、かかる一般条項
が適用されるか否かは実際に訴訟を提起してみないとわからないため、ビジネスの予見・予
測可能性が高いとはいえない。また、不競法の適用についてこのような不安定な状況が発生
することとなれば、商標登録出願における同意(コンセント)の付与や取り付けに躊躇する
者も現れて、商標法においてコンセント制度を導入するにもかかわらず、その円滑な利用に
支障をきたすことも懸念される。
このような懸念も踏まえて、本小委員会においては、具体的な事例を示した上で(上記図
6 及び図 7)、商標法のコンセント制度導入を受けた、商品等表示に係る規定に対する不競法
における適用除外規定の創設について検討を行った。
具体的には、コンセント制度により後行商標が登録され、その後、先行商標又は後行商標
が周知又は著名となった場合に、後行商標権者又は先行商標権者が不正の目的でなくその登
録商標を商品等表示として使用等する行為を商品等表示に係る不正競争(不競法第 2 条第 1
項第 1 号及び第 2 号)の適用除外とする規定を追加することについて、提案を行った。ま
た、当該適用除外規定の追加とあわせて、不競法第 19 条第 2 項の規定を参考に、コンセン
ト制度により後行商標が登録され、その後、先行商標又は後行商標が周知又は著名となった
場合、自己の商品又は営業との混同を防ぐために適当な表示を付すべきことを請求すること
ができる規定を追加することについても、提案を行った。
上記提案について、本小委員会においては、大きな異論がなく、了承された。
31
(2) まとめ
本小委員会での検討を踏まえ、商標法へのコンセント制度導入により後行商標が登録され、
その後、先行商標又は後行商標が周知又は著名となった場合に、後行商標権者又は先行商標
権者が不正の目的でなくその登録商標を商品等表示として使用等する行為を商品等表示に
係る不正競争の適用除外とする規定を追加することが適切である。また、あわせて不競法第
19 条第 2 項の規定を参考に、コンセント制度により後行商標が登録され、その後、先行商
標又は後行商標が周知又は著名となった場合、自己の商品又は営業との混同を防ぐために適
当な表示を付すべきことを請求することができる規定を追加することが適切である。
32
おわりに
今次の本小委員会においては、デジタル化の進展に伴う、新たなビジネスの誕生や、情報
財のより一層の重要化を踏まえ、時代にあわせた不競法の規律の在り方について検討を行い、
規律の見直しについての方向性を示した。ここで示された方向性を踏まえ、関係各所との調
整を経て可能な限りこの方向性に沿った制度整備がなされることが望ましいと考える。
今後も、社会経済を取り巻く環境は常に変容していくことが予想されることから、不競法
の法目的である、事業者間の公正な競争の促進のために、時代にあわせた制度・規律の在り
方を継続的に検討していくことが重要である。
33
産業構造審議会
知的財産分科会
不正競争防止小委員会
開催状況
第 18 回
日時:令和 4 年 10 月 18 日(火)13:30~15:05
場所:WEB 会議室
議題:今後の議題・スケジュールについて
デジタル時代におけるデザインの保護について
限定提供データの規律の見直しについて
第 19 回
日時:令和 4 年 11 月 7 日(月)13:30~15:30
場所:WEB 会議室
議題:保護期間の終期の起算点について
渉外事案に係る国際裁判管轄及び不正競争防止法の適用範囲に関する規定整備
損害賠償額算定規定の見直しについて
第 20 回
日時:令和 4 年 11 月 28 日(月)13:30~15:15
場所:WEB 会議室
議題:商標法のコンセント制度導入を受けた適用除外規定について
使用等の推定規定の拡充
営業秘密及び限定提供データに関するライセンシーの保護制度の創設
第 21 回
日時:令和 4 年 12 月 13 日(火)13:30~14:50
場所:WEB 会議室
議題:最終報告書案について
第 22 回
日時:令和 5 年 1 月 30 日(月)13:30~14:00
場所:WEB 会議室
議題:報告書案に対する意見募集の結果について
報告書案の修正について
34
産業構造審議会
◎岡村 久道
小川 暁
久貝 卓
河野 智子
小松 文子
下川原 郁子
末吉 亙
杉村 純子
田村 善之
冨田 珠代
長谷川 正憲
林 いづみ
山本 和彦
知的財産分科会
不正競争防止小委員会
委員名簿
国立情報学研究所 客員教授
京都大学大学院 医学研究科 講師、弁護士
東京地方裁判所 判事
日本商工会議所 常務理事
ソニーグループ株式会社 知的財産・技術標準化部門 スタンダード
&パートナーシップ部 著作権政策室 国内著作権担当
長崎県立大学 副学長
日本知的財産協会 副理事長
東芝デバイス&ストレージ株式会社 取締役
株式会社東芝 技術企画部 エキスパート
KTS法律事務所 弁護士
日本弁理士会 会長 プロメテ国際特許事務所 代表弁理士
東京大学大学院 法学政治学研究科 教授
日本労働組合総連合会 総合政策推進局長
日本経済団体連合会 知的財産委員会・企画部会 委員
キヤノン株式会社 知的財産法務本部 知的財産渉外第三部長
桜坂法律事務所 弁護士
(令和 4 年 11 月 28 日 第 20 回まで)
一橋大学大学院 法学研究科 教授
(令和 4 年 11 月 28 日 第 20 回まで)
敬称略(50音順)
◎:委員長
オブザーバー
内閣府知的財産戦略推進事務局
法務省民事局
法務省刑事局
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