議事録
知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会
第25回 議事要旨
〇日時
: 2025年10月29日(水) 15:00-17:00
〇場所
: WEB開催
〇出席者 : 加賀谷座長、荒木委員、和泉委員、江良委員、菊地委員、三瓶委員、
杉光委員、武井委員、立本委員、中村委員、林委員、松島委員、松原委員、
森委員
1.議論
①
知財・無形資産の価値の「可視化」と「価値化」
・無形資産の議論は、権利として見えるものが主体になっているが、権利化されてい
ない知財であるナレッジ・ノウハウも日本の強みである。これを開示・説明すること
が次のステージで必要である。
・知財は企業の競争力の源泉であるが、投資家からは見えにくい資産である。企業か
らの開示は、特許件数や技術説明にとどまり、知財が事業や利益にどう結びつくかが
語られていない。投資家側も利益や売上に明確に直結しない限り関心がなく、コスト
として見てしまう傾向がある。知財の価値を可視化するにあたって、定量化には限界
がある。権利化されていないノウハウやブランド力、顧客からの信頼などは定量化し
にくい。重要なのはデータの多さよりストーリーの明確さであり、戦略的にどう使っ
ているかを端的に語ることが重要である。投資家は読む時間が限られているため、短
い時間で納得させるストーリーが求められる。
・今後何をすべきかについては、定量化が重要である。定量化しなければ知財・無形資
産ガバナンスは廃れていく。知財・無形資産に興味がない投資家が、時間がない中で
何を見るかといえば数字しかない。プロ野球における打率のように数値化することで
議論が生まれる。KPIで見える化することが必要である。知財だけでなく無形資産も
数値化する方法はあるので、何等かのかたちでKPIを作って議論していくことが重要
である。
・AI時代では定量のキャッチーさと定性のわかりやすさの追求が課題であり、検討会
の成果物として見せ方を工夫する必要がある。
・可視化による投資促進のための取り組みであり、定量化が絶対必要である。アカデ
ミアと連携し、定量化を繰り返しブラッシュアップすることが必要である。
②
コーポレートガバナンス・コードと連動した取組
・コーポレートガバナンス・コードによって、IPランドスケープが活性化したのは良
いスタートである。IPランドスケープは可視化できる良いツールであるが、発展型
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を考える必要がある。企業全体や産業全体で見えていないものまで含めて洞察し、
価値になっていることを可視化できるように、発展させるべきである。
・コーポレートガバナンス・コードの知財・無形資産に関する記載は明確に残してほ
しい。企業の価値創造ストーリーにおいて知財・無形資産の活用は不可欠であり、
持続的成長と国際競争力強化の観点から重要である。この記載があったことで知財
が取締役会の監督すべき経営マターであるという認識が広まり、知財を経営に生か
そうとする大きな潮流が生まれている。流れはまだ途上であり、記載が後退すれば
重要な動きが停滞する懸念がある。
・知財の重要性がコーポレートガバナンス・コードに明記されていることで、投資と
の知財・無形資産に関する対話が継続する土台になるため、明確に残しておくこと
が大事である。
・コーポレートガバナンス・コードには、これからの企業成長のためには、知財が必
須であり、引き続きコードに残し、企業により強く浸透されるべきである。知財・
無形資産という用語は新しい言葉であり、より広めていく努力が必要である。経営
者は知財=特許と捉えがちであり、視野が狭くなる。知財・無形資産という言葉の
普及が重要である。コンテンツIPは昨今進展しており、これらも知財・無形資産の
一つであり、重要な資産として考えるべきである。
・知財・無形資産という言い方は弱く、無形資産を前面に出した方が良い。「知財に
よる経営戦略上重要な無形資産形成」が重要だという考え方をもっている。無形資
産という言葉のほうが広く捉えられ活用されていく。
・コーポレートガバナンス・コードに記載されるかどうかは、価値創造ストーリーに
おいて、知財・無形資産というのが各論ではなく、価値創造ストーリーの本質であ
るということを訴求するべきである。それによってガバナンス・コードから落とす
べきではないということが訴求される。なお、「知財・無形資産」という用語では
どうしても狭い話に見えてしまって、「無形資産・知財」という用語について検討
すべきでないか。他社の知財とつなぐネットワークも価値であるというご指摘も興
味深い。知財だけでは語れない、無形資産があっての知財というストーリーもある。
・コーポレートガバナンス・コードに知財・無形資産のキーワードがあることは日本
の産業にとって重要である。先進国の企業として知財・無形資産マネジメントがな
い場合、国際競争力がなく事業存続リスクがある。特許中心ではあるが、数値化し
て横並び比較せざるを得ない。わかりやすいストーリーをもった無形資産マネジメ
ントも重要であり、定量と定性の表と裏で同時に取り組む必要がある
・コーポレートガバナンス・コードにおいては、具体的に知財・無形資産経営の内容
を書かせることで、良い事例を書かないとコンプライできない状況を作るべきであ
る。高市総理の所信表明演説で新技術立国という用語が使われているが、将来的に
は新知財立国、もしくは新知財・無形資産立国という言葉に切り替えて国家戦略と
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して重要視していることを示すべきである。
・企業価値の源泉は無形資産である。現在、二極化が進んでいる。遅れているところに
無形資産の重要性を周知することは不可欠だが、遅れているところよりも進んでいる
ところを伸ばしていくことが日本の競争力強化に、よりつながると強く考えている。
上場大企業において知財・無形資産をより浸透させる観点から、大企業の経営者の知
財・無形資産の強みの認識が不十分である。プライム市場上場社外取締役として取締
役会の議論を刺激しているが、サイロ化の打破が重要であり、取締役会で積極的に知
財・無形資産の重要性を議論することが重要である。
・コーポレートガバナンス・コードの議論の中でも、知財・無形資産は不要ではないか
という意見が出ている。この原因の一つとして知財・無形資産ガバナンスガイドライ
ンの本質が個別の施策ではなく、企業価値創造の本質的な取り組みであることが伝わ
っていないことを認識しなければならない。こうした本質を多くの関係者に伝えてい
くために何が必要となるのかを考えていく必要がある
③
経営と知財部との連携
・企業における経営戦略に関わるプロジェクトに知財部が入っていることはほとんど
なく、連携ができていないのが現状だと感じている。知財経営を実現するためには、
勝ち筋がモノに加えてコトビジネス(ソリューションビジネス)に転換され、知財戦
略はこれに対応したオープン&クローズ戦略を経営に浸透させることが重要である。
これは、収益を上げる事業と顧客獲得する事業が一つの事業であったがこれを二つの
事業に分けて組み合わせたビジネスモデルに変える考え方が必要である。収益事業と
顧客獲得事業を分けることができると、利益度外視して顧客を獲得することができる
ためビジネスとして強い。これら2つの事業においては、知財の定義も変わってくる。
収益事業は差別化のためのクローズの知財で、顧客獲得事業は顧客の事業支援となる
「ソリューション知財」をオープンにする知財であり、価値評価の仕方も異なった概
念で評価する必要がある。
・医薬以外の業界では参入障壁はほぼ機能しにくい。顧客と結び付ける「ソリューシ
ョン知財」を開発して顧客を獲得することが知財の機能として重要となっている。
・例として、IBMはカスタムディベロップメントインカムを指標値として報告してお
り、「ソリューション知財」により、将来の収益事業(ソフトやインフラ収入)の8割
はソリューションの提供の結果からもたらしている(ソリューションを介さず直接的
な収益は残りの2割に過ぎない)。知財の定義をクローズだけであったものからオー
プンの知財も加えて、知財の評価もそれぞれ分けて設定しKPIとして、収益性を高め
る知財活動を行う必要がある。
・経営者と知財部の会話の共通言語はオープン&クローズを基にした知財の再定義か
ら始める必要があり、その結果、上述のようにキャッシュフローにつながって、知財
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の価値化と可視化ができ、数字を持って経営者と知財部が会話することができる。そ
れにより、差別化や参入障壁だけでない顧客価値創造による市場拡大・事業スケール
も含まれる価値創造ストーリーが作り上げられ、投資家への報告も可能となる。
・事務局資料の現状認識については、画一的に知財経営がなされていないとすべきで
はなく、企業の規模や業種に応じて、知財経営の浸透度は異なるため、客観的データ
に基づいて課題を丁寧に見定めることが実態に即した議論・施策につながる。諸外国
との比較においても、その背景となる制度や市場環境を踏み込んだ深い分析が有効で
ある。価値創造と情報開示の関係では、持続的価値創造のために経営戦略へ知財の経
営資産を組み込み活用し、ガバナンスを効かせることが重要である。開示は結果とし
て現れるものであり、戦略的に開示しない判断もあり得る。開示の質や価値創造スト
ーリーが重要であり、開示の標準化や効果的な見せ方の整備が必要である。
・人的資本投資の成果が知財・無形資産に現れ、事業で活用して収益の源にしていく
段階に入った。知財・無形資産を中核に事業や経営を考える投資家・経営者の集まる
場を政府主導で作り、意見交換などを進めることが有効である。知財・無形資産経営
を実行する、リードできる担い手が不足しているため、知財専門家だけでなく経営人
材やIR、財務など企業の成長に貢献できる人材育成が必要である。
・経営層が知財・無形資産の本質的価値を理解していない、知財部門が経営戦略や価
値創造ストーリーに関与できていないことが課題である。取り組み案としては、経営
者への経営目線での翻訳を推進すること、経営層と知財部門の対話を促進すること、
知財部門の戦略参画型人材を育成することである。
④
投資家との対話・関係性構築
・経営者・企業と投資家・取締役会が良い壁打ち相手になり、知財や非財務情報の議論
を深めることが重要である。議論を深めるために、知財・無形資産に関する対話のき
っかけとなる問いの例示集を整えることで、対話の中でストーリーを磨くことが重要
である。
・取組においては、事例集が効果的である。事例集は数を追うのではなく、質の高い事
例を一つか二つでも広く伝えることが重要である。投資家が企業とエンゲージメント
する際、好事例を提示することでエンゲージメントが進化する。投資家が企業に持っ
ていきたくなる事例を集めるべきである。ライセンス事業は知財をベースにした無形
資産形成の良い例であり、三菱重工や東洋エンジニアリングなどが取り組んでいる。
技術で勝ってビジネスで負けるという課題に対し、NTTはIOWN構想で本気で取り組
んでいる。ここには、知財をベースとした無形資産がある。こうした深く戦略的に考
えている例を投資家に利用してもらい、広く知らしめることが重要である。
・投資家にとってストーリーが重要であり、企業開示において、日本企業の知財部や
研究所の苦しいところもあるが、投資家や外部へ訴求しないと先進国の企業における
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知財部門の存在感が失われる。ライセンシングやオープンクローズ戦略など新しいビ
ジネスモデルを知財が開拓していくことを訴求することが重要である。
・企業と投資家の対話活性化のための取り組みが必要であり、言語化や整理がされて
いないことが問題である。対話型IRから共創型IRへ進化させ、価値創造の仮説検証の
場を設けて企業と投資家が知財・無形資産を軸に事業仮説を共有・評価・改善するプ
ロセスを回すラウンドテーブルをつくることが重要である。企業内だけでなく民間・
業界・投資家との協力、枠組みの整理が必要である。
⑤
企業に対するインセンティブの設計
・今後の重要テーマは知財の見える化である。これを推進するには、企業サイドのや
る気を出すこと、失敗を許すカルチャーが必要である。イノベーションボックス税制
や企業価値担保権の導入で、企業にインセンティブがもたらされ、知財の見える化が
進む可能性が高い。スタートアップの成長にも有効である。
・経済・食糧安全保障の観点も含めて、持続的な成長を日本として続けていくために
は、大企業の知財・無形資産であるサプライチェーン・バリューチェーンを構成する
中小企業との連動が不可欠である。安全保障の観点でもその重要性は増している。大
企業と中小企業が価値を共創する重要なパートナーであるとの認識の浸透が不可欠
であり、これが知財・無形資産ガバナンスガイドラインのバージョン3.0につながる
テーマであると感じている。
⑥
知財・無形資産ガバナンスガイドライン(GGL)の普及
・知財・無形資産GGLの普及は十分ではない。価値協創ガイダンス2.0を使う企業が増
えているが、GGLを使う企業はごく一部である。GGL3.0の作成が必要であり、知財・
無形資産の見える化の具体的手法を提示することが必要である。バラバラに存在して
いる事例集やガイドラインの統合や企業と投資家との対話のまとめ集を作ることも
必要である。
・GGLバージョン2.0が浸透していないと感じている。可視化ができていない理由は技
術の説明に終始している企業側の問題と、投資家と企業の価値観のギャップが大きい
ことにある。良いコンテンツがあるにもかかわらず活かせていない。バージョン2.0
の浸透と他のガイダンス・ガイドラインとの統合化を進めるべきであり、知財の見え
る化と統合化の両輪でバージョン3.0を目指すべきである。
・中小企業においてGGLの存在を知らないところが多い。ここを改善しないと大企業
との連動やバリューチェーンの強化につながりにくい。提言としては、中小事業者が
所属する商工会議所などでGGLの普及や講演活動を行うことも有効である。同時に、
上場大企業におけるサイロ化の打破やパートナー認識の浸透については、知財・無形
資産経営に係る取締役会での議論強化をバージョン3.0などでもっと具体的な打ち手
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として入れていくべきである。ツールとしてはサイロ化やパートナー認識の関係で、
経営デザインシートという簡易なツールが首相官邸ホームページで公開されており、
キヤノンや日立など大企業、中小企業、金融企業も使っている。こうしたツールの普
及、普段使いが必要である。
・大企業のサイロ化の打破やパートナー認識の浸透は投資家の関心事項でもある。知
財・無形資産経営に係る取締役会の機能強化を含めたガバナンスの開示を、具体的な
打ち手として価値創造ストーリーをどのように生み出しているかも含めて行うべき
である。出してはいけない情報もあるが、戦略的な開示が問われている。中小企業で
金融機関からの借り入れに伴うデットガバナンスについては、研究開発投資や人的資
本投資などに係る資金使途において、これらの無形資産のどこにどのように使うのか、
というストーリーの開示が重要であり、金融機関側の円滑な融資審査と資金供給に資
する。こうした開示や対話のツールとして経営デザインシートが有効である。
・企業価値担保権については、その根拠となる事業性融資の推進等に関する法律が国
会を通過し、来年5月25日に施行される予定であり、無形資産そのものが企業価値を
生み出す流れができてきている。特に中小企業からスタートアップへの流れがあり、
大企業も連動していくことが望ましい。中小企業においてガバナンスは関係ないとい
う見方もあるが、中小企業白書でも明確に打ち出されているように、中小企業こそガ
バナンスの強化、社外取締役の強化、エンゲージメントの強化が重要である。経済産
業省は上場しないまでも売上高100億円という高い目標を目指して挑戦する企業・経
営者を応援する取り組み(100億宣言など)を推進しており、これが賃上げの原資を
生み出し地域活性化につながるとされている。こうした挑戦する企業のガバナンス体
制と実運用の観点は非常に重要であり、ガバナンス強化の具体的な打ち手や開示、金
融機関や投資家との対話の重要性を浸透させていくべきである。これらがGGLバー
ジョン3.0のコアテーマになると考えている。
・委員の意識の中で共通しているのは、GGLというすごく良いものを作ったのに、な
ぜ浸透しないのかというフラストレーションであると認識している。なぜGGLが浸
透しないのかという問いに対して、これまでの施策が何が達成できていないのか、そ
れらを解消するために何が必要なのかについてきめ細かく考えながら取組みを進め
ていきたい。
2.プレゼンテーション
(1)プレゼンテーション1(株式会社東京証券取引所
坂田俊也様)
・東京証券取引所(東証)では2022年に市場区分の見直しを行った。その後、市場区
分見直しの目的の実効性向上に向けて、市場区分見直しに関するフォローアップ会議
を立ち上げ、会議での議論をベースに様々な取り組みを進めてきた。
・2023年3月からプライム・スタンダードの全上場会社を対象に、「資本コストや株価
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を意識した経営」を要請し、資本コストや資本収益性、また市場評価に対する意識改
革を働きかけている。趣旨としては、中長期的な企業価値向上のために、バランスシ
ートをベースとする資本コストや資本収益性を意識した経営を実践していただくこ
とをお願いするものである。取締役会が主体となって、知財や無形資産の創出も含め
て成長投資や事業ポートフォリオの見直しなど抜本的な取組みが進むことを期待し
ている。
・要請に対して、プライム市場では9割以上、スタンダード市場でも約半数の上場会社
が取り組みを開示している。東証としては、前向きに取り組む企業を後押しするため、
上場会社が検討するための材料や参考事例の提供、円滑なコミュニケーションの促進
などに取り組んでいる。
・投資家から評価されている事例以外にも、投資者の目線とギャップのある事例も公
表している。ギャップのある事例は実際の開示例を元に加工して作成している。また、
投資家目線での開示に正面から取り組む事例として旭化成の例を紹介した。無形資産
についても企業価値向上につなげる投資家目線での問いを立て経営陣が答えるかた
ちとなっており、人材戦略や知財についても説明している。
・また、取組みを開示したものの機関投資家からのコンタクトが得られず、より活発
な対話を求める企業に対しては、手を挙げてもらい、一覧表にもその旨を掲載し、投
資家から注目されやすいようにしている。
・プライム市場全体ではPBRが1倍以上かつROEが8%以上の企業の割合が43%と要請
した三年前から6ポイント増加している。なかでも、投資家から評価されている事例
集掲載企業では、資本収益性や市場評価の大きな向上につながっている。
・機関投資家からは、企業経営者の意識や取り組み内容が変化しているとのポジティ
ブなフィードバックがある一方、今後は実際に収益性の改善など成果に結びつくかが
重要との意見もある。
・東証としては、今後も取り組みのポイント事例集のアップデートや、機関投資家と
のコミュニケーションの促進など、上場会社のサポートを続けていく。企業と投資家
が目線を合わせ、企業価値向上の実現に向けた取り組みを進められるよう環境整備も
引き続き行う。今後も幅広い市場関係者からフィードバックをいただき、上場会社の
取り組みを後押しできる施策を実行してまいりたい。
(2)プレゼンテーション2(大和アセットマネジメント株式会社
渡辺勇仁様、寺島
和仁様)
・大和アセットマネジメントからは、知財に特化した知財戦略対話を2021年頃から行
っている。知財・無形資産ガバナンスガイドラインが公表されたのは2022年であり、
それより前から取り組んでいた。機関投資家として知財についてどのような視点を持
っているか、何が知りたいのかは常に問われるため、その視点や知りたいことを説明
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している。視点としては、グローバルでの情報資本移動が活発化する中で、有形資産
による参入障壁が小さくなっている可能性があり、知財戦略を含む「見えない力」が
重要になっていると考えている。また、日本企業は技術や権利で先行しながら事業で
負けてしまった事例が多く、そうした状況をどのように総括し今後の戦略に生かそう
としているのか、知財戦略の範囲をどう認識しているのか、企業価値に結びつく知財
戦略になっているのか、などを知りたいということを説明している。
・知財戦略対話を通じて、優れた開示事例も出てきている。例えば日産化学の例では、
知財が強固なビジネスモデルを構成し、高い参入障壁を築いていることが示されてい
る。精度の高い投資による高効率経営を進めており、そこには、他社と一線を画すIP
ランドスケープの考え方、研究開発と連動した綿密な出願戦略などがある。一方で、
特許件数や単なるIPランドスケープの提示、知財体制の説明にとどまっている企業も
まだ多いと感じている。
・このような1対1のエンゲージメントは重要であり、今後も続けていくが、企業関係
者、アカデミア、コンサル、政府関係者なども交えた知の共有や共通課題への取り組
みも重要と考えている。これを「リンゲージメント」と称し、情報交流会などを開催
している。昨年は人的資本をテーマに、今年は知財イノベーションをテーマに情報交
流会を開催予定である。
・大和アセットマネジメントでは企業に対して知的財産を中心とした無形資産に関す
る多角的なアプローチを行っている。無形資産に着目した投資もその一環である。な
ぜ無形資産に着目したファンドを立ち上げたかというと、従来のファンドのように財
務分析のみに基づく企業評価では企業の実態を正確に捉えることが難しいと考えた
ためである。例えば、財務諸表では設備投資やソフトウェア投資、研修費用などの無
形資産への投資は将来の利益創出に寄与するにもかかわらず費用として処理される。
また、自社でブランドを育成するには費用がかかるが、既存ブランドを買収すれば資
産として計上されるなど、企業の実態が正しく反映されていないケースもある。
・つまり、企業の行動や将来のポテンシャルを財務諸表だけでは十分に評価できない。
こうした課題意識のもと、財務諸表に現れない企業の本質的な力をどう測定するかを
模索していたところ、米国のドラッカー研究所と出会い、同研究所のスコアを活用し
たファンドの設定に至った。
・ドラッカー研究所スコアは米国企業を対象としているため、当初は米国株を投資対
象としたファンドを立ち上げた。分析の結果、スコアが高い企業ほど時間の経過とと
もにPBRの増加幅が大きくなる傾向があり、スコアと株価の間に一定の相関関係が確
認できたことから、非財務情報の評価に有効と判断した。そのノウハウをもとに昨年、
日本版ドラッカー研究所スコアを作成し、日本企業を対象としたファンドを設定した。
・ドラッカー研究所スコアは、顧客満足、従業員エンゲージメント、イノベーション、
社会的責任、財務力の5つの領域から算出される。各スコアは第三者の客観的なデー
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タから定量的に計算され、例えばイノベーションスコアは先端分野有効特許件数、特
許放棄率、研究開発費など10種類のデータをもとに計算される。このように定性的な
データを数値として可視化することで、従来測定が難しかった無形資産を定量的に捉
えることが可能となる。日本では米国に比べて無形資産を評価するデータベンダーが
少ないが、使用データやモデルは随時ブラッシュアップしている。
・ドラッカー研究所日本株ファンドでは、評価が難しい無形資産を日本版ドラッカー
研究所スコアにより定量的に評価し、市場からの評価だけでなく、顧客、従業員、社
会など様々なステークホルダーからの評価を加味した銘柄選定を行っている。
・ファンド設定に対する反応としては、無形資産の情報開示が求められる一方で、株
主や機関投資家が有効に利用しているか不安がある中、具体的なファンドによる活用
事例がモチベーションとなる、測定・評価方法が確立されていない中での先行事例と
して参考になる、ベンダー情報の新たな活用方法である、メディアでも活用事例があ
ることで報道の意義が増す、などの声をいただいている。
以上
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資料1
資料1
「知財投資・活用戦略の有効な開示及び
ガバナンスに関する検討会」
(第25回)
令和7年10月29日(水)
15:00~17:00
(Web開催)
<議事次第>
1.開会
2.事務局説明
(内閣府知的財産戦略推進事務局)
3.プレゼンテーション(1)
(株式会社東京証券取引所)
4.プレゼンテーション(2)
(大和アセットマネジメント株式会社)
5.質疑応答・議論
6.閉会
<配布資料>
資料1
議事次第
資料2
委員名簿
資料3
事務局説明資料
資料4
プレゼンテーション(1)資料
(株式会社東京証券取引所)
資料5
プレゼンテーション(2)資料
(大和アセットマネジメント株式会社)
資料6
小野塚委員提出資料
資料7
林委員提出資料
資料8
森委員提出資料
参考1
コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム 2025
参考2
コーポレートガバナンス・コード(抜粋)
参考3
企業成長の道筋~投資家との対話の質を高める知財・無形資産の開示~
資料2
資料2
「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」
委員名簿
(五十音順、敬称略)
(委員)◎座長
荒木
充
株式会社ブリヂストン
知的財産部門
和泉
恭子
富士通株式会社 ビジネス法務・知財本部
知財グローバルヘッドオフィス長
江良
明嗣
ブランズウイック・グループ
小野塚
恵美
エミネントグループ株式会社
◎加賀谷
哲之
一橋大学商学部
部門長
パートナー
代表取締役社長 CEO
教授
菊地
修
一般社団法人知財・無形資産ガバナンス協会
三瓶
裕喜
アストナリング・アドバイザー合同会社
杉光
一成
金沢工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科
武井
一浩
西村あさひ法律事務所・外国法共同事業
立本
博文
筑波大学ビジネスサイエンス系
中村
栄
一般財団法人 知的財産研究教育財団 知的財産教育協会
IP ランドスケープ推進協議会 シニアアドバイザー
林
力一
株式会社野村総合研究所
理事長
代表
教授
パートナー
教授
客員研究員
コンサルティング事業本部 シニアプリンシパル
松島
憲之
Alphaterra Advisory 株式会社 シニア・エグゼクティブ・アドバイザー
三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 委嘱アドバイザー
松原
稔
りそなアセットマネジメント株式会社
常務執行役員 責任投資部担当
俊彦
一般社団法人日本金融人材育成協会
森
会長
(オブザーバー)
金融庁企画市場局企業開示課、特許庁総務部企画調査課、株式会社東京証券取引所
(事務局)
内閣府知的財産戦略推進事務局、経済産業省経済産業政策局産業創造課、
経済産業省経済産業政策局知的財産政策室
資料3
資料3
事務局説明資料
2025年10月29日
内閣府 知的財産戦略推進事務局
知的財産推進計画2025ー知財・無形資産への投資による価値創造
創造
持続的な成長と社会課題の解決には研究開発投資が不可欠。
企業は知財・無形資産に立脚した価値創造を図るとともに、自社が有する知財等がいかに社会全
体のインパクトをもたらすのかを論理的かつ戦略的に発信することが重要。
企業の知財・無形資産の価値化のプロセスの可視化、研究開発を単なる「費用」ではなく「資
産」の形成と捉える企業マインドの変革等が必要。
現状と課題
○ 主要国における研究開発費総額は増加
している一方で、日本の研究開発費総
額は伸び悩んでいる。
○ 日本企業は米国企業に比べて時価総額
に占める無形資産の割合が低い。
○ 日本企業は自社の強みとなる知財・無
形資産の把握や活用が不十分との指摘
あり。
(出典)(出典)科学技術・学術政策研究所、「科学技術指標2024」 (出典)新しい資本主義実現会議(第5回)資料1、P50( 2022年)
主要国における研究開発費総額の推移
時価総額に占める無形資産の割合
KPI
○ 第7期科学技術・イノベーション基本計画の数値目標の設定を踏まえ、今後、適切なタイミング
でKPIを設定する。
今後の予定(方向性)
○ 知財・無形資産の投資・活用の促進に向けて、知財・無形資産ガバナンスガイドラインの考え方
を更に普及・浸透を図る。
○ 事業者が積極的に制度を活用できるようイノベーション拠点税制の周知徹底を図るとともに、制
度の執行状況や効果等を踏まえ、対象範囲の見直しを検討する。
○ グローバルヘルス分野におけるインパクト投資の推進に向けた国際連携を強化するとともに、投
資によるインパクトの測定・管理等の標準化に向けた取組を推進する。
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ガイドラインの考え方の普及促進状況
企業、団体といったステークホルダーと連携し、知財・無形資産ガバナンスガイドライン(以下、本ガイドラインとす
る)への認知を広げるため、講演、個別説明会、執筆活動等を推進した。また、本ガイドラインの考え方を関係者
の目に触れる機会を増やすために、本ガイドラインのロゴを統合報告書等に記載することを促した。
対象期間:2025/4/1~2026/3/31
講演 ※1
実施回数
※1 本ガイドラインを含む知的財産推進計画2025の講演を含む
※2 Future Design Initiative by Science and Finance
15
講演主催者
主な対象者
講演主催者
主な対象者
日本知的財産協会(5月)
企業知財/特許事務所
日本弁理士会
企業知財/特許事務所
知財・無形資産ガバナンス協会(6月)
企業知財/特許事務所
WIPO世界知的所有権機関
企業知財/特許事務所
FDSF ※2
投資家/金融機関
知財・無形資産ガバナンス協会(7月)
企業知財/特許事務所
工業所有権情報・研修館
企業知財/特許事務所
マネジメントパートナーズ
中小企業診断士/会計士
日本知財学会
企業知財/特許事務所
知財管理技能士協会
企業知財/特許事務所
JEITA
企業経営者/企業知財
知財・無形資産経営フォーラム
企業経営者/企業知財
日本知的財産協会(6月)
企業知財/特許事務所
MAP経営
中小企業診断士/会計士
大阪府工業協会
企業知財/特許事務所
3
本日ご議論いただきたい点
【背景:知財・無形資産経営が依然として不十分である現状】
例1 経営者が、知財・無形資産のどこに強み・弱みがあるかを理解できておらず、経営戦略の中核において、知財・無
形資産を活用できない
例2 知財・無形資産の強みを投資家に伝える機会が少なく、企業と投資家との対話が深まらない
例3 価値創造ストーリーの構築には知財・無形資産の貢献が不可欠であるにもかかわらず、知財部門がストーリー構築
に貢献できていない
例4 投資家が、価値創造ストーリーが市場価値に反映されるプロセスを理解できておらず、企業に対して開示のインセン
ティブを与えられていない
各企業の経営において、知財・無形資産経営の考え方を、より浸透させるためには、どこに課題があり、
どのような取組みを進めていくべきか?
知財・無形資産の価値化・可視化を通じた投資促進を実現するためには、どのような取組を進めるべきか?
企業による知財・無形資産の戦略的な開示や、投資家による発信された情報の積極的な活用を通じ、企業と投資家
との対話を活性化するために、どのような取組を進めるべきか?
4
参考資料
(参考)コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム 2025
I. はじめに
(中略)
コード見直しの際には、上場企業の対応コスト・開示負担に配慮
し、策定・改訂時から一定期間が経過し実務への浸透が進んだ箇
所等を削除・統合・簡略化し、前回コード改訂時(2021 年)以
降に法制化された内容との重複排除に努めるなど、コードのスリム
化/プリンシプル化も同時に検討する。
Ⅱ.フォローアップと今後の方向性
1.稼ぐ力の向上
(中略)
●持続的な成長の実現に向けた経営資源の最適な配分の実現
のため、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識した取締役
会の実効的な監督や更なる開示が促進されるよう、以下の点にも
留意しつつ、コーポレートガバナンス・コードの見直し等を検討する。
① 経営資源の配分先には、設備投資・研究開発投資・地方拠
点の整備等・スタートアップ等を含む成長投資、人的資本や知
的財産への投資等、様々な投資先が考えられ、これらの多様
な投資機会があることを認識することが重要である。
このうち、知的財産等の無形資産への投資については、コーポ
レートガバナンス・コードと整合的な取組の促進に向け、引き続
き関係機関との連携や事例の共有を進める。
6
(参考)World Intangible Investment Highlights (WIIH)
2025年7月、WIPOがWorld Intangible Investment Highlightsを公開
https://www.wipo.int/publications/en/details.jsp?id=4796
日本に関する主な調査結果:
• 無形資産投資が近年加速
過去には有形投資が無形投資より速く成長していたが(図1)、2020年以降、実質ベースで無形投資が有形投資を上回り、年平均
1.2%の成長を記録した(有形投資は0.6%)。
• 2023年(最新データ)には、無形資産投資と有形投資がいずれも日本のGDPの9%以上を占め、知識資本と物理資本がバランスよく
共存する構造を示した。
• 日本の無形資産投資は約6,000億米ドルに到達
2023年の日本の無形資産投資額は約5,970億米ドルで、同年のドイツ(5,830億米ドル)やイギリス(5,670億米ドル)を上回った
(図2)。
• 日本の強みは研究開発(R&D)
2022年には、無形投資のうち37%をR&Dが占め、調査対象国中で最も高い比率。次いでソフトウェアとデータベース(20%)、ブランド
(19%)であった。
図1 日本の無形資産投資及び有形資産投資総額の推移
(2013年を100として、指数化)
図2 無形資産投資額
(10億ドル)
600
500
400
300
200
100
(注)投資額は、公式の国内統計に準拠し、2015年実質価格で表示
(注)投資額は名目価格で表示。入手できたデータは、ブラジルが2021年、インドが2022年、日本が
2023年まで。なお、インドのデータは、7月から翌年6月までの会計年度を基準としており、2011年であれば
2011年7月から2012年6月までを表す。
出典:World Intangible Investment Highlights
7
(参考)一般社団法人 知財・無形資産ガバナンス協会(IPIAGA®)の事業内容と活動体制
1.協会の目的と運営体制
3.組織体制
2.事業内容
4.2025年度活動計画
人財育成・研修事業
日本の未来創造PJ
情報発信・普及啓発
(次世代リーダ育成コース、
知財ガバナンス実務コース
生成AI活用研修、資格認定)
(日本を会社と考え、現在
の強みと、目指す姿を探索し、
成長ストーリーを描く)
(政府など関係団体との連携、
生成AI活動推進協議会、
経営者会合、表彰制度など)
知財ガバナンス研究会 活動
知財・無形資産経営分科会、価値創造分科会、
弁護士・弁理士等分科会、知財コンサル分科会
(知財・無形資産経営の実践、知財投資テーマの探索、価値創造プロセスの策定、
情報開示・対話の手法、知財・無形資産ガバナンス実践調査、講演・書籍出版他)
<2025年度活動計画概要>
・協会設立記念式典(6月)
・知財ガバナンス研究会(毎月第2火曜日)
・各分科会、未来創造PJの活動
・次世代リーダーコース(7月より開講予定)
・生成AI活用研修(9月2日東大で開催)
・生成AI活用推進協議会(10月24日発足)
・リアル研修会(12月開催予定)
<ホームページ>https://ipiaga.org/
8
(参考)知財・無形資産経営フォーラム
主催団体:一般社団法人 無形資産経営推進協会
知財・無形資産 経営フォーラム - 知財・無形資産 経営フォーラム
<目的>
企業価値の源泉が知財・無形資産にあることを広く経営者・次世代経営者に認知・浸透
させ、これに積極的に投資・活用すると同時に、ガバナンス体制の構築および戦略的に法
的な守りを固め、企業価値を向上させ、世界トップクラスの日本企業を広く輩出し、ひいて
は日本の経済力を引き上げる。
<第一の存在意義>
プロアクティブな議論や意見交換ができる「場」を提供することによって、分科会活動等を
通じ、会員相互が業界、企業、部門等の垣根なく交流し、次世代の知財・無形資産経
営を担う人材を育成することを第一の存在意義とする。
活動の中心は、現在4つある分科会活動
知財・無形資産 経営フォーラム
第2回定例会の概要・プログラム2025年10月2日
日経カンファレンスルーム
※司会進行:飯塚尚樹氏(当フォーラム第4分科会事務局、(株)クオンツ・コンサ
ルティング シニアアナリスト)
16:00 開会挨拶(当フォーラム議長 中神康議氏(一般社団法人日本取締役
協会副会長 / 企業価値向上委員会委員長 / みさき投資 代表取締役))
16:10 当フォーラム会長ご挨拶(廣田康人氏(アシックス代表取締役会長
CEO)よりビデオレター)
16:15 これまでの活動および今後の活動について(当フォーラム代表幹事、
(株)クオンツ・コンサルティング パートナー前田絵理氏)
16:20 当フォーラム第2分科会(ブランド戦略分科会)からの活動報告
(角谷貴士氏(当フォーラム第2分科会分科会長 / NEC、経営企画・サス テナビ
リティ推進部門ブランドエクイティエグゼクティブ))
16:30 CFO協会代表より一言(一般社団法人日本CFO協会専務理事・谷口宏
氏)
16:35 パネルディスカッション①
テーマ:「投資家との対話:財務・非(未)財務両視点からのストーリー戦略」
モデレーター:中神康議氏(当フォーラム議長/みさき投資 代表取締役)
登壇予定:CFO(CFO協会理事、KDDI取締役・CFO 最勝寺奈苗氏)、
CAO(当フォーラム
第2分科会分科会長/アシックス 常務執行役員CAO 堀込岳史氏)
17:05 パネルディスカッション②
テーマ:「知財・無形資産経営推進のためのCXO機能・執行力強化」
モデレーター:日置圭介氏(CFO協会/CHRO協会/CLO協会シニア・エグゼク
ティブ、re- Designare合同会社代表)
登壇予定:最勝寺奈苗氏(CFO協会理事、KDDI取締役・CFO)
佐々木達哉氏(当フォーラム第1分科会分科会会長/味の素株式会社取締役執行
役専務)
堀込岳史氏(当フォーラム第3分科会分科会長/アシックス常務執行役員CAO)
澤嶋裕希氏(当フォーラム第4分科会分科会長/三井住友トラスト・アセットマネジメ
ント株式会社
シニアスチュワードシップオフィサー)
17:45 閉会挨拶(内閣府 知的財産戦略推進事務局事務局長 中原裕彦氏)
18:00 懇親会 (~19:00中締め)
開会挨拶 一般社団法人 日本知的財産協会 専務理事 弁理士 上野剛史様
氏
乾杯挨拶および協賛企業様ご紹介 当フォーラム第1分科会事務局/(株)クオン
ツ・コンサルティングマネージャー 渋谷高弘氏
中締め挨拶 事務局
9
資料4
資料4
「資本コストや株価を意識した経営」
の推進に向けた東証の取組み
2025年10月29日
株式会社東京証券取引所
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資本コストや株価を意識した経営の推進
●2022年4月:
市場区分の見直し
目的:上場会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を支え、国内外の多様な投資者から高い支持を
得られる魅力的な現物市場を提供
●2022年7月~:
プライム市場
スタンダード市場
グロース市場
高い流動性とガバナンス水準
を備え、グローバルな投資家
との建設的な対話を中心に
据えた企業向けの市場
公開された市場における投資
対象として十分な流動性とガ
バナンス水準を備えた企業
向けの市場
高い成長可能性を有す
る企業向けの市場
市場区分の見直しに関するフォローアップ会議の設置
✓ 市場区分見直しの目的の実効性向上に向けて、現状評価と追加的な対応を議論
✓ 日本市場のPBR・ROEが欧米と比較して低水準にあるという課題に着目
●2023年3月~:
プライム市場・スタンダード市場
資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応の要請
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2
(参考)「資本コストや株価を意識した経営」の要請
経営者の意識改革を図るため、2023年3月、プライム・スタンダードの全上場会社を
対象に、「資本コストや株価を意識した経営」の実現に向けた一連の対応を要請
要請の趣旨
上場会社に求められる対応
⚫ 要請の目的は、上場企業に、中長期的な企業価値
向上のため、売上や利益を意識するだけでなく、
バランスシートをベースとする資本コストや資本
収益性を意識した経営を実践していただくこと
現
状
分
析
✓ 資本コストや資本収益性を把握
⚫ 具体的には、取締役会が主体となり、持続的な成
長のための研究開発・人的資本投資や設備投資、
事業ポートフォリオの見直し等を推進することで、
経営資源の適切な配分を実現していくことを期待
・計
開画
示策
定
✓ 改善に向けた方針や目標、取組
みを取締役会で検討・策定
✓ 投資家にわかりやすく開示
⚫ 自社株買いや増配のみの対応ではなく、継続して
資本コストを上回る資本収益性を達成し、持続的
な成長を果たすための抜本的な取組みを期待
取
実組
行み
の
✓ 資本コストや株価を意識した経
営を推進
✓ 投資家との積極的な対話を実施
✓ 取締役会で現状を分析・評価
年1回以上アップデート
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3
実効性向上に向けた施策
各企業の取組みの実効性向上を後押しし、改革をより効果的・継続的なものとするため、
東証では、継続的にサポート施策を推進
企業の対応状況
サポート施策
⚫ 取組みの検討材料・参考事例の提供
プライム
開示済
91%
検討中
28%
スタンダード
4%
9%
アップデート済
初回 40%
開示済
✓ 投資者の目線とギャップのある事例集
1%
63%
7%
12%
12%
2023年12月末
28%
20%
2025年7月末
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開示済
48%
✓ 投資者の視点を踏まえたポイント・事例集
⚫ 投資者との円滑なコミュニケーションの促進
✓ 開示企業一覧表の公表
✓ 機関投資家からのコンタクトを希望する企業を明示
4
ポイント・事例集の使い方ガイド
2024年11月公表資料
Step1.投資者の目線とのギャップを知る
投資者の目線とギャップのある事例
レベル1
現状分析や取組みの
検討が十分でない状況
レベル2
取組みの状況に応じて生じやすい
ギャップと見比べて、自社の取組みを点検
現状分析や取組みの内容が
投資者から一定の評価を得たうえ
レベル3
投資者に評価されていない状況
で、更なる向上が求められる状況
◆ 現状分析が投資者の目線とズレている
◆ 現状分析・評価が表面的な内容にとどまる
◆ 取組みを並べるだけの開示となっている
◆ 合理的な理由もなく、対話に応じない
◆ 目指すバランスシートやキャピタルアロケー
ション方針が十分に検討されていない
◆ 不採算事業の縮小・撤退の検討が十分に行わ
れていない
◆ 目標設定が投資者の目線とズレている
◆ 業績連動の役員報酬が、中長期的な企業価値
向上に向けたインセンティブとなっていない
◆ 課題の分析や追加的な対応の検討を機動的に
行わない
◆ 対話の実施状況の開示が具体性に欠ける
Step2.取組みを検討・ブラッシュアップ
投資者の視点を踏まえた
ポイント解説
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事例集
各ギャップに対応したポイント・
事例を参照しながら、投資者の
視点を踏まえた取組みを推進
5
レベル1 投資者の目線とギャップのある事例 ②
抜粋
ギャップ事例②
取組みを並べるだけの開示となっている
事例(実際の開示例を元に加工)
企業価値向上の実現に向けて、以下の取組みを行ってまいります。
1.収益力の向上
中期経営計画に掲げた各種戦略を着実に展開し、収益力を強化
2.成長投資
○○事業を当社の新たな成長事業と位置付け、取組みを加速
3.株主還元の拡充
現在の配当水準を基本とし、利益増加により得た資金については、成長
投資と配当に振り分け
4.コーポレート・ガバナンスの強化
経営陣の指名と報酬に関する透明性と客観性を高め、ステークホルダー
の期待に応えることを目的に、指名・報酬委員会を設置
5.IR活動の強化
当社の市場認知度を向上させるため、各種媒体を通じた情報発信、決算
説明会や投資者との個別ミーティングを拡充
投資者のコメント
✓ 他社でも当てはまるような具体性のな
い取組みが並び、定量的な説明もない
ため、将来の企業価値向上にどのよう
に寄与するのか判断ができない
⇒ 定量的に示すことが難しい場合であっ
ても、各取組みがどう課題を解決し、
どのような経路で企業価値向上に寄与
していくのか、企業・経営者としての
考えをできるだけ具体的に、わかりや
すく示すことが期待される
※ その他の開示資料でも、上記取組みに関する定量的な説明は無し
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6
事例1
旭化成(3407)①
抜粋
TOPIX
Large70
化学
投資者の評価ポイント
投資者からよく寄せられる問いに経営陣が回答する形式で、企業価値向上の実現に向けた取組みがス
トーリー性を持って語られており、各取組みの意図が分かりやすく、経営陣の強いコミットが伝わる。ま
た、取締役会の実効性評価における社外/社内取締役のコメントとして、売却・撤退を含む事業ポートフォ
リオ変革の重要性が語られているなど、実効性のあるガバナンスが確保されていることが窺える。
⚫PBR改善に向けて、現状分析から
具体的な取組みまで、CFOメッ
セージとしてストーリー性を持って
紹介
© 2025 Japan Exchange Group, Inc., and/or its affiliates
出所:旭化成株式会社 旭化成レポート2024(2024年10月8日)24、25ページ
https://www.asahi-kasei.com/jp/ir/library/asahikasei_report/pdf/24jp.pdf
7
事例1
旭化成(3407)③
抜粋
TOPIX
Large70
化学
⚫ 人財戦略や知的財産活動などの無形
資産を企業価値向上にどのようにつ
なげていくのか、わかりやすく説明
© 2025 Japan Exchange Group, Inc., and/or its affiliates
出所:旭化成株式会社 旭化成レポート2024(2024年10月8日)57、60ページ
https://www.asahi-kasei.com/jp/ir/library/asahikasei_report/pdf/24jp.pdf
8
開示企業一覧表の公表
◆ 対応を進めている企業の状況を投資家に周知し、企業の取組みを後押ししていく観点から、
要請に基づき開示している企業の一覧表の公表を開始(2024年1月~)
(掲載イメージ)
業種
コード
業種
市場区分
「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧
2024/12/31 時点
開示状況
証券
銘柄名
コード
要請に基づく
前月からの
開示状況
開示状況の変更
**
*****
プライム
1111
aaaaa
開示済
**
*****
プライム
2222
bbbbb
検討中
**
*****
プライム
3333
ccccc
開示済
**
*****
スタンダード
4444
ddddd
開示済
**
*****
スタンダード
5555
eeeee
開示済
**
*****
プライム
6666
fffff
開示済
**
*****
プライム
7777
ggggg
検討中
****
*****
スタンダード
8888
hhhhh
****
*****
スタンダード
9999
iiiii
開示内容の
アップデート日
機関投資家からのより活発なコンタクトを希望
英文開示
申請状況
コンタクト先
2024/6/19
有
〇
経営企画部 広報・IR課
2024/11/27
〇
IR広報部(担当者4名で構成)
2024/10/18
〇
広報IR部
開示済
2024/11/14
〇
経営企画本部
有
開示済
2024/5/21
〇
広報IR部
有
有
検討中⇒開示済
未掲載⇒検討中
◆ 開示したものの機関投資家からのコンタクトを得られず、より活発な対話を求める企業を
開示企業一覧表において明示(2025年1月~)
➢ 2025年7月末時点で、計317社から申請
上場会社
より活発な機関投資家
との対話を求める企業
①申請
東証
②開示企業一覧表上
で明示
投資者
積極的に対話を希望
する企業を探している
機関投資家
③対話したい企業にコンタクト・対話
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9
直近の開示の状況
スタンダード市場
プライム市場
未開示
8%(124社)
9%(140社)
5%(78社)
初回開示済
28%(449社)
58%
(948社)
87%
(1415社)
アップ
デート済
63%
検討中(※)
1%(22社)
(787社)
開示済
91%
(1473社)
(1,024社)
29%
(467社)
2025年7月末
2025年3月末
未開示
48%
50%
12%
(183社)
34%
(532社)
38%
(605社)
(755社)
検討中(※)
4%(70社)
初回開示済
28%
(436社)
開示済
48%
5%
(73社)
アップ
デート済
20%
(311社)
2025年3月末
2025年7月末
直近(4~7月)の動向
直近(4~7月)の動向
✓ 初回の開示:78社(5%)
✓ アップデート:819社(51%)
✓ 初回の開示:148社(9%)
✓ アップデート:245社(16%)
(2回目以降のアップデートを含む)
(2回目以降のアップデートを含む)
⇒ プライム市場は、9割以上が開示済・6割以上
がアップデート済となり、開示のアップデート
を行う企業が中心
(747社)
⇒5%スタンダード市場は、足元で新たな開示やアップ
(73社)
デートを行う企業が増加しているものの、依然と
して約半数の企業が未開示の状況
2025年7月末
(※)2025年1月から「検討中」の掲載期間を6か月間とし、期間を過ぎた企業は「未開示」に分類(プライム36社、スタンダード113社)
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10
参考:要請後の株価推移(プライム市場)
170
事例集掲載企業:+66.6%
(n = 43)
160
150
アップデート済:+42.5%
(n = 534)
140
初回開示:+35.9%
(n = 926)
130
検討中:+17.3%
120
(n = 63)
110
(n = 125)
未開示:+17.3%
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2025/6
2025/5
2025/4
2025/3
2025/2
2025/1
2024/12
2024/11
2024/10
2024/9
2024/8
2024/7
2024/6
2024/5
2024/4
2024/3
2024/2
2024/1
2023/12
2023/11
2023/10
2023/9
2023/8
2023/7
2023/6
2023/5
2023/4
90
2023/3
100
※ 2023/3/31時点の株価を100に換算し、分類ごとの株価推移を試算(等ウエイト)
※ 開示のステータスは2025/6/30時点の開示企業一覧表に基づき分類
11
PBR・ROEの分布状況の変化
◆ PBR1倍割れの企業は、プライム市場で44%(-6pt)、スタンダード市場で59%(-5pt)
◆ ROE8%未満の企業は、プライム市場で43%(-4pt)、スタンダード市場で59%(-4pt)
市場区分別のPBRの変化
2022年
7月
市場区分別のROEの変化
0.5倍
未満
0.5倍以上
1倍未満
1倍以上
2倍未満
2倍以上
15%
35%
27%
23%
PBR1倍割れ 50% (922社)
2025年
7月
36%
8%
2022年
7月
29%
0%以上
8%未満
8%以上
15%未満
15%以上
6%
41%
34%
20%
37%
20%
ROE8%未満 47% (857社)
31%
24%
2025年
7月
44% (720社)
2022年
7月
0%
未満
5%
38%
43% (699社)
35%
22%
14%
2022年
7月
16%
64% (934社)
2025年
7月
22%
37%
59% (934社)
© 2025 Japan Exchange Group, Inc., and/or its affiliates
47%
24%
13%
26%
15%
63% (912社)
24%
16%
2025年
7月
13%
46%
59% (933社)
※ QUICKから取得したデータを東証で加工
※ 2022年7月1日時点及び2025年7月1日時点のデータ
12
市場評価・資本収益性の変化(プライム市場)
◆ 要請前後(2022/7~2025/7)における上場会社のPBR・ROEの変化は以下のとおり
➢ 4象限の比率(%)は2025/7時点の分布、()内の数値・矢印は2022/7~2025/7における変化
参考:2025年7月時点の分布
市場全体 (n=1,598)
高
12%
市場評価
4%
3%
9
43%
(±0pt)
(PBR)
10
6%
8
(+6pt)
1%
5%
3%
1倍
1%
2%
31%
2%
1%
14%
(-1pt)
2
(-4pt)
1
0
7%
低
8%
資本収益性 (ROE)
© 2025 Japan Exchange Group, Inc., and/or its affiliates
6
PBR
(%) 5
4
3
6%
低
7
高
0
4
8
12
16
20
24
28
32
多くの企業が
ROE(%)
ROE8%、PBR1倍
前後に存在
13
市場評価・資本収益性の変化(事例集掲載企業)
◆ 要請前後(2022/7~2025/7)における上場会社のPBR・ROEの変化と主な取組みは以下のとおり
➢ 4象限の比率(%)は2025/7時点の分布、()内の数値・矢印は2022/7~2025/7における変化
事例集掲載企業の主な取組み
事例集掲載企業 (n=55)
高
13%
2%
市場評価
(-11pt)
(PBR)
•
M&A、成長投資
49%
•
事業ポートフォリオの見直し
(+31pt)
•
中長期的な資本政策の策定
11%
•
情報開示・IRの強化
•
対話を踏まえた目標設定の見直し
•
役員報酬の見直し
•
政策保有株式の売却
•
株主還元の実施
2%
9%
1倍
27%
(-13pt)
22%
(-7pt)
⇒ 今後、ポイント・事例集のアップデート時に
深堀りして分析
15%
低
11%
低
8%
資本収益性 (ROE)
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高
14
機関投資家等からの直近のフィードバック①
◆ 本年1月以降に意見交換を行った、アクティブを中心とした海外・国内機関投資家(約200社)からの
主なフィードバックは以下のとおり
※赤字部分が直近の追加箇所
(企業の変化に対するポジティブな評価)
⚫ 資本コストだけでなくROICやWACCの概念に関する経営者の理解が進んでおり、企業の意識変化を感じる。株主
と企業の共通言語が形成されていることが評価できる(国内機関投資家)
⚫ 数年前では考えられないほど、日本企業の資本コストや株価に対する関心が高まっている。また、多くの企業が投資家
との対話を重視するようになり、IR・対話の質も着実に向上している(海外投資家)
⚫ 要請の公表当初は、1年程で盛り上がりが終わるかと思ったものの、持続的な変化が起こっているように感じる。かね
てより日本株の評価は割安だったが、今回は企業のクオリティが改善している印象(海外投資家)
⚫ 経営者の理解が進んでいることに加え、投資家を意識した検討や開示が着実に進展している。また、色々なセクターに
おいて、業界のリーダーが動いて他社が追随するという流れができつつある(海外投資家)
⚫ 数十億円規模の企業の意識も変わってきており、中長期的な資本政策の策定に取り組もうとする企業が出てきている。
こうした企業も、今後、少し遅れて成果につながっていくのではないか(経営コンサル)
(取組みの実効性に関する意見など)
⚫ ポジティブな変化として、ROE目標やキャピタルアロケーション方針、バランスシートの効率化に向けた取組みなど
を開示する企業が出てきているが、今後の課題はその計画が実行に移されるかどうかであり、企業価値向上のストー
リーとともに、それに向けた今後5年間の道筋を具体的に見せてほしい(国内機関投資家)
⚫ 日本株のアロケーションを増やすには、資本収益性の改善に向けた取組みの開示だけではなく、実際にROEやROI
Cが改善していることを確認する必要がある(海外投資家)
(企業の目線を上げるべきという意見)
⚫ 多くの企業で進展が見られているが、いまだにROE8%、PBR1倍を超えていれば一安心という意識の企業もおり、
取組みを進める企業とそうでない企業の間で、差が広がっていることは大きな課題(国内機関投資家)
⚫ 更なる改善の余地がある企業が、PBR・ROEを少し向上させただけで終わりとならないようにしないといけない。
企業はそこで満足せずに、上に上にと目指していってほしい(海外投資家)
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15
機関投資家等からの直近のフィードバック②
※赤字部分が直近の追加箇所
(課題や今後の示唆など)
⚫ 企業経営者との面談を通じて感じるが、資本コストに対する理解は進んできている一方で、それをいかに経営に反映さ
せるかという意識は依然として希薄である。例えば、ROICを用いた不採算事業からの撤退や、成長事業への資源配
分といったドラスティックな経営判断がなかなかできていないが、いかに経営者が動いてくれるかがカギであるので、
抜本的な取組みが実行に移されるよう、引き続き後押ししてほしい(国内機関投資家)
⚫ 株主還元が資本効率向上に向けた検討の出発点となっている企業が多く、自社株買いが増えている印象がある。余剰資
金を払い出す手段としては良いものの、場当たり的な株主還元策は、株価に対して意味をなさなくなってきた。目指す
バランスシートの姿やキャッシュアロケーション方針をしっかり考えるところから始めるよう意識付けをして、中長期
的な企業価値向上に向けたコアビジネスへの投資は続けてほしい(海外投資家)
⚫ 企業がキャピタルアロケーションの方針やROE目標を掲げるようになったところまでは成功として評価してよいと思
うが、それらを達成するための行動を誘引するカギになるのが業績連動型の役員報酬だと考える。日本企業は特に、株
価等に連動する役員報酬の割合や絶対額が少ない(海外投資家)
⚫ 開示された計画が実行に移されるフェーズに来ているが、開示のアップデートも重要となってくる。計画がすべて完了
し、目標を達成してから開示するのではなく、アップデートの際に進捗状況を適切に開示したり、進捗に対する分析や
必要に応じてリカバリ策などを投資者に説明していくことが求められる(海外投資家)
⚫ 少し遅れてではあるが、新たに成長投資や中長期の目標設定を行う企業も出てきている。一方で、成長投資が目先のP
L改善を意識したもので、中長期の企業価値向上につながらないものであったり、目標設定が各種取組みと紐づいてお
らず、ストーリー性を持った説明ができていないなど、改善すべき点も多い(国内機関投資家)
⚫ 要請から2年が経過し、個社のビフォーアフターが比較できるようになってくるはずなので、改善した企業を何らかの
形で取り上げることが、日本企業と機関投資家に対する良いメッセージになるのではないか(海外投資家)
⚫ ギャップ事例には重要な課題がまとまって掲載されており、エンゲージメントの場で活用している。これまで弊社単独
の意見と捉えられてきたことが、他の投資家も考えていることだと企業に理解してもらえるようになった。
また、好事例集の存在が広く認識されてきた今だからこそ、次のステップとして、企業がこの好事例に掲載されること
を目指すインセンティブ付けを行うのはどうか(海外投資家)
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16
現状と今後の方向性
◆ 上場会社の対応状況については明確な差が出てきており、
➢ プライム市場では開示率が9割を超え、アップデートを行う企業が中心となってきているこ
とから、取組みの実行フェーズにある企業を後押しするため、ポイント・事例集のアップ
デートなど、企業のフェーズに合ったプラクティカルなコンテンツを提供
➢ スタンダード市場では足元で初回の開示やアップデートを行う企業も出てきているものの、
要請から2年以上が経つなかで、依然として約半数の企業が未開示である点が課題
◆ また、企業の取組みが進捗するなかで、機関投資家からは、ROE8%、PBR1倍を超えてい
れば一安心という意識の企業が多いとの声もあり、企業の目線感を上げていくための啓発が必要
◆ 機関投資家とのコミュニケーション促進の観点からは、機関投資家に対する理解を深めるための
サポートを継続的に実施しつつ、企業・投資家双方からのニーズに応じて開示企業リストを改良
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17
【本資料に関する注意事項】
◼ 本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資勧誘や
特定の証券会社との取引を推奨することを目的として作成さ
れたものではありません。
◼ 本資料で提供している情報は万全を期していますが、その情
報の完全性を保証しているものではありません。
◼ 本資料について事前に東京証券取引所への書面による承諾を
得ることなく、本資料およびその複製物に修正・加工したり
、第三者に配布・譲渡することは堅く禁じられています。
資料5
情報提供資料
2025年10月
資料5
第25回 「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」
非財務情報を活用した投資戦略
知財に関する企業とのエンゲージメント
【知財戦略対話】
・「知財」に特化した目的対話「知財戦略対話」を2021年より行っています。
【機関投資家としての知財戦略に対する視点】
・グローバルでの情報・資本移動が活発化するなか、相対的に有形資産による参入障壁は小さくなっている可能性。
・よって「知財戦略」を含む「ミエナイチカラ」による差別化の重要性が増している。
【機関投資家として知財戦略について知りたいこと】
①技術や権利で先行しながら事業として負けた状況をどのように総括し今後の戦略に活かすのか。
②どのように知財戦略が機能しているのか事例から確認したい。
③知財戦略の範囲をどのように認識しているか。
④企業価値に結びつく知財戦略となっているのか。
1
企業開示好事例
(出所)日産化学「R&D説明会」(2025年6月16日)資料
(出所)日産化学「統合報告書2023」
・自社の「知財戦略」の特徴がよく伝わる開示であり、ビジネスモデルを構成する強みと認識できる。
・一方で・・・
2
情報交流会から得られた知見
・1on1の「エンゲージメント」は重要だが、「リンゲージメン
ト」の効果は大きいと認識。
・知の共有を促す「情報交流会」を通じて、企業間の自律的なコ
ミュニケーションに発展し、企業価値向上に向けた取り組みにつ
ながっている。
・今年度は「知財・イノベーション」をテーマとした情報交流会
を開催予定。
3
なぜ無形資産に注目するのか?
財務分析だけでは、企業の実態を正確に評価することはできない
会計システムは、企業活動のイノベーションや
新たなビジネスモデルの登場といった急速な変化に対応しきることはできていない
株価への会計データの影響度の低下
• R&D投資やソフトウェア投資、研修費用など無形資産への投資
は、将来生み出す利益を反映できず費用として認識される。
(6つの変数 売上・原価・費用・業績・資産・負債)
• コカ・コーラのようなブランドにおいても、自社でマーケティ
ングをして育てていくと費用であるが、既存のブランドを買収
すると資産計上され、正確な実態を反映していない。
• 一方で、大多数のアクティブファンドの着眼点は、企業業績や
経済指標をもとにファンダメンタルズ分析を行っている。
※売上高、売上原価、販管費、純利益、総資産、総負債への企業の時価総額を回
帰した調整済みR²(1950年~2013年)(出所) ESG経営と企業価値 イノベー
ション評価と会計のあり方
無形資産に注目した企業評価を行うために
ドラッカー研究所スコアを活用
短期的な表面上の業績による評価ではなくドラッカーが提唱していたコア原則に沿って
「企業として好業績を出せる基盤があるか?」本質的な分析をする
4
ドラッカー研究所スコアを用いた無形資産の評価
◼ 日本版ドラッカー研究所スコアは、ドラッカーの基本原則を5つの領域に区分、各企業がいかに「正しく適切に実践しているか」を測定しています。
◼ 客観的な39の指標を用いて可視化し、測定することが難しいとされている無形資産を定量的に捉える分析を行ないます。
◼ 日本版ドラッカー研究所スコアは、データの多様化とモデルのブラッシュアップを進め、毎年12月に更新を行います。
― ドラッカー研究所がスコア化する5つの領域 ―
顧客満足
(7指標*)
当スコアは、自社の取り組みが顧客に好意的に受け入れられているかを測る物差しとなる。
高ければ、顧客維持、ブランド評価向上、新規顧客獲得、ならびにリピート購入の促進など、企業業績への貢献が期待できる。
データ内容例
顧客満足度、ブランドの総合力に関する消費者の評価、製品・サービスをほかの人に勧めたいか
従業員エンゲージメント・
人材開発
(8指標*)
当スコアは、従業員が会社にどれだけ貢献したいと考えているかなど、自社に対する思い入れの強さなどを表す。
高ければ、企業成長に必要な優秀な人材の会社への定着率が高くなる傾向がある。
データ内容例
待遇の満足度、20代成長環境、社員の士気、風通しの良さ、男女の賃金格差
イノベーション
(10指標*)
ドラッカーは「より優れ、より経済的な財やサービスを創造すること」をイノベーションと定義。
イノベーション実現のために必要な研究開発や特許取得などに積極的な企業は、中長期的な成長が期待できる。
データ内容例
先端分野有効特許件数、特許放棄率、研究開発費
社会的責任
(10指標*)
高いマネジメント力による効率的な事業運営、ガバナンス強化によるレピュテーションリスク低減、ESGリスクの適切な管理
などが徹底できている社会的責任の評価が高い企業は、持続的な成長が期待できる。
データ内容例
温室効果ガス排出量、女性役員・女性管理職比率、法令遵守意識、企業不祥事
財務力
(4指標*)
データ内容例
安定的に利益を生み出し、強固な財務基盤を有する財務力の優れた企業は、事業の堅実性から調達コストの低下が期待でき、
さらなる業績向上への好循環が期待できる。
EVA(経済的付加価値)、市場シェア、過去3年間の株主トータルリターン
*スコア化するための参照指標数
当ファンドの運用においては、ドラッカー研究所スコアのうち、財務力を除く4スコアと大和アセット独自の財務分析を組み合わせます。
5
ドラッカー研究所日本株ファンドにおける企業評価
◼ 当ファンドは、多角的な視点から企業を評価し、銘柄を選定します。
― 多角的な視点からの企業評価(イメージ) ―
ステークホルダーから
の評価
大和アセットからの評価
お客様
独自の分析モデルを
用いて評価
顧客を満足
させられているか
大和
アセット
日本版ドラッカー研究所
スコアを用いて評価
従業員
企業と従業員が
良好な関係を
築けているか
独自の視点に
基づき評価
顧客満足
財務分析
市場
PBRを用いて
市場での評価や
期待を確認
市場からの評価
PBR
従業員エンゲージメント・人材開発
イノベーション
企業
エクイティ・スプレッド 等
企業の将来の
成長を支える
エンジンを
備えているか
社会的責任
株主
地域社会
株主の期待する
利益をどれだけ
上回っているか
真に社会の利益
になるような
ことをしているか
指標を用いて評価
※上記はイメージです。
※各矢印上の項目は、評価する際に使用するスコアや指標、分析モデルを表示しています。※各視点の説明は、代表的なものを記載しています。
6
未来世代
日本版ドラッカー研究所スコア・ファンドに対する反応
【上場企業】
・無形資産の情報開示が求められる一方で、株主・投資家が有効に利用しているか不安が
あるなか、具体的な活用事例があることがモチベーションとなる。
【機関投資家・評価機関】
・無形資産の測定・評価方法が確立されていないなかでの先行事例として参考になる。
【情報ベンダー】
・ベンダー情報の新たな活用方法であり、積極的に協力。
【メディア】
・無形資産に関する企業の取り組みを紹介するにあたり、活用事例があることで報道する
意義が増す。
7
Appendix
8
日本市場における無形資産
日本における市場や企業
を取り巻く環境の変化
日本では目に見える資産が評価されてきた
日本での上場企業への
評価基準に変化
株価 = 有形資産 + 無形資産
日本 の場合
市場から評価されるため
資本効率、収益性、株価
を意識した経営
米国 の場合
企業の
経営改革の
必要性
企業による
経営改革
企業による株主との
対話を重視
無形資産
無形資産
有形資産
日本でも上場企業による
経営改革が行なわれる
ことで無形資産が拡大
モノ言う株主の増加
有形資産
9
米国と同様に
高いブランド力や
豊富な人的資本など、
多くの無形資産を持つ
企業が評価される
無形資産への評価が高まると想定される日本市場
変革する日本市場
TOPIXのPBR分布
欧米に比べ日本の無形資産保有比率は低い
政府や東証は企業に対し意識改革を迫る
✓
✓
✓
✓
✓
100%
東証による市場改革
資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた要請
PBR1倍割れ是正要請
非財務情報の開示義務
知財・無形資産ガバナンスガイドライン公表
4倍以上
3~4倍
2~3倍
80%
1~2倍
60%
58%
52%
PBRからみる日米の無形資産の違い
250
経営によって生み出された価値(無形資産)
株主が出資した価値(純資産)
TOPIX
200
40%
1995年4月末~2025年6月末
日本 の場合
経営によって
生み出された価値
(無形資産)
150
100
20%
株主が出資した価値
(純資産)
0.5~1倍
50
0
45%
0.5~1倍
企業の意識改革により
PBR1倍割れ企業は
減少傾向
0.5倍未満
0%
2020年3月末
2023年3月末
2025年6月末
※ 銘柄数ベース
※ 債務超過、データなし等を除く
(出所)Bloomberg
-50
'95/4
'00/4
'05/4
'10/4
'15/4
'20/4
PBRの上昇が考えられる今後の日本市場では、
非財務情報や無形資産を活用し高付加価値製品・
サービスを創出できる企業がけん引役となる
'25/4
米国 の場合
1,400
経営によって生み出された価値(無形資産)
株主が出資した価値(純資産)
S&P500
1,200
1,000
経営によって
生み出された価値
(無形資産)
800
600
400
株主が出資した価値
(純資産)
200
0
'95/4
'00/4
'05/4
'10/4
'15/4
'20/4
'25/4
※ PBR1倍以上=無形資産として作成
※ 1995年4月末を100と指数化
10
無形資産を定量的に評価した
日本版ドラッカー研究所スコアを活用
することで収益の獲得を目指す
日本版ドラッカー研究所スコアの有効性(スコア付与全銘柄)
日本版ドラッカー研究所スコア付与銘柄をユニバースとした
日本版ドラッカー研究所スコア5分位ポート対TOPIX500レシオケーター(等ウェイト)
■上位20%
■上位20~40%
■上位40~60%
総合スコア
■上位60~80%
■上位80~100%
顧客満足
115%
従業員エンゲージメント
120%
115%
115%
110%
110%
110%
105%
105%
105%
100%
100%
100%
95%
95%
20/12
21/12
22/12
23/12
24/12
90%
20/12
イノベーション
21/12
22/12
23/12
24/12
95%
20/12
社会的責任
125%
125%
115%
120%
120%
110%
115%
115%
95%
90%
90%
90%
85%
85%
20/12
85%
20/12
24/12
※期間:2020年12月末~2025年6月末
(出所)日経NEEDSのデータを元に大和アセットマネジメント作成
24/12
95%
95%
23/12
23/12
100%
100%
22/12
24/12
105%
105%
100%
23/12
110%
110%
105%
22/12
財務力
120%
21/12
21/12
21/12
22/12
11
23/12
24/12
80%
20/12
21/12
22/12
独自の財務分析
企業の「経営資源効率」「株主への姿勢」「短期業績変調」に注目
定量的な財務分析を独自のモデルを用いて運用
ドラッカー研究所スコアは①企業を評価しており株価を評価するものではない②データの更新が年に1回のため短期的な業績の
変調を捉えられないため、αの源泉の一つとしてマーケットを意識した財務分析を行う。
経営資源効率
経営資源の効率性と中長期的な企業の成長性を捉える
・長期一人当たり営業利益成長度
10年前と直近の3年平均一人当たり営業利益額を比較することで付加価値の源泉であ
る「人・設備」のうち「人」の長期趨勢を評価
・長期ROA成長度
10年前と直近の3年平均ROAを比較することで付加価値の源泉である「人・設備」の
うち「設備」の長期趨勢を評価
株主への姿勢
企業の財務体質と株主への姿勢を評価
・総還元性向成長率
直近3年間とその前3年間の総還元性向を比較することで企業の株主への姿勢を測る
短期的な業績変調
マーケットから見た業績変調を測定
・コンセンサス比営業利益
四半期ごとに営業利益の市場予想との乖離を測定することで短期的な業績変調を捉える
12
投資プロセス
What
Who
How
ドラッカー研究所スコア
付与銘柄
(約500銘柄)
アナリスト
◼
TOPIX500またはJPXプライム150指数(またはその両方)の採用企業
◼
「市場評価」であるPBRを用いて企業価値を創造できる企業を抽出
クオンツチーム
⇒PBR1倍以上の企業を抽出
価値創造企業群
(約230銘柄)
◼
⇒エクイティ・スプレッドが業種平均以上の企業を抽出(東証33業種を使用)
FM
投資候補銘柄
(約170銘柄)
FM
「株主評価」であるエクティティ・スプレッドを用いて収益性の高い企業を抽出
◼
ドラッカー研究所スコアを用いたネガティブスクリーニング
◼
5つの領域の内、「顧客満足」、「従業員エンゲージメント」、「社会的責任」の3領域は著しく低いことは事業継続
のリスクとなり得る
➢ 下位10%を投資対象から除外
クオンツチーム
◼
「顧客満足」、「従業員エンゲージメント」、「イノベーション」、「社会的責任」の各スコアに独自の財務スコアを合成
ポートフォリオ
◼
合成スコア上位30銘柄を組入れ
30銘柄
◼
組入比率の上限を4.5%とし、ランキング順に傾斜配分
◼
ドラッカー研究所スコアまたは独自の財務スコアが更新される、2月、5月、8月、11月に組入銘柄の見直し
FM
クオンツチーム
13
ポートフォリオ特性(2025年8月末時点)
組入銘柄の状況
業種別構成比率
※比率は、純資産総額に対するものです
組入比率
(%)
PBR
(倍)
電気機器
4.45
2.96
花王
化学
4.38
2.96
中外製薬
医薬品
4.28
5.40
4568
第一三共
医薬品
4.23
4.14
5
8035
東京エレクトロン
電気機器
4.08
5.06
6
4901
富士フイルム HD
化学
4.07
1.24
7
6857
アドバンテスト
電気機器
3.97
14.88
8
6701
日本電気
電気機器
3.89
3.19
9
6098
リクルート HD
サービス業
3.86
8.79
10 6301
小松製作所
機械
3.60
1.49
11 6501
日立製作所
電気機器
3.59
3.18
12 5332
TOTO
ガラス・土石製品
3.49
1.28
13 6981
村田製作所
電気機器
3.47
1.78
14 4307
野村総合研究所
情報・通信業
3.47
7.48
15 8031
三井物産
卸売業
3.37
1.30
16 7733
オリンパス
精密機器
3.26
2.65
17 9983
ファーストリテイリング
小売業
3.16
6.75
18 2802
味の素
食料品
3.06
5.59
19 6702
富士通
電気機器
3.00
3.36
20 7974
任天堂
その他製品
2.89
5.74
21 8306
三菱UFJ FG
銀行業
2.87
1.29
22 7203
トヨタ自動車
輸送用機器
2.84
1.04
23 8058
三菱商事
卸売業
2.82
1.45
24 9202
ANA HD
空運業
2.70
1.25
25 4912
ライオン
化学
2.46
1.47
26 8113
ユニ・チャーム
化学
2.41
2.26
27 4204
積水化学工業
化学
2.38
1.46
当ファンド
20.67
2.32
15.10
2.07
28 2201
森永製菓
食料品
2.27
1.81
TOPIX
19.03
1.50
12.39
2.48
29 6367
ダイキン工業
機械
2.24
1.93
30 2914
日本たばこ産業
食料品
2.10
2.05
コード
銘柄名
1
6758
ソニーグループ
2
4452
3
4519
4
東証33業種
26.4%
15.7%
8.5%
電
気
機
器
化
学
医
薬
品
7.4%
食
料
品
6.2% 5.8%
卸
売
業
3.9% 3.5% 3.5% 3.3% 3.2%
機
械
サ
ー
ビ
ス
業
ガ
ラ
ス
・
土
石
製
品
情
報
・
通
信
業
精
密
機
器
小
売
業
2.9% 2.9% 2.8% 2.7%
そ
の
他
製
品
銀
行
業
輸
送
用
機
器
空
運
業
バリュエーション指標
予想PER
(倍)
PBR
(倍)
予想ROE
(%)
予想配当
利回り(%)
(出所)Bloomberg
14
今、日本市場で何が起きているのか
東証の市場改革
日付
2022年4月
企業を取り巻く変化
日付
内容
市場区分の見直し
【旧市場区分】
東証一部、東証二部、マザーズ、JASDAQ
▼
【現在の市場区分】
プライム市場、スタンダード市場、グロース市場
※プライム市場が最も厳しい上場基準
2023年3月
2024年2月
2025年3月
資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた要請
PBR1倍割れ企業へ意識改革を迫る
▼
「資本コスト」を意識し、収益性をあげていく経営が求め
られる
2014年2月
日本版スチュワードシップ・コードを策定・公表
2014年8月
伊藤レポート公表
2017年6月
TCFD*(気候関連財務情報開示タスクフォース)は
提言をまとめた最終報告書(TCFD提言)を公表
2018年6月
有価証券報告書開示充実提言
非財務情報充実の必要性
2021年11月
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)発足
非財務情報開示基準の統一
2022年1月
知財・無形資産ガバナンスガイドライン公表
米国において企業価値の源泉が無形資産へと変わる一
方で、日本ではいまだに有形資産が企業価値の源泉と
なっている企業が多い。
▼
無形資産への積極投資が求められる
投資者の視点を踏まえた「資本コストや株価を意識した
経営」のポイントと事例の公表
上場維持基準に満たない企業への経過措置終了
内容
企業は資本効率、収益性、株価を意識した経営基盤の強化と正しい情報開示が求められる。
(出所)日本取引所グループ、金融庁、経済産業省、首相官邸、各種資料より大和アセット作成
*Task Force on Climate-related Financial Disclosuresの略
15
日米PBR比較
日米PBR推移比較
日米のPBR分布比較
2004年3月末~2025年3月末
(倍)
6.0
TOPIX
S&P500
5.0
2025年3月末時点
100%
4倍以上
3~4倍
80%
2~3倍
日米共に20年間で株価は大
きく上昇した一方で、PBR
の推移が異なる
4.0
60%
3.0
2.0
40%
1~2倍
37%
1.0
0.5~1倍
20%
0.0
04/04
07/04
10/04
13/04
16/04
19/04
22/04
4%
0.5倍未満
0%
TOPIX500
S&P500とTOPIXの推移
日本市場では無形資産の価
値が適正に評価されず、目
に見える資産しか評価され
ていない
S&P500
※ 銘柄数ベース
※ 債務超過、データなし等を除く
2004年3月末~2025年3月末
600
TOPIX
S&P500
500
PBRの上昇が考えられる今後の市場では、
非財務情報や無形資産を活用し高付加価値製品・
サービスを創出できる企業がけん引役となる
400
300
200
100
0
'04/12
'07/12
'10/12
'13/12
※2004年3月末を100として指数化
'16/12
'19/12
無形資産を定量的に評価した
日本版ドラッカー研究所スコアを活用
することで収益の獲得を目指す
'22/12
(出所)Bloomberg
16
無形資産こそが現代企業の競争力の源泉
米国 の場合
― 米国株式(S&P500)の時価総額に占める ―
無形資産の割合の推移
100
(%)
― 1975年と2020年の ―
米国株式時価総額TOP5
(各年末時点)
(1975年~2020年)
⚫ IBM
⚫ エクソンモービル
80
1975 ⚫ P&G
⚫ GE(ゼネラル・エレクトリック)
60
⚫ 3M
90%
40
⚫ アップル
⚫ マイクロソフト
2020 ⚫ アマゾン
20
⚫ アルファベット
17%
⚫ フェイスブック*
0
1975
1985
1995
無形資産
2005
2015
2020
*現メタ・プラットフォームズ
有形資産
※米国株式(S&P500)の無形資産の割合は、時価総額から純有形資産を引いたものを純無形資産とし、その純無形資産を時価総額で割ることで算出しています
※上記グラフは、PBR1倍の時、株価と有形資産の価値が同等と評価され、PBR1倍を超える部分を無形資産の評価部分として作成しています。
(出所)内閣官房「非財務情報可視化研究会(第1回)基礎資料」、各種資料、ブルームバーグより大和アセット作成
17
多角的な視点からの企業評価例
ソニーグループ
富士フイルムホールディングス
業
種| 電気機器
企業概要|電子製品を製造・販売し、関連ソリューショ
ンを提供。
業
種| 化学
企業概要| カラーフィルムやデジタルカメラ、メディカル・
ライフサイエンス用機材、フラットパネルディス
プレイ材料、光学デバイスの開発・製造・販売。
:同社スコア
:標準
顧客満足
100
財務力
:同社スコア
エンタメで稼げる企業に変貌!
50
0
従業員
エンゲージ
メント・
人材開発
イノベーション
社会的責任
フィルム技術からイノベーション
:標準
顧客満足
エレクトロニクス事業を起源として、
半導体、音楽、金融、映画、ゲームにま
で事業の幅を広げ、進化を続けてき
た基盤は、「多様な人材」。主要6事業
のうち半数が本社を米国に置き、事
業運営に最適な組織体制をグローバ
ルに編成し、テクノロジーとクリエイ
ティビティを軸に専門性の高い人材
を吸引し、活躍しやすい環境を整えて
いる。
100
財務力
従業員
エンゲージ
メント・
人材開発
50
0
イノベーション
社会的責任
イメージングフィルムに関わる技術基盤
の深化と融合により、 複合機・半導体
材料・ヘルスケアへと事業展開しており、
現在もこれらの技術を「環境・健康・生活・
働き方」における社会課題に活かす方針
で研究開発に取り組んでいる。事業部門・
研究開発部門と密接に連携した知財部門
も同社の特徴であり、同部門では知財の
専 門性だ けでは なく 、多角 的な視点 を
持つ人材育成にも努めている。
― 株価とEPSの推移 ―
― 株価とEPSの推移 ―
株価:2017年3月末~2024年11月末
EPS:2018年3月期~2027年3月期(2025年3月期以降は2024年12月のブルームバーグ予想)
(円)
500
500
EPS(右軸)
予想EPS(右軸)
株価(左軸)
TOPIX(左軸)
400
400
株価:2017年3月末~2024年11月末
EPS:2018年3月期~2027年3月期(2025年3月期以降は2024年12月のブルームバーグ予想)
(円)
400
400
EPS(右軸)
予想EPS(右軸)
株価(左軸)
TOPIX(左軸)
300
300
300
300
200
200
100
100
0
'17/03
'19/03
'21/03
'23/03
'25/03
200
200
100
100
0
'17/03
0
'27/03
'19/03
'21/03
'23/03
'25/03
0
'27/03
※標準は便宜上、当該スコアの標準値を50として計測しています。※当該スコアは日本版ドラッカー研究所スコアのうち、財務力を除く4スコアと大和アセット
独自の財務分析を組み合わせたもの※株価とTOPIXについては2017年3月末を100として指数化。
(出所)ドラッカー研究所、ブルームバーグ、 スピーダ、各種資料より大和アセット作成
18
日本版ドラッカー研究所スコア上位企業例(銘柄コード順)
コード
銘柄名
日本版ドラッカー研究所スコア
スコアの特徴
企業概要・特徴
財務力を含め5つの項目いず
れも上位のスコア。顧客満足
が特に高いスコア
100年以上にわたり「おいしく食べて健康づくり」という志を受け継ぎアミノ酸のはたらきを
活用した製品を製造販売する食品メーカー。アミノサイエンスを独自の強み・競争力の源
泉として、食品領域を越えてヘルスケア、ICT、グリーン(循環型バイオサイクル)に取り組ん
でいる。ヘルスケアにはバイオ医薬品製造に用いられる培地や、核酸医薬品の開発製造
受託(CDMO)事業などが含まれる。ICTの中心は半導体絶縁フィルムとして市場を寡占
する「ABF」である。
顧客満足、社会的責任にお
いて特に高いスコア
日本のトイレタリー市場の黎明を告げる高級石鹸の開発から、洗剤やサニタリー製品など
といった人々の毎日の暮らしを快適にする製品、化粧品をはじめとするビューティケア製品、
健康をサポートする機能性食品分野の製品へと事業領域を拡大してきた。工業用製品
分野では、環境にも配慮した高品質のケミカル製品を、産業向けに提供している。「未来
への5つの約束」を掲げ環境・社会との調和を重視しながら、5つの事業領域のバランスの
取れた発展を志向している。
従業員エンゲージメントにおい
て特に高いスコア
がん領域で国内トップシェアであるほか、アンメットメディカルニーズに対応した革新性の高
い創薬に注力している製薬会社。 ロシュとの戦略的提携に基づく独自のビジネスモデル
のもと、「自社創製品」と「ロシュからの導入品」という収益源を有し、研究・早期開発への
重点的な研究開発費の資源配分を行う一方で、グローバルでの後期開発や販売活動
に必要となる膨大なオペレーション・コストの負担を軽減し、その結果、営業利益率40%
程度と高い水準を確保している。
顧客満足、従業員エンゲージ
メント、イノベーション、社会的
責任の4項目いずれも上位の
スコア
日本を代表する総合エレクトロニクスメーカー。事業内容は多岐にわたるが、主な事業は
ゲーム事業、半導体事業、映画事業、音楽事業、金融事業である。スマホカメラに用い
られるCMOSイメージセンサや、VR向けディスプレイなど、エレクトロニクス領域において極
めて高い技術を有している。また、PlayStationを代表として、ゲーム、映画、音楽と幅広
なエンタメ領域にプラットフォーム・コンテンツを有しており、最先端技術を活かしたエンターテ
イメントを提供できる世界有数の企業である。
顧客満足、従業員エンゲージ
メント、イノベーションの3項目
で上位のスコア
世界自動車販売首位、業界内で高い収益性を誇る。電動化戦略においては各地位
の事情に応じたマルチパスウェイを提唱し、EVのみならずHEV、燃料電池車など様々なパ
ワートレインの選択肢を考える。xEV化の流れでは、米国メーカーのBEV化に対するスタン
スが減速気味であることなど、トヨタのマルチパスウェイ戦略が改めて評価されやすい環境に
なりつつある。技術的に強みを持つハイブリット車の拡販が収益を牽引する見通し。
イノベーション
100
2802
味の素
財務力
50
従業員
エンゲージメン
ト
0
顧客満足
社会的責任
イノベーション
100
4452
花王
財務力
50
従業員
エンゲージメン
ト
0
顧客満足
社会的責任
イノベーション
100
4519
中外製薬
財務力
50
従業員
エンゲージメン
ト
0
顧客満足
社会的責任
イノベーション
100
6758
ソニーグループ
財務力
50
従業員
エンゲージメン
ト
0
顧客満足
社会的責任
イノベーション
100
7203
トヨタ自動車
財務力
50
従業員
エンゲージメン
ト
0
顧客満足
社会的責任
19
ドラッカー研究所スコア算出方法
スコア概要
日本版ドラッカー研究所スコアは、クレアモント大学のドラッカー研究所が開発した有効な企業経営の包括的評価基準に基づいています。有効な
企業経営とは「正しいことをうまく行うこと」と定義されています。日本版ドラッカー研究所スコアの付与対象は、2024年10月31日における東京証
券取引所が定める TOPIX500 および JPXプライム 150 指数の採用企業 504 社を対象としています。この指標は、故ピーター・ドラッカー氏が
提唱した一連の原則に従って企業がどの程度それらを実践しているかを評価するものです。これらの原則は、「顧客満足」「従業員エンゲージメン
ト・人材開発」「イノベーション」「社会的責任」「財務力」の 5 つの評価軸から「正しいことをうまく行っているか」を測定するものです。
指標
2024年のスコアに使用された39の指標は、さまざまな情報ベンダー、コンサルティング会社、企業開示等から得られたデータに基づいています。
(別紙「指標一覧」ご参照)5つの各評価軸内において相関が著しく低い指標の採用は見送りました。一方、米国版と類似性の高い指標を採
用する方針をとったことなどにより、相互因果関係の強さを重視した指標選択にはなっていません。
測定方法・モデル
有効な企業経営とは、直接観察することができないものですが、観察できる他の指標から推測することができます。日本版ドラッカー研究所スコア
では、「顧客満足」「従業員エンゲージメント・人材開発」「イノベーション」「社会的責任」「財務力」の5つの評価軸に関し、39の指標を採用してい
ます。39の指標は、データを標準化して、平均値が 0、標準偏差が 1 になるようにします。各評価軸について、企業の指標を平均化します。各
評価軸の平均スコアを再度標準化し、T スコアに変換します。T スコアは、平均値が50、標準偏差が10となります。スコアを計算する際、それぞ
れの評価軸について、有効な企業経営に寄与する度合いに基づいて、異なるウエイトを採用しています。このウエイトは、2024年には以下のよう
になっています。顧客満足=15%、従業員エンゲージメント・人材開発=30%、イノベーション=27%、社会的責任=15%、財務力=13%。
日本版ドラッカー研究所スコアは、2023年に初めてスコア算定しましたが、2023年スコアに使用したものと同じ指標を用いて、2020-2022年の
3年間の過年度スコアを参考として算定しました。そのうえで、各年のスコア順位を5分位に分け、前年分位との差異を検証しました。その結果、採
用した指標とモデルが一定の安定性を持っていることを確認しました。
5つの評価軸それぞれについて、2つ以上の指標を有する場合に各評価軸のスコアを付与しています。例えば、「顧客満足」は7つの指標を採用し
ていますが、このうち2つ以上のデータがない企業は、「顧客満足」スコアの付与対象外となり、日本版ドラッカー研究所スコアも付与対象外となりま
データ欠損とスコアに基づくランキング す。一方、「顧客満足」の7つの指標のうち、3つの指標が存在する場合、3つの平均値を採用しています。504社を対象としていますが、データ欠
損により5つの評価軸すべてにスコアを付与できない場合、日本版ドラッカー研究所スコアの算出対象から除外しました。その結果、日本版ドラッ
カー研究所スコアを付与できた企業は503社となりました。
20
日本版ドラッカー研究所スコアの指標①
評価項目
データ提供元
データ内容
測定方法
Employee Engagement and Development(従業員エンゲージメント・人材開発)
総合評価(企業評価スコア)
オープンワーク
・評価/待遇、成長環境、企業風土、法令順守意識の各項目を総合したスコア
・社員および元社員600万人超の登録ユーザーによる評価スコア
評価・待遇
オープンワーク
・待遇面の満足度、人事評価の適正感を評価
・社員および元社員600万人超の登録ユーザーによる評価スコア
成長環境
オープンワーク
・20代成長環境、人材の長期育成を評価
・社員および元社員600万人超の登録ユーザーによる評価スコア
企業風土
オープンワーク
・社員の士気、風通しの良さ、社員の相互尊重を評価
・社員および元社員600万人超の登録ユーザーによる評価スコア
NPS
オープンワーク
・当該企業への転職・就職の推奨度
・社員および元社員600万人超の登録ユーザーによる評価スコア
年次有給休暇取得率
日経ESGデータ
・付与された年次有給休暇に対する休暇取得率
・統合報告書、サステナビリティレポート、企業HPなどから収集した当該企業の取得率を収集可能な
全上場企業との比較で評価
従業員エンゲージメント結果
企業開示
・統合報告書、サステナビリティレポート、HPなどでの従業員エンゲージメント結果に関する開示
(補足説明:エンゲージメントサーベイの開示によって、経営層と従業員・ステークホルダーの人的資 ・開示有無を測定
本向上に向けた対話が促進される重要な活動である)
ペイギャップ
厚生労働省、企業開示
・男女の賃金の差異
先端分野有効特許件数
Moody’s、IP Bridge
・先端分野(IoT、AI、フィンテック、拡張現実およびバーチャルリアリティ、ドローン技術、ブロックチェー
・有効特許件数を業種内相対評価
ン、モバイル決済、ロボティクス、自律走行車、3Dプリント、生成AI、クラウドコンピューティング、データ・
(補足説明:先端分野特許の定義設定について、IP Bridgeのアドバイスを活用)
プライバシー、エネルギーおよび脱炭素)の有効特許件数
特許効率
Moody’s、財務データ、企業開示
・特許件数(ファミリー、グループ企業を含む)を過去5期の研究開発費との比較で評価
・業種内相対評価
特許放棄率
Moody’s
・放棄特許件数を有効特許件数と比較し、適切に新陳代謝されているか評価
・業種内相対評価
特許被引用数
Moody’s、IP Bridge
・被引用件数を有効特許件数と比較し、保有する特許がどれだけ重視されているかを評価
・業種内相対評価
意匠
Moody’s、IP Bridge
・意匠(Design Patents)件数
・業種内相対評価
実用新案
Moody’s、IP Bridge
・実用新案(Utility Patents)件数
・業種内相対評価
商標
Moody’s、IP Bridge
・商標(trademark)件数
・業種内相対評価
研究開発費
Moody’s、財務データ、企業開示
・過去5期の研究開発費を同期間の従業員数との比較で評価
・業種内相対評価
(補足説明:企業規模の格差を踏まえ、従業員当りの研究開発費を使用)
特許価値
Moody’s
・保有する特許の価値を取引実績、企業情報、経済指標等26指標を踏まえて価値換算
・それぞれの特許の持つ価値を合算した企業が保有する特許価値の合算値を業種内相対評価
イノベーション評価
日経リサーチ、企業開示
・ビジネスパーソンによるビジネス有用度、独自性評価に企業のイノベーションに関するリリース情報を
加味
・モニターに対するインターネット調査と企業のイノベーション外部評価に関する開示内容を評価
・女性活躍推進法に基づく「男女の賃金の差異」情報公表および有価証券報告書における「労働者
の男女の賃金差異」企業開示における差異を企業間で比較
Innovation(イノベーション)
21
日本版ドラッカー研究所スコアの指標②
評価項目
データ提供元
データ内容
測定方法
Customer Satisfaction(顧客満足)
顧客満足度
企業開示
・統合報告書、サステナビリティレポート、HPなどでの顧客満足度に関する開示
(補足説明:企業自ら顧客満足に関する指標・KPI・外部評価を開示していくことは、顧客満足度 ・開示の有無、開示レベルを測定
を高めるための重要な活動である)
ブランド認知・評価
日経リサーチ
・ブランドの総合力に関する消費者とビジネスパーソンの総合評価、価格許容度(ブランドプレミアム・
・モニターに対するインターネット調査
価格プレミアム)
企業魅力度
日経リサーチ
・当該企業で働きたいと認知されているか
・モニターに対するインターネット調査
推奨意向
日経リサーチ
・当該企業の製品・サービスをどの程度ほかの人に勧めたいか
・モニターに対するインターネット調査
情報開示
企業開示
・サプライチェーンに対する情報提供として企業情報が適切に発信されているか
・統合報告書(同等の別名レポートも含む)の発行有無
(補足説明:経営基盤を含めた充実した企業情報の開示は、顧客に満足していただくための重要 ・統合報告書を多用する株式市場における当該報告書に対する評価および同報告書審査経験者
な活動である)
による開示レベル評価を含む
顧客対応体制
東洋経済CSRデータ
・消費者(取引先)対応部署、商品・サービスの安全性・安全体制に関する部署、クレームのデータ
ベースの整備状況
東洋経済新報社による企業へのアンケート調査
東洋経済CSRデータ
・ISO9000S 国内全事業所および海外全事業所に占める取得事業所の割合
・ISO9000S以外あるいは独自の品質管理基準
東洋経済新報社による企業へのアンケート調査
GHG
日経ESGデータ
・温室効果ガス(GHG)総排出量(SCOPE1・2)対売上高原単位
・統合報告書、サステナビリティレポート、企業HPなどから収集した当該企業の原単位を収集可能な
全上場企業との比較で評価
ダイバーシティ
日経ESGデータ
・女性役員、女性管理職比率
・統合報告書、サステナビリティレポート、企業HPなどから収集した当該企業の比率を収集可能な全
上場企業との比較で評価
障害者雇用率
日経ESGデータ
・全従業員に占める障害者の比率
・統合報告書、サステナビリティレポート、企業HPなどから収集した当該企業の比率を収集可能な全
上場企業との比較で評価
独立社外取締役比率
日経ESGデータ
・取締役会における独立社外取締役の構成比率
・統合報告書、サステナビリティレポート、企業HPなどから収集した当該企業の比率を収集可能な全
上場企業との比較で評価
法令順守意識
オープンワーク
・法令を遵守しようとする組織内の意識の高さを評価
・社員および元社員600万人超の登録ユーザーによる評価スコア
社会的責任に関するデータ開示
日経ESGデータ
・温室効果ガス(GHG)排出量(Scope3)、労働災害関連データおよび介護休職に関するデー ・統合報告書、サステナビリティレポート、企業HPなどから収集した当該企業の開示度を収集可能な
タ開示
全上場企業との比較で評価
企業不祥事
企業不祥事データベース
・上場企業の不祥事に係る情報を企業が発表する適時開示等に基づきデータ化
・2017年以降の不祥事件数をスコア化してマイナス評価
ESG総合評価
Bloomberg
・Bloomberg ESG総合スコア
・総合スコアを相対評価
ESG総合評価
DAM-ESGスコア(大和アセットマネジメン
ト)
・ESGに関わる99のデータを業種ごとに標準化したうえで業種ごとに設定したウェイトをかけて算定した
・総合スコアを相対評価
総合スコア
環境データ評価
企業回答
・企業の回答内容から環境に関する取り組みを評価するもの
経済的付加価値
財務データ、株価データ
①経済的付加価値額、②同スプレッド、③同マージン、④同モメンタム((直近値-3期前値)/直
・①~⑤それぞれ直近3ヵ年の実績を順位付け
近投下資本)、⑤同モメンタム((直近値-3期前値)/直近売上高)
資本効率・会計利益
財務データ
①ROIC、②ROA、③ROE、④親会社株主に帰属する当期純利益
市場シェア
矢野経済研究所、アナリスト調査
・特定製品・サービス市場規模に占める当該企業の売上高の比率(2021年度以降のデータのみ利
・業界統計と企業開示からの測定値、企業開示や業界データを踏まえたアナリストの推定値を利用
用)
株主トータルリターン
株価データ、配当
・過去3年間の年率TSR
品質マネジメントシステム
Social Responsibility(社会的責任)
・回答内容を踏まえた非営利団体による評価
Financial Strength(財務力)
・①~④それぞれ直近3ヵ年の実績を順位付け
・年平均リターン(%)
22
投資リスク
基準価額の変動要因
その他の留意点
⚫ 当ファンドは、値動きのある有価証券等に投資しますので、基準価額は変
動します。したがって、投資元本が保証されているものではなく、これを割
込むことがあります。信託財産に生じた利益および損失は、すべて投資者
に帰属します。
⚫ 投資信託は預貯金とは異なります。
⚫ 当ファンドのお取引に関しては、金融商品取引法第37条の6の規定(いわゆ
るクーリング・オフ)の適用はありません。
⚫ 当ファンドは、大量の解約が発生し短期間で解約資金を手当てする必要が
生じた場合や主たる取引市場において市場環境が急変した場合等に、一時
的に組入資産の流動性が低下し、市場実勢から期待できる価格で取引でき
ないリスク、取引量が限られてしまうリスクがあります。
これにより、基準価額にマイナスの影響を及ぼす可能性や、換金の申込みの
受付けが中止となる可能性、換金代金のお支払いが遅延する可能性があり
ます。
主な変動要因
※基準価額の変動要因は、下記に限定されるものではありません。
株価の変動
価格変動リスク・
信用リスク
株価は、政治・経済情勢、発行企業の業績、市場の需給
等を反映して変動します。発行企業が経営不安、倒産
等に陥った場合には、投資資金が回収できなくなるこ
ともあります。組入銘柄の株価が下落した場合には、基
準価額が下落する要因となり、投資元本を割込むこと
があります。
当ファンドは、一銘柄当たりの組入比率が高くなる場
合があり、より多数の銘柄に分散投資した場合に比べ
て基準価額の変動が大きくなる可能性があります。
その他
解約資金を手当てするため組入証券を売却する際、市
場規模や市場動向によっては市場実勢を押下げ、当初
期待される価格で売却できないこともあります。この
場合、基準価額が下落する要因となります。
リスクの管理体制
⚫ 委託会社では、取締役会が決定した運用リスク管理に関する基本方針に基
づき、運用本部から独立した部署および会議体が直接的または間接的に運
用本部へのモニタリング・監視を通し、運用リスクの管理を行ないます。
⚫ 委託会社では、流動性リスク管理に関する規程を定め、ファンドの組入資産
の流動性リスクのモニタリングなどを実施するとともに、緊急時対応策の策
定・検証などを行ないます。
⚫ 取締役会等は、流動性リスク管理の適切な実施の確保や流動性リスク管理
態勢について、監督します。
23
ファンドの費用(消費税率10%の場合)
※くわしくは、「投資信託説明書(交付目論見書)」をご覧ください。
お客さまが直接的に負担する費用
料率等
購入時手数料
販売会社が別に定める率〈上限〉3.3%(税込)
信託財産留保額
ありません。
費用の内容
購入時の商品説明または商品情報の提供、投資情報の提供、取引執行等の対価
です。
―
お客さまが信託財産で間接的に負担する費用
料率等
費用の内容
運用管理費用
(信託報酬)
年率1.6225%(税込)
運用管理費用の総額は、日々の信託財産の純資産総額に対して左記の率を乗じ
て得た額とします。運用管理費用は、毎日計上され日々の基準価額に反映され
ます。
その他の費用・
手数料
「その他の費用・手数料」については、運用状況等により変
動するため、事前に料率、上限額等を示すことができませ
ん。
監査報酬、有価証券売買時の売買委託手数料、先物取引・オプション取引等に要
する費用、資産を外国で保管する場合の費用等を信託財産でご負担いただきま
す。
※購入時手数料について、くわしくは販売会社にお問合わせください。
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24
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資料6
資料6
意見提出
小野塚惠美 エミネントグループ株式会社代表取締役社長 CEO
第一に、コーポレートガバナンス・コードにおける「知的財産・無形資産」の位置づけは、
引き続き明確に残すべきである。ガイドラインはコードの理念を具現化する支援媒体であ
り、コードからの記載が後退すれば、実務における根拠を失うこととなる。経営戦略の中核
に無形資産の視点を据え、取締役会がその投資・活用・成果を監督することは、企業価値創
造の基盤である。特に人的資本や知的財産を含む無形資産群は、持続的成長のドライバーで
あり、コード上の明示は今後の企業経営に不可欠である。
第二に、企業—投資家対話に関する「例2」の論点については、
「機会が少ない」という
よりも、対話の素材が整理・言語化されていない点に課題があると考える。経営者は無形資
産の重要性を理解していても、それを体系的に説明するための共通言語や形式を持ち合わ
せていないことが多い。したがって、知財、IR、経営企画の三部門が連携して、無形資産を
どのように価値創造につなげているかを簡潔に示す「無形資産コミュニケーション・シート」
(仮称)を作成し、経営者がそれをもとに説明できる環境を整えることが有効である。この
ような枠組みを民間団体とも連携しながら普及させることで、対話の質を高めることがで
きる。
第三に、これまで経営者本人への理解促進を中心に活動してきたが、現実的には経営者の
時間的制約や組織体制上の制約がある。今後は、経営者のみに過度な期待をかけるのではな
く、周囲の専門部門が経営者をエンパワーする形に発想を転換する必要がある。知財部門、
IR、経営企画などの担当者が連携し、経営者が自社の無形資産を自信を持って説明できるよ
う下支えする。そのうえで、経営者が投資家や取締役会の場で無形資産について語ることが
できる環境を整えることが、実効性のある取り組みにつながる。同時に取締役会のメンバー
には引き続き認知拡大、理解促進を促す機会を作っていく。
第四に、投資家との対話では、まず企業側が「無形資産コミュニケーション・シート」
(仮
称)を活用して自社の強みや価値創造の仮説を整理し、その内容をもとに建設的な対話を行
うことが出発点となる。対話によって得られた投資家の視点や示唆を、経営企画、IR、知財
など関係部門が社内で共有し、次の経営判断や企業からの説明に反映させることで、対話が
単発のものではなく企業の学習プロセスとして循環する。こうした「フィードバックの内生
化」によって、説明の質と説得力が高まり、投資家との信頼関係も持続的に深化していくと
考える。
最後に、資料7ページに示された投資額(フロー)への注目を補完する観点として、日本
が持つ無形資産の「蓄積(ストック)」に目を向けることを提案したい。日本企業や社会に
は、長い歴史の中で培われた信頼関係、組織文化、技術伝承など、多層的な無形資産が存在
している。これらは金額換算の対象にならなくとも、企業が高い生産性や品質を維持する基
盤となっている。したがって、こうした「蓄積の厚み」をどのように表現し、企業の説明や
投資家対話の中で活かしていくかという型を、産官学で検討していくことが有意義である。
フロー中心の国際比較に加え、ストックとしての強みを可視化することが、日本全体の競争
力と長期志向の資本配分を支える新しい視点になると考える。
以上
資料7
NRI
資料7
NOMURA RESEARCH INSTITUTE
令和7年度
知財投資・活用戦略の有効な開示
及びガバナンスに関する検討会
第25回会合
Appendix:
A) 「第25回事務局説明資料」 背景:知財・無形資産経営が依然として不十分である現状と、問い
B) 「知的財産推進計画2026」策定に向けた提言
C) 「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」に対応する政策提言
D) 「矛と盾」モデルとソリューションビジネス知財と経営の融合と深く関わると考える理由
E) 柳モデルとの関係性(IBMフレームワークとの関係性)
F) 知的資本による価値創造ストーリー(全社(マクロ)と事業単位(ミクロ)の価値創造ストーリー)
2025年10月29日
株式会社野村総合研究所
コンサルティング事業本部
シニアプリンシパル・弁理士
林 力一(はやし りきかず)
E-mail:r4-hayashi@nri.co.jp
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知財経営に関する動向
現状認識と課題設定
1. 知財経営を取り巻く国内外の環境変化
グローバルトレンド
日本の政策動向
無形資産の企業価値への貢献が有形資産を大幅に上回る時代へ(S&P500企業の時価総額
の90%が無形資産に起因)
コーポレートガバナンス・コードによる知財・無形資産開示の要請(2021年6月改訂)
GAFAM等による「知財×データ×AI」を梃子にした市場支配力強化
投資家との対話の質向上を狙った各種ガイドブックの整備
知的財産を軸にした企業間エコシステム形成の加速
知財経営の標準化、定量評価手法の模索(2024-2025)
知財・無形資産ガバナンスガイドライン Ver2.0公表(2023年)
2.日本企業の知財経営実態
68.9%
47.2%
5.7%
知財部門と経営戦略部門の連携が不十分な企業の割合
自社の知財・無形資産を十分に把握できていない中小企業の割合
投資家向け開示で知財・無形資産を積極的に説明している企業の割合
※特許庁「知財経営の実践に向けたコミュニケーションガイドブック」(2024年)等の数値を参考
3. 政策面・現場面の課題
政策面の課題
現場面の課題
• 知財経営の具体的定義や評価指標が不明確
• 中小企業向けと大企業向けの支援策の棲み分け
• 知財情報開示の標準化が不十分
• 先進企業の優良事例の横展開が進まない
• 知財部門と事業部門の断絶(サイロ化)
• 投資家と企業の知財に関する「共通言語」不足
• 知財専門人材の不足・偏在
• 知財の価値評価手法が確立していない
4. 課題解決への調査ニーズ
現状の断片的なアプローチから、「統合的な知財経営モデル」の構築と実践へ
企業規模・業種の特性に応じた知財経営の具体的実践方法、投資家との効果的な対話手法、知財の価値評価手法、そしてこれらを実装するための政策手段を包括的に解明する調査が求められています。
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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知財経営に関する動向
「矛と盾」モデルの概要
最適な知財経営を実現する有効な定義
IBM事例:知財収益化モデルの革新
理論的フレームワーク
戦略的内部投資論
IBMは1990年代初頭の経営危機時、従来の「盾」中心(特許ライセンス収入)から「矛
」(ソリューション事業)へと戦略転換。その結果、年間約10億ドルの知財収入を30年
以上継続して創出し、企業再生を実現しました。
短期的な利益を度外視しても顧客価値を創造する事業(矛)が、長期的には高収益事業(盾)を育
むという考え方。日本古来の「三方よし」の精神に通じる普遍的な経営思想です。
「矛」と「盾」の最適バランス
IBMの「矛と盾」共存モデルと知財価値手法活用
知財経営において、「矛」は顧客に対して、ソリューション/事業支援技術の提供を通じた市場拡大。
「盾」は競争優位の源泉となるコア技術の特許・ノウハウ秘匿保護。
この両輪が企業の持続的成長を支えます。
・知財でパートナー企業の事業を支援(矛)することで、自社のコア事業(盾)の顧客に繋げる
「矛」と「盾」の共進化サイクル
1. 既存の「盾」を元に新たな「矛」へ挑戦
2. 「矛」の成功により、新規顧客獲得
3. 獲得資産が新たな「盾」として強化
4. さらに強化された「盾」から次の「矛」へ
知財価値を基盤とした収益創出モデル
モノ事業(収益事業)
収益モデル
・オープン技術・知財(矛)と競争領域(盾)との明確な線引き
・モノ事業(収益事業)の知財と、コト事業(ソリューション事業)の知財を金銭評価の開示により、投資家
にとって、理解・評価しやすい。
・顧客獲得事業の知財価値:ソリューション事業売上は、収益事業の最良の先行指標。
・収益事業の知財価値:カウンター特許を保有していると少なくとも他社へのライセンス料支払いを回
避できる(ロイヤルティ免除法による知財評価)。
保守主義の観点から、排他権効果は訴訟等手打ちがあったときに試算する。
日本企業への応用可能性
ソリューション事業(顧客獲得事業)
大
「「矛」となる顧客事象支援サービスを立ち上げ、コア技術の「盾」を強化することに加
えて、「組織の慣性」を乗り越え、部門最適から全社最適へ移行するための組織再編
とKPI設計(ソリューション事業は顧客獲得がKPIで利益そのものではない)
顧客を繋ぐ
(Vehicle機能)
盾
矛
高収益事業・
既存技術
顧客価値創造・
新規技術
(短期収益) 知財売却・ロイヤルティ収支
(中長期収益) ロイヤルティ免除法
知財評価手法
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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大企業モデル
収益事業の将来収益性の先行指標
(Custom Development Income:ソ
リューション事業売上)
中
中小企業モデル
「組織の柔軟性」を活かし(イノベーションのジレンマを受けにくい)、
ニッチ領域(短期的には売上が経たず、大企業が参入しずらいが将来性はある市
場。)で「矛」となるサービスを迅速に立ち上げ、コア技術の「盾」を育成
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知財経営に関する動向
「IBMの知的財産の概念:動的価値の創出
プラットフォーム中心ビジネスモデルにおける競争優位性
IBMの統合モデル(IPのタイプ)
知財の概念
コンサルティング・
技術基盤・
IPの価値は「所有」から「応用」へシフト
インフラのIP
との統合能力のIP
ためのIP
静的な資産ではなく、動的な価値創出が競争力の源泉
カスタム開発インカム(Custom Development Income)
既存パートナーツール
顧客の課題と繋ぐ
プラットフォーム IP
メソドロジー IP
エコシステム IP
(watsonx)
(IBM Garage)
(Red Hat等)
(収益事業)
(Vehicle機能)
(顧客獲得事業)
顧客ごとのオーダーメイドソリューションから得られる収益
ビジネス全体のフライホイール効果を測定
収益事業の将来の収益性に関する先行指標
首尾一貫したワンストップソリューション
(Custom Development Incomeとして価値を測定)
IBMコンサルティングによる促進
80%
AI関連契約の約80%を促進
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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統合力(IP)による競争優位性
単一のアルゴリズムや特許ではなく、統合能力そのものが最大の知的財産
競合はAIモデル、コンサル、クラウドを個別に提供可能。しかしIBMは3つ全てを織り交ぜた統
合ソリューションを提供し、カスタム開発インカムとして価値を測定
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知財経営に関する動向
知財の定義(事業貢献に資する知財戦略)
知財を「権利」から事業を駆動する「戦略的資産」へ転換するフレームワーク
◼ 事業貢献に資する知財戦略の二元的役割(業界のプレイヤーの動向次第で、矛の機能が必要又は効果的になる割合が異なるが電機機械・通信・化学・医薬・食品多業種で必要)
盾(クローズ戦略)
矛(オープン戦略)
収益事業を守り、差別化を維持する防衛機能。独占は稀で顕在化した時に開示。
顧客獲得を推進し、ビジネス拡大を牽引する推進機能
「盾」の機能と評価
「矛」の機能と評価
特許の本質:「独占権」ではなく、他社の模倣を禁じる「排他権」に過ぎない
市場の実態:プレイヤー同士が互いの特許を侵害しあう「睨み合い」状態
知財の実質的価値
戦略的提供・ライセンス:ソリューション事業等で知財を意図的に提供(Open)
目的:顧客を本丸の収益事業へ導く「ビークル(顧客を運ぶ乗り物)」として活用
「矛」の戦略的意義
• 本来支払うべきライセンス料を免れる効果
• 「ロイヤルティ免除法」による試算が最も妥当
• クロスライセンス契約における「除外条項」や差止訴訟で差別化が顕在化した時に開示
価値評価指標:「ロイヤルティ免除額」(中長期的な防衛力)
• 顧客課題の解決プロセスを通じた関係構築
• 顧客のニーズに合致した技術の戦略的提供・ライセンスによるエコシステム形成
• コア事業(収益事業)への顧客誘導と収益化
価値評価指標:「カスタム開発収入Custom Development Income」(顧客獲得力)
IPの3つの再定義とポートフォリオ管理
① プラットフォームIP
収益事業の基盤となるコア技術
② エコシステムIP
顧客やパートナーのIPと結合・連携する技術
盾の中心
矛の先端
③ メソドロジーIP
①と②を繋ぎ、「ビークル」として機能するソリューション
IP
矛の柄
知財の多角的価値評価フレームワーク
短期収益力
• 知財売却・ライセンス収支
※将来収益と逆相関の可能性
中長期的な防衛力(盾)
• ロイヤルティ免除額
• 場外条項による差別化効果
※特許の「排他権」を活かした防衛と、知財の戦略的公開による顧客獲得の両輪で、事業全体への貢献度を最大化
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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顧客獲得力(矛)
• カスタム開発収入
• エコシステム構築力
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知財経営に関する動向
IPポートフォリオ評価方法
IBMフレームワーク / Custom Development Income・ロイヤルティ免除法
Step 1:戦略的に重要で価値が高い「クラウンジュエル」候補の特定
ポートフォリオ全体を俯瞰し、戦略的に重要で価値が高い「クラウンジュエル」候補を効率的に特定する。
①「矛」のクラウンジュエル候補: Custom Development Income(ソリューション契約)の対象となるソリューションに紐づく知財群(特許、ノウハウ、ブラン
ド)。現在の顧客獲得力に直結する知的資産
②「盾」のクラウンジュエル候補: 収益事業についての新規事業開発において、競合の参入を阻むための対抗特許(いわゆる “5 fighting Patents”)。
将来の事業ポートフォリオを防衛する知的資産
Step 2:知的資産の金銭的価値評価を実施
Stage 1で特定した「クラウンジュエル」に対し、知的資源を集中投下して精密な金銭的価値評価を実施。
Stage 1で特定した候補群・各事業に対し、ロイヤルティ免除法とCustom Development Income試算で精密な金銭的価値評価を実施し、
投資判断や戦略策定に活用する
経営へのインプリケーション
IP戦略の明確化
1
まず、IPで何を達成したいのかを定義する
2
多層的な評価能力の構築
マクロな分析能力とミクロな評価能力の両方を組織内に構築する
3
ビジネスプロセスへの統合
IP評価を単発のイベントではなく、M&Aや中期経営計画策定といった根幹プロセスに組み込む
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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知財経営に関する動向
Q
Q1. 「矛と盾」モデルは日本企業への現実的適用が可能か?
A. はい、可能です。むしろ、コモディ化が進みモノ事業の収益性が悪化して閉塞感を打破できていない多くの日本企業にこそ
有効な処方箋であると考えています。
1
「思想」としての普遍性
「矛と盾」モデルの本質は、日本の「三方よし」の精神にも通
じる普遍的経営思想、「戦略的内部投資」にあります。
短期的な利益を度外視してでも顧客価値を創造する事業
(矛)が、結果として高収益事業(盾)を育むという考え方。
2
既に存在する国内外事例
3
実は、成功している日本企業は、このモデルを実践していま
す(ダイキンや三菱ケミカルなど)。
顧客の課題解決に寄り添うソリューション(矛)が、結果として
高付加価値な製品(盾)の顧客獲得に繋がっているケース
は海外も含めると多数あり、これらを「矛と盾」のモデルとして
横展開します。
「矛と盾」モデルの日本企業への適用イメージ
矛(攻め)の部門・機能
大企業と中小企業、それぞれの適用法
大企業:「矛」となる顧客事象支援サービスを立ち上げ、コア
技術の「盾」を強化することに加えて、「組織の慣性」を乗り越
え、部門最適から全社最適へ移行するための組織再編とKPI
設計。
中小企業:その「組織の柔軟性」を活かし、ニッチな領域(短
期的には大企業等大きな投資ができる企業が費用対効果が
見込みにくい領域)で「矛」となるサービスを迅速に立ち上
げ、コア技術を守る戦略を提言。
盾(守り)の部門・機能
• 顧客課題解決型ソリューション
• 高付加価値製品・サービス
• オープン・イノベーション
• コア技術の知財保護
• エコシステム構築
• ライセンス事業
• 知財を「誘客の武器」として活用
• 知財を「差別化の武器」として活用
→ KPIは顧客獲得数・顧客満足度、
ソリューション売上(Custom Development Income)
→ KPIは利益率・知財収益、知財売却・ライセンス収支(短期)、
ロイヤルティ免除法(中長期)
示唆する加点ポイント:有効な定義案・要素案
我々の定義は海外事例からの成功事例だけではなく、日本企業の経営思想や実態にも根差した普遍的かつ実践的なモデルです。
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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知財経営に関する動向
Q
Q2. 「将来価値評価」手法は、本当に投資家を説得できるのか?
A. はい、説得可能です。なぜなら、この手法は「全くの新しい概念」ではなく、「実績ある評価手法の論理的応用」であり、投資家が最も求める
「将来キャッシュフローへの蓋然性」を示すものだからです。
1
実績ある評価手法がベース
2
我々が提案する将来価値評価手法は、IBMが30年以上利用
しているモノ事業(収益事業)の知財と、コト事業(ソリューション
事業)の知財を金銭評価を応用する手法です。投資家にとっ
て、理解・評価しやすい論理に基づいています。
投資家の最大の関心事に応える
3
投資家が知りたいのは、過去の特許件数ではなく「その知財
・無形資産が、将来どれだけのキャッシュを生み出すのか?
」という一点に尽きます。我々の手法は、客観的な市場デー
タに基づき、この問いに定量的な示唆を与えることを目的と
しています。
グローバル先進企業による実証
IBMは、知財を活用したソリューション事業からの収入(CDI)
を30年以上にわたり開示し、投資家との対話の基盤として活
用してきました。これは、知財の将来貢献を定量的に示すこ
とが、実際に企業価値評価に繋がることを雄弁に物語ってい
ます。
「将来価値評価手法」概念図
従来の知財評価
• 特許出願件数
• 発明の技術的優位性
• 権利範囲の広さ
• 競合特許の存在
過去・現在の静的評価
将来価値評価手法
投資家へのインパクト
•知財売却・ロイヤルティ収支(短期収益事業の評価)
•将来市場規模予測:ロイヤルティ免除法(中長期収益事
業の評価:特許網構築により他社特許に対抗)
•ソリューション事業売上(収益事業の顧客獲得するソ
リューション事業の評価)
将来CF創出の蓋然性評価
• 将来CF予測の可視化
• 投資判断の定量的根拠
• 競合他社との知財リスク評価
• エンゲージメント質向上
企業価値評価の適正化
示唆する加点ポイント:知財価値評価の有効仮説提案
電気機械・化学・医薬・通信など多業界で機能、論理的根拠、そして投資家のニーズ、この3点を満たした具体的かつ先進的な評価手法。
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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知財経営に関する動向
中小企業と大企業における知財支援の違い
社内体制と戦略の相違点
最大の違い:社内体制
大企業 社内知財体制
中小企業 社内知財体制
• 専門知財部門を有している
• クローズ戦略(知財の囲い込み)を自力で遂行可能
• 特許出願・管理のプロセスが確立
• 知財部が存在しない、または少人数
• リソース・専門知識の不足
• 知財戦略の基盤構築から支援が必要
→ 高度な経営戦略支援へのニーズ
→ クローズ戦略の構築・運用支援が不可欠
戦略支援の要点
クローズ戦略支援
オープン戦略支援
• 自社技術の権利化・保護
• 知財ポートフォリオの構築
• 特許出願・管理プロセスの確立
• 侵害リスク対策
• 顧客ニーズに基づくマーケティングから開始
• クローズ事業とは異なる投資判断基準
• 新たなKPI設定と評価方法
• 知財の外部活用・ライセンス戦略
中小企業は基盤構築から支援が必要
大企業・中小企業共に経営戦略そのものへの支援が必要
大企業特有の課題:イノベーションジレンマの克服
• 既存収益事業(クローズ事業)に基づく意思決定の慣性
• 短期的収益と長期的イノベーションのバランス
• 新規事業創出に向けた知財戦略の転換
• 組織横断的な知財活用体制の構築
→ 高度な経営戦略支援による「イノベーションジレンマ」の乗り越えが重要
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知財経営に関する動向
Q
(参考)中小企業でも オープン戦略(プラットフォーム戦略)が必要か?
コア事業
Product-market fit
Minimum Viable Product
引用:湯浅エムレ秀和 | Globis Capital Partners
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複数事業を連携させる多
角化・プラットフォーム戦
略で企業価値を高め、そ
の上でIPOを目指すのが
基本的なアプローチ。 企
業価値の向上には、矛盾
モデルの設計が前提と
なっている。
成功事例:
24M technologyや
SanSan、エヌビディア
中小企業は、まず
はコア事業(クロー
ズ戦略)の立ち上
げの支援が中心で、
IPOなどの前段階
になると、矛盾モデ
ル(知財と経営の融
合)の支援が中心と
なり、段階的に専門
家の支援が必要に
なる。
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【背景:知財・無形資産経営が依然として不十分である現状】と、問い
根本的課題と処方箋
日本企業が直面する知財・無形資産経営に関する諸課題(経営者の理解不足、投資家との対話不全、知財部門の貢献力不足など)は、根源をたどると
「知財を事業活動の結果として生まれる、守るべき静的な資産(コストセンター)」と捉える旧来の認識 に行き着く。
この根本課題を解決し、知財を 「オープン&クローズ戦略」を基軸としたビジネスモデル変革 へと転換する統合的な処方箋が、
「稼ぐ力を創出する動的なエンジン(プロフィットセンター)」 である。
事業ポートフォリオの戦略的分類
本戦略は、企業の事業(知財)ポートフォリオを、戦略的役割に応じて以下の2つに分類する:
①収益事業(盾:クローズ戦略)
②顧客獲得事業(矛:オープン戦略)
高収益を確保する。自社の競争優位の源泉となるコア技術・製品を知財で強固に保護
時に利益を度外視してでも顧客を獲得し、収益事業へ顧客を繋げる。
知財をオープン化(提供・ライセンスするが、知財情報は非開示:ターンキーソリューション)
3つの問いへの解決策
問1:経営への浸透
「オープン&クローズ」は、経営者と知財部長の間の「言語」の壁を壊す 共通戦略言語 となる。
これにより、知財部門は事業貢献の具体的な道筋を提言でき、経営者は知財の戦略的価値を初めて具体的に理解できる。
問2:価値化・可視化
戦略的役割に応じたKPI(例:オープン戦略の成果を示す「Custom Development Income」、クローズ戦略の将来価値を示す「ロイヤルティ免除法ベースの評価額」)を設定することで、
知財の価値を事業成果と連動した形で可視化 し、的確な投資判断を促進する。
問3:投資家との対話
「矛が顧客を獲得し、盾の収益に繋がる」という 価値創造ストーリー
そのものを、KPIと共に開示する。
矛:ソリューション事業売上、縦:知財売却・ロイヤルティ(短期収益)ロイヤルティ免除法(中長期収益)
これは、投資家が最も知りたい「将来のキャッシュフロー創出の仕組み」を解像度高く示すものであり、建設的な対話を活性化させ、企業価値の適正な評価を実現する。
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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知財経営によるビジネスモデル変革の全体像
知財経営の主体は、従来のモノ事業(単一事業)においてはR&Dの後工程に位置づけられていたが、モノに加えてコトビジネスへの転換が求められる現代では、オープンな知財
を取り込み、顧客ニーズを起点にマーケティングを行い、不足する技術は技術提携で補完し、事業提携によってスケールさせるという、事業戦略そのものへと進化している。
変革観点
経営・
事業戦略
技術・
知財戦略
人材の
在り方
組織の形
(PL責任・KPI)
経営インフラ
/KPI
マインド
セット
経営
ガバナンス
モノ事業モデル
(従来型:クローズ戦略中心)
モノ+コト事業モデル
(オープン&クローズ戦略)
単一市場で製品・サービスの販売から直接的に収益を得ること
を目指す。
プラットフォーム戦略を基軸に、利益度外視の「コト(ソリューション)」で顧客基盤を構築し、高収益な「モノ(
製品)」事業へ送客(Vehicle機能の実装)
主に自社製品の模倣防止や競争優位性確保のためのクローズド
な活用が中心。
R&Dの成果を特許・ノウハウ秘匿で保護
①ガバナンスの確立:ソリューション知財をオープン化する際、事業提携契約において、共創知財(フォアグラウ
ンドIP)のライセンス条件や改版権の制限など、知財管理のルールを明確に設定する。
②戦略を実行する上で必須となる技術開発の提携先選定:プラットフォーム技術・知財を生み出すことを前提
に、事業を持たないスタートアップやファブレス企業などを優先的に選定し、提携する。
オープンな知財戦略は、顧客のニーズをマーケティングして、不足する技術は必要に応じ技術提携を行い、事
業提携により事業をスケールさせる事業戦略そのもの
開発、製造、販売といった既存事業の経験・スキル人材が中心。
主に内部育成や同業界からの採用に依存。
事業戦略に紐づいた高度な専門性を持つ人材を定義(JOB型)。
社内育成に固執せず、外部からの専門家採用やM&Aを積極的に活用する。
事業全体でPL責任を負い、直接的な収益・利益率の向上がKPI
となる。
PL責任を戦略的に分離。
・収益事業(盾)は高い利益率を追求。
・顧客獲得事業(矛)は利益を度外視し、顧客獲得数や市場シェア拡大をKPIとし、そのコストは全社的な戦略投
資として評価。
売上、利益率、市場シェア等、財務成果に直結する指標が
中心。
製品・サービスの提供価値や顧客満足度の最大化を目指すビ
ジョン。
各部門の効率性を高め、事業全体の安定と安全を
重視。
従来の財務指標に加え、顧客獲得コスト(CAC)、顧客生涯価値(LTV)、ROICなどを導入。
オープン&クローズ戦略の連動性を測るKPI(収益事業:ロイヤルティ免除法、顧客獲得事業:Custom
Development Incomeを示すダッシュボードを構築。
既存事業のクローズに加え、オープン戦略によるエコシステム全体の価値創造を目指す(契約戦略の転換)
自社の利益だけでなく、パートナーの成功にも貢献するマインドセットが不可欠。
取締役会が、モノに加えてコトビジネスへの変革そのものを主導。
各事業の個別最適ではなく、事業ポートフォリオ全体の価値最大化の観点から監督・意思決定を行う
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11
APPENDIX
A) 「第25回事務局説明資料」 背景:知財・無形資産経営が依然として不十分である現状と、問い
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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A) 「第25回事務局説明資料」 背景:知財・無形資産経営が依然として不十分である現状と、問い
まとめ
3課題に対する解決アプローチ
オープン&クローズ戦略は、経営浸透、価値可視化、投資家対話の3つの課題を統合的に解決する唯一のフレームワークである
知財のプロフィットセンター化
知財を「守るべき静的な資産(コストセンター)」から「稼ぐ力を創出する動的なエンジン(プロフィットセンター)」へ転換することが企業価値向上の鍵となる
成功への鍵
役割別KPI設定と価値創造ストーリーの開示が、投資家の信頼獲得と企業価値の適正評価を実現する
提言
日本企業は、オープン&クローズ戦略を経営の中核に据え、知財部門と経営層が共通言語で対話できる体制を構築すべきである。これにより、知財・無形資産
経営の実質化が加速し、持続的な企業価値向上が実現される。
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引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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A) 「第25回事務局説明資料」 背景:知財・無形資産経営が依然として不十分である現状と、問い
Custom Development Income
知財ライセンス・売却収入
顧客獲得活動の成果指標
短期収益の指標
開示内容
開示内容
顧客向け受託開発サービスによる収入を明示的に開示
知財ライセンス料および特許売却による収入を明示
戦略的意義
戦略的意義
• 顧客基盤拡大の定量的評価
• 将来収益の先行指標として機能
• 矛戦略の有効性を実証
• 短期的な収益貢献を明示
• 知財活用の柔軟性を実証
• 収益事業との逆相関を示唆
投資家へのメッセージ
投資家へのメッセージ
顧客獲得活動が将来の収益事業に繋がる仕組みを可視化
収益事業が好調なほど、知財を安易に切り売りしない戦略の健全性を示
す
役割別KPI運用の学び
• 戦略的役割(矛・盾)に応じた明確なKPI設定
• 複数指標を組み合わせた多角的な価値評価
• 投資家が求める「将来キャッシュフロー創出の仕組み」を定量的に開示
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引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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A) 「第25回事務局説明資料」 背景:知財・無形資産経営が依然として不十分である現状と、問い
Q1: 経営への浸透策
課題
経営者と知財部長が話す「言語」が違う
経営者は事業の成長と収益性を語り、知財部長は権利の取得や防衛を語る。このため、知財が経営戦略の中核に入り込めず、知財部門も経営に貢献する具体的な方法
論を示せない。
解決策
「オープン&クローズ戦略」という共通戦略言語の導入
事業ポートフォリオを戦略的役割に応じて「収益事業(盾:クローズ)」と「顧客獲得事業(矛:オープン)」に分類。知財部長は「この技術は矛として活用し新規顧客を獲得し
、盾の収益事業に誘導しましょう」という経営者が理解できる事業戦略の言葉で提言できる。
効果
知財部門が経営貢献の具体的道筋を提案可能に
経営者も知財の戦略的価値を初めて具体的に理解でき、知財経営が全社的に浸透する土壌が生まれる。
15
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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15
A) 「第25回事務局説明資料」 背景:知財・無形資産経営が依然として不十分である現状と、問い
Q2: 価値化・可視化の取組み
顧客獲得事業のKPI
収益事業のKPI
矛(オープン戦略)
盾(クローズ戦略)
主要指標
短期的収益指標
Custom Development Income (CDI)
知財ライセンス・売却収入
受託開発収入
現金化された知財の収益貢献
測定内容
• ソリューション提供による売上規模
• 顧客獲得活動の成果指標
• 将来の収益事業への先行指標
長期的収益指標
ロイヤルティ免除法ベースの評価額
将来キャッシュフロー創出ポテンシャル
複数指標を組み合わせることで、知財の価値を多角的に可視化し、的確な投資判断を促進
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引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
Copyright(C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
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A) 「第25回事務局説明資料」 背景:知財・無形資産経営が依然として不十分である現状と、問い
Q3: 投資家との対話活性化
課題:思考構造のギャップ
企業は活動報告(特許件数など)に終始し、投資家が本当に知りたい「その知財が将来のキャッシュフローにどう繋がるのか」という問いに答えられていない
取組み:価値創造ストーリーの開示
オープン&クローズ戦略の連動性そのものを「価値創造ストーリー」として開示。顧客獲得事業(矛)が顧客基盤を構築し、収益事業(盾)で持続的に高い利益を確
保する仕組みを明示
重要要素:KPIの相関・逆相関関係の開示
複数のKPIの連動性を含んだ開示が投資家が求める「仕組み」の開示。これにより企業と投資家の対話を活性化させ、知財・無形資産の価値が企業価値として正
しく評価される
期待される効果
投資家が最も知りたい「将来のキャッシュフロー創出の仕組み」を解像度高く示すことで、建設的な対話を活性化させ、企業価値の適正な評価を実現
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引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
Copyright(C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
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APPENDIX
B) 知的財産推進計画2026」策定に向けた提言
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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B) 「知的財産推進計画2026」策定に向けた提言
3つの核心的課題に対する回答(要約) *詳細はAppendix参照ください。
知財と経営を融合させる「オープン&クローズ戦略」によるビジネスモデル変革が、3つの問いを一つのストーリーとして解決することができる
核心的課題3つの問い
回答
問い1:価値化・可視化
知財の価値は「量」ではなく、戦略的ポートフォリオという「仕組み」で可視化する。
①収益事業(盾:クローズ戦略)と ②顧客獲得事業(矛:オープン戦略)に分類し、その連動メカニズムこそが価値の源泉で
あることを示す。
問い2:知財経営・ガバナンス
ガバナンスの役割は、この戦略的ポートフォリオを経営として執行・監督することにある。
取締役会は、ビジネスモデル変革そのものを主導し、オープン戦略を可能にする「知財戦略の出口」までを監督・推進する。
問い3:企業と投資家の対話
対話の活性化は、この「価値創造ストーリー」を共有することで実現する。
「矛:オープン戦略が顧客を獲得し、盾:クローズ戦略の収益に繋がる」というメカニズムを具体的なKPIと共に開示し、将来の
キャッシュフロー創出能力の解像度を高める。
Key Message:
3つの課題は、多くの日本企業が、知財を「守るべき静的な資産」と捉え、「稼ぐ力を創出する動的なエンジン」へと転換する方法論を見出せていない。
2 「オープン&クローズ戦略」を基軸とした知財経営モデルへビジネスモデル変革という視点に立つことで、一気通貫で解決可能。
2025年10月9日
19
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
Copyright(C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
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B) 「知的財産推進計画2026」策定に向けた提言
問い1への回答(価値化・可視化)
知財・無形資産の価値化・可視化は、事業ポートフォリオの戦略的評価から始めるべき。
なぜ、今までのやり方では稼げないのか?
オープン&クローズ戦略の意義
多くのモノ事業はコモディティ化し、価格競争に陥っている
「顧客獲得」と「収益確保」という相反する目的を両立
ビジネスモデル転換の要否を見極め、コト事業(ソリューション)の追加を検討
顧客獲得エンジン(Vehicle)と収益事業の戦略的役割分担
事例:24Mテクノロジーズのオープン&クローズ戦略
収益事業(モノ事業・盾):
顧客獲得事業(コト事業・矛):
特許・ノウハウで保護された高性能な電解質
「誰でも簡単に高性能な電池を作れる製造技術」をライセンス提供(オープン化)
多くの企業が技術エコシステムに参加 → 電解質販売が爆発的にスケール
可視化の具体的手法:IBMの金銭評価とKPI設計
収益事業(盾)の貢献:
顧客獲得事業(矛)の成果:
「知財ライセンス・売却収入」と「ロイヤルティ免除法ベースの無形資産評価」
「Custom Development Income(受託開発収入)」で計測
これらKPIを社内活動と紐づけ、戦略への貢献度を明確にして知財価値を最大化
3
[1] 林力一, 渋谷高弘「戦略コンサルが知らない最強の知財経営」
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
Copyright(C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
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20
B) 「知的財産推進計画2026」策定に向けた提言
問い1への回答(価値化・可視化)
知財を融合した事業・技術戦略(定義)
知財を融合した事業・技術戦略の内容:
現代の知財戦略は、自社の技術を単に保護する「クローズ戦略」だけでは不十分である。複雑化する社会・顧客課題に対応するためには、オープンイ
ノベーションや「共創」を前提とし、データやノウハウを含む幅広い知財を外部連携のツールとして活用する「オープン戦略」を組み合わせて、経営戦
略に融合させて、新たな事業価値を創造することが不可欠である。
ソリューション事業(ソリューションIP:オープンIP)を既存事業(クローズIP)とは別に持つことで、企業は「顧客獲得」と「収益確保」という、本来であれば
相反する目的を両立させる強力なビジネスモデルを構築できる。一方が、時に利益を度外視してでも市場シェアを拡大する「顧客獲得エンジン
(Vehicle)」として機能し、もう一方が差別化機能を発揮しながら、その顧客基盤を活かして高い収益性を確保する「収益事業」に徹する。
この戦略的な役割分担により、単一事業でこの二律背反の課題を抱える競合他社よりも、はるかに高いレベルで市場シェア拡大と収益性向上を同時
に達成でき、圧倒的な競争優位性を確立することが可能。
抽出根拠
『新事業創造に資する知財戦略事例集』は、「仲間づくり、稼ぎ方・勝ち方を考える」方向性を持つ知財戦略の重要性を強調し、従来の参入障壁構築だけでなく、
アイデア創出や事業構想への貢献を提言
『経営における知的財産戦略事例集』では、「パートナーシップ」が経営課題解決の一つの観点として整理
経済産業省の事例集では、先進的な取り組みを行う企業の成功例を紹介
企業事例
ダイキン工業 :空調技術の規格策定を通じて市場拡大を実現
積水化学工業:パートナー企業との知財共有による新事業開発の展開
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
3
[1] 林力一, 渋谷高弘「戦略コンサルが知らない最強の知財経営」
Copyright(C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
21
21
B) 「知的財産推進計画2026」策定に向けた提言
問い1への回答(価値化・可視化)
(参照)IBMモデルを駆動させるKPI設計の非対称性
ソリューション事業(矛)のPL責任
収益事業(盾)のPL責任
プロフィットセンターではなく「戦略的投資」を担う部門として位置づけ
高い収益性(利益率、マージン)に対して厳格な責任
自部門のコストに加え、ソリューション事業の「先行投資」を回収する責務
ソリューション開発費用は「全社的な顧客獲得コスト」として計上
損益目標より顧客獲得・維持目標を優先する評価体系
戦略的に保護されたハードウェア・ソフトウェア製品で高利益率を維持
顧客のエコシステムへの取り込みを最優先ミッションとする
顧客全体の生涯価値(LTV)を最大化する収益モデル
収益性より顧客シェア拡大を重視するため、
利益率は二次的な評価指標として扱われる
IBM Z、Power、Storageなどのハードウェア事業は、
ソリューション事業のコストも吸収した上で全社利益に貢献
非対称PL設計がもたらす全社最適化のメカニズム
ソリューション事業
顧客エコシステム化
収益事業での回収
全社最適化
顧客獲得投資
統合ソリューション提供
高収益製品販売
総合利益の最大化
部門間の収益再配分と全体最適を優先するガバナンス構造
3
ポイント: IBMは、事業の役割に応じてKPIとPL責任を明確に分けている。
[1] 林力一, 渋谷高弘「戦略コンサルが知らない最強の知財経営」
これにより、ソリューション事業は利益を気にせず顧客獲得に専念でき、収益事業はその成果を利益へと転換する役割に集中できる
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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22
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B) 「知的財産推進計画2026」策定に向けた提言
問い1への回答(価値化・可視化)
(参照) 24M Technologies(化学系)─ 事業概要と戦略全体像
事業概要
オープン&クローズ戦略の全体像
24M Technologiesは、MITから生まれたスタートアップで、革新
的な半固体リチウムイオン電池技術を開発。
独自の電解質技術(Eternalyte )を核に、電池製造の効率化と
性能向上を実現する新しい製造プロセスを確立し、複数の
OEMや電池メーカーにライセンス提供している。
24M Technologies
Close(盾)- 収益事業
独自開発した半固体リチウムイオン電池の電解質技術(
Eternalyte
特許で厳重に保護。これが長期的な収益
の源泉となる。
エコシステム全体で採用が拡大することにより、自社のコ
ア技術が業界のデファクトスタンダード化。
主要パートナー
戦略提携:
出資者:
京セラ
市場戦略:
ライセンス供
与
従来比30%エネルギー密度向上、コスト40%削減を実現
MITの研究成果を基に革新的な電池技術を商業化
業界のデファクトスタンダードを目指したエコシステム戦略
戦略的役割
事業活動
収益項目
Open (矛
/Vehicle) 顧客
獲得と市場創造
半固体電池の製造プロセス
(SemiSolid 、ETOP )を事 •
業提携先(Volkswagen、伊藤 •
忠商事等)に
•
エンジニアリングサービスを提供。
ロイヤリティ
共同開発契約料
技術移転契約料
Close (盾)
収益最大化とデ
ファクト化
電解質(Eternalyte )やセル
設計(LiForever )の
コア技術・部材
部材販売収益
技術ライセンス料
(コア技術部分)
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
•
•
Open(矛/Vehicle)- 顧客獲得事業
電解質技術を最大限活かすための電池の量産技術・製
造プロセスを知財化し、複数のOEMや電池メーカーにライ
センス提供(オープン化)。
パートナーは低資本投資・低リスクで電池製造に参入でき
るプラットフォームを入手
日立造船、
GPSC
電解質販売
技術コンサル
ティング
特徴的な強み
Vehicle機能の発揮
製造ソリューション提供により多くの企業が24Mの技術で
電池製造が可能に。その結果、電解質(クローズ)の需要
が爆発的に増加し、業界のデファクトスタンダード化を目
指す。
オープン戦略によって創出された広大な顧客基盤(事業
提携)に対し、コア部材を販売、あるいはライセンスに含
め、収益を確保
スタートアップの機動性を
活かした全社一丸体制
デファクト化を視野に入れ
たエコシステム戦略
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23
B) 「知的財産推進計画2026」策定に向けた提言
問い1への回答(価値化・可視化)
(参照)Vectura(医薬系)─ 事業概要と戦略全体像
事業概要
オープン&クローズ戦略の全体像
Vecturaは、吸入製剤の技術プラットフォームを核に、大手製薬
企業を顧客とするCDMO(医薬品開発製造受託機関)として事
業を展開している。
独自のバイオ粒子工学技術・デバイス技術を強みとし、製剤開
発から臨床試験、製造技術までの一連のソリューションを提供
している。
Close(盾)- 収益事業
独自のバイオ粒子工学技術・デバイス技術を知財
で強固に保護。
「製品供給収益」が全体の6割以上を占める最大
の収益源。
Vectura
顧客・パートナー
主要顧客:
技術提携:
吸入製剤における世界有数の専門技術を保有
収益源:
ホソカワミクロンの技術をライセンス導入し強化
Open(矛/Vehicle)- 顧客獲得事業
製薬メーカーの新薬開発パイプラインに深く関与
戦略的役割
Vecturaの事業活動
収益項目
Open (矛/Vehicle)
顧客獲得と関係構築
医薬品の開発・臨床試験
支援サービス(CDMO事
業)
開発サービス
収益
完成品医薬品や吸入器デ
バイスの供給
製品供給収益
知的財産のライセンス供与
ロイヤリティ収入
Close (盾)
高収益なモノの販売
コア技術の収益化
製剤開発、臨床試験支援、製造技術といった一連
の開発ソリューションを、知財と共に大手製薬メー
カーに提供(オープン化)。
大手製薬メーカー
ホソカワミクロン
開発サービス
マイルストーン
ロイヤリティ
特徴的な強み
技術・ソリューション分離による
両立モデル
Vehicle機能の発揮
ソリューション(開発サービス)提供を通じて顧客の
新薬開発パイプラインに深く関与。
その結果、コア技術が製品に組み込まれ、上市後
の長期的なロイヤリティ収入を確保。
戦略的知財契約による自社戦
略の強化
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引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
Copyright(C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
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B) 「知的財産推進計画2026」策定に向けた提言
問い1への回答(価値化・可視化)
(参照) Qualcomm(通信系) ─ビジネスモデル全体像
QCT事業(クローズ戦略)
QTL事業(オープン戦略)
• Qualcomm CDMA Technologies
• Snapdragonなどの高性能チップセットの販売
• 2024年度売上高: 331.96億ドル
• 利益率: 29%
• スマートフォン、IoT、自動車向け市場で展開
• Qualcomm Technology Licensing
• 標準必須特許(SEP)のライセンス提供
• 2024年度売上高: 55.72億ドル
• 利益率: 72%(非常に高収益)
• 3G/4G/5G通信規格の基盤技術をカバー
項目
金額/比率
特徴
総売上高 (FY2024)
389.62億ドル
前年比9%増
QTLライセンス収入
55.72億ドル
高利益率(72%)
端末価格に対するロイヤリティ
3.25%~5%
FRAND条件での提供
研究開発投資(累計)
900億ドル超
未来技術への継続投資
標準化を通じたマーケット支配の構造
①技術開発と特許取得
②標準化活動(オープン戦略)
③二重収益化(クローズ戦略)
通信基盤技術の開発と
特許ポートフォリオ構築
3GPPなどの標準化機関に
技術提案と標準規格への組込み
SEPライセンス料収入と
チップセット販売の相乗効果
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引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
Copyright(C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
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B) 「知的財産推進計画2026」策定に向けた提言
問い2への回答(知財経営・ガバナンス)
企業の知財経営とガバナンスは、戦略的ポートフォリオを経営として執行・監督するために構築されるべき
取締役会の新たな役割
単なる投資の妥当性監督に留まらず、事業ポートフォリオ評価に基づくビジネスモデル変革そのものを主導
企業の「稼ぐ力」を根本から再設計する「攻め」のガバナンス機能
オープン戦略を成功させるガバナンス
現状の課題:
従来の単一事業モデルではクローズ戦略が主流であり、多くの日本企業は
オープン戦略に慣れていない
必要な取り組み:
自前主義からの脱却
エコシステム全体での価値創造の志向
知財を柔軟に「オープン化」できる契約モデルの許容
契約モデルの許容と柔軟化
スタートアップ連携などにおいて、画一的な契約から脱却
両者のビジネスモデルに合わせた柔軟な知財契約モデルの採用
共同開発知財の第三者への柔軟なライセンス権確保の選択肢
知財戦略の出口までの監督・推進
どのような顧客との事業提携すると事業スケールするか、知財契約を結ぶべきかを設計
国内外の提携先選定と、事業提携動機となるソリューションのマーケティングの戦略性
を高める判断基準の構築
アクション・プログラムの狙いとも合致する事業創造を促すガバナンス
事例:24Mテクノロジーズと京セラの戦略的提携
バッテリー技術のスタートアップ24Mは、戦略的にパートナーを選定。
京セラの事業モデルが自社のオープン戦略とコンフリクトしないため、共同開発した製造技術を多数の自動車メーカー等にライセンス提供できる形を実現。
これにより、共同開発成果をプラットフォーム化できて、複数の事業者へ知財を提供(オープン化)して、エコシステム構築の活性化に成功。
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
Copyright(C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
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B) 「知的財産推進計画2026」策定に向けた提言
問い3への回答(企業と投資家の対話)
企業と投資家の対話は、戦略的ポートフォリオがもたらす「価値創造ストーリー」を共有することで活性化する。
なぜ、このストーリーが重要なのか?
開示すべきメカニズムとKPI
投資家が最も知りたい「将来のキャッシュフロー創出能力」の解像度を劇的に高める
「矛が顧客を獲得し、盾の収益に繋がる」メカニズムを具体的なKPIと共に開示
単なる活動報告ではなく、持続的に価値を生み出す「仕組み」を評価可能に
オープン(顧客獲得)&クローズ戦略(収益獲得)の連動性を可視化
KPIの相関・逆相関の開示
相関関係:
逆相関関係:
「顧客獲得事業(矛)」のKPI(顧客獲得数等)の成長と「Custom Development Income」の相関
を示す
「収益事業(盾)」の売上・利益と「知財売却・ライセンス収支」の逆相関(短期収益)を説明
(理由:収益事業が成功していれば、その源泉となる知財を安易に売却する必要がないため)
将来価値の開示方法
将来の「収益事業(盾)」への貢献を、技術ロードマップと共に開示
ロイヤルティ免除法ベースの無形資産評価が有効(市場実勢を反映し、減損リスクが比較的小さい)
財務健全性維持のため、「資産化」より「開示」が有効な場合が多い
対話のゴール
顧客獲得と収益性獲得のKPIの連動性を示すことで、
投資家は企業の戦略の健全性と成長ポテンシャルを立体的に予測できる
期待される効果
知財・無形資産が企業価値として正しく評価され、建設的な対話が生まれる
[7] 杉光一成, 立本博文「コーポレートガバナンス・コード改訂に伴う知的財産に関するKPI等の設定(中間報告)」
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
Copyright(C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
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B) 「知的財産推進計画2026」策定に向けた提言
知財経営実現のためのアプローチ(企業規模の違い)
モノ事業モデルからモノ+コト事業モデル(オープン&クローズ戦略)への転換
大企業の課題:『組織の慣性』
中小企業の機会:『組織の柔軟性』
● 過去の成功に最適化された投資基準・KPI・評価制度が知財経営モデル
導入を阻害
● 示唆: 戦略フレームワークだけでなく、評価制度や意思決定プロセスを含む
組織改革が不可欠であり、
オープンな知財戦略は経営との融合が必要であり、戦略系コンサル
の支援が効果的
●
制度的制約が少なく(カルチャーによる縛りが少ない)、
組織的な柔軟性が高い
● 示唆: 適切な知財戦略構築で大企業よりスムーズな収益化が可能。
大企業のような知財部門を持たないこともあり、
企業知財経験のある弁理士・知財コンサルの支援が効果的
事業スケールさせる段階では、戦略系コンサルの支援が効果的
企業規模別の知財経営導入戦略
企業規模
大企業
中小企業
スタートアップ
最優先アプローチ
トップダウン×ボトムアップハイブリッド
外部支援の活用(経営戦略コンサル主導)
クローズ知財に加えて、オープンな知財による事業スケー
ル戦略支援が重要。
経営者の知財リテラシー向上
外部支援の活用(弁理士・知財コンサル主導)
クローズ知財戦略の差別化・リスク低減機能の強化が
重要。
主要な障壁
推奨施策
知財を経営に融合に加え、既存評価制度・KPI
知財経営評価KPI導入
部門間連携不足
部門横断チーム設置
資金・人材・知識の「三重苦」
公的支援制度活用
大企業程イノベーションジレンマに陥りにくい
地域金融機関との連携
ポイント:
知財経営の成否は「組織」に大きく依存。大企業は「組織の慣性」の克服、中小企業は「組織の柔軟性」の活用が、それぞれ成功の鍵。
28
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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28
APPENDIX
C) 金融庁「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」
に対応する政策提言
「知的財産推進計画2026」策定に向けた
提言に共通する部分がある為、
ここで、併せて提言させて頂いております。
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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29
C) 金融庁「アクション・プログラム2025」の「稼ぐ力の向上」に対応する政策提言
提言1:無形資産投資の「量」から「戦略的ポートフォリオ」への転換
アクション・プログラム2025の該当箇所
コモディティ化時代の課題
P.2「1.稼ぐ力の向上」
中国等新興企業の台頭によりモノ事業の急速なコモディティ化
「持続的な成長の実現に向けた経営資源の最適な配分の実現のため、...コーポレートガバナンス・コー
ドの見直し等を検討する。」「経営資源の配分先には、...人的資本や知的財産への投資等、様々な投
資先が考えられ...」
単なる「投資量」増加では不十分、ビジネスモデル変革が必要
24Mテクノロジーズの具体事例
収益事業(モノ事業・盾):
顧客獲得事業(コト事業・矛):
特許で保護された高性能な電解質
「誰でも簡単に高性能な電池を作れる製造技術」をライセンス提供(オープン化)
多くの企業が技術エコシステムに参加 → 電解質販売が爆発的にスケール
IBMのKPI経営事例
90年代から金銭評価を継続開示: 「知財ライセンス・売却収入」 「Custom Development
Income(受託開発収入)」
社内の知財創出・活用活動と直接紐づけたKPI設定
具体的な提言
無形資産(知財)を2つの戦略的役割に分類し投資戦略とKPI開示を推奨:
収益事業(盾):競争優位の源泉となるコア技術・知財。KPI=収益性(利益率)
顧客獲得事業(矛: Vehicle機能):利益度外視で市場シェア拡大。KPI=顧客獲得数・市場
シェア
[1] 林力一, 渋谷高弘「戦略コンサルが知らない最強の知財経営」
30
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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30
C) 金融庁「アクション・プログラム2025」の「稼ぐ力の向上」に対応する政策提言
提言2:大企業とスタートアップ連携における『知財戦略の出口』明確化
オープンイノベーション阻害要因
柔軟な知財契約モデル
知財の取り扱いに関する対立が主要因で連携が頓挫
連携初期段階での「知財戦略の出口」明確化が不可欠
大企業の「自前主義」的発想がスタートアップを囲い込み
画一的契約でなく、両者のビジネスモデルを考慮
成長機会を阻害する事態が継続
少なくとも一方が事業スケールできるオープン化権利の確保
事例:24Mテクノロジーズと京セラの戦略的パートナーシップ
パートナー選定の戦略:
協業の成果:
24Mが京セラを選んだ理由は、京セラの事業モデルが24Mのオープン戦略
と競合しない点
共同開発した製造技術の知財(ソリューション知財)を、他の多数の自動車メーカー等にライセンス提供(オープン
化:プラットフォーム化)が可能となり、エコシステム構築が活性化
【補足的提言】政府系技術支援における知財活用の柔軟化
現状の課題:
政策的提言:
期待効果:
NEDOなどの委託・助成事業の知財について、海外活用の手
続きが煩雑で不明確なため活用しづらい
プロジェクト採択段階から「海外展開・オープン活用前提」のフ
ラグを立てる制度を創設
グローバルな事業スケールを前提とした戦略的な技術開発
が可能になり、日本企業の「稼ぐ力」が向上
[3] 24M Technologies, Inc. HP情報
[5,6] NEDO「知的財産権 取扱い規程」「成果活用 海外展開」
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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31
31
C) 金融庁「アクション・プログラム2025」の「稼ぐ力の向上」に対応する政策提言
提言3:投資家との対話における「価値創造ストーリー」具体化
企業と投資家間の思考構造ギャップ
ビジネスモデルのメカニズム開示
抽象的な対話ではなく、価値創造ストーリーの具体的開示が必要
オープン戦略(矛)とクローズ戦略(盾)の連動の仕組みを開示
投資家は将来のキャッシュフロー創出能力に関する解像度を求めている
内閣府「経営デザインシート」の活用・発展による図示化
企業活動ではなく「仕組み」を評価したいという投資家ニーズ
将来の無形資産投資がどう収益に繋がるかを説明
KPIの相関・逆相関の開示方法
相関関係の開示:
短期収益(逆相関)関係の開示:
「顧客獲得事業(矛)」のKPI(顧客獲得数等)と「Custom Development
Income」に相当する指標の相関
「収益事業(盾)」の売上・利益と「知財売却・ライセンス収支」短期収益性指標で、逆相関 (収益事業が成功してい
れば、その源泉である知財を安易に売却する必要がないため)
将来価値の開示手法
ロイヤルティ免除法ベースの無形資産評価:
「資産化」よりも「開示」の利点:
技術ロードマップと連動した将来価値を開示
財務健全性を保ちつつ将来性を示す
市場実勢を反映した評価手法
投資家に将来の事業成長メカニズムを理解させる
取得コストベースより減損リスクが相対的に小さい
複数のKPI連動性で戦略の健全性を立体的に予測可能に
[7] 杉光一成, 立本博文「コーポレートガバナンス・コード改訂に伴う知的財産に関するKPI等の設定」
[8]内閣府「経営デザインシート」,
[9] 弁護士 髙畑豪太郎氏「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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C) 金融庁「アクション・プログラム2025」の「稼ぐ力の向上」に対応する政策提言
提言4:サステナビリティ(SX)と知財戦略の統合
アクション・プログラム2025対応
SX推進における知財戦略統合の重要性
「サステナビリティを意識した経営」に対応
単なる知財リストアップから脱却し、戦略的ポートフォリオの視点を提示
「財務情報と非財務情報の関連性を説得的に説明」が重要
SXを事業モデル変革の好機と捉える視点の開示を推奨
多くの企業ではSXがコスト・コンプライアンス面で語られがち
事業ポートフォリオ評価の新次元
リスク評価:
機会特定:
従来型モノ事業からコトビジネスへ転換しない場合の市場シェア喪失リスクを特定・開示
SX観点からのビジネスモデル転換による市場シェア拡大機会を具体的に提示
ESG投資家へのメッセージ強化と資金流入加速
戦略的投資としての位置づけ:
価値創造ストーリーによる開示強化:
SX活動を単なる社会貢献活動ではなく、将来の事業機会創出として明確化
オープン戦略(矛:顧客獲得)&クローズ戦略(盾:収益事業)のビジネスモデルとKPI連動の仕組みを明示
競争優位性と持続的成長を両立した企業価値向上の説得力が増し、ESG投資家からの資金流入を加速
33
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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33
APPENDIX
D) 「矛と盾」モデルとソリューションビジネス知財と経営の融合と深く関わると考える理由
知的財産戦略の新たなパラダイム;
下流への知財流動化による持続的な収益性と競争優位性の構築
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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D) 「矛と盾」モデルとソリューションビジネス知財と経営の融合と深く関わると考える理由
問題意識:2009年、企業での知財と経営戦略の融合のやり方に対する探求
2009年、企業知財部(戦略G)に在籍していた私は、一つの重要な命題と向き合っていた。
「知財をいかにして経営戦略の収益性を生み出すエンジンとするか」
単なる知的財産権の保護や管理の枠を超え、
企業の競争力と持続的な成長を支える戦略的資産として知財を再定義する試み。
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
35
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35
D) 「矛と盾」モデルとソリューションビジネス知財と経営の融合と深く関わると考える理由
転機となった出会い:マーシャル・フェルプス氏との意見交換
IBM・Microsoftの知財部門を牽引した実績を持つマーシャル・フェルプス氏
との意見交換機会が、知財戦略の新たな視点への転機となった。
知財専門家の議論の中心は「競合への牽制」でしたが、
フェルプス氏の視点はそれとは根本的に異なるものでした。
フェルプス氏が強調したのは「バリューチェーンの下流」、つまり顧客や
パートナーへの戦略的な技術・知財の流動化の重要性でした。
同事業者に知財を売るよりも、下流側の事業者の方が知財を流動化させ
やすい。一緒にビジネスをやりたいと思わせる知財が重要。
マーシャル・フェルプス
元IBM・Microsoft 知財部門責任者
「下流への知財流動化」の概念を強調し、知財戦略の新たなパラダイムを示した
「技術・知財の戦略的流動化こそが、単なるモノ売りから脱却し、持続的な
収益性と圧倒的な競争優位性を生み出すソリューションビジネスの核心で
ある」
この出会いが、後の「オープン&クローズ戦略」への理解を深める重要な契機となり
ました。
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
パートナー連携
知財の流動化
持続的成長
36
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D) 「矛と盾」モデルとソリューションビジネス知財と経営の融合と深く関わると考える理由
核心的洞察:「下流への知財流動化」vs「競合への牽制」の対比
多くの知財専門家の議論の中心は「競合への牽制」:特許を武器として競
合を抑止し、自社技術を守る防衛的アプローチ
フェルプス氏が示した新たな視点は「バリューチェーンの下流への知財流
動化」:顧客やパートナーとの関係構築・強化を目的とする戦略的アプロー
チ
従来の知財アプローチ:
新たな知財アプローチ:
「競合への牽制」
「下流への知財流動化」
防衛的・独占的思考
協働的・戦略的思考
競合他社の参入阻止
顧客・パートナーとの関係強化
訴訟を前提とした関係
この「下流への知財流動化」こそが、単なる「モノ売り」から脱却し、モノ以外
で購入意思決定を促すことで、顧客へ提供する付加価値が高まり、結果、
持続的な収益性と競争優位性を生み出すソリューションビジネスの核心
オープン&クローズの使い分
け
「オープン&クローズ戦略」:戦略的に顧客獲得の為に知財を提供(オープ
ン化)する領域と、収益性を確保する領域(クローズ)を区別し、エコシステ
ム全体の価値向上を図る
知財は単なる防衛手段ではなく、戦略的な価値共創のツールとして活用す
ることで、ビジネスモデルそのものを変革する力を持つ
「下流への知財流動化」は、バリューチェーン全体の価値向上とエコシステ
ム強化につながる
自社
競合牽制
知財の価値提供する相手が異なる
自社
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
価値共創を促進する関係
クローズド戦略中心
競合他社
vs
パートナー
顧客
下流への知財流動化
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37
37
D) 「矛と盾」モデルとソリューションビジネス知財と経営の融合と深く関わると考える理由
IBMの事例:ハードウェアからソリューションビジネスへの転換
1990年代、IBMは深刻な経営危機に直面し、ハードウェア中心のビジネス
モデルからソリューション提供へのシフトを迫られていた。
IBMの変革タイムライン
1993年
ルイス・ガースナーがCEOに就任。「顧客価値」を中心とした戦略へのシフトを開始。
このパラダイム転換の核心は、従来の「知財による競合排除」から「知財の
戦略的流動化」へと知財戦略を抜本的に変革したことにある。
「オープン&クローズ戦略」の実践:顧客ごとのカスタマイズされたソリュー
ションを積極的にオープン化(利益率をハードやソフトよりも低く設定)し顧
客の接点を獲得する一方、その接点を通じて、ハードやソフトウェアはク
ローズドに保持し持続的な収益化を実現する。
1995年
知財戦略の転換。Java言語の戦略的オープン化を通じて業界標準化を推進。
1996年
「e-business」のコンセプトを打ち出し、ビジネスソリューション分野へのシフトを加速。
1998年
知財ライセンス収入が初めて10億ドルを突破。競合企業からパートナーへの知財流動化
に成功。
この転換により、IBMは約30億ドルの知財収入を生み出し、ハードウェアベ
ンダーからグローバルなITソリューションプロバイダーへと変貌を遂げた。
2000年以降
グローバルサービス部門が収益の中核へ。知財を梃子にしたソリューションビジネスが確
立。
「当社の知財戦略は、クライアントのビジネス成功を支援するためのものであり、
それが当社自身の持続的な成長と収益につながっている」
- ルイス・ガースナー(IBM元CEO)
オープン化
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
クローズ化
協業促進
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38
38
D) 「矛と盾」モデルとソリューションビジネス知財と経営の融合と深く関わると考える理由
実践での検証:戦略コンサルタントとしての経験
複数の企業の経営戦略に関わる戦略コンサルタントとして、企業に提案し
てきた戦略フレームは、IBM流の知財戦略と本質的に重なることに気づきま
した。
IBMの歴史的転換と自身の戦略フレームの一致
IBMの90年代の転換
戦略提案
最近の事業撤退に伴う知財売却案件では、隣接事業の企業への売却を提
案する際に、このアプローチを実践。
「IBMが90年代にハードウェア中心からソリューションビジネスへと歴史的転
換を遂げた際の知財戦略と一致している。」
「同業者に知財を売却する場合は、侵害を立証して、敵対的な交渉で、訴
訟回避でロイヤルティを支払う、という関係性となることが多い。
知財をオープン化して顧客の事業を支援し、その顧客を自社の収益事業
に繋げるという思想が、最も知財が売れる交渉シナリオとなる。」
ハードウェア中心から脱却
知財の戦略的開放
知財の戦略的流動化
顧客事業の支援
ソリューションビジネスへシフト
収益事業への連携
実践事例:事業撤退時の知財売却案件
隣接事業企業への知財売却による
戦略的パートナーシップの構築
この実践的検証により、ソリューションビジネスと知財戦略の融合が単なる理論では
なく、実際のビジネス現場で価値を生み出すことを確認できました。
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
戦略コンサルタントとしての実践を通じて確認された知財戦略の有効性
39
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D) 「矛と盾」モデルとソリューションビジネス知財と経営の融合と深く関わると考える理由
気づきの統合:ソリューションビジネスの要素連携
ソリューションビジネスへの転換には、顧客の事業課題を解決する総合的
なアプローチが必要。この転換の鍵は知財の戦略的活用。
知財経営
統合モデル
知財の真の価値は、単なる自社技術の防衛や収益化だけでなく、
顧客・パートナーとのエコシステム構築にある。
つまり「下流への知財流動化」の実践。
評価指標も、特許件数や技術的優位性だけでなく、
顧客価値創出やソリューション提供能力を測定することが重要となる。
この3つの要素が有機的に連携することで、
持続的競争優位性と収益構造の転換が実現できる。
IBMが実現したハードウェア中心からソリューションビジネスへの歴史的転換は、まさにこの3つ
の要素の統合によるものである。
自社技術をオープン化しながらも、顧客価値の創出を通じて、持続的な収益モデルを構築する
ことに成功した。
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
転換の鍵
ソリューションビジネス
への転換
知財の価値
戦略的知財流動化
下流への知財提供
評価指標
顧客価値創出
ソリューション提供能力
顧客課題解決型
アプローチ
相互連携による価値創出の好循環
結果
持続的競争優位性と収益構造の転換
40
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40
D) 「矛と盾」モデルとソリューションビジネス知財と経営の融合と深く関わると考える理由
纏め:日本企業への展開可能性
知財経営の本質を日本企業向けに体系化する時が来ている。
「知財をオープン&クローズ戦略のレバレッジとして活用するフレームワーク」
このアプローチを実践することで、日本の産業競争力を再び世界トップレベルに引き上げる可能性を秘めている。
単なる「モノ売り」から脱却し、持続的な価値創造へ移行するための転換点となると考える。
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
41
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41
APPENDIX
E) 柳モデルとの関係性(IBMフレームワークとの関係性)
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
Copyright(C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
42
E) 柳モデルとの関係性(IBMフレームワークとの関係性)
サマリー
目的
現代経営における最重要課題である「知的財産の価値」をいかに評価し、経営戦略に活かすか。本報告では、主要な2つの評価モデル「
柳モデル」と「IBMフレームワーク」を比較・分析し、企業価値向上に資する統合的アプローチを提言する。
核心的見解
両モデルは競合せず、目的の異なる補完的ツールである
柳モデル(望遠鏡):
ポートフォリオ全体の相対的な競争力を測り、外部へ発信する
IBMフレームワーク(顕微鏡):
個別資産(事業)の絶対的な金銭価値を算定し、事業運営と戦略的意思決定に活用する
本報告からの提言
両モデルの長所を組み合わせたハイブリッドアプローチと、柳モデルの統計フレームワークを応用した統合的分析こそが、知的資本経営
を深化させる鍵である。
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
43
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43
E) 柳モデルとの関係性(IBMフレームワークとの関係性)
1. なぜ今、特許価値評価が重要なのか
経営環境の変化
知識経済の深化 → 無形資産が企業価値の中核に
事業ポートフォリオ変革の加速
→ M&A、事業売却におけるIPの価値算定が不可欠
資本市場からの要請 → 非財務情報(特に知的資本)の開示と説明責任の増大
経営課題
自社のIPポートフォリオの強みは何か?
(対競合)
R&D投資は質の高いIP創出に繋がっているか?
(対予算)
IPをいかにして収益化し、企業価値向上に結びつけるか?
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
(対戦略)
44
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44
E) 柳モデルとの関係性(IBMフレームワークとの関係性)
2. 柳モデルの解体:マクロな視点からの「相対的」競争力評価
コンセプト:「望遠鏡」
ポートフォリオ全体の質を競合と比較する
アプローチ
トップダウン型・相関分析
技術資産スコアの偏差値化
統計的な相関関係の分析
企業の特許ポートフォリオ全体の質を「技術資産スコア」として偏差値化
技術資産スコアと、PBRや利益率といった財務指標との統計的な相関関係
を分析
アウトプット
「技術資産スコアが高い企業群は、低い企業群より利益率がX%高い」といった相対的な示唆
※個別の特許群・知zぁ位の絶対的な金額ではない
主な用途
IR活動: 投資家への知的資本の質の高さをアピール
競合分析: 競合の技術力の相対的な強さをベンチマーキング
R&D戦略: ポートフォリオ全体の質の経年変化をモニタリング
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
45
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45
E) 柳モデルとの関係性(IBMフレームワークとの関係性)
3. IBMフレームワークの分析:ミクロな視点からの「絶対的」価値算定
コンセプト:「顕微鏡」
個別資産の金銭的価値を算定し、事業に活用する
アプローチ:ボトムアップ型・財務評価
中核的手法・評価ロジック
ソリューション評価(Custom Development Income)
Custom Development Incomeは、収益事業の最良の先行指標
利益度外視の顧客獲得エンジン(矛)の活動規模を示す指標
ロイヤルティ免除法(RfR法)
「その特許の保有で、将来支払わずに済むロイヤルティ総額」の現在価値
アウトプット
「この特許の価値はXXX億円である」という絶対的な金銭価値
戦略的背景:IBMの「矛と盾」ビジネスモデル
矛(顧客獲得)
盾(収益化)
ソリューション事業(Custom Development Income)
高収益なHW/SW事業。この「盾」を守るためのIPの価値算定が不可欠
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
46
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46
E) 柳モデルとの関係性(IBMフレームワークとの関係性)
4. 両モデルの直接比較(1/2):評価手法の比較マトリクス
柳モデル(望遠鏡)
評価基準
IBMフレームワーク(顕微鏡)
主要目的
戦略的ベンチマーキング
財務的価値評価と収益化
評価スコープ
ポートフォリオ全体(マクロ)
個別資産/事業(ミクロ)
アウトプット
相対的スコア(偏差値)
絶対的金銭価値(金額)
評価の時間軸
過去〜現在の相関分析
将来キャッシュフローに基づく中長期的評価
強み
客観的ベンチマーキング、外部への訴求力
経済的価値との直接的連動、事業貢献度の可視化
(標準化されれば、客観的ベンチマーキング可能となる)
弱み
絶対的価値の欠如、因果関係ではない
高い主観性、資源集約的
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
47
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47
E) 柳モデルとの関係性(IBMフレームワークとの関係性)
4. 両モデルの直接比較(2/2):戦略的ユースケース
両モデルは異なる目的を持つが、戦略レベルでは相互に活用可能
柳モデル
相対的スコア
IR活動
「当社のIPポートフォリオの質は、競合平均を上回っています」
競合分析
「競合A社の技術資産スコアは低下傾向にあります」
戦略計画
「全社的な技術資産スコアの向上を次期中計のKPIとします」
IBMフレームワーク
絶対的金額
取引・訴訟
ライセンス料交渉、M&A価格算定、損害賠償額の根拠
IR活動
「当社の主力事業を守る特許群の価値はXXX億円です」(IBMが
90年代から実践)
競合分析
「競合B社の主力特許の価値はYYY億円と推定され、脅威度は高
いです」
戦略計画
「R&DテーマCから生まれる特許価値はZZZ億円と見込まれ、重点
投資します」
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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48
E) 柳モデルとの関係性(IBMフレームワークとの関係性)
5. 提言①:ハイブリッドアプローチによるIPポートフォリオ管理
両モデルの長所を活かした二段階アプローチを推奨
Stage 1: マクロ・スクリーニング
(望遠鏡)
手法
柳モデルをなど活用
Stage 2: ミクロ・バリュエーション
(顕微鏡)
手法
IBMフレームワーク /
Custom Development Income・ロイヤルティ免除法
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
目的
ポートフォリオ全体を俯瞰し、戦略的に重要で価値が高い「クラウンジュエル」候補を効
率的に特定する。
①「矛」のクラウンジュエル候補: Custom Development Income(ソリューション契約)の対
象となるソリューションに紐づく知財群(特許、ノウハウ、ブランド)。現在の顧客獲得力に
直結する知的資産
②「盾」のクラウンジュエル候補:収益事業についての新規事業開発において、競合の
参入を阻むための対抗特許(いわゆる “5 fighting Patents”)。将来の事業ポートフォリオ
を防衛する知的資産
目的
Stage 1で特定した「クラウンジュエル」に対し、資源を集中投下して精密な金銭的価
値評価を実施。
Stage 1で特定した候補群に対し、ロイヤルティ免除法とCustom Development
Income試算で精密な金銭的価値評価を実施し、投資判断や戦略策定に活用する。
49
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49
E) 柳モデルとの関係性(IBMフレームワークとの関係性)
5. 提言②:柳モデルの応用による統合的分析
柳モデルの統計フレームワークを拡張し、IBMのビジネス指標を分析
分析の枠組み
従属変数(Y)
財務指標(利益率、PBRなど)
独立変数(X)
X1: 技術資産スコア(IPの質)
X2: Custom Development Income(顧客獲得力)
X3: 知財売却・ロイヤルティ額(短期収益力)
X4: ロイヤルティ免除法評価額(中長期収益力)
得られる示唆(例)
X1は高いがX2との相関が低い
IPの事業化(顧客獲得)に課題 → 宝の持ち腐れ
X2は高いがX4との相関が低い
顧客獲得は順調だが、技術的優位性が脆弱 → 持続可能性に懸念
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
50
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50
E) 柳モデルとの関係性(IBMフレームワークとの関係性)
纏め:知的資本経営の深化に向けて
纏め
柳モデルとIBMフレームワークは、目的の異なる補完的なツールである
柳モデルは相対的な競争力を、IBMフレームワークは絶対的な金銭価値を示し、異なる角度から戦略的なストーリーを補強する
経営へのインプリケーション
1
IP戦略の明確化
まず、IPで何を達成したいのかを定義する
2
多層的な評価能力の構築
マクロな分析能力とミクロな評価能力の両方を組織内に構築する
3
ビジネスプロセスへの統合
IP評価を単発のイベントではなく、M&Aや中期経営計画策定といった根幹プロセスに組み込む
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
51
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51
APPENDIX
F) 知的資本による価値創造ストーリー(全社(マクロ)と事業単位(ミクロ)の価値創造ストーリー)
引用・参照:各社HPの情報に基づきNRIで作成
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52
F) 知的資本による価値創造ストーリー(全社(マクロ)と事業単位(ミクロ)の価値創造ストーリー)
アジェンダ
NRI
【全社(マクロ)分析】全社レベルの価値創造ストーリー
①資本の言語化
②ビジネスモデルの定義
③ESGの論点設定
全社的な価値創造の源泉
全社を駆動するフライホイール
全社的な社会課題解決への貢献
【事業単位(ミクロ)分析】watsonxにみる価値創造の具体事例
①資本の言語化
②ビジネスモデルの定義
③ESGの論点設定
watsonxを支える知的資本
watsonxの価値実現プロセス
watsonxが実現する「信頼できるAI」
纏め
マクロとミクロが紡ぐ、未来への価値創造
53
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F) 知的資本による価値創造ストーリー(全社(マクロ)と事業単位(ミクロ)の価値創造ストーリー)
【全社(マクロ)分析】全社レベルの価値創造ストーリー
NRI
このセクションでは全社を俯瞰し、資本・ビジネスモデル・ESGの枠組みを通じて
企業の価値創造メカニズムを解説する。
資本の言語化
ビジネスモデル
ESG論点
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F) 知的資本による価値創造ストーリー(全社(マクロ)と事業単位(ミクロ)の価値創造ストーリー)
全社(マクロ)分析① 資本の言語化:全社的な価値創造の源泉
競争優位を支える中核資本と
しての「知的資本」
我々の価値創造は6つの資本に支えられていますが、そ
の中でも知的資本は、他の資本を増強し、ビジネスモデ
ル全体を駆動させる中核的な存在である。
知的資本は単なる特許や技術だけではなく、
プラットフォーム群、方法論、そしてそれらを統合する
組織的能力の総体として捉えるべきものである。
NRI
資本
我々の定義(全社レベルでの言語化)
知的資本
特許ポートフォリオに加え、
Red Hat OpenShiftやwatsonx等のプラットフォーム
IP、
IBM Garage 等のメソドロジーのIP、
そしてそれらを統合する組織的能力のIP。
人的資本
16万人を超える、深い専門知識を持つコンサルタント
と技術者集団。多様性とスキル育成へのコミットメント
。
知的資本を顧客価値に「応用」する主体。
収益事業の将来収益性の先行指標であるCustom
Development Incomeを生み出す。
Fortune 100企業の75%を含む広範な顧客基盤と、
AWS、SAP等の強力なパートナーエコシステム。
知的資本を市場に展開するためのチャネル。
CDIを通じて強化され、新たな収益事業の収益性(ロ
イヤルティ)の源泉となる。
財務資本
IP売却・ロイヤルティ収入等がもたらす安定したキャ
ッシュフローと、強固な財務基盤。
知的資本を強化するためのR&DやM&Aへの再投資
を可能にする。
製造資本
IBM zSystems等の高性能ハードウェアや、グローバ
ルに展開するクラウドインフラ。
自然資本
事業継続の基盤となるエネルギーや水資源。
データセンターのエネルギー効率化等を通じて、そ
の影響を管理。
社会・関係資本
右の表は各資本の定義と、中核となる知的資本がいか
に他の資本と相互作用し、全体の価値創造を促進する
かを示している。
知的資本との相互作用
【価値創造の核】 競合優位性の源泉であり、RfR評
価額としてそのポテンシャルが示される。
知的資本(ソフトウェア)を稼働させ、統合ソリューショ
ンを実現するための物理的基盤。
知的資本(AI技術等)を活用して環境負荷を低減し
、持続可能な事業運営に貢献する。
55
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55
F) 知的資本による価値創造ストーリー(全社(マクロ)と事業単位(ミクロ)の価値創造ストーリー)
全社(マクロ)分析② ビジネスモデルの定義:全社を駆動するフライホイール
インプットからアウトカムへ
NRI
インプット
知的資本・人的資本を
主要資源として投入
我々のビジネスモデルは、知的資本と人的資本を主要な
インプットとし、それらを独自の「矛と盾」の事業活動を通じ
てアウトプットに変換する。
このプロセスにより、最終的に全ての資本を増強するアウ
トカムを生み出し、企業価値の持続的な向上につなげて
いる。
このフライホイールは、知的資本を中核としたダイナミック
な循環を形成し、一回転ごとに競争優位性を強化してい
く。
アウトカム
全資本の増強と
持続的な競争優位性
の確立
知的資本を中心と
した価値創造
事業活動
「矛と盾」の独自ビジネス
プロセスを展開
アウトプット
顧客価値を創出する
製品・サービス・
ソリューション
56
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56
F) 知的資本による価値創造ストーリー(全社(マクロ)と事業単位(ミクロ)の価値創造ストーリー)
【事業単位(ミクロ)分析】watsonxにみる価値創造の具体事例
NRI
watsonxにみる価値創造の具体事例
知的資本を活用した実践的ビジネスケース
マクロ視点
ミクロ視点
全社レベルの
watsonxによる
価値創造構造
具体的価値実現
57
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F) 知的資本による価値創造ストーリー(全社(マクロ)と事業単位(ミクロ)の価値創造ストーリー)
事業単位(ミクロ)分析① 資本の言語化:watsonxを支える知的資本
競争優位を支える中核資本として
の「知的資本」
watsonxの価値創造は、特に知的資本に深く根差す。
これは単一の特許ではなく、複数の要素が統合された総合
的な価値である。
知的資本は、他の資本を活性化させ、価値創造プロセス
全体を駆動する中核エンジンとして機能する。
このミクロ分析では、特にwatsonxのコンテキストにおいて、
価値創造の源泉となる各資本の具体的内容と貢献度を明
らかにする。
資本
NRI
watsonxの文脈における言語化
価値創造への貢献
プラットフォームIP: watsonx.ai, .data, .governance
基盤モデルIP Graniteシリーズ
メソドロジーIP: IBM Garage
これらを統合する組織的能力のIP
【価値創造の核】 競合優位性の源泉。RfR評
価額として、AI市場におけるwatsonxの将来
的な防御価値が示される。
人的資本
16万人を超えるコンサルタントとAI専門家。watsonx
を駆使して顧客のデジタルトランスフォーメーション
を支援する能力。
知的資本を顧客価値に「応用」する主体。
収益事業の将来収益性の先行指標である
Custom Development Incomeを生み出す。
社会・関係資
本
金融、ヘルスケア等の規制産業における深い顧
客基盤と、AWS、SAP、Adobe等の強力なパート
ナーエコシステム。
watsonxを市場に展開するための信頼とチ
ャネル。
知的資本
財務資本
IP売却・ロイヤルティ収入等がもたらす安定したキ
ャッシュフローと、年間約70億ドルのR&D投資。
CDIを通じて強化され、新たな収益事業の
収益性(ロイヤルティ)の源泉となる。
watsonxのような次世代プラットフォームへの
継続的な投資(知的資本の強化)を可能に
する。
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F) 知的資本による価値創造ストーリー(全社(マクロ)と事業単位(ミクロ)の価値創造ストーリー)
事業単位(ミクロ)分析② ビジネスモデルの定義:watsonxの価値実現プロセス
インプットからアウトカムへ
NRI
インプット
知的資本(watsonxプラットフォーム、
Graniteモデル)と専門人材
watsonxのビジネスモデルは、知的資本と人的資本を主要なイン
プットとし、これらを最大限に活用する。
「矛」としての先進性:独自の基盤モデルとAIガバナンス機能によ
り、顧客へ差別化された価値を提供する。
事業活動
「矛」先進的AI開発と
「盾」信頼性の高いガバナンス機能の提供
「盾」としての信頼性:規制産業の厳しい要件に対応する堅牢なAI
プラットフォームとして、安全かつ説明責任のあるAI活用を実現す
る。
このプロセスは最終的に全ての資本を増強するアウトカムを生み出
し、持続的な価値創造サイクルを形成する。
アウトプット
アウトカム
カスタムAIソリューションと
新たな収益事業の収益性(ロイヤ
ルティ)を生む
全資本の増強:RfR評価額の向上、
新規顧客獲得、社会課題解決への貢献
59
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F) 知的資本による価値創造ストーリー(全社(マクロ)と事業単位(ミクロ)の価値創造ストーリー)
事業単位(ミクロ)分析③ ESG論点設定:watsonxが実現する「信頼できるAI」
ESG
価値創造と社会課題解決の統合
我々は、ESGを知的資本を社会課題解決に応用する機会
と捉えている。
E
環境
S
社会
watsonxを通じた戦略的論点
テクノロジーによるサステナビリティの実現
watsonx(知的資本)を活用し、顧客のサプ
ライチェーン最適化やエネルギー効率化
を支援。
これにより社会全体のGHG排出量削減に
貢献する。
スキルの民主化とインクルーシブな社会の
構築 2030年までに3,000万人のスキル育
成を目標とし、watsonx(知的資本)等のAI
技術へのアクセスを提供。
NRI
関連する資本
知的資本
自然資本
社会・関係資本
ビジネスモデルへの貢献
新たなCustom Development Incomeの
機会を創出し、顧客との関係を強化。
社会課題解決企業としてのブランド
価値を高める。
イノベーションの源泉となる人的資本
の質を向上。
人的資本
社会・関係資本
社会からの信頼を得て、事業活動の
基盤を強固にする。
特にwatsonxは、「信頼できるAI」の社会実装という重要な
ESG課題に直接的に貢献する。
これにより、事業成長と社会課題解決を両立させ、持
続的な企業価値向上を実現している。
G
ガバナ
ンス
信頼できるAIの社会実装
watsonx.governance(知的資本)は、AIの
透明性・公平性・説明責任を担保し、EU
AI法などの規制遵守を支援する。これは「
責任あるAI」の基盤となる。
信頼できるテクノロジー・パートナーとし
ての地位を確立。
知的資本
社会・関係資本
特に規制産業の顧客が我々のソリュー
ションを選択する上での重要な差別化
要因となり、CDIと新たな収益事業の
収益性(ロイヤルティ)の両方に貢献。
60
NRI戦略コンサルティング
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F) 知的資本による価値創造ストーリー(全社(マクロ)と事業単位(ミクロ)の価値創造ストーリー)
纏め:全社戦略(マクロ)と事業戦略(ミクロ)が紡ぐ、未来への価値創造
価値創造の未来モデル
現在価値
将来価値
短期収益
中長期収益性
我々の価値創造ストーリーは、「現在価値」(短期収益)と「将来価
値」(中長期収益性)の間のギャップを埋めるダイナミックなプロセス
である。
このギャップを埋めるのが、収益事業の将来収益性の先行指標であ
る「価値創造プロセス」(顧客獲得力:Custom Development Income)
であり、知的資本がその中核となる。
全社(マクロ)戦略の正しさは、watsonxのような事業(ミクロ)の成功
事例によって証明される。
この全社(マクロ)と事業(ミクロ)の両者の盾と矛のモデルに基づく評
価視点こそが、説得力のある価値創造ストーリーを構築する鍵とな
る。
NRI
マクロ戦略
ミクロ実証
知的資本を中心とした価値創造プロセス
収益成長
顧客基盤
イノベーション
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61
参照・引用文献
主要参考資料
書籍・専門書
[1] 林力一, 渋谷高弘, 日経BP「最強の知財経営」
[2] 林力一, NRI経営コンサルタントの視点「知財戦略こそが、日本企業の未来を拓く経営
の羅針盤」
[8] 杉光 一成, 立本 博文「コーポレートガバナンス・コード改訂に伴う知的財産に関する KPI
等の設定(中間報告)」
[9] 弁護士 髙畑 豪太郎 氏「知財・無形資産に関するコーポレートガバナンス・コードの改
訂と知財・無形資産ガバナンスガイドラインの策定を受けて」
政府機関資料
[6] NEDO「NEDO 知的財産権 取扱い規程」 日本版バイ・ドール制度に基づく知財帰属
[7] NEDO「NEDO 成果活用 海外展開」 技術支援プログラムにおける海外展開・オープン活用
[10] 東証のFAQ https://faq.jpx.co.jp/disclo/tse/web/knowledge8347.html
企業情報・事例
[3] IBM HP情報 知財金銭評価とKPI経営の先進事例
[4] 24M Technologies, Inc. HP情報バッテリー技術のオープン&クローズ戦略事例
[5] Vectura HP情報 医薬系のオープン&クローズ戦略事例
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自己紹介
林 力一(はやし りきかず)
経歴
◼ 日立製作所(SAN、CDMA)
◼ トヨタ自動車(エンジン、HV)
◼ 重工業(水処理、化学プラント、CCS、リージョナルジェット、風車、ターボ、エンジン等)
◼ LIXIL グローバル知財部長
◼ 外資コンサルティング会社(知財チーム立ち上げ、技術戦略チーム立ち上げ、AI SaaS
ビジネス立上げ(PwC第1号:IBA)、Deloitte Napier)
◼ 東京知財経営コンサルティング 代表弁理士
◼ 株式会社野村総合研究所 シニアプリンシパル
主要プロジェクト
◼ 経営戦略策定(中長期計画、ビジョン策定)
◼ 事業ポートフォーリオ評価、評価結果に基づくBX、将来の事業破壊される可能性の評価と
対抗戦略
◼ 事業戦略策定(用途展開、プラットフォーム戦略、エコシステム戦略、海外市場進出)、経営
と知財の融合
◼ ESG、GX戦略、カーボンクレジットを含めたビジネスモデルの検討
◼ プレ戦略的提携/M&A戦略策定・ビジネス/技術・特許DD・PMI
⚫ 対応テーマ/業界・製品
専門
•
グローバルで事業組立てに必要なスタートアップを探し、クライアントの技術と結合させ新商品企画、PoCによる潜在顧客へ提案。知
財含む交渉戦略策定
◼ 経営・事業戦略、知財
◼ 資格:工学修士、MBA、法学士、弁理士
◼ 新聞記事等
•
自治体と企業とのフォーメーションで、環境負荷低減に関する新事業策定。自治体で財政を考慮して政府に対して補助金を企画の
ロビー活動も含む
•
欧州など地域ごとのHEMS/BEMS事業の開発、 HVACを提携の動機として各領域での販売チャネル確保のための戦略的提携
•
カーボンクレジット/CO2活用事業展開によるEPCのプラットフォーム戦略
•
日経:知財・無形形資産生かす「ビジネスアーキテクト」の育成を2024年10月13日
•
•
日経:新冷戦、日本企業復活の好機 知財・無形資産生かせるか2023年10月1日
蓄電池の新たな部材の事業開発のために、バッテリーパッケージ化に必要なエコシステムの構築と、OEMやUPSサプライヤーなど
顧客とのPoC企画
•
日経:サプライチェーン自動車・機械環境エネ・素材法務・ガバナンス中国・台湾北米中南米2023年8月15日
•
日経:米中、法や規制で技術囲い込み 特許国際機関に対立波及サプライチェーン法務・ガバナンス中国・
台湾北米2023年3月14日
•
•
•
⚫ その他テーマ/業界・製品
•
SDV(ソフトウェアディファインドビークル)
日経:重み増す「共創」の知財戦略 林力一氏 私見卓見2020年5月12日
•
Li・全固体バッテリー(正極材、セパレータ、全個体電池)、亜鉛電池、光電材料、製膜
Japan Business Press:失われた30年とは「知財戦略で敗れた30年」 IBM、エヌビディアが実践する“攻めの
オープンな知財戦略”とは|日本企業が目指すべき知財経営 2025年3月13日
•
GaNパワー半導体
•
VPP、EVフリート、次世代通信車載モジュール
NRI経営コンサルタントの視点「知財戦略こそが、日本企業の未来を拓く経営の羅針盤」 2025年09月30日
•
スマートマニュファクチャリング、 MEMS/HA
◼ 出版
•
mRNA創薬、機能性食品、食品・保存食、培養肉
•
日経BP「最強の知財経営」2024年5月
•
水素/アンモニア事業(素材、重工、燃料業界)、メタネーション/SAF、CCUS、カーボンクレジット
•
勝つための知財経営戦略 2025年版(別冊日経サイエンス272)) ムック
•
光通信ケーブル、光電融合、量子コンピュータ活用創薬、生体認証、Embedded Finance
•
中央経済「知財・無形資産ガバナンス」
•
コンテンツIPの戦略策定・IP暢達・M&A戦略策定
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63
資料8
一般社団法人
日本金融人材育成協会
資料8
2025 年 10 月 29 日
「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」(第 25 回)
~ 本日ご議論いただきたい点 ~
森
俊彦 一般社団法人 日本金融人材育成協会 会長
【略歴】
東京大学経済学部卒、同年 日本銀行入行、シカゴ大学大学院留学(経済学マスター)、信用機構局参事役(バーゼル銀行監督委員会・日本代表)、
考査局参事役(上席考査役)、金沢支店長、金融機構局審議役などを経て、金融高度化センター長
現在、環境省 ESG 地域金融普及促進アドバイザー、 住友生命 社外委員、 足利銀行 取締役、 西尾信用金庫 理事、 地域未来デザイン 代表理事、
中小企業基盤整備機構「中小企業応援士委嘱委員会」委員長、 マネジメントパートナーズ 経営顧問を兼務
【著書】「地域金融の未来」(中央経済社)
【政府委員】
2016 年~ 経済産業省「ローカルベンチマーク活用戦略会議」委員
2017 年~ 内閣府「知財のビジネス価値評価検討タスクフォース」委員
2018 年~ 環境省「ESG 金融懇談会」委員
2018 年~ 金融庁「融資に関する検査・監督実務についての研究会」メンバー
2019 年~ 環境省「ESG 金融ハイレベル・パネル」委員
2019 年~ 金融庁「金融仲介の改善に向けた検討会議」メンバー
2020 年~ 内閣府「価値デザイン経営ワーキンググループ」委員
2021 年~ 内閣府・経済産業省「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」委員
2022 年~ 内閣府「経営デザインシートの普及推進に向けた戦略及び標準的なツール策定の実証調査」委員
2022 年~ 中小企業庁「事業環境変化対応型支援(デジタル化診断)事業 有識者検討会」座長
2023 年~ 経済産業省「ローカルベンチマークガイドブック検討会」委員
2025 年~ 中小企業庁「中小企業の成長のためのイノベーション研究会」委員
1
Copyright © 2025
MORI TOSHIHIKO
All Rights Reserved.
(無断転載禁止)
一般社団法人
日本金融人材育成協会
全国の中小企業の「持続的な稼ぐ力、そのための自己変革」を後押し支援する(主に人材育成の)立場と、同時に、中小企業向け資金供
給を行う、プライム市場上場の地銀の取締役に加え、協同組織金融機関である信用金庫の理事の立場から、以下、意見を記載。
●各企業の経営において、知財・無形資産経営の考え方を、より浸透させるためには、どこに課題があり、どのような取組みを進めていくべきか?
知財・無形資産経営のそもそも論に係るため課題認識とご提案を分けて提示(知財・無形資産ガバナンスガイドラインは、以下、GGL)。
<課題認識>
1. 上場大企業については、「知財・無形資産ガバナンス表彰」などをつうじて、GGL の浸透活用が進んできているが、より浸透させるためには、(例え
ば、事務局説明資料にある)大企業の経営者の知財・無形資産の強みの認識不十分や知財部門の価値創造ストーリー構築への貢献不十
分、結果、企業と投資家の深度ある対話不十分などに表れている、いわゆる「サイロ化」の打破が課題でないか?
2. 上場大企業の「持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」の観点(経済・食料安全保障の観点を含む)からは、上場大企業の「知財・
無形資産であるサプライチェーン&バリューチェーン」を構成している中小企業との連動・連携が重要であり、上場大企業と中小企業が、「持続
的な成長と中長期的な企業価値の向上」に取り組む「パートナー」であるとの認識のさらなる浸透が不可欠ではないか?
3. 中小企業(全企業の雇用の 7 割、付加価値の 5 割強)については、GGL の大企業への浸透に比べ、GGL の存在そのものを認知していな
い企業も多く、GGL の周知・浸透をさらに推進していくべきではないか?
<ご提案>
(1)課題1.2.については、「知財・無形資産経営」に係る取締役会の機能強化を含めた「ガバナンスの強化」
→ (ガバナンス強化に係る個別の論点はここでは取り上げないが、)「サイロ化」の打破や「パートナー」である認識のさらなる浸透のためのツールで
は、例えば、GGL で既に取り上げている「経営デザインシート」(注1)を活用してはどうか?
(注1)経営デザインシートは、経営理念、バックキャストによる将来ビジョン実現のための移行戦略を言語化する簡潔な 1 枚シート。全社を俯瞰するシートに加
え、その下で、各事業部門のシートが束ねられ「サイロ化」を抑止する仕組み。また、経営デザインシートの「ビジネスモデル」にて、パートナーである仕入先、販売先
や協力企業などが可視化できる。
(2)課題3.については、中小事業者が所属している商工会議所・商工会・中央会、中小企業家同友会などへの GGL の周知・浸透
→ GGL(経営デザインシート活用を含む)に関する、商工会議所等での講演や、商工会議所等の経営指導員向け講習への取り組みを強化して
はどうか?
2
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●知財・無形資産の価値化・可視化を通じた投資促進を実現するためには、どのような取組を進めるべきか?
●企業による知財・無形資産の戦略的な開示や、投資家による発信された情報の積極的な活用を通じ、企業と投資家との対話を活性化する
ために、どのような取組を進めるべきか?
「投資促進」や「開示を踏まえた対話の活性化」の課題が示されているので、ご提案は次のとおり。
<ご提案>
(1)上場大企業の「サイロ化」の打破や、上場大企業・中小企業の「パートナー」である認識のさらなる浸透に関する取り組みは、「持続的な成長
と中長期的な企業価値の向上」に資するため、投資家の主たる関心事項の一つであることから、前記の「知財・無形資産経営」に係る取締役会の機
能強化を含めた「ガバナンスの強化」の開示を基にした対話がカギではないか?
(2)(上場していないオーナー経営者が多い)中小企業では、投資家ではなく金融機関からの借入に伴うデッドガバナンスの観点から、借入の資
金使途(例えば、人的資本投資では運転資金借入、環境投資では CO2 計測や削減の設備投資)などの可視化ツールである経営デザインシート
を金融機関に開示しながら、将来キャッシュフローの増加の根拠(中小企業版 ROIC 逆ツリー)を説明しながら対話する。国が開発し公表している
経営デザインシートにもとづく知財・無形資産の開示であれば、金融機関にても、内部の融資審査に資するのではないか?
→ GGL(経営デザインシート活用を含む)に関する、商工会議所等での講演に加え、貸し手の金融機関に向けた講演もさらに推進してはどうか?
→ 知財・無形資産の利活用の具体的な国の施策である「企業価値担保権」の施行(2026 年 5 月 25 日)は、金融業界向けのみならず、企
業価値担保権を使って融資を受ける中小企業向けにも、GGL の普及浸透のよい機会になるのではないか?
→ (上場していないオーナー経営者が多い)中小企業においても、ガバナンス強化が企業価値向上に資する(注2)ため、コーポレートガバナンスの
観点から、取締役会や社外取締役による内外の目を取り入れていくことが重要ではないか?
→ 経済産業省・中小企業庁による「売上高 100 億円という高い目標を目指す経営者を応援する取り組み(100 億宣言など)」においても、ガ
バナンス体制強化の観点から、未上場であっても、GGL(経営デザインシート活用を含む)に係る理解浸透が不可欠ではないか?
(注2)中小企業におけるガバナンス体制の強化と成長戦略(2025 年版中小企業白書(概要)p21)
『中小企業でも、ガバナンス体制は財務戦略に影響を及ぼす。同族企業の財務戦略をガバナンス体制別に見ると、取締役会や社外取締役による内外の目を取り
入れている企業では「財務内容の健全化」「部門・製品別のコスト管理」など、成長やリスク管理のために重要な戦略に取り組んでいる割合が高い。』
3
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All Rights Reserved.
(無断転載禁止)
資料9
参考1
コーポレートガバナンス改革の実質化に向けた
アクション・プログラム 2025
2025 年 6 月 30 日
金融庁
Ⅰ.はじめに
2014 年のスチュワードシップ・コード策定、2015 年のコーポレートガバナ
ンス・コード適用開始から約 10 年が経過した。両コードの下で、コーポレー
トガバナンス改革には一定の進捗が見られる。他方、企業の持続的な成長と中
長期的な企業価値の向上に向け、形式的な対応にとどまることなく、企業と投
資家の双方の取組におけるコーポレートガバナンス改革の実質化が重要であ
る、との指摘がなされている。
こうした中、
「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コ
ードのフォローアップ会議」での議論を踏まえ、2023 年 4 月に「コーポレート
ガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」が公表され、
「情報
開示の充実をはじめ、企業と投資家の自律的な意識改革を促進するための施策
や企業と投資家の建設的な対話の実効性を向上させるための施策」を基本とす
ることや、両コードの改訂時期について従前の見直しサイクルにとらわれない
こと等が示された。
また、2024 年 6 月に公表された「コーポレートガバナンス改革の実践に向け
たアクション・プログラム 2024」においても、企業の持続的な成長と中長期的
な企業価値の向上という両コードの「目的に立ち返り、収益性や成長性を意識
した経営の実現に向けた取組みを中心とし、スチュワードシップ活動の実質化
を含む具体的な取組みの検証や共有を通じて、(中略)コーポレートガバナン
ス改革の「実践」に向けた施策を推し進めていく」との方向性が示された。
引き続き、以下を踏まえ、企業と投資家の自律的な意識改革に基づくコーポ
レートガバナンス改革の実質化を促しつつ、企業の持続的な成長と中長期的な
企業価値向上に真に寄与する「緊張感ある信頼関係」に基づく対話の促進に向
け、コーポレートガバナンス・コードの見直しを行う等、必要な環境整備を推
進していく。
なお、コード見直しの際には、上場企業の対応コスト・開示負担に配慮し、
策定・改訂時から一定期間が経過し実務への浸透が進んだ箇所等を削除・統合・
簡略化し、前回コード改訂時(2021 年)以降に法制化された内容との重複排除
に努めるなど、コードのスリム化/プリンシプル化も同時に検討する。あわせ
1
て、コードがプリンシプルベースかつコンプライ・オア・エクスプレインのア
プローチを採っている趣旨の再周知に努める。
Ⅱ.フォローアップと今後の方向性
1.稼ぐ力の向上
会社は、株主から経営を付託された者としての責任(受託者責任)をはじめ、
様々なステークホルダーに対する責務を負っていることを認識して運営され
ることが重要である。コーポレートガバナンス・コードは、こうした責務に関
する説明責任を果たすことを含め会社の意思決定の透明性・公正性を担保しつ
つ、これを前提とした会社の迅速・果断な意思決定を促すことを通じて、いわ
ば「攻めのガバナンス」の実現を目指すものである。同コードは、企業におけ
るリスクの回避・抑制や不祥事の防止といった「守りのガバナンス」を過度に
強調するのではなく、むしろ健全な企業家精神の発揮を促し、企業の持続的な
成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼を置いている。今一度、コ
ード策定時の精神に立ち返り、「稼ぐ力」の向上に資するコーポレートガバナ
ンス改革を推進することが重要である。
2023 年 3 月に、東京証券取引所(以下「東証」)よりプライム市場・スタン
ダード市場上場企業に向けて行われた「資本コストや株価を意識した経営の実
現に向けた要請」に対しては、2025 年 5 月末時点でプライム市場上場企業の
92%、スタンダード市場上場企業の 51%が開示を行う等、株主・投資者に向き
合いながら企業価値向上に取り組む上場企業が増えている。同要請には、「自
社株買いや増配のみの対応や、一過性の対応を期待するものではなく、継続し
て資本コストを上回る資本収益性を達成し、持続的な成長を果たすための抜本
的な取組みを期待する」旨や、
「持続的な成長の実現に向けた知財・無形資産創
出につながる研究開発投資・人的資本への投資や設備投資、事業ポートフォリ
オの見直し等の取組みを推進することで、経営資源の適切な配分を実現してい
くことが期待され」る旨が明記されている。もっとも、日本企業が有する現預
金は長期間にわたり増加傾向が継続している等、持続的な成長の実現に向けた
経営資源の適切な配分に関する取組が必ずしも十分でないとの指摘がある。
〔今後の方向性〕
引き続き、東証において、資本コストや株価を意識した経営の実現に向
けた企業の取組や、企業と投資家の対話促進を後押しする。
持続的な成長の実現に向けた経営資源の最適な配分の実現のため、自社
の経営戦略・経営課題との整合性を意識した取締役会の実効的な監督や
2
更なる開示が促進されるよう、以下の点にも留意しつつ、コーポレート
ガバナンス・コードの見直し等を検討する。
① 経営資源の配分先には、設備投資・研究開発投資・地方拠点の整備等・
スタートアップ等を含む成長投資、人的資本や知的財産への投資等、
様々な投資先が考えられ、これらの多様な投資機会があることを認識
することが重要である。
このうち、知的財産等の無形資産への投資については、コーポレート
ガバナンス・コードと整合的な取組の促進に向け、引き続き関係機関
との連携や事例の共有を進める。
② 投資等のための経営資源の配分(上記①)に関し、現状の資源配分が
適切かを不断に検証しているか、例えば現預金を投資等に有効活用で
きているかの検証・説明責任の明確化を検討する(cash hoarding 問
題)
。
また、人的資本への投資に関する開示を充実させる観点から、有価証券
報告書における従業員給与・報酬に関する記載事項を集約するとともに、
新たに企業戦略と関連付けた人材戦略や従業員給与・報酬の決定に関す
る方針、従業員給与の平均額の前年比増減率等の開示を求める。
2.情報開示の充実・投資家との対話促進
2025 年 6 月、エンゲージメントを一層実効的なものとするため、建設的な目
的を持った対話に資する協働エンゲージメントの促進や、実質株主の透明性向
上に向けて、スチュワードシップ・コードを改訂した。あわせて、同コードの
策定・改訂時から一定期間が経過し実務への浸透が進んだ箇所などを中心に、
プリンシプルベースの趣旨に立ち返り、記載を削除・統合・簡略化した。今後
は、改訂コードが企業価値の向上や持続的成長に向けた企業と投資家の建設的
な「目的を持った対話」につながるような形で適用されるよう、特にコード本
来の趣旨とは異なる形で運用され対話が阻害されることとならないよう留意
しつつ、フォローアップしていくことが重要である。
また、スチュワードシップ活動の実質化に向けて、運用機関・アセットオー
ナー・議決権行使助言会社を中心に、スチュワードシップ活動の取組例を集約・
分析した結果を「スチュワードシップ活動の実態に関する調査」として公表し
た。
有価証券報告書の定時株主総会前の開示(以下「総会前開示」)については、
2024 年 12 月に「有価証券報告書の定時株主総会前の開示に向けた環境整備に
3
関する連絡協議会」を設置し、官民の関係者と連携して、適切な有価証券報告
書の開示時期の検討や実務上の課題の洗い出しを行った。さらに、取組を推進
するため、2025 年 3 月 28 日、金融担当大臣より全上場企業に対する要請文を
発出し、有価証券報告書の提出は株主総会の 3 週間以上前に行うことが最も望
ましいと考えられることを示しつつ、これまで総会前開示に取り組んでいない
上場企業に対しては、その第一歩として、まずは有価証券報告書を株主総会の
前日ないし数日前に提出することの検討を要請した。
東証においては、決算情報及び適時開示情報の英文開示の義務化を含む上場
規程の改正が行われ、2025 年 4 月 1 日に施行された。また、2024 年 10 月、グ
ローバル投資家の期待に応える企業群の「見える化」に対応するため、JPX プ
ライム 150 指数の構成銘柄に関して、資本収益性や市場評価、成長性等に関す
る指標や独立社外取締役の選任状況、女性役員比率等のコーポレートガバナン
スの状況をリストとして取りまとめ、公表した。
また、東証より、
「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の
要請に関して、
「投資者の視点を踏まえたポイント」や、
「投資者の目線とギャ
ップのある事例」も公表された。
運用方針や時間軸に関し様々な考え方を持った投資家が存在することは、多
様な投資家で構成される厚みのある市場が確保されるための前提となる。その
上で、ショートターミズムに陥ることなく、建設的な「目的を持った対話」を
行うことを通じて、中長期的な企業価値の向上や持続的成長を促すためには、
「緊張感ある信頼関係」が不可欠である。信頼関係の構築には、企業側の信頼
性・解像度の高い開示と、それを踏まえた投資家の深度ある企業分析を基礎に、
時には従来の形式にとらわれない様々な手段を駆使した取組も有用である。他
方、信頼関係を損ないかねない姿勢での対話は、企業価値の向上につながらず、
企業と投資家の双方にとって益とならない。スチュワードシップ・コード策定
以来、企業と投資家の対話に一定程度の進展が見られる中、今後は、企業の成
長段階と投資家の運用方針の組み合わせ等に応じて、きめ細やかに論じる必要
があるとの指摘がある。
〔今後の方向性〕
建設的な対話の更なる促進のためのスチュワードシップ活動の質の向上
や投資家との目線の合った情報開示の充実に向け、改訂スチュワードシ
ップ・コードに基づく対話の実施状況を確認し、企業と投資家の議論の
場を設け、
「スチュワードシップ活動の実態に関する調査」で共有する事
例を更に充実させる等、取組事例の収集・共有を継続する。
4
上場企業の総会前開示の取組を更に促すべく、総会前開示に係る要請を
受けた企業の対応状況を有価証券報告書レビューによりフォローアップ
しつつ、コーポレートガバナンス・コードの見直し等を検討するととも
に、環境整備に向け制度横断的な検討を進める。
企業による株主総会前の適切な情報提供の取組が容易となるよう、株主
総会資料の書面交付の不要化・電子化を含めた株主総会に係る法制面の
整理等の推進策について、関係省庁(法務省・経済産業省)との連携を進
める。
あわせて、投資判断への有用性と企業負担のバランスに配慮する観点か
ら、有価証券報告書の記載事項の整理(スリム化含む)を検討する。
3.取締役会等の機能強化
取締役会の実効性向上に向けた取組を促進するため、社外取締役と投資家の
対話や、取締役会事務局による取組等について具体的な事例を収集・分析した
結果を「取締役会の機能強化の取組みに関する事例集」として公表した。
上場企業においては、自社を取り巻く様々な環境を考慮し、創意工夫を施す
ことにより各機能を実質的かつ十分に発揮させることが重要である。取締役会
が迅速・果断な意思決定に加えて、独立した客観的な立場から経営陣・取締役
に対する実効性の高い監督を行うことを更に後押しする観点からは、取締役会
のあるべき姿についての本質的な議論を行うことが重要である。特に、グロー
バルに活躍する上場企業については、意思決定・監督を行うボード機能と経営
を担うマネジメント機能の分離を進めるべきとの指摘がある。
取締役会が上記の役割を果たすためには、取締役会の議論が実効的なものと
なるよう、議題設定や運営の工夫が必要であり、執行側のみにおもねることな
く自律的に機能し、議長や独立社外取締役を含む取締役をサポートする取締役
会事務局が重要な役割を果たす。取締役会の機能がモニタリングに特化すれば、
事務局の機能は監督と執行をつなぐ結節点として一層重要となるとの指摘や、
有事においては事務局機能の重要性が更に増すとの指摘がある。
独立社外取締役については、2024 年末時点でプライム上場企業の 98%が 3
分の 1 以上の独立社外取締役を選任するなど、形式は整ってきたとの評価があ
る。他方、企業と一定の資本関係にある他社から連続的・継続的に派遣してい
る役員を独立役員として届け出ている事例が見られ、独立性をその実質面にお
いて担保する観点から、企業と一定の関係性にある独立役員が、類型的に「一
般株主と利益相反の生じるおそれがない者」と考えることができるかどうかに
5
ついて、検討を進めるべきとの指摘がある。
コーポレートガバナンス・コードの策定から 10 年以上が経過し、独立社外
取締役には、企業が経営環境の変化を見通し、経営戦略に反映させる上で、重
要な役割を果たすことが求められ、取締役会の重要な意思決定を通じ経営の監
督を行うべきことが再認識される必要があるとの指摘がある。また、当該企業
に限られない幅広い経営経験を備えた人材を取締役会に迎え、そのスキルを取
締役会の議論に反映させることは、取締役会の機能強化に大きく貢献すると期
待される。こうした独立社外取締役に期待される役割を踏まえ、効果的な取締
役会の実効性評価の実施、適切な選解任手続の確保、研修等を通じた能力向上
により、質の高い十分な数の独立社外取締役を選任することは、引き続き重要
である。特に、独立した客観的な立場から経営陣・取締役に対する実効性の高
い監督を行うという取締役会に求められる役割からすれば、独立社外取締役の
質の担保・向上も見極めながら、いずれはグローバルに活躍するプライム市場
上場企業について、過半数の独立社外取締役が選任されるべきとの指摘がある。
加えて、監査役等が担うべき機能の今日的な役割を再検討すべきとの指摘があ
る。
〔今後の方向性〕
独立社外取締役の果たすべき役割や取締役会事務局(コーポレートセク
レタリー)の機能強化について、企業の担当者や様々な関係者が実務上
の課題やそれへの対応を議論・共有する場として、
「コーポレートガバナ
ンス実践コンソーシアム(仮)」を立ち上げ、「取締役会の機能強化の取
組みに関する事例集」で共有する事例を更に充実させる。
4.市場環境上の課題の解決
(1)政策保有株式
上場企業による政策保有株式の開示については、令和 5 年度の有価証券報告
書レビューにおいて、
「株式の保有状況」の開示のうち、いわゆる政策保有目的
から純投資目的に保有目的を変更した株式の開示状況を検証したところ、実質
的に政策保有株式を継続保有していることと差異がない状態になっていると
の課題を識別した。これを踏まえ、企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
を行い、株式の保有目的を「政策保有」から「純投資」に変更した場合に必要
な開示事項等を追加するとともに、企業内容等の開示に関する留意事項につい
て(開示ガイドライン)を改正し、純投資目的の概念を明確化した。
また、2025 年 4 月に公表した「令和 6 年度 有価証券報告書レビューの審査
6
結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項等」において、以下の指摘がなさ
れた。
政策保有株式の発行会社が、主に発行会社の安定株主の確保を理由に、政
策保有株式の保有会社に対して、発行会社と保有会社間の既存の取引の縮
減を示唆することなどにより政策保有株式を売らせないように圧力をかけ
ている事例が複数識別されたこと
仮に、コーポレートガバナンスに関する報告書上は、政策保有株式の売却
を妨げるべきではないとの補充原則をコンプライしていると対外的に公表
しているにもかかわらず、担当者レベルで圧力をかけていたり、経営層の
指示のもと会社として組織ぐるみで圧力をかけているような実態がある場
合には、コーポレートガバナンス・コードの趣旨を損なうとともに、ガバ
ナンスの観点からも重大な問題がある可能性があると考えられること
〔今後の方向性〕
引き続き、政策保有株式の開示(株式の保有目的変更を含む)に関する
課題や開示例等を分析・公表する。
政策保有株式を売らせないように圧力をかけている事例が見られること
については、上記の有価証券報告書レビューの記載も踏まえ、引き続き、
コーポレートガバナンス・コードの趣旨に照らした実務となるよう、実
効性確保のあり方を含め、対応を検討する。
(2)大量保有報告制度
2024 年 5 月に成立した金融商品取引法等の改正を踏まえ、企業と投資家の
建設的な対話を促進する観点から、大量保有報告制度における「共同保有者」
の範囲の明確化、複数の投資家による潜脱的な報告書不提出など市場の公正性
を脅かしかねない事例に適切に対応するため、「みなし共同保有者」の範囲を
拡充すること等を内容とする、政令・内閣府令案等を公表した。
大量保有報告制度の違反抑止については、2008 年金融商品取引法改正によ
り、大量保有報告書等の不提出及び虚偽記載が課徴金制度の対象とされたが、
大量保有報告制度違反に対する摘発事例が少ないことに加えて、大量保有報告
制度に係る課徴金額の水準が低いため、制度の実効性が確保されていないとの
指摘がある。
7
〔今後の方向性〕
違反行為への抑止力を高める観点から、当局の対応を強化するとともに、
大量保有報告制度違反の課徴金額の水準引上げを検討する。
企業と投資家の建設的な対話を促進する観点からは、市場及び証券取引
の公正性を高めることが重要である。今般の内閣府令改正で、大量保有
報告書を適切に提出せずに公開買付けを開始するような事例を防止すべ
く、公開買付届出書の記載事項を見直し、
「大量保有報告書等の提出状況」
の記載欄を新設したことも踏まえ、引き続き必要な施策を検討・実施す
る。
(3)親子上場等
資本コストや株価を意識した経営を踏まえ、少数株主保護に加えて、中長期
的な企業価値向上に向けた経営資源の適切な配分の観点からも、親子上場の在
り方への投資家の関心が高まっている。一方で、投資家からは、依然として、
親子上場の形態をとる意義について、グループ又は子会社の企業価値向上や資
本効率の観点から最適かどうかについての検討が行われていないとの指摘や、
子会社における親会社からの独立性やガバナンス体制の実効性に関する懸念
の声も寄せられている。こうした状況を踏まえ、東証において、
「従属上場会社
における少数株主保護の在り方等に関する研究会」での議論も経て、グループ
経営や少数株主保護の在り方に関する検討・開示を促すため、2023 年 12 月に
「少数株主保護及びグループ経営に関する情報開示の充実」に向けた要請を、
2025 年 2 月に「親子上場等に関する投資者の目線」を公表した。
MBO・支配株主による完全子会社化が増加する中、一般株主保護の観点から、
特別委員会の更なる機能発揮や一般株主の投資判断に必要な情報開示の充実
を促すため、東証において、企業行動規範の見直しを実施した。
〔今後の方向性〕
東証において、グループ経営や少数株主保護に関する検討・開示を推進
する。また、上場子会社や持分法適用関連会社の独立社外取締役の独立
性確保等、少数株主保護の観点から必要な上場制度の整備についても、
検討を行う。
8
5.サステナビリティを意識した経営
先進的な企業においては、サステナビリティに関する業務執行側のみならず
監督側を含めた体制や責任の所在を明確化する、経営会議等で審議され取締役
会へ報告した内容について開示する等、取組が進みつつある。こうした中、コ
ーポレートガバナンス・コード(2021 年 6 月改訂)において、サステナビリテ
ィを巡る取組に関する取締役会の責任が明確化されたことも踏まえ、更なる取
組の進展が重要との指摘がある。また、人的資本への投資を含めたサステナビ
リティ経営が財務情報につながるとの認識の下、財務情報と非財務情報の関連
性を説得的に説明することが引き続き重要との指摘がある。
サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、サステナビリティ情報の開示に係
る国際基準(ISSB 基準)と機能的に同等な国内基準(SSBJ 基準)を 2025 年 3
月に公表した。
有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示については、金融審議
会において議論が行われているところ、ISSB 基準と機能的に同等な国内基準に
よる開示の適用対象を東証プライム市場上場会社の全部又は一部とすること、
そのうち時価総額 3 兆円以上の企業の適用時期を 2027 年 3 月期とすること等
を基本線としつつ、国内外の動向や保証に関する検討状況等を注視しながら柔
軟に対応していくことについて、大筋の合意が得られた。また、サステナビリ
ティ情報に対する保証等については、保証業務実施者に求められる規律のあり
方として、登録制度や業務制限、義務及び保証基準などに関する議論を行って
いる。
取締役・役員におけるジェンダーを含めた多様性確保、コーポレート・カル
チャーを意識した経営や対話について、「取締役会の機能強化の取組みに関す
る事例集」等において具体的な事例を共有した。
また、企業を取り巻く社会環境の不確実性が高まり、サプライチェーン全体
を通じて地政学リスク、サイバーセキュリティリスク等の様々なリスクにさら
される中、有事におけるレジリエンスを意識することが引き続き重要である。
〔今後の方向性〕
サステナビリティを意識した経営に関する取組については、
「コーポレー
トガバナンス実践コンソーシアム(仮)」において引き続き事例を収集し、
関係者間で共有し底上げをはかる。
諸外国におけるサステナビリティ情報開示の導入の動向に留意しつつ、
国際的な比較可能性を確保したサステナビリティ開示・保証制度のあり
9
方について、議論を深める。特に、サステナビリティ情報は、各企業が自
社にとって重要と考える情報を判断し、開示するものとされている上に、
見積り情報や定性的な情報が多く含まれるという点で不確実性がある。
このため、企業は、虚偽記載等の責任を問われることへの懸念から、情
報開示に消極的になる可能性がある。こうした情報の特性を踏まえた上
で、虚偽記載等の責任の範囲を明確化し、その責任を問われるリスクの
低減を図ることは、企業の積極的な情報開示を促すことになるものと考
えられる。このため、サステナビリティ情報を含む非財務情報の虚偽記
載等に対する責任のあり方の検討(セーフハーバー・ルールの整備)を
行う。
サステナビリティ開示に関し、ISSB において新たにリサーチプロジェク
トが始まる人的資本の分野につき、投資家のニーズを充足した基準開発
に貢献すべく、国内の関係者と連携しながら、国際的な議論への参画や
意見発信等を進める。
(以
10
上)
資料10
参考2
コーポレートガバナンス・コード
~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~
2021 年 6 月 11 日
株式会社東京証券取引所
【原則3-1.情報開示の充実】
上場会社は、法令に基づく開示を適切に行うことに加え、会社の意思決定の透明
性・公正性を確保し、実効的なコーポレートガバナンスを実現するとの観点から、
(本コードの各原則において開示を求めている事項のほか、)以下の事項について開
示し、主体的な情報発信を行うべきである。
(ⅰ)会社の目指すところ(経営理念等)や経営戦略、経営計画
(ⅱ)本コードのそれぞれの原則を踏まえた、コーポレートガバナンスに関する
基本的な考え方と基本方針
(ⅲ)取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続
(ⅳ)取締役会が経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行うに当た
っての方針と手続
(ⅴ)取締役会が上記(ⅳ)を踏まえて経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候
補の指名を行う際の、個々の選解任・指名についての説明
補充原則
3-1① 上記の情報の開示(法令に基づく開示を含む)に当たって、取締役会は、ひな
型的な記述や具体性を欠く記述を避け、利用者にとって付加価値の高い記載と
なるようにすべきである。
3-1②
上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範
囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。
特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、
英語での開示・提供を行うべきである。
3-1③ 上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについて
の取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等に
ついても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具
体的に情報を開示・提供すべきである。
特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社
の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行
い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組
みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。
- 12 -
ってはならないのであって、支配株主を有する上場会社には、少数株主の利益を保護
するためのガバナンス体制の整備が求められる。
【原則4-1.取締役会の役割・責務(1)】
取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)を確立し、戦略的な方向付けを
行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、具体的な経営戦略や経営計画等につい
て建設的な議論を行うべきであり、重要な業務執行の決定を行う場合には、上記の
戦略的な方向付けを踏まえるべきである。
補充原則
4-1① 取締役会は、取締役会自身として何を判断・決定し、何を経営陣に委ねるのか
に関連して、経営陣に対する委任の範囲を明確に定め、その概要を開示すべき
である。
4-1②
取締役会・経営陣幹部は、中期経営計画も株主に対するコミットメントの一
つであるとの認識に立ち、その実現に向けて最善の努力を行うべきである。仮
に、中期経営計画が目標未達に終わった場合には、その原因や自社が行った対
応の内容を十分に分析し、株主に説明を行うとともに、その分析を次期以降の
計画に反映させるべきである。
4-1③
取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏ま
え、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用に
主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計
画的に行われていくよう、適切に監督を行うべきである。
【原則4-2.取締役会の役割・責務(2)】
取締役会は、経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
を主要な役割・責務の一つと捉え、経営陣からの健全な企業家精神に基づく提案を
歓迎しつつ、説明責任の確保に向けて、そうした提案について独立した客観的な立
場において多角的かつ十分な検討を行うとともに、承認した提案が実行される際に
は、経営陣幹部の迅速・果断な意思決定を支援すべきである。
また、経営陣の報酬については、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映さ
せ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきであ
る。
- 15 -
補充原則
4-2①
取締役会は、経営陣の報酬が持続的な成長に向けた健全なインセンティブと
して機能するよう、客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的
な報酬額を決定すべきである。その際、中長期的な業績と連動する報酬の割合
や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである。
4-2②
取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリテ
ィを巡る取組みについて基本的な方針を策定すべきである。
また、人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする
経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な
成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。
【原則4-3.取締役会の役割・責務(3)】
取締役会は、独立した客観的な立場から、経営陣・取締役に対する実効性の高い
監督を行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、適切に会社の業績等の評価を行
い、その評価を経営陣幹部の人事に適切に反映すべきである。
また、取締役会は、適時かつ正確な情報開示が行われるよう監督を行うととも
に、内部統制やリスク管理体制を適切に整備すべきである。
更に、取締役会は、経営陣・支配株主等の関連当事者と会社との間に生じ得る利
益相反を適切に管理すべきである。
補充原則
4-3①
取締役会は、経営陣幹部の選任や解任について、会社の業績等の評価を踏ま
え、公正かつ透明性の高い手続に従い、適切に実行すべきである。
4-3②
取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定で
あることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、十分な時間と資源
をかけて、資質を備えたCEOを選任すべきである。
4-3③
取締役会は、会社の業績等の適切な評価を踏まえ、CEOがその機能を十分
発揮していないと認められる場合に、CEOを解任するための客観性・適時性・
透明性ある手続を確立すべきである。
4-3④
内部統制や先を見越した全社的リスク管理体制の整備は、適切なコンプライ
アンスの確保とリスクテイクの裏付けとなり得るものであり、取締役会はグル
ープ全体を含めたこれらの体制を適切に構築し、内部監査部門を活用しつつ、
その運用状況を監督すべきである。
- 16 -
資料11
参考3
企業成長 の 道筋
投資家との対話の質を高める
知財・無形資産の開示
はじめに
2021年6月にコーポレートガバナンス・コード(※1)の改訂が行われ、補充原則3-1③及び補充原
則4-2②において、知的財産への投資に関する情報開示が求められるようになった。本改訂は、
特許権をはじめとした知的財産の保有状況等の開示を無理に求めるものではなく、企業のサス
テナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取組に関連する形で先述
の補充原則が設けられており、知的財産が企業経営に果たす役割への期待が高まっていること
を示している。
さて、こうした改訂の背景を踏まえ、企業のサステナビリティといった視座をもって自社の知
財・無形資産を整理し、企業経営における役割の明確化に取り組めている知財部門・IR部門担当
者はどれほどいらっしゃるだろうか。知財・無形資産ガバナンス調査報告書(※2)によれば、調査
対象となった企業のコーポレートガバナンス報告書の記載状況のうち、形式的コンプライ、すなわ
ちコンプライとしているものの、知財・無形資産に関する記載が無い状態となっている開示が増
加していることが示された。このことからも、多くの企業において、経営レベルでの高い視座で知
財・無形資産を整理・開示することの難しさを感じている、又はそもそもの意義を感じられていな
いといった状況に置かれているのではないだろうか。
本書の作成にあたって実施された調査研究(※3)では、知財・無形資産の開示を取り巻く上記
の課題を端緒として、「ステークホルダーとの建設的な対話」という切り口から、その取組の意義
や企業経営における効果の側面から調査を実施した。
本調査においては、中長期視点で企業評価に取り組む国内外の投資家や、先進的な開示の取組
を進められている国内外の企業を対象としたヒアリングを実施したほか、実際に開示に課題を抱
える企業を対象に、長年運用機関にて辣腕を振るわれてきた投資家や知財、開示のスペシャリス
トからなる専門家チームを派遣し、現場の生の悩みに向き合いながら開示改善に向けた伴走支
援等を中心に取り組んだ。
こうした調査を経て、「ステークホルダーとの建設的な対話」に向けた知財・無形資産の開示に
おいて、「企業成長の道筋を示すこと」の重要性が、各調査のほとんどの場面で繰り返し示される
こととなった。本書では、この「企業成長の道筋の示し方」に焦点を当て、いま現在開示の取組に
課題を抱えている企業にとっての道しるべとなるよう、初めに取り組むべき活動や検討の進め方
について、豊富な事例をもとにまとめている。
本書を読み進めた読者が各自の企業にて、開示の改善を主導することはもとより、企業価値の
向上に貢献するキーパーソンとして活躍いただけることを切に願う。
※1 株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード ~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のため
に~」(2021年6月11日) https://www.jpx.co.jp/news/1020/nlsgeu000005ln9r-att/nlsgeu000005lne9.pdf
2
※2 知財ガバナンス研究会/知財コンサル等分科会「知財・無形資産ガバナンス調査報告書」第23回知財投資・活用戦略の有
効な開示及びガバナンスに関する検討会 プレゼンテーション(3) (2024年3月22日)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/dai23/siryou6.pdf
※3 令和6年度特許庁産業財産権制度問題調査研究「ステークホルダーとの建設的な対話に資する知財経営の開示に関する
調査研究」
1
本書のサマリ
本書では、令和6年度に実施した調査研究の結果から得られたステークホルダーとの建設的な
対話における要点や、企業価値向上に向けた考え方・取組方法について、各章に豊富な事例や投
資家・企業の生の声をふんだんに紹介しながら発信している。
そのため分量がやや多くなっていることから、まずは事例集を通して押さえていただきたい内
容について大まかに説明する。
Summary
コーポレートガバナンス・コードの策定・公表とこれに関連する市場改革によって、日本市場は長期
にわたる低ROE・株価低迷の時代から今まさに脱しようとしている。
企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上は、低成長時代からの脱出に不可欠であるが、
こうした果実はコーポレートガバナンス・コードに示された諸原則の受け身的・形式的な実施では得
ることはできない。
経営戦略は一度策定したら完成するのではなく、経営層や部門を横断して何度もその妥当性や不
備などを社内でフィードバックしあうことによって、はじめて強固になるのである。
また、社内でのブラッシュアップが終わった後に、今度はその内容を開示し、投資家との対話を行う
ことを強く推奨する。投資家は受託者責任のもと、企業成長に対して厳しくも建設的な対話を行うこ
とのできる、企業にとってはパートナーともなり得る存在である。市場環境や他社の動向も踏まえ、
「なぜ貴社のビジネスモデルで成長できるのか」といった点について、外部目線からの有益な質問と
洞察を得ることができる。
このときの説明で重要になってくるのが、ほかでもない知財・無形資産(※1)である。
知財・無形資産は他社との差別化要素や持続的な成長エンジンといった、企業にとってまさに成長
の源泉といえるものであり、企業成長の道筋を理解する上で最も重要な要素の一つといえる。
気を付けるべきは、こうしたビジネスモデルを支え、企業成長に資する知財・無形資産は簡単には
特定できないということである。
特許権やノウハウ、現在競争力のある技術は説明しやすく、おそらく競合を含めて似たような説明
をしているだろう。
しかし、真に説明すべきは、貴社の価値創造において本質的に効果を発揮している知財・無形資産である。
経営戦略やビジネスモデルを支える知財・無形資産を特定するために、既に述べたように社内・社
経営戦略やビジネスモデルを支える知財・無形資産を特定するために、既に述べたように社内・社
外(投資家)で積極的な対話機会を設け、企業成長の道筋を何度も磨き上げることが効果的である。
外(投資家)で積極的な対話機会を設け、企業成長の道筋を何度も磨き上げることが効果的である。
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こうした取組が、知財・無形資産に関する開示の充実化に貢献するのみならず、経営戦略自体も高
こうした取組が、知財・無形資産に関する開示の充実化に貢献するのみならず、経営戦略自体も高
度化し、開示に向けた準備がひいては企業価値の向上にもつながる。
度化し、開示に向けた準備がひいては企業価値の向上にもつながる。
※1 特許権、商標権、意匠権といった知財権に限られず、技術、ブランド、デザイン、コンテンツ、ソフトウェア、データ、ノウハ
ウ、顧客ネットワーク、信頼・レピュテーション、バリューチェーン、サプライチェーン、これらを生み出す組織能力・プロセ
スなど、幅広い知財・無形資産を含んでいる。(知財・無形資産ガバナンスガイドラインVer.2.0)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/pdf/v2_shiryo1.pdf
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目次
第1章 ステークホルダーとの建設的な対話に向けた知財・無形資産開示の意義 ・・・・・・・・・・
5
第2章 本書の策定に向けた調査研究の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23
第3章 企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27
第4章 開示の改善を経て見えてきた投資家との建設的な対話を阻む要因
第5章 建設的な対話に有効な知財・無形資産開示のチェックリスト
・・・・・・・・・・・・・ 77
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 85
参考資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88
有識者委員会構成・謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 89
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1
第 章
ステークホルダーとの
建設的な対話に向けた
知財・無形資産開示の意義
5
1
第 章
ステークホルダーとの建設的な対話に向けた
知財・無形資産開示の意義
いま、上場企業に求められる「改革」
知財・無形資産の開示を取り巻く変化
上場企業を取り巻く「改革」の流れにおいて、コーポレートガバナンス・コードが果たす役割につ
日本企業における長期的なROE(※1)や株価の低迷、日本経済全体を取り巻く経済成長の停滞
といった状況を受けて、2013年6月14日の閣議決定で「日本再興戦略」が打ち出され、企業統治
いてはご理解いただけたであろう。この中で、知財・無形資産に関しても、この企業価値向上に向
けた取組や改善に向けた検討の対象として示されている。
の見直しが重要項目とされた。この結果として、2015年6月に、金融庁・東京証券取引所が共同で
気候変動や人口減少等の社会課題に加え、地政学的対立、サイバーリスク、インフレーション等
「コーポレートガバナンス・コード(※2)」を策定し、上場企業への適用が開始された。
の新たな課題が現れてくる中、企業における知財・無形資産の投資・活用に関する取組は、近年、
このコーポレートガバナンス・コードについて、単に企業統治に関連した「規則」として捉えてい
大きく変化している。
る読者がいるとしたら、それは今現在起きている日本の市場改革・企業改革の波を捉え損ねてい
この契機の一つになったのが、2021年6月に行われたコーポレートガバナンス・コードの改訂で
ることになる。このコードは、確かにその一側面として、企業に対して自社の企業統治の取組等に
ある。本改訂においては、特に知財・無形資産に関連する事項として、二つの補充原則が追加さ
関する情報開示を促すものであるが、その本質は、各原則で示された内容に対して「コンプライ・
れた。
オア・エクスプレイン(※3)」の手法で自らの企業活動を把握し、改善に向けて継続した改革を進
めることにある。冒頭に述べた通り、本コードの策定の背景には日本企業に対する国際的な評価
やプレゼンスの低迷に対するテコ入れといった思想があり、本コードが示す「透明・公正かつ迅
速・果断な意思決定を行う仕組み」に必要な各原則を充実化していくことで、建設的な起業家精
神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることを主眼に置いて
いる(コード原案序文7項。同趣旨がコーポレートガバナンス・コードの副題にもなっている)。こう
知財経営に関連する2021年6月コーポレートガバナンス・コード改訂のポイント
補充原則3-1③
(略)また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意
識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。(略)
した目的意識をもったコーポレートガバナンス・コードの各原則は、いわば企業価値向上に向けて
補充原則4-2②
有効と考えられる取組の指針が示されているものであり、チェックリスト的に自社の取組状況を
取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについ
コンプライ・オア・エクスプレインするだけではなく、例えば一度コンプライとなった原則について
て基本的な方針を策定すべきである。
も、自社の置かれた状況の変化に応じて、柔軟にその取組を見直しながら、企業価値の向上に向
けて改善を継続することが重要となる。
また、人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や、事
業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべ
このように、東証を中心とした企業価値向上に向けた取組の流れはもうすでに読者の周辺を取
きである。
り巻いており、この流れに的確に乗れるか否かが、今後の持続的な成長や企業価値向上の分水
嶺になるといっても過言ではない。現状の情報開示に留まらない、各原則で示された事項に対す
る企業内での継続的な改善検討が求められている。
※1 Return On Equityの略称で、和訳は自己資本利益率。ROE(自己資本利益率)は、投資家が投下した資本に対し、企業がど
れだけの利益を上げているかを表す重要な財務指標。ROEの数値が高いほど経営効率が良いと言える。(野村證券
https://www.nomura.co.jp/terms/english/r/roe.html)
※2 上場企業が行う企業統治(コーポレートガバナンス)において、ガイドラインとして参照すべき原則・指針。(企業年金連合会
https://www.pfa.or.jp/yogoshu/ko/ko19.html)
※3 機関投資家や上場企業が、その模範的な在り方を定めたスチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードの受
け入れを表明する上で、各原則を順守するか、順守しないのであればその理由を顧客や株主に説明するよう求めること。
(野村證券 https://www.nomura.co.jp/terms/japan/ko/A02756.html)
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第1章 ステークホルダーとの建設的な対話に向けた知財・無形資産開示の意義
ここでいう知財・無形資産の開示において求められている内容は、従来の取組とは一線を画す
前述したコーポレートガバナンス・コード改訂を受けて、企業がどのような形で知財・無形資産
内容となっている。押さえていただきたいポイントは、「経営戦略・経営課題との整合性」と「企業
の投資・活用戦略の開示やガバナンスの構築に取り組めば、投資家や金融機関から適切に評価さ
の持続的な成長への貢献」の、大きく2つである。
れるかについて取りまとめた、「知財・無形資産ガバナンスガイドラインVer.1.0」が2022年1月に
特に原則4-2②で示されている「企業の持続的な成長への貢献」については、一義的には取締役
会における監督の方向性について記述されているものであるものの、知財・無形資産に関する取
組が単に知財戦略上の取組としてだけではなく、企業の持続的な成長といった企業経営全体に
公表された。翌2023年3月にはVer2.0が策定され、この中で、企業と投資家との間の対話や情報
開示の質を高めるためのコミュニケーション・フレームワークが提示されるなど、知財・無形資産
の開示に関する方策が示されてきた。
対する貢献や役割を求められている点は注意しなければならない。原則3-1③で示された「経営
知財・無形資産ガバナンスガイドラインVer2.0においては、特に企業と投資家・金融機関との対
戦略・経営課題との整合性」に関する記述と併せて、知財・無形資産開示は従来からあったような
話に焦点を当てた記述の拡充が図られ、企業価値の向上に向けた両者の対話の重要性を示すと
特許保有件数の定点的な開示や、事業単位での知財戦略を示すだけではなく、今や持続的な企
ともに、開示を進める上での両者のギャップが存在していることも示されている。
業成長への貢献といった全社レベルでの視点から知財・無形資産を捉え、言葉の通り「知財経営」
に関する情報開示を進めていくことが求められている。
知財・無形資産開示の充実化が導く経営の高度化
企業は、企業価値を創造し、顧客のニーズを満たすことを通じて利益を追求し、持続的な成長を
コラム 1
実現することを目指している。また、投資家、特に中長期視点の投資家は、顧客の資産を成長可
能性のある企業に投資することを通じて効率的に運用し、長期的なリターンを最大化することを
【投資家の声】 なぜ知財・無形資産が今注目されるのか
これまで知財経営に取り組まれてきた読者の中には、コーポレートガバナンス・コードが求める「経
目指している。このように、企業と投資家は、「持続的な企業価値の向上を目指す」という点にお
いて一致している。すなわち、企業にとって投資家は、協働して企業価値を高めるパートナーとな
営戦略・経営課題との整合性」や「企業の持続的な成長への貢献」について、なぜこれほどまでに知
り得るものであり、そういったパートナー関係を構築・強化することが、まさに経営の高度化につ
財・無形資産の側面から今開示を求められているのか、疑問を持たれている方もいるかもしれない。
ながる。
ここでは、主に上場企業を中心に豊富な対話実績を有する投資家の声を紹介する。開示の受け手と
なる投資家の視点を捉えていただきたい。
そして、企業と投資家のパートナー関係を構築・強化する手段が、「開示」であり、「建設的な対話
(エンゲージメント)」である。コラム1でも紹介した通り、投資家は企業の将来展望に関心を寄せ
中長期視点の投資家が企業に対する投資判断する際には、「なぜこの企業の利益率は高いの
ると同時に、その要因となる本質的な強み(知財・無形資産)を見出すことで、企業が示す将来展
か」や、「企業が示す成長戦略は実現可能なのか」といった、業績や成長戦略の背景にある要因に
望の確からしさについて投資仮説を構築する。この際、企業との対話を通じて強みと整合しない
必ず着目する。その上で、今後の成長性を「投資仮説」といった形で投資家自ら整理した上で投
部分や企業成長への貢献の程度など、企業が示す成長戦略に対する確認や不備に関する指摘が
資判断を行う。
入ることも少なくない。こうした建設的な対話は経営戦略を磨き上げ、ひいては企業価値の向上
こうした業績や成長の要因(=強み)については、企業に対してもヒアリングを行いながら確認を
に貢献するものであり、知財経営の開示はこうした対話を促すための重要な要素を提供するも
していくが、同じ業界にある企業の場合、同じような強みを説明されることも多いので、本質的な
のとなることが求められる。
強みを見つけることは投資家にとっても難しいとともに、実は企業にとっても容易ではない。本
調査事業に参加した企業においても、特定の技術に焦点は当たるものの、経営全体の中で強みの
源泉としての位置づけを分析的・論理的・価値ドライバー的には認識していなかったといえる。
上述のコーポレートガバナンス・コード改訂や知財・無形資産ガバナンスガイドラインは、知財・
無形資産に係る情報開示の充実化(図表1)を通して、中長期視点で投資家・金融機関との建設的
な対話を促進し、経営戦略を磨き上げ、経営の高度化を実現することを促すものといえる。
現在東京証券取引所が主導するPBR改善をはじめとした企業価値向上に関する文脈と軌を一
にして、業績や成長を支える本質的な強みを企業・投資家それぞれが理解した上で対話する重要
性が高まっており、その核心ともいうべき知財・無形資産とその価値化への取組の開示に対して、
投資家の関心が集まっている。
アストナリング・アドバイザー合同会社 代表 三瓶裕喜
(元フィデリティ投信 ヘッドオブエンゲージメント)
8
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第1章 ステークホルダーとの建設的な対話に向けた知財・無形資産開示の意義
図表1
そこで、2024年度は、具体的なギャップの内容やそれが生じる背景を明らかにし、投資家との
知財・無形資産開示の充実化
従来行われている知財・無形資産情報の開示
建設的な対話に資する知財経営の開示
企業による知的財産権の保有状況や研究開発
状況等知財創出活動の単発的な紹介
知財経営の取組が経営戦略・課題と整合することを
前提に、持続的な成長に対する貢献を企業より説
明・開示
投資家が企業の成長性やその要因となる「本質
的な強み」に迫ることができず、成長の確からし
さを理解・信頼できない
投資家が企業の成長性とその要因となる「本質
的な強み」を明確にでき、成長の確からしさに
関する適切な「投資仮説」を構築できる
投資家が「投資仮説」を十分に構築できないこ
とから、対話においても企業の強みに迫ること
はなく、企業・投資家対話を通じた経営戦略の
磨き上げは起こらない
投資家の「投資仮説」を踏まえた対話により、企
業・投資家対話を通じた戦略の不備等に関する
指摘を含む経営戦略の磨き上げにつながる
建設的な対話に資する知財・無形資産の投資・活用に係る開示の在り方について調査した。本書
は、この調査結果に基づき知財・無形資産ガバナンスガイドラインVer2.0で示されたコミュニケー
ション・フレームワーク等の指針について、実際に企業が取り組む上での実務レベルでの障壁や
その克服に有効なアプローチといった側面から充実化を図るものである。
コラム 2
【投資家の声】 対話を見据えた知財経営の開示の重要性
対話を見据えた知財経営の開示を行うというのは、具体的にはどのような取組を進めればよいか
疑問に思われる読者も多いであろう。取組の全体像についてはp.13にて、また詳細な進め方につ
いては第3章を中心に解説を行っているが、ここでは本調査研究にてヒアリングを行った中長期視点
の投資家の声を紹介する。「企業側が分析にあたってコストをかけたにも関わらず響いていない事
例」や、「もう一歩足りていない」と思われる開示など、日ごろ多くの開示に向き合う投資家の率直
な声を読んでいただき、「対話を見据えた開示」のイメージをつけていただきたい。
本書の位置付け
このような流れを受け、特許庁では、知財・無形資産の投資・活用による企業価値の向上を促進
特許件数や参照状況等の知財情報と財務指標等との相関は、その情報のみではファンドマネー
ジャーにとってあまり有益ではない。ナラティブ情報として価値創造にどのような知財やブラン
すべく、調査を行ってきた。
ド力、その他独自の無形資産が貢献しているかが示されると、投資家が企業の成長をイメージし
2022年度には、知財経営を推進するためのコミュニケーションにおける課題とそれに対する打
やすい。
ち手を明らかにすることを目的に、調査研究を実施した。その成果として、知財経営を実践する
ためには、経営層・知財部門及び関係部門が、それぞれ知財部門の役割モデルを再定義すること、
東京海上アセットマネジメント株式会社
ESGスペシャリスト 菊池勝也
経営層・知財部門の議論の機会を積極的に創造し、濃密な議論を繰り返し、相互が情報の差を埋
めることが重要であることが分かった。
一方で、異なる複数の部門が集まり、議論し、知財・無形資産の投資・活用に実際に取り組もう
企業側も少し長期的な視点を持って投資家との関係を考慮いただけるとよい。オクトパスモデ
としても、共通の場で議論した経験があまりなく、言語も共通化されていない中、その難易度は
ルへの当てはめをするだけでは意味がなく、最終的にはビジネスモデルが強固であり、これを構
非常に高いという課題も明らかになった。
成する強みを評価することが重要となる。
そうした背景を踏まえ、2023年度には、経営層と知財部門を含む企業内チームとの十分な意思
疎通・連携のもと、中長期的な事業戦略に資する知財戦略の策定及び企業価値向上に資する知
財戦略の開示の在り方を検討するため、調査研究を実施した。その成果として、知財・無形資産の
投資・活用を推進するためのポイント、それを機能させるための知財部門の役割及び知財・無形
好事例企業においては、「なぜ利益率が高くシェア100%なのか」といった投資家の疑問につい
て、特許網の視点から明瞭に説明している。ただ特許件数等を開示しているのとは異なる。
大和アセットマネジメント株式会社
日本株式運用部兼責任投資部 チーフアナリスト 渡辺勇仁
資産の投資・活用に係る情報開示の重要性や方法論を取りまとめた。この中では、知財・無形資
産の投資・活用に係る開示、及び投資家をはじめとした社外のステークホルダーとの建設的な対
話が、より長期的な外部からのサポートにつながり、将来像の実現、ひいては企業価値向上の後
押しとなることも明らかにした。
しかしながら、こうした「開示」や「建設的な対話」に難しさを感じている企業も少なくない。その
最たる原因は、企業と投資家との間に視点のギャップがあることである。
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第1章 ステークホルダーとの建設的な対話に向けた知財・無形資産開示の意義
本書で押さえていただきたいポイント
統合報告書における「価値創造ストーリー」の見出しは、投資家として最も興味をそそられるも
ここまでに示した知財・無形資産の開示を取り巻く環境の変化と、これを受けて公表された開
のである一方、内容面で残念に感じる点がある。それは、一枚の見開きページに、オクトパスモデ
示と対話の進め方に関する基本的な指針となる知財・無形資産ガバナンスガイドラインを踏まえ、
ルのような大きな図が描かれている場合、矢印で流れを示し、短い単語が並べられているだけ
知財・無形資産の開示に悩まれる企業のリアルな姿を出発点に、本調査研究を通して得られた建
で、どの段階でどのような価値をなぜ創造できているのかが明確でないことである。具体的な
設的な対話に至るための効果的な「開示のメソッド」と、その前提にある「対話のスタンス」の2点
課題や重要な要素について言及することはなく、まるで定型的なフォーマットに従って記述され
ている印象を受ける。それでは情報価値が低いので、いくつかの会社には価値創造ストーリーを
を押さえていただきたい。
まず文章だけで書いてもらうように依頼をした。それをすることで、どの箇所が論理的につな
ӲӻӴ 対話のスタンス
がっておらず、説明不足だったかに気づくことができる。
アストナリング・アドバイザー合同会社 代表 三瓶裕喜
(元フィデリティ投信 ヘッドオブエンゲージメント)
① パートナーとしての投資家
対話のスタンスに関する説明に入る前に、その相手方である投資家についてまず理解を深めて
いただこう。皆様は投資家との対話の場面に同席されたことはあるだろうか。知財部門や研究開
企業の競争力評価を行う際には、価値創造プロセスで語られている内容が、差別化要因と一致
発部門の方であれば、最新の技術トレンドやこれらを踏まえた自社の取組状況に関する説明や、
しているかを投資家は重視している。より具体的には、因果パスを示してもらいたい。他社と差
こうした技術をどのように守っていくかといった特許戦略に関する話題などを説明するために、
別化された技術要素が売上げ・利益に貢献していることが示されていれば納得感がある。
IR部門担当者と同席したことのある方もいるかもしれない。この時、投資家は「他社でも同じよう
開示方法として、投資家は相対的な競争力を知りたいため、他社と比較した際の規模感や業界
なことをやっているではないか」や「御社の技術力でこのビジネスモデルは維持・拡大できるの
か」など、まるで自社を批判的に見ているように感じた経験のある方は多いのではないか。
内での競争優位性を説明していただけるとよい。
結論から述べると、投資家は敵ではない。投資家がこのように嫌になってしまいそうな質問を
野村アセットマネジメント株式会社
エンゲージメント推進室 室長 内田陽祐
投げかけるのは、その背景に「企業が語る目標や将来ビジョンは本当に実現できるのか」という
疑いが出発点になっているからである(コラム1参照)。それと同時に、投資家へのヒアリングを通
して見えてきたのは、対話を通じて企業側が検討を深め切れていない内容があれば一緒に考え
価値創造ストーリーを明確に伝えている企業はあまり多くない。普段からコンタクトを取ってい
たり、また企業自身が気付けていない強みがある場合はサポートをするといった、企業成長に真
る経営層が説明会やミーティング等口頭で説明するケースであれば、そこからある程度理解する
剣に向き合うパートナーといった姿であった。
こともできるが、より具体的に経済価値や社会価値に関して言及できていないと、情報を出して
いるにも関わらず、これらを評価することが難しい。こうした状況は非常にもったいないため、漠
然とした開示ではなく、この会社だからこそできること、この会社がやるからこそ意味があるこ
とを説明していただけるとよい。
コラム 3
投資家の種類と開示の進め方
投資家が取る株式運用の手法として、アクティブ運用とパッシブ運用がある。アクティブ運用とは、
三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社
スチュワードシップ推進部 シニア・スチュワードシップ・オフィサー 澤嶋裕希
市場平均を上回る運用成績を目指す投資手法であり、他方パッシブ運用とは、市場平均に連動する
運用成績を目指す投資手法であり、投資家は大きくはこの2種類に分かれる。
開示において留意すべき点は、こうした投資家の運用手法ではなく、どの程度のスパンで企業の成
長を捉えているかである。本調査研究では、中長期視点を取るアクティブ、パッシブそれぞれの投資
家へヒアリングを行ったが、共通して企業に求めていたものは、今後どのようにして企業価値を向上
させていくかといった道筋であった。本書では、企業成長に真剣に向き合うパートナーとなりうる中
長期視点の投資家に向けて、企業が取るべき開示の進め方について解説しているため、ぜひこうし
た投資家と建設的な対話につながる開示を目指していただきたい。
12
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第1章 ステークホルダーとの建設的な対話に向けた知財・無形資産開示の意義
コラム 4
このように、特に中長期視点で企業との関係を捉えている投資家は、企業にとって「批判的な
【投資家の声】 企業との対話に臨む投資家側のスタンス
評価者」ではなく「企業成長をともに考えられるパートナー」といえる。また、このように捉えるこ
とで、はじめに紹介したような厳しい質問が、会社の将来を真剣に考えているが故のものである
という点もご理解いただけるのではないだろうか。
投資家も企業の全てを知るということは不可能である。そのため、企業がどのように価値を生
みだしているのか、をストーリーとして示してもらいたい。それがその企業の中に閉じたもので
② 建設的な対話のスパイラルが導く経営戦略の高度化
はなく、社会の中でどのような位置にあるか、また社会が変化する中でどのように変えてきたか
ということを併せて示してもらいたい。
投資家像の転換ができた読者には、ぜひ対話像の転換も図っていただきたい。本調査研究で実
投資家はポートフォリオを組むことが仕事になるので、そういったストーリーがあると、ポート
施した現地調査では、企業と専門家チームとの間で数多くの対話がなされた。また同時に、専門
フォリオの中にその企業が入った場合にどのような効果が出るか、ということを考えやすくなる。
家チームとの対話を通して見えてきた課題や論点は、次回検討会までに企業内部で経営層や複
数の部門担当者間を横断しながら、ここでもまた多くの対話を経て整理がなされた。
一般社団法人機関投資家協働対話フォーラム 理事 鎌田博光
(元アムンディ・ジャパン株式会社 日本株式ターゲットファンド運用部長)
開示資料の分析や実際に企業との対話を進めていく中で、「この会社は改善の余地がある」と
エンゲージメントでは企業が示す成長の道筋に対する理解を深めていくこと(「第3章 II:目線合
わせ」に相当)を起点として、対話を通じて企業の経営戦略の高度化を進める(「第3章 III:対話
編」に相当)といった過程を経る。いわゆるこの「建設的な対話」を前進させるためには、企業が
感じることは多くある。その際、投資家は数多くの企業や業界自体の分析を行っていることから、
明確に意識していない、あるいは自明として説明されていない、自社の事業戦略や成長性を裏付
「今後ここやあそこを改善すればもっと会社の成長につながるのではないか」といった成長の実
ける「本質的な強み」を自覚し、言語化することが不可欠であることが本調査研究で見出された
現に向けた具体的な取組についても想起することがあり、こうした内容は経営陣とも深く議論す
(第4章)。こうした「自明の言語化」ともいえる取組にあたって、現地調査で取り組んだ企業・専門
ることも多い。
家チーム間での対話と、企業内部での対話が効果を発揮した。(図表2)
事業ポートフォリオといった全社戦略についても議論する場合には、知財の管理や人員配置な
どの知財・無形資産に関して議論することが多い。企業戦略に関わるエンゲージメントにおいて、
知財・無形資産の要素は不可欠と考えられる。
図表2
ӾӸ
投資家は各社の戦略が企業価値の向上につながるのかについて、最大の関心を持っている。
企業側が開示できる内容に制約があり、粗利等の詳細な数字について言及できないのは承知し
的な強みとその活用の方向性など、今後の業績や成長性を予想するためのヒントとなるモザイク
るのではなく、その源泉となる知財・無形資産に関する情報を示してほしい。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 委嘱アドバイザー 松島憲之
(元シティグループ証券株式会社 マネジングディレクター)
14
ӼӸӨ 事業戦略・知財戦略等
の策定・見直し
対話
投資家
フィード
バック
※ 批判的な視点も交えて建設的に「叩き合う」
情報を教えてほしいと考えている。
的に進めるためにも、ぜひ業績や売上げの詳細といった開示しがたい定量情報だけに目を向け
戦略の不備・強みの
不足等への気づき
開示
各戦略等が与える経営上の効果や
ӽӸӨӨ意義・役割を言語化(部門横断での対話)
ている上で、市場環境に対する捉え方や知財・無形資産といった企業の成長を支えるような本質
アナリストは、上記のような情報をある程度得られれば、企業側が直接的に業績や売上げ等の
※ 「開示のメソッド」に基づく開示
ӻӸӨ経営戦略の策定・見直し
東京海上アセットマネジメント株式会社
ESGスペシャリスト 菊池勝也
詳細に関する数字を示さなくても、独自に予想を構築するものである。投資家との対話を建設
建設的な対話のスパイラル
第1
フェーズ 1 企業内での戦略検討
フェーズӻ:
フェーズ 3 投資家対話に基づく経営戦略の再検討
ラウンド フェーズӽ:
複数ラウンド実施
経営戦略の高度化
15
フェーズӼԄ
フェーズ 2
開示資料に基づく投資家対話
第1章 ステークホルダーとの建設的な対話に向けた知財・無形資産開示の意義
フェーズ 1
企業内での戦略検討
コラム 5
建設的な対話のスパイラルは、まず企業における「1.経営戦略の策定・見直し」から始まる。
「1.経営戦略の策定・見直し」は主に経営層や経営企画部門が中心となって、全社的な経営の方向性に関す
【先進的な企業の声】 社内の対話を効果的に進めるための工夫
る議論を経て策定する(※1)。その後事業部門や知財部門等部門レベルで、「2.事業戦略・知財戦略等の策定・
投資家から高い評価を得ている企業には共通して、社内対話を円滑に進めるための工夫が見られ
見直し」に移る(※2)。およそここまではほとんどの企業で実施されていると考えられるが、重要なポイントは
る。特に統合報告書の作成に当たっては部門を横断するケースも多いため、強みの整理や発信内容
「3.各戦略等が与える経営上の効果や意義・役割を言語化(部門横断での対話)」である。
の調整までを整合させ、関係部門が納得感を持って開示に取り組める仕組みが重要となる。
ここでは、各部門単位で策定した戦略や取組について、その経営上の効果や意義・役割について、その妥当
性や内容の緻密さ、確からしさや実現可能性等について、部門を横断して説明・フィードバックを行う。本取
知財・無形資産の開示を行うにあたっては、常にその開示が企業の将来像に結び付く形で行わ
組は、外部の視点から戦略に関する不足や疑問点、曖昧になっているところなど詰め切れていないところを
れることが重要である。そのために、知財部門は投資家などのステークホルダーに伝えたいス
明らかにするものである。こうした対話はさながら投資家対話の事前準備とも位置付けることができ、経営
トーリーに沿って必要な情報を提供し、企業戦略の中に知財情報が組み込まれるよう努力してい
戦略の社内への浸透とともに、事業戦略や「今なぜこの取組をしているのか」といった取組の意義に関する理
る。当社では、統合報告書、サステナビリティレポート、有価証券報告書の3つを主要なコーポ
解を深めていくなど、社内での戦略理解やモチベーションの向上、本質的に発信すべき強みの発見などにお
レートレポーティングと位置づけている。有価証券報告書については法定開示となるため、規定
いても有効な施策となる。
に従った情報提供を行うものであるが、統合報告書とサステナビリティレポートについてはより
「4.戦略の不備・強みの不足等への気づき」では、これまでの社内対話を通じて明らかになった強みや見えて
自由度が高いものと捉えている。2023年度版では、おもに統合報告書では将来の成長期待を、
きた課題等を整理した上で、改めて「1.経営戦略の策定・見直し」に戻り、経営戦略全体を再検討する。
サステナビリティレポートでは過去の実績や中長期視点でのデータ集といった幅広い情報を提
なお、対話においては最終的な上記経営戦略の見直しや開示・対話を見据え、IRや経営企画部門、知財部門等を
管掌する執行役員や部長クラスの関与があることで、その効果を大きく高めることができる(コラム5参照)。
供するという形で、3つの媒体を通してもれなく重複なく情報開示を行う体制を整えている。
上記3つの一体的な開示を進めるにあたっては、「情報開示ワーキンググループ」と称する仕組
みを設け、法務部門やサステナビリティ部門、IR部門が横連携をして媒体の制作における情報整
フェーズ 2
理・共有を行う仕組みを持っている。これは、上記3つのコーポレートレポーティングで必要な情
開示資料に基づく投資家対話
報収集に係る事業部門への負担感を大幅に削減するとともに、情報の重複感やメッセージの整
開示メソッド(詳細は(2)参照)をもとに作成された開示資料に基づき、投資家との対話を行う。いわゆるエ
合性を取るための工夫であり、体制としては2022年度からの取組ではあるものの社内のコミュ
ンゲージメントとして多くの企業で実践されていると思われるが、ここでも重要なポイントは、あくまで企業
ニケーションは年々深まっている。統合報告書の作成においても同様の形式で、それぞれの部門
成長に資する建設的な対話を行うことである。対話の進め方については第3章に具体的な事例を掲載してい
が独自に情報を発信することなく、財務部門や知財部門、研究開発部門、人財部門と連携をしな
るのでそちらをぜひ参照いただきたいが、ここではコラム2に示した通り、多くの投資家が関心を有する企業
がら、コミュニケーションに齟齬が出ないよう調整している。
成長の道筋に対する説明であることを意識し、直近のトピックスや保有している高い技術力のみに終始せず、
いかにこうした優れた強みを活かして成長につなげるかが説明のポイントとなる。
投資家向けのIRイベントの一つとして、毎年6月初旬に開催するHitachi Investor Dayにて、
CEOやCFO、各事業部長が中長期的な成長戦略について語る場を設けている。統合報告書では、
ここでの議論内容を踏まえて、IR部門が中心になり、その年の重点ポイントについてCEOやCFO、
フェーズ 3
投資家対話に基づく経営戦略の再検討
各セクター担当者とコミュニケーションを取りながら内容を決定するプロセスを敷いている。
フェーズ3は、投資家対話に基づき再度フェーズ1で行ったような社内対話を進める。投資家対話の中で得
IR部門が方向性を定めつつも、トップダウンではなく関係部門と多くの対話を積み重ねること
られた示唆や気付きは、経営層が実施したもののほかIR部門や経営企画部門が実施したものなども含めて、
によって、各部門が納得をした上で情報発信を進めている。
経営層へフィードバックを行う。その後、新たに生じた課題や論点等への検討に基づき、経営戦略の見直しを
進める等行い、以降フェーズ1と同様の取組を行うことで、戦略全体の高度化を行い、ひいては企業価値の向
上につなげるのである。
株式会社日立製作所
ここまでが、建設的な対話のスパイラルのうちの第1ラウンドであり、理想的にはこうしたラウンドを複数回
【主な受賞歴】
繰り返すことで、各戦略に対する社内における認識相違や、投資家をはじめとする社外のステークホルダーと
⚫ 公益財団法人日本証券アナリスト協会 証券アナリストによるディスクロージャー優良企業選定
(2024年度) 電機・精密機器部門 第1位
の間に生じる理解のギャップを埋めていくとともに、企業価値の向上につながる好循環を生み出すことがで
⚫ 一般社団法人日本IR協議会 IR優良企業賞2023(第28回) IR優良企業大賞
きる。
※1 特許庁「知財経営の実践に向けたコミュニケーションガイドブック~経営層と知財部門が連携し企業価値向上を実現する
実践事例集~」(2023年)参照。https://www.jpo.go.jp/support/example/document/chizai_keiei_guide/all.pdf
※2 特許庁「知財経営への招待~知財・無形資産の投資・活用ガイドブック~」(2024年)参照。
https://www.jpo.go.jp/support/example/chizai-mukei-toushi-katsuyou-guide/document/index/all_guidebook.pdf
16
⚫ 日本経済新聞 第3回日経統合報告書アワード グランプリG賞
⚫ WICIジャパン 2023年WICI統合リポートアウォード表彰 Special Award(審査員特別賞)
17
第1章 ステークホルダーとの建設的な対話に向けた知財・無形資産開示の意義
当社の強みを特定するプロセス自体を明確に規定しているわけではないが、投資家との対話
当社の統合報告書は、常にストーリーを意識した冊子になるよう心掛けている。決算を中心と
を重ねながら、当社の強みを明らかにしようと努めている。例えば、昨年開催のESG説明会では、
した定量情報も重視しているが、それ以上にどのような流れで企業価値が創出されているのか
人的資本の取組について掘り下げて取り上げたが、投資家からのフィードバックから、当社の人
を示すことが重要だと考え、全ての事業や取り組みが創業者・安藤百福の「創業者精神」と紐づ
材育成や人材戦略が事業の変革につながるメカニズムがより明確になり、それを踏まえて同年
いていることが読者に伝わる点を特に意識して編集している。
の統合報告書においても詳細な開示を行った。こうした対話と開示のサイクルを回していくこと
が基本的な考え方となっている。
創業者精神などの社内で共有すべき価値観については、CEOが社内外に示すコミットメントの
効果もあり、従業員にしっかりと浸透している。持続的な価値創造は、社員に根付く価値観が不可
統合報告書をはじめとした非財務資本の開示において、知財部門としては、会社全体の強みの
欠であり、当社はこの点で一体感のある組織文化が定着している。新年の朝礼等でも、当社の強
中で、知財をどのように説明するかを意識している。毎年行う、その年の統合報告書制作のキッ
みについてCEOが述べる機会があり、イノベーションを支える、知財・無形資産について、頻繁に
クオフミーティングでは、IR部門から今年のコンセプトが共有され、それに基づいて全社で整合
説明している。
性を持った活動が進められている。また、投資家との対話の場に知財部門が参加する機会もあ
り、投資家の意見を直接ヒアリングすることで統一感を持って取り組んでいる。
こうしたベースとなる価値観が共有されているため、各事業部門が発信したいメッセージや目
標は様々であるものの、全体として、企業価値とどう結びついているかという点において齟齬が
統合報告書の制作にあたっては、コーポレート部門を中心に、各部門から代表者を選任し、部
門横断型のプロジェクト体制で進めている。ここには知財部門も含まれ、このほかにも技術の関
連部門が参加している。IR部門がオーガナイザーとして役割を果たしながら、全体コンセプトに
ついてはIR側から示しつつ、各部門と密接に連携し、それぞれの部門が盛り込みたい内容を詰め
ていく形で進行している。
なく、発信するメッセージは整合性の取れたものとなっている。なお、開示内容は、IR部門が取り
まとめ、各部門と対話を重ねながら最終化していくという手法を取っている。
創業者精神を基礎とした当社の価値創造プロセスは明確であり、開示に限らず、そもそも業務が
進めやすく、ブランディングやマーケティング、イノベーションといった当社の強みが発揮されやす
い土壌がある。ソーシャルインパクトやマテリアリティの設定なども、企業理念にすでに組み込まれ
他の部門との調整が必要な場合や、全体のコンセプトに合わない内容があれば、プロジェクト
ており、一から新しく調整や検討が必要だとは考えていない。これは当社にとって通常のこととし
体制内で調整を行う。その際には、IR部門だけでなく、知財部門も対応し、適宜臨機応変に対応
て社員に理解されている。
していく体制を取っている。役員・部門長が選任した担当者がプロジェクトに参加することで、全
社で一貫した一つのストーリーを軸にしながら、非財務資本に係る適切な情報を開示・発信する
日清食品ホールディングス株式会社
ことができている。
【主な受賞歴】
化学メーカー
⚫ 公益財団法人日本証券アナリスト協会証券アナリストによるディスクロージャー優良企業選定
(2024年度) 食品部門 第4位
⚫ International ARC Awards 2023 Best of Show
18
19
第1章 ステークホルダーとの建設的な対話に向けた知財・無形資産開示の意義
ӲӼӴ 開示のメソッド
中長期視点の投資家に共通して見られる「企業成長の道筋」の開示構成
知財・無形資産情報の開示として、自社が取り組む技術開発やアライアンス、またその成果とし
ての先進的な事業・商品を示すこと自体は決して否定されるものではない。ただし、これまでに
見てきた多くの投資家の声を踏まえると、これらの開示は単独では企業の成長性やその要因と
① 成長ビジョン
成長ビジョンは、経営目標やビジョンをはじめとした、企業が将来目指す姿を示す。
なる強みを示したものとは言い難いことから、建設的な対話を見据えるならば、投資家の関心事
投資家対話における中核となる論点であり、企業の示す成長ビジョンの確からしさを理解する
である「企業成長の道筋」に基づいて、開示・説明を再構築することが必要である。
ために、②・③について対話では議論を重ねる流れとなる。
本調査研究で実施した現地調査や座談会、ヒアリング調査においても、ステークホルダーとの建
本要素で取り扱われる知財・無形資産は、直接的な技術や製品・サービスといった範疇を超え、
設的な対話に向けて、特に「企業成長の道筋」をどのように構成すべきか、また道筋を構成する
企業理念や社風、DNAといった、企業が有する基本的な価値観に迫るものであるが、これらを社
各要素を特定するためにどのような検討プロセスで取り組んでいくべきかといった点に多くの
内で言語化しておくことで、以降の②・③を策定にあたっての社内コミュニケーションがスムーズ
時間を割いて議論を行った。
になることが知られている。(コラム5参照)
本調査研究から得られた、中長期視点の投資家に共通して求められる企業成長の道筋を示す
② 成長ビジョンを支えるビジネスモデル
「開示メソッド」は以下のとおりである。(図表3)
図表3
企業成長の道筋を示す「開示メソッド」
「ビジネスモデル」という言葉については、第3章でみる現地調査の事例でも示しているように、
企業・投資家間でそのイメージする内容に大きなギャップが生じた。
具体的なギャップの発生経緯については第3章の各事例を確認いただきたいが、投資家との対
成長ビジョン
①
目指す姿・将来像といった成長ビジョンを、どのようなビジネスモデルで実現するか整理する。
経営目標やビジョンをはじめとした、企業が将来目指す姿を示す。
投資家対話における中核となる論点。企業の示す成長ビジョンの確からしさを
理解するために、②・③について対話では議論を重ねる流れとなる。
話を進めるにあたっては、製品やサービスラインの紹介にとどまらず、それらが対象とする顧客
や、その顧客に対して提供する価値、またその収益性や業績への寄与度など、企業経営にどのよ
うな仕組みで貢献するのかといった、一連の説明が求められる。
③ ビジネスモデルを支える強み
成長ビジョンを支えるビジネスモデル
②
目指す姿・将来像といった成長ビジョンを、
どのようなビジネスモデルで実現するか整理する。
ビジネスモデルを支える強み
③
ビジネスモデルの実現性や持続性、競争優位性といった、成長を裏付ける知財・無形資産を特
定する。強みについては現在保有しているもののほか、①に照らして今後獲得すべきものも含め
て、自社の現在地や市場でのポジショニングを踏まえた形で整理していくことが望まれる。
知財経営の開示に取り組む上では、「開示のメソッド」を活用いただくことももちろん重要であ
ビジネスモデルの実現性や持続性、競争優位性といった、
成長を裏付ける知財・無形資産を特定する。
るが、その前提となる「対話のスタンス」を理解し、実践することで初めて建設的な対話を成立さ
せ、ひいては経営戦略の高度化や企業価値を高められるといった果実にありつくことができる。
ぜひ本書の読者には、メソッドありきで自社の本質的な強みに迫らない、形式的な開示とならな
いよう常に注意を払っていただきたい。
開示とは企業から投資家の一方通行ではなく双方向的な営みを前提としたものであり、企業価
値を本当に高めるのは対話結果を適切に社内での議論に取り込み、経営戦略を洗練させようと
する企業自身の努力なしではなしえない。
20
21
第1章 ステークホルダーとの建設的な対話に向けた知財・無形資産開示の意義
コラム 6
【投資家の声】 建設的な対話を進める上で重要な企業内の組織体制
建設的な対話を進めていくためには、これまでに示した開示の充実化が重要であるが、その本質に
は企業が持続的に成長できる環境が整っていることが不可欠である。ここでは、中長期的な成長を
見据えた企業内部の統治や組織体制について、投資家がどのような観点で捉えているかについて紹
介する。
中長期視点の投資家は、投資先企業が長期的にサステナブルであるかを重視しており、このサ
ステナビリティを支える核となる要素がガバナンスである。
企業が長期的にサステナブルになるには、資本コストを長期持続的に上回る利益率を達成する
必要がある。そのためには一過性のコストカット等ではなく、将来を見据えた戦略的な投資判断
が不可欠となる。こうした投資には、生産能力の拡張などの有形資産投資だけでなく、技術力や
ブランド等の知的財産および人的資本といった無形資産への投資などが含まれ、広範な知的財
2
第 章
本書の策定に向けた
調査研究の概要
産・無形資産のマネジメントも意識したガバナンス体制の構築が求められる。
一般社団法人機関投資家協働対話フォーラム 理事 小澤大二
(元インベスコ・アセットマネジメント 取締役 運用本部長兼最高投資責任者)
組織の中での知財部門の位置づけは重要。特に近年は社外取締役が増えるなどの影響もあり、
技術や製造出身の社内取締役が少なくなっている。経営陣と知財部門との距離を近づけ、密に
対話が行われることで、競争力の源泉にあたる知財・無形資産を適切にマネジメントすることが
できる。
一般社団法人機関投資家協働対話フォーラム 理事 鎌田博光
(元アムンディ・ジャパン株式会社 日本株式ターゲットファンド運用部長)
22
23
2
第 章
本書の策定に向けた調査研究の概要
調査方法
本書は、令和6年度特許庁産業財産権制度問題調査研究「ステークホルダーとの建設的な対話
に資する知財経営の開示に関する調査研究」によって得られた知見を取りまとめたものである。
本調査研究では、主に以下3つの調査を通して、知見を収集した。
⚫ 知財経営の開示を通した企業価値向上に取り組もうとする企業への伴走支援(以下「現地調
査」)
⚫ 知財・無形資産に着目する投資家、及び、知財経営の開示を通した企業価値向上を実践して
いる企業へのヒアリング調査(以下「ヒアリング調査」)
⚫ 経営層・部門長による座談会(以下「座談会」)
本書の理解を促進するため、調査研究の概要を紹介する。
現地調査
現地調査においては、知財経営の開示を通して企業価値向上につなげるために必要な事項の
仮説として、以下の3つを設定し、企業の状況に応じて軽重を付け、下記3点についての議論、及
び検討結果に基づいて作成した開示資料についての議論を、各社に対して1ヶ月に1回(2時間)
程度のペースで計5回行った。
⚫ 企業の既存の開示情報の内容や、投資家の求める説明内容に関する目線合わせ
⚫ 企業の掲げる成長ビジョンを支えるビジネスモデルの整理
⚫ ビジネスモデルを支える強みの整理
具体的には、企業に経営層、知財部門、事業部門、IR部門等からなるチームを組成いただき、そ
のチームでの議論に投資家としての経験を備える専門家、経営及び知財に精通したコンサルタン
調査目的
トや情報開示の専門家の計3名からなる専門家チームを派遣し、議論を支援した。(図表1)
本調査研究では、知財経営の開示を通した企業価値向上に向けて必要な取組を明らかにする
そして、この支援を通じて議論を観察することにより、知見を収集し、特に他社の参考となる対
ことを大目的として実施した。各調査においては特に以下の事項を明らかにする目的で実施した。
話を実現した3社について、事例として取りまとめた。
現地調査
図表1
現地調査概要図
⚫ 知財経営の開示を通して企業価値向上につなげるために必要な事項
⚫ その活動を実践するにあたり、企業が直面する課題とその解決方法
専門家チーム
調査対象企業チーム
2時間
ヒアリング調査
⚫ 投資家が知財・無形資産に着目する具体的な動機・目的・その結果
⚫ 投資家評価の高い企業開示において、どのような社内プロセスで統合報告書等の開示資料
を作成しているか
• 投資家としての経験を備える専門家
• 経営及び知財に精通したコンサルタント
• 情報開示の専門家
経営層
IR部門
×5回
事業部門
知財部門
※チーム構成は企業により異なる
座談会
⚫ 知財経営の開示に関連して、企業の経営層や部門長の感じる課題や危機感
24
25
第2章 本書の策定に向けた調査研究の概要
ヒアリング調査
⚫ 投資家へのヒアリング
中長期視点から企業価値の源泉(≒知財・無形資産)に着目した投資判断の経験を持つ投資家7
名に対して各1時間程度のヒアリングを実施し、知見を収集した。
ヒアリング対象者の選定は、主に本調査研究にて組成した有識者委員会からの推薦に基づいて
実施した。
⚫ 企業へのヒアリング
統合報告書等における開示内容に対する評価の高い日本企業3社・海外企業1社のIR部門・知
財部門・事業部門等に対して1時間程度のヒアリングを実施し、知見を収集した。
日本企業については、公益財団法人日本証券アナリスト協会「証券アナリストによるディスク
ロージャー優良企業選定(2024年度)」の評価結果に基づき以下の企業を選定した。
• 株式会社日立製作所 (業種:電気・精密機器 第1位)
• 化学メーカー
• 日清食品ホールディングス株式会社 (業種:食品 第4位)
3
第 章
企業成長の道筋を
効果的に伝えるための
取組事例
海外企業については、米国の独立評価機関であるMerComm, Inc.が主催する世界最大規模の
アニュアルレポートのコンテスト「International ARC Awards」の評価結果に基づき対象企業を選
定したが、具体的な企業名は非公開とする。
座談会
現地調査に御協力いただいた企業の経営層、知財部門やIR部門の部門長にお集まりいただき、
2時間程度の座談会を開催した。座談会では現地調査の取組の発表や、知財経営についての意
見交換を実施し、これらの議論を観察することにより、知見を収集した。
調査結果
調査を通して得られた知見を総合的に分析して本書を取りまとめた。各調査の知見は特に下記
の章に取り入れている。
• 現地調査
:第3章の事例
• ヒアリング調査
:第1章、第3章、第4章のコラム
• 座談会
:第4章の座談会レポート
26
27
3
第 章
企業成長の道筋を効果的に伝えるための
取組事例
本章の全体像
取組事例インデックス
事例掲載の形式としては、前頁に掲載した「企業成長の道筋を示す開示メソッド」に沿う形で紹
現地調査対象となった3社の事例では、そのいずれの企業においても共通して「いかに企業成
長の道筋を描くか」といった核となる問いに対して、各社各様の方法でアプローチを続けた事例
と総括することができる。支援を行った専門家チームからはビジネスモデルや各社のコアとなる
知財・無形資産について数多くの質問がなされたが、概して中長期視点の投資家からは、企業成
長の道筋を以下の構成で描くことが求められていた。(図表1)
介を行っているものの、その具体的なアプローチや投資家対話における検討の論点は、企業を取
り巻く経営環境に応じて異なっていた。
本ページでは、各社の経営環境を踏まえた各事例の開示の方向性と、そこから得られた示唆を
まとめる形でインデックスを作成した。自社の置かれた経営環境や開示の方向性と近いものを選
択して読み進めていただきたい。
事例
図表1
企業成長の道筋を示す「開示メソッド」(第1章参照)
1
P.32
東洋エンジニアリング株式会社
⚫経営環境を踏まえた開示の方向性
成長ビジョン
①
経営目標やビジョンをはじめとした、企業が将来目指す姿を示す。
投資家対話における中核となる論点。企業の示す成長ビジョンの確からしさを
理解するために、②・③について対話では議論を重ねる流れとなる。
成長ビジョンを支えるビジネスモデル
②
市場環境の変化によって主力事業のコストやリスクが増大する中で、
事業ポートフォリオ転換によるボラティリティ抑制に向けた取組を示す
⚫本事例から得られる示唆
• バリュエーションが低い(PBR1倍割れ、ROE8%未満)状況下で開示すべきは成長性で
はなく、まずは構造改革に貢献できるビジネスモデル
• 新事業領域への参入を通じた構造改革・成長性の説明では、今ある強みにとどまらず、
今後獲得すべきノウハウ等の知財・無形資産や獲得に向けた道筋を示すべき
目指す姿・将来像といった成長ビジョンを、
どのようなビジネスモデルで実現するか整理する。
事例
2
ビジネスモデルを支える強み
③
P.48
第一工業製薬株式会社
⚫経営環境を踏まえた開示の方向性
ビジネスモデルの実現性や持続性、競争優位性といった、
成長を裏付ける知財・無形資産を特定する。
一見事業や技術、製品同士の相乗効果を捉えにくい企業において、
それらと財務の結びつきをストーリーとして示す
⚫本事例から得られる示唆
本章では、上記企業成長の道筋を示す「開示メソッド」のうち、特に知財・無形資産開示の観点
から活発な対話が行われた②・③について、実際の対話を抜粋する形式で収録した。
• 顧客のニーズと自社の技術を結びつけるために、研究開発をコアとする自社の強み(知
財・無形資産)が何かを時代に応じて整理しつづける
• 事業セグメントを横断する強みをどのように各セグメントに展開し、全社戦略を推進す
るか、全社に通底する強みやつながりを示すべき
各事例では、開示構成の各要素について、具体的なアプローチ方法を掲載している。ただし、専門家
チームの投げかける問いや、これを受けた企業側の回答、開示上の表現方法は、あくまでも各社の事業
事例
株式会社コーエーテクモホールディングス
背景や企業文化、企業を取り巻く市場環境など、多くの前提に基づいて実施されたものであり、すべて
3
の企業に当てはまる「正解」や「理想型」を示すものではない点に留意いただきたい。
⚫経営環境を踏まえた開示の方向性
この先の事例を読み進めるに当たっては、開示手法だけに着目するのではなく、投資家との建
設的な対話に結び付いた「Key Question」に対し、自社であればどのような回答をするか、また回
答に当たってはどのような検討が必要となるか等を意識いただきたい。
※ ヒアリング調査対象となった投資家と、現地調査で支援を行った専門家チームに含まれる投資家の選定は異なるプロセス
で実施されている。
P.62
株式市場からの高い評価(高PBR、高ROE)を背景に、安定期を迎える市場環境において
自社の高い成長性を投資家に訴える
⚫本事例から得られる示唆
• 成長エンジンを説明するだけでは不十分であり、高い成長性が持続的・安定的であるこ
とを開示すべき
※ 専門家チームは就任時に「秘密保持契約書」に署名しており、内部者情報およびフェアディスクロージャー・ルールへの対
応をすべての関係者が徹底した上で、本調査研究は実施されている。
• パイプラインの開示が難しい状況下においては、良質な事業アイデアが創出されるメカ
ニズム(知財・無形資産)を開示することが効果的
28
29
第3章 企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例
事例構成
各社の事例は、「I:イントロダクション」から始まり、「IV:解説編」までの4つのパートに分けて掲
載を行っている。
ԔӨ: イントロダクション
企業の事業に関する情報のほか、各社の本調査研究における目標等基本的な情報を掲載。
開示・対話を進めるにあたっての前提となる「開示メソッド-①成長ビジョン」についても、「同社
の成長ビジョン」項目にて言及していることから、特に本項目を念頭に置いた上で、以降の対話
を読み進めていただきたい。
ԔԔӨԄӨ目線合わせ
対話編に入る前に、ここでは企業と専門家間での目線合わせを取り上げる。対話編では具体的
なビジネスモデルや強みに焦点を当てた開示や対話の工夫・検討を行っているが、専門家との対
話の中で直ちにこうした議論に入れたわけではなく、開示資料をベースにした際の両者の目線の
ギャップや理解をすり合わせるための質疑を行い、対話編で取り組むべき論点整理を行った。
ԔԔԔӨ: 対話編
対話編では、目線合わせで整理した論点について、開示メソッドのうち「②成長ビジョンを支え
るビジネスモデル」および「③ビジネスモデルを支える強み」を切り口に実際の対話を実際の会話
ほぼそのままに収録している。
対話編で注意深く読み進めていただきたいポイントとしては、個別具体的な開示の手法ではな
く、専門家がどのような視点を持って企業に問いかけているかという点である。統合報告書をは
じめとして、本調査研究に参加された企業はみな積極的にビジネスモデルや強みの開示を行っ
ていたものの、対話を進める中では専門家はより深く企業を理解するために質問を重ねている。
こうした点はKey Questionとして取りまとめているため、対話を読み進めながら、専門家がどの
ような点に関心をもって対話を進めようとしているかを押さえていただきたい。
ԔԥӨ: 解説編
対話編で提示したKey Question別に、押さえるべきポイントや開示・対話の効果的な進め方に関
する解説を行っている。対話編には収録できなかった具体的な方法論や発展的な論点を含む内容
となっていることから、ぜひ対話編を見返しながら理解を深めていただきつつ、一層の充実した
開示に向けてどのような取組が今後考えられるかについても検討してみていただきたい。
30
31
第3章ӷӻ
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 –Ө事例1 東洋エンジニアリング株式会社 ӷ
事例
1
新規事業領域における確かな成長の可能性を知財・無形資産から紐解いた事例
東洋エンジニアリング株式会社Ө
Ө
Ө
同社の成長ビジョン
同社が非EPC事業へ注力している背景として、主力事業であるEPC事業のボラティリティ(※1)
の高さが挙げられる。EPC事業においては、設計から調達、工事にいたるプラント建設を一気通貫
ԞՉՈՀԺՂԵ
◼ 東洋エンジニアリング株式会社は、グローバルにプラントエンジニアリング事業を展開し
ており、主にエネルギーや化学、医療プラント等の分野でプラント建設を手掛けている。
◼ 近年ではプラントエンジニアリング事業で培ったノウハウや脱炭素をはじめとした技術
力を生かした新規事業領域への展開を進めており、技術や取組事例について積極的に
情報発信をしていた。しかし、投資家の視点では、その情報発信は成長性を判断するに
は十分でなかった。
◼ 本調査研究での専門家支援を通じて、新規事業領域における確かな成長性を発信し、
従来のプラントビジネスとあわせた全社的な成長性の開示に取り組んだ。
で担う大規模・長期間プロジェクトとなることから、この期間における機器資材費・輸送、工事など
の費用、プロジェクト進捗状況によって、収益が大きく増減してしまうという事業特性を持っている。
同社ではかねてよりこの構造上の問題を課題としており、その対応策として非EPC事業を推進
することで、ボラティリティの高い収益構造を変革し、持続的・安定的な成長性を有する企業に生
まれ変わることを目指している。(図表2)
図表2
持続的な成長に向けた戦略
ԔӨ: イントロダクション
企業概要
東洋エンジニアリング株式会社(千葉県。資本金約181億円、従業員数7,283名(連結))は、1961
年に設立された総合エンジニアリング企業。同社は、エネルギー、化学、環境、インフラストラク
チャーなどの分野でプラント建設を手がけており、研究・開発協力、企画、設計、機器調達、建設、
試運転、技術指導などのサービスを提供している。
主なビジネスモデルは、プラントエンジニアリングをはじめとするEPC事業(E:設計、P:調達、
(出典)東洋エンジニアリング株式会社 統合報告書2023
統合報告書ӼӺӼӽ
C:工事を手掛ける)であり、60年以上、60か国以上でプラント建設を行ってきた。
近年、主力事業であるEPC事業に加えて、環境・エネルギー分野を重点領域として位置づけ、ク
専門家チームの事前認識
リーンアンモニア生産や尿素ライセンサーとしての事業展開など、プラント設計や工事にとどまら
全社戦略におけるEPC事業と非EPC事業の位置付けや役割、また、非EPC事業の具体的内容
ない「非EPC事業」の拡大を進めている。
が不明確であり、一貫した成長戦略として開示できていないところに課題がある。さらに、同社
だからこそ、その事業をやる意味があるという差別化要素の開示に不足がある。
本調査研究への参加目的
日常的な投資家との対話において、自社が保有している技術力の高さや、個別のライセンス技
術についての発信はしている。しかし、特に、近年推進している非EPC事業に関して、展開してい
る事業が多岐にわたっていることも起因し、全社的な成長戦略としての非EPC事業の重要性や
位置づけ、中長期的な成長の見通しについて、日常的な投資家との対話において十分に理解さ
れておらず、得てして短期的な業績貢献に関する回答を求められることが多かった。
このため、企業成長に果たす非EPC事業の役割や中長期視点での持続的な成長性に関心を
持ってもらえる開示を進めるべく、本調査研究への参加を決めた。
また、同社の近年のバリュエーション(※2)はバリュー株投資家が関心を持つ水準(PBR1倍未満、
ROE8%未満)で推移しており、実際同社株を保有する米国ファンドにおいても、「Value」の記載
があるファンドが複数社含まれている。こうした投資家は企業成長以前に事業撤退や資産売却な
どのような構造改革を求めることから、本調査研究での支援もこうした投資家の視点にかなう取
組が求められる。
これらの点を踏まえ、非EPC事業が今後の経営戦略、売上構成の観点からどのような位置付けや役割
になることを目指しているのか、描く将来構想とそこに至るための課題について、議論する必要がある。
※1 証券などの価格の変動性のこと。期待収益率が期待通りとなる度合いを示す。ボラティリティが高ければ期待収益率か
ら大きく外れる可能性が高い。(野村證券 https://www.nomura.co.jp/terms/japan/ho/volatility.html)
※2 企業の利益・資産などの企業価値評価のこと。本来の企業価値と現在の株価を比較して、株価が相対的に割安か割高か
を判断する具体的な指標としては、株価純資産倍率(PBR)や株価収益率(PER)、配当利回りなどがある。(野村證券
https://www.nomura.co.jp/terms/japan/ha/A01974.html)
32
33
第3章ӷӻ
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 –Ө事例1 東洋エンジニアリング株式会社 ӷ
ԔԔӨ: 目線合わせ
専門家チームから投げかけられた疑問は、当初企業が開示していた非EPC事業における展開領
本節では、「企業成長の道筋」の効果的な開示に向けた取組を紹介する「III:対話編」に入る前に、
専門家チームが支援に当たって企業とのすり合わせに多くの時間を費やした「非EPC事業」に関
する内容理解の過程と、そこから見える企業・投資家間の目線の違いについて説明する。
域や説明とは異なる、経営戦略や成長戦略に関する内容であった点にお気づきいただけたであ
ろうか。本調査研究では、前頁で挙げられた質問について企業より回答をいただきつつ、今後の
対話の論点について整理を進めていった。
投資家に伝わりにくい「非ԏԟԍ事業」
専門家の質問に対する回答
同社がEPC事業、すなわち設計から調達、工事までを一気通貫で手掛けるプラントエンジニアリン
1. 非EPC事業への注力の程度
(企業の回答)主力事業であるEPC事業と非EPC事業は経営における両輪として位置づけるほ
グ事業を主力事業としている点については、「I:イントロダクション」にて紹介したところである。そ
れでは、今回の専門家支援の中でも議論の中心となり、EPC事業の対概念として語られる「非EPC
事業」とは何であるのか、専門家チームからの質問が相次いだ。
ど重視しており、粗利率も高いことから積極的に育てている。
2. 非EPC事業の中でどの領域が特に主力といえる領域なのか
(企業の回答)現状、「知財/ライセンス事業」が事業化に向けた解像度が高く、また粗利率も高い
同社が開示資料において説明していたのは以下の点であった。
統合報告書における「非EPC事業」に関する説明
ことから主力といえる領域である。
3. 主力事業であるEPC事業とどの程度のシナジーがあるのか
(企業の回答)会社全体のボラティリティを下げるためだけでなく、主力事業であるEPC事業の
受注件数増加といった効果も見込める。
非EPC事業:EPCビジネスの知見に基づいた、お客様や社会の課題解決サービス
• 技術ライセンサーとしての「知財/ライセンス事業」、
4. 業績全体における非EPC事業の貢献度はどの程度か
(企業の回答)粗利益の中で「非EPC事業」全体の割合は高まっている。ただし、その中の主力の
• 新規プラントの事業性検討を行う「事業企画・事業性検討」、
一つである「知財/ライセンス事業は、業界慣行から売り切り型のフロービジネスのため、粗利率
• 製造事業者としての「事業投資・事業運営」、
は高いものの業績への貢献は今のところ限定的である。
• お客様の立場でプロジェクトマネジメントを実施する「PMC/オーナーズエンジニアリング」、
• EPCに関わるプロフェッショナルサービスを実施する形態である「EPsCm」、
今後の対話の論点
• 省エネ・GHG削減コンサルなどの「成功報酬/サブスクリプション型」、
非EPC事業に関する企業からの回答をもとに、まずは非EPC事業における主力領域である「知財ラ
• 基礎研究から社会実装までのバリューチェーン構築をパートナーの立場で実施する
イセンス事業」に焦点をあて、
「共創エンジニアリング」
などのビジネスの総称が非EPCビジネスです。
(出典)東洋エンジニアリング株式会社 統合報告書ӼӺӼӾ
しかし、これには専門家チームは納得せず、主に以下の観点から詳細な説明を求めた。
専門家による「非EPC事業」に対する質問
1. 開示資料からは非EPC事業に注力している印象を受けなかったが、
どの程度非EPC事業に注力しているのか
2. 非EPC事業の中でどの領域が特に主力といえる領域なのか
3. 主力事業であるEPC事業とどの程度のシナジーがあるのか
1.
ビジネスモデルの整理(対話編①)
2.
ビジネスモデルの強みとなる差別化要素(対話編②-1)
3.
EPC事業・非EPC事業の循環と拡大(対話編②-2)
の3つの観点から企業成長の道筋を整理すべく、対話を進めた。
本事例における企業・投資家間の視点のギャップ
本事例では「非EPC事業」という言葉に対して企業と投資家で開示・対話を行う際の視点に
ギャップが存在していた。このギャップこそが、今後の対話編を通して建設的な対話を進める際
のコミュニケーションコストを高める要因となることから、まずはこうした両者が持つ目線の特徴
を理解することが重要である。(図表3)
図表3
4. 業績全体における非EPC事業の貢献度はどの程度か
企業
34
企業・投資家間の視点のギャップ
展開サービスを紹介すべく、
「非EPC」
経営の全体像を掴むべく、
事業レベルで類型や課題を説明
とは?
全社レベルでの成長貢献を確認
35
投資家
第3章ӷӻ
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 –Ө事例1 東洋エンジニアリング株式会社 ӷ
ԔԔԔӨ: 対話編① 成長ビジョンを支えるビジネスモデル
企 業 : なるほど、質問の意図が分かりました。ビジネスモデルは2つあります。(図表5)
1つ目は、EPC事業のビジネスモデルとして当社がライセンサーとしてEPCを受注し、EPC
「II:目線合わせ」にて定めた論点に基づき、まずは非EPC事業がどのような収益構造を取って
事業にライセンスフィーとして利益を上乗せするパターンです。
いるかといった、ビジネスモデルの整理を進める流れとなった。
2つ目は、非EPC事業のビジネスモデルとしてEPCは受注せずとも、ライセンス料だけ得る
Key Questionでは投資家視点で示すべきビジネスモデルの内容を端的に示しており、対話を通
パターンです。これにより、ボラティリティ低下、利益率向上を目指します。
して企業が説明するビジネスモデルとの視点の違いを体感いただきたい。
Key Question 1 :
多様な展開を見せる非EPC事業は将来の収益や成長にどのように貢献するのか
⚫ケース1
専門家 : 非EPC事業の役割として、主力事業であるEPC事業のボラティリティを下げ、企業の安定
収入
一方で統合報告書を見ていると、ライセンスビジネスをはじめ多くの取組をされており、
それぞれの取組が売上げにどのように貢献するか、判断がつきません。
まずは基本となるビジネスモデルを示してもらえませんか。
ライセンス:メタノール製造に関する
特許権の実施許諾、ノウハウの提供
⚫ケース2
化学品メーカー等
成長を実現するものと位置付けていることは分かりました。
化学品メーカー等
メタノールの販売
収入
メタノール製造会社
EPC
収入
収入
EPC
A社
TOYO
EPC利益
メタノール製造会社
ライセンス
プラント建設会社
収入
ライセンス
による利益
収入
メタノールの販売
収入 収入
型ごとにビジネスモデルを記載しています。(図表4)
知財/ライセンス事業に関する開示
化学品メーカー等
メタノール製造会社
ライセンス
プラント建設会社
ライセンサー
TOYO
企 業 : 知財/ライセンス事業をはじめとして、非EPC事業のビジネスモデルについては、取組の類
図表4
改善ポイント ①
EPCと非EPC事業の代表的なビジネスモデル
図表5
収入 収入
プラント建設会社
ライセンス
費用
B社 …
収入
ライセンサー
EPC利益
EPC利益
ライセンス
による利益
(B社)
EPC
収入
EPC
収入
ライセンス
による利益
(A社)
利益
EPC
収入
EPC
費用
費用
利益
TOYO
A社
B社 …
TOYO
(出典)現地調査資料を基に請負事業者(ԟՋԍコンサルティング合同会社)にて作成
対話ポイント ①
専門家 : ありがとうございます。御社が非EPC事業を通じて相対的に利益率の高い領域に挑戦され
ていることがよく理解できました。企業全体の利益率はどの程度改善するのでしょうか。
企 業 : 正直なところライセンス料の絶対額は大きくはないので全体利益への寄与は現状では限定
的です。ライセンスビジネスは業界慣行もあり受注単位の売り切り型のモデル(フローモデ
ル)となっていることから、一般的な使用権のように継続的・安定的な収益にはつながりづ
(出典)東洋エンジニアリング株式会社 統合報告書ӼӺӼӾ
らいものとなります。
専門家 : 業界慣行におけるライセンスビジネスの状況についても把握できました。一方、海外の競合
専門家 : 技術情報も含めて多くの開示がなされているのは理解しています。しかし、投資家が求め
企業である〇□社のように、ライセンサーとして高い利益率を出している企業もあります。
るビジネスモデルとは、誰からどのように収益を得るのか、その結果どの程度利益を期
業界慣行を破るのは難しいかもしれませんが、現在尿素ライセンサーとして優位な立場に
待できるのかです。その上で、経営全体における非EPC事業の役割についても教えても
あることから、例えば生産量に応じて継続的にライセンス収入を受け取るストックモデル
らえますか。
も検討し、企業全体の利益率の向上を目指していただきたいです。
36
37
第3章-1
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 – 事例1 東洋エンジニアリング株式会社 -
III : 対話編② ビジネスモデルを支える強み
1. ビジネスモデルの強みとなる差別化要素
「 III:対話編①」 で整理された非 EPC事 業に おける代表 的なビジネスモデ ルを軸 として 、
企 業 : これには主に2つの視点から御説明します。
まず1点目は、クリーンメタノールの需要についてです。クリーンメタノールには主にバイオ
メタノールとeメタノールの2類型が存在しており、特にeメタノールは今後需要が大きく伸
「III:対話編②-1」ではどのような強みがこのビジネスモデルを支えているのかを明らかにした。
びることが見込まれています。
ここで求められるのは「自社が選ばれる、他社との差別化要素は何か」であり、技術情報のいた
2点目は、eメタノール市場で発揮できる当社の差別化技術です。当社はeメタノール市場
ずらな開示ではない点に注意が必要である。
の中でも、「再生エネルギーの出力変動への対応」技術に強みを持っています。この技術は、
顧客にとって最適な設備と価格のバランスをレコメンドすることで、顧客事業の最適化に
Key Question 2 :
顧客が同社を選ぶ理由となる差別化要素は何か
専門家 : 非EPC事業の一つとしてライセンスを中心としたビジネスモデルで成長を遂げようとして
いる点は、前回の議論である程度理解できました。
貢献できるものですが、他社では同種の技術開発はあまり進んでいないことから、当社が
競争力を持って技術提供できる領域だと考えています。(図表7)
図表7
同社の技術が顧客から選ばれる理由
改善ポイント ②
それでは、現在想定しているビジネスモデルの将来性を確かめるために、御社が勝てる根
拠について説明をお願いします。
企 業 : 当社が力を入れているクリーンメタノール製造技術「g-Methanol®」を例に説明します。ク
リーンメタノールは合成燃料の一種であり、脱炭素燃料と位置付けられています。
当社はこの分野で独自のMRF-Z®反応器を採用したg-Methanol®技術と、触媒性能をフル
に引き出し、大型化に適した最適設計を実現できるといった特徴を持っています。(図表6)
図表6
合成燃料技術に関する同社の強み・特徴
(出典)現地調査資料
専門家 : ありがとうございます。今後とっていきたいマーケットや選ばれる理由など、全体的に非
常に分かりやすくなった印象です。
一点深掘りをすると、他社が出願していない空白領域に技術提供できるという点をア
ピールする方法というのは、あまり目にしないが、強みを示すデータであるので表現に工
夫をして欲しいです。技術内容はもう少し詳細化し、EPC事業と非EPC事業それぞれに発
(出典)東洋エンジニアリング株式会社 統合報告書2024
専門家 : 合成燃料(e-fuel)に関しては現在注目が集まっている技術ですし、各社が力を入れている
揮される効果と、両者がどのように関係しあっているかを説明することで、より説得的な
説明につながります。
対話ポイント ②
企 業 : 指摘の通り、どのような技術なのかについては、各事業における位置付けも含めてもう少
ことは認識しています。しかし、御説明の内容では以前御説明いただいたビジネスモデル
し詳細に説明できるよう検討していきます。
に対して、どのように貢献するのかが見えてきません。
加えて、EPC事業と非EPC事業の循環関係については、日頃の投資家とのエンゲージメン
まずは、なぜ御社が顧客から選ばれるのかといった視点から、改めてこのビジネスモデル
トでも話題にされることが多いです。
における御社の優位性を御説明いただけないでしょうか。
次回の検討では、EPC・非EPC事業の循環について議論させてください。
38
39
第3章-1
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 – 事例1 東洋エンジニアリング株式会社 -
III : 対話編② ビジネスモデルを支える強み
2. EPC事業・非EPC事業の循環と拡大
企 業 : EPC事業は当社の主力事業でもあり、非EPC事業との相乗効果があることから将来的に
は両方の事業を同等のバランスとしていくことを目標にしています。
しかし、非EPC事業は当社だけでなく、競合企業も取り組んでいます。非EPC事業単独で
本節では、主力事業であるEPC事業と、新規事業領域に当たる非EPC事業が相互にどのような
はなく、EPC事業も含めて相互に知見・経験や資源を循環させることで、これまでにない
関係性を築き、循環・拡大していくかに関する開示に向けた検討過程を示す。
ビジネスポートフォリオの拡大を行うことができます。(図表9)
本検討においても他節と同様、単にEPC・非EPCの関係性を示すだけでは足りず、「自社の成長
例えば、EPC事業で培った知見を活用し、クリーンメタノール技術のような先端技術を要す
ビジョン」がどのように達成されるのかを筋道立てて説明することが重要である。
るO&M(※1)事業(非EPC事業)の受注につなげるほか、反対に先端分野でのO&M事業(非
Key Question 3 :
新規事業・既存事業間で知見・経験はどのように循環し、事業拡大につながるか
専門家 : これまでの整理で、ビジネスモデルの裏付けとなる「顧客視点での差別化要素」について
は、ある程度理解することができました。
EPC事業)での知見をEPC事業における設計(E)等に反映させることで、当社でなければで
きない強みの形成や、これに基づく高利益率/低リスク優良案件の選択受注につながります。
図表9
フロービジネス
今回はこれまでの議論の仕上げとして、EPC事業・非EPC事業といった御社の経営の柱と
瞰的な視点で整理を進めましょう。
企 業 : EPC事業・非EPC事業の循環と拡大を示した図としては、イントロダクション「同社の成長
事業者
ポートフォリオ転換の流れを示しています。(図表8)
図表8
EPC事業・非EPC事業の関係性とKPI
コント
ラクター
O&M
1 EPC事業からプラント
ライフサイクル全般へ
事業パートナーとしての参画
3
3
R&D、社会実装
(共創エンジニアリング)
0 EPC事業
DXにより不確実リスクを潰し込み、
競争力の源泉として維持
2
ビジョン」でも示した図が該当します。
ここに非EPC事業の粗利構成比をKPIとして開示して、2030年まで目標を示すことで、
ストックビジネス
EPC(社会実装)
事業計画
なる2つの事業が、どのような相互関係をもって成長に寄与するのかといった大局的・俯
改善ポイント ③
EPC事業・非EPC事業における知財・無形資産の循環イメージ
2 計画時からの参入による
EPCへの連続性
DXプラント
O&Mビジネス
EPC
(コアコンピタンス)
3 顧客と技術の関係性継続に
よる課題・提供価値発掘
1
0
1
(出典)現地調査資料を基に請負事業者(ԟՋԍコンサルティング合同会社)にて作成
対話ポイント ③
専門家 : 非EPC事業・EPC事業における知財・無形資産が相互に循環することで事業間のシナジー
を生み、ビジネスの拡大を進めている点について理解できました。
一般的に他社がP(調達)・C(工事)を受注すると、その後のO&Mを受注することは難しい
と考えられます。E(設計)部分でどのような強みがあるのか、また、その前提となるライセ
ンスとの関係性、O&Mで取得できたデータを次のプロジェクトのEに活用するなど、様々
な循環によって御社の強みが構築され、ビジネスモデルに反映されると思うので、今実施
いただいた説明の中に、実際にどのようなデータや知見が循環しているのかを示すと、今
後強化すべき知財・技術についても明確になり、説得力のある説明になるかと思います。
企 業 : 現在、2040年の当社の業態ビジョンについて検討を進めており、それに基づいて2026年
(出典)東洋エンジニアリング株式会社 統合報告書2024
専門家 : おっしゃる通り、2030年までの粗利構成比も示されており、成長の方向性としては理解で
きます。しかし、大事なポイントは、御社がEPC事業・非EPCの双方に取り組む意義がどこ
にあるのかが知りたい内容になります。
EPC事業のボラティリティが高いのであれば、非EPC事業に集中するという経営判断も
ありえます。こうした中で、御社がなぜEPC・非EPCを両輪で取り組むという判断をされ
度から始まる次期中計を策定します。そこで、EPC、非EPCの双方を循環するビジネスモ
デルの詳細も詰めていきます。ただ、すぐに全プラントや課題をカバーするというのでは
なく、当社の技術力やノウハウが生かせるような高難易度の事業を中心に、まずはこうし
た循環モデルを検討すべきだと思いました。
その上で、こうした循環モデルにとって重要となる技術や人材面を含む投資を特定・開示
することで、技術開発の取組や投資戦略についても理解を促したいと思います。
※1 運用・保守(Operation & Maintenance)
たか、この点が重要です。
40
41
第3章ӷӻ
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 –Ө事例1 東洋エンジニアリング株式会社 ӷ
ԔԥӨ: 解説編 建設的な対話に至る知財・無形資産開示のポイント
ビジネスモデルを支える強み
東洋エンジニアリング株式会社の事例では、非EPC事業という新規事業領域の成長性を説得的
Key Question 2 :
顧客が同社を選ぶ理由となる差別化要素は何か
に説明するために、専門家との対話を通して、顧客に選ばれる差別化要素やこれらを用いたビジ
ネスモデルの根拠について、ブラッシュアップを行った。
Key Question 2における対話では、知財・無形資産開示に関する取組で多くの企業が悩まれる、
解説編では、各対話を通じた開示の変化の中で、特に重要な取組や姿勢について説明する。
「投資家との視点のギャップ」を生々しく描いた。対話編を通じて見えているように、技術力に関
する説明は対話の前後で変わらず説明をしているところである。しかし、大切なのはその説明の
手順や論理の流れであった。
成長ビジョンを支えるビジネスモデル
Key Question 1 :
多様な展開を見せる非EPC事業は将来の収益や成長にどのように貢献するのか
改善ポイント ②
では、「同社の技術が顧客から選ばれる理由」と題している通り、優れた技
術がどのような顧客価値を創造しているかについて、「なぜ必要とされているか」や「なぜTOYO
が選ばれるのか」といった、読み手が想像する疑問を先回りして説明している。本解説では、紙面
「III:対話編①」では、投資家と企業との間で「ビジネスモデル」という言葉に対する理解の相違
から、当初投資家の求める「非EPC事業の将来見通し」に関する議論に至ることができなかった。
の都合上対話編にて収録ができなかったこの説明手順や論理の流れを紹介したい。 (図表10)
図表10
顧客価値に焦点を当てた差別化要素の説明手順
企業の行っていた開示
投資家の求めていた開示
1
2
3
非EPC事業のカテゴリー、
事業進捗、技術力
非EPC事業の収益構造と
全社的な成長に向けた効果
この事業は
自社Missionに
どのように
貢献するのか
当事業は市場で
どの程度必要と
されているのか
その中で
なぜ自社が
選ばれるのか
改善ポイント ①
で示された開示では、上記投資家観点を踏まえ、「誰から(主な顧客)」
4
5
本事業の
進捗状況
どのように
全社的な成長に
つなげるのか
(利益率の向上等)
「何の対価として(自社が提供する付加価値)」「どの程度の利益を得られるか」といった収益構造が
「III:対話編②-1」では、本説明に基づき投資家をはじめとした専門家チームより、深掘りをしてい
見えるようになった。
くための質問として
この結果として、
対話ポイント ①
に表れるような企業成長の道筋に迫る全社戦略レベルで
の事業効果といったテーマに、対話の論点を移行することができた。
本事例では、非EPC事業が全社的な収益安定化に与える影響は限定的であるといった、ネガティ
ブな側面が示される結果となった。この点に違和感を覚えた読者も多いであろうが、ここで重要な
ポイントは、その後に続く専門家からのビジネスモデル改善に向けたアドバイスである。
実際の対話では、同社・業界の特異なライセンスビジネスからの脱却に向け、国外事例も含めたア
イデアや注力すべき事業領域等、多くの示唆や気付きが得られた。
対話ポイント ②
にて示したような、強みの妥当性やビジネスモデルへの
波及に関する追加的な対話が行われた。
知財・無形資産の開示にとどまらず、開示の取組において投資家が完全に納得できる情報発信は
現実的には難しい。その上で、知財・無形資産開示においては、全社的な成長に向けて差別化要素
がどこにあるのかを示すことで、「III:対話編②-2」につながるような、投資家との次なる対話ポイン
トを生み出すことができる。
コラム 7
TAM、SAM、SOMによるターゲット市場と時間軸の明確化
企業開示を通じた対話では、企業成長の道筋を投資家に理解してもらうことは当然重要だが、業
「III:対話編②-1」で示した「クリーンなメタノールはどのくらい
界に精通する投資家が持つ知見をもとに、対話を通じて企業価値を高めることを目指そうとする
必要とされているの?」における市場環境の説明では、専門家
姿勢も一層重要である。
チームのアドバイスのもと、TAM/SAM/SOMの観点に基づき、
自社が将来的に狙うマーケットを明確化して説明を行った。
投資家は、新規事業領域の時間軸について、解がない前提で質問
をすることがある。その際に、市場規模のうち自社がどの程度を狙
うのか、社会がどう変わり、その時に自社として何をしなければな
らないのか、生きる強みは何か、課題は何か、プロセスで整理でき
ると、投資家に対して成長の期待を抱かせることが可能になる。
42
43
SOM
SAM
TAM
TAM(Total Addressable Market):
所定の事業がリーチできる可能性のある全体の市場規模
SAM(Serviceable Available Market):
TAMのうち、アプローチ可能なターゲット層全体の収益機会
SOM(Serviceable Obtainable Market):
SAMのうち企業が合理的に取り込める範囲
第3章ӷӻ
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 –Ө事例1 東洋エンジニアリング株式会社 ӷ
ビジネスモデルを支える強み
● 非EPC事業におけるビジネスモデルに対する指摘
Key Question 3 :
新規事業・既存事業間で知見・経験はどのように循環し、事業拡大につながるか
指摘事項
Key Question 3 は、特に新規事業にこれから取り組もうとされている企業において、その成長性
g-Methanol®、SAFの知財/ライセンス事業の事業モデルは分かりやすくなった
が、粗利額寄与度が限定的なのは期待外れ (下図はg-Methanol®の例)
の核心に迫る問いといえるだろう。Key Question 2 の解説と重複する部分ではあるが、知財・無形
資産開示は情報開示をしたらそれで終わりというものではなく、開示内容を踏まえた対話を通じて、
① ビジネスモデルに関する開示の改善
② 粗利額寄与度に関する対話に発展
経営戦略の精緻化に取り組むことで、真に企業価値に資する建設的な対話につながるといえる。
改善ポイント ③
化学品メーカー等
で示された開示の改善例も、この資料で将来的に実現していきたいビ
ジネスモデルを完全に示し切れているわけではない。注目いただきたいのは、これまで「強み」と
収入
TOYOの非EPCの利益
化学品メーカー等
収入
メタノールの販売
して説明されてきていたライセンスやeメタノール技術が、どのようなモデルで具体的な収益を
メタノール製造会社
実現するかを説明できるようになった点である。
これによって、
対話ポイント ③
の企業側の回答にも表れているように、同社の強みが生
かせるような事業領域として、先進的な技術を含む高難度の事業が特定されるとともに、そこで
注力すべき技術開発の取組は何かや、技術以外にも同領域において専門的な知見を発揮できる
EPC
A社
収入 収入
る取組はこれで終わりではなく、本事業で専門家から指摘の出ていた、「ビジネスモデル自体の
ライセンス
プラント建設会社
収入
人材投資に関する整理・検討の必要性が認識されるに至った。同社の知財・無形資産開示に関す
TOYO
メタノール製造会社
収入 収入
プラント建設会社
ライセンス
EPC
FS、FEED、
工事マネジメント
B社 …
収入
ライセンス
ライセンサー
コンサルティング
(成功報酬)他
再検討の余地」や「成長の基盤となる人材育成等の成長戦略」の整理(→コラム8)をはじめ、開示
ライセンス:メタノール製造に関する
特許権の実施許諾、ノウハウの提供
が改善されたからこそ生まれる、成長性に関する経営戦略レベルでの投資家の疑問に答えてい
2023年度
くことで、企業価値の向上に向けた検討を加速させることができる。
2030年度
コラム 8
知財・無形資産開示の改善が導く建設的な対話
既存の非EPC事業の粗利率は高くなさそう(粗利構成比が50%を超えるが、全
現地調査では、統合報告書における知財・無形資産情報に焦点を当てた開示の改善に向けた検討
体の粗利率は10%程度に留まる)。ライセンス事業の粗利率が高いとしても金額
に取り組むとともに、これまでの検討を踏まえた実践形式での対話を行った。
への貢献度は限定的。
対話編を通じて開示やその前提となるビジネスモデルの整理については一定程度前進したものの、
前進したからこそ生まれる投資家の疑問や、今後ブラッシュアップをしなければならない経営戦略上
(出典)現地調査資料を基に請負事業者(ԟՋԍコンサルティング合同会社)にて作成
の課題も、浮き彫りになった。
本コラムでは、対話編の続編として、知財・無形資産開示が進展することで、どのような建設的な対
話が生まれるのかを説明する。
「III:対話編②-1」にて改善されたビジネスモデルの開示について、投資家からは成長貢献度の観
点から指摘がなされた。対話では他社の事例等も例示しながら、プライシングの重要性や業界横断
となる強力なライセンスを活用した業界慣行の打破といった、当初同社が説明していたビジネスモ
デルのブラッシュアップに関する議論を投資家とともに行うことで、知財・無形資産の開示改善と
いう枠を超え、中長期的な成長性に資するビジネスモデルの高度化に向けた気付きを得ることが
できた。
加えて、本ビジネスモデルを支えるノウハウ・人材開発の側面からも、投資家の指摘がなされた。
44
45
第3章ӷӻ
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 –Ө事例1 東洋エンジニアリング株式会社 ӷ
● 非EPC事業のビジネスモデルの基盤となるノウハウ・人材開発
人材開発面に関する指摘は、非EPC事業の価値化・事業化に際して求められる新しいノウハウに
焦点を当てて、今後必要となる取組やパイプラインを問うものとなっている。本指摘についても、
非EPC事業におけるビジネスモデルやコアとなる強み(知財・無形資産)が明確となったことで、そ
こで必要となる人材像(無形資産)が定まり、その確保やつなぎ止めに向けた戦略的な説明が求め
られるようになった。
本調査研究では、知財・無形資産の開示に焦点を当てた支援に取り組んできたが、その活動の中
東洋エンジニアリング株式会社
統合報告書2024 p.57
核は、まさに経営戦略の精緻化そのものであったといえる。経営ビジョンやビジネスモデルとこれ
らを実現する技術情報、人材戦略等は常に統合的に整理されることが求められており、こうした整
理を行うことで、本コラムのようにより高度なビジネスモデルや戦略の構築に向けた新たな視点や
検討材料を得られるといった建設的な対話に向かっていくことが可能となる。
● 建設的な対話に基づく経営戦略の高度化
2. ステークホルダーとの建設的な対話
1. 「企業成長の道筋」を開示
<対話による経営上の気付き>
① 成長ビジョン
ビジネスモデルの再構築
② 成長ビジョンを支えるビジネスモデル
東洋エンジニアリング株式会社
統合報告書2024 p.56
東洋エンジニアリング株式会社
統合報告書2024 p.53
強みの再定義
③ ビジネスモデルを支える強み
など
経営戦略の高度化
東洋エンジニアリング株式会社
統合報告書2024 p.54
論点①:増加利益をどう使うか(a. そのままボトムラインに反映(株主還元および成長原資)、b. 成
果報酬に一部充当(従業員に還元)、c. コスト競争力として売価に反映(顧客に還元)など)
論点②:非EPC事業は、顧客への提供役務としてはEPCの一部に見えるが、価値化・事業化は新し
いノウハウが必要なはず。T-Nextの110×2=220名(3,577名のエンジニアの6%)以外に、ど
のくらいの規模を、いつまでに、どのように養成・確保するのか。
46
47
第3章ӷӼ
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 –Ө事例ӼӨ第一工業製薬株式会社 ӷ
事例
2
成長力の源泉となる企業の本質的な強みを知財・無形資産の観点で整理した事例
第一工業製薬株式会社Ө Ө
Ө
ԞՉՈՀԺՂԵ
そして2つ目は、製品の多様さである。同社は長年の歴史の引き合いで、極めて多様な製品を
扱っている。それらに紐付く強みや技術や特許がどう売上や利益率に貢献しているかは、極めて
複雑となっており、短期間で投資家に理解してもらうことは難しい。
この状況を打破し、同社の注力分野や目標に対して、強みや技術の説明により説得力を持たせ
◼ 第一工業製薬株式会社は、多岐にわたる産業領域で、顧客のニーズに寄り添った製品
を、ӻӻӿ年の歴史で蓄積した多様な技術の組合せにより提供する化学メーカーである。
るような開示を進めるべく、本調査研究への参加を決めた。
◼ 同社は、顧客、技術、製品に関する秘匿情報が多分含むため情報発信が難しいこと、また、
事業においてきわめて多様な強みや技術を複雑に組み合わせて活用していることから、
投資家や株主から、事業についての理解を深めることへの課題を伝えられていた。
同社の成長ビジョン
◼ 本調査研究での専門家支援を通じて、同社の多様な製品群の根底にあるビジネスモデ
ルやそれを支える強みを整理し、企業の成長と紐付けることに取り組んだ。
上高1000億円、営業利益率10%に成長する経営目標を掲げている。
同社は、2025年度3月期の見通し 売上高730億円(営業利益率 約7%)から、2030年度3月期に売
この経営目標を、既存事業の収益改善や、周辺事業の拡大、新規事業の創出・黒字化によって達
成することを目指している。(図表11)
ԔӨ: イントロダクション
図表11
企業概要
同社の2030年に向けたシナリオ
第一工業製薬株式会社(京都府。資本金約88億円、従業員数1,111名(連結))は、1909年に創業
した化学メーカーである。同社は、幅広い産業領域へ、多くの製品を提供する。祖業である界面活
性剤に加え、電子材料、樹脂材料、ウレタン材料、高分子材料などきわめて多様な製品を製造・販
売している。
同社はその多様な製品について、規模は追わず、独自性で評価される「ユニ・トップ戦略」(ユニ
=ユニークの意味)を基本方針としており、115年の歴史の中で蓄積された多様な技術や、幅広
い産業分野における取引から得た知見を活用し、数千種以上に及ぶ多様な製品群の組合せによ
り、顧客のニーズにマッチした付加価値のある製品を開発している。
近年では、ライフサイエンスをはじめとする新たな事業の創出を進めており、とりわけ社会的課
題である高齢化や環境保全などの解決につながるQOLの向上や社会貢献型の製品開発を進め
ている。
(出典)第一工業製薬株式会社 中期経営計画「SMART 2030」説明資料
本調査研究への参加目的
「投資家に自社の強みである技術力の高さと、売上げや利益率の関係性をうまく伝えられない」と
いうのが同社の悩みであった。その原因は大きく2つある。
1つ目は同社と顧客との関係性である。同社の製品は中間素材であるため、同社の製品や技術
の理解を深めるには、納品先の顧客情報を含めなければならなくなり、その結果、詳細な開示は
専門家チームの事前認識
投資家説明会での対話など丁寧に開示してきている。しかし、同社の2025年度目標や中期経営
計画の目標を達成するために、技術力を製品にどのように結びつけ、顧客との関係性を深めて
いくのかについて、具体的な価値創造のストーリーを把握することが難しい。
開示資料のみで把握することは難しい目標を達成するための事業ポートフォリオ戦略、強みを
できなくなる。
活用した具体的な打ち手、成長のための投資(キャッシュ・アロケーション(※1))等について議論
したい。
※1 営業キャッシュフローにより生まれる企業の資金をどのように設備投資や研究開発、M&A、株主還元等に充てるかの方
針を示すもの。
48
49
第3章ӷӼ
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 –Ө事例ӼӨ第一工業製薬株式会社 ӷ
ԔԔӨ: 目線合わせ
これらのコメントに対し、企業からは、開示資料にない点も含め以下のような説明がなされた。
同社の製品群の多様さや、ユニ・トップ戦略は、同社の競争力の源泉となり、ひいては2030年度の
目標達成のカギとなるものである。ユニ・トップ戦略がどのように成果を生み出してきて、その強み
は未来にも通用するのか、このような目線合わせから、同社の支援は進んでいった。
目線合わせ①
多様な製品群でどのようにユニ・トップとなるか
イントロダクションで示したように、同社は社歴が長く取り扱う技術や素材や取引先の業種も多く、
開示セグメント数も多い。そして構成する多くの製品群について、規模は追わず、多様な技術を組み
合わせて独自性の高い製品を提供し顧客の課題を解決する、というユニ・トップ戦略を取っている。
このユニ・トップ戦略は、競争の激しいマスを狙わず、少量でも課題解決力を持ち利益率の高い独
自製品を目指すものだが、どうすれば上手くいくのか、専門家からの質問がなされた。
専門家の質問に対する回答
• ユニ・トップ戦略は、当社の個性であり、基軸となる考え方である。当社が産業を通じて、国家・社会
に貢献するために、ユニ・トップを目指し続けている。
• 顧客のニーズを拾って研究開発し、そのニーズに応える高付加価値製品を販売するのが当社の基
本のやり方であるが、ほかの顧客向けにさらにカスタマイズし、横展開する場合もある。さらなる販
売拡大につなげる。
• 当社では、ともに閃きあう共創相手を「インスパイアード・パートナー」と呼んでいる。課題を共有し、
密なる情報交換と対話により、競合参入を許さない関係を構築している。
• 事業規模に対して開示セグメントが多いことは、指摘を受ける点である。
• 一方、当社としては、多様な産業分野をカバーしているので、顧客のニーズをはじめとした様々な
事業セグメント・製品数やユニ・トップ戦略についての専門家からのコメント
• いくつかの具体的な製品で、多様な自社技術を組み合わせることで、顧客のニーズに沿った独自
性の高い製品を提供できている。
業界の最新情報を入手しやすいメリットがある。これが、顧客の課題解決に向けた製品の提案につ
ながっている。
• また、単純な材料提供にとどまらず、製品や技術の組合せにより、顧客へカスタマイズした価値を
提供できる点も武器である。多様な産業分野で実績があるからこそできることである。市場からの
• 多くの製品において、ユニ・トップ戦略であれば比較的高めの利益率を得られるはずである。一方
で、近年は業界平均かそれより低めくらいの利益率である。やはり製品数が多いとどうしても各製
品で良いとき・悪いときがあるから、それらの利益率を平均すると今くらいの利益率になるのだろ
うという印象になる。
• 取り扱う製品が多いため、経営資源が分散しないか心配に感じてしまう。
• 特別な顧客(開示書類のインスパイアード・パートナー)と、ユニ・トップ戦略がどう関係しているの
か分かりにくい。
評価も高く、顧客獲得につながっており、ユニ・トップの製品を生み出す機会である。
• 幅広い産業分野で展開しているため、例えば一つの製品の売上が低迷しても、別製品で売上を立
てられる。長年培った技術やノウハウで他へ展開、活用できる。
• これが、当社の勝ちパターンであり、社内では当たり前のようにやっていることだが、真の強みで
あることへの認識が社員には若干薄い。
• この点、「当社は一言でいえばどんな会社?」と社内に問いかけると、回答が統一しないということ
が課題と認識している。強みや勝ちパターンを整理し、社員の誰もが自信をもって社外へ発信でき
• マス向けに販売している製品もあるのではないか。工場の稼働率との関係では量を売れる製品も
るようにしたい。
重要ではないか。
• セグメントを変更する場合でも連続性が分かるようにしてほしい。
• 事業セグメントが多く、素材別であるため、売上の増減がどのようなニーズによるものか把握しにくい。
説明を受け、専門家チームとしては、多様な製品群でユニ・トップ戦略を狙う戦略は、同社の最大
の強みであり、これが他社にはまねできない独自性を生んでいること、将来像の達成に向けたカギ
となることが理解できた。
専門家からのコメントでは、ユニ・トップ戦略が、同社の知財・無形資産の活用として最適なのか、
また、社員による社外への情報発信の課題感も教わることができた。
技術力を成長に結びつける方策として他にどんなことがあるのか、など幅広い質問が発せられた。
開示資料における同社の戦略の説明は、投資家が、付加価値のある製品を生み出していることを
理解することに有用な説明となっている。しかし、研究開発の成果がどのように売上や利益率を安
定させ、向上をもたらすのか、確信をもたらしにくいという懸念はある。一般的に、顧客名や対象業
種を具体的に開示せずに、ビジネスモデルを開示することは難しいため、ビジネスの性質上、顧客
名を具体化できない本件においては、財務との関連性の開示に別の工夫が求められる。
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第3章ӷӼ
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 –Ө事例ӼӨ第一工業製薬株式会社 ӷ
改善ポイント ①
目線合わせ②
ユニ・トップを狙う
企 業 : やはり当社のやり方の基本は、様々な技術やノウハウを組み合わせることによって、ある
目線合わせ①の内容を踏まえ、同社のユニ・トップ戦略の整理を行った。ここでは、実際の議論の
一部を対話形式で紹介する。企業と専門家の共通理解が深まっていく様子を御覧いただきたい。
Key Question 1 :
全社に通底する強みは将来像にどうつながっているのか
種ブラックボックス化された形で付加価値を高めた製品を提供していくというものです。
これがすべての事業セグメントで共通しています。
処方(レシピ)をブラックボックス化できる要因の一つは、手間を掛けなければ作れない素
材を扱っていることです。天然由来の成分から添加剤をつくるにも、消臭成分を最適化す
るにも、複雑な製造プロセスでの管理が必要で、ノウハウの塊です。手間をかけなければ
ならない材料だからこそ、ブラックボックス化しやすく、ユニ・トップを狙えます。
専門家 : 前回までの議論で、ユニ・トップを目指すことを中心としながら、多数の顧客向けのビジネ
ス展開もお考えのようでした。このあたりについてご説明をいただけますでしょうか。
企 業 : 営業が提案するテーマについて、利益率や規模、確度などを検討しています。セグメントに
よって事情が違うため、テーマごとに利益率、設備の稼働率などを考慮しています。稼働
率が低い場合は多少利益率が落ちても受け入れますし、逆に高い場合には、当社は研究
いわゆる「金のなる木」(※1)が、変化の激しい産業・技術分野で生じることがあります。技
術の世代が次々と変化するような製品を扱う企業様がお客様です。そこで培う技術を他
用途にも応用することで、研究開発投資を継続できています。
消臭に関しては、ユニ・トップでありながら、多数の顧客を狙う製品を上市し、引き合いも
増えています。(図表12)
専門家 : ありがとうございます。処方をブラックボックス化することで競合他社へ置き換えられな
開発型企業ですから、高付加価値の生産をしなければなりません。
ユニ・トップは、高付加価値の生産でもあります。工場の稼働率を保つために、多数の顧客
いよう付加価値を提供し、顧客との関係性を維持する。そして、高付加価値路線で高い利
向けに同一品を販売することもあります。当社の特徴は、単純に材料を提供するだけでは
益率を狙っていく。特定顧客から市場全体への展開や、新しい分野に挑戦し、企業成長を
なく、添加剤や合成、配合や製造のノウハウ、顧客の用途に適した評価技術などを組み合
遂げる。という全体像が見えてきました。
わせて付加価値を付けた製品を提供することです。他社では手間が掛かりすぎてできな
こういった全体像を示しつつ、投資家との対話の機会を充実させることで、理解を深めて
いことをやりきっています。
いけばよいと感じました。例えばいわゆるライフサイエンスなどは、丁寧な説明が必要で
顧客としては手間をかけずに、抱えている課題を解決できる材料を得られる点で高付加
すね。
価値です。
企 業 : 一見飛び地にも見えるライフサイエンス領域は、長年培った消臭のノウハウや、界面活性剤
対話ポイント ①
専門家 : ありがとうございます。前回より御社の成長への理解が深まってきました。この対話で把
握できることを、どう開示資料に落とし込んでいくか、教えてください。
御社のように事業のセグメントが多いと、各事業がそれぞれバラバラに考えているような
の技術が活用されています。
早期の黒字化への道筋は、次期中計の説明で開示しました。現在、開示できない秘匿情報
がありますが、着々と研究開発を進めています。理解を深められるよう丁寧に対話をして
いきたいと思います。
雰囲気がどうしても出てしまいます。説明からは、御社の強さの源泉は、顧客のニーズを
早期に理解する技術力や、化学で解決していく応用力にあるという仮説を得ました。また、
多様な製品群についてその売り方を変化させていくことも見えてきました。そういった御
社に個性的な強みと、最終的な売上げ、利益率の説明が、つながって見えるようになると
よいのではないでしょうか。
※1 「金のなる木」は、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント
(PPM)と呼ばれる事業や商品を、「事業成長性」「マーケット
シェア」の2軸で4つに分けて考えるフレームワークの用語。
「金のなる木」はマーケットシェアは高く一定の安定した売上
げはあるものの、事業成長性は低く今以上の売上げの伸びは
期待できないような商品・事業を指す。
52
53
高
金のなる木
低
負け犬
マーケットシェア
花形
問題児
低
高
事業
成長性
第3章ӷӼ
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 –Ө事例ӼӨ第一工業製薬株式会社 ӷ
図表12 本議論後に企業にて作成された同社製品の共通的なライフサイクルと
同社の強みのイメージ図
ԔԔԔӨ: 対話編 成長ビジョンを支えるビジネスモデル
⚫ニッチ×ハイエンド戦略
を進める流れとなった。本事例においても、Key Questionでは投資家視点で示すべきビジネスモデ
⚫ブラックボックス化
同社製品のライフサイクル
115年の技術
ニッチ・ハイエンド品
コモディティ化
ルや強みの内容を端的に示している。
Stage 1 Stage 2 Stage 3
まぜる
レ
シ
ピ
群
まもる
くっつける
開
ととのえる
発
個
社
販
売
顧
客
拡
大
あらう
知財の仕事
市場調査
用途調査
基本
特許
応用
特許
事例
ウレタン
発泡技術
岩盤固結剤
用途の開発
素材
ド
ロ
ッ
プ
ア
ウ
ト
Key Question 2 :
どうやって競争優位性や差別化要素を構築し、持続的に収益を上げるのか
3つの観点から
他社が
追従できない技術
追加
特許
ユーザーと
の市場開発
「II:目線合わせ」にて醸成された共通理解に基づき、改めて同社のビジネスモデルや強みの整理
専門家 : まずは、御社のビジネスモデルを説明してください。よりかみ砕いていえば、競争優位性
を構築し、他社と差別化してその結果、持続的にもうける仕組みです。
企 業 : まずは特定の顧客から最新のニーズをいただいて、それを解決する製品を設計、提案しま
顧客との
他の製品開発
トンネル補修
配合
手順
(出典)現地調査資料を基に請負事業者(ԟՋԍコンサルティング合同会社)にて作成
専門家 : その上で、おそらく御社のビジネスを説明しきるにはまだ足りていないと思います。例え
ば、どうやって開発テーマを見つけてくるのか。また、利益率が下がってきたらどうするの
か。そういったところも含めて全体を説明できると、個別の製品や事業に関して具体的な
顧客名や数字を出すことができなくても、投資家に対する説得力を高めることができる
ようになるのではないでしょうか。
もちろん細かく見ればそのストーリーに乗らないものもあるかと思いますが、大きなイ
メージとしてこういう戦略だということは見せていくとよいでしょう。
す。それを支える強みとしては、やはり多岐にわたる技術力と製品群、幅広い顧客との信
頼関係がベースにあります。
専門家 : そこが強みの一つとは認識しているのですが、顧客からニーズが持ち込まれる仕組みに
ついて教えてください。統合報告書を読むと、主担研究者と顧客別センターというのがあ
るようなのですが。
企 業 : 顧客別のセンターでは、ある顧客からの研究の相談は、すべて固定の主担研究者に一元
化されるようになっています。伝言ゲームのようにならないので顧客にも安心感がありま
すし、当社としても情報が集約されるので、もれなく顧客の悩みをキャッチできるような
形です。やはり人間関係がしっかりできていないと悩みも相談されませんので。
対話ポイント ②
今後の対話の論点
専門家 : 合理的だと思いますが、例えば他社はこういう体制をとっていないなど、御社の一番の強
ここまでの目線合わせの結果を踏まえ、以降では改めて同社のビジネスモデルや強みについて、特
に、様々なライフサイクルの製品のポートフォリオをどう変化させることで将来の目標を達成するの
か、また、その実現可能性の根拠となる強みは何なのかという点を中心に議論することとなった。
本事例から浮き上がる投資家のタイプの相違
投資家には、直近の利益を大きく牽引している売れ筋の製品の状況や見通しに関心を持つタイプ
と、今回の支援で専門家として関与した全社を通底する強みや戦略から理解を深めるタイプがある。
みはどういったところなのでしょうか。なぜ御社に最初に相談が来るのでしょうか。
企 業 : 注力している顧客がいて、その顧客に対して研究の窓口をつけているような形です。また、
我々の製品は代理店を通して販売するものが中心であり、代理店との関係性も非常に重
要視しています。例えば、年に一度の代理店会で技術や製品、トピックス、経営方針などを
情報共有しコミュニケーションを密にしています。代理店から顧客の課題が提案されるこ
とも多いです。代理店とともに顧客を訪問したり、共同開発することもあります。
専門家 : そうすると、御社には115年の歴史があり、その中で代理店とも信頼関係があり、そこから
知財・無形資産の開示では、後者の中長期視点の投資家との対話で理解を得られる開示を目指し
入ってくる情報もうまく咀嚼できるのが御社の力なのですね。この辺りは他社と比較する
たい。中長期視点の投資家は、現在の強みが将来も有効で、売上や利益が成長していくことで企業
とどうなのでしょうか。
価値がどれだけ増加するかを見極めようとする。
このため、研究開発や技術力で価値を生み出すのみならず、その価値創造をノウハウや特許権で
持続させる知財活動を実践し、中長期視点の投資家との対話により、開示の解像度を高めたい。
社員による情報発信の充実も中長期視点の投資家が理解を深める際に有用である。
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第3章ӷӼ
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 –Ө事例ӼӨ第一工業製薬株式会社 ӷ
改善ポイント ②
改善ポイント ③
企 業 : 研究の窓口を設けたり、代理店と連携したりするといったところは他社もやっているかも
企 業 : こちらも詳細は話せず、またケースバイケースな面もあるのですが、一定の利益が見込め
しれませんが、当社の特徴としては、ターゲットを絞って、当社として持ちうる技術を見極
ない製品を監視する仕組みや、判断をする会議体は存在します。
めた上で議論しているという点はあるかもしれません。
また、当社は社歴が長く、撤退しなかったことで次の大きな機会をつかむことができた経
また、幅広い産業分野に製品を納めているので、色々な分野の情報をつなげられるとい
験を多数もっています。技術が人に紐付いていますので、その人に他のことをしてもらっ
う点も特徴です。
ていても、技術やその事業が失われることはありません。
専門家 : なるほど。やはりこの入り口のところは重要だと思います。入り口で顧客の悩みが入って
こないとやはり何もできないので。では、その続きはどうなっているのでしょうか。
企 業 : ニーズが入ってきたら、その顧客に向けて製品を設計、開発、量産などを検討します。ここ
では、当社技術やノウハウの組合せで、付加価値のある製品を提供するというところです。
逆に、高付加価値品は、対象製品の世代交代により数年でそのビジネスが失われることも
あります。撤退は、利益率の他、様々な市場や技術予測のもとで、行います。
専門家 : 例えば、どういった指標をみていらっしゃいますか。
企 業 : 事業責任利益や、ROICなどは一つの考慮要素です。また、市場側の状況も加味していま
す。重要分野では、対象製品の業種でのバリューチェーン全体の動向もみています。
また、アフターサービスも手厚いという評価を受けています。
専門家 : ここまでの流れは顧客とのインタラクションが多いということだと思うのですが、これは、
どういう仕組みで実現しているのでしょうか。例えば先ほどの顧客別センターがうまく機
専門家 : ありがとうございます。開示資料から確認できなかったものですから、質問させていただ
きました。よく理解できました。
能しているのでしょうか。
企 業 : 顧客別センターは、製品の開発やアフターサービスでも顧客とも頻繁にやり取りをしてい
専門家からのフィードバック
ます。
専門家 : そういう形で顧客の抱え込みと開発をしていくところが御社の強さなのですね。続いて、
その次の段階として特定の顧客への販売から、顧客を拡大していき、売上げを広げるとい
専門家 : いろいろ議論させていただきましたが、やはり入り口のところで顧客の悩みをキャッチす
うのが御社の基本的なビジネスモデルなのですね。
る力、そしてそのあと高付加価値製品で抱え込む力が御社の強さなのだと感じました。
それがうまく回ると、高付加価値製品を広く提供できるので、高い利益率が得られるのか
そして幅広い顧客に向けてビジネスを拡大していくことや、新たな領域を開拓していくこ
な、と期待するのですが、この利益率の考え方はどうなっていますでしょうか。
とで売上げを拡大し、利益率や市場動向をみながらドロップアウトをすることで、将来の
売上・利益率の目標を達成するということだと思います。
企 業 : 一概には言えず、また詳細な説明はできませんが、顧客との関係性や、独自の技術やノウ
ハウの組合せでブラックボックス化し、競合他社が参入しにくい状況を作り出しています。
また、品質保証体制、安定供給体制も非常に重要なファクターであり、それも付加価値で
す。その場合は、価格競争になりにくいので、利益率が下がるスピードは緩やかかと思い
ます。
このあたりについては具体的な数字など出せない情報も多いと思うので深くは触れませ
んでしたが、全体の考え方を示した上で可能な範囲でその考え方を支える強みや仕組み
などの情報を出していくことで、投資家に対する説得力を高めることができるのではな
いかと思います。
当たり前ですが、毎月利益管理を実施し、課題があればすぐに是正活動へ動きます。
対話ポイント ③
専門家 : 利益率が低くなる製品からドロップアウトするところについてはどうなっていますでしょ
うか。事業として御社が期待する収益性が見込めないが、他社にその事業を売ろうと思え
ばまだ高く売却できる段階で売却する仕組みなど、何かございますか。
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第3章ӷӼ
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 –Ө事例ӼӨ第一工業製薬株式会社 ӷ
ԔԥӨ: 解説編 建設的な対話に至る知財・無形資産開示のポイント
成長ビジョンを支えるビジネスモデル
第一工業製薬株式会社の事例では、同社が今後持続的に成長することを説明するため、同社の
根底にあるビジネスモデルや、それを支える強みと仕組みを整理した。
Key Question 2 :
どうやって競争優位性や差別化要素を構築し、持続的に収益を上げるのか
解説編では、対話を通じて整理された考え方の中で、特に重要な取組や姿勢について説明する。
「III:対話篇」からも感じていただけたかもしれないが、投資家は、企業の成長に対して資金を賭
成長ビジョンを支えるビジネスモデル
ビジネスモデルを支える強み
Key Question 1 :
全社に通底する強みは将来像にどうつながっているのか
ビジネスモデルを支える強み
けるのだから、実現可能性を詳細に確認しようとする。
対話篇では、企業の様々な説明に対してその実現の根拠が求められた。
例えば
対話ポイント ②
で示したように、同社のビジネスモデルの肝でもある「顧客の課
本事例では、企業は当初、個別事業に関する説明を念頭に置き、顧客との関係や要素技術の複
題をキャッチする」という点に対して、それがなぜできるのか、他社とはどう違うのかといった、
改善ポイント ②
同社の強みについて深く質問がされた。その結果として、
のように、同社
雑さから難しさを感じていた。一方で、専門家はまず全社を通底する考え方や強みがどうつな
の様々な取組のうち、特に他社とは異なり同社の強みとなっている点について、投資家に明確に
がっているのかから議論を始めた。
説明するに至った。
また、こういった説明が求められるのは必ずしも強みのみに限らない。
開示に対する企業の意識
投資家の求めていた開示
個別事業の将来性の説明
全社を通底するビジネスモデルや
強みのつながり
対話ポイント ③
では、同社の事業撤退のポリシーについて、どういった仕組みで実現さ
れるのかが掘り下げられ、
改善ポイント ③
のように、詳細は開示できないものの判断の
仕組みや考慮要素について説明がなされ、投資家の納得感を向上させた。
対話ポイント ①
に示すように、目線合わせの段階では、専門家は、同社の様々なセグメン
トの根底に存在するビジネスモデルがどういった流れか、また、それを支える強さの源泉は何かと
いった視点で、断片的な様々な説明をつなげて、将来像である売上げ・利益率の向上に向けたロ
ジックを構築するようなコメントをしていた。
この結果として、
改善ポイント ①
さらに、対話篇では割愛しているが、実際の対話の場では、ほかにも様々な事業や製品につい
て、資金面や体制面など様々な視点から「なぜ」「どうやって」と問いかけられた。(図表13)
図表13
のように、同社製品の共通的なライフサイクルや、それを
支える強みが整理され、後続の議論もスムーズになった。
投資家
短期視点の投資家にとっては、主な関心は短期的に収益が伸びるか否かであり、現在好調な事業は
今後も好調を維持できるのか、現在赤字の事業が改善の見通しはあるのかといった点が重要となる。
質問
将来予測・投資
他社との違い/事業撤退ポリシー 等
投資家が求める
情報を予測
回答
それでは、なぜこのような根本的な議論が必要だったのだろうか。その理由の一つは、中長期視
点の投資家への訴求である。
投資家と企業間の対話
納得感の向上
将来像
企業
もちろんこういった質問に対してすべての情報を出せるわけではないが(実際に今回の対話でも、
詳細は説明できないとしているし、専門家としてもそれを求めてはいない)、なぜそのような問いが
一方、中長期視点の投資家は、足元の収益性のみならず、持続的な成長を重視する傾向にある。そ
発せられたのか、何をしたくてその質問をしているかを想像して、投資家が将来を予測する際に役
のため、競争力のある事業を生み出す源泉となる、全社を通底するビジネスモデルや強みを極めて
立つ情報を出した方が良いだろう。
重視するのである。したがって、これらの説明を、論理立ててつなぎ合わせ、企業の将来像の実現や
持続的な成長に向けた筋道として示すことは、中長期視点の投資家への訴求において有効となる。
また、この分析は投資家への説明のみならず、自社のビジネスモデルや戦略を高度化する上でも
重要となる。これを繰り返すことにより、自社が強みと考えている点について、実は他社とそれほど
また、持続的な成長性を感じさせることは、例えば社内の目線合わせの意味でも重要である。実
違いはなかったり、逆に他社と異なる点なども見えてくる。また、将来像の実現に向けて、不足する
際に同社も、社内へのユニ・トップ戦略の浸透に課題を感じていた。企業の根底にある考え方や強
仕組みなども見えてくる。
みを整理することは、社内外のステークホルダーへの情報発信において、優先順位が高い。
自社では当然と思っていたことが、外部にとっては当然ではないこともある。自社のビジネスモデ
ルや戦略の様々なポイントについて、将来を決定付ける要因は何か、問いかけてみていただきたい。
58
59
第3章ӷӼ
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 –Ө事例ӼӨ第一工業製薬株式会社 ӷ
コラム 9
● 全社を通底する戦略と強みを整理するフレームワーク (一部抜粋)
フレームワークを用いた情報整理
開発
特定の顧客への販売
事例紹介では割愛したが、第一工業製薬の支援にあたっては、各回で議論に先立ち、企業に対して
ニーズの
発掘
フレームワークを用いての事前の情報整理を依頼し、それに基づき議論を行った。
フレームワークを活用することのメリットの一つとして、論点の漏れを減らせることが挙げられる。
アイデア創出
・研究開発
製造・
品質管理
販売
アフター
サービス
多顧客
への
移行判断
例えば、研究開発型の企業が「強み」について議論する際には、つい技術的な強みに目が行きがちで
あるが、技術以外にも強みとなりうる要素は存在し、それに気づくためにはフレームワークを用いた
構造化された分析が有効である。
また、フレームワークは、対話の相手との目線合わせにも有効であろう。例えば、社外の相手と議論
戦略の
流れ
をする際には、対外的に出せる情報をフレームワークで整理するだけでも議論はスムーズになる。実
際に今回の支援でも対外的に出せる情報だけを用いてフレームワークで情報を整理いただいたが、
それだけでも議論はスムーズになった。
本コラムでは、第一工業製薬の支援において実際に使用したフレームワークを紹介させていただく。
適宜カスタマイズしてご活用いただきたい。
戦略を
支える
強み
⚫事業ポートフォリオの変革を整理するフレームワーク
現在
事業セグメント
セグメントA
●●年 売上高A円 利益率B%
本フレームワークは、「他社に先んじてニーズを発掘」→「多数の要素技術の組合せでニーズに即し
セグメントB
た製品を開発」といったような同社の戦略の流れと、「顧客との強固な関係性」「セグメント横断的な
セグメントC
セグメントD
売り方
技術開発力」といったような、その戦略を支える同社の強みを整理するために作成した。
主要製品
このフレームで情報を整理することにより、バリューチェーンの上流から下流までつなげて戦略を
説明すること、また、その戦略を支える強みをもれなく検討することができる。
売上高
本フレームを用いる際には、ぜひとも様々な部門で議論をし、様々な視点から強みを検討していた
利益率
だきたい。そうすることで、多様な強みを洗い出せるだけでなく、自部門では当たり前と思っていて
将来
事業セグメント
売り方
も、他部門から見ると強みである点にも気づくことができる。
▲▲年 売上高X円 利益率Y%
セグメントA
セグメントB
セグメントC
セグメントD
実際の支援にあたっても、様々な部門の方で議論いただき、「技術」のみならず「顧客との関係」「人
材」「社風」といった様々な強みが洗い出された。
主要製品
このフレームで戦略や強みを整理した上で専門家と議論をすることにより、「戦略のうちこの部分
売上高
が特に顧客の獲得につながっているのか」「この強みは他社とはどう違うのか」といった、目線を合
わせた建設的な対話を実現することができた。
利益率
本フレームワークは、事業セグメントと製品の売り方(同社の例では、特定顧客向けの販売/多数顧
客向けの販売)ごとに、主要製品と、売上げや利益率をどう変化させて将来の目標を達成するのか、
という目線合わせのために作成した。
このフレームで情報を整理することにより、例えば「セグメントAは現在の売り方・製品は維持しつつ
売上げを拡大させる」「セグメントBは、新たな売り方の利益率の高い製品の割合を拡大させる」と
いった方針の目線を合わせることができる。
60
61
第3章ӷӽ
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 –Ө事例ӽӨ株式会社コーエーテクモホールディングス ӷ
事例
3
成功の再現性と安定かつ持続的な成長を示す事例
株式会社コーエーテクモホールディングスӨ
同社の成長ビジョン
直近3年間安定した成長を続けており、2023年度の売上高は、2009年の経営統合以来最高を記
録している。
ԞՉՈՀԺՂԵ
◼ 株式会社コーエーテクモホールディングスは、エンタテインメント事業(ゲーム事業)が
主力事業であり、ほかにアミューズメント事業、不動産事業などを展開している。エンタ
テインメント事業の中でも、特に歴史シミュレーションゲームの認知が高い。
◼ 近年では大型タイトルの開発に力を入れ、ヒット作も出ており、資本市場からも高い評
価を得ている。しかし、ゲーム業界の特性上、新製品開発の進捗を詳細に開示できない
など、開示可能な情報に制約があり、投資家に中長期的な成長を示しにくいという課
題を持っている。
ゲーム業界全体の市場は伸びているが、企業間の競争が激化する中、ビジョンに掲げる「世界
No.1のデジタルエンタテインメントカンパニー」を目指すために、中長期的な成長に向けた基盤固め
を進めている。(図表14)
図表14
当社のビジョンと中期経営計画
◼ 開示可能な情報に制約がある中、安定収益の獲得や、有望なアイデアの創出につながる知
財・無形資産について整理することで、中長期の持続的・安定的な成長を示す支援を行った。
ԔӨ: イントロダクション
企業概要
株式会社コーエーテクモホールディングス(神奈川県。資本金約150億、従業員数2,736名(連結、
2024年9月30日時点))は、2009年に株式会社コーエーとテクモ株式会社が経営統合し設立され
た。ゲーム・モバイルコンテンツを中心に、ゲームソフトの販売・開発を行う。
「信長の野望®」「三國志®」シリーズをはじめとする歴史シミュレーションゲームや「無双」シリー
ズなどのアクションゲームを軸に、RPGや恋愛シミュレーションなど、多様なジャンルのゲームを
展開している。また、自社単独でゲームを開発するだけではなく、他社と協業することで開発コス
(出典)株式会社コーエーテクモホールディングス 統合報告書2024
ト・リスクを抑え、他社のゲームシリーズとのコラボレーションや、自社のゲームの利用を他社に許
諾する、限界利益ほぼ100%であるIP許諾(ライセンスアウト)など、多様な収益モデルを持つ。
世界No.1のデジタルエンタテインメントカンパニー(デジタルエンタテインメント業界で営業利益
専門家チームの事前認識
額世界1位を達成すること)をビジョンに掲げ、中期経営計画において、大型ゲームタイトルの創
同社の開示情報を踏まえると、戦略の方向性としては、大きく2つあるように見える。1つ目が、
発を目指している。
既に開発・販売済で一定程度収益が見込める、ゲームやキャラクターといった既存IPをさらに活
用していくこと。2つ目が、売上げの不確実性が高い、新たに開発するゲームの新規IPを開発・販
本調査研究への参加目的
売すること。この2つのはずだが、どのようなバランスで開発・販売するのか、方向性が分からな
今後、中長期的な成長の妥当性を示し、より一層高い評価を得たいと考えているところ、下記2点
い。また、同社は人材採用など大幅に投資を拡大しており、成長の意欲が感じられる一方、リスク
が原因で、投資家に対して、将来の収益性を示しにくいという課題を持っている。
が高いように感じられる。
① ゲーム業界の特徴として、製品開発の進捗を詳細に開示できない
同社は、中長期的な成長を示す課題として、製品開発の進捗を詳細に開示できないことを挙げ
② 他社との協業・IP許諾は当社の特徴的なビジネスモデルであるが、
他社が関与しているため、詳細な情報や利益配分の割合を開示できない
そのような開示できる情報に制約がある中でも、中長期の成長を予測できるような開示をしたい
と考え、本調査研究への参加を決めた。
ていたが、現状の開示資料だけでは同社の戦略が見えず、過去の実績から強みがあることは推
測できるが、競争優位性が何か分からないので中長期的な成長を評価できない。
これらの点を踏まえ、中期経営計画で設定した目標の背景や意図、達成手段、どのように目標
を達成するのか、大規模な投資が利益率向上にどのようにつながっているのか、について議論す
る必要がある。
62
63
第3章-3
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 – 事例3 株式会社コーエーテクモホールディングス -
II : 目線合わせ
専門家の質問に対する回答
本節では、「企業成長の道筋」の効果的な開示に向けた取組を紹介する「III:対話編」に入る前に、
• 当社の主な開発方法は2種類。1つは既存IPを活用する開発形式。既存のファンが存在し売上げ見
専門家チームが支援に当たって企業とのすり合わせに時間を費やした「AAAタイトル」の捉え方と先
込みが立ちやすく、開発コストを抑えられる。もう1種類は、新規IPを開発する形式。0から投資す
行投資に対する内容理解の過程と、そこから見える企業・投資家間の目線の違いについて説明する。
るわけではなく、既にある人材や技術、ノウハウを活用する。AAAタイトル開発も同様であり、外部
の方が心配するほど大きな投資にならない。
「AAAタイトル」 に対する同社と専門家の認識の違い
イントロダクションで示したとおり、同社はデジタルエンタテインメント業界で営業利益額世界1位
を達成することを目指している。営業利益額を増加させるべく、新規大型タイトル開発のために
• 「AAAスタジオ」のためだけに大量採用を行うなどはしていない。
• AAAタイトル等大型タイトルだけを開発しているわけではなく、投資額を抑えて中小型のタイトルを
同時に開発し、バランスの取れた開発ポートフォリオを構築することで、リスクを抑えている。
「AAAスタジオ(トリプルエースタジオ)」を立ち上げた。加えて、開発職の従業員を長期的に5,000人に
増加させる方針であると統合報告書に記載されている。
先ほど述べたとおり、一般的に「AAAタイトル」とは、莫大な費用がかけられ精細に作り込まれた
「AAAスタジオ」とは、「AAAタイトル」を開発するためのスタジオのこと。「AAAタイトル」とは、一般的
ゲームのことを指す。一方で、同社が開発する「AAAタイトル」は、大ヒットしたタイトルや精細に作り
には莫大な開発費を投じで開発されるゲームのことを指す。
こまれたゲームを指し、一般的な定義とは異なり、莫大な投資は必要なく、投資額を抑えて開発で
業界全体の流れとしては、企業間の競争が激化するとともに、一つのゲームを開発する期間・人員、
及びそれに伴う開発コストが増え続けている状況である。同社が競争に勝ち成長するために投資額
を増やしていることは投資家に対してポジティブな印象を与えるのでは、と考える読者もいるだろう
が、専門家の目にはどのように映ったのだろうか。
きるとのことであった。
今後の対話の論点
専門家は、AAAスタジオを立ち上げ、直近では200人規模の新卒採用をしていることから、先行投
資が過大ではないかと懸念を持った。専門家だけでなく、他の投資家も同様の懸念を持つことが考
統合報告書におけるAAAタイトルに関する記載
えられる。投資に見合ったリターンが得られ、安定的かつ持続的な成長が可能なことを示すため、以
下3つの観点から、企業の強みを生かす戦略を整理するべく、対話を進めた。
代表取締役副社長メッセージ
• 大型タイトルを成功させるための丁寧なものづくりには「開発の規模」と「開発力の増強」が必要で
す。さらなる大型タイトルの創出や多様なジャンル開発に向けて、将来的には新しいブランドを増
やして、毎年1本の大型タイトルが出せるような開発体制を整えたいと考えています。今年度から
1. 安定的かつ持続的なビジネスモデルの整理(対話編①)
2. 安定収益確保につながる既存IPの強み(対話編②-1)
3. 新規IPをヒットにつなげる再現性の高さを裏付ける強み(対話編②-2)
は「AAAスタジオ」を立ち上げました。
AAAタイトル プロデューサー対談
本事例における企業・投資家間の視点のギャップ
• 近年、開発規模が徐々に大きくなり、同時に開発コストも上がっていますが、その一方でゲームの
小売価格があまり変わらないのが現状です。そのため、これからは販売本数が多く見込めるAAAタ
イトルをコンスタントに出していかなければ事業として成り立たなくなります。
• これからは、コーエーテクモとしてのAAAタイトルのラインアップを増やしていきたいですが、開発
期間が長期化しているため、社内で複数タイトルを並行して開発し、発売していく体制を構築しな
ければなりません。
(出典)株式会社コーエーテクモホールディングス 統合報告書2024
本事例は、同社と投資家間の「AAAタイトル」に対するコスト認識にずれがある状態から対話がス
タートした。
同社はリスクを抑えた経営を心掛け、実践していた。しかし、投資家に対して成長性を示したい同
社と、安定的かつ持続的な成長を企業に求める投資家との「成長」の捉え方が少し異なっていたた
め、このようなギャップが生じたと考えられる。(図表15)
■ 投資家に伝わりにくい「AAAタイトル」
中長期視点の投資家は、短期的に大きなリターンが見込めるとしても、ボラティリティ・リスクが高
いことを好まない。 競争が激化し、先行投資をする必要があることは理解できるが、企業規模を
鑑みるとAAAタイトル・スタジオへの投資は過大なのではないか、どのように経営を安定化させて
図表15
企業・投資家間の視点のギャップ
企業
投資家に対して
成長性を示したい
「AAAタイトル」
への
コスト認識
いるのか。
64
65
成長を求めるものの
安定性・持続性に疑問
投資家
第3章-3
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 – 事例3 株式会社コーエーテクモホールディングス -
III : 対話編① 成長ビジョンを支えるビジネスモデル
企 業 : 質問の意図が分かりました。定性的ではありますが、当社の重層的な収益構造に時間軸を
組み入れつつ、各ビジネスの収益のバランスをイメージ図に示してみました。(図表17)
「II:目線合わせ」にて定めた論点に基づき、収益全体の中で、既存IPと新規IPの売上げをどのよう
新規IP開発のボラティリティの高さはある程度織り込んだ上で、準新作や旧作といった
に組み合わせて安定的な成長を目指すのか、整理を進める流れとなった。
バックカタログや、新規IPと比較して他社との按分により結果的にコストを抑えられ、開発
Key Questionでは投資家視点で示すべきビジネスモデルの内容を端的に示しており、対話を通し
コストが低い他社とのコラボレーション、シリーズ展開といった既存IPの活用が安定収益
て企業が説明するビジネスモデルと専門家の視点の違いを体感いただきたい。
として会社全体の収益を下支えしており、持続的に成長するイメージを示しています。
Key Question 1 :
安定的かつ持続的な成長を描けるビジネスモデルであるか
専門家 : 御社の場合、一般的な「AAAタイトル」と異なり、そこまで投資額が大きくならないことは
改善ポイント ①
図表17
持続的かつ安定的な成長イメージ
収益
新規
IP
理解しました。しかし、投資家目線だと、AAAスタジオや人材採用への先行投資が大きい
印象を受けます。そのため、現状御社が開示している情報だと、リスクに対してリターンを
チャレンジング
新規IP開発:将来に向けた投資
収益を予測しにくいが、ヒットすると既存IPに
回り、安定収益化するため、成長につながる。
みを示すことは難しいと思いますが、定性的でも良いので、安定的かつ持続的に成長する
安定収益
既存IPの活用:安定収益の確保
安定収益を確保。経営を安定化させ、新規
IP開発投資につなげる。
ビジネスモデルを示してもらえませんか。
① シリーズ化・コラボレーション
評価することが難しい状況です。
収益の安定性:低い
開示可能な情報に制限があることは理解しており、開発中のゲームの詳細や売上げ見込
企 業 : 当社は、「重層的な収益構造」を構築し、新規IPの開発だけではなく、既存IPを活用したシ
リーズ化や他社とのコラボレーション、IP許諾など、多様な収益パターンがあることが経営
の安定化につながっています。(図表16)
図表16
既存
IP
新規・既存IPの
収益を
循環させる
既存ファンが存在し、かつ新規IPと比較して
開発コストを抑えられる。そのため、リスクを
抑え、安定して収益を生み出すことができる。
② IP許諾
IP許諾においては、許諾先との契約内容にも
よるが、利益率が非常に高い。
収益モデルのパターンを示す
③ バックカタログ
収益の安定性:高い
開発コストを一部回収済のため、新規IPと比
較して利益率が高い。
時間
図表は本調査研究における検討内容の趣旨を踏まえ、請負事業者(PwCコンサルティング合同会社)にて模式的に作
成。図表が示す幅や値等は概念的なものであり、現地調査企業における正式な情報開示ではない。
対話ポイント ①
専門家 : ありがとうございます。御社が新規IP開発のリスクを認識しつつ、既存IPを活用すること
で収益を確保し、経営を安定化させようとしていることを直感的に理解できました。
ただ、本当に既存IPを活用することで安定収益確保につながるのか、もう少し説明してい
ただけませんか。
(出典)株式会社コーエーテクモホールディングス 統合報告書2024
企 業 : 正直なところ、決算説明会や普段のエンゲージメントでは、足元の売上げ見込みに関する
質問が多く、中長期的な成長イメージや、イメージを実現するための戦略や施策について
専門家 : ビジネスのパターンは示されていますが、収益全体の中でそれぞれどの程度の割合なの
質問される機会は限られていました。
か、その結果どのように御社が成長するのかまで示していただけないでしょうか。
「なぜ当社のゲームが持続的かつ安定的に売れてきたか」について、社員個々人の考えは
成長の全体像を示してもらった上で、ビジネスパターンの戦略や強みを語ってもらえると
あるものの、会社としての明確な見解は準備できていませんでした。なぜ当社のゲームが
より理解しやすくなります。
安定的に売れてきたのか、その要因について社内で議論したいと思います。
66
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第3章-3
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 – 事例3 株式会社コーエーテクモホールディングス -
III : 対話編② ビジネスモデルを支える強み
1. 安定収益確保につながる既存IPの強み
企 業 : コメントをいただいたように、コラボしやすさという観点で考えると、当社のIPは、キャラ
クターのIPだけではなく、ゲームシステムのIPの2種類に分けることができます。(図表19)
「III:対話編①」で整理された成長イメージに説得力を持たせるため、「III:対話編②-1」では既存
IPの活用が安定収益確保につながる要因を明らかにした。
製品や技術力を示すだけで終わらず、強みと収益をつなげて説明することが、投資家が求める
開示である。
改善ポイント ②
図表19
既存IPの強みを見出すための分類
同社の持つIPは、キャラクター・東アジアの歴史に特化したIPと、ゲームシステムのIPの2種類に分
けることができる。
Key Question 2 :
安定収益確保につながる既存IPの強み
コーエーテクモホールディングスが持つIP
専門家 : 御社の成長イメージは理解することができました。それでは、その妥当性を確かめるため
に、安定収益につながる既存IPの強みについて説明いただけますか。
企 業 : 当社は特定ジャンルだけではなく、幅広いジャンルのゲームを開発する能力を持っていま
キャラクター・東アジアの歴史IP
す。1つのIPを他のジャンルで活用することができるので、コストを抑えつつ、前回示した
シリーズ化
IP許諾
メディアミックス
「重層的な収益構造」に示したとおり、コスト・リスクを抑えた他社との協業につなげてい
ます。(図表18)
図表18
幅広く多彩なジャンルを生み出す開発力
ゲームシステムIP
収益
モデル
シリーズ化
同業者とのコラボレーション
図表は本調査研究における検討内容の趣旨を踏まえ、請負事業者(PwCコンサルティング合同会社)にて模式的に作
成。図表が示す幅や値等は概念的なものであり、現地調査企業における正式な情報開示ではない。
対話ポイント ②
専門家 : IPが2つに分類できることは分かりました。それぞれのIPごとに稼ぎ方や強みは異なるの
でしょうか。
企 業 : ゲームシステムについては、横展開のしやすさが強みです。過去作だと「無双」シリーズは
他のIPと掛け合わせやすく、他社からすればコラボレーションしやすいIPです。当社として
も、他のキャラクターやアイデアと掛け合わせて、新たなゲームを開発しやすいです。
今までは、主にキャラクターをIPと捉えていましたが、ゲームシステムもIPであることは新
たな気づきでした。
キャラクターのIPを映画やアニメ・グッズなどに展開するメディアミックスも、現時点でそ
こまで大きな規模ではありませんが、進めています。
(出典)株式会社コーエーテクモホールディングス 統合報告書2024
専門家 : IP自体が収益を生んでいるので、IPこそが御社の強みだと思います。IPの定義や強みが明
確になると、より一層投資家に説明しやすくなりますね。非常に良い気づきだったと思い
専門家 : 特定のジャンルだけではなく、幅広いジャンルのゲームを開発する技術力を持つことは、
ます。
御社の特徴なのでしょう。
幅広いゲームを開発する技術力の高さは強みと言えるのかもしれませんが、魅力的なIP
だからこそ、他社とのコラボレーションにつながっているはずです。外部から見ると、IPこ
そ強みのように思います。なぜ他社から選ばれているのでしょうか。
68
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第3章-3
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 – 事例3 株式会社コーエーテクモホールディングス -
III : 対話編② ビジネスモデルを支える強み
2. 新規IPをヒットにつなげる再現性の高さを裏付ける強み
本節では、「売れるIP」を開発できる理由、言い換えると、同社にとっての「価値創造の源泉」に
ついて、開示可能な情報に制約がある中、投資家への説明内容を整理した。
強みを単体で開示するのではなく、過去の実績を踏まえた再現性の高さを裏付ける根拠として
強みを説明することが重要である。
企 業 : ゲームファンを積極的に採用していることが、アイデア創出につながっていると思います。
仕事だけではなく、私生活でもゲームに触れていますので、開発者だけではなくユーザー
の視点からもゲームのアイデアを考えることができます。
専門家 : ゲーム会社である以上、他社も同様に、社員にゲームファンが多いと思います。そうであ
れば、御社ならではの強みとは言えないのではないでしょうか。
企 業 : 人材と、企画段階からゲーム市場に精通した社内の別部署の人間たちと徹底的に企画を
Key Question 3 :
新規IPをヒットにつなげる再現性の高さを裏付ける強み
叩き合えることが、当社の特徴だと思います。
人材育成方針として、「クリエイティブ×ビジネス」を掲げており、自分がただ面白いものを
作りだすだけではなく、ビジネスとして成功する、売れるゲームを開発することを徹底す
専門家 : 前回までの議論で、安定的な収益確保につながる、御社の既存IPの強みとそれを生かし
るよう、育成をしています。よって、すでに需要がある市場を読み取り、利益が出るであろ
た戦略について理解することができました。
うアイデアを生み出すことができています。
一方で、新規IPをヒットさせなければ、既存IP活用による安定収益も目減りしていきます。
加えて、開発中のゲームに対し、企画段階から複数回検討会を実施し、社内の人間を集め
これまで新規IPをヒットさせてきたからこそ今があると思いますが、再現性高くヒット作を
て徹底的に叩き合います。ゲームとして面白いかだけではなく、市場はあるか、市場が求
開発する工夫について教えていただきたいです。
めるゲームなのかといった観点からも評価をしています。
企 業 : 当社は、営業利益率にこだわっています。自社開発プロジェクトにおいては営業利益率
専門家 :今までの議論を踏まえると、利益を追求するビジネス意識の高さこそ、御社の根本的な強
30%を目標に設定し、品質を担保した開発プロセスをフレームワークとして確立していま
みのように思えます。新規IP開発だけでなく、既存IP活用による安定的な収益確保も、ビ
す。社内外からの審査と評価を繰り返し行い、そのノウハウを蓄積することで、ヒット作を
ジネス意識の高さが寄与しているのではないでしょうか。(図表21)
改善ポイント ③
開発する再現性を高めています。(図表20)
図表21
図表20
品質を担保するための開発フレームワーク
新規IPをヒットさせる再現性の高さと企業文化の関係性
採用方針
マーケットイン
育成方針
企画を徹底的
に叩く検討会
企業
文化
再現性
の
高さ
(出典)株式会社コーエーテクモホールディングス 統合報告書ӼӺ24を基に
請負事業者(ԟՋԍコンサルティング合同会社)にて作成
企 業 : 御指摘のとおり、ビジネス意識の高さは、創業以来当社に根付く企業文化です。どう説明
すれば当社の企業文化を示せるか悩んでいました。
対話ポイント ③
専門家 : 社員が対談する様子を統合報告書に掲載することは、他社でもよく見られる開示の手法
(出典)株式会社コーエーテクモホールディングス 統合報告書2024
専門家 : 確かに、このように確立したフレームワークがあると、開発に関わる人材の能力に過度に
依存せず、品質を担保することができそうですね。
です。それよりも大事なことは、御社がどのような企業文化を大事にしているのか、企業
文化を維持・浸透させるための考え方や取組、またそれがどのように収益につながってい
るのかを示してほしいです。
しかし、他社でも同じように品質管理をしていると思います。このフレームワークに書かれ
企 業 : ヒット作を開発した社員を高く評価する評価制度や報酬制度があります。強みが明確にな
ていない、「ヒット作を生むアイデアの創出」が新規IPをヒットさせる一番のポイントのよう
ると、開示だけではなく、強みを維持させる取組を検討することにつながりますね。社内
な気がします。難しいとは思いますが、その要因を説明できないでしょうか。
でも議論し、整理したいと思います。
70
71
第3章ӷӽ
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 –Ө事例ӽӨ株式会社コーエーテクモホールディングス ӷ
ԔԥӨ: 解説編 建設的な対話に至る知財・無形資産開示のポイント
コラム 10
株式会社コーエーテクモホールディングスの事例では、安定的かつ持続的な成長のイメージ、イ
【投資家の声】 定性情報でも考え方を開示することで投資家との対話が深まる
メージを実現する既存IP活用・新規IP開発における強みについて、専門家と対話した。強みの解
Key Question 1では、定量情報ではなく、定性的にイメージを図で示していたため、この開示で投
像度が高まったことで、成長イメージに納得感が出た。
資家が納得するのか、疑問を持つ読者もいたのではないか。
解説編では、各対話を通じた開示の変化の中で、特に重要な取組や姿勢について説明する。
当然、定量情報を開示することは重要である。企業の置かれている状況や、開示や対話の場面に
よっては、足元の収益を中心に投資家から質問を受けることもあるだろう。一方で、中長期的視点の
成長ビジョンを支えるビジネスモデル
投資家は、企業の「成長に向けた考え方」こそ、エンゲージメントで求める。
Key Question 1 :
いかに安定的かつ持続的な成長を描くか
がりにくい。
「III:対話編①」では、投資家と同社との間で「ビジネスモデル」という言葉の定義と、なぜビジネ
開示するか」よりも、「ビジョン実現に向けてどのように会社を成長させていくか」考え方を整理し、
反対に、数字と数字をつなぐ論理があいまいなまま定量情報を開示しても、建設的な対話にはつな
現地調査の結果を踏まえると、開示できる情報に制約がある企業においては「いかに定量情報を
スモデルについて質問しているのか、認識の相違から、当初投資家の求める議論に至ることがで
示すことを優先すべきだろう。
きなかった。
同社の行っていた開示
投資家の求めていた開示
ビジネスのパターン
•
それぞれのビジネスのパターンにより、
どのように経営全体を安定化させているのか
•
各ビジネスモデルの役割・位置づけを踏まえた
中長期的な成長への道筋
将来のビジョンや計画を示すにあたり、必ずしも定量的に示さなければならないわけではない。
数字ありきではなく、どのポジションを狙うのかや、どの程度の収益性を確保するか、考え方を
示すことが重要である。
具体的な数字がなくても、狙うマーケットに対して業界標準の収益性が見えてくるようなストー
リーや開示があるとよい。
改善ポイント ①
の開示により、今のビジネスを継続することが、安定的かつ持続的な成
長につながると、専門家が直感的に理解することができた。これにより、会社全体の収益を下支え
している既存IP活用の戦略と強みに関する対話に移行することができた。
対話ポイント ①
三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社
スチュワードシップ推進部 シニア・スチュワードシップ・オフィサー 澤嶋裕希
で見たとおり、社内で言語化しきれていない戦略や、それを支える強み
を明確にしようと、議論するきっかけが生まれた。社外の人間である投資家と対話することによっ
て、社内の議論では得られない気づきが生まれた。
投資家は、企業がビジネスやセグメントを組み合わせるほか、割合を変えることで、どのようにビ
ジョン実現を目指すのか、まずは大まかに経営の全体像を把握したい。対話篇①で投げかけた質問
は、このような意図に基づくものである。
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第3章ӷӽ
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 –Ө事例ӽӨ株式会社コーエーテクモホールディングス ӷ
ビジネスモデルを支える強み
ビジネスモデルを支える強み
Key Question 2 :
安定収益確保につながる既存IPの強み
Key Question 3 :
新規IPをヒットにつなげる再現性の高さを裏付ける強み
Key Question 2における対話では、企業と投資家の考える「強みの捉え方」にズレがあることが
Key Question 3 は、同社の過去の成功体験を踏まえ、今後も成功する可能性が高いのか、「再
明らかになった。
現性」に着目した問いであった。議論を重ねた結果、専門家は、同社の企業文化が再現性を支え
当初同社は、「幅広いジャンルのゲームを開発する力」を強みと説明していた。しかし、専門家か
る要因であると仮説を立てた。
らは、別の強みがあるのでは、と疑問を投げかけられた。なぜ専門家が疑問を持ったのか、解説
企業文化に着目する以前に、まずはなぜ専門家が再現性を重視したのか、考えてみたい。同社
していきたい。
はPBRが2倍を超えており、資本市場からの評価は高い。資本市場からの評価が低い場合、事業
既存IP活用とは、シリーズ化・他社との協業(コラボレーション)・IP許諾と、その活用方法は幅広
い。特に協業は、他社にはあまりない同社の特徴的なビジネスモデルである。他社から選ばれる
IPや開発力を持っていることが、このビジネスモデルが成立する理由であり、企業の強みである
定の実績があることから、専門家は変化よりも再現性について説明を求めたのであろう。どのよ
うな企業においても、投資家が企業文化に着目するわけではないことに注意していただきたい。
改善ポイント ③
と言える。
対話以前の開示では、協業と強みがつながっていなかったことになる。投資家の問いに対して
検討を深めた結果、
撤退・資産売却といった構造改革、すなわち変化が求められることがある。一方、同社の場合、一
改善ポイント ②
で見たように、IPを2種類に分類し、既存IP活用の強
みを再定義することにつながった。
で示された開示の改善例も、同社の強みである企業文化を完全に示し
切れているわけではないだろう。
同社も、特徴的な企業文化であると認識していたが、客観的な立ち位置である専門家のコメン
トにより、強みであると確信できた。
今まで説明したとおり、強みはビジネスモデルを支えるものである。そのため、強みが変われば、
対話ポイント ②
ビジネスモデルも変わり得る。
で見たとおり、横展開ができることが
対話ポイント ③
たからこそ、その強みを維持・浸透するために何をするべきか、今後検討が深まる兆しが見えた。
ゲームシステムの強みであると再定義されたことで、これまでのビジネスモデルや戦略を見つめ
直すきっかけが生まれた。
74
で見たとおり、強みであると認識し
75
第3章ӷӽ
企業成長の道筋を効果的に伝えるための取組事例 –Ө事例ӽӨ株式会社コーエーテクモホールディングス ӷ
コラム 11
【有識者の声】 企業文化が基になり知的財産を生産し価値を創出する
現地調査以外にも、有識者から助言を受けながら、本調査研究を進めてきたところ、企業文化と知
的財産の関係性について、株式会社ブリヂストン知的財産部門 部門長荒木氏からコメントをいただ
いた。
「創業したばかりの企業でない限り、どんな企業であっても、何かしら価値創造のコアになる知的財
産がある。土台となる企業文化や風土があるからこそ、知的財産が生まれ、知的財産が一時的ではな
く再生産できる。知的財産を価値に変換する仕組みがあるからこそ、持続的な成長が可能、という流
れで開示ができればよい。」
逆に言えば、企業文化なくして強みである知的財産は生まれない。コーエーテクモホールディングス
と専門家の対話のように、自社にとっての知的財産は何か、なぜ知的財産を生み出すことができる
のか、検討を深めていくことで、分かっているようで可視化されていない、自社の価値を創造するメ
カニズムが明らかになるだろう。
⚫ 価値が創造されるメカニズム
提供価値
知的財産を価値に変換する仕組み(≒ビジネスモデル)
知的財産
4
第 章
開示の改善を経て
見えてきた
投資家との建設的な
対話を阻む要因
持続可能な成長
再生産が可能
価値創造の土台となる企業文化や風土
(出典)株式会社ブリヂストン知的財産部門 部門長荒木氏からのコメントを基に
請負事業者(ԟՋԍコンサルティング合同会社)にて作成
76
77
4
第 章
開示の改善を経て見えてきた
投資家との建設的な対話を阻む要因
ӲӻӴӨ現地調査を経て得た気づき
投資家との建設的な対話を阻む要因
現地調査の支援対象となった3社と、有識者として国内外企業へのエンゲージメント経験が豊
富な投資家、開示に注力し市場から高い評価を得ている企業の知財部門長にお集まりいただき、
現地調査3社は上場企業として基本的な開示やIRに取り組んでいる。しかし、知財・無形資産を含
めてどのように開示するか、課題を抱えていた。現地調査を通じて各社がどのように開示の改善に
向けた検討を進めていったのか、御覧いただきたい。
座談会を実施した。
座談会では、「投資家との建設的な対話を阻む視点のギャップ」をテーマに議論を実施したとこ
ろ、投資家との建設的な対話を阻む要因が論点になった。
企業が、事業や技術の意義を自明であると捉え、説明してこなかったことが、投資家との建設的
司会:
本日はお集まりいただきありがとうございます。「投資家との視点のギャップ」がある状態で現地調査がスター
トした企業もいらっしゃったかと思います。なぜギャップが生じていたと考えていますか。
な対話を阻んでいた。企業は自明であると考えていたことから、十分に社内で議論することや、社
東洋エンジニアリング株式会社 :
外に説明する機会を作らずにいた。そのため、指摘を受ける機会が少なく、十分に掘り下げること
現地調査で専門家から指摘を受けて気づきましたが、当社の成長の肝になるポイントについて、説明していな
をしてこなかった。
かったこと、社内でも十分に整理できていなかったことが原因だと思います。
当社では、既存事業であるEPC事業と、新規事業である非EPC事業の2つの事業を持っています。投資家に対
本章では、現地調査企業がこの要因に気づいた理由や、解決に向けて参考になる考え方につい
て読者に伝えるべく、座談会での議論の様子をまとめた。
これから開示を改善しようと考えている読者も、同様の課題に直面することが考えられる。自
社であればどのように開示の改善に向き合うかを考えながら、第4章を読み進めていただきたい。
し、非EPC事業の方がリスクが低く粗利率が高いと説明すると、それであれば、EPC事業を辞め、非EPC事業に
注力したほうが良いのではないか、と言われることもありました。
しかし、EPC事業を続けるからこそ、非EPC事業のビジネスが拡大するし、非EPC事業で得た経験もEPC事業
に還元できます。両方の事業を続けるからこそ、会社全体として成長できると考えてはいました。しかし、開示資
料を読み込んでもらっていた専門家にも、その点がしっかり伝わっていませんでした。
現地調査で指摘を受けたことで、今更ではありますが、過去に他の投資家から同様の指摘を受けていたことを
思い出しました。当時は重要な課題であると認識していませんでした。
座談会参加者
株式会社コーエーテクモホールディングス :
当社の強みと捉えていた当社のIPの特徴や定義を言語化しきれてなかったことが、ギャップの原因だと思い
東洋エンジニアリング株式会社
執行役員(技術開発担当)
ます。当社の場合、IPを生み出し、活用してビジネスをしています。そのため、IPが強みであることは当然だと考
えていました。
当社のIPとは何か、IPの何が強みか、社内で深掘りしていなかったため、今まではIPと言えば当然のようにキャ
第一工業製薬株式会社
執行役員(IR担当)
ラクターと捉えていたままでした。「無双」シリーズなど特定のゲームは、他のIPとコラボレーションできるツール
として意識はしていましたが、専門家から指摘を受け、社内で議論したことで、ゲームシステム自体もIPであると
77
株式会社コーエーテクモホールディングス
部門長
気づくことができました。
当社がどのようなIPを持っていて、それがどのように収益につながっているのかを示せると、投資家が求める
対話の実践に近づくのではないかと感じます。
国内外企業へのエンゲージメント経験が豊富な投資家
第一工業製薬株式会社 :
当社は、これまで材料別に事業セグメントを6つ持っていましたが、先日公表した次期中期経営計画にて、分野
別の4つに組み替えました。投資家や株主から、事業や技術、根源にある強みが分かりにくいと意見を頂いてい
開示に注力し市場から高い評価を得ている企業の知財部門長
たことも変更の契機となりました。
当社は多くの素材を保有し、異なる素材を組み合わせることでお客様の要望に応じた機能を提供できること
が強みです。一方で、投資家だけでなく、社員がそれを明言出来るかと言えば不十分な部分がありました。現地
調査を経て、強みの言語化が進んでいるため、知財・無形資産の情報と関連させながら、今後中計の方針や注
力する分野とともに、社内外への浸透を図っていきたいと考えています。
78
79
第4章 開示の改善を経て見えてきた投資家との建設的な対話を阻む要因
(2) 開示の改善に向けて取り入れるべき考え方
3社が得た気づきは、他の日本企業にとっても同様の課題であろう。現地調査企業は専門家と対
話を繰り返し気づくことができたが、専門家がいなければ解決できないわけではない。社内であっ
ても、自明となっているが明確に定義されていない言葉や強みについて、多角的な視点で議論する
ことが、投資家との建設的な対話への第一歩になるだろう。
企業価値の向上につながる対話の進め方
「なぜ事業を続けてきたのか」「なぜ今後も続けるのか」その問いに答えられない企業や部門は多
い。経営戦略及び経営戦略に紐づく事業戦略や機能戦略を策定しても、フィードバックを受けて改
善のサイクルを回さなければ、そもそも答える必要性に気づかない。このことが、多くの企業と投資
家との建設的な対話を阻んでいる要因であろう。(図表1)
本調査研究で現地調査の対象となった企業の中には、専門家との対話、対話を踏まえた経営層等
司会:
を巻き込んだ社内の議論、説明資料作成の過程で、経営戦略と事業戦略や機能戦略、強みの紐づ
企業が「投資家との視点のギャップ」を認識した場合、ギャップを埋めるために、どのように開示の改善に取り
けに課題があり、一貫したストーリーラインとして、説明が不十分であることに気づいた企業もいた。
組むことが考えられるでしょうか。
このことに気づいたからこそ、ビジネスモデルや強みの言語化につながり、専門家との対話が改
知財部門長 :
善された。図表2で示す「3.各戦略等が与える経営上の効果や意義・役割を言語化(部門横断での対
当たり前だと思っていることが外から見ると当たり前じゃないことは、私自身にとっても気づきでした。当たり
前だと思っていた強みを改めて掘り下げていってみてはどうでしょうか。各社の根底にある企業文化やDNAに
たどり着くと思います。その企業文化やDNAこそ、企業の成長の源泉です。
話)」「4.戦略の不備・強みの不足等への気づき」のプロセスを踏むことで、より一層投資家と建設的
に対話を実践することができる。
本調査研究を通じ、事業や技術は経営戦略・目標達成に貢献しているのか、経営目線で事業や技
投資家 :
私は海外企業ともエンゲージメントをした経験があるので、日本企業と比較すると、日本企業は、「なぜそのビ
ジネスを続けているのか」という質問に明確に答えられないことが多いように思います。海外企業では、外から
術の効果・役割を部門横断で検証することが、開示改善に向けて社内で議論すべき内容であること
が見えてきた。
来たCEO等が、なぜ自社でそのビジネスをやっているのか、競争優位性はあるのか、徹底的に質問します。その
企業にとって、投資家との対話はあくまで手段であり、経営戦略を精緻化、強固にし、企業価値を
質問に耐え得ないビジネスは残りません。社内でビジネスの必要性や、その強みを簡潔に分かりやすく説明する
高めることが目的である。読者の方にはぜひ、自社の事業や技術は経営戦略と結びついているのか、
ことが通常のことになっています。そこが多くの日本企業との大きな違いです。
人材の流動化が進む中、中途採用者や出向者等、外から入ってきた多様な人材が素朴な疑問を投げかけると、
事業や技術の意義について議論を始めることから開示改善に向けた取組を始めていただきたい。
それが強みであろうと課題であろうと「これが普通ではない」と気づくことができます。
外から入ってきた人に限らずとも、社内の関係者がそれぞれの視点で「なぜ」を問い合い、それに対して回答し
図表1
建設的な対話につながりづらい戦略策定の流れ
てフィードバックを得るサイクルを回すことで、自明と捉えて深く考えてこなかった強みを言語化することにつ
経営戦略の策定
ながります。
事業戦略や機能戦略の策定
フィードバックがなく改善されない
株式会社コーエーテクモホールディングス :
東洋エンジニアリング様、第一工業製薬様は複数部門が連携して現地調査に参加していた一方で、当社の場合
は一部門の参加となりました。社内であっても他部門を対話に巻き込むことは大変ですが、改めてその重要性
を再認識しました。今後は、多角的な視点で議論できるよう、他部門を巻き込んで、強みの言語化を進めていき
たいです。
司会:
現地調査企業だけではなく、他の国内企業にも当てはまるであろう課題であり、解決に向けて取り入れるべき
考え方をお話いただいたと思います。大変有意義な会でした。本日はありがとうございました。
80
81
第4章 開示の改善を経て見えてきた投資家との建設的な対話を阻む要因
コラム 12
コラム 13
【投資家の声】 計画策定後に振り返ることが重要である
【先進的な企業の声】
戦略の策定・改善と対話のサイクルを回すことが建設的な対話につながる
投資家からは、中期経営計画等の計画や戦略を立てることの重要性は認めつつも、日本企業の場
合、計画や戦略を開示することにとどまり、振り返りをしないことが課題であるとの指摘があった。
国内企業における事業転換の代表的な事例である開示優良企業に対してヒアリングを実施した。
同社は、IR部門が主体となって統合報告書等の開示資料の全体像を整理しつつ、各部門と議論の上、
開示内容を詰めている。さらに、投資家と対話し、対話結果を取締役会に報告することで、対話と開
日本企業の場合、目標だけを開示し、振り返りを開示しないことが多い。投資家は、今後の
示、その後の戦略策定・改善のサイクルを回している。
投資家との建設的な対話につながる開示には特効薬はなく、日々地道に積み重ねることが求められる。
成長に向けて何をしていくのかが見える中期経営計画を求めている。
三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社
スチュワードシップ推進部 シニア・スチュワードシップ・オフィサー 澤嶋裕希
統合報告書の策定に当たっては、まずIR部門がコンセプトを定め、知財部門はじめ各部門に共
有している。その上で、各部門から1名ずつ代表を出し、開示内容について議論をしている。
投資家と日常的に対話する中で、IR部門中心に投資家等から声を拾い、改善を繰り返している。
図表2
どのような投資家と面談し、どのようなテーマが話題になり、どのようなリアクションをされたの
建設的な対話のスパイラル
か、IR部門から取締役会に報告している。このように、対話と経営へのフィードバックを回すこと
開示の改善に向けては、部門横断での対話を通じて戦略の不備・強みの不足等への気づきをもとに、
各戦略の見直しを進めていくことで、結果的に建設的な対話に資する開示につながる。
で、開示と対話のサイクルを洗練させている。
※ 「開示のメソッド」に基づく開示
ӻӸӨ経営戦略の策定・見直し
ӾӸ
戦略の不備・強みの
不足等への気づき
化学メーカー
開示
ӼӸӨ 事業戦略・知財戦略等
の策定・見直し
各戦略等が与える経営上の効果や
ӽӸӨӨ意義・役割を言語化(部門横断での対話)
対話
投資家
フィード
バック
※ 批判的な視点も交えて建設的に「叩き合う」
第1
フェーズ 1 企業内での戦略検討
フェーズӻ:
フェーズ 3 投資家対話に基づく経営戦略の再検討
ラウンド フェーズӽ:
フェーズӼԄ
フェーズ 2
開示資料に基づく投資家対話
複数ラウンド実施
経営戦略の高度化
82
83
第4章 開示の改善を経て見えてきた投資家との建設的な対話を阻む要因
コラム 14
【投資家の声】 社員も建設的な対話をすべきステークホルダーである
本調査研究では、「ステークホルダーとの建設的な対話」を切り口とした調査研究であるが、基本的
には投資家を対話の相手と想定し、調査を進めてきた。しかし、ステークホルダーとは、一般的には、
投資家のみならず、社員や取引先など多岐に渡る。
投資家に対して強みを説明できない、説明しても理解してもらえないのであれば、社員も正確に理
解していない可能性が高い。
社員が自社の強みを説明できないことに問題意識を持つ管理職や経営層は少なくないだろう。し
かし、社員が説明できないことが課題なのではなく、むしろ社員に理解できるよう説明できていない、
もしくは説明すべきことが整理されていないことこそが課題である可能性もある。
開示資料を作成しても、開示で意図したとおりに社員が行動できなければ、実態を伴った開示とは
言えず、投資家からの評価は高まらないだろう。どうすれば社員に理解してもらえるか、行動に移し
てもらえるか、そういった視点で自社の開示やその裏側のビジネスモデル、強みを見つめ直しても良
いのではないか。
5
第 章
建設的な対話に有効な
知財・無形資産開示の
チェックリスト
私が改めてすごいなと思ったのは、国内大手電子部品メーカーの取組である。同社は、ユニー
クな言葉を使うが、その一つ一つの言葉を定義している。なぜそういう言葉を使うか、何を意味
しているかを徹底して文章に書き起こし、もし社員の中で言葉の定義を勘違いする人がいれば、
定義を再検討するといった取組を行っている。ある言葉を使って社員を動かそうとする際には、
丁寧に定義を決め、その上で浸透させることが重要である。
また、こうした定義は、対外的に発信される際にも意図した通りに伝わる。ところが、意外とこ
のような徹底が行われておらず、自明だと捉えて、分かっているつもり、伝えているつもりに
なってしまっている会社・組織が多いのではないかと思われる。
アストナリング・アドバイザー合同会社 代表 三瓶裕喜
(元フィデリティ投信 ヘッドオブエンゲージメント)
84
85
5
建設的な対話に有効な
知財・無形資産開示のチェックリスト
第 章
建設的な対話に向けたポイント別取組充実度チェックリスト
本書では知財・無形資産に着目した投資家との対話に取り組む上で、以下4つのポイントが重要
各チェック項目は、○・△・×の3段階評価で社内の取組状況を振り返っていただき、前頁に示し
となることを示した。
たモデルを早急に構築するためにも、まずは×となっているポイントの解消に取り組むことを目
標にしていただきたい。
1⚫ 【社内対話】 投資家との建設的な対話に向けた開示の事前準備として、経営戦略や
知財戦略等が経営上どのような効果をもたらすかについて、部門を横断して社内
対話を進めることで言語化を行う
2⚫ 【開示】 「開示のメソッド」に基づき、「企業成長の道筋」を説明するための開示を行う
3⚫ 【フィードバック】 投資家との対話を通じて、経営戦略や事業戦略の中で検討しき
れていないポイント等を明らかにし、社内での見直しや再検討につなげる
1 ~③
3 を含むサイクルを複数回重ねることで、経営戦略
4⚫ 【複数ラウンドの実施】 ①
○ : 既に取組を行っており、十分に機能している。
△ : 取組は行っているものの、十分に機能しているとは言えない。
× : 取組は行っていない。
Ⅰ 社内対話を通じた戦略の言語化
a
経営戦略は社内で十分に認知されており、今後5年間で自社がどのような変化を
していこうとしているか、またその背後にある理由や企業理念とのつながりにつ
いて、社員が語れる状態になっている。
b
経営層の示す経営戦略に基づいて、事業部門単位で事業戦略や研究開発戦略、知
財戦略等の検討ができており、そこで掲げられる目標は部門内の改善目標にとど
まらず、経営戦略との結びつきが説明できる状態になっている。
c
事業部門内で策定した戦略について、他部門からその目標の妥当性や取組の必要
性について、批判的な視点も交えて建設的に議論する(叩き合う)環境が構築でき
ている。
d
部門単位で「叩き合った」結果を踏まえて見えてきた課題や検討の不備を集約し
て、経営戦略の見直しに還元させるための仕組みが整っている。
の高度化につなげる
※ 「開示のメソッド」に基づく開示
2
ӻӸӨ経営戦略の策定・見直し
ӾӸ
1
戦略の不備・強みの
不足等への気づき
開示
ӼӸӨ 事業戦略・知財戦略等
の策定・見直し
対話
各戦略等が与える経営上の効果や
ӽӸӨӨ意義・役割を言語化(部門横断での対話)
フィード
バック
※ 批判的な視点も交えて建設的に「叩き合う」
3
フェーズ 1 企業内での戦略検討
フェーズӻ:
第1
フェーズ 3 投資家対話に基づく経営戦略の再検討
ラウンド フェーズӽ:
4
投資家
フェーズӼԄ
フェーズ 2
開示資料に基づく投資家対話
複数ラウンド実施
Ⅱ 企業成長の道筋を示す開示
a
1年に1度発行される統合報告書を念頭に、報告年度ごとに「企業成長の道筋(ビ
ジョン・ビジネスモデル・強み)」の整理が経営層にて行われている。
b
経営層にて整理された「企業成長の道筋」を開示で具体化するにあたり、各事業部
門同士が開示内容について調整を行う仕組みが整っている。また、IR部門などこ
れらの調整を主導する組織が定まっている。
Ⅲ 建設的な対話に基づくフィードバックを反映する仕組み
a
投資家との対話に当たっては、企業成長をともに考えるパートナーとして投資家を
捉え、対話を通じた経営戦略の見直しを含む柔軟な姿勢が経営層、IR部門等の対話
者に理解されている。
b
対話に基づくフィードバックや、対話を通じて見えてきた課題等の情報を集約して、
経営層にフィードバックをする仕組みが整っている。また、IR部門などこれらの情
報を集約する組織が定まっている。
経営戦略の高度化
1 ~ ④
4 のポイントのうち、各企業がどのポイントを今後重点的に強化していくべきかは、企業の
①
社内体制や経営状況、投資家との関係性等によって変化すると考えられる。このため、簡易的では
あるが本書ではチェックリスト形式で、各ポイントを十分に押さえるためにどのような取組が必要
かについて、支援事例や投資家評価の高い企業の取組をもとに段階別に紹介する。まずは自社の
エンゲージメント体制がどのくらい整っているかを確認していただくとともに、分からないと感じ
るポイントについては、ぜひ関連部署とコンタクトを取ることから始めてみてほしい。これが「①社内
Ⅳ フィードバックに基づく戦略の見直し
a
b
経営層はフィードバックされた情報をもとに、経営戦略自体の再考や検討の不備
についての議論を行う機会を設定している。
見直した経営戦略について、適時社内で情報連携できる体制が整っており、IR部
門等をはじめとした開示部門とも連携しながら、変更の趣旨や内容をもとに事業
戦略等を再検討できる。(Ⅰに戻る)
対話」の大切な第一歩である。
86
87
第5章 建設的な対話に有効な知財・無形資産開示のチェックリスト
参考資料
有識者委員会構成・謝辞
本書は、令和6年度特許庁産業財産権制度問題調査研究「ステークホルダーとの建設的な対話
知財経営への招待
~知財・無形資産の投資・活用ガイドブック~
(2024年発行)
に資する知財経営の開示に関する調査研究」の成果として作成されました。
•
を借りて、心より感謝申し上げます。
知財・無形資産の投資・活用を実践するに際して、自社の強みの把握に関するボ
トルネックの解消と企業価値向上に向けたポイントを取りまとめたガイドブック
知財経営の実践に向けたコミュニケーションガイドブック
~経営層と知財部門が連携し企業価値向上を実現する実践事例集~
(2023年発行)
•
知財を活用した企業経営の実践に向けて、経営層と知財部門とのコミュニケー
ションの課題を明らかにし、取り組むべき事項を取りまとめたガイドブック
企業価値向上に資する知的財産活用事例集
ー無形資産を活用した経営戦略の実践に向けてー
(2022年発行)
•
知財・無形資産を活用して、企業価値向上に取り組まれた国内の企業をヒアリン
グ調査して取りまとめた事例集
新事業創造に資する知財戦略事例集
~「共創の知財戦略」実践に向けた取り組みと課題~
(2021年発行)
•
本調査研究においては、以下の有識者から構成される委員会で御助言いただきました。この場
委員長
加賀谷 哲之
一橋大学大学院 経営管理研究科 教授
委員
荒木 充
株式会社ブリヂストン 知的財産部門 部門長
小林 誠
株式会社シクロ・ハイジア 代表取締役CEO
三瓶 裕喜
アストナリング・アドバイザー合同会社 代表
松島 憲之
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 委嘱アドバイザー
(敬称略、五十音順)
共創(Co-creation)による事業創造と知財戦略の連携について調査を実施して
取りまとめた事例集
経営戦略を成功に導く知財戦略【実践事例集】
(2020年発行)
•
イノベーションの創出、事業競争力の強化、組織・基盤の強化等の経営課題の解
決に資する知財戦略に取り組んできた国内外の企業をヒアリング調査して取り
まとめた事例集
経営における知的財産戦略事例集
(2019年発行)
•
経営と知財を巧みに連携させて、両者の距離を縮める取組を実施している企業の
知的財産戦略に関する事例を50以上掲載(うち海外企業は28事例)した事例集
88
89
特許庁
企業成長の道筋
投資家との対話の質を高める知財・無形資産の開示
2025年発行
令和6年度特許庁産業財産権制度問題調査研究
「ステークホルダーとの建設的な対話に資する知財経営の開示に関する調査研究」
(調査実施事業者:PwCコンサルティング合同会社)